第120号 携帯用マイクロリアクターの性能が向上
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体での取り組み
3.国際標準規格設定における活動と進展
4.MCFCの事業展開
5.SOFCの開発
6.PEFC要素技術の開発
7.家庭用PEFCの開発と事業展開
8.FCV最前線
9.自動車を除く移動体用PEFCの開発
10.改質および水素生成・精製技術の開発
11.水素ステーションおよび供給プランとの建設
12.マイクロFCの開発動向
13.FC・水素関連の計測・観測および解析技術
14.FC関連補機の開発活動
15.企業活動
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)自動車燃料政策
 政府は自動車燃料政策の見直しに入る。これまで大気汚染や地球温暖化の防止のために、FCVに移行するシナリオを描いていたが、原油価格の高騰や供給不安などを背景に、先ず既存の石油系燃料に混ぜて使用できる新燃料の普及を優先させる。経済産業省が06年5月に纏める“新・国家エネルギー戦略”で、運輸部門の石油依存度を2030年までに現行のほぼ100%から80%に引き下げる目標を打ち出す。具体策は関係省庁などが協議して決めることになるが、GTLやDME、バイオデイーゼルなど、ガソリンや軽油に混ぜて使える各種の新燃料を普及させるほか、ハイブリッド車を家庭で充電できるようにしてモーター走行領域を増やし、燃費を劇的に改善させるなどの対策が有望視されている。こうした燃料政策の転換に伴い“低公害車開発・普及アクションプラン”や各種の優遇税制なども順次見直すことになる。想定される新燃料・新技術は次の通りである。
 ETBE;エタノールを原料とするガソリン添加剤、バイオエタノール;サトウキビやトウモロコシ、廃材などから製造されるエタノールでガソリン混合用、GTL、バイオデイーゼル;菜種油や大豆油などから製造され、軽油混合又は代替用、DME,プラグインハイブリッド;ハイブリッド車を家庭で充電できるようにし、モーター走行領域を20〜60kmへ拡大する技術でバッテリー開発を含む。(日刊自動車新聞06年3月22日)

(2)新エネルギーの定義
 資源エネルギー庁は、現行の新エネルギーの定義見直しに向け、新たな考え方を纏めた。3月24日の総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会で、エネ庁が“新エネと再生可能エネの概念整理案”として提示した。新たな考え方では、従来の新エネに水力や地熱、波力発電、海洋温度差発電を加えたものを再生可能エネと位置付け、この範囲で導入目標を掲げる。この再生可能エネのうち、従来の新エネや中小水力、地熱、有機廃棄物関連を新エネと再定義し、普及への支援が必要なテーマとして整理した。
 他方、従来の需要側の新エネであったFCや天然ガスコージェネレーションなどは、再定義後の再生可能エネや新エネからはずして導入目標も設定しない。これらは“革新的エネ技術開発利用”と位置付け、技術革新の進捗に応じて対象となる技術を精査していく考えを示している。
 こうした概念整理を基本に、エネ庁は需要側の新エネに対する補助対象も06年から見直す。大型天然ガスコージェネレーションについては、既存技術の場合は、補助対象から外す。一定規模以上のハイブリッド自動車の補助も打ち切る。ただ、大型天然ガスコージェネレーションでも新技術を導入する場合や中小のバイオマス・コージェネの補助は継続することにしている。(電気新聞06年3月27日)

(3)RPS法義務量の引き上げ
 資源エネルギ−庁は、RPS法(新エネルギー利用特別措置法)の経過措置を見直し、電力会社や特定規模電気事業者(PPS)に課している09年度までの義務量を引き上げる方針を固めた。10年度の利用目標量は現行の122億kWhに据え置く。上方修正後の具体値を固め、4月17日の総合資源エネルギー調査会小委員会に提示する。RPS法の対象電源として新たにバイオマスガスFCを追加する。(電気新聞、化学工業日報06年3月31日)  
2.地方自治体での取り組み
(1)北海道
 北海道の稚内市と室蘭市で水素エネルギーを活用した都市づくり構想が動き出した。道内の豊かな風力を生かして水を電気分解し、水素を取り出す。稚内市ではこのほど稚内公園にある市有の風車を生かし、取り出した水素をFC(出力4.8kW)で利用する実験を始めた。室蘭市も市の風車が2基ある祝津地区を、風力とFCを組み合わせたエネルギー自立地区にする構想を持っている。(日経産業新聞06年3月14日)

(2)東京都
 東京都環境局は4月3日、太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの利用拡大を目指した“都再生可能エネルギー戦略”を策定した。都内のエネルギー消費に占める同エネルギーの割合を20%程度にまで高めることを目標にしている。FC関連ではバイオマス燃料の導入推進やFCVの普及を挙げている。(毎日新聞06年4月4日)
3.国際標準規格設定における活動と進展
 携帯機器用マイクロFCでメタノールなど燃料カートリッジの航空機内持ち込みを承認する基準に関する審議が、ICOA(国際民間航空機関)やIATA(国際航空運送協会)において基本的な目途が得られたため、07年1月1日からこの基準が実施されることになった。それによると、燃料カートリッジはメタノールを含む引火性液体、ギ酸、ブタンの3種類を認めると共に、最大120mLのカートリッジで乗客1人当たり2個までは、FCシステムとカートリッジともに機内への持込みが可能になった。金属水素化物などは見送られた。航空カーゴとして認められていなかったブタンについては、非金属製カートリッジで容量120mL、金属製が200mLとすることで合意された。IEC標準規格に準拠する旨の表示を付けて安全性を担保する。他方、機内持込の条件については、システムに組み込まれたカートリッジは可能、しかし燃料の充填については、システムに組み込まれていないカートリッジ単体では禁止されている。充電についても機器中の電池を充電するだけの機能を有するものは禁止となるなど、制限がつけられている。今後日本の国内法に沿った規定作成の作業が残されているが、原則的に07年1月から国際航空路線での持ち込みが可能になる。(化学工業日報06年3月29日)
4.MCFCの事業展開
(1)バイオエナジー
 東京都のスーパーエコタウン事業の一環として、バイオエナジー(東京都)が大田区城南島で建設を進めていた食品廃棄物リサイクル施設が竣工し、4月から本稼動を始める。微生物で食品廃棄物残渣などを分解し、メタンガスを主成分とするバイオガスを回収、それを燃料にして出力250kWのMCFC(FCE製)および750kWのガスエンジン(MHI製)を組み合わせたコージェネレーションシステムで発電する。発生した電力の2/3は東京電力に売電し、残り1/3を施設内で消費する。受け入れる対象廃棄物は、ホテル、スーパー、コンビニなどから排出される事業系一般廃棄物と食品加工工場などから排出される産業廃棄物である。固形廃棄物を日量110トン、液体廃棄物を同210トン受け入れ、処理工程で発生する汚泥は乾燥後、セメント原・燃料として利用する。投資総額は約40億円である。(化学工業日報06年3月28日)

(2)シャープ
 シャープは大型液晶テレビの生産拠点として06年10月に完成する亀山第2工場(三重県亀山市)の電力・蒸気の供給源に、アメリカFCE社製出力250kW都市ガス(天然ガス)改質型MCFCを4台、合計出力1,000kWを設置する。発電効率は47%で350℃の蒸気を供給する。中部電力グループのエネルギーサービス社シーエナジー(名古屋市)が所有者となり丸紅系の日本燃料電池がメインテナンスを行う。シーエナジー社はこのMCFCの他、天然ガス燃焼ガスエンジン2,800kW5台(計14,000kW)、工場屋上に5,100kWの太陽電池も設置し、電気と蒸気をシャープへ供給する。(日刊工業新聞06年3月28日)

(3)世界のMCFC事情
 MCFCの開発については、日本ではNEDOプロジェクトとしてMCFC研究組合を中心に約20年間に亘って開発研究が行われてきたが、高圧運転条件においてそれなりの成果が得られたものの、コスト面で商用化の目途が立たず、最後まで残ったIHIも撤退の意向で、電力中央研究所のみがコスト削減の研究を続けている。
 しかし、ヨーロッパでは事業用、産業用でMCFC開発が大きく見直され、燃料電池の中で最も期待される中心的な機種になろうとする勢いである。MTUが独自にユーロセルを開発中で、イタリアでもアンサルドが7サイトで計画を進めている。韓国はナショナルプロジェクトとして4,200万ドルをかけて250kW機を開発する。アメリカでは電気事業者に一定量のクリーンエネルギーの購入を義務付けるRPS法を背景に、コネテイカット州の電力会社“ペンシルベニア・パワー&ライト”が4,000kWのMCFCの導入を計画するなど市場が広がろうとしている。同国では19州がRPS法を実施中で、内6州が都市ガス燃料のMCFCを対象に導入を促進するとしている。
 MCFCを商業生産するアメリカのFCE社は、ドイツのMTUの技術と融合し、両社はこれまで日本(丸紅)を含め世界で250kW機を51台販売し、17台が設置予定になっている。1,000kW機も1台製品化する。日本では8台が順調に稼動しており、耐久性はスタックが5年になるものと見込まれている。現時点でのコストは60万円/kWであるが、40万円が視野に入ってきたと伝えている。(日刊工業新聞06年3月28日)  
5.SOFCの開発
 第1稀元素化学工業はSOFC用スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)の量産に乗り出した。同社は東邦ガスと共同でScSZを電解質に使うSOFCの研究を続けており、ScSZのサンプル品の導電率は、YSZ電解質に比べて2倍を記録している。又技術改良の過程で耐久性などの問題点もクリアし、複数の企業にサンプル出荷を行ってきた。既に東邦ガスなどSOFCの商品化を目指す数社への供給が決定しており、当面年10トン程度で生産、08年度以降での増産を目指す。大阪工場内にパイロットプラントを設置して中量生産には対応できる体制を整えてきたが、今後の増産は新設する福井工場で行う方針であり、将来のScSZの生産は福井に集約する計画と見られる。(化学工業日報06年3月15日、20日)
6.PEFC要素技術の開発
(1)イオネステクノロジーズ
 イギリスのイオネスグループのイオネステクノロジーズは、金属セパレーターのコーテイング技術“PEM coat”を日本市場に本格展開する。04年に同事業の窓口となる事務所を東京都内に設置したのに続いて、顧客への技術サポートを行うテクニカルセンターを大阪府茨木市に開設した。同技術は金属セパレーターの耐腐食性を大幅に向上できるとともに、セパレーター1枚当たりのコーテイング処理コストは将来的に8円まで下げられると試算している。採用が拡大すれば、コーテイング処理拠点を日本に設けることも視野に入れている。PEM coatは無機系のコーテイング剤で金属表面を改質することにより、腐食によるスタック寿命の低下と、金属表面にできる酸化皮膜による接触電気抵抗の増大などの問題を解決できるという。PEFC、DMFC以外に、水電解装置用、水素化ホウ素ナトリウム分解触媒のコーテイング用をラインアップしている。(化学工業日報06年3月28日)

(2)東京都立産業研究所
 東京都立産業研究所とパラマウントエナジー研究所は共同で、シリカゲルやイオン交換樹脂などの耐酸性物質と数十μm単位の触媒粒子を混合してMEAを作成することにより、発電効率が30%高いPEFCを試作した。実験によると電流蜜度400mA/cm2の場合の電圧が約0.6Vとなった。耐酸性物質のついた触媒粒子を正極に塗布し、2層構造の電極を形成することにより、塊と塊の間に隙間ができて、酸素の透過性が高まり、性能が上がったと説明している。(日刊工業新聞06年3月31日)
7.家庭用PEFCの開発と事業展開
(1)松下電器
 松下電器産業は現在大規模実証で一般家庭に導入している機種とはスペックを全く変えた家庭用1kWPEFCを06年秋に具体化する。同社は製造価格が120万円、耐久性で10年間を保証するような低コストで高耐久性をクリアした機種(運転時間;4万時間、起動・停止;4000回)を08年に投入することを目指している。この新しいスペックでは部品の点数を従来の半分以下に抑え、配管はモジュール化することにしている。FCシステムメーカーからの要請を受け、3月には部品メーカー23社が部品の製造コストをどの程度抑えられるかの答えを出すが、この成果を踏まえ補機の標準化などで低コスト化を目指すとともに、メインテナンスも容易にできるようにする。耐久性に関しては、現在の機種のMEAで3年間の保証ができているが、3つの劣化モードによる10倍加速試験で検証を始めている。(日刊工業新聞06年3月20日)

(2)東ガス
 東京ガスは06年4月を目途に改良型家庭用PEFCコージェネレーションシステム“ライフェル”を導入する。約1年間の使用経験から、使用者のニーズに応えて強制発電開始機能を加えるもので、有効効率を向上させる。初期の製品は1日の入浴時間に合わせて自動的に発電を開始するシステムになっており、使用者が日ごとに発電時間を設定することはできなかった。東京ガスは10年間で100万円という費用でFCパートナーシップ契約を結んで設備を提供している。予定通り、東京、神奈川、千葉、埼玉に200台を提供、その半数の100台から運転データ−を収集している。約半年間で得られたデータ−では、発電効率は31%、熱回収効率は45%、総合効率は75%以上であった。更に2年間、計3年間のデータ−を収集するが、同時に負荷をかけることにより4万時間10年間の耐久性を評価する試験方法の確立も進める。(化学工業日報06年3月22日)
 東京ガスは“ライフェル”の導入台数が200台に達したと発表した。(電気新聞06年3月31日、電波新聞4月4日、化学工業日報4月5日)

(3)新日石
 新日本石油は灯油仕様家庭用PEFCシステム第1号機を青森県が選定した一戸建て住宅に設置する。−10℃の環境下でも運転が可能である。今回、県内の一般家庭からPEFCの設置希望者を募集し、選定した上で、県として応募した。(電気新聞06年3月29日)

(4)FC実用化推進協議会
 家庭用FCの設置台数が500台を突破した。500番目の設置者に対してステッカーと記念の盾が送られた。(電気新聞06年4月3日) 
8.FCV最前線
(1)日産
 日産自動車は、700気圧の高圧水素タンクを搭載したFCV“エクストレイルFCV”で航続距離500kmを達成した。2月からカナダのバンクーバーを中心に公道走行試験を開始した。タンクはダイナテイック・インダストリー社製を採用している。カナダでの走行試験は、国内では700気圧に対応する水素インフラが未整備であるためである。(日刊自動車新聞06年3月13日)

(2)大阪産大
 大阪産業大学は“おおさかFCV推進会議”に参加、産学連携を推進し、同大学の持つ水素製造技術やFCマイクロビークル(FCMV)の開発ノウハウを高める。FCMVは自動車工業科を持つ同大学が、学生でも簡単に製作できるFCVを目的に開発してきた。 同大学は推進会議への入会を機に、FCMVの水素センサーや制御機器などを中小企業と共同で製作し、又独自のFCMVを使った公道による走行実証実験を07年度に始める計画である。大阪圏では06年度中に関西国際空港などに水素ステーション設置が予定されており、インフラ整備に合わせての試験計画となる。(日刊工業新聞06年4月6日)
9.自動車を除く移動体用PEFCの開発
(1)海洋研究開発機構
 海洋研究開発機構は、次世代型巡航探査システム“うらしま2号”建造に向けた要素技術開発が第3期科学技術基本計画(2006年〜10年)に盛り込まれたことに対応して、エネルギー効率を大幅に向上させた小型軽量の新型水素・酸素仕様PEFCの開発に着手した。最大航続距離を現行の10倍の3,000kmに高め、支援母船を必要とせず、無人で出港・帰港できる探査機を開発する計画に沿うものである。うらしま2号は、総重量が1号の10トンに対して30トンにする方針で、そのためにも動力源の容量は大きくなる。現行のFCは60℃で54%の発電効率を持つが、新型FCでは60%以上を目指す。又燃料の水素は水素吸蔵合金に蓄え、酸素は高圧タンクに貯蔵する計画である。(日刊工業新聞06年3月23日)

(2)JR東日本
 水素燃料PEFCを搭載した列車をJR東日本が開発、近く試験車両が完成する。試験車両は1両編成、65kWのPEFCを2個搭載し、時速100kmでの走行が可能である。同社が03年に開発したデイーゼル発電機と蓄電池を組み合わせたハイブリッド試験列車“NEトレイン”を改造し、デイーゼル発電機の替わりにPEFCを積み込んだ。(産経、東京、北海道、河北新聞、フジサンケイビジネスアイ06年4月5日)
10.改質および水素生成・精製技術の開発
 原子力研究開発機構は、高温ガス炉(HTTR)を使った水素製造技術“ISプロセス”(ヨウ素と硫黄の循環を組み合わせたサイクル)で、06年度以降、水素製造能力30m3/hに拡大できるパイロットプラントの建設に着手する。これまでの基礎実験では30L/hの水素製造に成功しており、これを1,000倍の容量にして、次期HTTR計画に繋げる方針である。HTTRとの結合では、1,000m3/hを想定している。HTTR自身については、04年に原子力基礎工学研究部門・核熱応用工学ユニット(大洗研究開発センター)において、原子炉(熱出力30MW)出口冷却材温度で950℃を達成している。
 HTTR技術については、アメリカや中国、韓国、フランスが関心を持っている。アメリカはDOEが大型予算を投入し、12年度での原型炉の設計・建設、試験開始を目指しており、中国では03年10MW・700℃を達成、07年には発電商用炉の着工を予定している。(化学工業日報06年3月24日)  
11.水素ステーションおよび供給プランとの建設
 岩谷産業と関西電力子会社の堺LNG(堺市)が出資するハイドロエッジ(大阪市)が約1,000億円を投じて、堺市の“堺LNGセンター”隣接地に建設していた液体水素・空気分離ガス製造工場が、4月1日に営業を開始した。同工場ではLNGの冷熱を有効利用して空気分離ガスを製造し、更にそこで製造された液体窒素の冷熱を利用して液体水素を作る。液体水素の製造能力は6,000L/h(3,000L/h×2系列)で、製造工程で使うLNG冷熱やメタンガスは堺LNGの基地から供給する。液体水素・空気分離ガス(窒素・酸素・アルゴン)は既存の産業用顧客にタンクローリーや導管で販売するほか、次世代FCVへの液体水素供給も視野に入れている。(電気新聞06年4月4日)
12.マイクロFCの開発動向
(1)東芝
 東芝は炭素系燃料から水素を発生させるチップ状の小型マイクロリアクターを開発した。このマイクロリアクターは、手のひらほどの大きさの金属基板に幅150μm、深さ4mmの溝を数十本作った構造で、溝の内側には白金系の改質触媒が付着している。溝に燃料と水を流し込んで、350℃に加熱すると水素が発生する。基板にシリコンやガラスではなく、金属を使うことによって、加工が簡単になり深い溝を作ることができた。DMEを50cc/min、水を20cc/min流したところ、200ccの水素が発生した。メタノールの改質も可能で、又異なる触媒を付着させた複数のリアクターを使うことによって、COの発生量を抑えることもできる。携帯機器用FCとしても使用可能である。(日経産業新聞06年3月24日)

(2)NEC
 NECは開発中のポンプなどの補機を使わないパッシブ型DMFCにおいて、出力密度100mW/cm2を達成した。同社は白金触媒の微細化や触媒電極構造の最適化を進め、04年には70mW/cm2の出力密度を実現、ノートPC一体型のDMFCを開発している。同社基礎・環境研究所の久保統括マネージャーは「触媒担持電極の高性能化を進め、面積4cm2のMEAを使い、10.4Vで05年度の目標である出力密度100mW/cm2を達成した」と語った。又今後の課題については、4円/cm2というコスト目標を示した。(化学工業日報06年4月5日)

(3)カシオ
 カシオ計算機は、ノートパソコン向けのマイクロPEFCにおいて、最大の課題であったチップ型メタノール改質器の性能を実用レベルに向上することに成功した。今までは改質器の作動時間が遅く、パソコンの瞬時立ち上げが困難であったが、新型のチップ型改質器は従来の1/300である6秒で作動できるようになった。1年後にサンプル出荷を始める予定。開発した改質器を使えば、現在のノートパソコンに一般的に使われているリチウムイオン電池と同じ大きさで、20時間の連続運転が可能になると予測している。(日本経済新聞06年4月7日)
13.FC・水素関連の計測・観測および解析技術
(1)東レ
 東レの研究開発子会社である東レリサーチセンターは、PEFCの炭素電極に付着した白金触媒の様相を3次元観測できる技術を開発した。白金の無駄な使用を発見するのに役立つと思われる。新技術は電子顕微鏡で2次元観察した画像を組み合わせることによって3次元の立体画像を作る手法である。具体的には、先ず電極を電子線が透過する数十nmに薄膜化する。次いで薄膜化した電極を時計回りと反時計回りにそれぞれ70度回転させ、1度ずつ電子線を当てて2次元画像を撮影する。140回撮影して得られた画像をつなぎ合わせて3次元画像を作成する。撮影にかかる時間は合計90分、電極が傷むのを防げるので、正確な観測が可能になり、又画像ソフトを改善したことにより、2次元画像をつなぎ合わせる精度が高まり、1nmレベルまで詳細に分析できるようになった。(日経産業新聞06年3月29日)

(2)フルーエント・アジアパシッフィク
 フルーエント・アジアパシッフィクは、計算流体力学(CFD)の新しい応用分野としてFC分野への適用を推進する。SOFCとPEFCのそれぞれに対応できるシミュレーションを含む専用解析モジュールを用意しており、実験的な手法では読み取れない詳細な部位での流体や熱の流れ、電気化学反応などを可視化することができる。特にSOFCでは高温のために実験による測定自身が困難であり、シミュレーションでは電池内部における流体の流れや熱輸送・物質輸送を考慮して、電解質・電極・気体化学種の界面で起こる電気化学反応を解析することができる。又PEFCでは、水素透過膜と触媒層、ガス拡散層などの周辺で起こっている水輸送、拡散、浸透抗力、反応熱などの代表的な物理現象を考慮することが可能になる。(化学工業日報06年4月3日) 
14.FC関連補機の開発活動
 アルプス電気は、携帯機器用マイクロFC向けのマイクロポンプとマイクロバルブの開発を進めている。燃料となるメタノールなどの液体をシステム内に送り込み制御するための補機で、最適化設計と精密加工技術によって機器の小型化を図った。マイクロポンプ性能はメタノールなどの液体4mL/minの流量が可能で、大きさは直径6.0mm、長さ24.0mmを実現し、マイクロバルブについては直径3.5mm、長さ10.3mm(ノズル部を除く)のように小型化した。又自吸式で且つ低電圧の電磁駆動方式を採用しているので制御が容易である。(日刊工業、電波新聞06年3月24日、日経産業新聞3月27日)
15.企業活動
 新日本石油は、公益信託方式で水素エネルギーに関する基礎研究に助成金を支給する。営利を目的としない国内研究機関が対象で、1件当たりの上限は1,000万円、新日石は総額15億円を信託財産として拠出する。(毎日、日本経済、産経、日経産業、日刊工業、中国新聞06年4月5日、電気新聞4月6日)

 ―― This edition is made up as of April 7, 2006――

・A POSTER COLUMN

第3期科学技術基本計画エネ分野の推進戦略案
 総合科学技術会議が策定作業を進める第3期科学技術基本計画で、エネルギー分野の推進戦略案が固まった。3月10日に行われた同会議の基本政策専門調査会エネルギー分野推進戦略プロジェクトチームで、重要な研究開発課題として39件を選定した。その中から精選した“戦略重点科学技術”は、次世代軽水炉、高速増殖炉(FBR)、原子力安全、FC、太陽光発電、石炭ガス化、省エネ都市システムなど14件に絞り込んだ。(電気新聞06年3月13日、16日)
 特にエネルギー消費量の大きい自動車分野の脱石油を進めるため、FCやリチウムイオン電池、キャパシターなどの新たな電池を活用した次世代自動車の普及を狙う。FCVについては耐久性やコストなど極めて具体的な目標値を設定し、CO2削減に役立てたいとしている。(日経産業新聞4月3日)

水素自動車の開発動向と事業展開
(1)BMW
 ドイツBMWは、燃料に液体水素を使用し、水素をエンジンで燃焼する水素自動車の量産モデルを、07年までにドイツ国内に投入する。既に車両品質の最終チェックや政府の認証取得などの最終段階に入っており、これが完了次第、企業や官庁に向けてリース形式で納入を始める。又ドイツに次いでアメリカ市場で販売することも決めており、日本での販売も検討している。BMWではFCVよりも水素自動車の方が、動力性能の高さや開発コストの低さで、優位性があると判断している。(日刊工業自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ06年3月17日)

(2)マツダ
 岩谷産業はマツダが開発した水素自動車“RX−8ハイドロジェンRE”をリース購入し、3月23日に大阪府堺市で納車式を開催した。マツダの田中執行役員は「コストと性能の面で、水素を使う自動車の中では実用化に一番近い」と強調した。(日経産業新聞06年3月24日)

(3)岩谷産業
 岩谷産業は、マツダの水素自動車第1号車をリース購入したことにより、水素燃料の低公害車は既に所有する2台のFCVに加えて3台になる。06年度から関西国際空港内で水素ステーションの運用実験が計画されているが、この実験に同社も参画し、空港内の実証走行に使用する。大阪府堺市の同社グループ企業“ハイドロエッジ”では、4月から液体水素製造プランと(生産能力6000L/h)が営業運転を始める。(フジサンケイビジネスアイ06年3月30日) 

“True Nano(真のナノ)”
 第3期科学技術基本計画では、ナノテクノロジーの内、産業や社会に変革をもたらす技術を“True Nano(真のナノ)”と定義し、これに重点投資をするが、総合科学技術会議によると、“真のナノ”とは「不連続な進歩、すなわちジャンプアップが期待できる」の意味で、「大きな産業応用が見通せる」という特徴をもつことのようである。具体的なテーマの1つに、“クリーンエネルギーのコストを削減する材料の開発”が挙げられているが、この内容と目標としては「2010年までにFCVの航続距離を400km、耐久性を3,000時間にまで伸ばし、FCのコストを5,000円/kWまで低下させる」と記されている。もう1つのテーマに“資源問題解決の決定打となる材料の開発”があるが、この目標は「2015年までに希少元素の機能を担う代替技術の開発」となっている。(日経産業新聞06年3月28日) 

電気自動車についてのトピックス
 神奈川県の松沢知事は3月27日に、慶応大学新川崎タウンキャンパスを訪問し、電気自動車(EV)“エリーカ”に試乗した。エリーカ実用化プロジェクトを纏める同大学の吉田教授がEVのメリットや普及の意義を強調した上で、「動力源の大型リチウムイオン電池は、現在人工衛星などの特注で高額であるが、小型は携帯電話にも使われているので、需要を創って大量生産すれば安くなる」などの課題と解決策を説明した。実際にハンドルを握った知事は「いま車メーカーの環境対策車としてFCVが注目されているが、リチウムイオン電池の方が期待が持てる」とEVの将来性に関心を寄せた。(神奈川新聞06年3月28日)
 三菱自動車はEV開発をクリーンエネルギー戦略の中心に据えた。小型車“コルト”の後輪に2つのインホイールモーター(車両のホイール部に内蔵したモーター)を装着し、リチウムイオン電池で駆動する“コルトEV”を作り、05年5月に“MIEV(ミツビシ・インホイール・モーターEV)”として披露した。
 05年10月から発売した“アウトランダー”と06年1月から売り出した軽乗用車“i(アイ)”が好調なのを受け、06年内にも“アイ”にリチウム電池を搭載したデモを計画している。EVの開発には富士重工業なども取り組んでいるが、三菱自はインホイールモーターに特徴がある。三菱自はEVの実用化にはエネルギー容量の大きいリチウムイオン電池が必要と考え、三菱化学の協力を得てその開発に取り組んできた。150kgのリチウムイオン電池に1回充電して走れる距離は150kmで、ニッケル水素電池の約2倍になる。2010年にはこれが240km位に伸びる見通しである。
 三菱自の田保環境技術部長は「EVはFCVよりも市販時期は早く、クリーンカーとして現実的。今後信頼性の確保とコストダウンに力を入れる」と話している。事実EVはCO2排出量でガソリン車の約1/3、家庭の引き込み電力で充電できるので、燃料代はガソリン価格の1/3ですむ。
 自動車各社は、アメリカ・カリフォルニア州が1998年からZEVの投入を義務付けたのをきっかけに、EVの開発に取り組んだが、実用化が間に合わないことから、ハイブリッドカー4台をEV1台として代替を認めるようになった。(日本経済新聞06年3月27日)