第137号 アルカリ性の炭化水素系電解質膜を提案
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.国際的活動
3.SOFCの開発と実証試験
4.アニオン交換型AFCの開発
5.PEFCおよびDMFCの要素技術研究開発
6.家庭用PEFCの実証と事業展開
7.FCV最前線
8.FC駆動電動車等
9.水素生成・精製技術開発
10.水素輸送・貯蔵技術の開発と事業
11.水素供給インフラ整備シナリオ
12.携帯機器用FCの開発および事業展開
13.ポータブルFCの開発
14.FCおよび水素関連観測・計測システム
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
 日米両政府は、地球温暖化対策の一環として、省エネ製品にかかる関税の削減・撤廃に向け、他の主要国(G8)と本格協議に入る。08年の主要国首脳会議での合意を目指す。省エネ製品の世界規模での普及を図り、貿易拡大と温暖化対策を両立させる。対象として想定している製品は、ハイブリッド車など環境対応車や、FC、太陽光発電パネル、風力・水力発電機とそれらの関連部品など。(中日、中国、西日本、北海道新聞07年9月27日)

2.国際的活動
 国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)は、水素FCVに関する世界統一基準の策定に向けた作業を開始した。この程"水素・FCVの世界統一基準策定第1回安全基準作業部会"がドイツで開催され、本格的な検討が始まった。日本は世界に先駆けて同技術基準を策定していることから、世界統一基準は日本における基準を参考にして検討を進めることになり、同作業部会の議長も日本代表(交通安全研究所の成澤自動車基準認証国際調和技術室長)が務める。今後は年3,4回のペースで開催し、2010年までに世界統一基準の策定を目指す。対象は圧縮水素ガスを燃料とするFCVで、日本では国土交通省が05年3月の道路運送車両法の保安基準改正において、安全・環境に関する技術基準を定めた。日本の安全基準では、水素を漏らさないか、又は漏れても滞留させない構造の他、衝突時にはガソリン車と同等の安全性を確保するための水素漏れ防止などについて技術要件を定めている。又FC用スタックからの発電が高電圧となることから、電気自動車に関する国連の1958年協定に基づいて規定されたECE規則をベースに、感電保護に関する技術要件も規定している。(日刊自動車新聞07年9月28日)

3.SOFCの開発と実証試験
(1)大阪ガス
 大阪ガスは家庭用SOFCコージェネレーションシステムの設置面積を、前機比で30%以上縮小した。同システムを構成する排熱利用給湯暖房ユニットのコンパクト化や発電ユニットのメンテナンススペース削減などでこれを達成した。具体的には、設置スペースを横1940mm、奥行き710〜760mm、面積1.4m2前後に抑えることができた。排熱ユニットのコンパクト化技術は長府製作所と共同開発で、内部に組み込む給湯用の釜を1つに半減する設計で、今まで外付けであったラジエーターを内臓して奥行きを約10%短縮した。重量も89kgと約15%軽量化されている。一方発電ユニットのメンテナンススペースの削減は京セラとの考案で、内部の電装基板を扉のように開閉する方式とし、基板の奥に位置する部品のメンテナンスも正面から作業できるようにした。これまでの電装基板は固定されていたため、奥の部品のメンテは作業員が横から後方に回り込んでいたが、今回の改良で特にスペースを確保する必要がなくなり、設置場所の削減を可能にした。大ガスは同システムのラインアップ強化のため、発電効率45%、排熱回収効率30%のSOFCを、住宅利用を前提に狭い場所でも導入できるようにシステム化し、08年を目途に市場投入を目指している。(日刊工業新聞07年10月9日)

(2)日本特殊陶業
 日本特殊陶業は10月10日、0.73W/cm2の発電出力密度を持つ1kWSOFCを開発したと発表した。機能性セラミックス技術とプロセス技術を生かして開発したスタックに、独自のセンサー技術と電子回路技術を組み合わせて出力を従来の2倍に向上させた。今回開発したSOFCは、有効面積100cm2の平板セルの積層数を15段(180 180 70mm)と従来の半分以下に抑えつつ、700℃において出力密度0.73W/cm2以上を実現した。スタック部は発熱部と吸熱部を1つの構造体に集積、発電部、改質触媒層、燃焼層、予熱層などの補助機能層を全て一体化した自立式で、独自の制御コンセプトで同社の自動車用センサーを複数採用し、ガスや温度制御を可能にした。同社は今後、出力700〜数kW級の小型ジェネレーション向け市場を第1のターゲットと位置づけ、15年にはSOFC関連事業を500億円規模に育成していく方針である。(日刊工業新聞、化学工業日報07年10月11日)

4.アニオン交換型AFCの開発
 ダイハツ工業は9月14日、産業技術総合研究所と共同で、電極触媒材料に高価な白金(4,500円/g)を必要としないアニオン交換型FCを開発したと発表した。電解質に強酸性の膜ではなくアルカリ性の炭化水素系電解質膜を使うため、電極触媒にコバルトやニッケルなど安価な金属を使うことができるので、大幅なコスト削減が可能になる。燃料にはアンモニアを酸化することによって得られる水加ヒドラジン(液体)を利用する。水加ヒドラジンは樹脂製スポンジを製造するための工業材料として使われており、常温で持ち運びができるなど、取り扱いが容易である点に特徴がある。燃料タンク内で特殊な樹脂により水加ヒドラジンを固体化し、発電時に温水を加えて再液体化する技術も開発している。開発成果はドイツの化学系学術誌"アンゲバンデ・ケミ"で重要論文として認められた。現在は基礎研究の段階にあり、同社は「実車への搭載時期は未定」であるが「幅広いパートナーシップを結び、早期の実用化を目指す」としている。(読売、朝日、産経、日本経済、フジサンケイビジネスアイ、日刊自動車、東京、中国、西日本、北海道新聞07年9月15日、日刊工業新聞9月17日、日経産業新聞、化学工業日報9月18日、電気新聞9月19日)

5.PEFCおよびDMFCの要素技術研究開発
(1)北大
 北海道大学の首藤准教授らは、DMFCの出力を高める技術を開発した。セパレータの材料を改良、燃料となるメタノールや酸素を効率よく供給できるようにし、最大出力を従来に比べて3〜4割高めた。具体的には5cm四方ほどの電極に合わせたセパレータを試作、0.3〜0.4mmの微細な穴が無数に空いたスポンジ状のステンレス素材を使用し、穴からメタノールや酸素を効率よく送り込めるようにした。この手法を使えば燃料や酸素の供給効率を高めるのみならず、反応生成物のCO2や水をスムーズに排出することができる。実験によって、1cm2当たり最大出力が従来材料の場合に比べて3〜4割向上することを確かめた。未だ基礎研究の段階であるが、金属メーカーなどと実用化に向けた話し合いを始めている。(日経産業新聞07年9月25日)

(2)中嶋金属
 メッキ加工の中嶋金属(京都市)は、チタンなどの金属に白金メッキを施したPEFC用電極を開発した。従来の電極に比べて白金の使用量を1/100に抑えられる。同社が開発した新工法は、メッキ加工の際に温度と電流の強さの組み合わせを約10段階で変更することにより、最小で直径10nmと従来の1/10程度の大きさの金属粒子を作ることに成功した。異なる大きさの金属粒子を積み重ねて隙間のないメッキ層を形成、内部の金属が強い酸性の電解質と接触することを防ぐ。通常メッキ加工は温度と電流が一定で、同じ大きさの金属粒子を表面に付着させている。この場合、積み重なった粒子間に隙間ができて、内部が腐食する原因となっていた。PEFC電極に白金メッキを施した手法は大学などの研究機関で開発が進められているが、実用化には至っていない。同社はメッキ液の改善などにより更にメッキ層を薄くしてコスト削減を図り、3年以内の実用化を目指す。(日経産業新聞07年9月26日)

(3)兵庫県立大
 兵庫県立大学の矢澤教授らは柔軟性と耐熱性を持つプロトン導電膜を開発し、実験によってその発電性能をテストした。具体的にはプロトン伝導性と柔軟性を担うシリカをナノレベルで複合化したのが基本で、直径6mmの多孔質ステンレス管表面に水素極となる白金を被服後、シリカなどを含んだ溶液につけて一定速度で引き上げ、プロトン導電膜を被覆した。その後、導電膜上に酸素極を作製して単セルを構築、このようなプロセスによって多孔質ステンレス管に導電膜を被覆した電極・導電膜一体型のPEFCセルを作製、発電実験を行った。金属管内部に水素、外部に酸素を導入し、室温から約200oCの領域で電気を発生させることができる。ステンレス管の微小な孔を介して、プロトン導電膜表面まで水素を拡散するので、膜表面にまで水素を供給することができる。又ステンレス管は水素と酸素の直接反応を防ぐためのセパレータの役割を果たすとともに、電子導電性を持つので水素極で発生した電子を効率的に外部に取り出すための集電体(リード線)としての役割も果たしている。開発した導電膜は200oCの高温で耐熱性があり、しかも低湿度でも使用可能な点に特徴がある。又溶液から作製した導電膜は電極との密着性が高く、電極界面でのイオン移動特性が改善された。単セルを集積すれば大出力化も可能で、自動車用PEFCへの応用が期待される。(日刊工業新聞07年9月27日)

(4)サイエンスラボラトリーズ
 サイエンスラボラトリーズ(千葉県松戸市)は電解質膜の酸化防止用にホスホン酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレンおよび両物質共存型フラーレンを開発した。同社はアメリカMERの日本代理店として長年にわたってフラーレンに携わり、その普及と拡大を図ってきたが、06年夏からフラーレンのFCへの応用研究を進めている。06年11月に出願した"化学修飾とその製造方法、化学修飾フラーレンを含むプロトン伝導膜"が07年7月に特許として成立、この基本特許をもとに"フラーレン誘導体およびその製造法"等4つの特許を出願した。この技術によって同社は電解質膜の酸化による劣化を抑制し、FCの長寿命化に貢献していきたいと考えている。セリウムイオン架橋ホスホン酸化フラーレンは、電解質膜のマトリックスポリマーに混入あるいは触媒インクに添加して使用する。電解質膜を劣化させるOHラジカルをフラーレンが除去し、セリウムイオンが不活性化する。ホスホン酸基が金属イオン架橋しているため水に溶けず、プロトンを伝導するスルホン酸基と共存できるためプロトン伝導性が向上する。同社のフラーレンは架橋反応を起こさずにポリエーテルスルホンの芳香族環に化学的に結合できるため、ポリマー溶液をガラス板上にキャステイングすることで成膜ができ、プロトン伝導基の分布均一性が高い。フッ素系では無加湿での実用化が期待されている。フラーレンは1つのフラーレン分子に4個程度のホスホン酸基が結合しているため、これをポリベンズイミダゾールに化学的に結合することによって生成する水でホスホン酸が流出しないような構造を持つ無加湿膜が可能であり、その開発もテーマとして挙げている。(化学工業日報07年10月10日)

6.家庭用PEFCの実証と事業展開
(1)新日本石油
 新日本石油は9月14日、ジャパンエナジーに家庭用FCのOEM供給を始めたと発表した。新日石は10月を目処にコスモ石油にもOEMを始める予定である。(日本経済新聞07年9月15日、電気新聞、化学工業日報9月19日、日経産業新聞9月21日、日刊工業新聞9月27日)
 新日本石油は10月1日、家庭用FCの08年度設置分の募集を開始したと発表した。NEFによる大規模実証事業が1年延長され、08年度まで継続する予定となったためである。同社は06年末までに435台を設置し、07年度には396台を計画、08年度も数百台の設置を計画している。募集するのは1kW級で燃料はLPGや灯油、一戸建て住宅を対象に、3年契約により年6万円で設置する。(日刊工業新聞07年10月2日、電気新聞10月9日、日経産業新聞10月10日)

(2)テイラド
 自動車用ラジエータなど熱交換器を主要な事業とするデイラドが、低価格と高効率を両立させた家庭用FC向け水素製造装置(改質器)を開発した。水素発生時に出る余熱を燃料ガスの予備加熱に利用する新構造を採用し、現在一般的な高効率方式と同等の効率を保ちつつ価格を1/3にした。具体的には触媒が反応したときに出る熱を水素の発生に使う"内燃式"を改良して、管を3重に重ねた構造を採用した。燃料ガスが通過する外側部、その内側の触媒部、および水素発生のための酸素を供給する中央部で構成されている。燃料ガスはまず内側の管から700oCに達する触媒反応で発生した熱を受けて500oCまで熱せられ、徐々に水素を発生させ(予備改質)、触媒部に送り込まれた際に反応を加速させることが可能になる。水素発生効率は92%で、バーナーなどを使って加熱する"外熱式"並みの効率を実現した。大きさも縦20cm、横32cm、高さ50cmで、外熱式より2/3以下に小型化し、これは内燃式と同等である。又触媒は高価な貴金属のルテニウム系の替わりにニッケル系を採用している。これまではCOをCO2に変える反応器が別に必要であったが、今回の装置は改質器に一体化して部品点数を削減しており、低価格化につなげた。従来の内燃式に比べても低価格と述べている。年間1000台規模で生産すれば20万円程度にできるという。2012年を目途に1万台の生産で10万円以下を目指す。又今後は灯油など都市ガス以外の燃料にも対応できる製品の開発を進めることにしている。(日経産業新聞07年10月4日)

(3)出光
 出光興産は10月10日、東芝FCシステムが開発した市販灯油を使用する家庭用PEFCシステムを08年度に市場投入すると発表した。10台程度を一般家庭に設置して、実稼動のもとでデータを取得し、今後の商用化を目指す。出光は灯油PEFCの商用化に向けて東芝に水素製造技術の提供、今回東芝はLPG型を改良して灯油型の開発に成功した。定格出力は700W、総合効率は85%(LHV)以上。(電気、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ07年10月11日)

7.FCV最前線
(1)トヨタ
 トヨタ自動車は9月28日、走行距離を従来の2.4倍に伸ばしたFCV(トヨタFCHV)を発表した。スポーツタイプ多目的車(SUV)"クルーガー"の車体をベースに開発し、今回はPEFCや制御システムを改良、燃費を約25%向上させたほか水素の貯蔵量もタンクの高圧化によって2倍の6kgに引き上げた結果、1回の水素燃料補給で約780km(10.15モード時)の走行が可能となった。トヨタは28日、このFCV2台で大阪府庁前から東京お台場まで試験走行を実施、約560kmを満タンであった水素の約7割を消費して完走した。同社は「実用化に向けて走行距離という1つの課題をクリアできた」としており、近く官庁などに対するリース販売を始める。最大の課題であるコスト面では、現段階では量産しても数千万円はするとみられ、会見した増田常務役員は「具体的な価格は言えないがまだ相当高い。実用化には更なるブレークスルーが必要」と話した。(読売、朝日、毎日、日本経済新聞、産経、日刊自動車、東京、中日、中国、西日本、北海道新聞、河北新報、フジサンケイビジネスアイ07年9月29日、日経産業、日刊工業新聞10月1日、電気新聞10月10日)

(2)スズキ
 スズキは9月28日、10月26日から開かれる東京モーターショウに出展する自動車の概要を発表した。目玉は未来型の1人乗り電気自動車"PIXY"で、軽自動車型の装置"SSC(スズキ・セェアリング・コーチ)"にそのまま乗り込んで合体接続すると最高時速100km/hのFCVに変身する。PIXYの最高時速は人が歩く程度ではあるが、幅87.5cmでどこにでも行ける手軽さが魅力である。これに対してSSCは長距離移動に使うことを想定しており、同社は「新しい都市交通の形にしたい。2030年頃の実用化を想定している」と述べている。(朝日、産経、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ07年9月29日)

8.FC駆動電動車等
(1)スズキ
 スズキは06年に発表したDMFC駆動のハンドル型電動車椅子セニアカー"MIO"の改良型を第34回国際福祉機器展に参考出品する。満タンの4Lメタノールで40km走行した旧モデルに対して、新型では1.5倍の60kmまで走行できるように燃費を向上させた。新モデルにカセット式の補助ボトル(0.5L入り)を装備し、燃料切れの不安を解消している。将来の量産化をより強く意識したデザインも特徴である。(日刊工業、静岡新聞07年10月3日、日経産業新聞10月11日)
 スズキは東京モーターショウに出展する2輪車を発表した。複葉機をイメージしたコンセプトカー"バイプレーン"や、小型・軽量のイギリス・インテリジェントエナジー社製FCを搭載したFCV"クロスケージ"など、13車種を参考出品する。(日経産業新聞07年10月3日)

(2)ヤマハ
 ヤマハ発動機は10月5日、東京モーターショウにDMFC駆動2輪車"エフシーデイ"を出展すると発表した。実用化に向けて研究開発を進めてきたFC車の性能を向上させ、脱着して充電できるリチウムイオン電池も併用可能にした。(東京、静岡、西日本新聞、フジサンケイビジネスアイ07年10月6日、日刊工業新聞10月8日)

9.水素生成・精製技術開発
 サッポロビールは製パン廃棄物を原料に水素を高効率で生産する技術を開発した。ホップを使って雑菌の繁殖を制御、発酵を促してエネルギーの回収効率を80%にした。原料を加熱減菌しないため、エネルギー消費を必要としないのが特徴である。ビール醸造に用いるホップを水素発酵槽に微量に加えて連続生産を行った。具体的には、食パン製造時に出る廃棄物などを水に混ぜて反応容器に入れる。加熱すると微生物によって廃棄物内の糖、グルコースが発酵して水素を出すが、その際新たにホップを加えることによって加熱せずに雑菌を抑えて発酵させることに成功した。加えるホップもビール生産に利用した廃棄物を使える。パン工場と協力し、食パン廃棄物を900Lの水素発酵リアクターに投入する実験を180日間実施、廃棄物内のグルコースが持つエネルギーの80%を水素として回収することができた。実用化に必要な水準に達したため、今後は大型装置で効率や運転条件などを確かめる。実用化する際には、水素発酵した後、更にメタン発酵によって廃棄物内のエネルギーをできるだけ取り出せば、投入したエネルギーを差し引いて、エネルギーを55〜60%回収できる見込みである。水素をFCで利用するインフラを持つ工場であれば、廃棄物を効率的に電力に変えることが可能になる。今後は協力企業を募り実用化を目指すのに加えて、キャッサバなど他の食品廃棄物や草木からも高効率で水素を取り出せるように改良を加える予定である。同社は、国内の未利用食品廃棄物の約20%にこの技術を適用すれば、年間約590万GJの水素エネルギーを生み出すことができると試算している。(日刊工業新聞07年9月21日、日本経済新聞10月5日)

10.水素輸送・貯蔵技術の開発と事業
 川崎重工は10月10日、岩谷産業向けに自己加圧可能な液体水素ISO40フィート型コンテナを納入したと発表した。川崎重工が開発した液体水素コンテナの初めての納入になる。スペースを最大限に活用して液体水素の積載効率の向上を図った。定置式貯槽への充填払い出し運用と、コンテナ自体を留め置きした状態での払い出し容器としての運用ができるよう、加圧蒸発器をコンテナに搭載することで、外部加圧装置なしに液体水素の払い出しが可能なシステムを完成させている。(化学工業日報07年10月11日)

11.水素供給インフラ整備シナリオ
 エネルギー総合工学研究所はこのほど航空会館で月例研究会を開催したが、同研究所の中村プロジェクト試験研究部副部長・主管研究員が"水素供給インフラ整備のシナリオ"と題する講演を行った。その中で中村氏は「2020年といわれるFCVの本格普及期でも、水素供給コストに占める固定費比率は60%程度と高い」と指摘、水素供給インフラについては「首都圏で100ヶ所、全国で300ヵ所程度なら現在でもガソリンスタンド、CNGステーションへ水素ステーションを併設することが可能であるが、本格普及期に必要な3,500ヶ所を併設ステーションで満たすのは難しい」との見通しを述べた。(電気新聞07年10月2日)

12.携帯機器用FCの開発および事業展開
(1)IT機器用FCの規格化
 東芝、日立製作所、松下電器産業などが携帯電話やパソコンに使う小型FCを08年以降順次商品化するのに合わせて日米韓の電機大手が中心になってIT機器用FCの国際規格を08年中に策定、燃料成分や安全基準を統一して低コスト生産を可能にする。国際規格づくりには東芝、日立、ソニー、NEC、韓国サムソン電子、アメリカMTIなどが参加、それに通信会社や燃料会社も加わる。策定後はIECの国際規格に登録する計画で、事実上の業界標準になる公算が大きい。この規格を採用して東芝は携帯や音楽プレーヤー用FCを08年中にも発売する。日立や松下も10年を目途にノートパソコンに内臓、サムソン電子も商品化を予定しており、現在主流のリチウムイオン電池の代替が進む見通しである。電機各社は独自開発のFCを試作しているが、現在の製造コストはリチウムイオン電池の数十倍になる。規格策定で設計の1部を共通化し、部品調達の大口化も進め、開発コストを削減したい意向である。(日本経済新聞07年9月29日)

(2)各社の開発とIEC標準規格制定の動き
 東芝は千葉・幕張で開催中のIT展示会"CEATEC JAPAN"に、DMFCと携帯電話などIT機器の試作機を参考出展した。FCを着脱できる携帯電話や携帯電話用充電器、FC内臓の携帯メデイアプレーヤーなどである。リチウムイオン電池よりも長持ちし、携帯電話の駆動時間は現在の約2倍になり、燃料のメタノールを注入すれば、ワンセグ放送を10時間連続して視聴できるという。同社は「電池の小型・軽量化を進めた結果、製品に内臓できるレベルに達した」と話しており、早ければ08年度中にも製品を出すことを検討中である。
 東芝など日本企業も参加するIECで標準規格づくりが進んでおり、当社は早ければ08年にも商品化する計画である。補充用カートリッジは、現在の使い捨て充電池より安く生産でき、環境負荷も少ないと予想されている。携帯向けFCでは、ソニーが既に関連技術を発表、松下電器産業もFCを使ったノートパソコンを試作している。ただ日立製作所は「市場性の見極めが難しい」と指摘する。日立もDMFCを開発済みで商品化も可能であるが、「コンセントに差し込む充電はタダに近い感覚がある。FCに切り替える必要性を感じてもらえるかのか」と、商用化にやや慎重な姿勢を見せている。安全性も課題がある。06年12月に航空法が改正され、現状ではFCの機内持ち込みは可能である。補充用燃料について国土交通省は「安全基準に適合したメーカーの商品であれば、持込みが認められる」との見解で、IECによる安全基準策定を待った上で、確実に安全基準をクリアする必要がある。
(朝日新聞07年10月4日、産経、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ10月5日)

(3)STマイクロエレクトロニクス
 フランス・イタリア合弁のSTマイクロエレクトロニクスは、2011年を目途に携帯電話の2次電池充電用FCを製品化する。燃料にはメタノールよりも扱いやすく、環境・安全性に優れる水カートリッジを使う。同社はヨーロッパの大手携帯電話メーカーとともに携帯電話用リチウムイオン電池向けパッシブ型FCの開発を進めている。又水と触媒を入れた独自の"水カートリッジ"を用いるのも特徴で、液漏れ時の安全性や廃棄のしやすさなど環境面を考慮している。カートリッジから発生した水素はパイプで触媒層に運び、大気中の酸素と反応させて発電する仕組みである。一方同社は、シリコンウエハー上にキャパシターなどの薄膜受動素子を集積化する際に、接合容量密度を増加させる技術IPAD(Integrated Passive and Active Device)を流用してFCセルを形成し、更に得意とする電源制御回路を組み込んでいる。試作品は5.8×4.6×0.4cc、平均出力は600mW(ピーク時1.4W)であるが、09年には4.0×3.0×0.4ccに小型化しながら平均出力は2.5Wを目指す。この時点では携帯電話の外付けとなる予定であるが、更に小型化を図ることによって11年には携帯電話へ組み込む予定としている。(化学工業日報07年10月4日)

13.ポータブルFCの開発
 日立製作所は持ち運びが可能な小型FCを開発した。同社が開発したFCはメタノール800mLを補給すれば100Wの電力を3時間供給できる。サイズは縦24cm、横43.5cm、高さ20cm、重さ10kgであるが、基幹部品のセパレータを薄くするなど、実用段階では5kg程軽量化する意向である。メタノールはガソリンに比べれば割安でCO2発生量も少ない。又ガソリンエンジンを搭載した発電機に比べて騒音が小さくかつ運用コストも優れるという。販売価格は未定。08年から一部の顧客向けに試験運用を開始し、製品化する計画である。工事現場やキャンプ場など屋外や電源事情の悪い地域での用途を見込んでいる。(日本経済新聞07年9月26日)

14.FCおよび水素関連観測・計測システム
 東陽テクニカはアメリカ・プリンストンアプライドリサーチ製の電気化学反応物質向け測定システム"Versa STAT3 シリーズ"の販売を始めた。FCやメッキなど電気化学の原理を用いた製品を対象に含有物質を測定する。価格は125万円から。(日刊工業新聞07年9月24日)

 ―― This edition is made up as of October 11, 2007 ―――

・A POSTER COLUMN

携帯機器用リチウムイオン電池とFCの開発事情
 IT機器向けFCが実用化段階に入ることで、小型電源の主役の座を巡る競争が激しくなりそうだ。小型軽量で大量の電気を蓄えられるリチウムイオン電池は1990年代以降、携帯電話やパソコン向けに急速に普及した。しかし、07年8月にはフィンランド・ノキア製携帯に搭載された松下電池工業製の電池4,600万個が交換対象となる異例の事態が発生。IT機器の高機能化に伴う消費電力増しに電池の容量拡大が追いついていない実態が明らかになった。
 小型FCは可燃性メタノールを燃料として使うだけに、普及には安全性をいかに確保するかがカギを握る。新しい規格では、厳しい使用条件下での信頼性検査の方法を統一することなど、安全基準つくりに力を入れる考えである。
(日本経済新聞07年9月29日)

地球温暖化対策"ポスト京都"でアメリカは国連の枠に復帰
 アメリカのブッシュ大統領は9月28日、2012年に期限を迎える京都議定書後の枠組みつくりについて国連の下で交渉し、09年中の合意を目指す考えを表明した。温暖化ガスの排出を削減する技術革新を後押しするため国際的な基金の創設も提案した。一方で削減の義務化には慎重姿勢を保った。 アメリカのブッシュ大統領は9月28日、2012年に期限を迎える京都議定書後の枠組みつくりについて国連の下で交渉し、09年中の合意を目指す考えを表明した。温暖化ガスの排出を削減する技術革新を後押しするため国際的な基金の創設も提案した。一方で削減の義務化には慎重姿勢を保った。
 大統領は自ら主催したエネルギー安全保障と気候変動に関する主要国会合で演説、温暖化を"重要な課題"と認め、「アメリカは真剣に取り組む」と強調した。又参加国には"特別な責任がある"として、国連の作業をけん引していくよう求めている。京都議定書から離脱したアメリカは、国連の枠組みで行われる交渉に戻る姿勢を明確にした。会合にはEU、国連、日米、中国、ロシア、インドなど16ヶ国・地域が参加し、28日に閉幕する。
 同時に日米が先行するクリーンエネルギーの普及を目的に、途上国への資金援助の枠組みとして新基金を提唱、ポールソン財務長官に関係国との調整を指示したことも明らかにした。08年夏までに、今回と同様のメンバーで首脳級会合を召集する意向も示した。
 日米は太陽光パネルやハイブリッド車、FCの普及で一致し、環境関連商品の関税撤廃でも共同戦線を張る。
(日本経済新聞07年9月29日)

東京モーターショウに水素RE、FCV、EVなどの新機軸車が出展
 マツダは10月2日、東京モーターショウでの出展概要を発表した。目玉の1つは新型水素自動車"プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッド"で、これはミニバン"プレマシー"をベースとする電気モータ併用のハイブリッド車である。従来の水素カーから走行可能距離や加速性能が大幅に向上しており、08年度にもリース販売を開始する予定である。同社は06年からスポーツカー"RX−8"をベースにした水素カーをリース販売している。
 なおホンダは同モーターショウで車体を柔らかいシリコン素材で覆ったFCVのコンセプトカー"PUYO"を発表する。全長280cm、幅165cmの小型で6人乗り、丸みを帯びたかわいらしいデザインで、その場で回転できるなど小回り性能に優れている。又08年に北米を皮切りに販売するFCX改良車も披露する。
 富士重工業は、蓄電池を床下に収納することにおより5人乗りを可能にした将来の電気自動車"G4eコンセプト"を公開する。充電池も次世代リチウムイオン電池(現在は研究段階)を使うことで、1回の充電で200kmの走行を想定している。
(産経新聞、フジサンケイビジネスアイ07年10月3日、読売、朝日、日本経済、産経、日経産業、電気、中日、北海道新聞、河北新報10月10日、朝日、毎日、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ10月11日)

安全で大容量のリチウム電池の標準パックを商品化
 NECトーキンは電池セルにマンガン系ラミネート構造をとることにより、安全・低環境負荷の大容量リチウム電池の標準電池パックを商品化し、企業ユーザー向けに発売した。UPS、電動自転車、刈払機、電動/FCバイク、電動車椅子などの100Wh以上の容量が必要なアプリケーション領域では、大きなエネルギー容量が必要なため、その安全性、信頼性は採用の大きな条件となる。同社では電池の提供に当たって、正極材料は安全で環境負荷の低い"マンガン系材料"、構造は放熱性が良く出力性能に優れた"ラミネート構造"を選択することで、信頼性を得ている。
 今回の標準電池パックは上記のアプリケーションに加えて、バックアップ電源、電力貯蔵用に最適な電池パックと述べている。
(電波新聞07年10月5日、化学工業日報10月11日)

2006年度ハイブリッド出荷台数が5割り増し
 日本自動車工業会は10月5日、06年度の低公害車出荷実績が前年比で2.8%減の409万台になったと発表した。しかしハイブリッド車は9万410台で出荷台数を5割近く増やし、トヨタが9割に当たる8万1001台、ホンダは7,748台となった。電気自動車とメタノール車は0、デイーゼル車をベースとするLPG車は3割増加、FCVは1台、水素自動車はマツダから5台が出荷された。(朝日、日刊自動車新聞07年10月6日、日刊工業新聞10月9日)

バイオデーゼル燃料生成副産物のグリセリンから可燃性ガス抽出
 滋賀県立大学の山根教授らは植物油からバイオデーゼル燃料を作る際の副産物であるグリセリンを分解し、水素やメタンなどの可燃性ガスを効率よく取り出す技術を開発した。
 バイオデーゼルは菜種や大豆から得られる植物油にメタノールを加えた反応によって生成される手法が普及しつつあるが、反応時に生成されるグリセリンは化粧品や肥料の原料となるものの使用量は限られている。そのためバイオデーゼルの増産に伴い、グリセリンが大量に余るようになり、有効な利用法が必要とされていた。事実、バイオデイーゼルの世界生産量は年間40億Lに達するとの試算があるが、副産物のグリセリンは余剰のために値崩れを起こし、1年間で半分の価格になっていた。
 滋賀県立大学の研究チームは、窒素を満たした容器に液体のグリセリンを滲み込ませた木炭を入れ、電気炉で800oCに熱したところ、グリセリンが水素やメタン、COなどの可燃ガスに熱分解した。生成された可燃ガスは天然ガスの1/3の熱量を持つ。今後は加熱する時間や熱のかけ方を工夫し、グリセリンから可燃ガスを取り出す収率を引き上げる研究を行う考えで、1年後の実用化を目指す。
(日経産業新聞07年10月11日)