第114号 携帯機器にも利用可能な小型のSOFC
Arranged by T. HOMMA
1.国家的機関による施策
2.地方自治体による活動
3.技術基準策定の専門家会議
4.MCFCの開発と利用
5.SOFCの開発成果
6.PEFCの関する要素技術研究
7.業務用PEFCの開発と実証
8.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの実証運転
9.FCV最前線
10.FCフォークリフトの開発
11.改質および水素生成・精製技術の開発
12.水素貯蔵技術の開発
13.携帯端末用マイクロFCの開発
14.FC・水素関連の評価および計測技術の開発と事業化
15.FCを導入したマイクログリッドの研究開発
16.企業活動
・A POSTER COLUMN
1.国家的機関による施策
(1) 経済産業省
 資源エネルギー庁は、水素エネルギー研究のための専門施設“水素材料先端研究センター”を06年度にも九州大学に設置する方針を明らかにした。06年度概算要求に17億円を盛り込んだ。内外から研究員約20名を集め、世界トップクラスの基礎研究拠点に育成する方針である。村上九州大学教授を中心に組織する。主な研究テーマは、水素による金属疲労で、その他水素の利用に必要な基礎的データの蓄積も行う。(読売新聞05年10月8日)
 経産省・NEFは10月12日、1kW級定置式PEFCの第2期交付先として13組(計225件)を決定するとともに、第1期交付先の10組について、運転評価を実施したと発表した。東京ガス・荏原製作所、新日本石油・三洋電機、大阪ガス・東芝FCシステムの3組が、総合評価で上位になった。首位の東京ガス・荏原製作所のシステムは、エネルギー削減率が平均で21.8%、CO2排出削減率は平均で35.7%と高い値を示した。(電気、日刊工業新聞、化学工業日報05年10月13日、日経産業新聞10月)

(2) NEDO
 NEDOは12日、大学などの先端研究能力を活用して、31件の研究開発テーマを決め、次世代FC技術開発をスタートした。内訳は要素技術12件、新規概念で9件、評価技術で10件である。(化学工業日報05年10月13日、日刊工業新聞10月14日)

(3) 国土交通省
 国土交通省は“FCバス技術検討会”を設置し、10月13日に初会合を開く。公道走行実験などを念頭に、バスについて独自の技術基準などが必要かどうかを検討する。(日刊自動車新聞05年10月12日、電気新聞10月13日)
 国土交通省は、05年中にもFCバスで営業走行の実証実験を実施する。そのため、年内にも実験に参加する自動車メーカーとバス事業者を公募する。できるだけデータ−を蓄積するために、一定期間の参加が可能な事業者を求め、06年度中にFCバスの実用化に必要な技術基準などについて取りまとめる。(日刊自動車新聞05年10月17日)
2.地方自治体による活動
(1)広島県
 広島県は産学官で“FC等普及促進調査検討委員会”を設置した。水素関連技術の普及が目的で、1)水素燃料製造と供給可能性の調査、2)構造改革特区活用の検討、3)県内技術であるバイオマス活用の水素利用システム実証モデルの検討、などを行う。05年度中に調査報告を纏める。検討委員会は産学官16人で構成、長期的視点に立ち、水素関連技術を開発して市場規模の拡大や、水素利用社会に迅速に対応できる体制の構築も検討する。(日刊工業新聞05年10月19日)

(2)三重県
 三重県は水素エネルギーに関連する新産業によって地域経済の活性化を図るとともに、水素エネルギー社会の構築を目指して“三重県水素エネルギー総合戦略会議”を発足させる。四日市市で生産活動を行っている石油精製、石油化学メーカーを始め、大学、県・市などが発起人になり、産官学の連携で水素エネルギーの技術開発、事業化に取り組む。11月8日に設立総会を開催、具体的な活動を開始する。三重県の場合、コンビナートで発生する副生水素、LNG冷熱などの有効利用が可能で、従来から構造改革特区における規制緩和などを総合的に生かせる分野として、定置式FCの実証研究を実施しており、水素社会形成に向けた調査事業やモデル地区の構築などに乗り出している。(化学工業日報05年10月21日)
3.技術基準策定の専門家会議
 国連欧州経済委員会(UN/ECE)の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)は、FCVの技術的基準を決めるための第1回専門家会議を10月19日から東京で開催する。98年協定に加盟している国と地域から専門家が集まり、今後の技術動向を踏まえたFCVに関する世界統一基準を話し合う。既に日本は「圧縮水素ガスを燃料とするFCV等の基準」を定めており、これを議論のたたき台として会議に提案する。国土交通省とアメリカ運輸省国家道路交通安全局(NHTSA)は04年1月、自動車の安全に関する優先協力分野として水素FCVの安全基準など4項目について合意したほか、世界統一基準の策定において、UN/ECE/WP29において基準調和活動を積極的に推進するため、両国が協力することを確認している。(日刊自動車新聞05年10月14日)
 専門家会議にはWP29参加各国から政府や自動車工業会の関係者など20人以上が出席した。(日刊自動車新聞10月20日)
4.MCFCの開発と利用
(1)中国電力
 中国電力は10月5日、石炭火力の三隅発電所において、排出ガス中のCO2を活用しながら発電するMCFCシステムの実証運転を始めた。排ガス中のCO2濃度は約13%であるが、MCFCの出口では約80%に濃縮されるため、CO2の効率的な回収が可能になる。試験中は回収したCO2をそのまま大気中に放出するが、実用化の段階ではまとめて回収し、海洋処理や地中処理を施してCO2の放出を削減する。50万kW規模の石炭火力に2万kW規模のMCFCを設置したとすれば、CO2を排出原単位で6%程度削減することができると試算している。
 MCFCプラントはIHI製で出力は10kW。実証試験は中部電力と共同で進めており、06年4月からはより大型の装置で試験を行う。なお今回の試験では、MCFCの連続発電、電池の電圧低下率や寿命も検証することにしている。又排ガスに含まれるSOxなどの不純物を排ガス引き込みの手前で分離する試験も行う。 (電気、日刊工業、中国新聞05年10月6日、日刊建設工業新聞10月7日、電波新聞10月13日)

(2)電中研
 電力中央研究所はMCFCの大幅な低コスト化と、コンバインドサイクル発電で発電効率70%の30万kW級プラントを実現する技術の事業化へ向けた評価を始めた。コストについては、20気圧に加圧して出力密度を2倍にすることにより、電池コストを半減させる。電中研の評価をベースに、IHIがこれまで培ってきた技術を開示、又日立製作所や三菱電機などこれまで関わってきた企業の参加を得て06年以降の実用フェーズを進める。これまで国はMCFCに400億円、IHIも100億円を投じている。日本では加圧の外部改質による万kW規模での実用化が命題とされており、NEDOは電中研に実用化のための課題を整理、新しいシステムの導入を目指した評価作業を委託した。(日刊工業新聞05年10月21日)
5.SOFCの開発成果
 TOTOは、コンパクトなSOFCの発電部材を開発した。作動温度を500℃に下げることによって、断熱層が薄くなり、更に熱応力の強い円筒型のセル形状を採用して、起動時間が5分と短くなった。出力は50W〜1kWで、電動車いすや電動アッシスト自転車、携帯型電源などの用途を想定している。システムメーカーと共同で携帯型FCの開発を進め、08年度での実用化を目指す。
 同社は既に大型の定置式では発電効率55%を達成している。電解質にランタンガレート系セラミックスを開発するとともに、ランタンガレートが燃料極のニッケルと反応するのを抑制するため、セリア系セラミックスの反応抑制層を設け、電気抵抗を半減し、安定した低温動作を実現した。又チューブ上に燃料極を成形、表面に電解質と空気極を成膜している。今回携帯型を目的に、直径5mm、長さ50mmの小型セルを開発したが、セルを数本束ねたセルスタックの発電面積は約85cm2で、体積は0.016L、水素ガスを燃料とした場合には、500℃で出力が28W、600度では37Wを記録した。今後発電性能や耐久性を高め、実用化に向けた研究開発を進めていく方針である。(日本経済、日経産業、電波、日刊工業、日刊建設工業、西日本新聞、化学工業日報05年10月7日)
6.PEFCの関する要素技術研究
 東洋合成工業は、電解液、イオン性液体の量産出荷を本格化させている。イオン性液体は、水や有機溶媒に溶かさなくとも、室温で液体になる常温溶融塩である。少量でも高い導電性を示すことから、電気2重層コンデンサーやリチウムイオン電池、FCなどの小型化に寄与する。04年10月千葉工場内に実機設備を完成し、サンプルワークを進めてきたが、ともに数品種で量産対応を図ることにした。量産する電解液はプロピレンカーボネートに溶かしたTEA−BF4、イオン性液体はEMI−BF4などである。イオン性液体、電解液について、高純度化技術や量産品での強みを生かした提案活動を強化。05年度内には3社以上の安定供給先を確保したい考えである。(日刊工業、電波新聞、化学工業日報05年9月26日、日本経済新聞10月4日) 
7.業務用PEFCの開発と実証
 新日本石油は業務用PEFCのコンビニエンスストア向け需要を創出するため、排熱を冷房まで含めた空調に利用する可能性について実地検証を行うことにした。灯油を使う出力10kW級のPEFCと吸収式冷凍機を組み合わせ、熱を冷暖房に使う可能性について検証するため、店舗面積150m2の“ファミリーマートトキワ”で実験を始めた。共同開発先の三菱重工業と行う。同装置は発電効率が36%(LHV)以上であるが、排熱の空調利用については、熱の回収温度が65℃で低く、コンビニが採用する空調設備の冷房能力が6kW級と小さいことから、小型吸収冷凍機の開発を矢崎総業に委託した。暖房時は同冷凍機をシステムから切り離して運転する。コンビニはホテルと同様24時間営業のため電力の使用量が安定しているが、ホテルのように給湯利用がないため、熱の使い道を考え出すことが普及の鍵を握ると考えられている。(日刊工業新聞05年9月28日、化学工業日報9月30日)  
8.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの実証運転
(1)興亜ガス
 興亜ガス(岩国市)は、LPガスを使った出力750W家庭用コージェネレーションシステムを試験的に導入した。発電効率などのデータを集め、将来のLPガス販売などに生かす。(中国新聞05年9月22日)

(2)東邦ガス
 東邦ガスは10月6日、一般家庭向け1kWPEFCシステムのモニター導入を開始すると発表した。2年間で50〜100台のシステムを設置する。(電気、日刊工業、中日新聞05年10月7日)

(3) 東ガスと大ガス
 東ガスと大ガスは家庭用FCの開発で、それぞれがFCメーカー2社とグループを組んで分担開発することで合意した。08年度からの普及に向け、コストダウン、耐久性を大幅に向上した機器の導入を実現するためにも、分担して開発することで効率化を図る。05年度に国が1台600万円を補助してスタートした家庭用FCの実証では、第2期の交付で東ガスが荏原、松下電産と共同開発を、大ガスが三洋電機、東芝FCシステムと共同開発して家庭に導入していくことになった。(日刊工業新聞05年10月14日)

(4) 北ガス
 北海道ガスは、家庭用PEFCの利用実験を05年11月末から開始する。札幌市内の一戸建て住宅に住む社員宅3戸に設置し、3年間データを収集、特に寒冷地での性能特徴を把握する。(北海道新聞05年10月15日) 
9.FCV最前線
(1)トヨタ
 トヨタ自動車は9月28日、大阪府との間でトヨタFCHVのリース販売契約を結んだと発表した。(日経産業、日刊工業、日刊自動車、中日新聞05年9月29日、産経新聞10月5日)

(2)GM
 GMは9月29日、FCVを上海市内の公道で走らせ、企業や公的機関に貸し出す方針を明らかにした。アメリカで生産したFCV3台で、水素を燃料としている。公道での走行許可を市当局から獲得した。(東京、中日新聞05年9月30日)

(3)スズキ
 スズキは9月29日、東京モーターショウに出品する軽FCV“IONIS”を発表した。電気信号でブレーキなどを操作できる仕組みを導入、ハンドルなど操作機器を左右どちらの席にも移せるようにして、限られた車内を有効利用できるよう工夫している。(読売、日刊工業、日刊自動車、静岡新聞05年9月30日、日経産業新聞10月3日)
10.FCフォークリフトの開発
 豊田自動織機(愛知県刈谷市)は10月11日、PEFC・大容量コンデンサーによるハイブリッドシステムを搭載したフォークリフト“FCHV−F”を開発したと発表した。トヨタ自動車との共同開発である。システムの電圧は80V、定格荷重は2.5トンを確保している。又FCスタックや高圧水素タンクなどのコンポーネントは、カートリッジ式フレームに一括搭載したモジュール品とし、既存のバッテリーフォークと互換性も考慮した。(日本経済、日刊工業、日刊自動車、中日新聞、フジサンケイビジネスアイ05年10月12日、電機新聞、化学工業日報10月13日、日経産業新聞10月17日)
11.改質および水素生成・精製技術の開発
(1)原研
 新世代の高温ガス炉(HTTR)が、水素の主力供給プロセスとして注目を集めている。原子炉の発生する900℃以上の熱を利用して、ヨウ素と硫酸を循環させながら水を熱化学分解して水素を製造(IS水素製造法)するもので、化石燃料の水蒸気改質や水の電気分解、石炭ガスに比べて環境およびコスト面において最も優れていることが明らかになってきた。水素製造専用にすれば出力60万kWのHTTRで、FCV60万台分の水素を供給することができる。又発電炉、コージェネレーション運転も可能である。わが国では日本原子力研究所・大洗研究所が第3世代HTTR実験炉(30万kW)を建設し、この炉で950℃の熱を発生、ISプロセスによる水素の生成に成功した。同研究所では、06年度にも20〜30m3/時のISプロセスによる水素製造パイロットプラントの建設に取り組みたいとの意向を表明している。アメリカではブッシュ政権が、2015年までに第4世代の高温ガス炉(VHTE)を開発するプロジェクトに、1,250億円の大型予算を投入する方針を決めた。(化学工業日報05年9月30日)

(2)東北大
 東北大学工学研究科の高村助教授らの研究グループは、日本板硝子、仙台市ガス局などと共同で、6cm角の大きさでメタンから10L/minの水素製造を可能にする家庭用FC向け部分酸化方式の改質器を試作した。具体的には、酸素透過性セラミックスと耐熱ステンレス製セパレータを一体化して、6cm角の酸素透過膜モジュールを開発、これを20枚積み重ね、気体を供給する4本の管を備えた構造である。管が上から各辺上に通り、一方から空気を供給すると、空気中の酸素のみをイオンとして透過、窒素は反対側の管から抜け出る。更に他の管からメタンなどの燃料ガスを供給すると、それが透過してきた酸素と反応し、COと水素が生成される。部分酸化のため起動性がよく、純酸素を利用するため改質効率が高い。(日刊工業新聞05年10月21日)  
12.水素貯蔵技術の開発
(1)都立産技研他
 東京都立産業技術研究所、日本産業技術振興協会、那須電機鉄工、東海大学のグループは、メカニカルアイロニング法(MA法)を用いて、簡便な方法で水素貯蔵用の鉄チタン(FeTi)合金を作成することに成功した。原料となる鉄粉末と純チタン粉末、および攪拌ボールを容器に入れて回転させることによって合成される。理論値に近い水素吸蔵量を得ることができた。元来FeTiは希土類系水素吸蔵合金に比べて吸蔵量が大きく(1.8wt%)、原料も安いという利点があるが、合金の初期の水素化が難しく、活性化処理には高温(730K)・高圧(6.5MPa)の処理を繰り返し要するという欠点があった。これに対してMA法は、回転や振動のエネルギーによって合金を作る手法で、原料粉末に攪拌ボールが衝突を繰り返すことで、粉末同士がたたかれ、伸ばされながら合金化する。攪拌によりナノサイズの結晶構造になっていることが判明しており、この結果が従来のFeTi合金よりも高い水素吸蔵量を示すと考えられる。又作製には時間がかかるが、構造が簡単なため大型化が容易であり、不純物混入の心配が低いというメリットを持つ。低コストで作製されることから実用性は高いと判断しており、実用化を目指す。(化学工業日報05年10月12日)

(2)日立グループ
 日立インダストリイズと日立製作所は、FCV水素充填用高圧圧縮機を開発した。水素を2回に分けて圧縮、第1段は40MPa、第2段で84MPaまで高圧化する。水素は分子が小さくてシリンダーから漏れやすいため、内壁とピストンの隙間を減らすためピストリングの部材に銅を混ぜるなど、独自の技術で機密性を保った。両社が開発したのは、専用の運搬車などに水素を入れて運び込んで貯蔵する“オフサイト”水素ステーション向けの圧縮機であり、19.6MPaで運ばれてくる水素を昇圧する。(日経産業新聞05年10月17日)
13.携帯端末用マイクロFCの開発
(1)KDDI
 KDDIは9月26日、東芝、日立製作所とそれぞれ共同開発していた携帯電話用マイクロDMFCの試作機を開発したと発表した。大きさはどちらも実際の携帯電話と同じか、若干大きい程度で、実際に通話も可能である。10月4日から開催するCEATECジャパンに展示する。東芝製は、従来のau携帯電話“A5509T”をベースに、99.5%濃度のメタノールを用いた大容量タイプで、内部燃料容量は7C.C。1回の充填で従来比2.5倍の電池容量を達成した。リチウム電池とのハイブリッド方式で、300mmWの高出力状態で24時間利用することができる。日立製は“W32H”をベースにしており、燃料は60%以下のメタノール水溶液、燃料容量は3cc、サブ液晶面に小型FCを搭載することにより、従来機とほぼ同じ大きさに納めた。(電気、日経産業、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ05年9月27日、化学工業日報9月28日)

(2)LG化学
 LG化学は、携帯機器向けにDMFCを開発、年内にも商用化する計画を明らかにした。200ccのカートリッジでノートPCを10時間以上駆動することができる。開発したDMFCは出力25Wで4,000時間の耐久性を有しており、容量は1L以下、重量1kgである。ノートパソコン以外に携帯型プレーヤーやデジタル放送の視聴に対応した携帯電話への採用も想定している。(化学工業日報05年9月30日)

(3)オリンパス
 オリンパスは9月30日、将来ユピキタス環境で必要となる民生携帯機器用の小型・高出力(10W以内)・長時間駆動の水素FCの開発において、水素発生器部門の開発をイギリスのキネテイック社に委託したと発表した。固体アンモニアボラン(化学的還元剤)を小粒加工して加熱すると水素を放出する原理を利用して、水素発生器の開発を行うもので、08年に試作機を完成させる計画である。アンモニアボランは、水素、窒素、ホウ素から成り、常温では白色の固体で毒性がなく、温度を上げると水素を放出する。水素含有率が20%と高く、エネルギー効率が高い。キネテイックスは約1万人を擁する欧州最大の科学技術研究機関である。4次世代携帯電話などピーク電力変動の大きい機器での長時間駆動を目指す。(日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報05年10月3日)

(4)東芝
 モバイル機器向け小型DMFCの燃料補充方式において、東芝はボトル状の外部カートリッジから機器内のタンクに注入する方式が有望と見て、実用化を推進する。機器内に組み込んだカートリッジを取り替える方式に比べて、1本で多くのDMFC内臓機器に供給できる他、機器に合わせて自由にタンクをデザインできる。普及に向けて同社は、燃料注入口の規格統一が必要としている。(化学工業日報05年10月11日)

(5)栗田工業
 携帯機器用DMFCに適用可能な“固体状メタノール”を栗田工業が開発した。携帯電話やPCに使われる場合、メタノールは可燃性などで安全面において利用場面が制約される他、液体が漏れる心配がある。固体にすることにより、これらの問題を解決することが可能で、同社では家電メーカーと共同で事業化を推進し、07年にも販売を開始したい意向である。
 開発した固体状メタノールは、ゲスト化合物であるメタノールを天然系素材であるホスト化合物に取り込ませる包接化合技術をベースとしている。固体状にすることによって揮発性を抑制し、液漏れを防げることから、危険物・劇薬指定から除外、航空機への持ち込みも可能になる。又固体状メタノールを水と接触させると、水側にメタノールが放出され、DMFCが動作することも確認している。又固体状メタノールはビーズやペレット、シートなどに加工が可能で、燃料として使用後、ホスト化合物とメタノールをサイド反応させることにより再利用することができるのも特徴である。(日刊工業新聞、化学工業日報05年10月21日)  
14.FC・水素関連の評価および計測技術の開発と事業化
(1)チノー
 チノーは9月22日、台湾元智大学FCセンターと、FC計測・評価技術に関する協力および研究で、5年間の共同研究に関する覚書を交わしたと発表した。同社のコンパクトタイプPEFC/DMFC評価試験装置“FC5000”を同センター内に設置した。同社が海外の大学にFC評価装置を設置するのは、中国上海交通大学に次ぐ2ヶ所目である。(日刊工業新聞05年9月23日、日経産業、電波新聞9月27日)

(2)Jパワー
 JパワーはPEFC用MEAおよび試験・評価装置(セル)の販売に乗り出す。研究者向けにMEAを試作する外注先が限られていることに着目。再現性に優れた試験・評価セルについても競合する有力商品が少ないことから市販に踏み切ることにした。前者についての標準品は80mm四方の膜に50mm四方の電極を接合したMEAで、構成材料には田中貴金属の触媒、デユポンの電解質膜、東レのカーボンペーパーを使っている。なお受注品は依頼主が開発した構成部品や要望品を使い、サイズについては膜の大きさで100mm四方まで相談に乗ると同社は語っている。価格は標準品が2万円以下で納期は1週間程度。試験評価セルについては、独自開発のセパレーターを使い、供給ガスが漏れにくい構造設計やMEAとの接触性に優れた性能を実現しており、安定した試験評価が可能である。価格は40万円以内を予定する。当面はテスト販売とし、市場からの反応を見極めながら事業化の判断を行う計画で、販売についてはミクロ(千葉県柏市)と組む。JパワーはDMEを燃料に使うFCを主体にする一方で、水素方式についてもノウハウを持っているが、DMEについては研究成果を温存し、水素方式の技術は開放することにした。(日刊工業新聞05年9月29日)

(3)村田製作所
 村田製作所は、小型FC用メタノールセンサーを開発し、サンプル出荷を開始する。メタノール溶液中の超音波伝播速度が、その濃度に依存する性質を利用し、超音波の伝播時間から濃度を計測する。積層圧電材料技術を駆使したインパルス超音波トランスデユーサーと専用駆動制御ICとの一体化により、外形寸法12´25´85mmの小型サイズ(重さは1.9g)を実現し、メタノール濃度分解能は0.1wt以下(常温)の高精度で、20mW以下の低消費電力化を図った。電源電圧はDC5V、使用温度範囲は0〜90℃である。携帯機器用DMFCシステムに搭載できる。(電波新聞05年10月3日、化学工業日報10月4日)

(4)山口大学
 山口大学の岡本特命教授は、マイクロFC向けの新しい電解質膜を開発した。同教授らはIC基板などに使われるプラステイック原料のポリイミドに注目し、スルホン酸化合物と反応させることにより新しい電解質膜を製作した。濃度が50%のメタノール水溶液を使ったDMFCで、50W/cm2の出力を出すことに成功した。「新しい電解質膜は簡単に合成できるので、ナフィオン膜とコスト面で競争できる」と岡本教授は語っている。(日経産業新聞05年10月5日)
15.FCを導入したマイクログリッドの研究開発
 日大工学部(郡山市)は、FCとバイオマス、風力、太陽光を組み合わせた次世代マイクログリッドの研究開発に乗り出す。電力会社のネットワークに依存しない“地産地消”の自立型ネットワークの形成を目指す。同大は風力と太陽光発電を組み合わせたハイブリッド発電(最大出力40kW)の実証試験を続けているが、これに新日本エコ・システムが開発したFCを加えて、マイクログリッドの安定化に活かすことにした。(河北新聞05年10月6日)
16.企業活動
(1)荏原等
 荏原製作所、荏原バラード、バラード・パワー・システムズは9月29日、定置式PEFCスタックの製造・開発などの権利を荏原バラードが取得することで最終合意したと発表した。スタックの製造・開発・販売とメインテナンスについての排他的権利の他、改良権やサブライセンス権も荏原バラードが取得した。ライセンス料は2,360万ドル。又荏原バラードは、バラードが開発中である4万時間の耐久性を持つ次世代1kW級スタックの開発費の1部として1,800万ドルを負担する。荏原は今後、本格的商用機の発売に備えて、自社でスタック製造開始の準備を進める。(日本経済、電気、日経産業、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報05年9月30日、電波新聞10月6日)

(2)水素エネルギー研究所
 設立20年目を迎えた水素エネルギー研究所(長野県茅野市)は、研究から事業に軸足を移す。水素化ホウ素ナトリウムを使った水素貯蔵技術の蓄積を生かしてFC製品を開発し、中国で生産、企業としての成長を目指す。製品は同社が開発した出力200WのポータブルFCで、想定する主な用途はは被災時の緊急利用である。カートリッジ式の液体部分を交換すれば、必要な照明や各種機器の電源、携帯電話などの充電に使える。(日経産業新聞05年10月4日)

(3)住友商事
 住友商事グループは、日本、韓国、台湾における独占販売契約を締結したイタリアのアクタ社のFC用触媒について需要拡大を本格化、08年度に市場シェア25%獲得を目指す。白金触媒の使用量を世界最高レベルに抑えた触媒層、メタノールからエタノールまで幅広いアルコール系燃料が使用可能な安価な金属系触媒の他、MEAおよびFC以外の触媒も手がける。このため大学や企業の研究部門、研究機関とのコラボレーションや新規用途開拓を通じて事業化を急ぐ。同社のFC触媒は白金以外にニッケルやコバルトを使った金属系触媒で、PEFC、SOFCに使用可能であり、MEAやエタノールを脱水してエチレンを取り出す触媒などの開発にも取り組んでいる。(化学工業日報05年10月17日)  

 ―― This edition is made up as of October 21, 2005――


・A POSTER COLUMN

太陽光発電ビジネスが新たな局面に
 世界シェアの過半を占める国内太陽電池メーカーの多くは、ここ数年で単年度黒字化を果たし、市場規模も急激に拡大している。開発途上国のマーケットは、巨大な潜在需要を秘めている。
 戸建て住宅用で、10年前には初期投資額は600万円であったが、現在は200万円まで下がった。ユーザーは売電と買電の料金格差で初期投資を回収するが、償却期間は15〜20年となっている。ドイツでは、政策的な買い上げ単価を高くすることで爆発的な需要喚起に成功しており、日本でも経済産業省の補助金制度が05年度に終了するが、環境省はCO2削減量に応じたインセンテイブ型の補助金支給を構想中である。
 世界総需要は、03年の750MWが04年には1,200MWへ増加、05年には1,600MWに達する見込みである。(株式新聞05年10月5日)

水素・ガソリン両用ロータリーエンジン車の出品
 マツダは10月4日、スポーツ車“RX−8”をベースにした水素ロータリーエンジン車を、06年発売することを明らかにした。官公庁や企業向けに月額100万円以下でリースする予定で、10月21日開幕の東京モーターショウに出品する。マツダが独自に開発したロータリーエンジンを水素もしくはガソリンを燃料として動かすが、そのどちらを使うかは、運転者がスイッチで選択できる。燃料を満タンにした場合、水素のみ使用で100km、ガソリンのみ使用では549kmの走行が可能である。マツダは「FCVの1/5以下のコストで生産できる」と述べている。(毎日新聞05年10月5日)

天然ガスコージェネレーションの導入が加速、発電効率が大幅に向上
 日本ガス協会が行ったアンケート調査によると、04年度における天然ガスコージェネレーションの導入実績は約72万kWで、前年度比30%と大幅な伸びを記録した。国内の電力用発電施設の約1%を占める。牽引したのは産業用で、導入実績が63.3万kWと前年比37.3%増加した。原動機別設置件数の内訳は、ガスタービンが13,213件、ガスエンジンが557件、発電容量ではガスタービンが67%、ガスエンジンが33%となっている。
 ガスエンジンの発電効率が上昇、6,000kW級で発電効率が新鋭の火力発電所と同等のレベルとなり、GE・イエンバッハとヤンマーが開発したミラーサイクルガスエンジンは発電効率が40%を越えている。IHIと新潟原動機は9月に出力5,800kWガスエンジン“18V28AG”で発電効率47.6%を達成した。点火プラグを使わないマイクロパイロット着火方式を採用しているので、点火プラグを取替える必要がなく、4,000時間の連続運転が可能になった。(電気新聞05年10月11日)

あらゆる燃料を利用可能なスターリングエンジンを実用化
 イギリスのデイセンコは06年4月からスターリングエンジンの量産を3kW級で始めるのに合わせ、日本でもデイセンコ・ジャパンで商用化に乗り出す。発電効率25%、コージェネレーションでは総合効率90〜95%を実現、スターリングエンジンは外燃式のため、ガス、液体燃料、バイオ燃料も使えるので、生ごみからのメタンも導入できる。3kW機器は80cm・60cm・60cmとコンパクトで、本体価格は150万円前後である。発電効率は低いので、熱負荷の高い顧客が対象となる。日本ではデイセンコ・ジャパンが総販売元となって、日本企業と販売およびパッケージヤー契約を結び、コージェネレーション機器として販売に乗り出す。日本では年間20万台の販売を目指している。(日刊工業新聞05年10月14日)

05年3月現在の低公害車の普及状況
 05年3月現在の低公害車の保有台数は、EV;460台、天然ガス車;約17,000台、ハイブリッド車;約197,000台、ガソリン車;9,467,000台の合わせて968万台。メタノール車は32台に留まった。(日刊自動車新聞05年10月18日)

三菱自動車が中国電力との協業でEVの普及を図る
 三菱自動車は2010年までに実用化を目指している量産型EVで、中国電力を始め関西、四国、九州電力など複数の電力会社に採用を働きかける方針である。充電技術の開発や充電ステーションの設置でも協力を求める。電源はリチウムイオンバッテリーで、20分の急速充電で80%充電し、150km走行する。中国電力の数十〜数百台規模を中心に、全体で1,000台以上の販売を狙う。
 EVについては、富士重工業も09年を目標に東京電力と実用化に向けた取り組みを行っている。電源は急速充電と長寿命化に優れたマンガンリチウムバッテリーで、ゴーストップの多い都市部での営業車、観光地や大規模団地などで車を共有するカーシェアリング用に期待している。(日刊工業新聞05年10月21日)