第119号 携帯用メタノール燃料の機内持込容認へ
Arranged by T. HOMMA
 1.国家的施策
 2.地方自治体による施策
 3.FC関連国際標準・規格制定の動き
 4.MCFCの研究開発
 5.SOFC技術開発
 6.PEFC要素技術の開発
 7.家庭用PEFCシステムの実証研究と実務指針の策定
 8.FCV最前線
 9.水素ステーションの建設
10.改質および水素生成・精製技術
11.水素貯蔵・輸送技術の開発
12.DMFCおよびマイクロFCの開発
13.水素・FC関連計測技術の開発と事業展開
14.FC関連補機類の技術開発活動と成果
15.市場規模予測
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)国交省
 国土交通省は2月7日、愛知万博の瀬戸会場−長久手会場間で運行されたFCバス(63人乗り)を路線バスとして走らせる実証試験を、3月から中部国際空港周辺の愛知県常滑市や半田市で始めると発表した。バスなど大型のFC車に関わる基準を整備する事業の一環で、試験を通じて安全性能や環境性能のデータを集める。運行を知多乗合に委託する。(日刊自動車、中日新聞06年2月8日)
 国土交通省は3月2日、中部国際空港でFCバス運行開始式を開いた。同省久米技術安全部長が挨拶した。(中日新聞3月3日、日刊自動車新聞3月8日)

(2)経産省と大阪府
 水素燃料の供給システムを整備し、FCを使った車椅子、電動カート、アシスト付自転車、非常用電源などの試作品のモニターを一般ユーザーに求める経済産業省の実験が、大阪府内で06年度からスタートする。モニターの意見を基に、試作品の改良を重ね、5年計画での市場化を目指す。計画では、06年度に府庁近くにある府用地と関西国際空港にFCV用水素ステーションを設置、更に車椅子など福祉関連機器に対応するための水素ボンベを定期的に宅配する移動式の供給システムを整備する。初年度には水素ステーションの建設費など約3億円を投入する。(産経新聞06年2月18日、日刊工業新聞2月27日、3月1日)

(3)経産省JHFCプロジェクト
 JHFCプロジェクトは、3月6日に東京ビッグサイトで開くセミナーにおいて、FCVの総合効率(Well-to-Wheel Efficiency)を公表する。(日刊自動車新聞06年2月21日)
 3月6日、“JHFCセミナー”において、総合効率(Well-to-Wheel)が公開された。JHFCで専門のワーキンググループを設置し、国内外の文献調査や国内で行われている実証実験データ−を活用、公式に認められる日本版の総合効率を試算してきた。試算対象は、ガソリン車とデイーゼル車(ハイブリッドを含む)、天然ガス車、電気自動車、FCVで、内燃機関や電気自動車は現状技術、FCVは2010年頃の性能向上を見越して算出した。水素の原料としては、原油やバイオマス、風力発電など8種類を想定した。試算の結果、最も効率が高いのは電気自動車となったが、JHFCでは「1充電当たりの航続距離など、車としての総合的な評価が必要」と指摘、総CO2排出量も含めて、デイーゼルハイブリッド車やFCVの優位性が明らかになった。(日刊自動車新聞06年3月7日)
2.地方自治体による施策
(1)名古屋市
 名古屋市は06年度から、市内の公共施設の発電用に順次FCを設置する。愛知万博で注目を浴びた最新の環境技術を市が率先して導入し、一般での普及を後押しする。新年度当初予算に約1,000万円を盛り込んだ。環境省がその1/2を補助する。(中日新聞06年2月14日)

(2)山梨県
 山梨県は06年度から、山梨大や県総合理工学研究機構、東京電力山梨支店や東京ガス交付支社など民間企業と共同でFCに関する技術研究に取り組む“都市エリア産学官連携促進事業”をスタートさせる。総事業費4億5,000万円の内2/3に当たる3億円程度は国が負担する見通しで、残る1億5,000万円の半額を県、残り半分を同大と企業などが負担する。山梨大を研究の中核機関と位置付け、3年間で水素の生成や貯蔵、スタックの開発まで一貫した研究開発を進める。(山梨日日新聞06年2月16日)

(3)神奈川県
 神奈川県産業技術総合研究所はFCの電流、電圧などの発電性能を測定する評価装置を導入し、依頼試験の受託を始めた。導入した装置は、東陽テクニカ製“GTF−MSG−01−KS”で、測定範囲は0〜100A。依頼試験費用は7,080円/時間である。(日刊工業新聞06年2月27日)

(4)東京都練馬区
 東京都練馬区は06年度から、家庭にFCの設置を促す支援制度を設ける。既にFCを利用している世帯を対象に、使用状況などのデータ提供と引き換えに、年間5万円を支給する。CO2の排出削減が目的。(日刊工業新聞06年3月9日)
3.FC関連国際標準・規格制定の動き
 マイクロFC用メタノール燃料カートリッジの航空機内持込が07年にも許可される見通しになった。カナダのモントリオールで05年秋に開かれた国際民間航空機関(ICAO)の審議会で、200mL入りカートリッジ2本の航空機客室内への持込を可能にする基本方針が決まった。カートリッジの構造など世界規格は、今後IECで議論されるが、重要なのは安全性と互換性の関する規格である。又最終的に持込を許可するかどうかは各国の判断に委ねられるため、国際線に関しては持ち込めない便の出る可能性も残されている。(日経産業新聞06年2月17日)
4.MCFCの研究開発
 電力中央研究所は、エネルギー技術研究所に数kWのMCFC製造設備を設置し、新フェーズのMCFC実証研究に乗り出した。商品化のため、コストの大幅低減策の抽出を狙ったフォローアップ研究である。日立製作所、IHIと素材メーカー、三井物産も参加している。原料のニッケルとアルミ酸リチウムを調整してスリラー化しそれをテープに成形して乾燥、1000℃で焼成して電極板、電解質板、電解質に仕上げる技術を開発し、数kWのMCFCを製作し実証することを計画している。世界ではアメリカFCE社がMCFCを40箇所に設置、ドイツのMTUも導入を強化しようとしており、ヨーロッパでは分散電源の中核になる可能性が高まっている。韓国ではポスコが生産を視野に入れ、南東電力が導入を計画している。(日刊工業新聞06年3月6日)  
5.SOFC技術開発
(1)日本大学
 日本大学の野村助教授はアメリカ・イリノイ大学と共同で、SOFC用YSZ電解質の厚さを5μmまで薄くし、かつ安価に製作可能な技術を開発した。具体的には、YSZの微粒子をエタノール中に浮遊させた状態で電極に吹きつけた後、1300℃に加熱することにより、粒子が結合して緻密な薄膜を作ることができた。試作品は500円玉位の大きさであるが、10cm角の実用レベルにも応用可能と考えている。従来法と異なり、真空状態を作る必要がないので、同助教授は「製造コストの大幅な低下が見込める」と期待している。(日経産業新聞06年2月6日)

(2)日本ガス協会
 日本ガス協会は、SOFCを一般家庭と業務用で設置するための規制緩和と、PEFCの一層の規制緩和や大幅なコストダウンを目指した機器の標準化に向けたFCの運転に乗り出した。(日刊工業新聞06年2月28日)

(3)三井金属
 三井金属は、低温動作可能な高性能SOFCを開発した。電解質にセリア系材料を使う一方、電解質の薄膜化により内部抵抗を低減、作動温度600℃で0.9W/cm2の出力密度を達成した。又電解質膜の緻密化により400時間以上の耐久性(600℃、0.4A/cm2の連続付加)も実現している。具体的には、酸化ニッケルと酸化サマリウムをドーピングしたセリア(SDC)の混合体を用いて、気孔を微細に制御した多孔質体の基板を作成、これにSDC電解質膜用ペーストをスピンコートし同時に焼成することにより緻密で密着性に優れた薄膜型セルを試作した。実験ではアノードガスに3%加湿水素、カソードに空気を使用、又集電体についてはアノード側には金メッシュを、カソード側にプラチナメッシュを用いて、IV特性およびインピーダンス法により性能を評価した。今回の実験では直径10〜20mmの小型セルを使用したが、現在50〜100mmの大型セルを試作中で、耐久性向上についての検討も行っている。(化学工業日報06年3月9日)
6.PEFC要素技術の開発
(1)山梨大学
 山梨大学クリーンエネルギーセンターは2月7日、低コストで耐久性を持つ電解質膜を開発したと発表した。炭化水素系の素材を使用、生産コストは数千円/m2で、耐久性については5,000時間のテストをクリアした。(日経産業新聞06年2月8日、化学工業日報2月9日)

(2)旭硝子エンジニアリング
 旭硝子エンジニアリング(千葉市)は、PEFC向け加湿器を開発、商品化を急いで06年末から07年初めにかけて受注活動を始める方針を決めた。同社の“中空糸膜式ガス加湿器”は、既に製造販売している除湿装置を利用して開発したもので電源不要である。装置内部に内径約0.8mmの樹脂管を約300本納めた構造で、水素ガスを流すと管外部から水蒸気を取り込み、湿度80〜90%以上の湿潤水素ガスを生成する。樹脂材料には、ほぼ水蒸気だけを透過するフッ素系非多孔質膜が採用されており、管に穴がないため、加湿中に水素ガスが外に漏れる心配はない。燃料タンクとセルの間に組み込むだけで、簡単に取り付けられる。(日刊工業新聞06年2月23日)
7.家庭用PEFCシステムの実証研究と実務指針の策定
(1)富士電機、西部ガス、九大
 富士電機アドバンストテクノロジーや西部ガス、九州大学の3機関は、家庭用FCコージェレーションの共同研究に取り組むと発表した。(西日本新聞06年2月11日)

(2)道立北方建築総合研と新日石
 道立北方建築総合研究所と新日本石油は2月10日、灯油を使った家庭用PEFCシステムの実証実験を、旭川市内の同研究所内で始めた。氷点下10℃以下の寒冷地で運用したデータを収集する。(北海道新聞06年2月11日、電気新聞、化学工業日報2月13日、日経産業新聞2月20日、日刊工業新聞2月22日、建設通信新聞2月24日)

(3)出光興産
 出光興産は2月27日、全国21県33ヶ所の一戸建て住宅で、LPGを燃料とする家庭用PEFCシステムの運転を開始したと発表した。出力は700W。(日経産業新聞06年2月28日、化学工業日報3月2日)

(4)石油連盟
 石油連盟は、石油系FCを一般家庭に設置する際の実務指針を、石連の設置基準として策定した。灯油仕様FCの本格的な市場投入が見込まれる中で、設置地域の広がりで地方により異なる規制・行政指導を受ける可能性もあることから、統一した設置基準を策定することで設置の円滑化に繋げる意向である。石連の“石油利用FC専門委員会”が“基準査定委員会”を設置して作業を進めた。項目は、安全対策、設置・接続、燃料遮断・配管、施行、騒音、系統連系協議、引渡し検査などから構成されている。各社の実証設備設置経験や既存法令との整合性、アメリカ防火協会などの海外規格も参考にした。JEMAが検討しているFC全体基準へ反映される効果などを期待している。(化学工業日報06年3月8日)  
8.FCV最前線
(1)トヨタとGM
 トヨタ自動車とGMは、99年から続けてきたFCV開発に向けた共同研究を、06年3月末で打ち切る方針を固めた。ハイブリッド車など既に商用化した技術の普及を優先する。又トヨタ、GM、エクソンモービルの3社がFCの燃料に関する技術提携を解消していたことも明らかになった。(朝日新聞06年2月22日、読売、毎日、日本経済、東京、中日新聞3月3日、フジサンケイビジネスアイ、読売、朝日、毎日、産経、日本経済、日刊自動車、中日、中国、西日本新聞3月4日、日経産業新聞3月6日)

(2)キネテイック
 イギリス貿易産業省の財政援助を受け、キネテイック社はモーガン・モーター・カンパニーなどの企業やオックスフォード、クランフィールド両大学と共同で、水素燃料スポーツFCV”LIFECar”の開発に着手した。モーガン社の”Morgan Aero 8”モデルを基本に、キ社のPEFCを搭載する。車体軽量化や新規の設計概念により効率は高く、PEFCの出力は他社の車に比べて低くなっている。(日経産業新聞06年2月23日)

(3)トヨタと日野
 トヨタ自動車と日野自動車は2月27日、両社が開発したFCバス“FCHV−BUS”を3月9日から22日まで、中部国際空港周辺で地元ガス会社“知多乗合”の協力により営業運行すると発表した。愛知万博で会場間輸送に利用したバス1台を、知多乗合に貸与し、常滑駅―知多半田駅間を1日1往復する。国土交通省の“FCV実用化促進プロジェクト”の一環。(日経産業、日刊工業、日刊自動車、西日本新聞、化学工業日報、フジサンケイビジネスアイ06年2月28日)

(4)JARI
 JARIはFCVの総合効率(W-t-W)を発表した。1km走行に要する1次エネルギー量で、FCVがガソリン車に比べて40%少なく、CO2排出量も60%程度削減した。現有するトップレベルのFCVおよび水素スタンドを使って効率を求めた。(日刊工業新聞06年3月9日)
9.水素ステーションの建設
(1)出光興産
 知多市の出光興産愛知製油所で、副生ガスを原料とするFCV向け水素を製造・出荷する研究設備が完成した。専用車両(移動式水素ステーション)で水素を輸送し、県や名古屋市、出光が所有するFCVに供給する。(財)石油活性化センターが出光と太陽日酸の協力を得て造った。事業費は約3億円。(日経産業、中日新聞、化学工業日報06年2月8日、日刊工業新聞2月10日)

(2)日立インダストリイズ
 日立インダストリイズは、FCV用水素ステーション向けに、圧縮能力が従来製品比で15倍の水素圧縮機を開発した。トラックがタンクに入れて運んできた水素を0.6MPaで吸い込み、100MPaにまで圧縮してステーションの貯蔵タンクに受け渡す。圧縮工程は5段階で、能力と安全性の両方に配慮した。トラックは20Mpaの水素をタンクに入れて運んでくるので、06Mpaの低圧で吸い込むことにより、トラック側タンクの水素をほとんど残らず吸い込める点に特徴が認められる。又圧縮機吐出流量は300m3/hを記録した。価格は当面1億円以上になる見通しである。(日経産業新聞06年2月17日)
10.改質および水素生成・精製技術
(1)日本特殊陶業と東ガス
 日本特殊陶業(名古屋市)は2月8日、都市ガスから水素を取り出す製造装置の部品を東京ガスと共同開発したと発表した。部品はチューブ状の多孔質セラミックスで、水素を分離する触媒を管内に塗装しており、従来の金属製に比べて装置の大きさが約1/6になる。07年度中に東京ガスと共同で性能試験を行い、実用化を目指す。(日刊工業、中日新聞06年2月9日)

(2)日揮
 日揮はFCV車載用DME改質システムの開発を推進する。同社は03年度からJOGMECの委託を受け、大阪ガス、MHI、三菱ガス、ルネッサンス・エナジー・リサーチと共同で、車上型30kW級低温水蒸気改質システムの開発を実施してきたが、06年度末に完了を予定している。DME改質は硫黄やハロゲン化合物などの不純物を含まず、400℃以下の低温で改質ができるため、システムを小型化しやすいという利点がある。日揮は上記プロジェクトで外部加熱型水蒸気改質システムの設計・試作・評価を担当した。(化学工業日報06年2月15日)

(3)工学院大学
 工学院大学の雑賀教授らの研究グループは、アンモニアから水素を製造する装置を開発した。開発した装置は先ず液体のアンモニアの圧力を下げて気化、酸化アルミニウムをニッケルで被覆した触媒の下で800℃まで加熱すると、アンモニアが分解して水素と窒素に分解する。残ったアンモニアを水に溶かして取り除いて、水素と窒素の混合ガスを抽出する。窒素のみが混入した水素ガスは、FC燃料として利用できる。実験では1〜5Lの液体アンモニアから1.5〜7.5L/分の割合で水素を生成することができた。化石燃料からのアンモニア自体の合成はCO2を発生するが、排泄物などを原料とする場合にはCO2の発生はないので、CO2排出を抑えた水素生成が可能であると同教授は話している。(日経産業新聞06年2月20日)
11.水素貯蔵・輸送技術の開発
 アメリカ・ブラウン大学は、ヒドロキノンを使った新しい水素吸蔵物質を開発した。ヒドロキノンに希少金属のロジウムを結合させた化合物は、表面にスポンジのような微細な孔が空いており、水素を蓄えられる。水素吸蔵合金と比べて軽いのが利点である。(日経産業新聞06年3月2日)  
12.DMFCおよびマイクロFCの開発
(1)神奈川県産業技術総合研究所
 神奈川県産業技術総合研究所は曲げられるマイクロDMFCを開発した。マイクロアレイ型DMFCをポリマー基板に形成した構造で、曲げたまま発光ダイオードの点灯に成功した。このマイクロアレイ型DMFCは、微細穴にFCを詰め込んでアレイ(格子)状に並べたものである。今回は縦4cm、横1.5cm、厚さ0.02cmのポリサルフォン(PSU)基板に、直径0.05cmの穴を開け、10個のDCFCを直列に配置して3mW/cm2の出力密度を得た。曲がった状態でも発電性能はほとんど変わらず、1,000回曲げても徐々に出力が減衰するものの、起電力に変化が無いことが実証できた。プラスチック基板とドリル加工の技術で造れるので、製造コストは既存のマイクロFCよりも安い。将来は射出成形での製造も可能になると予想している。(日刊工業新聞06年2月24日)

(2)物質・材料研究機構
 物質・材料研究機構エコマテリアル研究センターの森主席研究員らは、携帯用マイクロDMFCの高性能化とコストダウンに繋がる新しい電極を開発した。研究グループが開発した電極は、先ず埋蔵量がルテニウムに比べてはるかに豊富な酸化セリウムに着目、酸化セリウムを直径数十nmの球状結晶にする独自技術を利用して創った白金の微粒子とセラミックスからなる複合電極である。電流密度が白金・ルテニウム合金の1.5倍となり、これを電極に使えば希少ルテニウムを必要としないのみならず、高性能化によって白金の使用量も削減できる。白金を更に微細な粒子に加工することにより、2〜3倍の性能アップも見込まれると研究者は語っている。(産経新聞06年3月6日)

(3)東大
 東京大学の山口助教授は、体内の糖分グルコースで発電するバイオFCで、カーボンブラックなどで多くの電子が付着するような電極表面を考案し、電気を10倍効率よく取り出す技術を開発した。携帯電話向けに利用できると期待される。具体的には、電極表面に直径30nmのカーボンブラック粒子と、グルコースから電子を引き出す酵素を持つ高分子からできた層を重ねた構造であり、電子伝導性に優れたカーボンブラックを使うと、速やかに電子を電極に運ぶことが可能になる。酵素量もこれまでの1万倍になった。電極1cm2当たりの電流量は3mA/cm2で、従来の10倍である。高分子の種類を変えれば、数百mA/cm2の電流密度を得ることも可能と見ている。(日経産業新聞06年3月9日)
13.水素・FC関連計測技術の開発と事業展開
(1)シチズン
 シチズン時計は、水素漏洩監視センサーとして使用可能な接触燃焼式の小型ガスセンサーを開発したと発表した。コイルドコイル(2重らせん)構造で、耐久性は10年、水素ガス検知の応答時間が約2〜3秒で、本体ケースの素材を全て多孔質セラミックスにしたため耐熱特性が高い。サンプル出荷(価格3,000円)を開始した。(日刊自動車新聞06年2月4日、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報2月7日、日刊工業新聞2月8日、電波新聞2月21日)

(2)横川電機
 横川電機は自動車用FCに関するデータ取得を、走行試験中に現場測定できるポータブルタイプのFC用ロギング装置“MW100”を商品化した。−20℃から60℃の温度範囲に耐え、モジュールの組み合わせで測定環境を構築、更に組みあがったものをデスクトップで使用できるような仕様になっている。(化学工業日報06年2月7日)

(3)東工大
 東京工業大学の平井教授は、MRIを用いて稼動中のFC内水分濃度分布を計測する技術を開発した。市販のMRI装置を用い、スピンエコー法で計測、電池出力の増加に伴い、アノード側の水分量が低下していく状態を可視化した。発電量の増加により随伴水の量が増加し、アノード側から水分が持ち去られたためとみている。同教授はPEFC電解質膜の含水過程を画像化することにより、反応水の40%も膨潤化することを発見した。固定化されていることが、高含水状態を阻害する要因となっていると分析している。又ガス供給流路内水蒸気濃度について、半導体レーザー赤外吸収光分析法により非接触での計測にも成功した。(化学工業日報06年2月9日) 
14.FC関連補機類の技術開発活動と成果
(1)キッツ
 キッツは最高許容圧力33MPaの高圧ガス用ボールバブルを開発する。次いでFCV向けに水素ガス70MPa用高圧バブルも開発する。当面CNG貯蔵用、半導体製造装置、超臨界CO2などでの利用を想定して06年4月に市場投入する。(日刊工業新聞06年2月6日)

(2)日本ガイシ
 日本ガイシはPEFCやDMFCの生産用に、新機構の搬送方式を採用した連続雰囲気炉を開発し、受注活動に乗り出した。開発した搬送方式は、ワイヤー&ビーム方式と呼ばれるもので、部材と搬送装置の接触面積を最小限に抑えることにより、搬送装置の温度差による過熱むらを抑制している。又急速昇温、急速冷却を実現する他、シート表面と裏面の温度差を15℃まで縮小した。エネルギー使用量も既存のメッシュベルト炉に比べて1/3に低減した。(化学工業日報06年3月1日)

(3)金子産業
 金子産業(東京都)は、爆轟(デトネ−ション)対応の逆火防止装置“フレームアレスター”を開発、4月を目途に発売する。音速を超えて衝撃波を伴って火災が伝播する爆轟を防ぐ。FCVや水素貯蔵設備などでの需要を見込んでいる。価格は26万円から。(日刊工業新聞06年3月7日)  
15.市場規模予測
 富士経済は3月9日、FC主要部品の市場規模が2020年に2000億円を越えるとの調査結果をまとめた。水素の関連市場も940億円に拡大する。05年の市場規模はそれぞれ33億円、16億円であった。(日経産業新聞06年3月10日)

 ―― This edition is made up as of March 10, 2006――

・A POSTER COLUMN

アメリカDOEの“先端エネルギー・イニシアテイブ”
 アメリカ・エネルギー省は、石油に替わるエネルギー源の普及に向けて、新たな技術開発計画“先端エネルギー・イニシアテイブ”を始動させる。ブッシュ大統領が1月末の一般教書演説で掲げた脱石油政策の実現に役立てる。計画の柱となる開発テーマは、1)エタノール燃料、2)水素エネルギー、3)核融合など原子力、4)石炭利用技術、であり、技術の実用化を意識して開発を加速する。07年度会計年度(06年10月〜07年7月)開発予算として21億ドルをアメリカ議会に要求する。
 政権が特に注目するのは、木材や古紙などに含まれる植物繊維(セルロース)を原料とするエタノール燃料であり、ガソリンなどと混合して自動車燃料として利用する技術を2012年頃に実用化することを目標としている。アメリカ国内では、中西部の農村地帯を中心に、穀物を原料とするエタノール生産が拡大している。しかし、セルロース資源によるエタノール生産は穀物を使う場合よりもCO2など温暖化ガス排出抑制効果が高いことで注目されている。
 原子力では、フランスに建設が決まった国際熱核融合実験炉(ITER)計画に積極的に参加、更に原子力発電所の使用済み核燃料の再処理施設について建設の検討を本格的に進める。
 大統領は一般教書演説で「2025年までに中東からの輸入石油の75%以上削減する」ことを公約しており、これを実現するためには、石油輸入量の18%相当を石油以外のエネルギー源に代替しなければならない。(日本経済新聞06年2月9日、2月21日、フジサンケイビジネスアイ2月22日)

経産省が車載バッテリー高性能化を支援
 経済産業省は、電気自動車やハイブリッド車に使われる車載バッテリーの高性能化に取り組むことにした。5月中に取り纏める“新経済成長戦略”に、産官学による研究開発の充実などを具体策として盛り込む方針である。車載バッテリーの小型・軽量化は、日本勢が強みを持つハイブリッド車の競争力を一段と高めるだけではなく、外部充電との併用で現行ハイブリッド車より環境負荷を抑える“プラグイン・ハイブリッド車”の普及など、地球温暖化防止の追加策にもなると見ている。又車載バッテリー開発の過程で生まれる素材や量産技術は、家電やパソコン、通信機器など他産業への波及効果を期待できそうである。(日刊自動車新聞06年2月15日)

水素REエンジン車のリース料金はFCVの約半額
 マツダは2月15日、水素ロータリーエンジン(RE)車“RX-8 ハイドロジェンRE”のリース販売を始めると発表した。同社が出光興産、岩谷産業(大阪市)と契約したリース料金は42万円/月で、FCVのそれに比べると半分以下の料金となった。ガソリン走行と切り替えられ、水素ステーションのない地域でも走行でき、水素だけでも100kmの走行が可能である。同社は3年後を目途に、より実用性の高いミニバン型“プレマシ−”をベースにした水素RE車に、電気モーターを併用するハイブリッド技術を導入し、更に普及を促すことにしている。(朝日、産経、日本経済、日経産業、日刊自動車、中日、中国、神奈川新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報06年2月16日、毎日、鉄鋼新聞2月17日)
 マツダは2月28日、横浜市の“R&Dセンター横浜”や周辺の公道で、水素RE車のマスコミ向け試乗会を開催した。(神奈川新聞06年3月1日)
 マツダは次世代環境技術として開発した水素エンジンを、自動車用途以外へ水平展開する。既に船舶向けの発電機などで引き合いがあり、近く開発に乗り出す。水素を燃料とする水素エンジン車の普及には、水素供給インフラの整備が欠かせない。そのため、先ずは他分野への展開によって裾野を拡大することが先決と判断した。(日刊自動車新聞06年3月8日)