第105号 メタノールの透過率を低下させる膜の開発
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体の施策
3.国際協力事業
4.SOFCの開発と実用化
5.PEFC要素技術開発
6.家庭用PEFCシステム事業
7.FCV最前線
8.水素生成および改質技術の開発と事業展開
9.マイクロFCの開発
10.FCの性能評価および関連計測技術
11.炭酸ガス隔離・貯留技術
12.FCの新しい応用
1.国家的施策
 2005年度の政府予算案で、経済産業省の科学技術振興費は、1,423億円となり04年度当初比で3.3%増となった。FC関連では総額が354億円、同7.7%増。家庭1万戸を対象にした定置式FCの実証実験など3プロジェクトを新たに実施し、定置式FCの普及を後押しする。(日経産業新聞05年1月4日)
 資源エネルギー庁は、05年度から新エネルギー事業者を支援する補助制度を抜本的に見直す方針を固めた。現在エネ庁は、経費となる導入事業費の1/3位又は新エネの種類によってはそれ以内を補助しているが、これを原則として1割減とする。しかし、新エネの種類によっては現行から3割減となるケースもあり、又風力発電は補助率を据え置くことにしている。FCについては、未だコストが割高のため、再生可能エネルギーの区分にし、補助率を1/3から1割減とする。(電気新聞05年1月7日)  
2.地方自治体の施策
(1)愛知県
 愛知県は、愛・地球博後をにらみ、次世代産業の育成策に新エネルギーの1つであるFCを位置づけ、環境保全にもつながる産業振興を2005年度に本格化する方針を固めた。県産業技術研究所を拠点に、FCの開発に関わる中小企業の支援や産学との連携強化などに乗り出し、量産技術の確立を図る。(中日新聞04年12月30日)
 愛知県は、新エネルギー関連産業振興計画策定委員会を1月26日に開き、2月4日付けで“愛知県水素エネルギー産業協議会”を発足させることを決める予定である。同協議会は、水素エネルギーの普及に向けたインフラ整備、技術開発などを行う。(日刊工業新聞1月20日)

(2)三重県
 三重県は、05年度にNEDOが公募するPEFCの技術研究開発事業に対して、四日市市、鈴鹿市などの地域をエリアとするプロジェクトによって応じていく意向を固めた。「産学官で連携し、北勢地域をFCモデル地域にしたい」と意気込んでいる。産学官で構成する“四日市臨海部工業地帯再生プログラム検討会”で具体的なプロジェクトを絞り込む予定。(中日新聞05年1月16日)

(3)福岡県
 福岡県は1月18日、構造改革特区の第7次提案として“福岡水素利用技術研究開発特区”を申請した。水素を使った実験の際に義務付けられる試験を省くなどの特例措置を求める。高圧ガス保安法は、一定の大きさの容器に高圧ガスを閉じ込めて実験する場合は、その都度事前に容器の耐圧性や機密性の試験を義務付けている。今回求める規制緩和は、この試験の省略である。(西日本新聞05年1月18日)  
3.国際協力事業
 日米欧など11カ国・地域の原子力研究機関は、次世代原子炉を使って水から水素を製造する技術についての共同研究に乗り出す。1月以内にも政府間で研究協力協定に調印する。アメリカDOEが中心になり、日本からは日本原子力研究所などが参加、当面は基礎技術の開発に取り組み、2020年頃の実用化を想定している。水素製造のメカニズムは、原子力から取り出した高温熱と化学反応を組み合わせて水を熱化学的に分解する方式で、日本では原研が、高温ガス炉で研究を進めている。(日本経済新聞05年1月17日) 
4.SOFCの開発と実用化
(1)大ガスと京セラ
 大阪ガスは、京セラと共同で家庭用1kW級SOFCシステムの開発を進めているが、同システムの運転評価で、発電効率44%を達成した。2005年度から実住居での運用試験を開始し、08年での市場導入を目指す。(化学工業日報05年1月3日)

(2)関電と三菱マテリアル
 関西電力と三菱マテリアルは05年1月11日、開発中の低温(800℃)動作型SOFCについて、必要な耐久性と世界最高水準の発電効率を達成し、06年度末での中小工場向け(50〜100kW)システムの実用化に目途を付けたと発表した。都市ガスを燃料とした1kW級システムにおいて、1,000時間以上の連続運転で性能に劣化が認められなかったこと、1kW級モジュールにおいて発電効率57.6%を達成した。(朝日、産経、電気、日刊工業新聞、化学工業日報05年1月12日、鉄鋼新聞1月13日、フジサンケイビジネスアイ1月17日、建設通信新聞1月19日)

(3)TOTO
 TOTOは1月12日、カナダのFCT社と集合住宅向けのSOFCシステムの開発において協力することで同意した。TOTOが開発した発電効率が高く長時間運転が可能なSOFCをベースに、FCTが電源ユニットを製品化する。(日本経済新聞05年1月13日、日刊建設工業新聞1月14日)

(4)ホソカワ粉体技術研究所
 ホソカワミクロングループのホソカワ粉体技術研究所は、SOFCの発電性能を従来に比べて2倍以上高める複合材料を開発した。酸化ニッケルなど金属粒子の結合形状を独自に改良、酸素イオンを通りやすくした。同研究所はSOFCセルを構成する素材に改良を加え、強磁性の酸化ニッケルや耐熱性に優れるジルコニアなどの金属又は金属酸化物の粒子を均一に分布させ、粒子間にスペースができるようにした。開発した複合粒子を材料に使うと、セルの1cm2当たりの発電能力を従来の0.3Wから0.8Wに引き上げることができる。同研究所はSOFCの材料メーカーとセルの共同開発を進めるほか、複合化装置の販売を始める。(日経産業新聞05年1月19日)  
5.PEFC要素技術開発
(1)大日本印刷
 大日本印刷は05年1月13日、PEFC用部材分野に参入すると発表した。第1弾として市場開拓を本格化するのは、MEA作製用触媒転写フィルムで、カーボン・白金触媒インキをローフィルム上に均一にコーテイングし、熱転写法によって触媒層を固体高分子膜に転写する技術である。現在関西研究所の試作設備でサンプル出荷を行っている。第2弾は金属セパレーターで、耐腐食性の向上と導電性の確保を図るために、SUS304に金メッキ処理をしたものである。厚さは1.1mm、リードフレームなどで培ったエッチング技術の強みを生かして、ガスの通路を形成する溝を自由自在に形成することができる。(日経産業、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報05年1月14日、電波新聞1月17日)

(2)精工技研とFJコンポジット
 FJコンポジットは、セパレーターの素材となるカーボンとフェノール樹脂を、数十μm単位の小さな粒子にして混ぜる技術を開発した。精工技研は光デイスク用金型の製造技術などを生かして高精密な金型を設計した。従来は素材を固めるために加熱しながら成型していたが、素材の圧縮工程を工夫し、加熱しないでセパレーターの原型を生産する技術を開発、それによりセパレーター1枚の生産時間を、従来の10分前後から10秒前後にまで短縮した。1万円前後であった1枚当たりの製造コストも1,000円前後にまで抑えることができるという。精工技研は自社工場内に1億円を投じ、試作ラインを立ち上げる。セパレーターの大きさは最大でA4とする予定。(日本経済新聞05年1月18日、日経産業新聞1月19日、日刊工業新聞1月21日)  
6.家庭用PEFCシステム事業
(1)積水ハウス
 積水ハウスは05年3月から、家庭用FCを設置した分譲戸建住宅を東京で販売する。通常の住宅より販売価格は割高になるが、光熱費は低減する。分譲戸建住宅は、武蔵野市でJR吉祥寺駅から徒歩10分の自動車教習所跡の宅地で販売する。総区画数は31で、この内7戸に東京ガスが2月からリース方式で販売するPEFCを設置する。土地・建物合計の販売価格は1億〜1億3,000万円になる見込みで、購入者は東京ガスとリース契約を結ぶ必要があるが、リース料(10年で100万円)は住宅の販売価格に含まれる。試算によれば、当初3年間は、年間6万〜11万程度の光熱費を削減できることになる。(日本経済新聞05年1月8日)

(2)東邦ガス等
 東邦ガス、リンナイ、東芝三菱電機産業システムの3社は、ガス機器をインターネットや携帯電話などのIPに接続する通信システムを開発した。04年12月から一般家庭において設置試験中のFCシステムに取り付け、機器のモニタリングや故障通知などを通じて、通信システムの信頼性や利便性を評価する。(建設通信新聞05年1月19日)
7.FCV最前線
(1)ホンダ
 ホンダは氷点下でも機能する2ドア4人乗り小型FCV“FCX”のリース販売を05年から始める。リース料は月額80万円で、寒冷地の自治体やエネルギー企業などへの販売を目指す。(電気新聞05年1月11日)
 ホンダは1月11日、アメリカで個人向けにFCXを、月額500ドル程度でリース販売する計画を明らかにした。(毎日、日本経済新聞05年1月12日、産経、日刊自動車新聞1月13日)

(2)GM
 GMは北米国際自動車ショーで、電子制御の次世代FCV“シークウエル”を公開した。1回の水素充填で300マイル(480km)走行可能で、発電能力も従来のFCVよりも25%高めている。(日本経済新聞05年1月11日)
 GMのラリー・バーンズ副社長は、デトロイトでインタービューに応じ、FCVの量産化について2010年までに目途を付け、中国市場での販売を目指す考えを明らかにした。(東京、中日新聞05年1月12日)  
8.水素生成および改質技術の開発と事業展開
 三菱化工機(川崎市)は1月12日、都市ガスから1時間当たり50m3の高純度水素(99.999%)を製造できる高効率でコンパクトな水素製造装置“ハイジェイア”を開発したと発表した。1月末から同社の工場内で実証実験を行い、3月を目途に発売を開始する。ハイジェイアは同社の従来型装置と比べると、水素を製造するための都市ガスの量を2割以上削減できる。又装置面積も従来比で半分程度と小さくなっている。今後は都市ガスから1時間当たり100m3、200m3、300m3の水素製造能力を持つ装置、およびLPGなどの燃料から水素を製造する装置を開発していく方針である。(電気、日刊工業新聞、化学工業日報05年1月13日、日経産業新聞1月17日)  
9.マイクロFCの開発
(1)東亞合成
 東亞合成は、携帯機器端末用DMFC用の低価格電解質膜を開発した。東亜工業は東大山口助教授の開発した“細孔フィリング膜”の基礎技術を電解質膜に応用して、ポリオレフィン系の高分子でできた多孔質材料に炭化水素系の電解質を満たした。従来のフッ素系膜に比べて単価が1/2以下ですみ、又プロトン伝導性は3〜4倍、メタノールクロスオーバーをフッ素系膜に比べて1/3〜1/4に抑えられるので、発電効率を2割高めることができる。電解質膜の厚さは数十μmで、ロール状である。耐久性については4,000時間以上の連続運転が可能であることが証明されている。(日経産業新聞05年1月5日)

(2)原研高崎と日東電工
 日本原子力研究所高崎研究所は、日東電工と共同で、マイクロDMFCにおいてメタノール濃度が30%のメタノール水溶液を使うことができる電解質膜を開発したと発表した。新しく開発したこの膜では、フッ素系高分子膜の放射線架橋をグラフト重合後にすることにより、分子の網目構造を密にすることに成功、メタノールの透過速度を1/10にまで抑えることができた。耐久性については、3年前に原研が開発した膜に比べて、耐久性を6倍まで高め、電気伝導度は市販の膜と比較して2倍となっている。日東工業は、量産化に向けた連続ローフィルムの製造技術に成功した。(日本経済、日経産業、日刊工業、上毛新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報05年1月7日)

(3)トクヤマ
 トクヤマ(周南市)は1月14日、DMFCにおいて、フッ素系に比べメタノール透過性を1割に抑え、価格も1、2割で販売できる電解質膜を開発したと発表した。食塩製造などに用いるイオン交換膜の生産技術を活用して、メタノールを透し難くすると同時に、電気抵抗を抑えるために薄型化した。膜に電極を薄く貼り付けるための特殊な専用樹脂も開発した。子会社の“アストム”の既存ラインを活用し、80cmまでの幅で、厚さ20〜40μmの膜を年間数万m2出荷できる体制を整えた。(中国新聞05年1月15日、日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報1月17日)
10.FCの性能評価および関連計測技術
(1)チノー
 チノーは耐圧で耐熱仕様の分離形温湿度計2モデルを2月中旬に発売する。新製品は温度・相対湿度を出力する“HN−CJA”と湿度・露点温度を出力する“HN−CJC”の2モデルがあり、FC評価試験用としては最適な仕様になっている。(電波新聞05年1月14日、フジサンケイビジネスアイ1月19ン日)

(2)ハイドロジェニックス
 カナダのハイドロジェニックスは、出力10kWのFCパワーモジュールと関連試験装置を日本自動車研究所(JARI)に供給する。JARIはFCスタックの性能試験や標準化を目指した研究を進めており、今回の一連の装置の導入で性能試験法の確立を目指す。(日刊工業新聞05年1月21日)  
11.炭酸ガス隔離・貯留技術
 村田製作所は1月18日、Ba2TiO4(チタン酸2バリウム)がCO2を効率的に吸収する性質のあることを発見した。チタン酸2バリウムは、セラミックコンデンサーの主原料のチタン酸バリウムに炭酸バリウムを加え、高温焼成して製造する。製造したチタン酸2バリウムを550〜750℃で加熱すると、CO2を吸収し、800℃以上に再加熱すると逆にCO2を放出する特性を持つ。この反応を繰り返しても劣化がないため、再利用が可能である。250ccのチタン酸2バリウムで75LのCO2を吸収する能力がある。FCシステムなどから排出されるCO2をこれによって固定し、再度CO2を排出して海中や地中にCO2を隔離・貯留することができる。(京都新聞05年1月19日)
12.FCの新しい応用
 ジーエス・ユアサコーポレーション(京都市)は、DMFCを三重県鈴鹿市内の農業用ビニールハウス内に設置、ハウス内で栽培されるイチゴの成長促進に関する実証試験を開始した。DMFCの出力は最大で1kW、電力を照明灯の電源として利用する他、1時間当たり100ppm排出されるCO2によって、イチゴの発育を促進する。熱はハウスの保温に利用する。実証期間は05年10月まで。(鉄鋼新聞05年1月20日)

 ―― This edition is made up as of January 21, 2005――