第108号 MCFC組合が12気圧で180kW
Arranged by T. HOMMA
1.国土交通省の施策
2.経済産業省の施策
3.地方自治体による施策
4.MCFCの開発成果
5.SOFCの開発動向
6.PEFCの要素技術およびシステムの開発
7.家庭用PEFCの事業展開
8.FCV最前線
9.改質および水素製造技術の開発
10.水素貯蔵および輸送技術の開発
11.可搬型DMFCの開発
12.マイクロFCの開発
13.FCおよび水素計測・評価試験装置の開発と事業
・A POSTER COLUMN
1.国土交通省の施策
 国土交通省は、圧縮水素の製造施設に関する用途規制の緩和などを盛り込んだ建築基準法施行例の改正案をまとめた。3月22日の閣議で正式決定する。FCや内燃機関の燃料として自動車に充填する圧縮水素の製造施設は、現在防災上の観点から原則として工業地域と工業専用地域に設置場所が限定されている。改正案では、国交省が定める基準に適合した圧縮水素の製造設備の場合、第1種住居地域や第2種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域でも建設ができるようにする。(日刊建設工業新聞05年3月22日)
 国土交通省は3月31日、FCVの安全・環境に関わる基準を整備し、型式認証が取得できる体制を整えた。衝突時の安全を含む水素ガス漏れ防止要件などを内容としており、保安基準などの関係法令を改正・公布した。基準の主な技術的要件は、配管や接続部から水素ガス漏れを防止する機密性能や、漏れた場合でも水素が車室内に侵入しないような容器や配管・取り付け位置などを規定、同時に水素ガス漏れ検知器の性能と取り付け位置についても定めた。この他、FCスタックからの不要な水素ガスの排出に関しては、水素濃度上限値を設定するとともに、衝突の際、水素ガス漏れを抑制するための技術的要件や高電圧からの感電保護に関する技術的要件を盛り込んだ。(日刊自動車新聞05年4月1日) 
2.経済産業省の施策
(1)FC先端基盤技術センター
 FC先端基盤技術の初代センター長に、トヨタ自動車の長谷川FC開発本部FC開発部主査が転籍で就任することが決まった。同センターは、PEFCの基礎研究開発を促進するため、経産省・資源エネルギー庁が音頭をとり、産業技術総合研究所を母体として4月1日に東京・台場に開設される。産総研の他、大学や自動車メーカなどの研究者の参加を求め、30歳代の若手を主体とする。アメリカのロスアラモス国立研究所など海外からもスカウトする。(日刊工業新聞05年3月25日、日本経済新聞3月28日)

(2)資金援助
 経済産業省は耐久性に優れたPEFCを研究開発する企業に対し、資金面で支援する。業務・家庭用PEFCの試験販売が始まっているが、目下のところ耐久性は2年程度である。各社が個々に取り組んできた基幹部品の共同開発を促し、耐久性を3倍程度高めて5年以上使用可能なPEFCの実用化を目指す。NEDOを通じて資金助成するが、イオン交換膜や電極など要素技術の開発が対象で、電機メーカーなどから研究計画の提案を受け、審査して補助金を出す。05年度補助額は54億5,000万円。(日本経済新聞05年4月1日)

(3)FC市場化戦略検討委員会
 経済産業省・資源エネルギー庁が音頭をとって発足した定置式FC市場化戦略検討委員会は、4月11日に最終検討会を開いて、PEFCの大規模普及に向けたコスト削減対応、問題点などを明らかにするほか、初めて補機のスペックを発表する。同検討会はFC完成品メーカーおよびエネルギー企業の9社で構成し、04年8月から勉強会を重ねてきが、その成果を報告書に纏めることにしている。定置式FCが05年から実用化の新しいフェーズに入ってきたのを背景に、普及の問題点を提示する。具体的には、普及の初期段階となる08年には家庭用FCが4万時間の耐久性を、起動・停止1,000〜3,000回の運転条件で達成するといった具体的な運転内容を示す。又コストダウンで重要な課題となる補機のスペックを始めて公表し、それを踏まえて補機メーカーとFCシステムメーカー5社がテーマを決めて共同開発を実施する。
 定置式FC市場化戦略検討委員会は、家庭用FCの普及で課題となるコスト削減などにおける最重要課題の1つとして、ブロワ、ポンプなど補機類を共有化したり、共同開発することで、100万円/1kW機以下に抑えることが可能となる内容を盛り込む。穂機類がFCシステムに占める比率は半分程度に高まっているので、中小・ベンチャー企業を含む企業の参加を得て、共同開発などで大幅なコスト引き下げを実現するのが狙い。(日刊工業新聞05年4月7日、13日)

(4)NEDO
 NEDOは、FCの開発投資を効果的、効率的に推進することを目的に、2020年までの“FC・水素技術ロードマップ”を構築する。対象分野としては、FC本体を中核に、水素の製造・インフラとその他3分野とする。FC本体では、PEFC、DMFC、SOFCの3種類を対象に挙げている。(化学工業日報05年3月23日)

(5)NEF
 NEFでは2005年度のNEDO助成金を受け、定置用FC大規模実証事業を行う。1kW級定置用FCシステムを大規模に設置し、一般家庭などで実際の使用状況における実測データを2年間に亘って取得することにより、初期市場創出段階における民間技術レベルおよび問題点を把握し、今後の開発課題を抽出する。これに伴い、同財団では第1期実証事業実施者の募集を始めており、4月15日まで受け付ける。助成対象となるのは「住宅などへの設置に適したシステムで、出力1kW級、定格運転時における発電効率30%以上(HHV)、総合効率65%以上、50%負荷運転時における発電効率27%以上、総合効率54%以上、未使用品であり、耐久年数2年以上、更にこれらの条件に合うシステムを30台以上提供できるメーカのシステムであること、なお申請者は助成対象システムに燃料を供給するエネルギー事業者で、助成事業期間に同一メーカからのシステムを5台以上、合計10台以上設置できて、一般家庭などで運転実測データを2年間取得できること」となっている。FCシステム1台当たり600万円を上限として助成する。(電波新聞05年3月28日) 
3.地方自治体による施策
(1)静岡県
 静岡県は05年度“しずおかFC・水素エネルギー協働会議(仮称)”を発足させる。FC・水素エネルギーの導入促進により環境への負荷の少ない循環型社会の実現を図る。産官学が連携し、インフラ整備の在り方や関連産業の集積、モデルプロジェクトの検討などを進めていく。具体的には“東海道水素ハイウエイ”の整備、静岡空港ターミナルビルでのFCによるコージェネレーション、FCVシャトルバス運行の検討、普及啓発のためのモデルプロジェクトなどを実施することを考えている。(静岡新聞05年3月20日)

(2)愛知県
 愛知県は、10年度を目標とした新エネルギー関連産業振興計画を策定した。水素エネルギーを中心とした新エネルギー産業の育成の方向性を示したもので、“水素エネルギー産業協議会”を通じてプロジェクトを展開する。計画目標は、1)水素エネルギー・FCによる新たな産業の創出、ものづくり産業の新展開、2)水素エネルギーを中心とした地域性を生かす地域分散型エネルギーの展開、3)実証レベルの新エネルギー先進モデル地域の形成、の3点である。産学官が連携し、FCの技術開発や研究プロジェクトを推進するほか、開放型支援拠点(トライアルコア)を設置する。又住宅と工業、商業と住宅などの新たなエネルギーネットワークシステムのあり方を提案する。その他、構造改革特区や地域再生計画の検討・提案など規制の緩和・見直しについても国に働きかけるなど、環境と経済を両立し、持続可能な社会の実現を目指す。(日刊建設工業新聞05年3月24日)

(3)福岡県
 福岡県と市が共同申請していた“福岡水素利用技術研究開発特区計画”が、3月28日付で内閣府構造改革特区担当室から認定されることが決まった。この特区は、九州大学箱崎キャンパス(福岡市東区)と西区に今秋移転予定の同大学新キャンパスが対象区域で、福岡水素エネルギー戦略会議や九大を中核にして、水素エネルギー社会の実現に向けた研究開発速度の向上と水素関連産業の集積促進が目的である。具体的には水素利用技術の試験研究で使用する小型圧力容器(内容積400mmL以下、圧力100MPa以下)について、容器を製造するたびに必要な耐圧・気密試験を省略することで研究開発のスピードアップを図る。04年8月に設立された“福岡水素エネルギー戦略会議(八木新日本製鉄副社長)”を中核とする“福岡水素エネルギー戦略プロジェクト”は、企業ニーズに基づいた水素の生成、貯蔵、輸送、利用の一貫した研究開発を推進する。又九州大学新キャンパスに水素ステーションを設置し、FCVを走らせるなどミニ水素社会の実現を目指す。これ以外に、北九州エコタウン地区での実証実験、福岡水素エネルギー人材育成センター(仮称)の設置、などが含まれる。(日刊工業新聞05年3月24日)

(4)広島県
 広島県は05年度の新規事業の1つとして、“水素燃料製造・供給システム調査事業”に取り組む。広島県内には水素関連技術を保有し、開発に取り組む企業が多いことから、県域での水素製造可能性調査、供給システムの検討、水素関連技術に関する情報収集・提供を通して、関連事業者との連携を図ることを目標に、調査事業に取り組むことにした。有力な事業者は、水電解水素製造技術;中国電力、広島ガス、副生水素;JEEスチール、三井化学、試験研究機関;広島大学、産総研、FC;MHI広島製作所、広島大学、バブコック日立、中国電力、マツダ、水素貯蔵・輸送技術;広島大学、日本製鋼所、三井金属鉱業、水素圧縮機;日本製鋼所、移動式水素ステーション;バブコック日立、が挙げられている。(鉄鋼新聞05年4月4日)

(5)佐賀県
 佐賀県は地域の産学官連携によるFCの勉強会“水素エナージー研究懇談会”を5月に立ち上げる。県内企業がFC関連産業に参入するための足がかりとするのが狙いである。座長には門出佐賀大学海洋エネルギーセンター長が就任の予定である。2ヶ月に1度のペースで、大学の研究者ら専門家を招いた勉強会を開くほか、産学協同研究グループの結成を目指す。(日刊工業新聞05年4月13日)

(6)武蔵野市
 東京都武蔵野市は市立大野田小学校に家庭用PEFCコージェネレーションシステムを導入し、稼動を始めた。環境教育の教材としても活用する。(日本経済新聞05年4月14日)
4.MCFCの開発成果
 MCFC研究組合は4月1日、MCFCプラントにおいて、12気圧の高圧下で180kWの発電試験に成功したと発表した。高圧運転によりコンパクトなシステム設計が可能であり、送電端効率を高めることができる。発電端効率は43%でMCFCとしては3〜4ポイント低めであるが、内部抵抗の低減など、今後の改善により向上させる見通しを述べている。従来のMCFCでは、高圧下で運転するとメタンなどの改質率が20%程度低下してしまうという問題があったが、発電時に発生する熱を利用して再改質することによりこの問題を克服した。又積層されたスタック本体からのガス漏れを完全に防いだ他、炭酸ガス濃度を調整して電極触媒の溶出を防ぐなど、システムとしての信頼性も向上させた。約500時間の発電運転を行っている。今後改良を加えてガスタービンなどとの複合サイクルに応用すれば、送電端効率50%の実現も可能である。同時に3気圧、150kWの小型加圧型システムについても、約5,000時間の運転と、送電端効率41%を達成した。(電気新聞05年4月4日、日経産業新聞4月5日)  
5.SOFCの開発動向
(1)第1希元素化学工業
 第1希元素化学工業は、同社と東邦ガスの共同開発品であるスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)をSOFC用電解質として本格生産する検討に入った。ScSZは導電率がYSZの2倍にも達し、したがって発電効率を大幅に向上させ、SOFCを小型化することができる。これまで多くの企業や研究機関にサンプル出荷を行ってきたが、SOFCの小型・抵コスト化を実現できることを実証したので、東邦ガスがこの材料を採用したSOFC発電システムの商品化を決めた。これを受けて量産ライン設置計画が浮上しており、3年後には本格的な事業化が期待されている。両社は共同研究の中で、高温燃焼やジルコニウム開発の技術を持ち寄り、耐久性など実用品として求められる課題をクリアし、あらゆる条件で使用しても安定した性能を確保できるようにした。
 第1希元素化学工業は、大阪工場内にパイロットプラントを設置しており、既に中量生産には対応できる態勢を整えている。更に従来から使われてきたYSZについても、既に量産段階に入っており、国内外の企業で採用が内定している。両製品とも本格的な工業化までには更に大幅なコスト低減が不可欠で、これをテーマにした新技術の確立を急いでいる。東邦ガス以外でも採用を内定している企業があり、この新材料は将来大型製品に育ちそうである。(化学工業日報05年3月23日)

(2)MHI
 三菱重工業が開発した平板型SOFCが、愛知万博で6ヶ月間の全期間を通した連続運転に入った。天然ガスの内部改質型で出力は30〜40kW級、1000℃の動作温度で4,000時間の耐久性を実現している。セルの面積は20cm×20cm、電解質はYSZ、燃料極はニッケル系で空気極はランタン系のセラミックスを使っている。セルは凹凸形状で反応部の面積が大きくなっており、各セルはインターコネクターによって電気的に接続されている。セル10枚を1スタック(1kW)に纏め、温度分布を均一にして1000℃で焼成した。実際の運転条件は定格より低い28kWおよび24kWであるが、万博の終了時点まで発電を止めることなく連続運転する。発電効率は38%で低く設定している。
 なお、印刷焼成技法を用いて製作するチューブ型SOFCについては、Jパワーと共同で25kW機の運転を05年夏前に長崎で始める予定である。(日刊工業新聞05年3月30日)

(3)シンガポールとロールスロイス
 シンガポール経済開発庁など同国の官民で構成するエナテック・シンガポールとイギリスのロールス・ロイスは4月6日、FC開発で協力することに同意した。両者で新たに1億ドルを投資し、SOFCの商用化を進める。ロールス・ロイスは2003年に子会社ロールス・ロイス・フューエルセル・システムズを設立して、天然ガスを使ったSOFCを開発中であり、08年までに1,000kW級の発電設備の商用化を目指している。シンガポール側は資金やセラミックス技術などを提供して開発を支援する。(日本経済新聞05年4月7日、日経産業新聞4月8日、電気新聞4月11日)
6.PEFCの要素技術およびシステムの開発
(1)日立造船
 日立造船はPEFC発電システムの実用化に向けて、カナダのハイドロジェニックス社と業務提携した。両社の保有技術・製品などを組み合わせた高効率の業務用発電システムの開発と併せて、国内の市場調査・開拓、システム供給や普及活動などに共同で取り組むが、2年毎に提携内容を見直し、市場ニーズに適時対応しながら、戦略的に事業を展開していく方針である。具体的にはビルや病院、コンビニエンスストアなどの業務用と、非常用の発電システムを開発する計画で、同システムの主な仕様目標は、発電出力が10〜数百kW、燃料は99.99%以上の水素の場合、発電効率45%(HHV)以上、総合効率86%(HHV)以上、寿命4万時間、コスト50〜60万円/kWのような数値が挙げられている。水素発生源として、日立造船の技術である水電解装置を利用し、安価な夜間電力を使うことを想定している。ハ社との提携領域について、同社はPEFCのライセンス製造や合弁会社の設立を視野に入れているほか、水素製造装置やFC検査装置などの製品でも協業を進めていく考えである。(日本経済、電気、日経産業、日刊工業、建設通信、日刊建設工業新聞、化学工業日報05年3月25日)

(2)日立マクセル
 日立マクセルは3月29日、金属メッキ技術を応用して、白金ルテニウムに非金属のリンを添加することにより、高分散した粒径2nmの白金ルテニウムリン(PtRuP)触媒を合成する技術を開発したと発表した。DMFCに適用した結果では、従来の触媒に比べて最大出力密度が1.7倍(64mW/cm2)に増大した。従来の表面積の大きい導電性カーボンに、触媒を微細化して担持させる方法では、カーボンの微細孔に埋没した触媒がメタノールなどの反応に寄与しなかった。新開発のPtRuP触媒は、白金やルテニウムと原子間相互作用が大きいリンを添加することにより、白金やルテニウムの金属結合を切断し、新触媒はカーボンの表面積に依存することなく粒径が2nmに微細化される。しかも粒径分布巾が狭く、1.5〜2.5nmの範囲に収まっている。同社はこれらの要素技術をベースに、PEFCやDMFCへの応用を志向した研究開発を進めることを考えている。(電波新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報05年3月30日、日経産業新聞3月31日)

(3)昭電
昭和電工は4月5日、PEFC用カーボン樹脂モールドセパレーターを開発したと発表した。グラファイトカーボン製セパレーターに比べ導電性、耐久性に優れるほか、割れにくくて低コストの生産が可能であり、金属製に比べても優れた耐久性と軽量化を実現した。新製品は、粒径分布や粒子形状を最適化した新開発の黒鉛微粉を採用し、通常の黒鉛に比べて約10倍の導電性を達成している。複合化するバインダー樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のどちらでも高導電性と優れた機械強度、耐久性(割れにくさ)を持っている。又1枚当たり約15秒と高速な成形法を開発したことにより、普及時にはグラファイト系に比べて約1/10の価格で生産できると期待される。更に金属系の1/3から1/4という軽量性や、厚さ200〜300μmとグラファイト系では実現できないような薄さも特徴である。今後もPEFCメーカーによる評価作業を進めながら、更なる改良を進める予定である。(日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報05年4月6日) 
7.家庭用PEFCの事業展開
(1)コスモ石油
 コスモ石油は家庭用FC市場に参入する。05年末までにLPG改質方式PEFCを発売、07年度中にはこれに灯油方式も加える。LPG方式は東芝FCシステムと共同開発の出力700W級のPEFCシステムで、06年から3年間で約100台のレンタル販売を見込んでおり、料金は年間6万円前後、契約期間は3〜5年を予定している。コスモは三重県などで実証試験を始め、発電効率の向上やコスト削減など性能改善を進める。07年中には灯油方式も販売する予定で、共同開発先は選定中であるが、東芝FCシステムが有力である。(日本経済新聞05年3月24日)
 コスモ石油は、社内横断組織“FC実用化推進チーム”を4月1日付けで発足させた。チームは10人規模で、家庭用FCシステムの他、水素ステーションの実用化にも取り組む。(化学工業日報05年4月1日、電気新聞4月4日)

(2)岩谷産業
 岩谷産業は3月28日、東芝FCシステムと共同で、LPG改質型家庭用PEFCシステムの販売に乗り出すと発表した。05年から始まる国の大規模実証事業に参加、初年度10台、3年間で100台以上の設置を予定しており、5月1日から設置希望者を募集する。リース料は年間6万円で、設置者と3年契約を結ぶ。販売するシステムの出力は700W(AC送電端)、発電効率は32%(HHV、AC送電端)、総合効率は71%、発電ユニットの大きさは幅87cm、高さ88.5cm、奥行き35cmである。(日経産業新聞、化学工業日報05年3月29日)

(3)新日石
 新日本石油は3月30日、05〜07年度の第3次連結中期経営計画を発表した。3年間の設備投資額5,000億円の内、電気事業を含む戦略投資に3,400億円を投じる。電力小売事業の規模は07年度に20万kWを、川崎天然ガス発電所が運転を開始する08年度以降は、60万kW程度への拡大を目指すとしている。オンサイト発電事業については、07年度に23万kWまで拡大する計画である。FCについては、06年度中に、家庭用・業務用に灯油改質型の機種を商品化し、家庭用LPG改質型1kW機を07年度までに1,000台投入する。(電気、日刊工業新聞05年3月31日)

(4)出光興産とコロナ
 出光興産とコロナは3月31日、市販灯油を燃料とした1kW級家庭用PEFCシステムを共同開発したと発表した。開発した試作機をコロナ新エネルギー研究センター(三条市)に設置し、4月1日から運転を開始する。同システムの発電効率は30%(LHV)、総合効率は70%となっているが、約1年間の試験運転を通して発電効率、排熱回収効率などの基本性能や起動時間、運転制御性、耐久性などを確認する。(日刊工業新聞、化学工業日報05年4月1日、日経産業、電波新聞4月4日)
 出光興産は、北海道製油所の社員寮で04年3月から実施していた市販灯油燃料の5kW級業務用PEFCシステムの実証試験を終了した。DSS運転や1週間連続運転を含む 様々なパターンで、延べ3,572時間の稼動を実現、総発電電力量は13,829kWhとなった。出光興産は実証試験を通じて、1)排熱の需要に応じて負荷を変動させた方が、総合効率や省エネの向上につながる、2)温水を浴室で利用しなかったため熱需要が小さく、熱余り状態で運転されることが多かった、3)配管の閉塞やバルブ類の故障など周辺機器での不具合が発生した、などが明らかになったとしている。今後、実証試験に使用したPEFCシステムを分解して劣化・損傷具合などを検証する。(化学工業日報05年4月7日)

(5)新首相公邸での家庭用FC
 3月末に完成した新首相公邸に4月8日、家庭用PEFCシステムが設置され、納入式が行われた。小泉首相のスウィッチ起動で発電・給湯装置2基が稼動した。東京ガス、松下電器産業、荏原バラードが共同開発した。(読売、朝日、毎日、産経、東京新聞05年4月9日、電気、日刊工業新聞4月11日、化学工業日報4月12日)

(6)東芝
 東芝は家庭用PEFCシステムの商用展開を目指して開発体制を強化する。同社では04年12月、本社にFC事業開発室を設置し、更にアメリカUTCとの合弁会社を東芝FCシステム(TFCP)として完全子会社化した。今後は家庭用1kW級機に的を絞り、同開発室が家電、交通など各事業部が持つ技術を動員する。(電気新聞05年4月12日)  
8.FCV最前線
(1)GMとDC
 GMとダイムラー・クライスラーは3月30日、アメリカDOEとFCVの共同開発契約を結んだと発表した。5年契約でGMは総額8,800万ドル(約95億円)をDOEと折半出資し、40台のFCVを生産、ワシントンやニューヨークの他、カリフォルニア州などに導入し、09年までに実用化に向けたデータ収集や性能テストを行う。DOEは水素スタンドを、ワシントン、ニューヨークなどの主要都市に設置する計画である。他方ダイムラーは7,000万ドル(約75億円)を投入する計画である。(東京、中日新聞05年3月31日、中国新聞、フジサンケイビジネスアイ4月1日、産経新聞4月5日)
 GMはアメリカ国防総省と共同で、FCピックアップトラックを開発し、米軍に非戦闘用として1台を納車した。国防総省は米軍の28万台の非戦闘用車両をFCVに置き換え、「2020年以降は戦闘車両にも適用したい」と述べている。06年7月まで試験走行した後、民生用トラックも開発する意向である。ピックアップトラックは、アメリカで200万台の市場規模があり、FCVと同時並行で開発する。FCVは騒音が少なく敵に察知されにくい利点がある。GMは業績不振に陥っているが、前年比10億ドル増の80億ドルの設備投資計画は維持する構えである。ヒラリー・クリントン上院議員もこの計画をサポートしている。(日本経済新聞05年4月3日、産経新聞4月5日、日経産業新聞4月6日)
(2)クワアンタム
 クワアンタム・テクノロジーズ(アメリカ・カリフォルニア州)が、FCVの基幹部品である車載用水素貯蔵タンクについて、トヨタ、日産、ホンダ、マツダの日本の自動車メーカー4社と技術供与の交渉に入ったことを明らかにした。06年にも技術供与を始めたい意向である。GMの中国での合弁先である上海GMにも同様の交渉に入った。技術供与するのは35MPaと70MPaの2仕様で、技術供与により、日本国内でも生産できるようになる。同社の炭素繊維製タンクはアルミ製に比べて重量が1/5と軽い。現在日本国内を走る約100台(試験走行車両も含む)のFCVの内75%は同社製タンクを採用している。日本の総代理店は住友商事。(日本経済新聞05年4月4日)
9.改質および水素製造技術の開発
 東邦ガスは、高圧の水素を効率的に製造する技術を開発した。鉄に水蒸気を当てると酸化鉄と水素が発生する原理を利用し、数十nmまで細かくした鉄粉に高圧の水蒸気を混ぜて水素を取り出す。ピストンやシリンダーなどの物理的な圧力で水素を圧縮する従来の手法に比べて、水素製造に必要な消費電力を1/10以下に削減できる。既に10MPaの水素を取り出すことに成功しており、今後35MPaまで高圧化を進めると同時に、プラントメーカーなどと実用機の開発、製造を検討する。(日経産業新聞05年4月12日)  
10.水素貯蔵および輸送技術の開発
 産業技術総合研究所と日本重化学工業は3月24日、組成を高精度に制御できる水素吸蔵合金の新しい溶製法を開発したと発表した。溶解炉に使用する不活性ガスをアルゴンからヘリウム混合ガスに変えることによって、マグネシウムなど軽量金属の蒸発を抑えて目標通りの化学組成を持つ合金が得られる。両者はFCV向けなどへの応用を目的に、5wt%以上の水素を吸蔵・放出できる合金の開発を目指す。水素吸蔵合金については、マグネシウム、カルシウム、リチウムのような軽量金属を主体とした合金開発が進められているが、融点・沸点が低く蒸気圧が高いため、ニッケルなど高融点金属と溶製する場合は、多量に蒸発してしまう問題があった。又蒸気によって発生した微粉の煙で溶融状態を目視で確認することが難しく、そのため安全性にも問題を抱えていた。産総研と日重化は不活性ガスの検討を行った結果、ヘリウム混合ガスの採用によってこれらの問題を解決できることを発見した。新溶融法をカルシウム、マグネシウムを主体とするラーベス系に適用したところ、目標の化学組成が得られるとともに、歩留まりも向上したことを確認した。今後、両社は高容量合金の開発とともに、ヘリウム混合ガスの効果について解析・検討を行う。(日刊工業新聞、化学工業日報05年3月25日、日刊自動車新聞3月26日、建設通信新聞4月5日)  
11.可搬型DMFCの開発
 ジーエス・ユアサコーポレーションは、農業施設やロボット用電源、非常用・独立電源、産業用などの幅広い用途に使える高出力でコンパクトなDMFC“YFC−1000”を開発した。出力は最大1,000VA、メタノール水溶液の濃度は54%で引火などの危険性が小さく、キャスターが付いているので持ち運びし易いように作られている。05年度中の販売を目指す。(日刊工業、京都新聞、化学工業日報05年4月15日)
12.マイクロFCの開発
(1)三洋電機と日本IBM
 三洋電機と日本IBMは4月11日、ノートパソコン用マイクロDMFCの共同開発で同意したと発表し、試作機を公開した。今後3年程度で実用化を目指すが、IBMは6月までに中国の聯想集団(レノボ・グループ)にパソコン事業を売却するため、最終的には三洋とレノボが協業する。試作機の大きさは幅27cm、奥行き28cm、高さ5.4cm、又メタノールが入ったカートリッジの容量は130ccであり、これでパソコンを8時間駆動することができる。大きさを半分程度にすると同時にコストの低下が開発の目標である。(読売、朝日、毎日、産経、日本経済、電気、日経産業、日刊工業、電波新聞、化学工業日報、フジサンケイビジネスアイ05年4月12日)

(2)ポリフューエル
 アメリカのポリフューエル社は4月12日、マイクロDMFC向けに、高性能ながら従来技術で量産が可能な炭化水素系の電解質膜を開発したと発表した。元来炭化水素系膜はクロッスオーバー現象を抑制できる点においてメリットがあるが、今回同社が開発した新しい電解質膜では、クロッスオーバーを1/3に抑えるとともに、低温で電極と圧着が可能なように表面処理を行うことにより、MEAに加工しやすくしている点に特徴がある。したがって、FCメーカーはフッ素系と同じホットプレス製造プロセスによって、高効率で耐久性に優れた炭化水素系膜を製造することが可能になる。日本の大手メーカーにOEM供給を働きかけていく考え。(電気、日刊工業新聞、化学工業日報05年4月13日)
13.FCおよび水素計測・評価試験装置の開発と事業
(1)チノー
 チノーは中国交通大学FC研究所と、中国市場向けにFC評価試験装置を研究開発することについて覚書を交わした。これに伴いチノーは、高機能コンパクト型FC評価試験装置“FC5100”を、上海交通大学の研究所内に設置した。同大学は上海郊外に広大な新キャンパスを建設中であり、FC研究所の移転が予定されている。共同研究は中国でのFC計測・評価技術に関する研究開発の促進と、FC評価試験装置の機能最適化が目的である。チノーは今回の提携を機に、中国において試験装置の販売拡大を目指す。(日刊工業新聞05年3月31日、電波新聞4月5日)

(2)山武
 山武は空気やガスの水分が結露する温度(露点)を計る超小型の計測器を開発した。これは“鏡面冷却式” と呼ばれるタイプで、測定したい場所にセンサーを入れて、先端に付いている鏡面に光を当てると同時に冷却し、鏡面についた水滴で乱反射した光の量から結露の大きさを測って、露点を判定する仕組みである。狭い場所でも測定できるようになるほか、精度も向上する。計測するガスが25℃の場合、露点は−40℃程度まで計測が可能で、価格は制御部とセットで100万円前後と予想されている。06年末までに商品化・発売する予定で、従来の市場に加えて、FC向けなどの新たな需要を掘り起こす。(日経産業新聞05年4月4日)
 山武は4月12日、超小型の鏡面冷却式露点計の実用化に目途を付け、05年内にも“FINEDEW”の製品名で試行発売すると発表した。独自の光電センサーの変調光技術を応用することで計測チャンバーや、計測空気を吸引するためのポンプを不要とした方式を考案、又同軸構造を持った光学系や、MEMS(微小電子機械システム)の微細加工・組み立て技術をベースにしたシリコンチップの鏡面への採用により大幅な小型化に成功した。新製品は計測チャンバー、吸引系がないため、無用な結露が発生するリスクが減り、高露点雰囲気の計測も容易となる。更に制御技術の適用で、高速応答性や良好な信号追従性も実現した。センサー先端部の直径は12mmで、体積は一般的な鏡面式冷却センサーの1/100以下である。(電気、日刊工業、日刊建設工業新聞、化学工業日報05年4月13日)

(3)東伸工業
 東伸工業(東京都)はFC電解質膜の強度を高温高圧下で、湿度を制御しながら測定する試験装置を開発した。PEFC電解質膜の試験は、100℃を超える環境では湿度を精密に制御するのが難しいため、80℃程度の動作環境で研究が行われている。同社では試験容器を加熱・乾燥してから水蒸気を噴出する手法を採り、水滴の影響から湿度センサーを守る設計や、圧力を直接制御する方式の導入によって、最高温度180℃、最大圧力0.5MPaにおいて、湿度を30〜90%間で自在に設定・保持できる試験装置を開発した。荷重検出器を容器内に収めて直接測定することにより精度も高めた。価格はフル仕様で1,800〜2,000万円であるが、試験装置のみも販売する。この他、45MPa、水素100%の雰囲気で、金属試験を行う小型プラントも開発した。(日刊工業新聞05年4月7日)

 ―― This edition is made up as of April 16, 2005 ――

A POSTER COLUMN

EAGLEパイロットプラントが852時間の連続運転に成功
 FC用石炭ガス製造技術(EAGL)は、石炭ガス化FC複合発電システム(IGFC)に欠かせない技術であるが、パイロットプラントでこれまでの最長記録291時間を大きく上回る852時間の連続運転に成功した。JパワーはNEDOとの共同事業としてEAGLの研究開発を実施、北九州市の若松研究所にパイロットプラントを建設し、01年度から06年度までの運転試験を行う計画になっている。03年までに石炭ガス化とガス精製の性能を確認し、04年度は長時間連続運転時における性能確認に取り組んでいた。今後は、長時間運転後の設備状況を詳細に調べ、機器の磨耗や腐食、炉内における灰の付着状況などを明らかにする。05〜06年度は実用化を見据えて、性状の異なる複数の石炭に関するガス化データを取得するとともに、大型化に向けた研究を進める計画である。(電気新聞05年3月31日)  

シャープが産業用太陽電池事業の強化
 シャープは拡大が見込まれる産業用の太陽電池事業を強化する。ラインアップを充実するほか、産業用市場向けの営業人員の増強やITを活用した支援システムの導入などに取り組む。同社の04年度の太陽電池生産量は、家庭用・産業用を合わせて360MW、売り上げは1,100億円であったが、05年度にはそれぞれ400MW、1,500億円、産業用だけでも700億円まで引き上げる。海外での需要創造にも力を入れ、2010年度には5000億円まで拡大する計画を立てた。市場の拡大に伴って、材料の不足による材料の値上がりが一部で心配されているが、同社では「新製品の結晶薄膜太陽電池モジュールは、材料(シリコン)の使用量が少ないため、製造単価を抑えることにつながる。薄膜製品の比率を上げ、更に大量生産ができればコストダウンも可能」と話している。(電波新聞05年4月1日)  

効果的なCCS(Carbon Capture and Storage)用材料の開発
 東芝の研究開発センターでCO2を吸収する画期的な材料の開発が進んでいる。吸収剤はリチウムとシリコンの化合物であるリチウムシリケートであるが、東芝は当初、FCの研究課程で使ったリチウムとジルコニウムの化合物リチウムジルコネートを考えていた。しかしジルコニュームは希少金属で量産に使うには適していない。それに替わる物質を探索したところ、このリチウムシリケートに出会ったと云われている。リチウムシリケートは700℃以下でCO2を吸収し、700℃以上になると放出する性質を持つ。この性質を生かせば、材料を繰り返し使うことができる。従来のアミンと呼ばれる吸収液を使うよりも、運転エネルギーや装置のスペースが小さくなりそうである。(日経産業新聞05年4月11日、電気新聞4月13日)