第99号 SOFC、水素関連の研究情報が増える
Arranged by T. HOMMA
1.国家的政策と施策
2.地方自治体による政策と施策
3.外国政府の政策と施策
4.SOFCの開発と生産
5.PEFC等FC要素技術の開発
6.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの開発と実証
7.PEFCシステムの開発と事業展開
8.FCV最前線
9.FC車椅子の開発
10.水素ステーションの建設
11.改質および水素製造技術
12.水素の輸送・貯蔵技術の開発
13.水素社会モデルの形成と実証
14.携帯端末用マイクロFCの開発
15.新型タイプFC
16.FC周辺機器の開発
17.FCおよび水素関連機器の市場予測
・A POSTER COLUMN
1.国家的政策と施策
(1)国交省
 国土交通省は「環境行動計画」を正式に纏めた。自動車関連では、燃費規制強化やアイドリングストップの推進、FCVや次世代低公害車の開発が盛り込まれている。(日刊自動車新聞04年6月30日)

(2)経産省
 経済産業省は、研究支援のあり方を見直し、戦略的に重要と位置づける分野への支援を重点化する一方で、開発成果の見込めない分野は大胆に削除する選択と集中の考え方を打ち出す。FC、ロボット、再生医療など重点項目を選択し、それぞれに実用化までのロードマップを作成、必要な支援策を明確にする。ロードマップ作成の場として、産業構造審議会産業技術分科会の“研究開発小委員会”を7月7日に再開する。(日刊工業新聞04年7月6日)
 資源エネルギー庁は、小規模マイクログリッドを活用し、新エネルギーの導入を図るシステムに対する支援制度を05年度に創設する。特定地域の需要規模が住宅団地など数十kWのグリッドを対象に、風力や太陽光、バイオマス、天然ガスコージェネレーション、FC、蓄電池などを組み合わせた需給一体型システムを助成する仕組みである。(電気新聞04年7月7日)
 資源エネルギー庁は、製油所を水素供給基地とする可能性を探る実証実験を05年度から実施する。製油所では高純度・高圧の水素を大量に副生しており、水素供給インフラとしての役割が期待されている。エネ庁は実証実験で1〜2ヶ所の製油所を選定し、効率的な貯蔵・輸送方法の確立を目指すとともに、経済性についても目途を得たいとしている。05年度数億円程度の予算額を想定している。副生水素は製造時にCOの排出がなく、高品質の水素が大量に得られるという利点があるが、需要家への効率的な貯蔵・輸送方式が確立されていない。副生水素の供給可能量は82万トンで、その内製油所からの産出量は24万トンと試算されている。燃料油需要の減少から製油所内で水素需要が今後減少すると予想されており、供給可能量は更に増える可能性が高い。又残渣油など低価格の留分を原料にできるため、製油所の収益向上にもつながると思われる。(化学工業日報04年7月9日)

(3)NEDO
 NEDOは、2004年度地域新エネルギー導入促進事業の2次公募を行う。(電波新聞04年7月19日)
 NEDOはPEFCの劣化解析基礎研究を今秋にスタートする。電極触媒や電解質膜、セパレータなどの挙動メカニズムを解明するための基礎研究開発で、一定期間連続試験運転を行って現象を解析、長期的な劣化メカニズム解明の評価技術を確立する。選定先は1グループで、スタックメーカー、都市ガス会社、石油会社、大学、国の研究機関が垂直連携のチームを組み、委託費用は5億円で1年間実施する。05年度にもFCの基礎研究開発を中心的に行う開発センターを新設、耐久性加速試験などを行う意向である。(日刊工業新聞04年7月23日)
   
2.地方自治体による政策と施策
(1)北海道土木研究所
 牛の糞尿を発酵させて生成したバイオガスから水素を抽出、貯蔵し、FCに供給するプラントの実証試験が、北海道土木研究所によるプロジェクトとして7月下旬から北海道別海町で始まる。1年をかけてデーターを収集し、酪農地帯でのエネルギー自給自足体制や水素社会の構築に向けた課題を探る。北大触媒化学研究センターの市川教授の提唱する新技術をベースに、隣接地に13億円を投じてプラントを建設した。実証技術の内容は、メタンからゼオライトを含む触媒を利用して水素を生成し、その水素を一旦有機ハイドライド(液体)に貯蔵、水素を0.85kWPEFC10基に供給して施設内の電源として消費しようとするプロセスであり、120m/日の水素生成・貯蔵を計画している。(東京新聞04年7月10日、北海道新聞7月6日、日本農業新聞7月18日)

(2)東京都
 東京都は、部品点検のために休止していたFCB(バス)の運行を7月12日から再開すると発表した。(毎日新聞04年7月10日)

(3)山口県
 山口県は、05年1月、水素燃料FCコージェネレーションシステムの実証実験を始める。周南コンビナート内に機器を設置し、カセイソーダ工場からの副生水素をパイプラインで供給する。(日本経済新聞04年7月22日)

(4)加古川市
 兵庫県加古川市は、地域新エネルギービジョン策定事業についてプロポーザルを募集する。太陽光発電や風力発電の導入、バイオマスによって運転するFCの導入等がテーマとして含まれている。(日刊建設工業新聞04年7月23日)
3.外国政府の政策と施策
(1)アメリカDOE
 来日中のアメリカDOEステイーブ・チョーク水素プログラム課長は、時事通信社との単独インタービューで、アメリカ政府のFC開発政策は、研究に重点を置き、実用化の可能性を慎重に探っていることを明らかにした。同氏は、水素貯蔵タンク、水素生産コスト、FC発電コストの主要3分野で研究開発を進めているが、特に水素貯蔵タンクが最大の課題であると指摘、1回の水素充填で300マイル(約480km)まで伸ばすことを研究していると述べた。又「2015年がFCV商用化の可能性を判断する重要な節目となる」と強調、可能と判断すれば2020年から市場に本格参入する見通しを示した。(建設通信新聞04年7月1日)

(2)中国
 中国国家発展改革委員会(SDRC)が纏めた「ハイテクノロジーの商業化における現在の優先事項に関するガイドライン2004」によると、中国はハイテク開発の最優先課題として、風力発電など再生可能エネルギーの他、FC、Eガバメント、Eコマースなどを挙げている。(電気新聞04年7月14日)
4.SOFCの開発と生産
(1)JFCC
 ファインセラミックスセンター(JFCC)は、数十nmの微細粒子で製造した燃料極を開発した。ニッケルと酸化物イオン導電体を特殊な装置を使って金属に還元すると、nmレベルの微細構造を作ることができる。ナノ構造により、物質同士が反応できる箇所を無数に増やすことができるので、発電効率が高まり、動作温度を800℃にまで下げられる。この技術により、合金など比較的安価な素材も使えるようになり、製造コストの削減にもつながると期待されている。(日経産業新聞04年7月5日)

(2)東邦ガスと日本触媒
 東邦ガスと日本触媒は、04年内に独自開発した発電性能の高いセラミックスを用いたコージェネレーションシステム用SOFC単セルの生産を始める。両社は3年前にSOFCの共同研究に着手、東邦ガスの電解質材料に関する独自技術と、日本触媒の材料量産技術を結集し、単セルの生産技術を開発した。具体的には電解質材料に高い強度と導電性を持つセラミックスを採用、割れやすいという難点を解消した。2008年をめどに商品化する予定である。(日経産業新聞04年7月14日)

(3)三菱重工
 三菱重工業は、現在中部電力と共同で開発を進めている50kWMOLB型SOFCコージェネレーションシステムを04年度内に商品化し、市場投入する方針を明らかにした。愛知万博では2つの50kWSOFCシステム実証機を、電力館向けの実用システムと、NEDOの“新エネルギー等地域集中実証研究プロジェクト”として導入する予定であり、07年度までに中部電力と共同で200kW級システムを開発する。同社では商品化時には50kWシステムで数億円ほどになるが、市場が拡大するとともにコストダウンが進み、08~09年頃には数十万円/kW程度にできると予測している。
NEDOからは電源開発と共同で、マイクロガスタービンと組み合わせた350kW級コンバインドサイクルの基礎技術開発を受託しており、これには円筒横しま型SOFCを採用する。既に98年には加圧型10kW級モジュールで7,000時間の運転に成功しており、又加圧内部改質型10kW級モジュールでも755時間の連続運転を達成している。
これらの実績をベースに、10年頃には高効率ガスタービンなどと組み合わせた2〜5万kWシステムを商品化する考えである。又2015年以降にはSOFC、ガスタービン、および蒸気タービンを組み合わせた出力70万kWトリプルコンバインドサイクルの大型発電所を実現する構想も発表した。
(電気、日経産業、日刊工業新聞04年7月15日、化学工業日報7月16日)
  
5.PEFC等FC要素技術の開発
(1)岡山大学
 岡山大学の高口助教授らは、触媒や有機EL素子などに使われるデンドリマーと称される高分子でフラーレンの周囲を取り囲んだ複合材“フラロレンデンドリマー”を開発した。水や有機物など様々な物質と混じりやすい性質を持つため、材料開発の可能性が広がると期待している。FC電解質膜にフラロレンデンドリマーを混ぜると水素と酸素の反応性が高めることができると考えられる。(日経産業新聞04年7月5日)

(2)東工大
 東工大の谷岡教授らは、水素が約70%を占める水素と酸素の混合ガスを用いたところ、水素ガスのみを燃料として使う場合に比べて発電量が5%程度向上した。水酸化カリウム水溶液に周波数30〜50Hzの機械的な振動を与えながら電気分解により生成したガスでは、1部の水素と酸素は分子の結合が切れて原子の状態になっているのが特徴である。混合ガスの水素含有量は70%で、通常なら発電量が落ちると考えられるが、逆に5%上昇した理由について、同教授は「まだ詳しい仕組みを解明中」と話している。(日経産業新聞04年7月5日)

(3)三重大学
 三重大学工学部の中村修平教授のグループは、熱可塑性樹脂を用いて低コストのPEFC用セパレータを開発した。熱可塑性樹脂は圧縮成形による製造が可能で、従来のフェノール樹脂と黒鉛の複合体であるガラス状セパレータに比べても1/10以下の価格で供給できる。開発品は20cm角で、年間20万枚生産した場合、400円/枚の価格になると開発者は予想している。ただ電気抵抗率は従来品に比べて高いが、弾性に富み柔軟性のある熱可塑性樹脂は、75℃においては電極と密接して接触抵抗が小さくなるので、発電効率は下がらないと思われる。共同開発したクレハエラストマー(大阪市)が早期量産化を目指す。(日刊工業新聞04年7月12日)

(4)東大等
 東京大学、日本電気、産総研の共同研究グループは、カーボンナノチューブに金属原子を閉じ込める方法を開発した。FC用電極材料の開発などに道を開く成果で、アメリカ・アカデミー紀要に発表された。(産経新聞04年7月19日)
  
6.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの開発と実証
(1)出光興産
 出光興産は6月25日、市販灯油を燃料とする1kW級家庭用PEFCコージェネシステムを開発したと発表した。同社が開発した高性能・長寿命の脱硫、改質技術を核に、PEFCスタック、貯湯槽などを組み込んで完成、7月から中央研究所で約1年間テスト運転し、06年度中に試験販売を経て07年春にはモニター販売などの形式での発売開始を目指す。PEFCのサイズは全幅1m、奥行き30cm、高さ1mである。送電端効率は30%、排熱を含む総合効率は60%であるが、これらを各々32%、70%に向上させることを目標としている。灯油は揮発性の低い液体燃料で、供給インフラは整備されているが、都市ガスやLPガスに比べて炭素数が多く、脱硫や改質に高度な技術が必要である。(日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報04年6月28日、電気新聞7月1日)
 出光興産は、ニッケル系触媒を用いて、LPG改質で最高50ppmの硫黄濃度を0.05ppm以下にコンスタントに脱硫する装置において、4000時間連続運転に成功した。水素改質では、ルテニウム触媒を用いて36,000時間の運転を実現した。今後はスタックメーカーと組んで05年度から国の家庭用PEFC大規模モニター事業に参加する。(日刊工業新聞04年7月20日)

(2)静岡ガス
 静岡ガスなどが加盟する日本ガス協会は、静岡市など全国10箇所の一般家庭などにPEFCコージェネレーションシステムを設置し、実証試験を実施しているが、静岡ガスでもガスの改質装置を導入し、03年から同市池田の総合技術センターで実証試験を進めている。静岡市へは一般住宅に1kW級のPEFCを設置、1年間程度の試験運転を実施して、環境特性、エネルギー総合効率、安全性などに関する実使用データを収集する。(静岡新聞04年7月2日)

(3)東ガス
 東京ガスは、家庭用PEFCコージェネレーションシステムについて、床面積120〜150m程度の戸建て住宅を新築する需要家に、リース方式で拡販していく方針を明らかにした。導入ユーザにはガス料金の割引なども検討する。当初は初期不良なども見込まれることから、機器とメインテナンスをセットにしたリースを提案しているが、料金は検討中である。又システムを高効率で運転するためには一定規模以上の床面積を持つ戸建てが有利である点を考慮して、販売先を絞り込む。東京電力がオール電化住宅の提案を積極化していることから、FC導入によりガス併用住宅が将来的に利点になることを鮮明にし、オール電化住宅への流れに歯止めをかけようとする狙いがある。(日刊工業新聞04年7月2日)

(4)MHI、広島ガス等
 三菱重工広島研究所、広島ガス、広島大学と広島市内の企業3社が、マンションなど集合住宅向けPEFCコージェネレーションシステムの構築を目指した研究開発を実施している。このシステムでは、集合住宅全体で改質器を1台にまとめることにより、初期導入費用を40%削減できると試算している。改質器はPEFCシステムコストの1/5を占めるが、これを1台に纏めることにより、改質器単価で1/5、改質器とFCを連携させる制御系で1/4のコスト削減が可能になる。又改質方法も、従来のメタンに水を加えて加熱する方式(水蒸気改質)に替えて、メタンと水に酸素を加えて内部発熱を起こす方式(オートサーマル)を採用、この反応に必要な触媒を広島大学と戸田工業が開発した。ただ改質ガスを集合住宅の各家庭に供給することは、法律上認められていないため、実証実験を行う予定はない。(電気新聞04年7月7日)
  
7.PEFCシステムの開発と事業展開
(1)バラード
 バラード・パワー・システムズは、燃料の水素を直接タンクから送り込む方式によって起動時間が1分程度と短く、かつ長期間の電力供給が可能な、停電時での非常用電源向け4kW級PEFCシステムを開発した。1kW級PEFCスタック5基を積層した構造である。停電時にすばやく対応できる上、通信機器に対応した電力を供給できるよう電圧の調整も可能であり、荏原バラードでは放送局、通信基地局、コンピューターセンターなどでの需要が期待できるとみて、国内で実証実験を始める予定である。1分以内に最高出力となるが、FCが起動するまでの間、電力を供給する補助電源は小型化されている。又保守管理面でも、簡単な起動試験と燃料タンクの容量確認で済むので、通常3〜6ヶ月に1回の点検の手間も省けると同社は述べている。荏原バラードは、規制緩和の動きに合わせて、早期の製品化を目指す。(日経産業新聞04年7月2日)

(2)パルカンフューエルセルズ
 カナダのパルカンフューエルセルズは、通信事業者などを対象に非常用電源UPS向けのPEFCスタックと水素ボンベを開発、提携先の長瀬産業を通じ、組み立てを請け負う日本企業の開拓を開始した。新開発のUPS“パルパック500”は最大出力500W、連続稼働時間は5時間、長さ53cm、幅47cm、高さ50cmで、電池の下部が引き出しになっており、その中に6本の水素ボンベが入る。特徴の1つはボンベが安いことで、素材にニッケルなど5種類の金属を使い、中国の工場で生産するため、1本当たり150米ドルで他社製品に比べて1/4となっている。(電気新聞04年7月7日)
8.FCV最前線
(1)バラード
 カナダのバラードパワーシステムズは、FCスタックとその関連技術をJARIへ提供し、JARIはFCVの評価とテストを目的に使用することで合意した。同社が従来のブラックボックス政策から技術提供へ戦略転換を打ち出したものとして注目される。(日刊工業新聞04年6月30日)

(2)日産自動車
 日産自動車は、FCV用PEFCを独自開発し、07年度までにFCVを実用化する。神奈川県横須賀市の追浜総合研究所に、新たにFCV専用の開発・生産拠点を開設する。04年度から08年度までに500億〜700億円程度をPEFCスタックと車両の開発のために投資する。(日本経済新聞04年7月3日)

(3)FCV向け700気圧水素ガスボンベの開発
 トヨタ、日産、フォード、ダイムラークライスラー、プジョーシトロエン、現代の大手自動車メーカー6社、パワーテック(カナダ)、JFEコンテイナー(伊丹市)で構成するコンソーシアム“ハイドロジェン700”は、700気圧ボンベを搭載したFCV用水素燃料システムの全部品の仕様と供給メーカを決定した。これにより700気圧FCV用燃料供給部分における世界標準が事実上確立されることになる。同コンソーシアムは、700気圧水素ボンベや各種バルブ、継ぎ手、フィルターなどシステムを構成する9つの部品すべてに関して、約2年をかけて世界の部品メーカーの品質評価を完了、製品への適用が適当と判断できる部品とそのメーカーを決定した。貯蔵容器はアルミライナーにFRPを積層した材料、ステンレスライナーにFRPを積層した材料、オールコンポジットの3種類で評価、これには4社が参加した。
研究データは今後2年間、会員である6自動車メーカが独占的に使用できる。最も懸念されているのは水素の安全性であるが、同コンソーシアムは、この検証に特に力を入れ、水素自動車がガソリン車、天然ガス車に比べてはるかに安全性に優れ、衝突事故を起こしても爆発の危険は全くないことを実証した。特に700気圧のタイプは、350気圧に比べて気圧が高い分、事故が起きた場合の熱による水素の圧力変化が低いことが証明され、より安全性が高いことが判明した。
(電気、日経産業、日刊工業新聞04年7月5日)

(4)スウェーデンのセンシスターテクノロジーズは、水素混合ガスのリーク検査装置で培ったノウハウを展開して、FCVの燃料系の不具合をリアルタイムで検地する高性能センサーシステム“IHS”の開発に着手した。走行中に燃料系の状況を常時監視、異常が発生した場合は、走行の継続が可能かどうかを判断して、ドライバーに対処方法を伝達する。(日刊自動車新聞04年7月7日)

(5)ダイムラークライスラー
 ダイムラークライスラーは、FCV“エフセル”を、ドイツのベルリンでドイツテレコムなどに納入した。(日刊工業新聞04年7月12日)

(6)日本ケミコン
 日本ケミコンは、ハイブリッドカーやFCV用を目的に、小型・大容量の電気2重層キャパシターの開発に着手した。本体の小型化とともに、静電容量を引き上げることによって現行製品に比べて約50%小型化した製品を、06年度頃を目途に市場投入する。(日刊工業新聞04年7月16日)
  
9.FC車椅子の開発
 栗本鐵工所は、PEFCで駆動する“FC車椅子”を開発した。この車椅子は、03年に提携した台湾のFCシステムメーカー(APFCT)と共同開発したもので、高さ約1m、幅0.5m強、重さは約60kgである。前輪は直径8インチ、後輪は12インチの4輪で、最大積載量は100kgと発表されている。座席シートの下に出力250WのPEFCを格納、更にその下に円筒型水素吸蔵合金ボンベを3本搭載して重心を下げることにより車椅子の安定性を高めている。最高時速は6km/h、水素をフル充填すると6時間以上の連続走行が可能である。今後FCシステムの軽量化と高性能化を進め、連続走行距離を10時間以上に延長し、05年度での商品化を目指す。同社は車椅子以外にシルバーカーやデリバリースクーターなどの小型移動体も開発しており、10年度には約80億円の売り上げを目論んでいる。大阪FCV推進会議は、7月13日、同社が開発した車椅子とミニバイクの展示と試乗会を、大阪府庁前の駐車場で開いた。(フジサンケイビジネスアイ04年6月28日、産経新聞7月13日、毎日、東京、河北新聞7月14日) 
10.水素ステーションの建設
 オランダに本拠を置くシェル・ハイドロジェンのジェレミー・ベンサムCEOは、時事通信社とのインタービューで、日欧米の主要都市で、政府、地方自治体、自動車メーカー、エネルギー会社が参加する“地域ネットワーク”の構築を目指すことを明らかにした。シェルは15〜25年をFCVの重要な初期段階、それに先立つ数年間を準備段階と位置づけており、この準備段階にロスアンジェルス、パリ、東京などの主要都市を対象に地域ネットワークをそれぞれ構築し、各地域内に水素ステーションを4〜6ヶ所、FCVを最大100台投入し、本格的実用化のための実験を行う。(建設通信新聞04年7月9日)  
11.改質および水素製造技術
(1)原子力研究所
 高温工学試験研究炉(HTTR)中間報告WGは、6月24日、第2回会合を開き、高温工学試験研究の今後の見通しを検討したが、この中で日本原子力研究所は、2025年頃に熱出力60万kWの高温ガス炉で、8万Nm/h(年間約7億Nm)の商用水素製造技術の確立を目指すことを明らかにした。2010年までに、高温ガス炉の安全性確認や運転技術を確立するとともに、ISパイロットの制御技術や工学材料の確認、炉と水素製造システムインテグレーション技術開発などを実施する。10年から15年にかけては、HTTRに1,000Nm/hの水素製造能力を持つISプラントを接続し、HTTRと水素製造の統合システム性能を確認する。そして15年から熱出力60万kW商用システムの設計に着手、25年には商用水素製造を可能にする。(原子力産業新聞04年7月1日)

(2)三菱商事
 三菱商事は、水素の製造部門を本社から分離し、カナダのバンクーバーに新会社“H3エナージー”を設立、資本金は1,400万カナダドルで三菱商事が全額出資した。国内外の自動車、電力、石油会社、ベンチャーキャピタルなどからの出資も受け入れ、戦略提携の核とする計画。圧縮機なしで高圧水素を製造できる装置の特許、商標などを新会社に移管する。エネルギー事業グループの戸嶋FC・水素担当マネージャーが社長兼CEOに、水素製造装置の開発者である原田氏が技術担当副社長に就任した。新会社は400気圧の高圧水素を製造する装置を05年末までに開発し、欧米で販売、10年までに年間40〜50億円の売り上げを目指す。(日本経済、日経産業新聞04年7月1日)

(3)東工大
 東京工業大学の大塚教授と東邦ガスなどの研究グループは、都市ガスから水素を生成する新しい方式を開発した。新方式はまず都市ガスのメタンと酸化鉄の粉を容器内で約650℃で反応させて鉄粉および炭酸ガスに変える。できた鉄粉を別な容器に移し、水蒸気を当てると水素と酸化鉄ができる。これで水素が生成されるが、酸化鉄は再利用される。低温で水素を生成できるので、エネルギー費用が少なく、又鉄粉で蓄えることができるので、安全でかつ管理が容易である。なお鉄粉はnm級に微粒子化するので反応し易くなっている。(日経産業新聞04年7月7日)

(4)産総研
 産業技術総合研究所は、7月14日、生ごみなど有機廃棄物から高効率で水素・メタンを回収する2段発酵実験プラントを完成、実証テストに入ったと発表した。従来のメタン発酵プロセスを分離、可溶化・水素発酵槽とメタン発酵槽の2段階処理に分け、複雑系微生物群(ミクロフローラ)による水素発酵を促進、水素とメタンに分離回収する点に特徴がある。これにより、処理期間を15日と従来より約10日間短縮するとともに、有機物分解率を15%アップの80%まで向上できると予測している。西原環境テクノロジー、荏原、鹿島、バイオインダストリー協会との共同で、産総研つくばセンターに建設した。エネルギー回収効率は55%強を狙う。本実証機は、可溶化・水素発酵槽容量は1m3、メタン発酵槽容量は0.4mで、実規模の1/100程度のスケールであり、水素ガスで日量1m、メタンガスで同10m程度生産できる。(日刊工業新聞、化学工業日報04年7月15日)

(5)クエストエア
 カナダのクエストエアは、07年にPSA技術を改良した新型水素精製装置を実用化する。従来の製品に比べて精製能力が大幅に向上し、大きさは1/20程度とコンパクトになり、したがって改質装置と一体化が可能になる。この新型水素精製装置では、吸着剤を従来のビーズ状から粉末状に変え、バルブの性能も高くなっており、1分間に100回の精製ができると同社は語っている。(電気新聞04年7月21日)

(6)萩尾高圧容器
 萩尾高圧容器(愛媛県)は、ボンベと一体化した安価な触媒システムによって、ボンベ内部のLPGに含まれる硫黄化合物を約1/20以下にできる簡易脱硫装置を開発した。同社によると、触媒性能は50kgボンベ3本分150kgまでは使用可能である。ボンベに含まれる硫黄化合物濃度は、ガス残量が減るとともに上昇するので、今後は触媒機能を硫黄化合物の濃度変化に応じた改良を進め、最終的にはそのまま改質器に送り込むことができる数ppmまで減らす方式を考えている。(化学工業日報04年7月22日)
  
12.水素の輸送・貯蔵技術の開発
(1)東北大
 東北大学金属材料研究所の折茂助教授らの研究グループは、マグネシウムとアミノ基を結合したマグネシウムアミドに、リチウム水素化物を1対4の割合で合成し、この新素材が9%(重量比)の水素を吸蔵する能力のあることを発見した。この数値はIEAの目標値を上回っている。新素材は130℃で水素を放出、アンモニアの発生を抑制するとともに、従来の吸蔵材に比べて安定性も大幅に向上した。研究グループは「近い将来、他の金属の触媒を使うなどによって、水素の放出ピークが100℃以下でも可能にしたい」と語っている。(河北新聞04年6月29日)

(2)サムテック
 サムテック(大阪府)とアメリカ100%子会社サムテックインターナショナル(SII)は、最高充填圧力70MPaに対応可能な超高圧水素貯蔵容器を試作した。高強度アルミ材から成形したライナーに炭素繊維および超繊維の1つであるザイロンを巻きつけ、容器に均一な内圧が掛かるように設計、内部に充填できる有効水素重量比において6.0%以上を実現した。アメリカNASAの技術を採用した。安全性はアメリカの高圧容器規格NGV2−2000を、70MPa相当に換算した破裂、サイクル、落下試験をクリアした。(日刊工業新聞04年7月20日)

(3)日本酸素等
 日本酸素とJFEコンテイナーは、FCV用水素運搬・貯蔵タンクを共同開発する。製鉄所や石油化学プラントなどで発生する副生水素の利用を促進するためで、自社運営の水素供給施設も増設する。容量は300LでFRP製、100MPaの高圧水素タンクを予定している。(日経産業、日刊工業新聞04年7月21日)
13.水素社会モデルの形成と実証
(1)水素ベースのリサイクル社会
 埼玉県本庄市の早稲田地区で、廃シリコンと廃アルミニウムから水素を製造し、同時にバイオマス系からも水素を製造、それを水素吸蔵合金で貯蔵して、1人乗りFCコミューター、FC照明、FCヒートポンプなどに活用する水素ベースのリサイクル社会構築に向けた実証実験が始まる。早稲田大学を中心に、三洋電機、三洋アクアテクノ、アイテック(大阪府堺市)など7社のグループが参加、04年度から3年間をかけて実証に乗り出す。環境省から地球温暖化防止対策で20億円の補助を受け、水素社会モデルの形成を目指す。
廃アルミにカセイソーダなどのアルカリを混ぜ、水酸化反応で水素を取り出す技術は、アイテックが開発している。廃シリコンから水素を得る技術は、三洋アクアが担当する。同社が既に事業化している高純度シリコンの完全リサイクルシステムを用いて水素を回収、シリコンはカセイソーダと反応してケイ酸ソーダとして回収する。水素発酵菌での水素精製も三洋電機が担当する。水素吸蔵合金は、大阪府立大と早稲田大がランタンニッケルにおいて、重量当たり2%の吸蔵量を倍増することを目指して開発を進める。(日刊工業新聞04年7月2日)

(2)EEWKプロジェクト
 荏原製作所、三菱重工業、日本総研、早稲田大学などのよる自然エネルギーの地域相互ネットワークシステムの開発グループ“エコエネルギーウエブ研究会(EEWK)”は、横浜市内でシンポジウムを開き、横浜市金沢区に設置予定のモデル事業の概要について詳細を明らかにした。06年には横浜市立大の周辺で1,000kWのネットワークを構築し、08年には金沢シーサイドライン沿いに区域を横断する形でネットワークを完成させる。EEWKは、熱および未利用エネルギーを最大限活用し、地元のエネルギーは既存の電力会社に頼ることなく地元ですべて賄うネットワークの構築を目指している。太陽電池、風力発電、廃棄物発電、FCを電源とし、コージェネレーションや蓄電池、バイオマスなどを組み合わせ、IT技術を使って地域に熱と電力を供給する。(電気新聞04年7月9日)
14.携帯端末用マイクロFCの開発
 (1)KDDI
 KDDIは携帯用マイクロDMFCを日立製作所、東芝と共同開発し、05年度末までに作品を完成、07年での実用化を目指す。価格はリチウムイオン電池を大幅に上回らない水準を目標とする。(日本経済新聞04年7月11日)

(2)香川大
 香川大学工学部の郭書教授は、形状記憶合金のコイルばねを用いた超小型ポンプを開発した。μL/h単位で流量を調整できる。又単純な構造とすることで電源を除く製造費を1000円/個強に抑え、使い捨てを可能にした。マイクロFCの燃料補充向けなどの用途に応用する考え。(日経産業新聞04年7月20日)

(3)日立マクセル
 日立マクセルは、携帯用マイクロDMFCにおいて、低コスト化に寄与する電極触媒を開発した。同社は触媒材料として白金に比べて価格が1/10〜1/100程度の酸化モリブデンを採用、更に磁気テープの製造で磁性粉を細かくする技術を応用して、酸化モリブデンの結晶を直径1nmまで微小にし、電極の炭素粒子上に均一に塗布することに成功した。今後は量産化に向けた生産技術の改善を進める。実用化の段階では白金と酸化モリブデンを混合させる利用方法を想定しているが、酸化モリブデンの比率をより高めるよう努力する。生産拠点は磁気テープの主力工場である京都事業所になる見通し。(日経産業新聞04年7月20日、日刊工業、電波新聞、化学工業日報7月21日)

(4)日立
 日立製作所は、電解質膜にハイドロカーボンを使ったノートパソコン用出力10WのDMFCを開発した。形状は液晶デイスプレー側の筺体裏に張り付ける薄型(厚さ5mm)とすることにより、機種を問わず利用できる。メタノール容器は使い捨てライター大手に開発を委託している。クロスオーバー現象を抑制する特性を持つハイドロカーボン電解質膜は厚さ15μm、又カーボンと白金触媒からなる電極の直径は200〜300nm、触媒粒子の直径は約3nm、電池寿命は約4,000時間である。燃料タンク容量は50ccで8時間駆動が可能、メタノールは規制にかかる43%以上の濃度以上は使用しない。カソード側からの水分の発生量は、人の肌から発生する水分の2〜3倍相当となるが、これは自然蒸発で解決できる水準と述べている。さび対策として電気回路は遮蔽した。ACジャックから電力を供給するので、他社のノートパソコンにも装着できる。(化学工業日報04年7月23日)
 
15.新型タイプFC
(1)微生物FC
 アメリカ・ペンシルベニア州立大学の研究チームは、微生物の作用で水を浄化すると同時に発電する“微生物FC”の発電効率を高める技術を開発した。直径約1インチ、長さ1.5インチのプラスチックチューブにカーボン紙を巻いて電極にした構造で、高価なイオン交換膜を使わないのでコストは安く、汚水1m3当たり146mWの発電が可能となった。今後汚水1m当たり1Wを目標に改良を進める。(日経産業新聞04年7月1日)

(2)ヘモクロビンからFC電極
 大阪市立工業研究所は7月1日、動物の血液に含まれるたんぱく質からFCの電極触媒を生成する新しい技術を開発したと発表した。性能は悪いが高価な白金を使わないので、実用化されれば1/10の低コストで電極を製造できる可能性があると期待されている。ヘモクロビンなど鉄を含むたんぱく質を約800℃で蒸し焼きにするとたんぱく質が活性炭の状態になり、中に含まれる鉄分が触媒機能を発揮する。カタラーゼというたんぱく質でも同様の触媒が作られた。活性度は白金の70%程度である。今回は精製済みのたんぱく質試薬を使ったが、血液を利用する場合、100mLから1〜1.4gの触媒が得られる計算になる。将来は食肉加工の廃血液を活用したいと話している。(朝日、日経産業、日刊工業新聞04年7月2日)
  
16.FC周辺機器の開発
 イワキ(東京)は、蛇腹構造を持つ家庭用FC向け都市ガスポンプを開発した。送り出す流量を調整できるタイプで、8,000時間の寿命がある。(日経産業新聞04年7月5日) 
17.FCおよび水素関連機器の市場予測
 富士経済は、6月28日、分散型発電機器・システムの市場規模予測を発表した。02年度に6億円であったFCは、住宅向けPEFCの販売増などで07年度には500億円に達すると見込んでいる。(日経産業新聞04年6月29日、日刊工業新聞6月30日)

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・A POSTER COLUMN

加ハイドロジェニックスと独フユーエルコンによる対日戦略強化
カナダのハイドロジェニックスはFC評価システムに加え、出力5kW、10kW、65kWのPEFCパワーモジュール、水電解水素発生装置を日本に導入、フォークリフトや工業用車両など特殊車両や、バックアップ用電源装置などの実用化を目指して業種別に日本企業と提携交渉に入った。又天然ガス改質タイプの水素製造システムの販売を開始する。製造能力が30m/hの中型で企業向けに売り込む予定である。  他方、ドイツのフューエルコンは24時間フル自動化したFC評価装置を、機械専門商社のイリス(日本法人)を代理店にして販売する。既に世界では200台の評価装置を販売しており、その内の60台がFC用である。FC出力で50W〜1kW、および50W〜150kWのスタックを評価する能力を持つ。 (日刊工業新聞04年7月2日、電気新聞7月16日)  

バラードパワーシステムズのCEOが同社の戦略を語る
世界水素会議に出席したバラードパワーシステムズのデニス・キャンベルCEOは、次のように述べている。「FC開発には莫大な投資が必要。03年の研究開発費は1億ドルで、今後もこれを維持する。技術的な数値目標を毎年設定し、FC技術の世界標準になることを目指して先行投資している」「価格、耐久性、性能のバランスの取れた製品開発が重要である。例えば電解質で云えば、性能だけなら優れた日本製品もあるが、バランスを考えるとデユポンのナフィオンが最良」「2010年までには、量産段階でガソリン車などとコスト競争ができるFCVに必要な技術を開発する。出力当たり45ドルが目標である」「以前はブラックボックスとされたわが社の技術だが、フォードやホンダなど戦略的パートナーには積極的に技術を公表することにしている。より早く普及させるには互いに協力することが不可欠である。トヨタなども競争相手ではなく、潜在的なパートナーと捉えている」(日本経済新聞04年7月2日)  

バラードがドイツのシステム開発部門を売却
バラードパワーシステムズは7月8日、ドイツに拠点を置き、自動車に組み込むシステム開発を手がけているFCシステム開発事業部門“バラードAG”を、ダイムラークライスラーとフォードモーターに売却することで合意したと発表した。(日本経済新聞04年7月9日)