第133号 水素精製等水素関連の技術開発が活発化
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.外国および国際機関による施策
3.SOFC関連技術の研究開発
4.PEFCおよびMCFC要素技術開発
5.石こう電解質膜の開発
6.業務および家庭用PEFCの実証試験結果
7.FCV最前線
8.改質および水素生成精製技術
9.水素輸送・貯蔵技術の開発
10.水素およびFC関連のセンサー・計測技術
11.マイクロFC関連技術の開発
12.企業活動
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)次世代自動車燃料イニシアテイブ
 経済産業省と日本自動車工業会、石油連盟は、バイオ燃料など自動車燃料の複合化を柱とした"次世代自動車燃料イニシアテイブ"を5月28日に策定する。経済成長戦略大綱で示された運輸部門の石油依存度を2030年までに2割の削減を実現するために、バイオ燃料やクリーン・デイーゼル車の普及、電力化・次世代バッテリーの開発促進、FC開発による水素社会の実現を官民で推進することを再確認する。具体的には、ガソリンと混合するバイオエタノール、軽油と混合するバイオデイーゼルの開発・促進を図るが、特に食料と競合しないセルローズ系バイオマスの開発を強化する。国内では導入が遅れているクリーンデイーゼル乗用車も積極的に推進、GTLの受け皿になるとの期待もある。バッテリーでは、2015年に先進型電池で2010年の改良型に比べて1.5倍に、30年には革新型電池で同7倍の性能向上を目指し、電気自動車などの普及を推進する。今回纏めた内容は経済財政諮問会議に提出し"骨太の方針07"に盛り込まれる計画である。28日の懇談会には甘利経済産業相、張自工会会長、渡石連会長が出席する。(日刊工業新聞07年5月25日)
 経済産業省は、5月28日、自動車関連の2030年までの展望や目標を示した"次世代自動車・燃料イニシアテイブ"をまとめた。これらの内容および目標は、1)運輸分門の石油依存度を現在の100%から30年には80%程度に引き下げる。2)バイオ燃料は、建築廃材や稲ワラなどを原料にする技術開発を進め、15年までに製造コストを現状の150円/L前後から40円/Lに引き下げる。3)ITを駆使した交通制御を強化し、都市部の平均速度を2倍に引き上げる。4)FCVの本格普及を図るため、向こう5年間は年間320億円程度の研究開発を継続、1台数億円の現行価格を30年までにガソリン車並みの300万円に下げる。5)次世代バッテリー技術開発プロジェクトの立ち上げと充電スタンドの整備、それにより10年にコンパクトEVを、30年にEVの本格普及を目指す。6)クリーンデイーゼル推進では、GTL,水素化バイオ軽油などの軽油系新燃料の研究開発と、09年以降ポスト新規制に対応したデイーゼル乗用車の導入。等となっている。(朝日、毎日、産経、電気、日経産業、日刊工業、中国、北海道、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報07年5月29日)

(2)家庭用FCの補助金
 経済産業省は5月28日、家庭用FCの販売時に、09年度から補助金を支給する方針を固めた。メーカーの製造原価の削減を促し、家庭で設置する際の初期費用を100万円以下に抑えることを目指す。現在各社は有料で貸し出す方式を採っているが、今後は順次販売方式に切り替わっていくと見られる。しかし、製造にかかる費用が高く、最低でも400万円近くになるといわれている。しかし、メーカーの中には、09年度に1台120万円、15年度には50万円程度で販売できると見込むところもある。(読売新聞07年5月28日)

(3)NEDOの新エネルギーベンチャー技術革新事業
 NEDOは5月31日、新エネルギー分野で新事業を展開する企業、大学、公的研究機関を支援する"新エネルギーベンチャー技術革新事業"を開始すると発表した。新エネルギー関連ベンチャーの育成を通じて次世代エネルギーを支える産業群の創出を狙う。07年度の事業費は3億円。公募事業の対象となる新エネルギー分野は、太陽光発電、バイオマス、FC・蓄電池、風力発電、その他の未利用エネルギーで、支援事業は事業化調査を実施するフェーズT(1年以内)と、技術開発・事業化に取り組むフェーズU(原則2年間)に分けて募集する。(日刊工業新聞07年6月1日)

(4)FCV用水素貯蔵搭載技術の開発
 資源エネルギ−庁は、FCVの本格普及をにらみ、大量の水素をより安全かつ低コストに搭載する技術を開発する。水素貯蔵の基本原理や水素を吸蔵する材料の基礎研究を行い、貯蔵能力を大幅に向上できる方法を確立する。独立法人や大学に委託し、07年度から5カ年計画で研究開発を進める。NEDOを通じて"水素貯蔵材料先端基盤研究事業"を実施する。同事業の委託先に産総研、日本原子力研究開発機構、上智大学、広島大学など13の研究機関を決定し、具体的な作業をスタートする。(日刊自動車新聞07年6月8日)
2.外国および国際機関による施策
 国連欧州経済委員会(UN/ECE)の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)は、2010年を目途にFCVの衝突安全に関する世界統一基準を策定する。フェーズ1として各国が導入している自動車の衝突安全基準に基づいた水素漏れや漏電などの高電圧対策などに関する技術基準について検討する。それを踏まえてフェーズ2として衝突試験方法の統一化などを進めていく方針である。日本は以下に述べるようにFCV技術基準を策定しており、世界統一基準も日本の基準をたたき台に検討を進める。
 日本の国土交通省は、05年3月の道路運送車両法改正で、FCVの安全・環境に関する技術基準を策定し、圧縮水素容器安全基準や高電圧安全基準などを定めている。FCVについては、特に衝突時などにおける水素漏れや滞留、動力用の高電圧からの人体保護に関する安全性の確保を目指している。WP29は05年にFCVの世界統一基準を検討する専門家会議を設置し、第1回会合を日本で行った。 (日刊自動車新聞07年5月21日)
3.SOFC関連技術の研究開発
(1)大阪ガス
 大阪ガスは住友精密工業、ファンクショナル・フリッド(大阪市)と共同で、小型ケミカルヒートポンプの開発に成功した。家庭向けコージェネレーションシステムとの一体化によりポンプ稼動に必要な真空容器を1つとし、従来の4つから大幅にシンプル化した。SOFCコージェネシステムに導入すれば、排熱回収効率を30%から45%にアップすることが可能としている。化学反応器や水分の凝縮・蒸発器など放・蓄熱機構を1つの真空容器の中に設置、又化学反応器には、塩化カルシウムに膨張化させた黒鉛を組み合わせた複合材料を熱交換器に充填して使用している。COPは1.5以上を実現できる。(日刊工業新聞07年5月22日)

(2)第一希元素化学工業と田中化学研究所
 第一希元素化学工業と田中化学研究所(福井市)は、SOFCのアノード電極用新材料を焼き固めて電極を作製する技術を共同開発した。酸化ニッケルとジルコニウム化合物を交合させた粉状物質で、導電性が高く、ガスを効率よく通過させる電極を作製することができる。作動温度が700℃からの低温用(NiO−ScSZ複合粉)と、1000℃程度の高温用(NiO−YSZ複合粉)の2種類あり、6月からサンプル出荷する。両社は共同で粒子の形状や混合状態を最適化し、導電性の高い電極を容易に焼き固める技術開発に成功した。順調にいけば2010年頃までに量産化されると予想している。(日経産業新聞07年6月1日、化学工業日報6月4日、フジサンケイビジネスアイ6月5日)
4.PEFCおよびMCFC要素技術開発
 旭化成ファインケム(大阪市)は6月4日、スルホン酸基を有した最小のビニルモノマーであるビニルスルホン酸の工業化技術を確立したと発表した。独自の重合制御プロセスを開発し、純度が95%以上の高純度で、ビニル基とスルホン酸基のみで構成される非常にシンプルな構造のノンナトリウム塩型スルホン酸モノマーを製造することができた。親溶媒性を持つことにも特徴がある。アミド基など他の官能基がないために副反応が起きにくく、製品劣化を制御でき、ノンナトリウム塩型であるため、ポリマーにナトリウムイオンを同伴する懸念もない。又親溶媒性のため、各種有機溶媒下での使用が可能である。PEFCやDMFC炭化水素系電解質膜向けに6月11日から"YSA−H"の商品名で販売を開始する。(日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報07年6月5日)
5.石こう電解質膜の開発
 名古屋工業大学の阿部名誉教授らの研究グループは、石こうを材料にしたFC用電解質膜を造った。水の代わりにリン酸溶液を硫酸カルシウム粉末と混ぜて石こうを作る。石こう内部の隙間にリン酸が入り込むほか、硫酸とリン酸が入れ替わる部分があるため、リン酸中の水素イオンにより導電性が高まると考えられている。又リン酸中の水素イオンと、FCに注入する水素ガスから分離した水素イオンが入れ替わり、電解質膜として機能する材料ができる。試験では導電性が0.01S/cmで、200℃まではその性能を保ち、厚さ0.4mmの膜を適用した場合、出力密度は20℃で45mW/cm2、80℃では同65mW/cm2となることが確認された。ただ200℃でも導電率は高いが、品質劣化する恐れがあるという。(日刊工業新聞07年6月5日)
6.業務および家庭用PEFCの実証試験結果
(1)新日石
 新日本石油は6月5日、広島ダイヤモンドホテルに設置して行っていた業務用出力10kW灯油燃料PEFCプラントの累積運転時間が1万時間に達したと発表した。05年から三菱重工と共同で行っている。火力発電に比べたCO2の排出削減率は30%。今回の成果を踏まえ、九州大学の学生食堂に改良型システムを設置し、10月から運転を開始する。(電気、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ07年6月6日)

(2)三洋電機
 三洋電機は6月5日、家庭用PEFCシステムを09年度から一般に販売する方針を明らかにした。製造コストは1台350万円程度であるが、09年までに大量生産と部品の削減や汎用品への変更などで1台120万円に近づける予定。補助金を受ければ100万円以下に抑制できると見ている。(読売新聞07年6月7日)
7.FCV最前線
 アメリカDOE傘下のブルックヘブン国立研究所(BNL)の研究者が、プラチナ電極触媒に金メッキを施すことによって、プラチナ陰極触媒の分解を防ぎ、FCV用FCの安全性を改善できることを発見した。プラチナ・ナノ粒子に単一層の銅に替えて金をかぶせ、1.2Vの電圧を何回かかけると、金の層が3次元の金クラスターに変貌し、FCの電気化学反応によるプラチナの酸化を防止する。プラチナの坑酸化の確認には、BNLのシンクロトロン光源研究所にあるX線や、BNLの機能的マテリアル・センターにある走査型透過顕微鏡、その他の電気化学的手法を駆使した。BNLの実験では、プラチナ触媒に0.6〜1.1Vの電圧をかけ3万回以上酸化還元反応を行わせたが、同触媒は安全性を保持した。(化学工業日報07年5月21日)
8.改質および水素生成精製技術
(1)京大と関電
 京都大学大学院工学研究科の井上教授、岩本准教授と関西電力のグループは、メタンからCNT(カーボンナノチューブ)を選択的に合成すると同時に、副生成物としてCOを含まない水素を発生させる触媒を開発した。これはジルコニアを担体としたニッケル触媒であるが、独自のグルコサーマル法で作製したジルコニアは市販品に比べると形状が球状で大きく、表面積は150m2/gで市販品の3倍以上になる。このジルコニアにニッケルを担持して触媒としたところ、従来品よりも高い触媒活性がみられ、メタン等からカーボンナノファイバーを含まないCNTのみが合成できた。又原料にメタンのみを用いた反応においては、CNTの成長時間が長くなり、長いCNTが得られる。副生成物として合成される水素が触媒活性の維持に役立っていると考えられており、現在メカニズムを検討中である。他方反応で同時に合成される水素はCOを含まないので、FC用に利用できる。(化学工業日報07年5月17日)

(2)本荘ケミカル
 本荘ケミカル(大阪府)は、シリカゲルに紫外線を照射することによってCOを除去することに成功した。又水素中のCOも酸化できるので、白金触媒の代替材料としてFC用選択酸化触媒として応用可能である。シリカゲルについては、同細孔径を制御して紫外線を照射すれば、トルエン、アセトアルデヒド、キシレンなどの各種VOC(揮発性有機化合物)をCO2に酸化できるので、VOC低減策としての利用が期待される。今回シリカゲルによる光酸化反応を利用して、COがCO2に酸化されていることを確認した。すなわち、大気中でのCO除去試験では、4時間以内にCOが完全に酸化分解されていることを確認、更に水素中の除去試験では、4時間以内に1000ppmのCO濃度が700ppm以上酸化されることが分かった。光照射だけでCOが除去され、再生処理が不要なことに加えて、水分を含んでいても効果が持続され、更に人体に対する安全性が高く安価であることから、FC用改質器において白金触媒などの代替材料として利用が見込めると同社は期待している。ライセンス供与や共同開発を視野に、早期実用化を目指す方針である。(化学工業日報07年5月17日)

(3)富山高専、トナミ運輸、富山県工業技術センター
 富山高専、トナミ運輸(高岡市)、富山県工業技術センター生活工学研究所は5月21日、飲料容器などに使われるアルミ付紙パック廃棄物から水素を取り出し、FCに活用するシステム開発を始めたと発表した。08年度はミニプラントを建設、3年後に実証実験を行う。日本テトラパック(東京)が協力する。テトラ社の再生紙工場で発生する紙以外の残りかすを乾留炉で処理、純度の高いアルミのみを取り出し、水酸化ナトリウムの化学反応で高純度の水素を生成する仕組みである。水素の生成過程で生じる副産物も、セラミック原料などに活用できる。(富山新聞、化学工業日報07年5月22日)

(4)九大等
 九州大学の石原教授、デンケン(大分県)、三菱マテリアル、九州電力などは、600〜800℃の水蒸気をセラミック製の電極上で電気分解して水素と酸素を生成する技術を開発した。酸素イオン伝導性が高い電解質を用いた点に特徴がある。電気分解の電圧は通常0.9Vで、これが実用化されれば火力発電所や製鉄所などの排熱を利用して水素を製造することができる。07年度中にも九電の発電所を利用して実証実験を実施する予定である。(日経産業新聞07年5月25日)

(5)JFCC、ノリタケなど
 (財)ファインセラミックスセンター(JFCC)は、ノリタケなどと共同で、セラミックスを使った高性能の水素分離膜を開発した。開発にはNOK、東京大学なども参加した。新しく開発した水素分離膜は直径3mmの筒状で、アルミナを焼き固めた多孔質のセラミック層(孔径は約150nm)に、より細かいセラミック層(同4〜8nm)と非結晶シリカ(同nm)の膜が積み重なった3層構造となっている。管の外側にメタンガスと水蒸気を流せば、先ず表面のニッケルやパラジウムなどの触媒が反応し、水素とCOに分離する。更に非結晶シリカの分離膜が水素分子だけを筒内部に通すことにより、水素を取り出す仕組みになっている。触媒と分離膜が密接しているため、水素の生成反応に必要な熱量が大幅に低下し、従来の方式より約300℃低い500℃程度で水素を生成することができる。都市ガスのパイプにそのままつなげば、FCに水素を供給できる。又触媒による水素とCOの分離と水素を取り出す動作が一体化されるため設備の小型が可能になった。(日経産業新聞07年5月28日)

(6)阪大
 大阪大学太陽エネルギー化学研究センターの金田特任教授らは、酸化剤を用いない次世代型のアルコール酸化脱水素触媒を開発した。塩基性層状粘土鉱物の一種であるハイドロタルサイド(HT)と銀を組み合わせたもので、副生成物として純粋な水素ガスを得ることができる。開発した触媒は活性が非常に強いので、ガラス製の容器に入れて不活性ガス雰囲気で加熱するだけで容易にケトンと水素に変化する。酸化反応に必要とされてきた酸化剤が不要であるのが最大のポイントであり、副生成物として水素のみが生成されるクリーンな反応である。反応収率は99%以上で極めて高く、シクロオクタールの酸化反応では、銀原子当たりの生成した分子数(ターンオーバー)は22,000で効率も高い。反応が進みにくいとされている脂肪族環状アルコールや分子量の大きなアルコールも99%以上の効率でケトンに変換する。触媒は粒子状で、反応後、ろ過するだけで容易に分離・回収が可能であり、反応を再度行っても反応の低下はみられない。反応中銀粒子は安定で、溶液中への銀の溶出はなく、HTも金属イオンを吸着する性質を持ち、安全性の高い材料である。(化学工業日報07年5月31日)

(7)近畿大
 近畿大学の古南准教授らの研究グループは、家畜の糞尿から水素を取り出す技術を開発した。光触媒と紫外線を使って糞尿に含まれるメチルアミンを分解して水素を得る。光触媒には酸化チタン粉末と白金を使う。試験管にメチルアミンと水を入れ、触媒を混ぜて紫外線を当てると、メチルアミンが水素とCO2に分解された。発生する水素の量は、メチルアミンの3倍であった。今後は紫外線の替わりに可視光でも分解できるよう改良を加え、企業への技術移転を考えている。(日経産業新聞07年6月6日)
9.水素輸送・貯蔵技術の開発
(1)テクノバンク
 テクノバンク(東京都)は、水素化マグネシウムMgH2、水、空気で、2.7Vの起電力と7重量%の水素を製造し、水素をFCなどに供給できるシステムをカセット化する技術を開発した。これはカセット内部に正極、負極、電解質を設け、負極活性物質としてMgH2を装着、イオン化したMgと電子を正極で受け取り両極間の負荷に電流を流す仕組みである。この場合、Mgのイオン化により金属結晶間に定着していた水素原子2個が結合して水素ガスを発生する。水素ガスの発生量を負荷装置の電流によって制御できるのが大きな特徴で、カセットから直接発電した場合の発電効率は80%と高く、発生した水素をFCに供給して発電した場合のそれは50%を大きく超えることを確認している。同システムは低コストな材料で構成することができるし、サイズもボタン型まで小型化を実現できる見通しを得ており、既にモバイル機器用水素供給技術として海外のメーカーが製品化に乗り出している他、FCV用システムの小型化技術として海外の自動車メーカーが引き合いを寄せている。(化学工業日報07年5月18日)

(2)アメリカの国立研
 アメリカ・ローレンスバークレー国立研究所とカリフォルニア大学の研究グループは、水素吸蔵量が3.8%に達するナノスケールの微細構造を持つポリスチレン多孔質ポリマーを開発した。このナノ多孔質ポリスチレンは40気圧、−200℃の環境下で、水素原子をナノ孔表面に吸着しながら、大量の水素を吸蔵する能力のあることが確認された。吸蔵後、温度を上げるか減圧するとポリマーは水素を放出する。高吸蔵量、軽量、低コストな新規材料として注目されている。(化学工業日報07年6月4日)
10.水素およびFC関連のセンサー・計測技術
 ミクニは岩手大学材料物性工学科の山口準教授らと共同で、水素センサーを開発した。パラジウムがその935倍の体積を持つ水素を吸収する特性を応用したもので、セラミック中にパラジウムを微細分散した膜を使った方式である。ナノコンポジットの技術を使い、セラミック膜内に10nmのパラジウム粒子を細かく分散することに成功した。これで空気中の水素濃度が0.01%から検知でき、0.5秒で電気信号が出せる。価格面でも将来的には1万円以下に抑えることを目指す。(日刊工業新聞07年5月22日)
11.マイクロFC関連技術の開発
(1)大阪市大
 大阪市立大学の脇坂教授のグループは、重さ0.7gのFCを開発した。開発した電池は金メッキを施したチタン、白金とルテニウムをまぶした炭素、高分子で作った電解質の3層を加熱して接着した構造で、大きさは3cm角、厚さ0.4mmのシート状であり、布のように柔らかい。電池1g当りの出力は1Wまで高められた。裏面に触れるように水素ガスを送り込むと、大気中の酸素と反応して発電する。水を含ませた高分子と粉末カルシウムを使って水素を供給することもできる。キャンプ用などの携帯式電源や小型ロボットの動力源として使い易いとみており、1年後の実用化を目指す。又今後メタノールから水素を取り出しながら使う方式でも利用できるようにする。(日経産業新聞07年5月24日)

(2)日本IT
 日本テキサス・インスツルメンツは6月5日、0.3Vの入力電圧で動作する昇圧用IC"TPS61200"の量産出荷を始めたと発表した。電源からのDC電力を昇圧するDC/DCコンバーターで、発電電圧が低い太陽電池や携帯用マイクロFCの電源として使えるようにする。(日経産業、電波新聞07年6月6日)
12.企業活動
(1)エイカル・エナジー
 エイカル・エナジー(イギリス)は、FCの研究開発で日本企業のパートナーを開拓する。同社はPEFCやDMFCの空気極において、白金のような貴金属触媒を不要とする独自技術を有し、又液体電解質の利用による容易な高温化や高出力化、効率的な熱変換技術を特徴として持っている。開発したシステム(Flow Cath)の燃料極は変更がないが、空気極側の構造は水溶性触媒の入ったガス反応室とリザーバーのみで構成されるシンプルなもので、白金触媒を使用しないのが特徴。用途はFCVやパソコン、産業機械の電源を想定している。パートナーと共同で、09〜10年に実用化を目指しており、特にFCの実用化や先進技術に優れた日本企業に着目し、既に大手メーカーなど数社に事業化提案を始めている。(日刊工業新聞07年5月21日、化学工業日報5月23日)

(2)鈴木商館
 鈴木商館はFCV向け部品特性評価サービス業務の事業化に乗り出した。FCVや水素ステーションなどで利用される配管装置部材やセンサー・バルブなどを対象に、水素脆性など長期耐久性評価を行う。このほど中部地区の事業拠点内に専用評価体制を構築し、本格稼動に入った。(化学工業日報07年5月23日)

 ―― This edition is made up as of June 8, 2007――

・A POSTER COLUMN

IEA理事会が温暖化ガス削減に向けた行動計画策定を要請
 IEA閣僚理事会は5月15日、CO2など温室効果ガスの削減に向けた部門別省エネ指標を使った削減目標の設定と、その達成に向けた行動計画を世界各国に策定するよう求める共同声明を正式に採択して閉幕した。中国やインドなどの主要な排出国でありながら、IEAに加盟していない国に対しては、加盟国同様に目標の達成状況を検証することを求めた。
 共同声明では「世界全体の資源効率を最善事例に引き上げるために、部門別目標を最大限活用する」よう求め、又将来にわたってエネルギーを確保するため、原子力は勿論、バイオ燃料や太陽光発電、水素FCなどの開発と普及の促進が必要と指摘した。温室効果ガスの大幅な削減に繋がるCO2地中貯蔵の実現と普及を図ることも盛り込んだ。 (産経新聞07年5月16日、電気新聞5月18日)

中国がFC等ハイテク産業の発展を目指して構造改革を推進
 中国は海外技術の導入や産業の集積など諸施策を通じて、ハイテク産業の発展に力を注ぐ。薄型デイスプレイやFCなどの積極的拡大にも取り組む構えで、国家発展改革委員会はこのほど、ハイテク産業の発展に関する第11次5ヵ年計画を公表した。
 05年までの前5ヵ年計画を通じて、中国のハイテク産業は沿岸部を中心に発展を遂げた。長江デルタ、珠江デルタおよび渤海湾の3大地域のハイテク産業は全国の80%が集中しており、ITや医薬、航空宇宙分野が急速な発展を続ける中で、05年ハイテク産業の輸出額は、00年比6倍の約180億元に達した。
 しかし、企業の国際競争力や研究開発力は、依然不足している。10年までの新たな5カ年計画に沿って、更なるハイテク産業の集積や国際展開力を備えた企業の育成などを目指す。重点領域として、IT、生物、航空宇宙、新材料、サービス、新エネルギー、海洋を挙げ、各領域で具体的目標を提示した。このうち、新エネルギーでは、原子力発電の技術革新、風力発電の拡大の他、水素型FCの応用促進などが図られる。 (化学工業日報07年5月18日)

トヨタ自動車がフレックス車をブラジルで販売開始
 トヨタ自動車が、トウモロコシやサトウキビなどの植物を原料にしたバイオエタノール燃料だけで走行できるフレックス車(FFV: Flex fuel vehicle)をブラジル市場で販売を開始した。フレックス車がブラジルで広まったのは、脱石油依存に向けてエタノールを供給するインフラが整ったこと、近年のガソリン高騰により、同国で豊富な穀物資源をエネルギーとして利用する機運が高まり、政府がフレックス車普及を支援したためである。同国では現在、新車販売の約8割、年間約150万台のフレックス車が販売されている。(フジサンケイビジネスアイ07年5月26日)

自動車6社が夫々エコカーを披露
 自動車メーカー6社が環境自動車を安部首相らに披露する実演が、6月1日に首相官邸の庭で開かれた。三菱自動車と富士重工業は小型EVを持ち込み、日産自動車は次世代デイーゼル車を初公開、トヨタ自動車はハイブリッド版レクサスをPR,ホンダはFCV、マツダは水素ロータリーエンジン車を紹介した。(朝日新聞07年6月2日、電気新聞、化学工業日報6月4日)