第136号 FCVと水素自動車の全国縦走キャラバン
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.MCFC生産事業
4.SOFCの研究開発と実証成果
5.PEFCおよびDMFCの要素技術開発
6.FCV最前線
7.水素ステーションの運用
8.水素生成精製技術開発
9.水素貯蔵・輸送装置の開発と事業展開
10.バイオ電池等新型タイプのFC開発
11.FCおよび水素関連観測計測システムの開発と事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)建築物省エネ対策
 国土交通省は建築物の省エネルギー対策を抜本的に強化するための施策として、集合住宅に設置できるFCや太陽光・熱利用システム、蓄電池などの先進的設備を導入して建設する建物を普及させることを目的に、08年度から建設費の1部を支援する制度を創設する他、既存住宅の省エネ改修工事の際、低利子で融資する仕組みなどの導入を検討する。経済産業省と連携し、省エネルギー法に基づき届け出が求められている報告対象建築物の延べ床面積引き下げも視野に入れる。(電気新聞07年8月15日)

(2)先端的エネルギー技術開発
 経済産業省は8月15日、世界全体の温暖化ガス排出量を2050年までに半減という政府目標の達成に向け、排出削減に繋がる先端的なエルギー技術の開発に重点的に取り組むと発表した。コスト面で火力発電に代替できるような太陽光発電、火力発電所や製鉄工場から排出されるCO2の捕獲と地中埋め込み技術、途上国で使える中小型原子炉の開発、水素燃料FCVの低コスト化などの技術を大学や民間企業と連携して開発する。既存の技術開発予算と合わせて約838億円を来年度予算として要求する。詳細については8月末に吉川産総研理事長を座長として設置する予定の有識者会議で検討し、年度内に経産省としての計画を纏める方針である。(日本経済新聞07年8月15日、産経、電気、東京、中日、中国、日本農業新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報8月16日、日経産業新聞8月20日、北海道新聞8月25日)
 経済産業相の私的諮問機関"クールアース−エネルギー革新技術計画"有識者会議の第1回会合が都内で開かれた。甘利経産相は「エネルギー技術で日本が世界のリーダーとなる」と挨拶、会合では2050年の温室効果ガス半減目標に向けて、エネルギー技術開発の2030年までの工程表作成や国際連携のあり方を検討する。3回の有識者会議で08年3月までに意見をまとめ、同7月の洞爺湖サミットで提案する。会合では開発した技術の普及策や知的財産保護について意見が出された。(日刊工業新聞07年9月3日)

(3)経産省08年度予算要求
 経済産業省は8月24日、08年度予算のうち資源・エネルギー関係の概算要求を発表した。エネルギー対策特別会計全体(文部科学省、環境省分を含む)の要求額は07年度比8.3%増の1兆233億円で、経産省分は同8.1%増の8241億円、この内電源開発促進勘定(経産省分)は同11.2%増の2523億円、エネルギー需給勘定(同)は6.8%増の5719億円となった。エネ庁は温暖化対策と資源・エネルギーの安定供給確保に予算を重点配分する。  温暖化対策の推進では"美しい星50"の実現に向けた予算として、革新型太陽電池国際研究拠点整備に20億円を新規に要求する。革新的ゼロエミッション石炭火力発電事業に同28億円増の48億円、PEFC実用化研究に同19億円増の70億円、新型原子炉開発など同39億円増75億円を計上した。
 新エネルギー関連ではEVなどの普及に向けて、蓄電システムに関する技術開発・導入促進に同49億円増の125億円を要求する。 (電気、建設通信新聞、化学工業日報07年8月27日)

(4)新エネ技術開発委託先
 NEDOはベンチャー企業などの技術を活用して新エネルギー技術を研究開発する事業の委託先を決定した。委託先に選ばれたのは、太陽光発電分野では東京農工大学など4件、バイオマス分野ではアルコール協会など10件、FC・蓄電池分野はハイドロデバイスの「水分子分解−水素製造用のアルミニウムナノ微粒子の開発」など4件、風力発電その他未利用エネルギー分野では産総研など4件の22件である。(日経産業新聞07年8月30日、日刊建設工業新聞8月31日、電気新聞9月12日)
2.地方自治体による施策
(1)千葉県
 千葉県は太陽光、FC、バイオマスなどを活用した新エネルギー関係の新商品・新技術の実用化に向けた技術研究や試作を行う中小企業を育成する制度を新設し、このほど募集を開始した。新エネルギー関連企業の育成と産業振興が狙い。対象は原則として県内で事業を行う中小企業であるが、県内の企業か大学と連携する場合は大企業を含める。補助額は単独の研究で最大300万円、複数企業か大学などとの連携では最大500万円である。初年度の予算額は800万円で、2,3事業を選定する。(化学工業日報07年9月10日)

(2)青森県
 青森県は、2007年度環境・エネルギー技術開発費補助金の公付対象事業を公募する。公付対象者は県内に事業所又は営業所がある中小企業。補助対象は、再生エネルギー、FC又は省エネルギーに関する技術開発を行う事業で、県内の公設試験研究機関、大学、高等専門学校などと連携して実施し、未利用エネルギーの利用や未回収エネルギーの再利用が図られ、かつ異業種間連携が図られる事業としている。(建設通信新聞07年9月12日)
3.MCFC生産事業
 韓国ポスコは2010年末までに浦項市・迎日湾港の産業団地内約20万7900m2の敷地に年産1000MW規模の定置式FC生産工場を2期に分けて建設する。ポスコは07年2月、アメリカ・FCE社と事業提携契約を結び、生産技術および韓国国内、海外市場の販売権を取得した。韓国電力公社とFC事業において相互に協力することで合意し、定置式FCの製造、販売、研究開発、市場拡大および情報交流などに関する業務協力協定書(MOU)を締結した。韓国電力とは事業の共同推進のための実務協議会を設置、FC事業に関して協力関係を強化する一方、08年までに国産発の250kWFC発電所を運営している韓国電力系列会社"南東発電"に2.4MW規模のFCを追加供給する。2011年から本格生産する定置式FCは、発電所、病院、放送局、大型製造施設やホテル、ショッピングセンターなどに販売する。又大規模アパート団地などの住居施設での分散型電源用としての需要も見込んでいる。(鉄鋼新聞07年9月4日)
4.SOFCの研究開発と実証成果
 関西電力は三菱マテリアルと共同で開発を進めている都市ガス燃料の出力10kWSOFCコージェンレーションシステムによる発電試験で、発電効率(AC端HHV)41%、総合効率で82%(HHV)を達成した。05年に開発した動作温度800℃以下のSOFCモジュールをベースとして、新規開発したインバーターや新しく改良された熱回収装置などを組み合わせることによりコージェネレーションシステムとして開発、補機のエネルギーロスの低減なども行った結果、今回の目標達成に繋がった。長期耐久性についても、関電六甲実験センターで連続3000時間以上を目標に試験運転を実施中で、現在までに累積1700時間(8月6日時点)を超え、安定運転を継続している。(電気新聞07年8月13日)
5.PEFCおよびDMFCの要素技術開発
(1)石関プレシジョン
 精密プレス加工の石関プレシジョン(高崎市)は、PEFC用セパレーターをプレス加工で大量生産する技術の開発に取り組んでいる。プレス加工化が実現するとコストダウンが可能になる。同社はステンレス素材をプレス加工する技術を研究しており、完成すれば100〜200円/枚に抑えられるという。本年度はプレス加工の精度を、水素や酸素が通る複雑な形状の溝を作れるレベルまで高めるとともに、プレス時の衝撃による素材の変形を抑えるための研究に取り組み、今年度中にプレス加工技術を完成させてメーカーの試作機用として受注獲得を目指す。(上毛新聞07年8月18日)

(2)首都大学東京
 首都大学東京大学院の金村教授らの研究グループは、電気泳動法を用いて電極触媒層を構築することに成功した。これは溶媒中に分散したコロイド状の触媒粒子を電場によって電解質膜上へ堆積させる方法で、泳動条件や組成によって触媒層の厚みや組成を制御することができる。通常のホットプレス法で作成した電極に比べて多孔性で均一性に優れた電極触媒層の構築が可能になる。この方式によって作製されたMEAによる実験では、ホットプレス法によるものに比べて最大電流値で2倍以上の発電特性を実現した。実験ではガラス製の泳動セルを用いてセルの中央にNafion膜を挟み、アノード側に白金・ルテニウム担持カーボンを分散した溶媒を、カソード側に白金担持カーボンを分散した過塩素酸水溶液を入れて直流電源による泳動を行った。得られた電極を透過型電子顕微鏡で観察したところ、非常に均一性の高い触媒層が形成されていることを確認した。(化学工業日報07年9月11日)

(3)旭化成ケミカルズ
 旭化成ケミカルズは、機械強度を化学技術によって従来より3倍程度高めたフッ素系高分子膜を開発した。作動温度80℃、低加湿(20〜30%)の条件で、運転・停止を繰り返すなど様々な負荷を与える環境下において、5000時間の連続運転を実現した。2012年を目途に高耐久性膜の実用化を目指しており、家庭用PEFCの大幅コストダウンにつなげる。又加速試験では膜に穴が空くなどの問題は起こらなかった。今後80℃で4万時間の耐久性を持つ非補強型フッ素系膜の実現を目指す。(日刊工業新聞07年9月14日)
6.FCV最前線
(1)フレイン・エナジー
 フレイン・エナジー(札幌市)は8月30日、北大の市川名誉教授らと共同で、有機ハイドライドから水素を取り出す車載型装置を開発し、カート車による実証走行に成功したと発表した。水素とガソリンを半々の割合で50ccエンジンに供給、燃費が最大50%向上し、CO2排出削減が可能になる。有機ハイドライドから水素を取り出すための熱を、エンジン排気でまかなえるため、高いエネルギー効率を確保できる。従来の脱水素反応器を小型化した"オンボード型"を組み込んだカート車を、フタバ産業、伊藤レーシングサービスと共同で試作した。この反応器はアルミニウム製で、高さ45cm、直径約15cm、エンジンの排気を使って300℃強に加熱し、有機ハイドライドから触媒の白金を使って水素を取り出す。年内には小型自動車の走行テストを行う予定。(日本経済、電気、日経産業、日刊工業新聞07年8月31日)

(2)サムテック
 自動車用鍛造部品メーカーのサムテック(大阪府)は、水素の貯蔵容量を1.5倍に高めた水素貯蔵タンクを開発した。容量40.8Lのタンクに1.5kgの水素を蓄えられる。貯蔵量アップの鍵は、350気圧の高圧タンクの中に、水素吸蔵合金を組み合わせるハイブリッド型にしたことである。タンクは溶接できないアルミニウム製、厚さが約1cmの円筒を回転させながら成型する絞り加工を採用した。もともとハイブリッド型を提唱したトヨタ自動車は分割した容器をリングで強く結合する方式であったが、サムテックは「一体型の方が耐久性に優れている」と述べている。同社は新分野開拓のためにタンク製造に乗り出し、1996年にアメリカに加工会社を設立、NASAのロケットや人工衛星にも使われ、技術を磨いてきた。日本重化学工業やJARIと一緒に国のプロジェクトに加わり、ハイブリッド型タンクの安全性試験を来春までに終える予定である。(日本経済新聞07年8月31日)

(3)上海神力科技有限公司
 中国の上海神力科技有限公司が開発した新世代都市型FCバス"神力1号"が9月5日上海で公開された。FCと水素缶(水素ガスタンク)を搭載、最高時速は95km/h、18秒で50km/hまで加速、水素満タンで300kmの走行が可能である。このFCバスはイタリア・ラツイオ州の公共バス会社に提供される。(人民網日本語版2007年9月6日)

(4)岩谷産業
 岩谷産業(大阪市)は、FCV2台と水素自動車1台の合計3台および燃料補給用トレーラーによって水素エネルギーキャラバンを組み、水素燃料のみで鹿児島種子島宇宙センターから北海道の稚内市まで約4500kmの33日間走行イベントを9月20日から開始する。大阪府堺市などでイベントを開催する他、途中30箇所の学校などで"水素サイエンス教室"を開催する。(読売、日刊工業、北海道新聞、フジサンケイビジネスアイ07年9月8日、化学工業日報9月10日、日刊自動車新聞9月11日、中国新聞9月12日、産経新聞9月14日)

(5)ダイムラークライスラー
 ダイムラークライスラーは9月11日、FCVを2010年に発売すると発表した。ロイターによるとFCVはメルセデス・ベンツの多目的コンパクトカー"Bクラス"の新型車として投入、小型で強力なFCを搭載する。販売価格や生産台数は明らかでない。(中日新聞07年9月12日、電気新聞9月13日、フジサンケイビジネスアイ、日刊自動車新聞9月14日)
7.水素ステーションの運用
 大阪ガスは8月21日、FCVなどに水素を供給するステーション"JHFC大阪水素ステーション"を8月23日から大阪市中央区の大阪府所有地で運営すると発表した。財政難で新庁舎建設を断念した府から、府警本部の北に確保していた用地を借りて大ガスが水素ステーション(敷地面積約1000m2)を建設、パイプラインから供給される都市ガスから同社開発の改質装置によって30m3/hの容量で水素を発生し貯蔵する。建設費用は約3億円で経済産業省が負担した。FCV4台に連続充填が可能である。大ガスは2010年までステーションを運用し、FCV以外にも水素を動力源とした車椅子やカートなどへも水素を供給し、実証データを収集する。(読売、産経、日本経済、日経産業、日刊工業新聞07年8月22日、産経新聞8月23日、毎日、電気新聞8月24日、日刊自動車新聞9月4日)
 関西は国の"FC導入シナリオ"の中で、多目的利用技術の開発・実証を担っている。FCVの実証が中心である首都圏に対して利用目的の範囲が広い。電動椅子、カート、アシスト自転車、コージェネレーションなどを含め、福祉や環境、熱電源など生活の隅々に密着した形で活用する試みであり、注目に値する。(日刊工業新聞9月4日)
8.水素生成精製技術開発
(1)シャープとRITE
 シャープとRITEは共同で、セルロース系バイオマスから得たミックス糖(グルコース)から水素を理論収率(糖1モル当り4モル)の50%で取り出すことに成功した。又水素の取り出しスピードも、容量が1Lのリアクター(反応器)に200gの菌体を入れて 20L/hとなることを確かめた。今回両者は遺伝子組み換えによる独自開発の菌体(大腸菌)を使用した。この菌体の入ったリアクターに糖を投入して水素を発生させる。今後更に収率を上げる開発を進める一方、長期連続運転を行い、バイオマス水素の実用化を目指す。(日刊工業新聞07年8月14日)

(2)バデユー大学
 アメリカのバデユー大学の研究者らはアルミニウムとガリウムの合金を使って水から水素を効率よく生成する技術を開発した。水と反応するアルミの表面に被膜ができるのをガリウムが防ぎ、連続的に水素を作り出せる。アルミが80%、ガリウムが20%の合金粒子を作ったところ、全てのアルミが酸化アルミになるまで水素を合成できることが分かった。ガリウムは水と反応しないため再利用も簡単である。この水素製造法は水素を高圧タンクに貯蔵して運ぶよりも効率的で、FCVに利用可能と考えられる。(日経産業新聞07年8月30日)

(3)東北大等
 東北大学大学院工学研究科の石田教授および科学技術振興機構の高久研究員らの研究グループは9月6日、水を注いで水素を発生するアルミニウム合金を開発したと発表した。同研究グループは、アルミに比較的安価な元素(研究グループ)を添加し、熱処理によって結晶を数μmに揃えたアルミ合金を作成した。合金を水と反応させると水素を発生し、アルミは水酸化アルミに還元される。室温でもよく反応するのが特徴であり、1gのアルミから約1Lの水素ができた。結晶の組織を制御することによって、反応を妨げる表面の酸化アルミ皮膜による影響が抑えられたものと見ている。低コストで水素を生成することができる。(河北新報07年9月7日、朝日新聞9月14日)

(4)早稲田大学
 早稲田大学の菊池教授、松方教授らは、COと水蒸気から水素を生成する水性ガスシフト反応において、前処理が不要で高い活性を示す触媒を発見した。COによる白金触媒の被毒を防ぐとともに、高い水素生成量が得られる。具体的にはペロブスカイト型酸化物である酸化ランタンコバルトに白金とパラジウムの両方を担持した触媒で、白金の担持量は1%、パラジウムの担持量は0.5%である。ペロブスカイト型酸化物は、高い酸素イオン伝導性と格子酸素を放出し易い性質があり、酸化還元を助けると考えた。白金、パラジウムは反応を低温で進めるために添加した。作成した触媒で水性ガスシフト反応を行ったところ、既存の触媒よりも高いCO変換効率が得られ、活性も安定していた。ペロブスカイト型酸化物のみではほとんど活性がなく、シリコンの上に白金、もしくはパラジウムをおいた触媒でも活性が見られなかったことから、3つの化合物の相乗効果によって高い活性が得られたと考えられる。(化学工業日報07年9月14日)

(5)東工大
 東京工業大学の渡辺准教授らは、ビールなど低純度のアルコールから水素ガスを効率よく生産できる小型装置を開発した。缶ビール(350cc)1本からFCVを約2km走らせる量の水素が生成できる。アルコールを直流放電によって高温加熱し、水素と炭素、酸素を原子レベルまでばらばらにし、それを冷却すると原子が結合して水素とCO、CO2のガスになるので、ここから水素ガスのみを分離すれば水素を得ることができる。コストは割高ではあるが、アルコール関連の工場で、不要になった低純度のアルコールが使えるのが利点と同准教授は話している。(日経産業新聞07年9月14日)
9.水素貯蔵・輸送装置の開発と事業展開
 中国工業は早ければ09年3月にも、自動車用水素燃料タンク事業に参入する。広島大学の岡本准教授と超高圧水素タンクを共同開発中で、FCVや水素REエンジン自動車向けの販売を目指す。開発中のタンクは、繭型に一体成形したプラスチックをインナー容器とし、エポキシ樹脂を浸透した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を巻きつけた構造である。軽量でアルミニウムやステンレス製と同等の強度を確保できる。インナー容器の素材は、特殊樹脂の多重構造で水素ガス漏れが少ない。今後半円形部分の強度を確保する最適なCFRPの巻き方や、より水素漏れの小さい口金構造の開発が課題である。(日刊工業新聞07年9月12日)
10.バイオ電池等新型タイプのFC開発
(1)オハイオ州立大
 アメリカ・オハイオ州立大学の研究グループは、植物に含まれるセルロースをエネルギー源とするFCを開発した。牛の胃から見つけた微生物を使い、セルロースを分解することにより電気を取り出す。開発したFCの大きさは直径が約5cm、高さが約7.5cmで、FCの内部を微生物とセルロースを含む溶液で満たすと、微生物はセルロースを分解し、電極に電子を放出して発電する。電子は別の電極で水素イオンおよび酸素と結合し水を生成する。小型のクリスマスツリーを飾る電球を点灯する程度の発電能力がある。(日経産業新聞07年8月23日)

(2)ソニー
 ソニーは8月23日、ブドウ糖をエネルギー源として発電するバイオ電池を開発したと発表した。CO2等温室効果ガスの排出はない。電池セル(4cm角)4個を直列に接続し、各セルにブドウ糖7ccの充填すると、携帯音楽プレーヤー"ウオークマン"で数時間音楽再生ができた。原理的にはブドウ糖を複数の酵素で分解して電気エネルギーを取り出す方式で、ブドウ糖が分解すると、負極側で電子と水素イオンが発生、水素イオンはセパレーター(絶縁シート)を透過して正極側に移動し、空気中から取り出した酸素と結合して水になる。発生する水は微量で空気中に蒸散するほか、多孔質カーボンの正極において吸収される。この電池は1つのセル当たり50mWの発電能力がある。今後発電性能や耐久性の向上を進めていく意向である。(産経、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ07年8月24日) 
11.FCおよび水素関連観測計測システムの開発と事業展開
(1)岡崎製作所
 岡崎製作所(神戸市)は、直径12.7μmの超極細熱電対を開発し、受注を始めた。PEFCセル電解質膜の温度計測用である。電解質膜の隙間(数十μm)よりも細く、膜内の温度を常時計測できる。当面は数十本を製造し、価格は1本10万円前後になる見込みである。中央に温度を測定する接点部を置き、それを挟んでそれぞれ異なる金属のリード線を左右に一直線に伸ばした構造で、電解質膜内の測定対象に触れる部分は、測温接点部を含めてポリイミドのコーテイングを施し、反応時の高温や動作電圧に耐えられるようになっている。最高耐熱使用温度は200℃である。岡崎製作所は通常のシースタイプでも直径0.1mmの世界最細熱電対を標準製品として揃えている。ポリイミドをコーテイングして乾燥固化する際に破断し易く、量産はかなり難しいという。(日刊工業新聞07年8月22日)

(2)新コスモ電機
 新コスモ電機は、FC用改質ガス分析装置"XG−100HC"を開発、10月から発売する。価格は税込み220万5000円(パソコンは含まず)で年間50台の販売を見込む。新製品は超高感度でガスに対する選択性に優れた独自の金属酸化物半導体式センサーを搭載し、FC用改質ガス中のCOを2ppmからの高精度で測定する。天然ガスやLPGなど残存する原材料についても、ppm単位で測定が可能である。又ポータブル型で、測定時間は15分、10mLの試料を直接注入するだけで測定できる。測定結果は専用ソフトで解析し、現場で確認・保存ができる。(日刊工業、電波新聞07年8月27日)

 ―― This edition is made up as of September 14, 2007――

・A POSTER COLUMN

RITEが雑草からデーゼル燃料を合成する技術を開発
 地球環境産業技術研究機構(RITE)は、雑草や木屑などからデイーゼル燃料を合成する技術を開発した。ガソリン車用ではバイオエタノールが注目されているが、デイーゼルについては世界で初めてという。3年後を目標に工業生産を始める予定。
 このバイオデーゼル燃料は成分が"ブタノール"と呼ばれるアルコールの1種で、遺伝子組み換え微生物を利用して生産する。タンクで微生物を大量培養し、雑草・雑木や廃木材、稲ワラなどの植物繊維を分解した糖を入れると、バイオブタノールが作られる。
 デイーゼル燃料には一般に軽油が使われているが、この軽油にバイオブタノールを混ぜても、走行性能などにはほとんど影響がないことを、RITEの依頼で本田技術研究所が確認した。量産体制が整えば、ガソリン車向けのバイオエタノールとほぼ同等のコストで生産可能であり、デイーゼル車でもバイオ燃料化が加速するとRITEはみている。
 これまでのバイオデイーゼル燃料はヤシ油や天ぷら油などの原料に限られており、本格的な植物資源を利用できる生産法を、RITEやイギリスBP、アメリカのデユポンなどが競っている。 (日本経済新聞07年8月14日)

高エネルギー密度電気2重層キャパシターの開発
 日本電子と子会社のアドバンスト・キャパシタ・テクノロジーズ(ACT)は、08年春を目途にエネルギー密度を30kWh/kgにまで高めた大容量電気2重層キャパシター"プレムリス"を開発する。他方、エネルギー密度が同15kWh/kg、最高動作電圧4Vのタイプについては、年内に月産2000セル体制とするなど生産を強化する。
 プリムレスは、日本電子が開発したナノゲートカーボン(NGC)を正極に、黒鉛系カーボンを負極に夫々採用した非対称型キャパシターである。 (化学工業日報07年8月21日)

セルロースを溶解するイオン液体
 東京農工大学の大野教授らは、セルロースを加熱することなく溶解する新しいイオン液体を開発した。10%のセルロース溶液は45℃で30分間攪拌、4%のセルロース溶液であれば加熱することなく常温常圧で溶解できる。
 同教授らが見出したのは、カチオン部位にメチルイミダゾール塩、アニオン部位にはメトキシリン酸塩を用いたイオン液体である。特にメトキシリン酸はイオン液体として低粘度であり、セルロースを容易に溶解することができた。
 現在バイオエタノールなどの原料に、食料ではないセルロースの利用が期待されているが、セルロースはその力学的強度や生体適合性、生分解性などの特徴から、紙の他にレイヨンに代表される紡糸や衣料、食品、医療用など幅広く応用されている。更にセルロースが持つ超分子構造や多数の官能基、機能を利用することにより新規用途の可能性も考えられる。 (化学工業日報07年8月29日)

三菱自動車が新型EVコンセプトカー"アイムーヴ・スポーツ"を発表
 三菱自動車は9月7日、10月に開かれる東京モーターショウに出展するコンセプトカー"iMiEV SPORT"の概要を発表した。軽自動車をベースに開発された"iMiEV"を進化させて、環境・走行性能を高めたのが特徴である。
 新型車は床下と左右の前輪にモーターを搭載、各モーターの出力を電子制御して操作性や安定性の強化を図った。最高時速は180km/h、1回の充電での走行距離は200km、補助発電用として天井部に太陽電池が、前部に風力発電用のファンが取り付けられている。 (産経新聞07年9月8日)