第124号 中部国際空港でFCバスの実証運転
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.SOFC開発動向
4.PEFC要素技術の開発
5.定置式PEFCの開発と実証事業
6.家庭用PEFCの開発と実証事業
7.FCV最前線
8.水素ステーションの技術開発と事業
9.改質および水素生成・精製技術
10.水素関連の事業展開
11.DMFCおよび携帯用マイクロFCの開発
12.FC補機類の開発
1.国家的施策
 経済産業省・資源エネルギー庁は、総合エネルギー調査会新エネルギー部会の中間報告で、今後は太陽電池、FC、蓄電池などに技術開発を重点化する方針を示した。太陽電池ではシリコンを使わない新材料の開発を推進し、FCについてはPEFCおよびSOFCに重点化する方針である。これに加えて風力発電や太陽光発電の出力安定に繋がる蓄電池などのエネルギー貯蔵分野を新たな重点分野と位置づけており、リチウムイオン電池を軸に、5カ年計画で革新技術の開発を後押しする。(電気新聞06年7月27日、日刊建設工業新聞7月28日、中日新聞8月12日、電波新聞8月15日) 
2.地方自治体による施策
(1)愛知県
 愛知県は8月3日、中部国際空港に近接する中部臨空都市(常滑市)に、PAFC、MCFC、SOFC、太陽光発電、NAS電池を組み合わせた最大出力2,225kWの実証実験用“あいち臨空新エネルギー研究発電所”を8月24日に本格稼動すると発表した。実験は07年まで実施し、電力を市役所や浄化センターに供給する。事業費は07年度末までの5年間(準備期間を含む)で約110億円。(日刊工業新聞06年8月4日)

(2)日光市
 水素エネルギーを日光市で普及・活用する促進協議会が8月8日に設立される。設立するのは“日光水素エネルギー社会促進協議会”で、日光市の斎藤市長が発起人になり、県、商工会議所、FCV開発メーカーらで構成する。(下野新聞06年8月7日)

(3)山口県
 山口県が04年からスタートした“山口フロンテイア山口推進構想”に基づくトクヤマのカ性ソーダ電解による副生水素を用いた家庭用PEFC2台による実証実験で、CO2排出量が1日当たり平均79%削減できたことを実証した。トクヤマのカ性ソーダ電解プラントから副生する高純度の水素を精製して純度を99.99%に高め、供給圧力0.8MPaでPEFCに供給するシステムで、オンライン供給を利用するため、エネルギーロスがなく、CO2や大気汚染物質などの排出も全くない。模擬負荷を課した総合効率は71.4%、実効発電効率は34.1%、部分負荷で30%以上が確保された。1年間の運転時間は4,343時間で、発電時間は2,819時間、稼働率は88.4%であった。(化学工業日報06年8月11日) 
3.SOFC開発動向
(1)JFCC
 ファインセラミックセンター(JFCC)は7月20日、SOFCに最適なフレキシブルシート材を開発したと発表した。溶液から合成したガラス前駆体の球状粒子をシート化したもので、多孔質材料のシール材として高い絶縁性とガスシール性を発揮する点に特徴がある。新開発のシート材は多孔質な電極でセルを支持する構造(電極支持構造)への適用が期待される。JFCCが開発したシール材は、800℃以下の加熱処理でガスシールが可能であり、厚みは150〜250μm、開気孔率30%の多孔質材料に対しても染み込みを50〜100μmに抑えた。得られたシート材への後処理で性能を改善した他、溶融温度が異なる複数種類の前駆体を分散させることにより、開気孔率が高い多孔質材料に対しても十分なシール性が得られるようになった。JFCCは今後、同シート材を用いたSOFCの特性評価と長期安定性の検証を進める。(日刊工業新聞、化学工業日報06年7月21日、電気新聞7月26日)

(2)MHI
 三菱重工業は8月2日、都市ガス改質型SOFCとマイクロガスタービン(MGT)を組み合わせた複合発電システムの実証運転に成功したと発表した。SOFCからの未反応水素(改質した水素の2割程度)と900〜1000℃の高温空気をMGTに投入する方式で、発電効率は50%を越える。長崎造船所で75kWの発電を確認、06年10月からは200kW級複合発電システムの製造に着手、大容量化と効率化を目指し、早期の実用化を図る。SOFCについては、同社は筒型セラミックス製セルチューブを採用しており、セルチューブを複数本束ねてモジュール化する方式において、高出力化とともに運転時間1万時間にも目途をつけた。07年1月に150kW級SOFCをJパワーの技術開発センターに納入する予定である。(電気新聞06年7月24日、日経産業、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報8月3日)

(3)立命館大
 立命館大学の吉原教授は、小型熱自立クイックスタートSOFCシステムを開発した。燃料極と空気極のガスを燃焼させて固体電解質の温度を制御し、イオン導電性を得られる温度を短時間で保持することにより、従来1〜2時間かかっていた起動時間を30秒以内と大幅に短縮した。既にガス透過型電解質セルを開発済みであり、シール性の高い片持ち支持が可能な円筒型セルのプロトタイプで基礎データの収集や支持体の形成技術などの研究を進めている。家庭用以外に自動車用電源としての利用を想定しており、今後は基礎研究を継続し技術的価値を確認するとともに、共同開発企業を募り実用化を目指していく。(化学工業日報06年7月24日、日刊工業新聞8月11日)
4.PEFC要素技術の開発
(1)東海カーボン
 東海カーボンは、PEFC用高性能カーボンセパレータを開発した。課題であった肉厚を0.13mm(従来は0.3mmの厚みが必要であった)まで薄くするとともに、破断歪1.0以上と機械でのハンドリングが可能な強度特性を実現しているのが特徴である。又直角に近い凹凸の成形を可能とすることで全接触抵抗を低減している。東海カーボンは従来からカーボンセパレータでのパイオニアであり、等方性黒鉛材に独自開発した熱硬化性樹脂を含浸させて硬化処理した樹脂含浸黒鉛材“G347B”は、ガス不透過性などに優れており、PEFC用セパレータとしての標準材料として評価が定着している。同社では、短時間熱圧モールド成形技術による高生産性とリサイクル技術の開発によって、品質特性以外の面でも向上を図っており、今後民生用分野で積極的に利用を展開していく。(化学工業日報06年7月21日、日本経済新聞8月15日)

(2)立命館大学
 立命館大学は、7月20日“FCセンター”を、びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市)に開設した。電極触媒の劣化メカニズムを解明し、その対策技術の開発を目標として掲げているが(NEDO受託)、PEFC単セルの製作から評価までを研究対象とする。同センターは平屋建てで、述べ床面積は約500m2、PEFC単セル発電評価装置、MEA製作装置などを導入しており、06年内に触媒分析装置などを追加導入する予定もある。(日刊工業新聞06年7月21日)

(3)東大とトヨタ
 東大工学部の藤田教授とトヨタ、同社グループのコンポ研究所は、水分をうまく取り除くことのできる新しい電極材料を開発した。新材料はコバルトを含んだ化合物の薄膜で、nmサイズの小さな穴が無数に開いた網状の構造を持っており、穴を通って水分が外へ排出されやすくなっている。薄膜を作るためには、ナノテクの1つである“自己組織化”と呼ばれる技術を使う。自己組織化は原料自らが持つ構造体になる性質を利用するので、複雑な仕組みを必要としない。このため生産コストは安価になると期待される。基礎実験で新素材がPEFCとして動作することを確認した。今後素材を試作して、FCV用として電力が得られるかどうかを確認する。(日本経済新聞06年7月28日)

(4)旭化成ケミカルズ
 旭化成ケミカルズは、PEFCの電解質膜の耐久性と性能を向上させる技術を開発した。フッ素系の高分子構造を見直すことによって、耐熱温度を80℃から100℃に向上し、又耐久性のある材料を高分子に混入することにより、PEFCの耐久性を4万時間に伸ばすことができた。更に電解質膜の水素イオン伝導率は1.5〜2倍になり、PEFCの出力は数十%向上できると見ている。製造コストは現時点では従来のフッ素系膜に比べて割高であるが、量産により遜色のないコストで生産できると予想している。(日本経済新聞06年8月4日)

(5)住友金属工業
 住友金属工業は、PEFC用ステンレス箔セパレーターのプレス成形技術の確立に目途をつけた。厚さ0.2mm、有効面積(ガス流路面積)100cm2のセパレーターの量産に成功したもので、コスト削減に不可欠な順送り方式プレス成形で60枚/分の生産速度を実現、4,000枚を試作した。材料生産では、厚さ0.2mmの薄板で伸び率を45%改善する、初回PEFC起動後の鉄イオン溶出最大量を400ppm以下に抑制する、白金並の表面接触抵抗を実現する、という目標を掲げて開発を進めてきたが、量産工程と材料設計の見直しで、これらの目標を達成した。06年度は本格的な複層セル積層スタックで長時間の性能評価を進めるとともに、実用レベルの面積における送り技術などの改良に取り組む。(化学工業日報06年8月10日)

(6)日清紡
 日清紡はカーボン・樹脂モールド製で高強度な波状形状のセパレータを開発した。同社は人造黒鉛と熱硬化性樹脂を組み合わせ成形性の良い3種の材料を選定し、これを用いた波板形状のセパレータを成形して試験を行った。90℃の温水による浸漬試験では3種とも浸漬初期にやや強度が低下したが、50時間以降は低下することなく、強度保持率95%弱を達成した。又抵抗コスト化に重要な量産法の確立を左右する成形金型の寿命は連続2万ショット成形完了後も異常がなく、成形体断面のテーパーやR形状も全く変化がないとの結論を得た。これにより固有抵抗12mΩ/cm、耐熱性165℃が得られ、これらの性能については最終07年度目標を達成した。(化学工業日報06年8月18日) 
5.定置式PEFCの開発と実証事業
 新日本石油と東芝FCシステムは、それぞれ九州大学伊都キャンパスに定置型PEFCを設置し、06年度中に実証試験を始める。飲食施設向けで営業時間内のみという特定の時間に限定して業務用FCを稼動させる実証試験で、九州大学が企業と連携して導入、福岡水素エネルギー戦略会議が支援する体制をとる。新日本石油のPEFCは灯油仕様10kW級システムで、07年初春を目途に学内のレストランに設置する。MHIと共同で開発したシステムを更に改良した新型機で、水蒸気改質法を採用している。一方東芝FCシステムのそれはLPG仕様1kW級で、07年1月を目途に学内の福利厚生施設(居酒屋)に設ける。福岡水素エネルギー戦略会議がこの実証実験を支援する。(日刊工業新聞06年7月26日、電気、西日本新聞7月27日、化学工業日報7月28日) 
6.家庭用PEFCの開発と実証事業
(1)新日本石油
 新日本石油は7月24日、青森県と共同で、硫黄分を減少させた専用の灯油を利用する1kW級家庭用PEFCシステムの1号機を青森県市内の民間住宅に設置したと発表した。事業は県の“あおもり水素エネルギー創造戦略”の一環で、設備費を同社が、年間6万円の利用料を県が負担する。(朝日、日経産業新聞、河北新報、化学工業日報06年7月25日)

(2)一高たかはし
 LPG販売の一高たかはし(札幌)が家庭用FCの商品化時期を、当初予定の2010年から08年に2年間早める。北海道ガスが同年にも市場投入を見せるなど、競合会社が開発の動きを早めていることに対抗し、独自の寒冷地向けのLPG仕様の機種を使い、06年秋から実証試験を始める。07年には一般住宅で実験する予定で、現在の販売価格650万円を150万円程度にまで引き下げる方針である。(北海道新聞06年8月5日)

(3)村松物産
 村松物産(金沢市)は8月8日、LPガスを使用した家庭用PEFCシステムの実証実験を開始した。金沢市内の社員宅に“ENEOS ECO LP-1”を設置した。(北国新聞06年8月11日) 
7.FCV最前線
(1)トヨタと日野
 トヨタ自動車と日野自動車は7月18日、中部国際空港周辺で運行しているFCバスの営業運行エリアを、22日から拡大すると発表した。7月21日には、中部国際空港内に水素ステーションが設置される。路線バスは空港への乗り入れを実現する他、空港内では貨物地区の循環や旅客ターミナルと航空機を結ぶ“ランプバス”として活用する。路線バスは“知多乗合”が運行、空港内は“セントレア・スカイ・サポート”が運行する。(日刊工業、日刊自動車新聞、化学工業日報06年7月19日、日経産業、中日新聞7月20日)

(2)三菱ふそう
 三菱ふそうトラック・バスはハイブリッドシステムを搭載したトラックのコストダウンを図るため、ダイムラークライスラー(DC)と開発協力する。DCが開発しているFCVやその構成部品などに関する基本技術をハイブリッド車で活用する。(日刊自動車新聞06年8月11日) 
8.水素ステーションの技術開発と事業
(1)太陽日酸
 太陽日酸はFCVへの70MPa対応水素充填用移動式水素ステーションを開発した。水素ステーションは圧縮機(最高吐出圧力90MPa)、蓄ガス器、デイスペンサー(35および70MPaに対応)で構成され、合計912m3の水素を蓄えることができる。最高充填圧力は70MPa、蓄ガス器には炭素繊維強化プラスチック製容器を採用し、金属容器に比べて1/10にまで軽量化した。又デイスペンサーには流量計、流量調整弁などを配置し、充填時の流量制御を実現しており、35MPa対応の乗用車なら8台連続でフル充填することができる。(日刊工業新聞06年7月18日、化学工業日報7月21日)

(2)東邦ガス、太陽日酸、新日本製鉄
 東邦ガスと太陽日酸、新日本製鉄の3社は中部国際空港で、FCバスに水素を供給する水素ステーション(JHFCセントレアステーション)を開設、7月21日に開所式を行った。愛知万博で運用した設備を移設して完成させもので、1日で100kgの水素を供給する能力を持ち、10分以内で水素を満タンにできる。(中日新聞06年7月22日、電気、日刊工業新聞7月24日、日経産業新聞7月31日)

(3)IDEC
 IDEC社は液体水素の製造現場や水素ステーションで使用できる防爆構造のタッチパネル式操作盤を開発した。タッチパネルの電気回路で使う電圧や電流を点火エネルギー以下にするため、独自の絶縁技術を採用しており、万一操作盤内部に水素ガスが入り込んで点火した場合にも、爆発の圧力に耐えるよう容器に凹凸をつけるなど構造が強化されている。(日経産業新聞06年7月31日) 
9.改質および水素生成・精製技術
(1)九州大学
 九州大学の北岡助教授は、水素改質や汎用触媒向けに、低コストと高い加工性を特徴とする“ペーパー触媒”を開発した。パルプ繊維やセラミックス、金属、ガラス、高分子繊維などをマトリックスにして、銅/酸化亜鉛系のメタノール改質触媒を加えて抄紙した後、コンポジット化、焼成したものである。この触媒をオートサーマル改質プロセスに組み込んだところ、大幅な高性能化を達成した。同助教授は今後、1段階改質によるCOフリーの水素製造を目指しており、CO濃度を100ppmに近づける開発を進める予定である。他方、汎用触媒として貴金属系触媒の量を大幅に低減することも可能で、多様な加工性を生かして3年後を目途にエフ・シー・シーと共同で企業化に乗り出す計画である。(化学工業日報06年7月21日)

(2)東京理科大
 東京理科大学の工藤教授は、光触媒と可視光を使って水を水素と酸素に完全分解する手法で、水素の発生量を従来の10倍に高めることに成功した。2つの光触媒は、バナジン酸ビスマスとロジウムを混ぜたチタン酸ストロンチウム。チタン酸ストロンチウムの表面にはルテニウムを付着させた。少量の鉄を混ぜた水の中に、これら2つの光触媒を入れて可視光を当てると、鉄を媒介して電子がやりとりされ、水が完全に分解される仕組みである。実験では水120mLに約0.3mgの鉄を溶かし、光触媒を50mgずつ入れて擬似太陽光を当てた結果、光源1m2当たりに発生する水素の量は180mL/hで従来の10倍を記録した。組み合わせた2つの触媒は520nmの波長まで吸収が可能である。(日経産業新聞06年7月27日)

(3)東京農工大
 東京農工大学の亀山教授らの研究グループは、水素の分離に使うパラジウム膜を薄くできる新しい加工法を考案し、それによって水素を従来に比べて10倍の速度で分離・精製する技術を開発した。これはパラジウムとアルミナ基板からなる厚さ50μmの膜を使うが、パラジウム部分の厚さは従来の1/10以下の1.2μmであり、したがって水素の透過速度が大幅に速くなった。具体的にはアルミナ表面に数十nmの穴を開けて、その中にパラジウムの粒子を入れ、その上に薄いパラジウムをメッキして作製されている。この膜を使い、400℃で水素と窒素の混合気体から水素を分離する実験を行った結果、6.7L/sec・m2の速度で水素を分離することができた。(日経産業新聞06年8月4日)

(4)東京農工大-2
 東京農工大の亀山教授らは、触媒層にCO2の吸収剤を付着することで、エタノールからCO2を発生させずに水素を製造する装置を開発した。開発した装置はステンレス製で、その内部には、厚さ80μmの鉄、ニッケル、クロムからなる合金の層の表面に厚さ40μmの多孔質の酸化アルミニウム層を圧延した金属板が、4枚がはめ込まれている。真中にある2枚の金属板の内側表面にある酸化アルミニウム層には、ニッケル触媒とCO2を吸収するリチウムシリケートと呼ばれるセラミックスの粒子を付着させて、エタノールの通リ道を作った。2枚の金属板の外側にある酸化アルミニウム層にはプラチナ触媒を付着させた。合計で3つのエタノールの通リ道(4枚板の内側)ができる。
 先ず上下のエタノールの通リ道に濃度が30〜40%のエタノールと空気を流し込む。4枚の金属板合金の層に電気を流すと、プラチナ触媒層の温度が500℃になり、エタノールの燃焼反応が起こる。これで反応器内の温度は450〜500℃に保たれる。次に真中のエタノールの通リ道に同濃度のエタノール水溶液を流すと、ニッケル触媒と高温度で反応して水素とCO2が発生するが、CO2はリチウムシリケートに吸収されるので、反応器からは水素のみが取り出せる。1mLのエタノール水溶液から約1.5Lの水素ができると試算している。(日経産業新聞06年8月15日)

(5)テクノバンク
 テクノバンクは、海水に含まれる“にがり(特にMgCl)”を反応促進剤として利用することにより、水素化マグネシウムの微粉体(MgH2)から水素を大量に発生する技術を開発した。同社の水素生成プロセスは、MgH2を加水分解することで8wt%、更にMg結晶間に定着している水素化物から7wt%弱の水素を発生するもので、合計15wt%の水素を生成することができる。他方、MgClは海水中に6水和塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)として存在し、食用にも使われる程安定性が高くて安価であり、反応速度が速いため水溶液の水量による制御が容易にできる特徴がある。今回、常温常圧域で反応が自走するMgClを反応促進剤として選択し、自己発熱によって常温から80℃へ温度上昇させて加水分解反応を促進させた結果、1gのMgH2から1,300cc以上の水素を発生することができた。粉末は1分間、水溶液は20分間と従来に比べて非常に高速で反応が進む。水溶液の濃度で温度を調整すれば、反応速度を制御することができる。同社はカセット化したMgH2を流通させ、ダイレクトウオーター燃料電池(DWFC)や水素エンジンに用いるマグサイクル計画を構想している。(化学工業日報06年8月7日) 
10.水素関連の事業展開
 大阪ガスは天然ガス改質による水素製造装置を使った工業用途のオンサイトビジネスを拡大する。改質装置と精製装置を一体化し、設置面積を半分にまで小型化した水素製造装置“ハイサーブ”を拡販する。装置コストも半分程度に安くなった。更に自動運転、遠隔監視による無人運転が可能な利点を生かし、大ガスがメイテナンスを全て行う契約や顧客が設置費用を負担せずに導入できる仕組みを用意した。(日刊工業新聞06年8月7日)
11.DMFCおよび携帯用マイクロFCの開発
(1)NTTドコモとアクアフェアリー
 NTTドコモは7月14日、ベンチャー企業のアクアフェアリー(大阪府茨木市)と共同で、水から水素を発生させる超小型PEFCを開発したと発表した。アクアフェアリーの独自の水素発生剤や薄膜成型技術を使った発電装置とドコモの充電回路技術を組み合わせた。第3世代携帯電話“FOMA”向けに08年の実用化を目指す。このFCは幅と奥行きが各24mm、高さが70mmの直方体で、重さは45g、少量の水道水とカートリッジ式水素発生剤を入れるだけで水素を発生させ、酸素と反応させてPEFCによって発電する。携帯電話にケーブル接続し、リチウムイオン電池を3回以上充電できるという。(日本経済、産経、東京新聞。フジサンケイビジネスアイ、河北新報06年7月15日、日刊工業、電経新聞7月17日、電気、日経産業新聞7月18日、日経産業新聞8月8日、朝日新聞8月15日)

(2)首都大学東京など
 首都大学東京の金村教授や科学技術振興機構の棟方研究員らは、メタノールの透過を従来の1/10に抑えたDMFC用電解質膜を開発した。微細な穴の開いた無機質膜に電解質を詰めることにより電解質の膨張を抑制し、水素イオンを伝導し易くなっている。具体的には、径が約500nmのポリスチレンの粒子と、粒径が70〜100nmのシリカの粒子を水中で混ぜてフィルターで濾過し、フィルターの上に堆積した粒子を焼成すると、ポリスチレンはガス化してシリカが焼結するが、ポリスチレンがガス化した部分は穴の開いた状態になる。膜の厚さは150μmである。こうして開いた穴の部分に水素イオンの伝導性が高い炭化水素系高分子の電解質を詰めて製作した。高強度のシリカがメタノールによる電解質の膨張を押さえ込む役割を果たし、メタノールが透過しにくくなっている。研究グループはシリカと炭化水素系の材料は安価なため、電解質のコストはフッ素系に比べて1/10にまで低減できるとみている。(日経産業新聞06年7月28日)
12.FC補機類の開発
 メドー産業(東京)は、リングポンプリサーチ(東大阪市)が開発した指先大の小型液体ポンプの販売を始めた。従来製品に比べて大きさが1/10になり、小型化が進むFC分野で普及を目指す。商品名は“マイクロリングポンプ”で大きさは幅1.2cm、奥行き3cm、高さ1.4cm、ポンプが供給する液体の量は0.45〜0.8mL/分で、価格は5,000円。ローターを内蔵したリングの外側にチューブを巻いた構造で、ローターの回転でリングがチューブを圧迫しチューブ内の液体を押し出す仕組みである。(日経産業新聞06年7月24日) 

 ―― This edition is made up as of August 18, 2006――