第93号 低温動作SOFCシステムの事業化計画

Arranged by T. HOMMA
1.経済産業省・資源エネルギー庁・NEDOによる施策
2. 国土交通省による施策
3.地方公共団体による施策
4.MCFCの事業展開
5.SOFCの研究開発
6.PEFCの要素技術開発と事業展開
7.FCV最前線
8.家庭用コジェネレーションFCシステム
9.業務用PEFCシステムの開発と実証運転
10.DMFCおよびマイクロFCの開発
11.水素生成および改質技術の開発
12.水素貯蔵技術の開発
13.水素供給技術の事業化
14.FC工作キット
15.ナノテクノロジー技術
・A POSTER COLUMN

1.経済産業省・資源エネルギー庁・NEDOによる施策

(1)燃料政策企画室の新設
 経済産業省は、1月5日付けで資源エネルギー庁内に”燃料政策企画室”を新設した。GTLやDME、バイオ燃料など新しい燃料の実用化に向けた研究開発、分散型電源やFCに適した燃料の研究開発、導入・普及策の立案や、自動車・産業用燃料の保安基準整備などを担当する。
(電気新聞、化学工業日報04年1月6日)

(2)標準・安全基準などで国際協力
 1月8日に来日するアメリカのエーブラハムエネルギー長官と坂本経済産業省副大臣が会談し、FCや水素関連の技術開発、標準規格や安全基準などの策定等、FC分野での協力協定を締結することで合意の予定である。欧州委員会とも協議を進めており、早ければ今春にも日米、日欧間で政府間協定を結ぶことにしている。標準規格が必要なのは、水素の純度や圧力、補充口の形状、水素タンクの安全基準などで、標準規格が実現すれば、日米欧はこれらに併せて保安管理などに関する規制を見直す。
(日本経済新聞04年1月6日、産経、日刊自動車、北海道新聞、化学工業日報、河北新報1月7日、日本工業新聞1月8日、読売、朝日、毎日、電気、日刊工業、中日、中国新聞1月9日、電波新聞1月10日)

(3)エネルギー政策の修正議論
 経済産業省は、原子力を基幹電源とする従来のエネルギー政策を大幅に修正し、FCなど水素エネルギーや分散型電源を、2030年には基幹電源となるよう重点的に開発する方針を打ち出すことにした。具体的な検討の場として、産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会の合同検討会議(奥田経団連会長)を1月21日に立ち上げ、8月を目途に最終答申を作る。大臣官房が事務局となる。FCは効率性やコスト面でまだ基幹と位置づけるには課題が多いので、開発支援策や規制緩和策を打ち出し、開発スピードを速めることを促す。
(日刊工業新聞04年1月9日、化学工業日報1月21日)
 産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会は、1月21日にエネルギー環境合同会議の初会合を開き、中長期的な環境エネルギー政策の検討に着手した。今後毎月1回のペースで開催し、6月を目途に中間報告をまとめる。
(日本経済、産経、建設通信新聞1月22日、日刊自動車新聞1月23日、原子力産業新聞1月29日)

(4)SOFCシステム開発プロジェクト
 NEDOは04年度から、SOFC開発において、これまでの要素技術開発をフェーズアップし、実用化に向けたシステム開発に4年計画で取り組む。10kWから数十kWまでのコージェネレーションシステムと、100kW以上のモノジェネレーションの2システムが開発対象で、前者は半額、後者は全額補助で実用化を目指す。04年度は17億円を計上した。08年度での実用化を目指して開発する実用機器は、コージェネタイプについては発電効率が40%、総合効率が80%以上を目指し、モノジェネタイプではコンバインドサイクルで発電効率50数%の実現を目標としている。いずれも耐久性は4万時間。両プロジェクトに参加する日本企業を選定する。
(日刊工業新聞04年1月22日)
 
2.国土交通省による施策

 国土交通省は、1月5日までに、下水処理場で発生した汚泥を利用し、水素を産出する構想作りに乗り出す方針を決めた。将来的にはFCVに水素を供給する。そのため汚泥からメタンガスを低コストで発生させる技術開発に着手する。
(日本工業新聞04年1月6日、日刊建設工業新聞1月7日)
3.地方公共団体による施策

  地域内の事業所が連携してエネルギー消費の効率化をはかるため、仙台市は1月22日、青葉区国見地区を地域連携型コージェネレーション特区として申請することを決めた。太陽光発電やFCなどによるエネルギーセンターを設置、各事業所が共同利用して、排熱や余剰電力も融通して活用する。事業主体は、仙台市と東北福祉大、エネルギー機器メーカなどで構成される共同体である。事業期間は04年度から5年間で、NEDOの委託研究指定を目指す。
(河北新聞04年1月23日)
4.MCFCの事業展開

  九州電力は福岡市および丸紅と、04年1月から05年3月まで、福岡市内の西部水処理センターにおいて、下水汚泥の処理工程で発生するメタンガスを燃料として、出力250kWFCE社製MCFCの実証試験を行う予定である。発電電力は所内で消費し、排熱は蒸気に変えて下水汚泥を分解するための熱源として利用する。福岡市は「他の消化ガス発電方式と比較評価し、下水処理施設への導入について検討したい」と述べ、他方丸紅は実証試験で性能を確認した後、全国の下水処理施設などに売り込む方針である。
(電気新聞04年1月8日)
5.SOFCの研究開発

 (1)京セラ
 京セラは出力1kWSOFCモジュールにおいて、約780℃の低温動作で発電端効率54%(LHV)を達成したと発表した。筒状平板形状の50セル(外形寸法150mm)を直列に接続したスタックを更に4つ直列に接続したモSOFCジュール、および内部改質器を内蔵した熱交換器、空気ブロア、水蒸気発生装置から構成されている。2004年中に4万時間の耐久性を確認するための加速試験を実施、05年には出力1kW家庭用システムを120万円以下で発売し、FC事業に参入する計画である。
(電波新聞04年1月7日)

(2)関電・三菱マテリアル
 関西電力と三菱マテリアルは、1月13日、都市ガスを燃料とする出力1kWの低温作動型SOFCを開発したと発表した。動作温度800℃で発電効率は40%、インバータや90℃の温水を回収できる機能を加えてシステムに仕上げた。06年度末までに数十kW級のコージェネレーションシステムを開発し、ホテルやレストランなど店舗や工場向けに販売する。
(読売、毎日、日本経済、産経、中日、電気、日経産業、日本工業、日刊工業、日刊建設工業、鉄鋼新聞、化学工業日報04年1月14日、建設通信新聞1月21日)
6.PEFCの要素技術開発と事業展開

 (1)京大
 京都大学の江口浩一教授は、電解質膜にポリリン酸やシリコンの複合体を採用して、水の分子を取り込み、膜内部に常時水が含まれている状態を実現した。膜の加湿装置が不要になり、かつ反応温度を200〜300℃まで上げられるので、COによる触媒劣化の問題を抑えられるのみならず、排熱の利用価値を高めることができる。新型膜を使ったPEFCで発電特性を評価したところ、フッ素系膜と同程度のイオン伝導性を示すことが確認された。江口教授は更に電解質膜に最適な電極や触媒を見つけることにしている。
(日経産業新聞04年1月5日)

(2)山梨大
 山梨大学の内田裕之教授は、大掛かりな加湿装置を必要としないPEFC用電解質膜を開発した。電解質膜にチタンやシリコンなどの酸化物を染み込ませ、更にイオン交換などで白金を加えることにより、白金触媒と酸化チタンなどを数nmで分散させることに成功した。膜を通過する水素と酸素を膜内で反応させて水にし、膜に自己保湿性を持たせた。そのため電解質膜は30℃レベルの低温で加湿できるので、パソコンや携帯電話など起動時に必要な電力を瞬時に供給する性能をPEFCに付与することができる。又大型の加湿装置が要らないので、機器の小型化を実現できる。
(日経産業新聞04年1月6日)

(3)茨城大学
 茨城大学は、タカシエンジニアリング(日立市)、英和と共同でMEAなどFC研究用の材料や実験機器を販売する大学発VB”エフシー開発”(日立市)を設立した。茨城大学名誉教授でJパワー技術開発センター主任研究員の堤泰行氏が開発した技術を基にMEAを製造し、計測機器商社である英和を通して販売する。原口忠男エフシー開発取締役は「MEA,セル、評価装置とFCの部材をすべて揃えている会社はまだ日本にはないと思う。大量生産ではなく、研究機関を対象にハイテク分野を狙っていく」と述べている。
(日刊工業新聞04年1月26日)
7.FCV最前線

 (1)中国
 新華社電によると、中国では環境問題に対する関心が高まり、北京と上海にFC公共バスを導入することになった。モデル事業第1期計画として6台を購入し、両市でモデル運行する。専門化が各種データを系統的に収集分析し、採算性を検証する。
(日経産業新聞04年1月7日)
 中国の上海の同済大のチーム(プロジェクトリーダ;万鋼教授)は、03年夏にFCV”超越1号”を試作、走行テストを順調に進めている。燃料は水素で、動力源には国内で独自に開発したFCを採用、最高時速は120km/h、航続距離は230kmと発表されている。これまでに600時間走行した。
(朝日新聞04年1月7日)

(2)ホンダ
 ホンダは1月7日、−20℃でも始動できる新型FCスタックを搭載した”FCX”を、2005年から日米両国でリース販売すると発表した。従来型のバラード製PEFCを04年末までに中止し、ホンダ製に切り替える。なお国内では03年9月に公道試験を開始している。
(読売、日本経済、中日、日本工業、日刊工業、日刊自動車新聞04年1月8日)

(3)JARI
 日本自動車研究所(JARI)は、つくば市の研究所内に”FCV安全評価試験棟”を建設し、4月から運用を開始する。試験棟は防爆火災試験ドーム(円筒形で内径18m、高さ18m、壁の厚さ1.2m)を備え、高圧水素タンクを始めとするFCV主要部品、素材の安全性試験を実施する。総工費は12億円、NEDOを通じて国家予算を投入する。
(日刊自動車新聞04年1月10日、日経産業新聞1月19日)

(4)ヤマハ発動機
 ヤマハ発動機は、04年内にも2輪車のFCコミューターを一般試乗できる体制を整える。東京モーターショウにコンセプト車”FC06”を公開したが、その後社内のテストコースでの試験走行を繰り返した結果、既に実用レベルに達したので、社外での試乗段階に入ることにした。”FC06”は出力500WのDMFCを持ち、駆動には電動スクーター”パッソル”で使用するモータを使う。
(日刊工業新聞04年1月21日)

(5)三菱自動車
 三菱自動車工業は、1月25日に開催される2004年大阪国際女子マラソンに協賛するとともに、選手に伴送する広報車両としてFCV”ミツビシFCV”(MFCV)を走行させると発表した。同社はミニバン”グランデイス”をベースに、ダイムラークライスラーの技術を導入してFCVを開発した。
(朝日、日経産業、日本工業、日刊工業、日刊自動車新聞04年1月23日、化学工業日報1月27日)
 大阪女子マラソンにおいてレースに伴走する”ミツビシFCV”が、1月23日大阪府庁で披露された。
(産経新聞04年1月23日)
8.家庭用コジェネレーションFCシステム

 (1)東邦ガス等
 東邦ガスは集合住宅の各家庭に設置したFCシステムをネットワーク化し、需要に応じて各戸が余剰電力を相互に融通するシステムを、名古屋大、神戸大と共同研究していることを明らかにした。集合住宅は50戸以上を想定、コンピュータが各家庭の発電状況を集中制御し、最も効率の良い発送配電状況を判断するシステムで、5年程度を目途に基礎的な技術を確立、その後実用化を目指すことにしている。
(中日新聞04年1月7日)

(2)三重県
 三重県は家庭用FCの実用化を目的に、04年四日市コンビナートの経済特区で、法規制緩和を視野に入れた実証試験を始める。コンビナート企業で製油や製鉄の過程で大量に発生する水素に着目、FCの開発拠点として整備することにした。FC本体やデータ計測システムなどを製作し、4月頃に設置して稼動を始める。
(中日新聞04年1月9日)

(3)ジャパンエナージー
 新日鉄ホールデイングス傘下のジャパンエナージーは、製油所内などにある遊休地に風力発電施設1基(1,700kW)を建設するとともに、出力5kW級LPG燃料家庭用FCの研究にも04年度中に着手、05年度での完成を目指す。
(日経産業新聞04年1月20日)

(4)新エネ財団
 新エネルギー財団は、02年度から実施している定置用FC実証研究で、これまでの13サイトに加えて、03年度は32サイトを採択、試験運転を開始した。これで合計45サイトでの実証試験運転が実施されることになる。電力系が8社と02年の1社に比べて大幅に増加、又電力中央研究所は試験設備を活用して系統連系影響評価試験を行う。又比較的過酷と見られる寒冷地や豪雪地帯で実験に挑むメーカが増えた点が注目される。
(日経産業、電気、日本工業、建設通信新聞、化学工業日報04年1月23日、日刊建設工業新聞1月26日)

(5)松下電器産業と荏原
 松下電器産業と荏原は、PEFCの寿命を1万時間以上に延ばす技術を確立し、部品の交換なしで3年間運転できる装置の製品化を目指す。生産コストは当初300万円以上となるが1年後に発売の予定、将来は製品価格が50万円程度にまで下がるよう努力する。松下と荏原の製品の販売は、東京ガスが2005年1〜3月に首都圏で、大阪ガスは06年3月までに発売する計画である。
(日本経済新聞04年1月27日)

(6)荏原製作所
 荏原製作所は1月28日、24時間連続運転が可能な家庭用PEFCコージェネレーションシステム”準商用機−2型”を、フィールドテスト用として大阪ガスに出荷したと発表した。荏原が得意とする小型汎用機器の開発で培った技術と、バラードのPEFCスタック技術を有機的に組み合わせて開発した準商用システムで、送電端発電効率は35%(LHV)、熱回収効率55%の性能を達成している。他方荏原バラードは、01年10月から大阪ガス、荏原、バラードと、24時間連続運転が可能な家庭用コージェネレーションシステム用改質装置について、共同研究を行ってきた。このような研究を通し、大阪ガスから技術供与を受けながら荏原バラードが製作した改質装置によって、上記のような高効率システムを実現することができたといえる。
(電気、日経産業、日刊工業新聞04年1月29日、日本工業新聞、化学工業日報1月30日)

(7)大阪ガス
 大阪ガスの柴野博文社長は、家庭用FCの商業化について「当初は05年度をターゲットに商品化を進めてきたが、耐久性やコスト面での課題があり、私の感じではもう少し時間がかかるかもしれない」と述べ、商品化が遅れる可能性を示唆した。
(産経新聞04年1月30日)
9.業務用PEFCシステムの開発と実証運転

  新日本石油は、1月29日、灯油を燃料とする10kW級業務用PEFCの実証機を開発したと発表、2月から東京品川区内のコンビニに出力8.5kWのコージェネレーションプラントを設置、フィールドテストを開始する。NEFが実施する”2003年度定置用FC実証研究”の一環として提供、更に耐久性能などの向上を図り、06年度での商品化を目指すことにしている。灯油はエネルギー密度が高く、かつ安価であるものの、炭素数が多いので改質が難しいとされてきたが、新日本石油は三菱重工と協力して灯油仕様PEFCの開発を進め、発電効率31%を実現した。
(朝日、日本経済、産経、日経産業、日刊工業新聞04年1月30日、化学工業日報1月30日)
10.DMFCおよびマイクロFCの開発

 (1)アメリカ
 アメリカのポリフューエルは、DMFCの電解質膜の開発に成功したと発表した。コストや性能の面で従来のリチウムイオン電池を上回り、又メタノールのクロスオーバーを低減させるなど、従来のDMFC用電解質膜の性能を大幅に上回っていると同社は述べている。
(日刊自動車新聞04年1月22日)

(2)東レ等 
東レは信州大学や上智大学、京都工芸繊維大学と共同で、携帯端末用小型DMFCの開発研究において、電解質膜の構造を変え、高濃度のメタノール燃料を使用可能にするとともに、触媒の性能を高め、出力を2〜3割向上する技術に目途をつけたと発表した。具体的には、コンピューターシミュレーションによってメタノール透過量を半減できる構造を作り、触媒については白金やルテニウムに金属原子を加えて高性能触媒を開発、その活性を2倍に高めた。単位面積当たり出力密度は30mW/cm2になった。2005年での実用化を目指す。
(日本経済新聞03年12月29日)

(3)東工大
 東京工業大学の山崎陽太郎教授は、DMFCにおいて、200℃の高温に耐える電解質膜を開発した。この電解質膜はジルコニウムなどの無機物とカルボン酸からなる有機物が層状になった構造をしている。水を保持する機能があるため、100〜200℃の高温でも水が減少することなく電解質膜としての性能を維持することができる。又無機物と有機物の層が薄く重なっているため、メタノール透過量も減少させられそうである。今後製膜技術の最適化を進め、ノートパソコンのみならず、出力が100W〜1kWのDMFCも開発することを目指す。
(日経産業新聞03年12月29日)

(4)富士通
 富士通は携帯電子機器の駆動時間を従来の3倍に延ばすことのできるDMFCを開発、300mmLのメタノール水溶液でノートパソコンを10時間以上駆動できることを確認した。DMFCの電解質膜に新しい有機高分子を採用してクロスオーバーの問題を改善したことにより、濃度30%のメタノール水溶液を燃料として使うことができる。
(日本経済新聞04年1月26日)
11.水素生成および改質技術の開発

 (1)原研
 日本原子力研究所の小貫薫熱利用技術グループ長らは、水を熱分解して水素を取り出す装置(水素生成速度35L/h)において、20時間の連続運転に成功した。同チームは03年8月、水にヨウ素や2酸化硫黄を導入し、3段階の化学反応で水素を採りだす技術を開発したが、反応速度の制御などが難しく、連続運転は6時間半にとどまっていた。研究チームは、反応中の原料の濃度を超音波で測定する機器を導入した結果、反応の制御が容易になり、連続時間を延ばすことに成功した。
(日経産業新聞04年1月9日)

(2)出光
 出光興産は、DMEをFC用燃料として利用することを目的に、DME改質触媒の開発を進めている。DMEの特徴は、脱硫器が不要であり、かつ改質温度が300〜450℃と低いので、COの発生が少なく、CO変成器の小型化又は不要にすることができる。出光は更に改質温度を200℃程度まで下げることを目的として触媒の開発を進めている。PEFCを開発している電機メーカと組んで、05年にはDMEを燃料とするプロトタイプ機を製造、実証試験を07年度に行い、08年度での製品化と販売を目指す。
(電気新聞04年1月13日)

(3)東京理科大
 東京理科大学の工藤明彦教授等は、硫化水素など硫黄を含む廃液から、光を当てることにより効率よく水素を取り出すことを可能にする高機能光触媒を開発した。亜鉛と銀、銅やインジウム、硫黄でできた触媒に、反応効率を上げるため、ルテニウムが加えられた。触媒粒子の大きさは、直径2〜30μm、紫外から赤橙色まで可視光の大部分を有効に利用することができる。硫黄のイオンなどを含む水溶液に太陽模擬光を当てて実験した結果、水素が3.1L/h,m2発生した。従来硫化カドミウムに白金粒子を付けた触媒により、太陽光で水素を発生することが分かっていたが、1部の可視光しか利用できないため、実用化には至らなかった。
(日経産業新聞04年1月23日)

(4)大ガス
 大阪ガスは家庭用PEFC向けのLPG改質装置を開発、実用化の目途が立ったとして04年度からFCメーカへの供給を開始する。改質効率は天然ガスと変わらない81%を実現した。LPG燃料の家庭用FCシステムの事業化を、天然ガスのそれに1ないし2年後れで実施することを予定している。
(日刊工業新聞04年1月28日)
12.水素貯蔵技術の開発

(1)富士重工業
 富士重工業は、宇宙機器技術、すなわちロケットの燃料タンクで蓄積した先端技術を応用し、複合材製の高圧水素タンクを開発した。複合材繊維を編み上げるブレーデイング製法により、薄肉厚の軽量構造を実現した。従来のアルミ合金製タンクに比べると、重量は半分、コストも半分以下、ステイール製に比べるとコストはほぼ同じであるが、重量は1/5になる。
(日経産業新聞04年1月5日)

(2)東工大
 東工大の大塚教授とウチヤ・サーモスタット(埼玉県三郷市)、東邦ガスは、さびた鉄に水素を加えると純粋な鉄に変わる反応を利用して、水素を効率よくかつ安全に蓄える方法を開発した。水素を蓄えるための材料として、5mm大のペレット状に加工した鉄を使う。鉄ペレットには水素の出し入れの反応を促進する触媒が加えられている。水素の出し入れのプロセスは、先ず酸化鉄の状態で水素を加えると、水素が鉄に結合した酸素を奪って水になり、純粋な鉄となる。この純粋な鉄に水蒸気を加えると逆の反応により水素が発生する。鉄の重さの4.5%程度の水素の出し入れが、400℃以下の温度で可能になり、水素吸蔵合金の水素貯蔵性能を上回っていると同教授は語っている。又水素吸蔵合金に比べてコストは安い。
(日本経済新聞04年1月5日)

(3)豊田合成
 豊田合成は、FCV用樹脂製水素燃料タンクの開発に目途をつけたと発表した。開発しているタンクは樹脂層とFRPの2層構造で、金属製と同等の強度を備えながら、重量を半分以下にすることが可能である。水素分子は小さいのでこれまでの樹脂では水素が透過するため、透過しない樹脂を開発、又充填したガスの圧力によってシールする構造を口金部分に採用することによって、水素漏れを防ぐことにも成功した。同社は70MPaまでタンク貯蔵能力を高める研究開発を進めている。
(日刊工業新聞04年1月21日)
 
13.水素供給技術の事業化

  大阪ガスは03年4月に、従来品に比べて大きさと価格が約半分の天然ガス改質水素製造装置”ハイサーブ30”(供給能力30m3/h)の販売を開始した。大きさは、横250cm、縦200cm、高さ250cm、1つの箱に全てが収まるようにパッケージ化することによりコンパクト化を実現した。価格は4,000万円程度。これらの製品をベースに、大阪ガスは工業用水素供給の国内市場で2010年までに4割のシェアの獲得を目指す考えで、将来はFCV用水素ステーションにもこの技術を活用していくことを目論んでいる。
(電気新聞04年1月7日)
14.FC工作キット

  西野田電工(大阪市)は、FC工作キット”水空電気(みずからでんき)をインターネットを通じて発売する。産総研関西センター小型FCグループと共同開発した。水電解水素発生装置とPEFCを手づくりし、直列に接続して約1.5Vの発電出力を確認できる。価格は1セット2万5,000円の予定。
(日刊工業新聞03年12月29日)
15.ナノテクノロジー技術

 (1)NEC、住友化学、MHI等
 NEC、住友化学工業、三菱重工業など11社は共同で、ナノテクノロジーに重要な微粒子の立体構造情報を収集したデータベースを作り始めた。白金や鉄酸化物など約100種の金属系微粒子を対象に原子の位置などの情報を容易に取り出せるようにし、FCや電子素子などの開発に役立てる。数値情報をベースにして、コンピュータでシミュレーションすれば、高性能のFC用電極や触媒を短期間で開発できる。
(日本経済新聞04年1月19日)

(2)住友商事
 住友商事は、1月26日、単層カーボンナノチューブの製造で、アメリカのカーボンナノテクノロジーズ(CNI)に出資し、かつ日本と韓国市場での素材や用途別加工製品の販売について、6年間の独占代理店契約を締結したと発表した。量産では多層カーボンナノチューブが先行しているが、導電性や熱伝導性では単層が優れている。
(朝日、日本経済、日本工業、日経産業新聞04年1月27日)
 ―― This edition is made up as of January 30, 2004 ――


・A POSTER COLUMN
水素直接燃焼方式の復活
 次世代低公害車の開発を巡り、水素を内燃機関で燃やす”水素直接燃焼方式”が復活の兆しを見せてきた。ドイツのBMWに加えて、マツダが水素ロータリーエンジンを03年東京モーターショウに参考出品した。国も”次世代低公害車開発促進事業”予算の1部を直接燃焼の研究に振り向けており、武蔵工業大学は国からの受託で、高圧水素(100気圧)燃焼大型エンジンの基礎研究に取り組んでいる。国は大型トラック分野への適用を志向している模様である。FCV一辺倒ではなく、「水素社会に向けて多様な手段を確保すべき」との声が大きくなりつつあるように思われる。
(日刊自動車新聞04年1月19日)
 マツダの井巻久一社長は、1月20日、今後3年以内を目途に水素ロータリーエンジン車を発売する考えを明らかにした。同社長は「水素とロータリーは安全性などの点から相性がいい。搭載車種はスポーツカーのRX−8やミニバンなどから年内に決める」と述べた。
(中日新聞04年1月21日)

尼崎港で藻類用バイオマス発電事業の調査

  関電ガス・アンド・コージェネレーション(大阪市)は、干潟などで多量に発生することが予測される”アオサ”などの藻類を利用して、バイオマス発電を行う事業に関する調査を、尼崎港で開始した。藻類が堆積・腐敗する前に回収、エネルギーとして利用する構想で、発生した藻類を専用回収船で収集して発酵させ、バイオマスを生産、それを100kW級FCあるいはガスエンジンに導入して発電する。近畿経済産業局が03年度に始めた”バイオマス等未活用エネルギー事業調査補助”の対象事業に選ばれた。
(電気新聞03年1月19日)