第121号 大阪地区では水素多角的利用の実証計画
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.海外での国家的施策
4.SOFCの研究開発実績
5.PEFC要素技術の開発研究
6.家庭用FCの開発・実証と事業展開
7.定置用FC大規模実証事業
8.FCV最前線
9.改質および水素生成・精製技術の開発
10.マイクロFC関連技術の開発
11.FCおよび水素に関連した企業活動と製品の紹介
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)NEDO
 NEDOは第2回FC技術開発ロードマップ委員会を開催し、06年FC・水素技術開発ロードマップについての見直しの議論を終えた。性能の追求よりも早期の普及を重要視することになり、定置用PEFCでは2020〜30年頃のシステム製造価格を、05年度版の20万円未満/kWから40万円未満/kWとするなど、より早期の普及を目指した修正を加えた。FCV用では作動温度を高温側のみならず低温側に設定し、温度範囲を−40〜120℃とした。DMFCについては、同年代での目標値を、エネルギー密度1kWh/L、出力密度200mW/cm2、耐久性1万時間弱を目指す。今回の大きな変更は、定置用SOFCについてで、小容量システムは2018年前後に発電効率44%弱(HHV)、耐久性9万時間、システム価格25万円強/kWの達成を見込んでいる。(化学工業日報06年4月28日)

(2)経済産業省
 経済産業省は、“技術戦略マップ2006”を公表した。ガン対策や超伝導など新たな技術領域を設けた他、ナノテクなどの分野で標準化シナリオを作成した。自動車関連ではFCの他、高分子技術を使ったタイミングベルト、セラミックス製ピストリングなど部材開発が盛り込まれた。技術戦略マップは、開発の成果を普及させる政策も含めた”導入シナリオ“、重要技術実用化に必要な要素技術を示す”技術マップ“、および重要技術の実用化に必要な要素技術の開発計画を示す”ロードマップ“の3部で構成される。技術領域は、情報通信、ライフサイエンス、環境・エネルギー、製造産業の4つで、これらの中で、24分野を指定しており、これにガン対策や超伝導、人間生活の3分野が追加された。自動車関連では、高出力スーパーキャパシターや2次電池の高性能・長寿命化などが対象となっている。(日刊自動車新聞06年5月8日)

(3)総合資源エネルギー調査会
 総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会は5月11日の第17回会合で、中間報告骨子案を審議した。今後の新エネ政策の方向性として「新エネと再生可能エネルギーの概念整理」「新エネなどのさらなる導入促進への道筋」「技術開発の重点化」「バイオマス・エネルギー政策の再構築」の4点を挙げた。輸送用バイオマス燃料の導入拡大や太陽電池、FC、蓄電池などの技術開発に重点を置いた今後の新エネルギー導入政策の骨子もまとめた。(電気、日刊工業新聞06年5月12日)

(4)エンジニアリング振興協会と日本自動車研究所
 エン振協とJARIは資源エネルギー庁の補助を受けて06年6月から大阪地区で水素を利用した移動体、定置式FCの実証プロジェクトをスタートさせる。5年間の計画でFC車、FC移動電源車等を走行させ、高圧水素、液体水素の水素ステーションを建設、ステーションから水素を配管で供給し、建屋でのオンサイト発電にも使う予定である。東京地区では10ヶ所程度の水素スタンドを設けてFC車の走行実証を進めてきたが、大阪では水素スタンドのフレキシブルな利用や多角的な実証が焦点となる。参加するのは岩谷産業、関西電力、大阪ガス、ダイハツ工業、栗本鉄工所、日立造船など企業に加えて大阪市や大阪産業大学も参加する。
 水素を燃料とする移動体では、先ず年内にFC自転車を1台製作、最終的には計10台程度を予定している。5〜10kW級の移動電源車(軽トラック)も製作し、マツダの水素自動車やダイハツのFCVも導入する。これらの移動体へは、関西空港に設置する移動式水素ステーションや大阪府庁に設置する高圧水素ステーションから水素が供給される。水素ステーションは、先ず移動体ステーションから始まり、次いで蓄圧機とデイスペンサーを設置したステーションが続き、最後に液体水素ステーションの3ステップでの実施が予定されている。このため、岩谷産業は06年秋までに液体水素貯蔵の移動式ステーションを完成させ、この水素は06年4月に堺市に完成した液体水素製造プラント(容量6,000L/h)から供給される。水素を配管で輸送し、定置式FCで発電と熱利用の実証運転を行う。特に関西空港のステーションでは、07年以降にSOFCの発電実証運転も計画されている。(日刊工業新聞06年5月12日)  
2.地方自治体による施策
 三重県は5月10日、科学技術振興センター工業研究部窯業研究室(四日市市)の敷地内に“三重県FC研究センター”を開設し、野呂知事らが参加して開所式を行った。NEDOによるFC産学連携プロジェクトの研究拠点となる。(日刊工業新聞06年5月11日)
3.海外での国家的施策
 ブッシュアメリカ大統領は4月25日、原油価格高騰でガソリン価格が急騰している問題で、「この夏の戦略石油備蓄(SPR)への原油積み増しを停止するようエネルギー省に指示した」と発表した。大統領は又、ハイブリッド車購入の減税措置強化や、FCVの研究開発に5年間で12億ドルを充てる方針を示した。(産経新聞06年4月26日、フジサンケイビジネスアイ4月27日)
4.SOFCの研究開発実績
(1)関電・三菱マテリアル
 関西電力は4月10日、三菱マテリアルと共同で、800℃以下の低温で動作する出力10kW級SOFC発電モジュールを開発したと発表した。都市ガスを燃料とした発電実験では、作動温度を680〜786℃に保つ熱自立条件において、出力12.7kW、発電効率56%(DC端LHV)を達成した。このモジュールでは、発電スタック(0.8kW級)を16個配置し、発電出力を大容量化するとともに、燃料や空気の流量が均一になるようにスタックやモジュール内部の構造に工夫が図られている。今後はモジュール内の熱バランスを更に改善することにより、発電効率をより高めることを目指す。又06年度にはモジュールを補機類と組み合わせ、同年度末までに10kW級モジュールを核に、電力と熱の利用システムを開発する。更に07年度には長期連続運転試験を実施し、実用化に向けた性能や耐久性などの検証を行う計画である。(日本経済、電気、日刊工業新聞、化学工業日報06年4月11日)

(2)三井金属
 三井金属はセリア系電解質を採用したSOFCにおいて、性能に関しては動作温度600℃で0.9W/cm2の出力密度と、耐久性に関しては1,000時間の連続運転を達成した。このSOFC電解質は、セリア系材料を粉末状にして有機溶剤に分散させ、ペーストにした上で電極表面に塗布しながら1400〜1500℃で焼結して製作した緻密な膜である。(日経産業新聞06年4月17日)

(3)明電舎
 明電舎はアメリカのシーメンスパワージェネレーション社と共同で、シーメンス製5kWSOFCの性能確認試験を同社太田事業所で06年秋から開始する。約1年をかけて都市ガスから水素を取り出す改質装置を日本市場向けに開発する必要があるかどうかを検討する。アメリカと日本では都市ガスの成分が異なっており、発電効率が下がる可能性があるためである。その後に200〜300kW級SOFCの性能確認を行い、早ければ08年度にも日本市場向けSOFC販売会社を両社合弁で設立し、事業化する意向である。工場や商業ビル、病院などへコージェネレーションシステムとして売込むことを考えている。(電気新聞06年5月9日)
5.PEFC要素技術の開発研究
 東海大学の庄善之助教授は、チタンの表面に特殊な手法で炭素膜を形成すことにより、黒鉛製セパレーターと同等レベルの金属セパレーターを開発した。具体的には、4cm角、厚さ1mmのチタン製板の表面に、厚さ0.1μmの炭素膜を形成した構造であるが、400℃以上に加熱したチタン製板の表面に高周波プラズマで分解したエチレンガスを吹き付けると、炭素原子の配列が電気を流しやすい構造となる。炭素膜を形成することによって金属製セパレーターの欠点である耐蝕性が増し、導電性も向上した。庄助教授はチタンよりも安いステンレスの表面に炭素膜を作ることも可能と考えている。(日経産業新聞06年4月25日)
6.家庭用FCの開発・実証と事業展開
(1)三井物産
 三井物産は、家庭用FC技術を持つカナダのベンチャー企業に資本参加し、06年内にも日本市場向けに小型化を実現した製品を開発し、07年から日本市場に投入する計画である。バラードを始め、FCで先行するカナダの企業に開発を委託し、早期の商品化を実現する。出力は1kW級を予定。(フジサンケイビジネスアイ06年4月22日)

(2)荏原バラード
 荏原バラードは、現在の家庭用PEFC大規模実証での機種を大幅に変更し、天然ガス改質型と灯油改質型の耐久性能で4万時間をクリアする実用機の基本試作機を今夏にも完成して試験運転を行う。試作機は東京ガス、新日本石油と共同で開発する。現在の機種では耐久性2万時間を設定し、開発したFCシステムでは実運転で3万時間を越える実績を挙げている。高分子膜に穴が開いたり触媒の性能が衰えるなどの劣化メカニズムは、MEAを導入するバラードパワーシステムズの開発により解明してきた。スタックの寸法も大幅に小型化する予定で、08年での製造コストは、天然ガス改質で120万円/kW、灯油改質で150万円/kWが不可能ではないと予想している。(日刊工業新聞06年4月28日)
7.定置用FC大規模実証事業
 新エネルギー財団は4月26日、家庭用FCシステム普及を後押しするため、14社に補助金交付を決定した。700件の助成枠のうち、採択数が最も多かったのは新日石の301件、次いで東京ガスの133件、大阪ガスが64件と続いた。06年度の“第3期定置用FC大規模実証事業”として選考したもので、1台当たり最大450万円の助成金を交付する。06年度は新たに北海道ガスと日本ガスが交付対象として選考を受けた。又システムメーカーではトヨタ自動車が加わった。灯油を燃料とするシステムの申請では75台を採択した。(日刊工業新聞06年4月27日)
 ジャパンエナジーは、上記実証事業による33台分の補助金交付の決定を受けた。機種はLPG燃料定格出力700W“JOMO ECOCUBE”で、7月上旬から07年2月にかけて設置予定。(化学工業日報06年4月28日)
 九州石油は5月2日、平成18年度大規模実証事業に参加すると発表した。(化学工業日報06年5月8日)
8.FCV最前線
 北海道庁が、05年2月から使用していたホンダの“FCX”のモニター契約によるリース期間が06年4月で終了した。耐久性に問題はなかったが、水素充填設備の無い点が運行上のネックとなった。(北海道新聞06年5月9日)
9.改質および水素生成・精製技術の開発
(1)アメリカDOE
 アメリカのボドマンDOE長官は4月13日、既存の原子炉から安全に水素を取り出す技術開発について、民間企業の提案を募ると発表した。原子炉の運転時に発生する高温熱を利用して水を熱分解し、水素を製造する方式で、最大160万ドルを補助する。水素の貯蔵技術やFCVの長距離走行の開発に対しては、今後3年間で5,000万ドルを投入する方針も表明した。(日本経済新聞06年4月16日)

(2)東工大_
 東京工業大学の大塚名誉教授、山中助教授らは、バイオマス資源から高純度の水素を1段階で製造する新しい技術を開発した。バイオマス原料に水酸化ナトリウム(NaOH)と水蒸気を反応させて水素を得る方式で、副生する炭酸ナトリウムは既存の石灰法でNaOHに再生する。セルロースを原料とした場合、水素生成収率はほぼ100%で、1トンのセルロースから約150kgの水素を生成することができた。この方法によって、バイオマスからCOとCO2を全く含まない高純度の水素を製造することができる。セルロースの場合、微量の200〜400℃の比較的低温で水素が発生し、微量のメタンを副生したが、COやCO2は全く発生しなかった。しかも反応原料に担持ニッケル触媒を添加するとメタンの発生もなく、水素精製率はほぼ100%となった。(化学工業日報06年4月19日)

(3)産総研
 産業技術総合研究所の須田主任研究員らのグループは、水素の効率的な製造に役立つ水素分離膜用薄膜を開発した。この薄膜はパラジウムの層と酸化アルミニウムなどの層の間に隙間を設けた3層構造をしているのが特徴である。水素が膜を透過する速度は、500℃において7.6L/m2/sec(膜面積)で、従来の実績の2倍になる。隙間によって水素が通りやすくなったと研究グループはみており、又隙間がひびを防ぐ構造にもなって150時間以上安定に運転することができた。実用化のためには、透過を更に速くしたり、高価なパラジウムの使用量を減らす必要があるため、今後は銀や銅との合金で作った薄膜の改良研究に取り組む。(日経産業新聞06年4月19日)

(4)東京農大
 東京農業大学の銭衛華助手らは、廃棄された塩化ビニール樹脂から水素を効率よく製造する技術を開発した。塩化ビニール樹脂を廃ガラスおよび水と一緒に反能器に投入し、350〜450℃に加熱する。樹脂が分解され炭化水素系の燃料と塩化水素が発生する。塩化水素は廃ガラスに含まれる酸化ナトリウムと反応して塩化ナトリウムに中和される。この炭化水素系燃料を、触媒を詰め込んだ反応器に入れて700〜800℃の水蒸気を吹き付けると、水素を含む混合ガスが発生するので、これを分離装置に投入して水素のみを取り出すというプロセスである。実験では塩化ビニール樹脂10gから水素10Lを取り出すことができた。従来手法に比べて水素発生量は5倍になった。又塩化水素は存在しないので、水素製造装置が腐食することはない。(日経産業新聞06年5月1日)

(5)宇都宮大
 宇都宮大学の伊藤教授と佐藤助手らは、超臨界の状態を応用することにより、木材に含まれる繊維成分のリグニンから、従来より低い温度で水素を含んだガスを生成することに成功した。工場等での廃熱利用での水素生成が可能になる。具体的には、先ず酸化マグネシウムの表面にニッケルを付着させた触媒を詰め込んだステンレス製反応器に、木材から抽出したリグニンと水を入れた。400℃に加熱、270気圧の圧力をかけると、水が超臨界の状態になりリグニンを分解し、それが触媒の活性によって水素を含むガスが発生する。実験ではリグニン0.1gと水1.8mLから、水素15mL、メタンガス60mLを製造した。リグニンは繊維成分のなかでも特に分解が難しく、これまでは550〜900℃で反応させて水素を含むガスを生成していた。今回の手法を使うと他の繊維成分からも水素を取り出すことも可能と見ている。(日経産業新聞06年5月5日)

(6)九州大学
 九州大学の北岡助教授とエフ・シー・シーが、改質用紙状触媒を開発した。製紙技術を応用して粉末状の触媒を紙状に加工し、この触媒を改質器に詰めてメタノールと水を投入、300℃に加熱すると水素が発生する。水素生成効率は粉末触媒と同等であるが、COの発生量が60%低減した。この紙状触媒は、厚さが1mmで直径20μmの微細な穴が多数空いた構造になっている。製造方法は、粉末状の触媒とセラミックス繊維、炭化ケイ素繊維、パルプ繊維の他、2種類の凝集剤を水溶液に溶かしてから脱水し、紙状にする。350℃で焼成すると、パルプ繊維が除去され、セラミックス繊維の表面に触媒が付着した状態になる。伝熱性の高い炭化ケイ素の繊維を利用したことにより触媒に熱が効率的に供給され、触媒が有効に機能したと研究グループは考えている。(日経産業新聞06年5月9日)
10.マイクロFC関連技術の開発
(1)シナノケンシ
 シナノケンシ(上田市)は4月13日、特にマイクロFCにおいて、燃料の液体を循環させるのに利用できる小型・軽量のマイクロポンプなど新製品2点を開発したと発表した。同ポンプは直径14mm、長さ14mm、重さ9gで、3Vの低電圧でも動作し、最大流量30mL/分の液体を流すことができる。パソコン用FCに組み込まれるようになれば需要が伸びると期待している。もう1つの新製品は、低騒音が特徴の“アウターローター型モータ”で、このモーターを組み込めば製品の小型化につながると述べている。(信濃毎日新聞06年4月14日、日経産業新聞4月18日)

(2)アルプス電気
 アルプス電気は4月13日、圧電アクチュエーター技術により薄型化を実現した“圧電式薄型ポンプ”を開発したと発表した。パソコンやAV機器向けの液冷式冷却システムやFCシステムなどの送液ポンプ用に開発した。圧電子の採用により、薄型・小型・軽量・低消費電力で高い吐出量・吐出力を実現した。流量は無負荷時で250mL/分、外経サイズはポンプが幅34mm、奥行き38mm、高さ8mm、連続動作44,000時間以上、サンプル価格は52,500円、07年9月には月産10万個の生産を予定している。(電波新聞06年4月14日)

(3)日立マクセル
 日立マクセルは4月24日、水とアルミニウムを水素発生源に採用した10W級(最大20W、電圧7.4V)のPEFCを開発し、それによってPCを駆動することに成功したと発表した。出力密度は280mW/cm2で、外形は160mm´100mm´60mm、重量は920gで、DMFCに比較して約1/5に小型化した。水素生成については、同社独自のアルミニウム微粒子化プロセス技術を応用することにより、水素発生量を大幅に増加させ、室温でアルミニウム1gから1.3Lの水素を発生することができる。開発したPEFCモジュールによる実証実験で、アルミニウム20gでパソコンを4〜5時間駆動させることに成功している。今後10〜100W級電源としての実用化と用途検討を実施、07年度にサンプル出荷を予定している。(朝日、日本経済、電気、日経産業、日刊工業、電波、東京、中国、北海道新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報06年4月25日)

(4)米ポリフェノール
 アメリカのポリフェノール社は、DMFC向け炭化水素系電解質膜の実用化に向けた取り組みを加速する。大量生産に備えてフィルム生産、ポリマー合成の両面で、外部企業とのテストに着手した。05年12月に発表した高性能膜では、厚みを45μmまで薄くし、最大出力が80mW/cm2、水の逆拡散は30%向上、水のクロスオーバーは従来品と同程度を確保し、需要家にロール販売を開始している。フィルムについては幅2mまでが可能で、ポリマー合成については2社とテストを行っている段階、今後大型リアクターの設置を検討する。07年までの需要を賄う能力を確保しているが、市場が本格的に立ち上がる08年以降の量産体制の確立と供給体制についての検討を本格化する考えである。(化学工業日報06年4月26日)

(5)東亞合成
 東亞合成は、東大山口助教授が考案した細孔フィリング膜に着目し、かつ吸水性樹脂シート製造に関する技術を適用して、携帯用DMFCにおいて、出力を1.5倍に高めることができる電解質膜を開発した。細孔フィリング膜は、厚さ数十μmのポリオレフィン系の基板に多数開けた直径数十nmの細孔に電解質を詰め込んだ構造で、メタノールの透過を克服することを目的に考え出された。基板が孔に詰め込んだ電解質の膨張を抑える役割を果たし、メタノールの透過による性能低下を防ぐことができる。又フッ素系ではなく石油を原料とするポリオレフィンを基板に使うので、安価に製造できるメリットがある。ただ、メタノールの透過を抑えると、同時に水素イオンの伝導も低下するという問題があった。東亜合成の吸水性樹脂シートは、カルボン酸基を含むゲル状の高分子を利用するが、カルボン酸基を水素イオン伝導性の高いスルホン酸基に変え、これを電解質として使うことにより伝導性を高め、DMFCの出力を向上させることができた。更に吸水性樹脂シートの製造ラインを転用することにより、連続して電解質を均質に詰め込むことが可能になった。これによりフッ素系膜の1/2ないし1/3にコストを低減できると期待している。(日経産業新聞06年5月1日)  
11.FCおよび水素に関連した企業活動と製品の紹介
(1)キッツ
 キッツは流量を自動的に調整する小型自動操作バルブで、半導体、FC、食品機械などの市場装置向けに3つのシリーズを4月下旬から順次販売する。従来の「流す・止める」から「調整・切り替え」に製品の機能を拡大する。(日刊工業新聞06年4月19日、鉄鋼新聞4月21日)

(2)不二製作所
 不二製作所はサンドブラストの技術を応用して、精密研磨や鏡面加工が抵コストでできる技術を確立した。砥粒を練りこんだ微細な弾性体を被加工物に噴射し、自動連続加工ができるのが特徴。FCセパレーターの白金触媒出しのような金属表面の精密切削などに利用可能。(日刊工業新聞06年4月19日)

(3)チノー
 チノーはPEFC単セル用評価装置のミニタイプ“FC5105M”を開発、近く発売する。同装置は40kgと小型軽量で、価格は1式330万円から。同装置の発売に合わせてFC専用インピーダンス測定器“FC−200F”も商品化する。(日刊工業新聞06年5月10日、電波新聞5月11日)

 ―― This edition is made up as of May 12, 2006――

・A POSTER COLUMN
新エネ導入に向けた提言
 新エネルギー財団は4月13日、新エネ導入に向けた提言をまとめた。この提言は主要7分野毎に要望をまとめたもので、FCや太陽エネルギーについては公的施設での率先導入を求め、風力発電では2030年までの導入目標の設定や蓄電池併設時などの規制緩和、水力発電や地熱エネルギーではRPS法の対象範囲見直しやCDM(クリーン開発メカニズム)事業への支援などを要望している。
 FCではPAFCなど100〜200kW級のオンサイト用への支援強化を指摘、公的施設への率先導入、民間施設への導入時に対する補助拡大などを求めた。SOFCについては、実用化に向けた技術開発の支援、普及の阻害要因になっている各種規制の緩和が必要と述べている。(電気、日刊工業新聞、化学工業日報06年4月14日、日刊建設工業、建設通信新聞4月17日)

京都議定書の目標達成は困難
 日本エネルギー研究所は、4月25日に発表した“長期エネルギー需給展望”で、京都議定書に基づく日本のCO2排出削減が困難であると指摘した。エネルギーから発生するCO2の排出量は2010年で1990年比8.3%増を見込み、同0.6%増とする政府計画に比べて厳しい見方を示した。
 同見通しは、産業部門の排出量は90年比で横ばいであるが、家庭など民生部門で30%増、運輸部門で17%増を予測している。同研究所では、国内対策だけでは目標達成は無理であり、途上国での排出削減に取り組む“京都メカニズム”の活用拡大などが必要だとしている。(日本経済、建設通信新聞、フジサンケイビジネスアイ06年4月26日)

水素自動車情報
 マツダは4月21日、水素自動車“RX−8ハイドロジェンRE”を広島市、広島県にそれぞれ1台づつ納車したと発表した。リ−ス方式の販売で、リース代は月額で42万円である。(日経産業新聞06年4月24日)