第116号 家庭用SOFCシステムの運転試験開始
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.自治体関連機関による施策
3.PAFC等の省エネ効果
4.SOFCの開発および実証運転
5.PEFC等要素技術の開発
6.家庭用PEFCの実証レンタル事業と商用化計画
7.業務用PEFC実証試験運転
8.FCV最前線
9.災害時におけるバックアップ電源用FC
10.水素ステーション情報
11.改質および水素生成および精製技術
12.携帯機器用マイクロFCおよびDMFCの開発
13.新型タイプFCの開発
14.周辺技術の開発
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
 NEDOは11月18日、富士電機システムズと日新電機、京都府などに委託した“京都エコエネルギープロジェクト”で、京都府京丹後市の“新エネルギーによる分散型エネルギー供給システム”を構築、電力供給の実証実験を25日から開始すると発表した。このシステムは太陽光発電や風力発電など自然エネルギーに加えて、バイオガス発電および蓄電池を組み合わせて制御し、公共施設や市立病院などに電力を供給する。バイオガス発電は、食品工場などから発生する食品系未利用資源を原料に、ガスエンジンとFCを組み合わせている。電力網は関西電力のネットワークを利用、仮想マイクログリッド上で需給バランスを確保する。(電気新聞、化学工業日報05年11月21日)
 NTTファシリテイーズ、NTT建築総合研究所、東北福祉大学および仙台市の4者が、NEDO委託事業として行う“新電力ネットワークシステム実証研究施設”の建設が始まった。11月21日に、建設場所の仙台市青葉区国見ヶ丘にある東北福祉大学の第1キャンパス内で地鎮式が行われた。システムにはFCも含まれている。(日刊建設工業新聞05年11月22日)
 NEDOは12月12日、05年度水素安全利用等基盤技術開発事業の国際共同研究テーマと委託先および再委託先として“繊維金属―ホー素系水素貯蔵材料の研究”(豊田中央研究所、スイス・フルブール大学、東北大学)、“多孔質錯体系水素貯蔵材料技術の研究開発”(産総研、アメリカ・ラトガース大学)など12件を決定したと発表した。(日刊工業新聞05年12月13日、化学工業日報12月14日)
 
2.自治体関連機関による施策
(1)神奈川県
 神奈川県産業技術総合研究所が、マイクロアレイ型およびコイン型2種類のDMFCを開発している。
 感光性ガラスに作製した50〜200μmの微小な穴に電池を内蔵したマイクロアレイ型は、安価なプロセスで製造できるのが特徴である。感光性ガラスはウエットエッチングによる安価な加工が可能で、耐薬品性や耐熱性に優れている。穴にナフィオン溶液を注入した後に乾燥・製膜、これにアノード触媒とカソード触媒を塗布した後、金薄膜を真空蒸着で形成する。メタルマスクでパターニングし、更に配線用貫通穴に金ワイヤーを通し、両極に接着している。単セル毎に5%メタノール水溶液の1μL以下を滴下して計測した結果、直径200μmで0.5W/cm2の出力密度を得た。
 他方コイン型の場合は、白金ルテニウムブラックに、5wt%のナフィオン溶液を混合したペースト状の物質をカーボンペーパー上に均一に塗布して作製したアノード触媒層と、白金ブラック触媒を使ったカソードでナフィオン膜を挟みMEAを作製する。空気孔と燃料供給口を加工したコイン型ケースにMEAとスペンサーのチタンメッシュを組み込んだ。ケース内に5%メタノール0.15ccを貯蔵することができる。出力密度25mW/cm2を確認したので、今後は30mW/cm2を目指す。(化学工業日報05年11月22日)

(2)秋田県
 秋田県は“秋田県FC関連産業導入促進協議会”を12月16日に立ち上げる。FC関連産業の創出に向け、同分野への参入を目指す県内企業を支援するのが狙い。ポンプや各種制御弁、センサーなどのFC機器の補機製造や、複合部品化を始めとする製品開発・技術研究などを支援する。設置期間は3年間の予定で、同協議会には“モノづくり”、“社会システム形成・研究開発”、“普及啓発”の3部会を設置する。特に秋田県内の鉱山技術を活用した希少資源を回収するリサイクル研究会は、全国に例をみない試みになりそうである。(日刊工業新聞05年12月10日)

(3)青森県
 青森県は12月13日、“あおもり水素エネルギー創造戦略”をまとめた。将来的な水素エネルギー社会への移行を念頭に、原子力発電や風力発電、農林水産資源などから水素を生産、FCの活用を通して県内産業の底上げを図ろうとする内容である。更に戦略では水素製造にかかる固定資産税の減免や遊休公有地の貸与など公的支援の必要性を謳っている。又CO2を排出しない水素製造を実現するために、原子力発電から水素を取り出す技術の意義についても言及している。(電気新聞05年12月14日)

(4)横須賀市
 横須賀市は12月15日、日産自動車追浜工場のFCV研究・開発事業を支援するため、同社に奨励金5億円を交付することを明らかにした。市が05年度に制定した“企業等拡大再投資奨励金”制度に基づくもので、今回が初適用となる。同制度では、市内で10年以上事業活動をしている企業が、事業拡大のために新たに設備投資などで固定資産を取得した場合、最大5億円の奨励金を交付する。日産自動車は05年4月に、事業計画を市に提出、同工場で05年度から07年度まで、FCVの研究開発を進める。事業費は53億2,600万円。(日経産業、神奈川新聞05年12月16日)
3.PAFC等の省エネ効果
 大阪ガスは、同社の実験集合住宅“NEXT”における10年間の居住実験の結果を纏めた。PAFCによるコージェネレーションシステムやガスエンジンコージェネを導入した省エネルギー実験では、住棟全体の消費エネルギーの約30%を削減する効果を得た。(電気新聞05年11月28日、産経新聞12月6日)
4.SOFCの開発および実証運転
(1)京セラと大阪ガス
 京セラと大阪ガスは、SOFCによる家庭用コージェネレーションシステムを開発した。08年度の市場投入に向け、11月28日から大阪ガスの実験用住宅“NEXT21”で運用試験を始め、同システムの品質や省エネルギー効果などを検証する。発電出力は1kW、発電効率は目標値の45%(LHV)以上を達成、この性能は一般的な発電所経由の家庭用電力と比較すると発電効率は5%以上高い。又70℃の温水を風呂や床暖房用に供給する。発電機(SOFCシステム)は奥行き48cm、高さ98cm、幅70cmで、容量100Lの貯湯装置は同40cm、同145cm、同65cmである。(朝日、電気、日経産業、日刊工業、電波、建設通信、京都新聞、化学工業日報05年11月25日、毎日新聞11月27日、電波新聞11月28日)

(2)東工大
 東京工業大学炭素循環エネルギー研究センターの伊原助教授らは、プロパンなど炭化水素系燃料を熱分解して燃料極に析出した固体炭素が、空気中の酸素と電気化学的に反応してCO2となるプロセスで発電し、かつ繰り返し発電が可能なポータブルSOFC“リチャジャブル・ダイレクトカーボンFC(RDCFC)”を開発した。電解質はYSZ、燃料極にはサーメット(ニッケル・ガドリウムドープセリア)を採用した。5分間の固体炭素燃料のチャージングで最大83分、最大出力密度52mW/cm2を記録、44〜50mW/cm2の出力密度で安定した発電を可能にした。燃料タンクおよび燃料供給用ポンプが不必要で小型化できることから、次世代型の携帯用FCとしての実用化が期待される。研究チームが開発したSOFCは、固体炭素を供給する炭化水素としてプロパンを用いているが、800〜1000℃の高温運転で、メタンやブタンなどの利用が可能であり、燃料の多様性が見込まれる。今後は一層の高出力化、セルの断熱構造の検討、発電特性の長期安定性の検証などを行い、携帯用FCとして実用化を目指す。(日刊工業新聞05年11月30日、化学工業日報12月5日)
5.PEFC等要素技術の開発
(1)ペメアス
 ドイツのペメアス社はこのほど東京に日本事務所を開設した。MEAの次世代技術である炭化水素系高温対応型PEFC用MEAの普及促進を図る。(電波新聞05年11月23日 The Latest News No.115参照)

(2)住友電工
 住友電気工業は、ステンレス系金属多孔体“セルメット”の新規用途としてPEFCやDMFC部材向けの提案活動に着手する。カーボン材料に比べて低抵抗であるとともに熱伝導性や強度、耐久性に優れており、ガス流路や拡散層と一体化した集電体に用いることでFCの低コスト化や小型化を実現することが見込める。同社のセルメットは連結した空孔で構成される多孔質材料で、気孔率は90%を超える。ニッケル系のセルメットは主にニッケル水素電池の陽極向けとして富山住友電工が生産しており、高いシェアを有している。FC向けセルメットはステンレス系で、構造体となる発泡ウレタンの表面に金属粉末を含むスラリーを塗着したあと焼成してオープンポア構造の金属多孔体を得る“スラリー塗布法”で開発を進めている。(化学工業日報05年11月28日)

(3)本荘ケミカル
 本荘ケミカル(大阪府寝屋川市)は、大阪大学工学部の大島教授らと共同で、電解質向けのフラーレン誘導体を開発した。化合物合成技術により強酸性官能基配置構造を最適化したもので、プロトン伝導性や高温での熱安定性に優れている他、加水分解しないのが特徴である。同誘導体を用いた電解質膜は、高濃度メタノール使用時でも高い安定性を有しており、膜膨潤も抑えることができる。同社は今後、FC分野を中心に膜材料、3相界面材料として幅広い用途を対象にサンプルワークを開始していく方針で、3年後を目途に実用化に漕ぎ着けたい意向。(化学工業日報05年12月15日)

 
6.家庭用PEFCの実証レンタル事業と商用化計画
(1)新日石
 新日本石油は、荏原、荏原バラードと共同で、灯油を使った家庭用PEFCシステム“ENEOS ECOBOY”を開発、06年3月20日からレンタル方式で商品化すると発表した。定格発電出力は950W、発電効率35%、温水の温度65℃、運転可能温度は−10〜40℃で、燃料には新日石の専用灯油“ENEOS FC 灯油”を使用し、ドラム缶で配送、ホームタンクに移す。06年度は関東甲信越と静岡の1都10県、および北海道や東北などの主要都市を対象に100台の設置を見込んでいる。メンテナンス体制などを整備して、07年度には500台の販売を計画している。リース料は年間6万円で、家庭で使う電力の6割を賄うことができる。(読売、朝日、毎日、日本経済、産経、電気、日経産業、日刊工業、日刊建設工業、建設通信、報知、東京、北海道、河北新聞、化学工業日報、フジサンケイビジネスアイ05年12月1日)

(2)東京ガス
 東京ガスの家庭用PEFCコージェネレーションシステム“ライフェル”の設置台数が12月2日、100台に到達した。05年末までに200台の導入を計画している。現在までに稼動中の100台を含め、180台を超える設置先が決定しており、初年度の目標はほぼ達成できる見通しである。同社は06年度にも200台程度の導入を計画している。主に戸建て住宅向けで、今回設置した100台の内訳は新築が3割、既築は7割、エリア別では東京都が6割、神奈川県が3割、残りは千葉県や埼玉県南部であった。(電気新聞05年12月5日、化学工業日報12月6日、電波新聞12月7日)

(3)トヨタ
 トヨタ自動車は12月7日、アイシン精機と提携し、家庭用FCを新規事業の重点分野に位置づけ、数年内に実用化を目指して本核開発に乗り出したことを明らかにした。東邦ガスと協力し、出力1kWの家庭用FCコージェネレーションシステムを東海地区の一般住宅に設置する実験を既に開始、今後は国が助成する大規模実証実験にも参加する意向である。(西日本新聞、河北新報05年12月8日)

(4)コロナ
 コロナは2010年をめどに家庭用FCを商品化する。出光興産から触媒技術を導入することで灯油改質に成功した。コロナは灯油を使った石油ストーブを生産してきたこともあり、灯油からの改質方式を採用した。コロナの燃焼技術と出光興産の触媒技術を組み合わせることにより、家庭用FCの技術的な課題を克服、同社の新エネルギー研究センターで1kW級の試験運転を始めており、目標の改質効率80%を達成している。06年度から大規模実証事業に参加、08年にはモニター販売を始める。(日刊工業新聞05年12月10日)

(5)出光興産
 出光興産は12月13日、NEFが実施する“定置用FC大規模実証事業”の第2期公募に採択されたLPG仕様PEFCシステム設置先を決めたと発表した。秋田県から鹿児島県にかけて25台のシステムを一戸建て住宅に設置し、2年間運転データを収集する。PEFCは東芝FCシステム製で発電容量は700W、出光ガスアンドライフ社を通じてLPガスの充填や運転管理、保守点検サービスを行う。(日経産業新聞、化学工業日報05年12月14日、電気新聞12月15日)
7.業務用PEFC実証試験運転
 出光興産とIHIは共同で、灯油およびLPG使用5kWPEFCシステムの業務用準商用機を開発、06年1月から両タイプを中央研究所のFCテクノプラザに設置して、実証運転に乗り出す。発電効率はLPGで34%程度、灯油で33%程度、08年度からの実用化を目指している。IHIが改質器とFC本体を、出光が改質触媒を担当する。水蒸気改質での改質触媒の運転は既に35,000時間を実現している。(日刊工業新聞05年11月24日)
8.FCV最前線
(1)インテリジェント・エネルギー
 イギリスのインテリジェント・エネルギーは、デザイン企業のシーモアパウエルの協力を得て、水素燃料FC使用のモーターバイク“ENV”を開発した。05年中の製造開始を予定している。ENVは重量が80kg、最高時速80km、160kmの走行が可能で、4時間走行するのに要する費用は3ポンド(約630円)程度と試算されている。FCは宇宙計画用に開発された技術がベースであり、大きさは靴を入れる箱程度、取り外しが可能で、他の動力源としても使用できる。水素の供給については、近くエセックス市に第1号スタンドがオープンするものの、これだけでは不十分で、同社は家庭における水素ボンベからの燃料供給体制の研究を進めている。(日刊工業新聞05年11月21日)

(2)大同工業大等
 大同工業大学は11月24日、立命館大学、信州大学、三重大学や自動車メーカーと協力して、FCV用FCの実用化に向けた基礎技術の開発に取り組むと発表した。先ず大同工大がFC研究センターを開設し、09年度までに計35億円弱を投じて最先端の実験施設を各大学内に分散整備する。発進と停止を繰り返す厳しい条件下でも劣化しにくく、高温から氷点下までの幅広い気温に対応できる高い耐久性を持つFCの開発を目指して研究を進める。当初3年間は年間30台のペースでFC発電評価装置を導入、信州大繊維学部が立命館大とともに触媒の耐久性を研究する予定である。(日経産業、日刊工業、信濃毎日新聞05年11月25日)
 大同工業大学は、FC開発研究センターの開所式を11月30日に行うと発表した。述べ床面積は400m2.研究は三重県などと合同で取り組んでいる。(中日新聞05年11月25日)

(3)DC日本
 ダイムラークライスラー日本は12月7日、FCV“Fセル(F-Cell)”を日本自動車研究所に納車した。水素社会構築の共通基盤整備事業で、水素充填コネクターの標準化や車載用水素流量計の開発などに使う。(日刊工業新聞05年12月8日、フジサンケイビジネスアイ12月10日)  
9.災害時におけるバックアップ電源用FC
 マウビック社(浜松市)は、地震などの災害時でも電力を供給できるバックアップ用FCシステムの販売を始めた。同システムを製造するアメリカのリアイオン社と放送・通信業界向けの代理店契約を締結した。カートリッジタイプで出力を自由に変えられる。出力は1kWで30時間稼動、価格は370万円である。(日本経済新聞05年11月21日)  
10.水素ステーション情報
 12月7日午後1時20分頃、九大伊都キャンパス内の水素ステーションで爆発音があった。九大や福岡西署によると、実証施設の高圧酸素の放出パイプが破断、酸素が噴出していることが判明した。ステンレス製パイプ(外経12.7mm、厚さ2.5mm)が、長さ30〜40cmにわたって吹き飛ぶなど、数箇所で破断した模様である。同施設は安全装置が作動して緊急停止した。半径50mの範囲で立ち入り禁止となっている。これまで建物の損壊やけが人の報告はない。福岡県は職員を現地に派遣、工業保安課は「先ずは原因を突き止め、安全確保に向けた対策を検討したい」と語っている。(西日本新聞05年12月8日)
11.改質および水素生成および精製技術
(1)北陸先端科学技術大学院
 北陸先端科学技術大学院大学の民谷教授らの研究グループは、廃木材や食品ごみなどから水素を取り出す技術を開発した。酸素が入らない嫌気性環境では、大腸菌が有機物を分解して水素を生成する性質を利用している。大腸菌を固定したゲルのビーズ(粒)とブドウ糖溶液を入れた水素発生用ビンに、市販のFCを組み合わせた装置を試作した。実験では20分間電流が流れ、小型プロペラを回転させた。木材が大腸菌で分解しにくい場合は、森林から採取した白色腐朽菌を使って、先ず木の細胞を保護するセルロースやリグニンを分解した後大腸菌と反応させる。今後は新しい菌種探しや機器の大型化などにより、実用可能な水素生成装置の開発に取り組む。(日経産業新聞05年12月5日)

(2)RITEとシャープ
 地球環境産業技術研究機構(RITE)とシャープは、家庭の生ごみを処理してできる化学物質(ギ酸)から水素を安全に作る基本技術を開発した。ギ酸は生ごみを含む有機廃棄物を数百℃で加熱すると出てくる。生ごみを処理してできるこのギ酸を大腸菌に与えて水素を生産するシステムにおいて、遺伝子工学を使って大腸菌の水素生産能力を100倍以上に高めることにより、コップ大の容器でも大量の水素を作れるようにした。1Lの反応容器であれば、0.5Lのギ酸で1時間に300Lの水素を生産することができると試算しており、数Lのギ酸によってテレビを1日見続けるだけの電力を賄うことができる。又ギ酸はメタノールに比べると燃えにくいので、普及の条件である安全性が高いと考えられる。 RITEは企業に呼びかけてギ酸の量産技術の確立に乗り出す考えで、2年以内を目途に、家庭用液晶テレビを動かすFCへの応用を目指す。(日本経済新聞05年12月9日)  
12.携帯機器用マイクロFCおよびDMFCの開発
(1)三菱鉛筆
 三菱鉛筆は携帯電話や音楽プレーヤー向けのマイクロFCにおいて、主要部材であるセパレーターの量産化に着手する。炭素を主原料とするこのセパレーターは、薄く軽量で高強度な点が特徴、製作にはシャープペンシル芯の製造技術を応用した。11月中にも群馬工場に量産設備を導入、06年度中に量産体制を確立し、価格を現在の1/10となる500円にまで引き下げる方針である。三菱鉛筆のセパレーターは、厚さが1mm(最薄部で0.2mm)で、重さは金属製の1/4程度、薬品に強く腐食しにくいが、問題点であった強度については鉛筆芯の焼成技術を応用して強度を出せるような製造技術を確立した。(日経産業新聞05年11月22日)

(2)ソニー
 ソニーはフラーレンの誘導体に結合材料の高分子(バインダーポリマー)を複合して、メタノールの透過が小さいDMFC用電解質膜を開発した。フラーレンの表面に水素イオンを伝導するスルホン酸を含んだ官能基を放射状に8個程度付けた構造で、メタノールの透過量はパーフルオロスルホン酸ポリマーのそれに比べて1/2から1/5になっている。この電解質膜によって同社が試作したDMFCの出力密度は100mW/cm2に達した。又スルホン酸をフッ素でフラーレンと結合させて分子の安定性を高めており、約200℃の熱にも耐えられる。(日刊工業新聞05年11月28日、日経産業新聞11月29日)

(3)物質・材料研究機構
 物質・材料研究機構のエコマテリアル研究センターは、白金と酸化セリウムによるDMFC用アノード材料(金属・セラミックス複合電極)を開発した。Pt-Ru合金電極に比べて、電極反応におけるオンセット・ポテンシャル(電圧降下)が約30mV低下、電流密度は1.5倍に向上した。酸化セリウムは表面に多量の酸素欠陥があるので、この欠陥サイトを介して電気的に活性酸素を放出し、担持金属との電子のやり取りを容易に起こさせる特質を持つ。室温近くでは絶縁性を示すが、従来と異なる電極反応機構を利用することにより、高性能電極の開発を可能にした。この材料をFCに利用すれば、白金の使用量が最大34%削減できるとともに、希少資源のルテニウムを使用する必要がなくなる点において価値が高い。(日刊工業新聞、化学工業日報、フジサンケイビジネスアイ05年11月29日)

(4)ポリフューエル
 アメリカのポリフューエル社は、12月15日の記者会見で、DMFC向けに開発した厚さ45μmの新炭化水素系電解質膜を紹介した。従来品(62μm厚)に比べて出力密度を33%向上、又水の逆拡散を30%増加し、反応に必要な水を自給できるようにした。新開発品は化学的特性や分子構造は従来品とほぼ同等で、メタノールクロスオーバーや水のクロスオーバーはフッ素系電解質膜の約半分と従来品並みを維持しているが、膜厚を薄くしたことにより、出力密度を従来品の60mW/cm2から80mW/cm2に向上し、加えて水の逆拡散を30%増やすことによって、反応後に発生した水を再び反応に利用することができるようになっている。これによりほぼ100%濃度のメタノールを使えるので、燃料貯蔵部の小型化が可能になる。同社副社長は「耐久性は従来品で連続運転5,000時間、新開発品でも2,000時間を確認している」と語っている。又今回協業先としてNECと三洋電機の名前を挙げ「現在17社と協業、評価試験を完了した11社全てが当社の膜を購入している」と高い評価を得ていることをアッピールした。現在量産委託先との交渉が最終段階を迎えており、本格事業化に向けての動きが進んでいることも示した。(日刊工業新聞、化学工業日報05年12月16日)

(5)東レ
 東レは小型DMFCの電解質膜に炭化水素系の新材料を採用することにより、FCの高性能化に目途をつけた。同社は従来の電解質膜の内部構造を調べ、メタノールを通しやすい部分のあることを突き止め、この部分を完全になくした膜構造を創ることに成功した。水素イオンの通り易さは変わらないが、メタノールをほとんど通さなく、出力は従来品に比べて2〜3倍となるため、携帯電子機器用で大きさを従来の半分程度にすることができそうである。又耐久性評価では、従来は500時間使用した場合、電圧が20〜30%低下したが、新製品ではそれが5%程度になったという。実験レベルではあるが、実際にDMFCを試作し、ノートパソコンや携帯電話、ビデオカメラを動かせることを確認した。(日本経済新聞05年12月16日)  
13.新型タイプFCの開発
 茨城大学理学部の金子教授らは、太陽光とバイオマスで直接発電する光FCを開発した。このFCは、2酸化チタン多孔質膜で被覆したn型半導体に太陽光等の光を照射することによって生じた電子とホールの働きを利用したもので、ホールでは燃料を酸化して分解、電子は対極で酸素を還元することにより電力を発生させるという原理の応用である。例えばアンモニア水溶液を使った場合、n型アノード(多孔質2酸化チタン電極)に光を照射すると電荷の分離が起こり、ホールと電子が生じるが、ホールはアンモニアを酸化的に分解して窒素と水素イオンを発生させ、これらがアンモニア水溶液中を白金カソードに向けて移動する。電子は外部回路を通して対極のカソードに流れて酸素を還元し水を生成する。同グループは、紫外光と可視光、ソーラーシミュレーターを用いて原理を実証しており、光電荷収率(IPCE)において20〜45%の値を得ている。
 水溶液になるあらゆるバイオマス、有機化合物が燃料となるため、化石燃料が不要で、従来問題になっていた廃棄物の完全処理、資源の有効利用に繋がるのが特徴である。同グループは2〜3年を目途に実用化する意向で、今後、燃料に応じたシステム設計と性能評価を進めることにしている。(化学工業日報05年12月15日)  
14.周辺技術の開発
 萩原製作所(諏訪郡下諏訪町)は、家庭用コージェネレーション用FCシステム向けポンプの開発を本格化させる。循環ポンプの耐久性や流量制御性能を向上させ、08年3月までに完成させる計画である。具体的には、FC本体の冷却ポンプ、および改質プロセスからの廃熱によって暖められた湯を送り出すポンプを開発する。ポンプの耐久性については4万時間連続運転、制御性能については50〜5mL/minの幅広い流量制御が必要と考えられている。モーターの軸受けの改良や構造設計の見直しで実現を図る考え。(信濃毎日新聞05年12月8日)

 ―― This edition is made up as of December 16, 2005――



・A POSTER COLUMN
京都エコ・エネプロが完成
 富士電機システムズ、アミタ、大林組、日新電機、京都府などが、NEDO委託により、京丹後市で進めてきた新エネルギーの分散型エネルギーシステム“京都エコエネルギープロジェクト”が完成し、電力供給の実証運転に乗り出した。食品工場からでるバイオマスをメタン発酵して得られた燃料によるガスエンジン(400kW)およびFC(250kW)、ならびに太陽光発電(50kW)、風力発電(50kW)を、電力事業者の電力網で公共施設へ供給するマイクログリッドを構築する。(日刊工業新聞05年11月22日、電気新聞12月1日)

品質別電力供給システムの実証施設着工
 新エネルギーを使った分散型電源で、停電や瞬間的に電圧が下がる“瞬低”からIT機器を守れる“品質別電力供給システム”の起工式が11月21日、仙台市の東北福祉大の国見ガ丘第1キャンパスで行われた。太陽光発電(50kW)と天然ガスコージェネレーションシステムのミラーエンジン(350kW)、MCFC(250kW)を組み合わせた電源システムで、NEDOの委託事業。(河北新報05年11月23日、電気、建設通信新聞11月24日)

石炭発電所の廃棄物ゼロを目指す“フューチャーゼン産業連合”
 アメリカDOEは、アメリカ、中国、オーストラリアの8社で構成する国際企業連合の“フューチャーゼン産業連合”との間で、排出物を出さない石炭発電所の開発を目指すことで合意した。発電と同時にFCに利用可能な水素も産出し、汚染物質は肥料に転換する仕組みである。京都議定書と距離を置きながら独自の環境保護政策を鮮明にする。エネルギーの海外依存度を下げるため、自給率の高い石炭の利用を促す目的もある。
 DOEによると、総事業費は約10億ドル。06年に発電所の候補地を選び、2012年までに完成させる。発電規模は中型発電所と同程度の275MWである。現在アメリカでは石炭をガス化してCO2などの排出量を削減する発電所の建設計画があるが、この事業では極限まで大気汚染を減らすことを目指している。
 なお“フューチャーゼン産業連合”を構成しているのは、“アメリカン・エレクトリック・パワー”などアメリカの発電大手、中国の発電大手“華能集団”、オーストラリアの資源開発大手“BHPビリトン”など8社で、事業費のうち2億5,000万ドルを拠出する。(日本経済新聞05年12月8日)