第129号 低コストで小型の家庭用SOFC
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.SOFCの開発動向
4.FC関連要素技術の研究
5.PEFC要素技術の開発
6.DMFCの要素研究
7.PEFC実証研究
8.FCV最前線
9.水素ステーションの建設と実績
10.改質および水素生成・精製技術の開発
11.水素貯蔵・輸送技術
12.水素関連技術
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)アメリカのフューチャージェン計画に参画
 日本政府は、アメリカの大規模なCO2回収・貯留(CCS)プロジェクトの"フユーチャージェン"計画に参加する方針である。ブッシュ大統領の気候変動・水素燃料・大気浄化の一連のイニシアテイブに対応するもので、事業期間は10年間、総事業費10億ドルである。日本は1,000万ドルの資金拠出と技術的なアドバイスを行う代わりに、最終的に同技術の国内適用が認められる。
 これはCO2などをほとんど排出しない石炭利用高効率発電システムの確立とCO2の地中処分の実証を目的とする多国間強力事業である。内容とプロセスは、石炭ガス化炉に酸素と水蒸気を入れてガスを精製、硫黄や煤塵などを取り除いた後、この水素とCOを主成分とするガスに水蒸気を加えて水素とCO2に分離する。水素はFCやタービンによる発電や、化学工業用、FCVなどの燃料として使い、CO2は回収して地中に貯蔵する。石炭消費量は2,000トン/日で、発生する水素を全部発電に使えば27万5000kWとなるプロトタイプ発電プラントを建設する。07年に建設地を決定し、プラントは12年までに運用を開始する予定である。(電気新聞07年1月9日)

(2)文部科学省ナノテク予算
 文部科学省のナノテクノロジー・材料分野の07年度予算は、前年度比14%増の333億2,000万円となった。X線自由電子レーザーの開発・共用が75億円の予算となるなど基盤技術研究に重点が置かれている。FC関連には3億円が計上された。(化学工業日報07年1月9日)

(3)経済産業省
 経済産業省は、次世代自動車用燃料の普及に向けた具体策の検討を始める。バイオ燃料、クリーンデイーゼル、電力化・次世代バッテリー、FC・水素の4つを掲げ、それぞれについて技術的課題や普及に向けたインフラ整備などについて検討する。経済産業大臣、自動車業界、石油業界トップによる懇談会を皮切りに、燃料・動力源毎に以下に示すような3つのワーキンググループ(WG)を設置し、実務レベルで具体的な課題について討議する。07年6月までに中間報告をとりまとめ、経済財政諮問委員会報告、政府の"骨太の方針"に反映させたい意向である。
 3つWGは、1)バイオ燃料、セルロース利用技術、オクタン価、2)クリーンデイーゼル、GTL,バイオ・デイーゼル燃料(BDF)、3)電力化・次世代バッテリー、FC、水素、である。 (日刊自動車新聞07年1月23日、日刊工業新聞1月24日、毎日、電気、日刊工業新聞1月25日)

(4)NEDO
 NEDOはFC向け技術開発を促進するための国際共同研究の委託先を決定した。国内の9機関で、9カ国15研究機関と共同で水素の製造や貯蔵などの技術開発に取り組む。期間は14ヶ月で総額は3億円程度。(日経産業新聞07年1月25日)

(5)FCCJ
 FCCJは自動車用および定置用PEFCの開発目標や評価方法を提案した。統一した耐久性評価方法を確立して結果をデータベース化することで新技術の可能性を横並びで評価できるようにする。自動車用、定置用共に動作環境の高温低加湿化を目指す。以下に目標を列挙する
 自動車用電解質膜の目標コスト;1,000円以下/m2セル温度;−30〜90℃(2010年時点)、−30〜100℃(15−20年)、−40〜120℃(最終)、相対湿度;30%(15−20年)、加湿器レス(最終)、電解質膜抵抗;−20℃で0.05Ω・cm2、120℃・湿度35%で0.0125Ω・cm2以下(暫定的)、触媒活性(カソード);質量活性標準触媒に対する向上率として3倍(10年)、10倍(15−20年)、発電電力当たり総白金使用量;0.3g/kW(10年)、0.1g/kW(15−20年)、0g/kW(最終)
 定置用:温度約70℃、湿度100%、運転時間約4万時間、起動停止回数4,000回(08年)、温度80〜85℃、湿度約65%、5万時間、4,000回(12年)、温度80〜90℃、湿度30〜40%、90,000時間、4,000回(15年以降)
をイメージしている。
 その他電解改質膜の熱水浸漬試験(耐熱性)、H2O2ガス暴露試験(化学耐性)など材料安定性に関する試験、凍結解凍サイクル試験、湿度サイクル試験、圧縮クリープ試験など構造安定性に関する試験評価方法についても提案している。 (化学工業日報07年2月1日)
2.地方自治体による施策
 京都市は1月29日、生ごみや紙類などのバイオマスから水素を作り出すことに成功したと発表した。プランとメーカー6社と大阪ガスで構成するバイオガス研究会や京都大学、環境省との共同研究で、同市は今回の成功を機に2010年までにバイオマスを活用したFC発電技術の実用化を目指す。実験では家庭からの生ごみや紙類などと廃食用油燃料化施設で採集される廃グリセリンをメタン発酵槽で混合し、20日間で発酵、発生したバイオマスを回収してそれを水蒸気と酸素で反応させる自己熱改質方式で水素を生成した。缶や瓶、ペットボトルを除いた一般ゴミ1トンから約250kWhの発電が可能という。市では2013年に建て替え予定のゴミ処理施設(伏見区)にバイオガス化プラントを併設する計画である。同施設で3,000世帯分の1日の電力使用量に相当する3万kWhの発電を目指している。(毎日、日刊工業新聞07年1月30日)
3.SOFCの開発動向
(1)電中研と産総研
 電力中央研究所は産業技術総合研究所と共同で、500〜650℃の低温で動作するSOFCを開発し、実用レベルを超える発電効率を達成した。セルは円筒形で、外徑3mm、発電部の長さ3cmであり、水素燃料で1.06W/cm2の出力密度を記録した。開発したSOFCは空気極の多孔質セラミックスに、銀のナノ粒子(粒徑10〜100nm)を均一に付着させたタイプで、具体的には空気極を硝酸銀、クエン酸、エチレングリコールの混合溶液に浸して乾燥させた後、800℃で焼成して製作した。この結果、低温でも空気極で酸素を酸素イオンと電子に分解する能力が向上し、低温動作で発電効率が上がったと解釈される。又銀のナノ粒子を付着させるのに、特別な装置が不要という利点がある。スタックはセルを集積して作られるが、研究グループは家庭用や分散型電源用に実用化することを考えている。(日経産業新聞07年1月18日)

(2)東邦ガス
 東邦ガスは新タイプの500℃で動作するSOFCモジュールを試作し、0.5W/cm2を超える出力密度を実証した。試作機に産業技術総合研究所が開発した小型チューブセルを集積したもので、電解質にセリア系のイオン伝導性セラミックスを用いている。試作したモジュールは、直径2mm、長さ約5cmの小型チューブセルを縦横6本の計36本組み合わせた構造で、1モジュール当たりの発電量は10〜20Wである。今回のモジュールを複数組み合わせることにより、09年までに出力数百Wレベルの実証を行い、2011〜12年には家庭用、業務用定置形SOFCシステムの開発を目指している。(日刊工業新聞07年1月19日)

(3)Jパワー
 Jパワーは常圧150kW級SOFCシステムの試験を1月26日からスタートする。技術センター茅ヶ崎研究所での据付工事は完了し、機器の調整など試験開始に向けた最終準備に入っている。試験ではSOFCのシステム化と長期信頼性の検証を主目的に、DC発電端効率45%(LHV)、累計1万時間以上の発電運転をターゲットとし、期間は08年3月までを予定している。今回採用されるのは、三菱重工が開発した円筒横縞型セルチューブの新型発電構造で、円筒セルの両端を支持することにより高い耐久性を確保、又燃料供給方法は将来の低コスト化が可能になるシンプルなワンスルー構造となっている。(電気新聞07年1月23日)
 Jパワーは1月26日SOFCシステムの運転試験をスタートした。(朝日新聞07年1月27日)

(4)大ガスと京セラ
 大阪ガスは1月25日、出力700Wの家庭用SOFCコージェネレーションシステムを京セラと共同開発したと発表した。部品の小型化やスタックの構成改造などにより、発電装置を高さ95cm、奥行き35cm、幅54cmにまで小型化した。発電効率は45%(AC送電端LHV)、排熱回収効率は30%以上である。4人家族の住宅で使う電力の約7割を賄い、年間で6〜7万円の光熱費が削減されるという。08年度中を目途に商品化、セラミックス技術を生かして価格は50万〜60万円前後とすることを予定している。(読売、朝日、日本経済、電気、日経産業、日刊工業、電波、京都新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報07年1月26日)
4.FC関連要素技術の研究
 千葉大学の研究グループは、次世代FCの触媒として有力視されているルテニウム微粒子に酸素原子が吸着すると、表面の原子配列に秩序層がなくなる"構造上の乱れ"が起こる現象を観測した。実験ではまず、超高真空下で平滑なルテニウム単結晶の表面に酸素を吸着させ、この触媒を大型放射光施設"Spring-8"の高輝度放射光を用いたX線回析で原子配列を精密に調べたところ、ルテニウム触媒の表面から6層目に当たる1.5nmまで原子間の距離が伸びて乱れていることを発見した。すなわち、酸素原子がルテニウムに吸着すると、表面層に大きな乱れが生じ、深い層まで構造特性が変化して、その結果ルテニウムの反応活性が低下すると考えられる。表面積を増やすためにルテニウムの粒子徑を小さくすると、表面構造が乱れて触媒機能が低下する"サイズ効果"は従来からの課題であったが、ルテニウム表面の原子配列解析に成功したことにより、最適な触媒を設計できるようになると期待される。金や銅、ニッケルなどの金属では表面構造の乱れは見られず、3nm以下で高い活性を持つ貴金属粒子に特有な現象とみられ、今後は同じく活性の高い白金で詳細な観測を行う意向である。(日刊工業新聞07年1月10日)
5.PEFC要素技術の開発
(1)ブルックヘブン研究所
 アメリカ・ブルックヘブン研究所は、白金触媒の性能を安定化する技術を開発した。白金の電極触媒は、電源のオン・オフを繰り返すと劣化が進み、触媒としての性能が低下するという問題があった。研究グループは、炭素基盤に乗せた白金微粒子を金の膜で挟み電圧をかけたところ、金原子が塊になって白金に付着した。これをFC用電極に適用して実験を行った結果、触媒としての効率が低下しにくいことを発見した。金が白金の酸化を防いでいるためと考えられる。今後は実際のFCに適用して性能を確かめる予定である。(日経産業新聞07年1月17日)

(2)東レ
 東レは早ければ09年にも炭化水素系電解質膜を事業化する。ナノレベルの高次ポリマー構造制御技術を駆使して、炭化水素系膜の課題であった耐久性も大幅に改善、これによってFCV用PEFCにも対応できる性能を実現した。同社はポリマー構造とポリマー鎖間における強い相関性が、機械特性や乾・湿サイクルへの耐久性に影響を与えることに着目した。又量産化のために非架橋、非補強の炭化水素系電解質膜を目指して、独自のポリマー高次構造設計とフィルム加工プロセスにナノレベルの高次構造制御コンセプトを導入した。これらの結果、ポリマー鎖間にバネのような構造を持たせ、機械的強度や柔軟性、靭性を同時に満たし、フッ素系に比べて引っ張り強度で2.7倍、破断伸度で1.3倍、弾性率で10倍の高耐久性を実現することに成功している。又、引き裂き強度の大幅な向上で乾・湿サイクルへの耐久性もフッ素並に向上させ、水素透過性は1/10にまで抑制することができた。OCV試験では20倍以上の耐久性を示している。プロトン伝導性やPEFCでの発電性能もフッ素系と同等、耐熱安定性はフッ素系を1部上回ると述べられている。今後同社は高耐久性の実証やポリマー構造・フィルム加工プロセスの最適化、自動車向けを目指した低温・低加湿化での性能向上を進める予定である。既に加速試験では1,000時間以上の耐久性を確認、コストはフッ素系の1/10以下にする目途を得ている。(化学工業日報07年1月18日)

(3)日本バイリーン
 日本バイリーンはPEFC用ガス拡散多孔体と定置式FC用フィルダーでFC分野に進出する。ガス拡散多孔体はカーボン粒子と合成樹脂、不織布などで構成される新しい多孔体で、保湿性の高い緻密な構造により高温低加湿環境において発電性能に優れる。又柔軟性と機械的耐久性を両立させているのに加えてカーボンペーパーと異なりコストの高い炭素繊維を使わないので、ガス拡散層(GDL)としての価格は1,000円/cm2も視野に入っている。具体的には、同社が開発したガス拡散多孔体は、耐酸化性に優れた樹脂とカーボン粒子の混練材を不織布ベースのサポート材に添付して作られる。柔軟性と剛性を両立しているのでコスト面で有利なロール生産が可能である。又カーボンペーパーに比べて密度制御など設計上の自由度が高いのが特徴である。90℃の高温低加湿環境下での発電に成功しており、特に自動車用PEFCに適している。2月からサンプル供給を開始し、07年度上期には試験量産設備を設置、発電条件に対応した製品の開発を進める予定である。
 他方、フィルターはスタックを劣化させるガスやごみを除去するもので、自動車用エアコン向けがベースとなっている。親会社のフロイデンベルグ社と協力してスタンダード品を開発し、サンプル供給を始める。 (化学工業日報07年1月30日)
6.DMFCの要素研究
 クラレはDMFC用炭化水素系電解質膜で、メタノールのクロッスオーバー(MCO)を大幅に抑制する技術を開発、最大発電能力をフッ素系の2倍、同社の従来品に比べても出力を1.3倍に向上させることに成功した。柔軟性や機械的耐久性にも優れる他、イオン伝導性もフッ素系を上回り、携帯機器に搭載した場合、その起動時間の短縮に貢献する。 クラレは独自の高分子設計・合成・加工技術を生かし、ナノレベルで高分子構造を制御、水素イオンのイオンチャンネルの大きさと並べ方を制御することによって水素イオンの透明性を高めると同時に、フィルム加工技術を改良してメタノールの膨潤を抑制する技術を開発、メタノールの透過性を大幅に低減した。この結果30μmの厚さで膨潤率を1/23、メタノール溶出率0%を実現した。更に乾燥状態から湿潤状態になる際、イオン伝導が安定するのに要する時間をフッ素系の半分に抑えており、これはオープンエア環境におけるDMFC搭載機器の起動時間に有効であると考えている。又ハロゲンフリーで柔軟性も高く、一般的な炭化水素系膜の課題であった電極層との密着性も良好になり、優れた機械的・化学的安定性を実現した。ロール生産による量産技術の確立にも目途をつけたので、国内数社にサンプル供給を開始、今後はメタノールの高濃度化への対応を進めつつ需要の立ち上がりに備えて準備を急ぐ。将来はMEAとしての事業化を目指す。 (日経産業新聞、化学工業日報07年1月26日)
7.PEFC実証研究
(1)新エネルギー財団
 新エネンルギ−財団は1月18日、05年から開始した家庭用PEFC大規模実証で、第1期に設置した175サイトの1年間での運転結果をまとめた。それによると、1次エネルギーベースで年間平均15.3%の削減、1家庭平均では灯油換算(18L入り)で11缶分の省エネルギーを実現した。CO2削減量は、火力発電と比較すれば、トップデータで年平均1,400g、175サイト平均で850gを達成した。(日刊工業新聞、化学工業日報07年1月19日、日刊自動車新聞1月20日、日経産業新聞1月23日)

(2)新日石
 新日本石油北海道支店は1月22日、灯油式家庭用PEFCを北海道札幌市の住宅に設置したと発表した。発電出力は950W、燃料には専用灯油を使う。(北海道新聞07年1月23日)

(3)大ガス等
 大阪ガス、東芝FCシステム、長府製作所は集合住宅向けに水素を直接使う水素供給PEFCコージェネレーションシステムを開発、貯湯タンクを一体化した軽量コンパクトの出力500Wユニットを完成した。排熱はデシカント空調に優先的に利用するシステムとして07年度に大阪で実際の集合住宅に設置し、水素製造装置からパイプで水素を供給することによって実証運転を行う。デシカント空調機は60℃の低温排熱で除湿できる空調機であり、PEFCから回収した熱を利用できる。このシステムは水素を直接使うので効率は高く、発電効率は40〜46%、電池スタックでの燃料利用率が99%、負荷を下げたときに使い切れない水素は触媒燃焼器で熱として取り出し高温貯湯を実現する。起動時間は5分以内であるが触媒燃焼器が暖まっている場合は1分以内となる。貯湯運転での効率は46%、デシカント運転で40%、総合効率で81%と報告されている。大きさは50Lの貯湯タンクを一体化することにより、ユニット全体で縦450mm、横700mm、高さ1,250mmとなり、スリムなパッケージのためパイプシャフトなどに設置できる。100戸の集合住宅をモデルにした住棟全体の省エネ効果は、系統連系電力とボイラを組み合わせた従来型に比べてエネルギー消費量を8.3%減らせるという試算が出されている。(日刊工業新聞07年1月30日)

(4)出光興産
 出光興産は、業務用5kW級PEFC改良試作機(プロト2)を開発し、年内を目途にフィールドテストに乗り出す。消費電力の多い飲食店、コンビニなどへの導入を期待している。今まで行ってきた実証テストで得られたデータやノウハウの蓄積と共に、脱硫剤や改質触媒の高性能・長寿命化を図っており、灯油型、LPガス型両タイプの改良機によるフィールドテストを行い、実用化に向けた課題を整理する意向である。(化学工業日報07年2月2日)
8.FCV最前線
(1)GM
 GMは1月11日、日本を含むアジアと北米、欧州でFCVの大規模実証テストを開始する方針を明らかにした。世界各地に数十台から100台を投入する方針で、短期間に多くのデータを収集し、開発期間の短縮を図る。各国政府などと連携し、水素供給施設や法制面の整備も進める考えで「国土交通省など関係機関の協力を得たい」としている。GMがテストに使う予定のSUV"エクイノックス"は、1回の水素充填による走行距離は360kmである。(読売新聞07年1月11日)

(2)DHLジャパン
 DHLジャパンは06年からダイムラークライスラー製FCV"エフ・セル"を1台導入し、集配業務で月間4,300kmを故障することなく走行している。同FCVは350気圧の水素ガス圧縮タンクを搭載しており、毎日1回の充填での走行距離は最大150kmである。後部座席を改造して小包を積めるようにした。(日刊工業新聞07年1月17日)

(3)フォード
 フォードモーターは1月23日、ワシントン自動車ショーで、充電用FCを搭載した電気自動車"エッジ・ウイズ・ハイシリーズ・ドライブ"のコンセプトを公開した。リチウムイオン電池で40km走行するが、後はFCの発電電力を充電することにより計360kmの連続運転が可能になったとしている。最高時速は136km/h。(電気新聞、フジサンケイビジネスアイ07年1月25日)
9.水素ステーションの建設と実績
 昭和シェル石油と岩谷産業は、共同運営する"JHFC有明水素ステーション"が1月18日で、FCVへの水素充填台数が累計2,000台に到達したと発表した。液体水素と圧縮水素双方の充填が可能であり、何れも1台当たりの充填時間は10分以内である。03年6月から運用を開始した。(日刊工業新聞、化学工業日報07年1月23日、1月31日)
10.改質および水素生成・精製技術の開発
(1)JRCM等
 金属系材料研究開発センター(JRCM)を中心に、新日本製鉄、帝国石油、JFEスチール、産総研、京都大学など7大学が参加する産官学プロジェクトは、製鉄工程で発生するコークス炉ガス(COG)中のメタンなどを大量かつ効率的に水素に転換して供給するプロセスを確立したと発表した。技術開発は、COGに含まれる水素の量を2倍以上に増加させることを目的に、1)高効率改質水素製造反応(酸素導入改質型)のための触媒・反応設計技術、2)高効率酸素分離用混合伝導体分離膜システム、3)それらを一体化させた高効率水素製造技術(膜型反応器)に取り組み、個別目標を全て達成した。又触媒ドライガス化−水蒸気改質の触媒を用いた全体プロセスを検証したベンチプランと試験では、水素増幅率3.1〜5.6を確認している。5年計画(2001年度スタート)の最終年度に行った実用化試験では、水素製造量170トン/日を想定して水素製造原価1Nm3当たり12円以下、圧縮・出荷、輸送、水素ステーションに要する価格を加えた小売価格で、同60円以下と現在のオンサイト供給レベルを実現した。評価報告書は3月に開かれる産業構造審議会・産業技術分科会評価小委員会で取り纏める。(化学工業日報07年1月11日)

(2)北大
 北海道大学触媒化学研究センターの福岡助教授などは、天然ガス改質ガス中に含まれるCOを簡単に除去できる触媒を開発した。石英の主成分である二酸化ケイ素でハチの巣状にできた直径約3nmの穴に白金の粒子を詰め込んだところ、この触媒で酸素分子が原子に分解され、40℃の低温でCOと結合してCO2になった。これまでも同様の触媒でCOを取り除いていたが、150℃以上の高温が必要であり、精製した水素を冷却することが要求された。今回開発した触媒であれば水素製造工程で冷却装置が不要になる。機能物質の開発を手掛ける化学会社と事業化に向けた協議を始めた。(日経産業新聞07年1月12日)

(3)新日石
 市日本石油はPEFC向けの高性能な灯油の水蒸気改質触媒を開発した。酸化セリウムを助触媒としてルテニウムを高分散しており、商用機に搭載して運転した結果、5,000時間以上安定で性能劣化を起こさなかった。灯油には炭素結合が多いのに加えて、芳香族炭化水素や硫黄化合物が含まれているので、触媒の高性能化、長寿命化が非常に難しい。炭素結合を切断できる高活性と、硫黄の影響を最小限に抑える硫黄耐性が必要である。新規のPEFCは、灯油仕様のFC本体を荏原バラードが、高性能水蒸気改質触媒を導入した灯油改質による水素製造装置を新日石が持ち寄り、システムとして共同開発した。得られる水素は十分な純度を維持しており、改質プロセス出口での未燃灯油は存在せず、灯油転化率は100%を実現している。今後は一層の高性能化と低コスト化に取り組んでいく。(化学工業日報07年1月31日)
11.水素貯蔵・輸送技術
(1)産総研
 産業技術総合研究所は、アンモニアボラン(AB=NH3BH3)の加水分解を利用したポータブルFC用水素発生システムとFCの開発を進める。アンモニアボランは19.6wt%の水素を含んでおり、温度を上げると水素を発生する特性を持つが、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)に比べると、水中で安定し安全性が高い点に特徴がある。SBHは水に反応し易く、通常10〜20%の水酸化マグネシウムを加えて安定させているので、その点ABはそれ自身安定した物質であり扱い易い。現在はABの加水分解反応に貴金属触媒を用いているが、貴金属微粒子を各種担体で担持することにより使用量を抑えつつ、活性が高い触媒を開発し、更に触媒の探索を目指すことにしている。又アンモニアボラン水溶液の加水分解・水素発生反応に不活性又は低活性で、かつ負極反応には高活性を示す電極触媒の開発にも取り組む予定である。これにより水素発生を必要に応じて制御できる小型FC用水素発生デバイスを実現することを目論んでいる。又ニッケルなど金属フタロシアニン類金属化合物を熱分解に利用することを考え、生成するホウ素化合物の再生方法を検討し、ABを燃料としたFCの実用化を目指す。(化学工業日報07年1月7日)

(2)ジョンホキンス大とバージニアコモンウエルス大
 アメリカのジョンホキンス大とバージニアコモンウエルス大学などの研究チームは、水素を吸蔵できる新物質を開発した。新物質はアルミニウムと水素の混合物で、ホウ素と水素が結合した安定した構造に似た構造で、少ないエネルギーで水素を蓄えたり放出したりできる点に特徴がある。(日経産業新聞07年1月24日)
12.水素関連技術
(1)住友電工スチールワイヤー
 住友電工スチールワイヤー(伊丹市)は、耐水素脆性に優れた"ばね用ステンレス鋼線"を開発した。一般的なばね用ステンレス鋼種SUS304と同等以上の強度、耐食性を持つ。具体的には、SUS304をベースに、窒素、マンガンを添加し、耐水素脆性に優れるオーステナイト相を固溶強化し安定化させた。更に熱処理と加工条件を最適化して、水素吸蔵前に高い疲労強度を持ち、水素吸蔵後も疲労限の低下が少なく耐水素脆性に優れたばね用ステンレス鋼線を開発した。水素吸蔵後400気圧では、490MPaの高い値を示した。FCシステムの高圧水素ガス圧調整弁や耐水素環境材料として拡販する。(鉄鋼新聞07年1月15日、日経産業新聞1月29日)

 ―― This edition is made up as of February 2, 2007――

・A POSTER COLUMN

GMの新型電気自動車が北米自動車ショーに登場
 1月7日から始まった北米国際自動車ショーで、会場の話題をさらったのは、GMの電気自動車試作車"シボレー・ボルト"であった。4人乗りのセダンで、家庭用電源から直接車載リチウム電池に充電できる点が注目された。6時間の充電で40マイル(64km)走るので、通勤にも利用できるとGMは述べている。走行中に電池が切れた際に使う非常用エンジンも搭載されており、ガソリンだけではなく、トウモロコシなどを原料とするエタノールでも走行できる。
 フォードモーターも、エタノールで走行できる新型車"インターセプター"の他FCVの試作車を発表した。 (読売新聞07年1月9日、西日本、中国新聞、河北新報1月10日)

ハイブリッドおよびフレックス燃料2輪車の開発
 川崎重工業は、2輪車事業を担当する汎用機カンパニーに設けた"研究部"に、約10人の専任技術者を配置し、2010年を目途にハイブリッド車や、エタノール燃料を混合して走行するフレックス車などの商品化を目指す。同社は従来、電子制御式噴霧装置(FI)などで環境対応を進めてきたが、FI搭載車の普及で次世代技術に軸足を移すことにした。(日刊工業新聞07年1月10日)

水素燃焼ロータリーエンジン車(RE)車が未来館へ
 マツダは1月18日、水素ロータリーエンジン車"RX-8ハイドロジェンRE"1台を日本科学未来館に納入したと発表した。マツダの水素RE車の納入はこれで6台目となった。走行距離は1回の水素補充で約100km、ガソリンに切り替えることができる。(中国新聞07年1月19日)

カリフォルニア州知事、ガソリン比率を2020年までに10%削減
 アメリカのシュワルツネッガーカリフォルニア州知事は、乗用車に占めるガソリンなど化石燃料の比率を2020年までに10%以上削減することを義務付ける規制の策定を指示した。
 ガソリン比率を削減し、エタノール混合燃料やFCV、環境負荷の小さい代替燃料の普及を促すのが狙いである。これにより州内の代替燃料市場は3倍以上に膨らむとともに、技術開発が促進され、雇用創出に繋がると期待している。 (フジサンケイビジネスアイ、東京、中日、北海道新聞07年1月20日)

トヨタのハイブリッド車の累計販売台数が07年度130万台に
 トヨタ自動車は1月24日、ハイブリッド車の07年における世界販売台数が前年比で約4割増の約43万台となる計画を明らかにした。06年の販売台数は前年比約33%増の31万2,500台で、累計で約87万台となった。地域別では海外が約36%増の24万100台、国内が24%増の72,100台、販売好調が続いており、07年は1997年に量産"プリウス"を発売して以来、累計で130万台に達する見込みである。(河北新報07年1月25日)