第130号 神奈川都市交通がFCVハイヤーの運行を計画中
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体関連施策
3.SOFCの開発研究
4.PEFCおよびDMFC要素技術の開発
5.家庭および事業用PEFCシステムの実証運転
6.FCV最前線
7.水素ステーション等
8.水素生成・精製技術の開発と事業展開
9.水素貯蔵・輸送技術開発
10.DMFCおよび携帯用超小型FCの開発
11.光FC
12.水素・FC関連計測器の開発と事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)次世代電池技術
 経済産業省は、EV、HEV、FCVでの活用が期待される次世代電池技術について、普及に必要なインフラ整備を検討する第1回会合を2月8日に開催する。主なテーマは電池の基準や規格のあり方、次世代電池を搭載した自動車の普及策の他、資源確保が必要な希少金属への対応などである。4,5月頃にインフラ整備戦略として取り纏める。会合には大学や研究機関、自動車メーカー、電池メーカー、電力会社などが参加、リチウムイオン電池を対象とする。(日刊工業、日刊自動車新聞07年2月8日)

(2)家庭用FC実証事業
 経済産業省・資源エネルギー庁は、家庭用FCの大規模実証事業を当初予定の3年間から1年延長して08年度まで行うことを決めた。更に09年度機種から120万円程度と見られる出荷価格の半分もしくは2/3を助成する新たな補助事業に移行し、本格普及段階に入る予定。(日刊工業新聞07年2月8日)

(3)製鉄プロセスガス利用水素製造
 経済産業省の"製鉄プロセスガス利用水素製造技術評価検討会"は2月9日に第2回会合を開き、事後評価の審議を行った。技術開発では製鉄工程で発生するコークス炉ガス(COG)中のメタンなどを大量かつ効率的に水素に転換、供給するプロセスが確立された。国内のコークス炉全44基にプロセスを適用して量産すれば、水素製造量が約40億m3であるのに対して、2020年でのFCVによる予想水素需要量が37億5,000万m2と見られることから、水素の用途が議論の焦点となった。用途に関しては報告書案では「水素タービンや水素エンジンによる発電技術との組み合わせの研究開発を、FCにとらわれず国は支援すべき」と記述、「水素特区の創設により、水素社会の先駆けとなるような提言をすべき」(吉田座長)のような意見が出された。(化学工業日報07年2月15日)
2.地方自治体関連施策
 産学官が連携して水素エネルギー・FC分野の事業化を目指す"あおもり水素エネルギー創造戦略会議"の設立総会が2月26日に開催された。東北電力、Jパワー、新日本石油、東京ガス、大阪ガス、三菱重工業、東芝、大林組など企業や大学、シンクタンクを含めて約50の機関が名を連ねた。(河北新報07年2月27日、電気新聞3月1日)
3.SOFCの開発研究
 NEDOが組織し、産総研、東邦ガス、京セラ、デンソーなどが参加している研究グループは、2月16日、直径が数mmから1mmの円筒形SOFCリアクターを開発したと発表した。この円筒形のミクロチューブを数十本組み合わせて、3cm程度の微小な立方体サイズのマイクロSOFCを試作し、14.2Wの発電を確認した。動作温度は650℃で、出力密度は0.5W/cm2以上であり、高出力化と低温動作、およびそれによる製造コストの削減に繋がる技術であり、又SOFCの小型化への可能性が示されたといえる。今後は出力100W以上の開発を目指し、自動車の補助電源やコージェネレーション向けの応用も考えている。(日経産業新聞、化学工業日報07年2月19日、電気新聞2月20日)
4.PEFCおよびDMFC要素技術の開発
(1)アリューズ
 アリューズ(埼玉県朝霞市)はグラフィックカーボンを原材料としたセパレーターを短時間かつ高精度で加工できる技術を開発した。ドイツのザウアー製超音波ロータリー加工機を採用、工具が回転しながら毎秒2万回上下に反復して研削する方式で、振動数が多いため硬脆材料でも研削しやすい。幅は0.5mmまで加工が可能である。(日刊工業新聞07年2月6日)

(2)GSIクレオス
 GSIクレオスは、高い結晶性を持つカップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNT)の特性を生かして、MEAにおける触媒担体向けにそれを適用する技術の開発に乗り出す。従来のカーボンブラックに比べて反応効率を大幅に高められることから、白金使用量を大幅に削減できるとしている。GSIクレオスのCSCNT"カールベール"は底の開いたカップを積層した構造になっている。直径や長さの調整や表面処理が可能であり、導電性を始め各種特性に優れているので、カールベールは白金が表面に露出しない状態で白金を担持することができる。したがって反応効率を高めることができると判断している。(化学工業日報07年2月7日)

(3)東工大
 東京工業大学の柿本教授らは、炭化水素系材料を使って、フッ素樹脂系の膜に比べて強度が約10倍になる電解質膜を開発した。基本的には、炭化水素系芳香族高分子の芳香族が持つ枝の末端にスルホン酸基を付けた構造であるが、それに更に強度の強い芳香族高分子をグラフト重合によって枝状の高分子に結合させて電解質膜を形成した。水素イオンの伝導性はフッ素系とほぼ同等であった。(日経産業新聞07年2月7日)

(4)東海大
 東海大学工学部の庄善之助教授らは、アモルファスカーボン被膜の金属セパレーターを開発した。セパレーターの耐食性を改善するとともに、MEAとセパレーター表面間の接触抵抗が低減する。今回の研究では表面の酸化層を化学的に除去しやすいチタン製セパレーターで取り組み、アモルファスカーボン膜の形成にはCVD法を採用した。厚さ13μmの被膜層によって出力電圧の低下が抑制され、実験によって被膜が無い場合に比べて出力を38%向上することを確認したと報じられている。今後はステンレス製のセパレーターに取り組む予定である。(化学工業日報07年2月9日)

(5)九大
 九州大学大学院理学研究科の北川教授、山田助手らは、プロトン伝導性を持つ中性(酸性ではない)の固体電解質膜を合成した。ナフィオンなど従来の高分子電解質膜はスルフォン酸基など超強酸性のため、接触物中の金属を溶解させて劣化させる傾向を持ち、電極触媒に使えるのは白金およびその合金微粒子に限られていた。山田助手らが用いた配位高分子は、金属イオンと有機分子が配位結合を介して高分子化した化合物であり、酸性材料ではないために電極材として金や白金などの高価な希少金属を用いる必要がなくなる。又有機高分子と比べると金属種により平面、正八面体など様々な結合様式をとるので、配位子を工夫することにより様々な大きさの空間を作り得る。鉄を用いた材料では、プロトン伝導性は湿度が40〜50%では非常に低いが、湿度を上げると徐々に上昇し、湿度は100%では10−3S/cmとなった。この値はナフィオンに比較すると1桁小さいが、配位子や金属を変えることにより伝導率を更に上げることが可能で、又100℃を超えても水素を吸蔵でき、150℃までは安定である。同グループはプロトンが移動するメカニズムを解明するとともに、更に高いプロトン伝導性を示す材料開発を進め実用化を目指すことにしている。(化学工業日報07年2月14日)

(6)FJコンポジット
 FJコンポジット、精工技研、および小西安の3社は、黒鉛表面にフェノール樹脂をコーテイングしたコンポジット材料を圧縮成形した後、オーブンで加熱硬化するというプロセスによって生産性を向上させたカーボン系PEFC用セパレーターの開発を推進する。生産効率が高いことに加え、曲げ強度50MPa以上、体積抵抗率10μΩ/cm2以下、ガス透過率10−7/cm3・秒であり、面積は最大4m2、厚さ0.2〜2mmまで対応する。(化学工業日報07年2月16日)

(7)ドイツ・ペメアス
 ドイツのペメアス社は、高温対応の電解質膜セルテック"P2000"と、これを用いたMEAを開発した。120〜180℃でも加湿が不要で、COや硫黄に対する耐被毒性においても優れている。純水素環境下では2万時間、混合ガス環境下では1万時間の耐久性を確認しており、家庭用定置式やFCV用に加えて、モバイル用としての利用を視野に入れて開発を進めていく方針である。セルテック"P2000"は、超耐熱樹脂ポリベンゾイミダゾール(PBI)に95%以上のリン酸を含有させた電解質膜で、"P1000"の改良版である。なおペアメス社はドイツ・ヘキストのFC研究開発部門が独立して設立されたMEAメーカーである。(化学工業日報07年2月16日)

(8)日清エンジ
 日清エンジニアリングは、乾式法の高周波熱プラズマ法を用いて、白金のナノ粒子の製法に成功、同時にレーザー法に比べ10〜20倍の大量生産技術を確立した。白金粉末を原料に、平均粒径10nmの微粒子が得られる。PEFC用改質触媒の高性能化が期待できる。(化学工業日報07年2月19日)

(9)大日本印刷
 大日本印刷は、アルミニウム基材を用いた電着樹脂コーテイングセパレーターを開発した。電着によって耐久性を確保、2000時間の連続運転を確認しており、現在は内部分析を進めている。(化学工業日報07年2月19日)
 大日本印刷は、MEA作製用触媒転写フィルムの事業化に向けた取り組みを強化する。PEFC向けに加え、DMFCメーカーへのサンプル供給も開始した。同社は次世代成長事業としてFC分野を挙げ、印刷技術を活用して様々な部材の事業化を目指している。上記の技術の他、水素選択透過膜、改質器などを手がけるのに加えて、SOFCの開発も進めている。(化学工業日報07年2月23日)

(10)日本ペイント
 日本ペイントは、カーボンへの白金ナノ粒子担持に関する新技術を開発した。分散安定化剤を用いることなく、カーボンなどの触媒担体に直接ナノ粒子を付着させる調整法で、高熱焼成などの後始末を不要にするなど製造プロセスの簡略化につながり、かつ耐久性の低い担体への触媒担持が可能になる。新技術は、液相中で金属イオンを還元してナノ粒子へ成長させる"液相還元法"と呼ばれる化学処理を利用してカーボンやケイ素などの基材に直接白金ナノ粒子を担持させる手法で、焼成処理が不要のため基材選択の幅を広げ易くできるメリットもある。(化学工業日報07年2月19日、日刊自動車新聞2月20日)

(11)横浜国大
 横浜国立大学の石原研究員らは、白金を使わない空気極触媒を開発した。まず、酸化タンタルと炭素の混合粉末を窒素中において1600℃で焼成してタンタルの炭窒化物を作り、これを微量の酸素を含む窒素中において1000℃で1時間熱処理して酸化させ、生成された粒径数十〜数百nmのタンタル化合物を電極触媒として用いる方法である。電極反応速度は白金に劣るが、実用化されればコスト削減に大きく貢献すると期待される。(日経産業新聞07年2月23日)

(12)東京理科大
 東京理科大の桑野教授、斎藤助手らは、PEFCおよびDMFCの空気極用に白金を使わない電極触媒を開発した。酸化鉛と酸化ルテニウムを主原料に使い、実験の結果、白金と変わらない特性を持つことを確認した。具体的には、酸化鉛と酸化ルテニウムにマンガンを混ぜて乳鉢ですりつぶしてよく混合し、650℃で2時間焼成した後、800℃にして30時間焼成すると、粒徑が数μmの酸化物ができる。この酸化物を粉砕して粒経を数百nmにした上で電極触媒として使う。(日経産業新聞07年3月1日)
5.家庭および事業用PEFCシステムの実証運転
(1)西部ガス
 西部ガスは2月1日、都市ガス仕様の家庭用PEFCシステムのモニター世帯募集を始めた。北九州市や福岡市などに存在する10世帯程度が対象である。(西日本新聞07年2月2日)

(2)エッカ石油
 エッカ石油(浦添市)は、LPガスの水蒸気改質による家庭用PEFCシステムの実験を、2月から読谷村の社員住宅で始めた。(沖縄タイムス07年2月20日)

(3)静岡ガス
 静岡ガスは、家庭用PEFCシステムの公募を始めた。東京ガスのコージェネレーションシステム"ライフエル"を使用する。(静岡新聞07年2月25日)

(4)出光興産
 出光興産は2月26日、青森県工業総合研究センターと共同で、LPG仕様FCからの排熱を融雪装置や床暖房に利用するシステムの実証実験を青森市で始めたと発表した。(日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ07年2月27日、化学工業日報2月28日、日刊工業新聞3月1日)
6.FCV最前線
(1)大阪ガス他
 大阪ガス、三菱重工、三菱ガス化学、日揮、ルネッサンスエナージーの5社は、3000時間以上の耐久性を持つ改質触およびそれを用いたFCV用小型DME改質システムを開発した。システムは出力30kW相当で、改質器の設置スペースは44L、FCVの航続距離が500kmを可能にするDMEタンクを合わせるとスペースは76Lとなる。高圧水素ボンベ(55MPa)を搭載した場合に比べて、設置スペースは25%程度小さくなっている。又開発された触媒は300℃の低温で高活性を示し、改質温度の低温化によって触媒耐久性は向上した。(日刊工業新聞07年2月7日)

(2)中国同済大学
 上海郊外にある同済大学の広大なキャンパスで、06年12月13日に中国製FCV"超越−栄威"のお披露目が行われた。スタートから時速100kmに達するまでの時間は15秒、連続走行距離は300kmである。同大学新エネルギー自動車工学センターの馬建新副主任は「日本など先行開発国と肩を並べる水準に到達した」と話している。バラード社に勤務し帰国後は同済大と組んでFCの生産をしている上海神力科技有限公社の胡里清社長は、FCVを大衆車にしたいと意気込んでいるが、価格については、中国のFCのコストは1万元弱(約15万円)/kWで、標準的な車体の経費を加えても70万〜80万元(1,100万〜1,200万円)と伝えられている。(朝日新聞07年2月7日)

(3)工学院大
工学院大学工学部の雑賀(さいか)教授らの研究グループが、液体アンモニアを燃料とするFCVを開発した。アンモニアから取り出した水素を使う。このFCVは市販の軽自動車がベースで、液体アンモニアのボンベ(容量は10L)、アンモニアから水素を取り出す分解装置、FCシステム、蓄電池、駆動用電動機を搭載しており、車体の重量は850kgである。実験では約1Lのアンモニア燃料で75分間、平均30km/hで、37.5km走行できることを確認した。現段階では水素を取り出した後のアンモニアを除去する必要があるため、約1L分の連続運転しかできない。(フジサンケイビジネスアイ07年2月16日)

(4)日産
 日産自動車は2月20日、FCV"エクストレイル FCV"を神奈川都市交通に納入(リース販売)したと発表した。3月上旬からはイヤーとして運行する。(読売、毎日、日本経済、日経産業、日刊自動車、東京、中日、中国、神奈川、北海道新聞、化学工業日報、フジサンケイビジネスアイ07年2月21日、日刊工業新聞2月23日、産経新聞2月25日)
7.水素ステーション等
(1)出光興産
 出光興産は、07年度からFCVに水素を供給する"移動式ステーション"の実用化に向けた実証実験に着手する。愛知製油所で製造した水素をトレーラーに搭載・運搬して供給する方式で、コスト低減の方策などを検証する。(フジサンケイビジネスアイ07年2月27日)

(2)エア・ウオーター
 エア・ウオーターは、京都大学の乾名誉教授が開発した4元系次世代触媒を活用した水素ガス発生処置、水素ガスステーションの開発など、水素事業に積極的に進出することを明らかにした。4元系触媒とは、ニッケル、酸化セリウム、プラチナ、ロジウムで構成され、発熱と改質を1つの触媒で行えるのが最大の特徴である。水素発生装置の加熱炉が不要になり、装置を大幅に小型化できる。同社は06年に新触媒を使った熱中和型水素発生装置"VH"を開発し、同装置による水素ガスのオンサイト供給を始めている。又同装置を5基受注した。(化学工業日報07年3月2日)
8.水素生成・精製技術の開発と事業展開
(1)渋谷工業
 渋谷工業(金沢市)は、新型の水素ガス発生装置を開発した。開発した装置は"エポックス・ジェネレーター"称される水を電気分解して水素と酸素を発生させる仕組みで、必要なときに必要なだけ水素を発生させるオンサイト方式である。装置の高さは1.8mで標準器の価格は800万円を予定している。(北国新聞07年2月3日)

(2)出光興産とコロナ
 コロナ(三条市)は出光興産と共同開発している家庭用PEFCシステムにおいて、市販の灯油改質器の商品化に目途を付け、2012年を目標に商品化、他メーカーに売り出す計画を明らかにした。開発した試作機は、部品点数や溶接部分を削減するなど量産化を前提とした設計になっており、又改質温度の低下や材料の見直しなどによる耐久性の向上がポイントとなっている。改質器は円筒形で、その大きさは最大径25cm、高さ63.7cm、体積は25L、重量は約17kg、改質効率は80%(HHV)、発電までの起動時間は約40分としている。両社はこの技術を都市ガス、LPGにも応用して改質器の事業化を目指す意向である。(電気、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、新潟日報07年2月6日、電波、日刊工業新聞2月7日、建設通信新聞07年2月14日、鉄鋼新聞2月15日)

(3)加地テック
 加地テック(大阪府堺市)は水素ガスを1,100気圧まで圧縮可能な空冷オイルレスコンプレッサーの開発に成功した。(毎日新聞07年2月7日)

(4)アメリカCTPハイドロジェン
 住友商事の出資会社CTPハイドロジェンは、貴金属を使用しないセラミックス製導電膜を精製に利用することにより、様々な燃料の活用を可能にすると同時に、燃料の脱硫、圧力を利用した不純物の分離のような処理工程を不要にした水素製造装置を開発した。従来装置に比べてコストおよびサイズを1/5ないし1/10にまで抑えられると試算している。新技術は"混合導電膜"によってガソリン、灯油を始め、天然ガス、LPGを含めたマルチな燃料をそのまま利用できるようになっており、試作システムは出力200W級FCにマッチする特性となっている。水素製造時のエネルギー変換効率は40%程度と低めである。(日刊自動車新聞07年2月8日)

(5)バンテック
 バンテックはFCの採用提案を本格化する。1件当り総出力10kW以上の需要を開拓、同時に独自の水素製造貯蔵装置を一体化したFCと風力発電装置などを組み合わせた"自然エネルギーシステム"の実用化を図る。3月から栃木県那須塩原市で、太陽光発電と組合わせたシステムの実証試験に取り組む。(日刊工業新聞07年2月5日)
 バンテックなど5社1団体は2月22日、有限責任事業組合"那須野ヶ原LLP"の発足式を開いた。同組合は、出力20kWの太陽光発電と水素製造・貯蔵装置を一体化したシステムを設置し、自然エネルギーの有効活用に取り組む。すなわち、太陽光発電で製造した水素を水素吸蔵合金タンクに貯蔵し、FCによって発電するシステムである。(日刊工業新聞07年2月23日、日経産業新聞2月27日)

(6)東工大など
 東工大の藤井教授と信州大、キッセイテクノスの研究グループは、超臨界水に酸化ルテニウムを触媒として利用することにより、下水汚泥から水素やメタンを発生させる新技術を開発した。新技術は、ニッケルなどからなる合金でできた丈夫な容器に下水汚泥を入れ、それに水と酸化ルテニウムを加えて、温度400〜500℃、圧力47MPaで水を超臨界状態にする方法であり、汚泥と触媒、超臨界水が反応して、水素などの気体が発生する。10mLの容器に乾燥した下水汚泥100mgと酸化ルテニウム20mg、水3mLを入れて試験した結果、約2時間で水素約40%、メタン約30%、CO2約20%を含む気体が発生した。理論的には10tの下水汚泥から、常温・常圧で54万Lの水素が得られると述べている。(日経産業新聞07年2月27日)
9.水素貯蔵・輸送技術開発
 広島大学先進機能物質研究センターの研究グループは、常温常圧で水素を効率的に吸い込む水素吸蔵合金を開発した。これはマグネシウムに酸化ニオブを添加した材料で、室温において約10秒の高速で4wt%以上の水素を吸蔵できる。高速水素吸蔵合金材料として注目される。水素の放出特性についてもマグネシウム単体より放出温度を大幅に下げられるが、現状では約200℃が必要であり、改良により150℃前後にまで下げることを目指す。酸化ニオブを添加するのは、マグネシウムの水素分子に対する活性を高めて反応速度を向上させるためであるが、具体的には5価の酸化ニオブをミリング処理でマグネシウム表面に分散させた後、水酸化マグネシウムと反応させると2価の酸化ニオブとなってそれが触媒能を示すからである。(化学工業日報07年2月21日)
10.DMFCおよび携帯用超小型FCの開発
(1)NTTドコモ
 NTTドコモは2月6日、アクアフェリー(大阪府茨木市)と携帯電話向けFCの開発推進や技術協力に関する基本合意書を締結したと発表した。ドコモは第3世代携帯電話(3G)"FOMA" に外付けで搭載するPEFC充電器をアクアフェリーと共同開発し、動作試験に成功している。(電気、日経産業新聞07年2月7日、電経新聞2月12日)

(2)栗田
 栗田工業は従来のメタノールに特定の化合物を取り込ませて固形化することによりDMFC用固体状メタノール燃料を開発した。DMFCシステム本体に水を供給することなく発電できるのが特徴である。この固体状燃料により引火点は40℃まで高くなり、又液漏れの心配が無いので、安全性および携帯性の両面において有効であると述べている。(日刊工業新聞07年2月7日)

(3)ハイドロデバイス
 室蘭工業大学発ベンチャーのハイドロデバイス社は、携帯機器用PEFC向けに、アルミ化合物微粒子と水の反応による水素発生装置の試作機を開発した。6月を目途に独自方式の装置を発売する予定である。(日経産業新聞07年2月19日)

(4)東京理科大
 東京理科大の早瀬講師らは、MEMS技術を用いて、シリコン基板上に燃料流路と触媒層を一体形成した薄型電極を開発、それを使って厚さ250μmのFCセルを試作した。モバイル機器用FCの小型化を目指す技術であり、量産性に優れ、低価格化も期待できる。(日刊工業新聞07年2月28日)
11.光FC
 茨城大学の金子教授の研究グループは、光を利用してアンモニアなどの有機物を分解して発電する"光FC"を開発した。2酸化チタンと白金を電極とし、燃料源媒体としてアンモニアなどの有機物水溶液を使う。光を当てると燃料水溶液が活性化し、有機物の分解が進むのに伴って電流が得られる。野菜や果物、葉っぱ、し尿などのバイオマスで基本的なシステムが作動することを確認した。基本的には水に溶けるか又は液状にできる有機物なら全て利用可能で、分解効率は90〜100%に達する。事業化を目指すベンチャー企業"バイオフォトケモニクス研究所"を発足した。(日経産業新聞07年2月10日)
12.水素・FC関連計測器の開発と事業展開
 矢崎総業は空気や水素などを高い精度で測れる小型流量計を開発した。空気であれば1L/分から100L/分程度の範囲であれば、誤差2%以内で計測できる。センサーにMEMSを使い、その大きさは2×2×0.4mm、流量計の中央においたヒーターの上下左右に各1個ずつ設置している。管の中を空気が流れてくるとヒーターに熱せられた気体の温度分布が下流側に偏るので、上流と下流の温度差から流量を算出する仕組みである。上下のセンサーは熱量の減少度合いも同時に測定、幅広い範囲の流量を高精度で測定できるようになった。(日経産業新聞07年2月5日)

 ―― This edition is made up as of March 2, 2007――

・A POSTER COLUMN

自己修復機能を持つ高温用セラミックスの開発
 横浜国立大学の安藤教授らの研究グループは、自己修復機能を持つ高温用セラミックスを開発した。ムライトに炭化ケイ素(SiC)の微粒子とウイスカーを複合したもので、従来のムライトに比べて曲げ強度で2.6倍、破壊靱性値で1.7倍の機械的特性を実現した。又自己修復機能に関しては、大気中で1300℃・1時間の熱処理により、0.1mmの表面亀裂を完全に修復できることを確認した。SOFCやガスタービンなど高温機器用材料として実用化に取り組む方針である。(化学工業日報07年2月13日)

水素排ガス統合利用プロジェクト(IWHUP)
 アメリカのヌベラ・ヒューエルセルズ社は、化学処理工場からの副生水素を有効利用しようとする"水素排ガス統合利用プログラム(IWHUP)"の一環として、カナダのブリテイッシュコロンビア州ノースバンクーバーにあるセイカー・デイビー・イノベーションズ社に対して、125kW(ネット)のFC電力システム"Forza"を出荷したと発表した。
 Forzaはヌベラ社の大規模水素電力システム製品ファミリー。同システムは拡張性のあるベース負荷システムであり、化学処理工場から排出される過剰な水素をDC電力に変換する。エネルギーコストを軽減するため、ヌベラ特許のクローズドループ方式で同じ敷地内で利用される。モジュラシステムは、マルチメガワットの発電能力があり、既存のDC電気回路と平行して100%汚染のない電力を生み出すのが特徴である。世界の化学処理産業向けにForzaを開発したのは、ヌベラおよび同社の技術とマーケッテング・パートナーであるイタリアのウーデノラ社である。
 ヌベラのマーケテイング担当専務のプランシャント・チンタワル氏は「Forzaの今回の設置は、実世界における化学処理プランとからの副生水素で操作するユニットに関する2回目の評価テストになる。このプロジェクトが完了すれば、化学処理産業でForzaを商業利用するための大きな一歩になるであろう」と語っている。 (電波新聞07年3月1日)