第128号 高性能炭化水素系膜の開発が活況
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体での施策と活動
3.PAFC事業
4.SOFCの開発研究
5.PEFC要素技術の開発
6.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの実証
7.FCV最前線
8.水素ステーションの建設と検証
9.水素生成・精製技術の開発
10.水素貯蔵・輸送技術の開発
11.FCおよび水素関連計測機器
12.DMFCおよびマイクロFCの開発
13.FCの新しい応用
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)総合資源エネルギー調査会
 総合資源エネルギー調査会は12月7日、総合部会を開き今後10年のエネルギー政策を定める"エネルギー基本計画"の改定案をまとめた。07年2月の閣議決定を目指す。改定案は、核燃料サイクル政策の要となる高速増殖炉の開発推進などで"原子力立国"を目指し、"もんじゅ"の運転を08年度から再開、商業運転を2050年より前に実現することを目標に掲げた。この他、運輸部門の燃料をバイオエタノールやFCなどに転換を図るとしている。(読売新聞06年12月8日)

(2)エネルギー技術戦略マップ07
 経済産業省は、石油などエネルギー分野の中期的な技術開発指針を盛り込んだ報告書を06年度末までにまとめる。資源エネルギ−庁を中心に"石油利用技術タスクフォース"を設置して検討を重ねており、07年3月末までに"エネルギー技術戦略マップ07"として取り纏める計画である。自動車用燃料関連では、バイオエタノール燃料の低コスト製造技術の確立、デイーゼルエンジン用代替燃料としてGTL製造技術の早期確立とインフラ整備、FCVについては走行距離の拡大などの課題、等について技術開発の方向性や目標を策定する。経産省は06年5月、運輸部門での石油依存度を2030年までに80%程度に抑えることを骨子とした"新・国家エネルギー戦略"を策定しており、その実現に向けた技術開発ロードマップを提示することにしている。(日刊自動車新聞06年12月12日)

(3)次世代自動車燃料イニシアテイブ
 甘利経済産業相は12月20日に開かれた経済財政諮問会議で、バイオエタノールなど新たな自動車用燃料の普及に向けた戦略づくりを中心とする"次世代自動車燃料イニシアテイブ"を提案した。自動車産業とエネルギー産業、経産省の3者が協力し、次世代自動車とその燃料の普及を目指す包括的な仕組みを構築するという内容である。クリーンデイーゼルや電気自動車、FCVなどを含めて普及の戦略を立案する大臣と業界トップによる検討会、およびバイオエタノールに特化して普及に向けた具体的な政策作りを進める実務レベル検討会の2つを07年始めに頃に設置する。(日刊自動車新聞、化学工業日報06年12月21日)

(4)新エネルギー対策関連予算
 政府は12月20日、07年度予算で、新エネルギー対策関連に経済産業省、環境省合わせて総額1,408億円を計上した。その中で経産省・資源エネルギー庁新エネルギー対策課は太陽光発電を始め新エネルギーの導入補助と革新的な技術開発を推進するための事業に予算を確保した。予算内示において重点的に予算を確保した主な事業は、「バイオマス燃料の積極導入」において"輸送用バイオエタノール燃料に関わる地域流通モデルの確立(新規)"に8億円、「蓄電システムの戦略的技術開発・導入促進(76億円)」の中で"次世代蓄電システム実用化戦略的技術開発"に49億円、"風力発電系統連系対策助成事業"に27億円、「新エネルギー技術開発・フィールドテストの推進(154億円)」の中で"ベンチャー企業などによる革新的な新エネルギー技術開発(新規)"に46億円、「FC・水素に係わる技術開発・導入促進(68億円)」の中で"次世代型FCシステム(SOFC)に係わる実証研究(新規)"に8億円などしている。(電波新聞06年12月28日)

(5)700気圧水素ステーションの建設
資源エネルギー庁は07年度にFCV向け700気圧水素ステーションを首都圏と名古屋地区に計3ヶ所設置する。アメリカGM、ドイツ・ダイムラークライスラー、日産自動車などが既に700気圧で実証に入っており、又カナダ・バンクーバー、ドイツのベルリンに700気圧水素ステーションの実証施設がある。700気圧タンクについてはアメリカが1月に評価基準を決めることになっている。(日刊工業新聞07年1月5日)
2.地方自治体での施策と活動
 FCの開発、利用活用などの研究を目指し、産学官が連携する"静岡FC技術研究会"が発足、12月8日に静岡ガス総合技術研究所で設立総会を開く。県、静岡工業技術センター、静岡大をはじめ、FCの研究を進める飲料メーカー、部材供給を目指す部品メーカーなど22社前後の企業が参加の見込みである。(静岡新聞06年12月7日)
3.PAFC事業
 富士電機アドバンストテクノロジーは出力100kWのPAFCを熊本県北部浄化センターに4台納入した。下水場で発生する消化ガスからメタンを取り出してPAFCで発電し、発電効率は38%、総合効率は54%となる。今後は設置コストを90万円/kW前後から30〜40万円/kWに抑えることを目指し、多方面の用途で普及を図る。世界ではアメリカのUTCが累計270台を納め、100kW、200kW、400kW機で標準化に動いており、富士電機は100kW機を標準化している。(日刊工業新聞06年12月8日、電気新聞12月11日)
4.SOFCの開発研究
(1)電中研と産総研
 電力中央研究所と産業技術総合研究所は、12月4日、650℃級のSOFCを大容量化できる技術を開発したと発表した。セラミックス製の電極表面に、銀のナノ粒子を均等に付着させる技術を開発、セルの出力密度を0.25W/cm2から0.45W/cm2にまで高めることに成功した。銀のナノ粒子は触媒活性が高く、電気抵抗が低いためSOFCセルの導電性を高められる。具体的な手法は、硝酸銀とクエン酸、エチレングリコールの混合溶液を用いる方式で、硝酸銀の水溶液中にクエン酸を混ぜると銀が分子性化合物(錯体)化し、多孔質セラミックスの内部まで錯体が付着する。又エチレングリコールを混ぜることで、銀の錯体をナノサイズに維持することができる。特殊な装置が不要な上、対象物に制限がなく、幅広い用途に応用できると見込んでいる。(電気新聞, 化学工業日報06年12月5日、日刊工業新聞12月8日)

(2)シーメンス
 ドイツのシーメンスパワージェネレーション社は、アメリカ・ピッツバーグ近郊の工場で、DOE技術を使った5kW級SOFC原型機によって2,800時間の連続運転を達成した。SECAプロジェクトのフェーズ1の成果である。今後は高出力の開発に取り組む。
 シーメンス社はドイツ大手電力会社EnBW社と共同で、SOFCとガスタービンを組み合わせた1,000kW級高効率複合発電プランとを建設する計画(08年までに基礎的準備を終え、12年に実証プラントの運転再開)を打ち出しているが、DOEとの協定に沿って研究するこれらのSOFC技術はこのプラントに応用されるものと思われる。発電効率は70%を目指している。(電気新聞06年12月6日)

(3)Jパワー
 電源開発(Jパワー)は07年1月から茅ヶ崎研究所で、大容量SOFCシステムの試験運転を始める。出力は常圧で150kW(25kWモジュール6セット)で、三菱重工と共同開発した2,500本チューブ(直径3cm、長さ150cm)が組み込まれており、燃料の入り口と出口を直線で結ぶ構造にしたことにより信頼性を向上させた。長期運用性や部分負荷運転などの試験運転を08年3月まで行い、目標発電時間は1万時間以上としている。主に「使い易い制御技術の確立」を課題として取り組んでいく。(フジサンケイビジネスアイ06年12月18日)

(4)横浜国大
 横浜国立大学の研究グループは、高温にすると亀裂が自然に修復されるセラミックスを開発した。2〜3年後を目途にSOFC向けセラミックス部材などへの応用を目指す。これはムライトと呼ばれるセラミックスの粉末に、直径1μm、長さ100μmの円柱状の炭化ケイ素と粒徑0.2μmの球状の炭化ケイ素を混ぜて1,700℃で焼成して作る。表面に亀裂ができても、円柱状の炭化ケイ素が亀裂の拡大を阻止する役割を果たす。又表面を高温にすると円柱状や粒子状の炭化ケイ素が亀裂部分を接合する働きをして修復する。更に炭化ケイ素を入れることことでムライトの結晶粒が小さくなって強度が向上し、従来のムライトを使ったセラミックに比べて曲げに対する強度が2.6倍になった。表面に深さ0.1mmの亀裂を入れたセラミックスを1,300℃の大気中で1時間熱処理する実験を行ったところ、亀裂は完全に修復し、修復部分も1,200℃の高温中において亀裂を生じさせる前と変わらない強度を持つことを確認した。(日経産業新聞07年1月1日)
5.PEFC要素技術の開発
 物質・材料研究機構、理化学研究所、日本原子力研究開発機構は、量子ビームテクノロジーの先導的な研究開発に関する研究協力協定を結んだ。3者がまずスタートさせる研究課題の1つ"FCシステム用キーマテリアルの開発"は、電気出力が高く、100〜500℃で動作し、白金消費量を大幅に低減する電解質膜・電極/触媒アセンブリ−材料の開発などが目的である。(化学工業日報06年12月25日、原子力産業新聞07年1月5日)
6.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの実証
(1)福岡水素エネルギー戦略会議
 福岡水素エネルギー戦略会議は12月15日、"西部ガス”と共同で、福岡県知事公舎で実証試験を12月20日から開始すると発表した。08年12月までの2年間で、タイプは都市ガス仕様PEFC1kW級である。(電気新聞06年12月18日、西日本新聞12月26日)

(2)新日石
 新日本石油は12月18日、灯油式の家庭用PEFCを07年1月にも道内市場に投入する計画を明らかにした。個人宅3戸に設置し、運転データを集めて改良に役立てる。

(3)丸一石油
 丸一石油(金沢市)は12月20日、白山市内の個人住宅で専用灯油を使った家庭用PEFCの実証実験を開始した。(北国新聞06年12月21日)
7.FCV最前線
 ホンダの福井社長は、共同通信とのインタービューで、FCVについて「10年以内に量産できるレベルにまで近づくのではないか」との述べ、2010年代後半に一般向け販売が可能になるとの見通しを示した。価格は1000万円程度になるとしている。(北海道新聞、河北新報06年12月30日)
8.水素ステーションの建設と検証
 ガソリンスタンド併設型水素ステーション12月4日に千葉県市原市に誕生した。国の委託で出光興産が設置、安全対策の妥当性や耐久性などを検証する。運営は09年3月まで。今回の水素ステーションは長時間連続運転した場合のデータを取得するため、製造した水素を改質器の燃料として消費できるようにした。(電気新聞06年12月5日)
9.水素生成・精製技術の開発
(1)RITE
 地球環境産業技術機構(RITE)は水素を含有するガスから炭酸ガスを選択的に透過して分離する高分子膜を開発した。ポリアミドアミン(PAMAM)構造を有するデンドリマーを用いたもので、ポリサルホンを支持膜に適用することにより液状のデンドリマーを分離膜に加工することができた。
 研究グループが利用しているのは、水酸基を導入したポリアミドアミデンドリマーで、2酸化炭素・酸素の選択性は窒素との選択性に比べてやや劣るが、それでも配分係数は700であり高い。PAMAMデンドリマーは液状物質で、単独で分離膜に加工するのは難しいことから、多孔質体であるポリサルホンによる中空糸膜を使い、膜表面にPAMAMの薄膜層を形成させた。PSFは多孔質であることから内部にPAMAMが流入することを防ぐため、PAMAMの薄膜を形成する前にキトサンでコートしている。最小単位の0世代デンドリマーの場合、3ヶ所に水酸基を導入したデンドリマーが最も高い炭酸ガス透過性があった。炭酸ガスとの吸収量と選択性には相関がみられ、デンドリマーが炭酸ガスを取り込むことで、膜中に存在する炭酸ガス分子が水素の透過性を阻止していると考えられる。
 RITEでは、PAMAM系デンドリマーの他、臭素化カルド型ポリイミド中空糸膜など素材だけではなくモジュールなどシステムとしての開発を広く進めている。PAMAMデンドリマーは、高い炭酸ガス・水素分離性能を有しており実証試験を行いながら実用化を目指す。 (化学工業日報06年12月19日)

(2)出光
 出光興産は、灯油から水素を製造する触媒の寿命を5倍に高めることに成功した。連続して4万時間使用することができ、水素製造コストを引き下げる可能性とともに装置の小型化にも役立つという。開発した触媒は粒徑3mmの球状で、酸化アルミニウムの表面にルテニウム金属および水の分解速度を速める添加物(独自開発)を加えたものである。従来の酸化アルミニウムにルテニウム金属を加えただけの触媒では水の分解が遅く、又灯油をルテニウムで分解したときに発生する炭化水素分子が結合し、炭化水素の塊が発生していた。この塊がルテニウムに付着して触媒の機能を低下させ、寿命が短くなるという問題があった。新開発の触媒は、水を分解する速度を速める添加物を加えたことにより、炭化水素分子と分解した水が反応して炭化水素の塊ができにくくなり、又分解した水と炭化水素分子が反応して水素が発生し易くなっている。出光は来年度を目途に改良した触媒を使って水素製造の実証試験を行う計画である。(日経産業新聞06年12月20日)

(3)東京理科大
 東京理科大学の工藤教授は、紫外光以外に全ての可視光にも反応して水から水素を作り出す光触媒を開発した。新光触媒は銀、銅、インジウムを原料とした硫化物の表面にルテニウムを付着させたもので、1μm程度の球状で黒い。具体的には、銀、銅、インジウムを溶かした水溶液に硫化水素を吹き込み、沈殿した金属の硫化物を取り出して真空中600℃で加熱、この表面にルテニウムを付着させることにより作られる。波長が400nmから800nmの可視光全てを吸収する。硫化ナトリウムと亜硝酸カリウムを溶かした水溶液にこの光触媒を入れて太陽光に当てると、光触媒で電子と正孔が発生して電子はルテニウムに移動する。移動した電子は水素イオンと反応して水素が発生し、正孔は硫化物イオン、亜硝酸イオンと反応する。実験では水150mLに硫化ナトリウム3.6g、亜硝酸カリウム12gを溶かし、光触媒0.3gを入れて太陽光に似た光を当てたところ、光源1m2当たり発生する水素の量は3.1L/hであった。(日経産業新聞07年1月4日)
10.水素貯蔵・輸送技術の開発
(1)海外技術
 イギリス・バス大学の研究グループは、水素を室温で吸放出できる新物質を開発した。この新物質はロジウムを含む混合物で、室温、大気圧下で重量比0.1%の水素を蓄えことができる。(日経産業新聞06年12月20日)
 アメリカの国立標準技術研究所(NIST)は、水素を吸蔵できる新物質を開発した。エチレンとチタンを結合させたもので、研究チームはこの新物質は重量比で14%の水素を蓄えられると述べている。(日経産業新聞06年12月27日)

(2)川崎重工業
 川崎重工業は、FCV向け液体水素輸送コンテナの事業育成を推進する。極低温(−253℃)の液体水素を液化基地から水素ステーションや水素発電設備へ安全で効率的に輸送する要素技術で、国内で初めて20フィートサイズのタンクコンテナを製作し、実用化に目途をつけた。大型構造物ビジネスセンターで事業化に取り組む。液体水素輸送コンテナは2重構造で、真空断熱によって熱の侵入を防ぎ、容積15m3の内槽をテンショットロッドと呼ばれる部材で中吊り状態に固定した。これを20フィートコンテナフレームに納めて、トレーラーで搬送する仕組みである。長距離移動で蒸発を抑制するため、防波板や内槽に取り付けたアルミ蒸着など多層積層断熱材などを開発、それらにより1日当たりの蒸発量を0.7%以下とし、現行タンクローリーに比べて半減させた。05年には600km(尼崎市−東京・有明)公道走行試験を実施し、良好な成果を得ている。(化学工業日報06年12月28日)
11.FCおよび水素関連計測機器
 矢崎総業は反応時間を1/10にまで短縮した水素検知器を開発した。水素を検出する基本的な仕組みは、白金製加熱部の上に載せたパラジウムを均等にまぶしたアルミナと、アルミナだけの2つの部分の温度比較であり、水素が近づくとパラジウムの触媒作用によって水素が燃焼・発熱する現象を利用する。すなわち、パラジウム素子とアルミナ素子の温度変化を比較し水素量を検出する。開発した装置では、2つの水素検出部を微細な電気機械システム(MEMS)がシリコン回路基板に組み込まれており、温度変化から生じる電圧比較で水素漏れを見つける。MEMSにしたことで小型化され、回路本体の大きさは縦1.6mm、横2.6mm、厚さ0.4mmとなった。又素子をほぼ熱絶縁したため、わずかな熱に反応し、微小な電圧を読み取ることができる。水素への反応時間は0.53秒と極めて短い。
 矢崎産業はこの回路を載せた27mm 40mm 12mmのセンサーを試作、4%までの水素の検出ができることを確認した。経時劣化対策が課題であるが、実験室レベルでは1万時間までの検証を終えている。白金とパラジウム使用量を抑え、半導体技術を利用したことで量産すれば製造コストが安くなると予想される。 (日研産業新聞06年12月4日)
12.DMFCおよびマイクロFCの開発
(1)京都電子工業
 京都電子工業(京都市)は、アメリカISSYS社と共同で、DMFCに組み込んでメタノール濃度を制御する小型センサーを開発、量産に向けた検討を始めた。超小型の密度センサー(MEMS)技術で実用化に目途をつけた。0〜100%幅で計測可能、必要な濃度を精密に制御できる。メタノールの濃度分析では、液体の屈折率、超音波音速、密度などの物理量が想定されるが、密度変化が全領域で安定した指数になることから、これに着目した。今回は評価用センサーとして、MEMS技術を持つISSYS社と共同し、超小型の振動式密度センサーチップを開発、メタノール液体が流れる配管中に直接設置できる流通タイプとして実用化したものである。同センサーは、液温の変化や副生成物の影響をほとんど受けないとともに、リアルタイムの測定を可能にし、現在までに百数十個がFCメーカーなどで使用されたと述べている。(化学工業日報06年12月6日)

(2)サイエンスラボラトリーズ
 サイエンスラボラトリーズ(千葉県松戸市)は、DMFCの電解質膜に使うフラーレン誘導体を開発した。 DMFC用電解質膜に関しては、フッ素膜は耐久性に優れるが、メタノールのクロッスオーバー起こり易く、価格に問題がある。そのため炭化水素系膜の開発が活発化しているが、ラジカル発生による劣化などで長寿命化が難しいという課題を抱えている。
 サイエンスラボラトリーズが今回開発したのは、高性能な炭化水素膜として使えるフラーレン誘導体およびそれの製造技術である。直結型スルホン酸化フラーレンとホスホン酸化フラーレンおよびスルホン酸/ホスホン酸共存フラーレンを、マイルドな条件で合成することに成功した。反応に使用する溶媒がフラーレンと結合しないような反応試薬と溶媒の特定な組み合わせにより、安全な薬品を用いて簡単に合成できる。これらのフラーレン誘導体は、汎用樹脂やエンジニアリングプラスチックと混合することで容易に製膜が可能で、プロトン伝導基の脱離を抑える長寿命膜が得られる。従来の炭化水素膜は、膜状ポリマーの芳香族環に取り扱いの難しい薬品を用いてスルホン酸基を導入するため、製造工程が複雑な上、スルホン酸基が時間経過により徐々に離脱して性能が劣化することがあった。又従来はホスホン酸基を導入することは困難であったが、同社の方法であれば容易にそれを導入できる。一般に電解質は水溶性のため架橋を必要とするが、ホスホン酸基はカルシウムイオンや白金イオンで架橋ができるので、電解質を不溶化することが可能である。スルホン酸化フラーレンの場合は、ホスホン酸基を共存させることにより不溶化できる。 (化学工業日報06年12月7日)

(3)日立
 日立製作所のグループ会社である日立神奈川マニュファクチャリングソリューション(神奈川県秦野市)は、DMFC用MEAの量産ラインを設置した。生産能力は小型機器向けセルとして月産2,000〜3,000個に相当する。日立グループは、水素イオン伝導性に優れ、メタノールクロスオーバーを抑えた炭化水素系電解質膜を開発、触媒でも白金ナノ粒子をカーボン担体上に均一分散する技術を開発している。既に電池寿命で約1万時間、出力密度で約100mW/cm2を実現している。05年の愛知万博では小型情報端末にDMFCを搭載しており、ノートPC用のほか、携帯電話用ではKDDIと充電器型や内蔵型DMFCの開発を進めている。同グループは07年以降に向けてDMFC搭載機器の製品化に取り組んでいる。(日本敬意材新聞06年1月13日、化学工業日報12月14日)

(4)三菱ガス化学
 三菱ガス化学は、出力300W級のDMFCを試作、07年から本格的な実証試験を開始する。同社はプラチナ系触媒をナノサイズで制御するナノ分散技術を適用してFCの反応効率を高め、単セルで130mW/cm2の高出力密度化を達成するとともに、電極構造の工夫で長期信頼性を高めることに成功した。このセル40枚を積層して300W級のスタックを試作、更にスムーズな燃料供給と排ガス対策のために独自のセパレーター構造を採用することにより、出力305Wで120×120×140mm、重量4.1kgにまでスタックを小型化軽量化した。実証試験では当面4,000時間の連続運転を目標に掲げ、実際のFCの使い方やシステムの安全性などを検証していく予定である。08年での製品化を目指しており、今後は電解質膜を始めとする主要部材の調達と、可搬用・移動用電源や非常用電源、ロボット・レジャー用などの用途開拓でパートナーを検討していく。(化学工業日報06年12月25日)

(5)サムスン電子
 韓国のサムスン電子は06年12月末、DMFCを使ったノートパソコン用ドッキングステーションを開発したと発表した。同システムは、1,200Wh級の発電容量を持ち、ノートPCを1日8時間で週5日稼動であれば1ヶ月間継続使用することができる。サムスンは今回、サムスンSDI,サムスン総合技術院と共同でDMFCを開発、それは最大出力20W、体積エネルギー密度650Wh/Lで、競合製品の約4倍の性能を実現した。このDMFCを1L使用するドッキングステーションの試作品は、サムスンの超小型PC"Q35"専用に設計され、07年末に製品化の予定である。なお韓国の同グループは既に2Wh級のマイクロFCを開発したことも発表している。(電波新聞07年1月5日)
13.FCの新しい応用
 東海電子(静岡県富士市)は、誤動作を防ぐデユアル型アルコール検知器を開発した。通常は耐久性に優れた半導体センサーが作動するが、アルコールを検知した場合のみ、検知能力の高いFCセンサーで確認する。07年3月から26万400円で売り出す。飲酒運転に対するアルコール検知器の使用が広がっているが、半導体型はタバコや体内の1部の物質に反応し、飲酒していないのに乗車停止になるトラブルがある。FC型はエタノールにしか反応しないが、耐久性が低く測定に時間がかかるため、2つのセンサーを搭載して誤作動を防ぐとともに、1事業所で半年程度利用できる6万回の測定を可能にした。運輸業界などへの販売を見込んでいる。(日本経済新聞06年12月23日)

 ―― This edition is made up as of January 5, 2007――

・A POSTER COLUMN

日産自動車がハイブリッド車
 日産自動車は12月11日、2010年に向けた中期環境戦略"グリーンプログラム2010"を発表した。ハイブリッド車について、2010年度に独自開発車を国内と北米で発売、又10年代の早い時期に新型電気自動車を国内に、新型FCVを国内と北米に投入する。同社のLiB は、充放電時の安定性に優れたマンガン系正極材を採用するとともに、電極塗布厚さや粒子径を最適化して高出力を実現しているのが特徴である。
 この他、2000ccクラスの次世代デイーゼル車を07年度前半に欧州に投入、10年度以降、国内、北米、中国に各国の最新排ガス規制をクリアする新型デイーゼル車を発売する。ガソリン車については、エンジンの効率を高め、3Lで100km走行できる車"3リッターカー"の開発を進め、10年に日本に投入する計画である。
 カルロス・ゴーン社長兼CEOは、12月12日に発表した環境技術計画について「(市場で)全てが成功するわけではない」との見方を示した。 (朝日、産経、日刊工業、東京、中日、中国、西日本、北海道、神奈川、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ06年12月12日、朝日新聞、化学工業日報12月13日)
 日産自動車とNECはハイブリッド車やFCVなど環境対応車に搭載する自動車用電池事業で提携する。07年内に共同出資で新会社を設立して開発に着手し、2010年までに生産・販売に乗り出す。両者が共同開発するのは小型・大容量のリチウムイオン電池で、合弁会社は日産とNECグループの"NECラミリオンエナジー""NECトーキン"が出資する方向で出資比率や金額を調整している。(読売、朝日、毎日、産経、日本経済新聞06年12月21日、電気新聞12月22日)

自治体による電気自動車普及計画
 神奈川県が自治体としては初めて電気自動車の普及計画を打ち出した。「5年以内に県内で3,000台」を目標に、先ず県が公用車として100台程度のリース契約を締結し、150台の充電設備を整備、企業を中心に購入を促す。11月には三菱自動車や東京電力、横浜市、神奈川工科大など約20の企業・団体で組織する普及推進協議会を発足させ、電気自動車購入の優遇策などの検討に着手した。(日経産業新聞06年12月28日)

与党の税制改正大綱で環境税についての総合的な検討
 環境税について与党の税制改正大綱では"納税者の理解と協力を得つつ、総合的に検討する"との記述が盛り込まれた。これを踏まえ、自民党の経済産業、環境、農林、国土交通の4部会長は、地球環境対策について税制に限らず、あらゆる施策を合同で幅広く検討することで同意した。
 環境税に関しては大綱では、6%削減約束の達成についての重要性が記述され、08年から京都議定書の第1約束期間が始まることを踏まえ、総合的に検討することが示された。その上で、政策的手法における位置付けや、課税の効果、経済・産業の国際競争力に与える影響、既存の税制との関係などに考慮を払うとされている。
 12月15日に発表された環境省の要望事項の中で、低公害車の取得による自動車取得税の軽減は、2年間延長されたが、従来は一律2.7%の軽減であったのを、天然ガス自動車とハイブリッド自動車を取得した場合に限るという条件が設定された。又ハイブリッド自動車の内、乗用車の軽減幅は従来の2.7%から07年度は2.0%、08年度1.8%と段階的に縮小される。 (電気新聞06年12月18日)

メタノール生産
 三菱ガスと三菱商事は、ベネジェーラで合成樹脂などの基礎原料となるメタノールの生産能力を倍増させる。両社と同国石油化学公社などが出資する合弁会社が約4億ドルを投じて年産約85万トンの設備を新設、2010年に稼動させる。三菱ガス化学は中国とブルネイでもプラントの新設を計画、世界での生産能力は合計830万トンになる見通しで、最大規模のカナダ・メタネックスを超える規模になる。(日本経済新聞06年12月22日)