第110号 液体水素輸送による移動式ステーション
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.PAFCプラントの導入
4.MCFCの研究開発
5.SOFC研究開発
6.PEFC要素技術の開発
7.定置式PEFCシステムの実証試験
8.FCV最前線
9.船舶用FC動力
10.FCV用水素ステーションの開発と設置
11.水素生成および改質・精製技術
12.水素供給システム
13.マイクロFCおよびDMFCの開発
14.計測およびシミュレーター技術の開発と事業活動
15.産学連携の動き
16.未来予測
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
 NEDOはSOFCに関わる開発研究について、円筒縦縞型セルの高出力化のテーマを三菱重工に委託するなど6件の要素技術開発を採択した。これ以外のテーマは、SOFC劣化機構解明と長期的な安定性の向上を図る研究で、産総研と電力中央研究所などのグループ、平板型SOFCの高出力化で関西電力と三菱マテリアルのグループ、円筒セル高出力化でTOTO、短時間起動の平板型モジュールで住友精密工業、超寿命化で九州大学に委託などである。(日刊工業新聞05年5月30日、化学工業日報6月1日、電気新聞6月7日、日経産業新聞6月15日)
 NEDOは5月30日、三重県等が応募していたFC研究開発事業の提案を採択したと発表した。三重県は大同工業大、大同特殊鋼、立命館大学など9機関と共同で“水管理によるセルの劣化対策の研究”の研究テーマを提案していた。なお三重県は三重大学工学部と連携し、県科学技術振興センターを拠点に県の研究員や大学教授、学生らと研究を進める。研究期間は05年度から5年間。(中日新聞05年5月31日)
 NEDOは、PEFC研究開発事業において、スタック内の物質・反応分布の分析と物質の挙動を可視化するシステムの開発を、山梨大学、早稲田大学、島津製作所、日立製作所、東京エレクトロン、富士電機アドバンストテクノロジーのグループへ委託した。セルの劣化メカニズム解析では、日本自動車研究所などが、定置式FCの低コスト化や高性能化のためのスタック基礎研究を、旭硝子、松下電器産業、東京ガス、新日本石油、東京工業大学などのグループが、改質系触媒の基盤要素技術を広島大学、三菱重工業、出光興産、東芝FCシステムのグループが担当する。又FCシステムの周辺機器の開発は、松下、荏原バラードなどのグループが採択された。(日刊工業新聞05年5月31日)
 NEDOは次世代セラミックリアクターの開発を、ホソカワミクロン、京セラ、東邦ガス、デンソーなど4社3機関に委託することを決めた。(化学工業日報05年6月3日) 
2.地方自治体による施策
(1)神奈川県
 神奈川県の環境共生モデル都市“ツインシテイ”の都市づくりを研究している企業グループ“かながわエコ・エネルギータウン研究会”は5月28日、環境性と経済性を両立した災害に強いタウンを実現する行政、県民との協働組織“かながわエコ・エネルギータウン友の会(KEYプロジェクト友の会)”を設立する。神奈川県も参画し、一般県民の参加を求めて、太陽光発電と燃料電池を複合したシステムを設置、各戸のエネルギー需要をネットワークで融通しあう住宅街区のモデル構想を推進する。本年度に検討を進め、06年度に具体化する予定である。(日刊建設工業、建設通信新聞05年5月27日)

(2)山口県
 山口県産業技術センター(宇部市)は6月10日、山口県FC研究会を発足させる。年4回の会合で、産学官連携による技術開発プロジェクトの創設につなげる意向である。研究会ではFCの市場性や課題を探り、部品製造など地場企業が参入できる分野を検討し、06年度から研究開発を本格化させる予定で、05年度の事業費として250万円を見込んでいる。(中国新聞05年5月28日、6月11日)
 山口県は周南コンビナートで進めている水素FC実証試験の3月末までの結果を纏めた。試験は県水素FC実証研究委員会が04年2月、トクヤマ徳山製造所内の敷地に出力1kWのコージェネレーション型装置を設置して開始した。カセイソーダ工場から発生する純度の高い水素を直接供給したときの発電効率は37.2%であった。化石燃料からの改質タイプに比べると6%程高く、起動時間も約10分短い。(日経産業新聞05年6月1日)

(3)東京都荒川区
 荒川区は区立第2峡田小学校に、灯油燃料の家庭用PEFCシステムを導入し、9月から運用を開始する。(産経新聞05年6月22日)  
3.PAFCプラントの導入
 川崎市は来年オープンする市立多摩病院に、都市ガスを燃料とする出力200kWのPAFCコージェネレーションシステムを導入することを決めた。導入費用は1億7,000万円。PAFC以外にもデイーゼル発電装置のよるコージェネや、出力20kWの大型太陽光発電装置、夜間電力で氷を作り昼間の冷房に利用する氷蓄熱装置なども導入する。(日本経済新聞05年5月28日、日経産業新聞5月31日)
4.MCFCの研究開発
 MCFC研究組合は6月1日、MCFC成果報告会を経団連会館で開催した。“MCFC技術開発の集大成と今後の展望”をテーマに、早期実用化に向けた2000〜04年の第3期実用技術開発において、高圧運転で得られた運転実証成果が報告された。具体的には第3期開発プロジェクトでは、加圧小型発電システム試験と高性能モジュール試験を実施、加圧小型システムでは、目標の43%には届かなかったが、41%の効率を達成した他、約5000時間の運転実証を行った。高性能モジュール開発では、1.2MPaで高い効率を実現した。(電気新聞05年6月2日)  
5.SOFC研究開発
 九州大学の松本助教授は、SOFCの電解質や電極をぺロブスカイト化合物をベースとする新材料に替えることによって、SOFCの動作温度を600℃前後以下へ引き下げるための研究開発に乗り出す。ぺロブスカイト新材料を使った“プロトン−電子混合導電体”の研究で文部科学省の科学研究費の交付を受ける。同助教授は、バリウム・セシウム・イットリウム(バリウムセレート)やストロンチウム・ジルコニウム・イットリウム(ストロンチウムジルコネート)などのぺロブスカイト化合物の研究を行っており、これらの材料を電解質や電極に適用することを考えている。又同助教授はルテニウムをドープしたペロブスカイト化合物を分離膜に用いた高性能水素分離セラミック膜の開発でも成果を上げている。(化学工業日報05年6月24日)  
6.PEFC要素技術の開発
(1)昭和電工
 昭和電工はカーボンと樹脂の複合素材を使ったPEFC用セパレーターを開発した。重量は金属製の1/4程度で、導電性は通常の黒鉛の約10倍である。このセパレーターの素材は、黒煙微粒子と、ポリプロピレンやブタジェンなどの複合樹脂を、体積比で7対3の割合で混合したものであるが、これに少量のホウ素を加えて導電性を向上させることに成功した。複合樹脂の比率が高いほど素材は柔軟で加工しやすくなるが、導電性が損なわれる。この体積比が黒鉛と樹脂の特性を最大限に生かせる最適調合であるとの結論を得た。製造法は複合素材を押し出し成型機でシート状に圧延し、燃料ガスや空気を通過させる溝をプレス成型で刻む。今後の課題は薄さと低コスト化である。セパレーターの厚みは1.5mmであり、生産コストは現状では1枚当たり数千円とかなり高価である。(日経産業新聞05年5月23日)

(2)荏原バラード
 荏原バラードは、5月26日、カナダのバラードパワーシステムズ社との間で、定置式PEFC用スタックの製造・開発における提携を強化すると発表した。取得する権利や出資に関する覚書に調印し、近く正式な契約を結ぶ。この契約により、PEFCスタックを荏原バラードが自社製造することができる。具体的には、1)荏原バラードが日本での定置式PEFCスタックの製造、開発、販売およびメインテナンスについて、バラード社より排他的権利を取得する、2)荏原バラードがバラード社の次世代1kWPEFCスタックの開発に出資する、の2点である。これに伴い、荏原がバラードに1,170万ドルを追加出資する。(電気、日刊工業新聞05年5月27日、日経産業新聞、化学工業日報5月30日)

(3)TDFJ
 帝人デユポンフィルム(TDFJ)は、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム“テオネックス”の新グレードを開発した。従来のフッ素樹脂系材料に比べて加工時の取り扱いが容易などの特徴を有している。同社はセル内の部材あるいは工程紙として提案しており、部材メーカーが評価を進めている。開発したグレードは、低温から高温までの雰囲気下で安定した耐熱性、低加湿状態でも安定した耐加水分解性、高プロトン濃度下で安定する耐薬品性に優れている。又優れた加工性を実現するほか、強酸性下でも成形や保持が可能になる。(化学工業日報05年6月2日)

(4)九州大学
 九州大学大学院の佐々木助教授と寺岡教授らは、炭素ナノ繊維(CNF)を用いて、白金の担持量を半分に減らしても発電能力が同等であるような電極触媒を開発した。ナノ構造の炭素繊維は白金を高分散に担持しにくいが、同助教授らは表面処理を施すとともに、白金の凝縮を抑制することによってこの問題を解決した。今後CNF表面構造の最適化によって、白金の利用効率を更に高めるほか、電極触媒の耐久性を高め、実用化を目指す。(化学工業日報05年6月2日)

(5)NOK
 NOKは長寿命で耐燃料透過性に優れるフッ素ゴム材Oリング“FP29”を開発した。従来品に比べて圧縮永久歪を大幅に向上させている。FCV用部品など、厳しいスペックが要求される分野で市場開拓を進める。(化学工業日報05年6月24日)  
7.定置式PEFCシステムの実証試験
(1)ファミリーマート
 ファミリーマートは三重県四日市市高浜町のコンビニエンスストアに、富士電機アドバンストテクノロジー社製出力1kWPEFCを設置した。三重県が実施する実証試験計画に採択されており、設置費用4,000万円弱の内半額を同県が補助する。店舗内の蛍光灯の1/3に相当する電力消費を賄い、平日1日当たり560Lの入浴用湯水(40℃)を、市内の介護サービス団体に供給する。(日本経済新聞05年5月29日)

(2)Jエナジー
 ジャパンエナジーは6月8日、LPG改質型出力700W家庭用PEFCシステムの一般家庭への設置を開始すると発表した。当面は関東圏を中心に設置を進め、初年度は30台程度、3年間で150台程度の設置を目指す。ユーザと3年間のメインテナンス契約で同社が保守を請け負う。ユーザにはメインテナンス費用として年9万円を請求するが、他方データの提供やアンケートに対する協力費として同額を支払うので、実質無料で導入することができる。(日刊工業新聞、化学工業日報05年6月9日)

(3)富士電機ホールデイングス
 富士電機ホールデイングスは6月21日、08年度に1kW級家庭用PEFCの販売を開始し、年間5,000〜1万台の販売を目指すことを明らかにした。目標価格は150万〜200万円/台で、運転寿命は4万時間を目標に開発を進める。同社は2015年を家庭用FCの本格的普及時期と考えており、その時期までには1台当たりの価格を30〜50万まで下げたい意向である。同社が04年度に製作した3次試作機は、発電効率31%、熱回収効率38%、運転寿命1万時間であったが、現在生産中のプレ量産試作機は、発電効率32%、熱回収効率42%、運転寿命2万時間を目標としている。(電気新聞05年6月22日)  
8.FCV最前線
(1)トヨタ
 トヨタ自動車は、FCV用高圧水素タンク2種類を自社開発し、高圧ガス保安協会の認可を得た。開発した水素タンクの規格は、35MPaと70MPaの2種類で、70MPaのタンクを積んだ場合には500km以上の走行が可能である。35MPaでは330kmで従来のタンクに比べて10%延長している。(フジサンケイビジネスアイ05年5月21日)

(2)オペル
 ドイツのオペルはスウエーデンのIKEAと共同で、ベルリンにおいてFCVの実用性テストを実施する。IKEAがベルリンのシュパンダウ支店で、オペルの“ザフィーラ”ベースFCV“ハイドロジェンV”を導入し、営業用に使用しながらデータを収集して分析し、その結果を実用化に役立てる。(日刊工業新聞05年6月7日)

(3)ビバンダム・ラリー
 フランスのミシュランは6月8日、京都国際会館で“ビバンダム・フォーラム”を開き、持続可能な車社会実現への課題について議論した。同時に行われた“ビバンダム・ラリー”では、電気自動車やFCVなど計51台の低公害車が同会議場をスタートし、愛知万博会場へ向かった。(朝日、日刊工業新聞05年6月9日)

(4)日立
 日立製作所と日立ビークルエナジーは6月9日、リチウム2次電池の制御装置を1/10のサイズに小型化する専用ICを共同開発したと発表した。リチウムイオン電池の搭載が見込まれるFCVやハイブリッド車のスペース効率を改善するユニットとして提案し、6月からサンプル出荷を開始する予定である。(電気、電波、日刊自動車新聞、化学工業日報05年6月10日)

(5)トヨタとホンダ
 トヨタ自動車とホンダは6月17日、FCVについて、量産が可能になる型式承認を国土交通省から取得した。(朝日、毎日、日本経済、産経、日刊自動車、東京、西日本、中日、中国、北海道新聞、フジサンケイビジネスアイ河北新報05年6月18日、日経産業、日刊工業新聞6月20日、化学工業日報6月21日)  
9.船舶用FC動力
 渦潮電機(愛媛県今治市)と萩尾高圧容器(新居浜市)は、船舶用FC動力機構を実用化するため、実証実験を始める。萩尾高圧容器が開発したLPGのFC用脱硫ボンベの技術を船舶用FCに応用し、船舶用FCの実用化を目指す。海上ではFCに供給される空気に陸地におけるよりも塩分が多く含まれるため、それによる性能劣化対策として、脱塩剤を開発する一方、排煙中の硫黄分を除去するために、脱硫剤の開発を行っている。渦潮電機は、萩尾高圧容器が開発中の、脱塩剤および脱硫剤を装備した船舶用FCの試験を自社研究所内で始めており、船舶特有の揺れおよび振動などのデータを収集し、05年9月からは実際の船舶で実証評価を行う。(化学工業日報05年6月13日、愛媛新聞6月15日、日経産業新聞6月16日、日刊工業新聞6月22日) 
10.FCV用水素ステーションの開発と設置
(1)関西電力・岩谷産業
 関西電力と岩谷産業は6月2日、水素を液体で輸送し、FCVや家庭用FCに供給する“液体水素方式移動ステーション”を開発したと発表した。2,000Lの液体水素タンクを搭載し、高圧の水素ガスに変換して供給すると、FCV15台のFCVに水素を充填することができる。4トンクラスの車両に収まり、機動力において優れ、又液体水素は水素ガスに比べて同じ容量で3〜4倍の水素を蓄えられるので、従来方式(水素ガス輸送)に比べて7.5倍の燃料を1度に充填できるようになった。岩谷産業の滋賀技術センター(守山市)で実証試験を進め、1年後の実用化を目指す。(読売、日本経済、電気、日刊工業、京都、中国新聞、化学工業日報、フジサンケイビジネスアイ、河北新報05年6月3日、日経産業新聞6月7日)

(2)ジャパン・エア・ガシズ
 ジャパン・エア・ガシズは6月6日、ミシュランが開催する“ビバンダムフォーラム&ラリー2005”に参加し、8台のFCVに水素ガスの供給を行うと発表した。(化学工業日報05年6月7日)  
11.水素生成および改質・精製技術
(1)早稲田、東北大学等
 早稲田大学、東北大学などの研究グループが、水素の純度を高めて貯蔵し、必要なときに放出する水素吸蔵合金の実用化に向けた研究を進める。ランタン、アルミニウム、ニッケルで構成する合金の表面を、シリコンゴムでコーテイングした材料で、低純度の水素を吸収してから水素を放出すると、水素の純度を99.999%まで高めることができる。純度の低い水素を吸収すると合金が劣化する傾向があるため、それを防ぐために表面をシリコンゴムで覆った。水素貯蔵量は合金の1wt%である。(日経産業新聞05年5月30日)

(2)Jエナジー
 ジャパンエナジーは、LPGから硫化カルボニル(COS)系などの硫黄化合物を効率的に除去できる酸化銅系吸着剤を開発した。この吸着剤を使って、市販LPGによる脱硫実験では、水素を添加しなくてもメルカプタンやジスルフィド、COSを常温で効率よく除去することができた。LPGには3.5ppmの硫黄分が、硫黄化合物としてはメチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィドなどが各0.1ppm前後、COSが2.9ppm含まれており、8割以上がCOSである。実証試験では1年程度の耐久性を確認している。(化学工業日報05年5月31日)

(3)甲南電機
 甲南電機(西宮市)は、消費電力を従来の1/4から1/5に低減した電磁弁“MV1-1.2-NC”を発売した。水素ガス供給用として売り込む。電磁弁の消費電力は1W(定格電圧24V)、使用圧力は20kPaまでで、バルブ内流路の最小径が1.2mmの場合、電磁弁の開閉に4〜5Wの電力を要する。水素を抽出するための都市ガスやプロパンガスを送り込むケースや、改質ガスをFCに供給するときの利用を見込んでいる。(日刊工業新聞05年6月9日)

(4)三菱化工機
 三菱化工機はカナダのクエストエアテクノロジーズ(QAR)社と、水素精製PSA装置について、日本と中国を含むアジア地域での販売契約を締結したと発表した。対象製品は、QARが製造する毎時100Nm3以上の“ハイクエスタ”および100Nm3以下の“H−3200” で、三菱化工機は、工業向けやFC向けの水素製造システムにこれらを組み込んでラインアップを拡充し、受注活動を進める。今回のPSA装置には、ロータリーバルブ技術が採用され、高速切り替え技術が導入されているので、コンパクト化で高性能のシステムになっている。(日刊工業新聞、化学工業日報05年6月14日、電気、日経産業新聞6月15日)  
12.水素供給システム
(1)東邦ガスと名大
 東邦ガスと名古屋大学は、水素をFCVと住宅の両方に供給するシステムの共同研究を始めた。FCV用水素スタンドを中心に、300戸程度の住宅へ水素供給網を構築することにより、住宅のエネルギー消費やCO2排出量の大幅削減を実現する。東邦ガスの試算によれば、FCV普及初期に水素スタンドの利用が35台/日程度の場合、システム全体でエネルギー消費量の14%を削減し、CO2排出量も22%減らすことができる。今後東邦ガスと名大は詳細な試算を行い、水素スタンドを使った実証実験に取り組む。(中日新聞05年6月16日)

(2)日本総研
 日本総合研究所は、三菱電機、明電舎、大成建設など20社で構成しているDESSコンソーシアムと連携して、集合住宅や病院などにFCコージェネレーションシステムを導入するとき、効果的な電力と熱の負荷運転を目的としたマイクログリッドシステムの開発に着手した。環境省から8,700万円の補助を受け、低コストの制御システムを開発し、最適制御を行うことにより、集合住宅で発生するCO2排出量を従来比40%以上削減するシステムを確立する。具体的には改質装置を1ヶ所に設置し、パイプラインで各家庭に水素を供給するシステムであり、この運用において住宅別に異なる電気および熱の需要パターンを最適化するための制御装置を開発する。愛知万博で行っているマイクログリッド実証では、80数億円の総費用の内、制御システム1台に3億円程度かかっているが、この制御システムを50〜100世帯にFCを設置する規模で、1,000万円程度までコストを下げて実用化することを目指す。(日刊工業新聞05年6月21日)  
13.マイクロFCおよびDMFCの開発
(1)デユポン
 アメリカのデユポンは、従来に比べて触媒担持量を大幅に減らしながら出力密度を約20%向上させるとともに、耐候性や信頼性も2倍にまで高めたDMFC用MEA“DuPont GenW”を開発したと発表した。このMEAによりDMFCの発電効率を高め、連続運転時間を大幅に伸ばすことが可能になった。(日刊自動車新聞、化学工業日報05年5月26日)
 デユポンは6月9日、名古屋市に05年10月、自動車用の塗料や樹脂、電子材料などを専用に開発する研究施設を新設すると発表した。トヨタ自動車向けが中心。このオートモーテイブセンターは帝人デユポンフィルムなど国内5つの合弁会社が参加し、40人の研究員でスタートし、フッ素樹脂系の材料や高機能繊維、FCV用素材、水系塗料などを開発する。(日本経済、日経産業新聞05年6月10日)

(2)柏原機械
 柏原機械製作所(大阪府)は、厚さ0.1mmの極薄金属板を低コストで完全溶接できる手法を開発した。05年内にも価格を千万円台に抑えた自動汎用機を開発し、マイクロFCや電子部品メーカーに売り込む。マイクロFCの燃料部の密閉に使用すれば液漏れなどを防げる。アルゴンガスによるマイクロプラズマ技術を採用し、産総研ものづくり先端技術研究センター(つくば市)の協力を得て制御システムを開発した。(日経産業新聞05年5月31日)

(3)SII
 セイコーインスツル(SII)は、金属水素化物のボロハイドライドナトリウムを燃料に用いて、高出力・高効率を実現できる新しい小型PEFCを開発した。このマイクロFCは大きさが125mm×50mm×30mmで電圧は5V、デジタルカメラ、DVDカムなどの電源デバイスとしての実用化を目指す考えである。このシステムはパッシブ型ながら独自の水素ガス制御機構により安定した反応を実現する。発電により燃料タンク中の水素ガスが減少すると、圧力差で別のタンクから触媒溶液が流入し、反応で再び水素ガスがタンク内を満たすと、圧力差がなくなって触媒溶液の移動も止まる仕組みになっている。反応は常温で進行する。燃料に使われる金属水素化物のボロハイドライドナトリウムは、水素を取り出してもCO2の排出はなく、DMFCのように触媒が被毒劣化する心配がない。現在は携帯電話の電源としての出力1Wのシステム構成であるが、今後はデジカメ用に3W程度に出力を上げることを計画している。(電気新聞05年6月7日)

(4)コーセル・斉藤製作所等
 コーセル(富山県)と斉藤製作所(同)、富山県工業技術センターは、メタノールから水素を取り出して発電する携帯電子機器用小型PEFCを開発した。水素を発生させるためのエネルギーとして、FCによって発電する電力の半分を充てる循環方式を採用しており、メタノールがあれば自律的に継続して発電することが可能である。電極面積は10cm2、電気出力は発電密度は70mWであり、したがって出力密度は70mW/cm2となる。実用化レベルでは100mWまで高めたいとしている。(富山新聞05年6月10日)

(5)スター精密
 スター精密は6月15日、6月19日開催のバイオ産業見本市“BIO2005”(フィラデルフィア)に、新製品の圧電型ダイヤフラム式マイクロポンプ“SDMP305”を出品し、アメリカでのニーズを探る。これは消費電力が少なく、低騒音、低電磁ノイズが特徴であり、最大流量は5mmLで、04年に開発した“SDMP205”の3倍以上の流量である。携帯機器用マイクロFCの燃料供給ポンプなどへの利用が見込まれる。(静岡新聞05年6月15日)
14.計測およびシミュレーター技術の開発と事業活動
(1)ケイ企画
 ケイ企画(横浜市)は、メタノール濃度分析装置“メタノライザM1”を発売した。溶液濃度で沸点が変る特性を利用した計測手法で、従来の溶液振動方式による装置に比べると、測定時間が数時間から約8分にまで短縮され、より少量(8mL)のメタノール溶液でも計測することができる。従来はメタノール溶液に赤外線を当ててメタノール分子を振動させる方式が一般的で、装置の価格も250万円程度であった。DMFCの研究を行っている研究機関やメーカーに売り込む積りで、価格は63万円、初年度200台の販売を目指すとしている。(日刊工業新聞05年5月24日、日経産業新聞5月25日)

(2)静岡大学等
 静岡大学工学部の岡野教授は、5月25日、FC開発用シミュレーターソフトをカナダのビクトリア大学と共同開発したと発表した。FCセル内の水素の流路ごとに水分の発生場所と量、更に外部に排出される水量を明らかにし、どの部分にどれだけの水分が残るかを解析する。寒冷地での凍結による故障を避けるための対策に有効である。又このソフトを使えば、試作回数を減らしてFC開発を効率化することができる。同教授は07年までにビクトリア大学と共同で、FCシステム全体のシミュレーションソフトを開発する予定である。(日刊工業、静岡新聞05年5月26日、日経産業新聞5月27日)

(3)高砂製作所
 高砂製作所は、FCやリチウム電池など電池関連分野に向けた多チャンネルインピーダンス測定装置“MIUシリーズ”を開発した。電池の内部抵抗を測るためには、周波数を変化させてインピーダンス測定を行う必要があるが、従来の測定装置では単体のセルを測定するのが主流であり、多数のセルを直列接続して使用するためには不都合であった。この測定装置は交流法によるインピーダンス測定であるが、測定周波数範囲は10mHzから25kHzを実現している。1台で最大41チャンネルまで対応することが可能で、カスケード接続によって16台で最大640セルを同時測定することができる。又高速で大容量となるデーターは、LANによりPC上に素早く収集が可能であり、収集したデータについては、Cole-Coleプロットのグラフ表示することができる。パラメーター解析などの機能を追加することを検討している。(電波新聞05年6月20日)

(4)岡崎製作所
 岡崎製作所(神戸市)は、素線の外径が0.06mmのフッ素樹脂(PFA樹脂)被覆極細径熱電対を開発し、明石工場で生産、7月1日から発売する。FCや医療用温度センサーなどへの利用を期待している。(日刊工業新聞05年6月23日)  
15.産学連携の動き
 横浜国立大学と日立製作所は、研究開発で包括的な産学連携を締結したと発表した。研究開発課題は、エンジンシリンダー内の燃料噴射性能の向上技術、ハイブリッド車のエネルギーマネジメント技術、およびFC用非白金触媒の開発である。包括協定により従来は個人的な関係に依存していた共同研究に、複数の研究者が参加し、組織的な取り組みが可能になる。又共同研究を予算化することも検討する。(電気、日経産業、日刊工業、電波、日刊自動車新聞、化学工業日報05年6月14日、フジサンケイビジネスアイ6月15日) 
16.未来予測
 富士経済は、環境ソリューションビジネスの市場調査報告を纏めたが、それによると、FCの市場規模は04年度の44億円から08年度には712億円まで成長する。(化学工業日報05年6月22日) 

 ―― This edition is made up as of June 24, 2005――

・A POSTER COLUMN

東京ガスが戸建て住宅用コージェネシステムの販売開始
 東京ガスは、05年度上期から戸建て住宅用コージェネレーションシステムの販売を始める。都市ガスによるPEFCの本格的な普及にはまだ時間がかかると判断して、大阪ガスや東邦ガスなど全国約40の都市ガス会社が“エコウイル”の商品名で発売しているガスエンジンを使った1kWコージェネシステムを販売することにした。発電効率は20%でPEFCに劣るが、排熱を利用して給湯と合わせたエネルギー利用効率は80%強に達する。国からの補助金を受けた場合の販売価格は50万円前後になる見込み。これまでのエコウイルの設置件数は累計で約1万2,000台である。(日経産業新聞05年5月31日)