第91号 家庭用PEFC実用化に向け開発進展

Arranged by T. HOMMA
1.国家的機関による施策
2. 家庭用PEFCシステムの開発実証と事業展開
3.定置型FC用水素供給設備
4.FCV最前線
5.水素ステーション技術と実証研究
6.MCFCのコージェネ導入
7.改質および水素生成技術
8.FC用計測機器の開発
9.水素・FC技術開発の国際協力合意
10.FC普及へ民間団体の国際協力
・A POSTER COLUMN

1.国家的機関による施策
(1)資源エネルギー庁
 資源エネルギー庁は、ジメチルエーテル(DME)の実用化・普及を目的としたDME利用大型機器の開発補助事業について、今年度の補助金 交付先3件を決定した。3カ年計画で事業総額は約19億円であり、国の補助率は2/3である。6月の公募に5件の応募があり、審議会を経て 新日本石油ガス、東芝IFCの「DMEPAFCの開発」、住友精化、電源開発の「自立型DME改質水素供給システムの開発」、前川製作の「 DME専用BOG(ボイルオフガス)回収スクリュー圧縮機の開発」の3件が採択された。
(化学工業日報03年11月12日)

(2)経済産業省
経済産業省はFC製造に不可欠な白金やルテニウム等の貴金属触媒の確保を検討するため、来年度から2年計画で需給調査を行う方針である。 日本はFCVや定置用FCの導入目標を設定しているが、これらの触媒は高価で資源的にも制約があり目標達成にネックになりかねないためである。 白金の場合、世界の2002年の需要量は185トン(見込み量)で、1999年以降、中国経済の急成長や欧州自動車排ガス対策強化で需給 はタイトに推移している。一方、南アフリカ共和国とロシアが世界全供給量の9割を占めている状況である。調査事業では、こうした量的制約 と地域的偏在の問題を踏まえながら、世界的需給状況を調査する。
(日本工業新聞03年11月18日)

 
2.家庭用PEFCシステムの開発実証と事業展開
(1)富士電機
 富士電機は2004年内に家庭用PEFCの実証試験を開始し、1kWで連続1万時間以上稼動できる信頼性を確認する。既に3000時間の稼 動を確認しているがセルの改良により耐久性を高め、水素ガス流路の改良などを行い、来年度初めに試作機を製造し、稼動実験を実施する。最終的 には2万−3万の耐久性を実現し07−08年にも発売する計画で、価格は100万円程度にする方針である。
(日経産業新聞03年11月5日)

(2)新日本石油
 新日本石油はLPG改質の1kW級家庭用PEFCのモニター実証を全国的に展開する。すでに今年度上期には京浜地区を中心に10台設置して いるが、下期には全国的に展開し最終的に今年度中には70台を設置する。全国の同社特約店を主体に、地方自治体、ハウスメーカー、建設会社な どの事務所や家庭に導入する。このモニター実証は1年間実施し、70台の機器もバージョンアップして05年度末からの実用化へもってゆく計画 である。
(日刊工業新聞03年11月7日)

(3)新日本エコシステム
 省エネ支援サービスの新日本エコシステム(千葉市)は、精密機器製造のキュー・エム・ソフトと組み、発電効率が高く小型で高出力の家庭用 FCを開発した。共同開発した「EX−21」は高さ・幅が60cm、奥行き30cmで、発電効率は約45%である。最大出力は2.6kWで、 耐用年数は10年、当面の価格は500万円であるが2年後にも100万円以下に下げる計画である。燃料は現段階では水素ボンベであるが、天然 ガスやプロパンガスの改質器が実用化されれば燃料の安定供給が出来るとしている。年内に自治体、ガス会社、大学などを対象に30台を試験販売 する。
(日本経済新聞03年11月12日)

(4)バラードパワーシステムズ
 バラードパワーシステムズは荏原バラードと1.2kW級定置型FCボックスや10−40kW級のネクサ−RMを04年初めにも日本市場に投 入する。定置型はポータブルタイプの1.2kWのネクサを荏原が販売しているが、バックアップ電源用などの用途にFCボックスとネクサ−RM を新たに投入する。04年早々から2機種を荏原バラードが数ヵ所で実証、実用化してゆく。
(日刊工業新聞03年11月14日)

(5)東芝IFC、松下電器、三洋電機
 家庭用FCのメーカー各社が05年春の実用化に向け新しい技術開発を開始した。東芝IFCは天然ガス改質器を初めて大阪ガス製を購入し70 0WのFCを開発して、発電効率でこれまでの35%を上回るこれまでで最高の37%を実現した。この700Wタイプを12月に大阪ガスに納入 する。松下電器は1kWのLPG水蒸気改質FC2台を開発し、新エネルギー財団の実証プロジェクトに納入する。この10月より松下HA社の設 備システム事業部門がFCを担当している。天然ガス改質FCでは最初の実用機の設計を開始している。三洋電機はこれまでの800Wタイプをさ らに小型化した750W機での実用化を決定し、発電効率35%の機種を開発した。
(日刊工業新聞03年11月28日)

 
3.定置型FC用水素供給設備
 JFEコンテーナー(JFEC)は、定置型FC用の水素供給システム事業を開始した。ボンベ、バルブ、圧力調整器をモジュール化し、FCシ ステムにセットするだけですぐに使えるシステムのサンプル出荷を行う。家庭用FCはガス改質が主流になる見通しがあるため、家庭用向けでなく、 通信事業者などの電波中継基地や非常電源用に供給していく方針である。ボンベには救急医療用の酸素ボンベが転用でき、現在すぐ提供できるのは、 200気圧の水素容量で1.1リットル、2リットル、2.8リットルの3タイプである。2.8リットルタイプで1kW級FCを30分程度の稼 動が可能である。4リットルタイプも要望があれば開発する方針である。
(電気新聞03年11月25日)

 
4.FCV最前線
(1)三菱自動車工業
 三菱自動車はFCVの国土交通相の認定を受け、2004年1月から公道走行を開始する。FCVはダイムラークライスラーの技術を導入して開 発したもので、ミニバン「グランディス」がベースである。スタックはバラード社製を採用し全体システムはダイムラーが開発した。高圧水素ガス ボンベ(350気圧)を搭載し、最高時速140km、1回の充填で150kmの走行が可能である。
(日刊自動車新聞03年11月1日、産経新聞11月4日、日刊自動車、日経産業、日本工業、日刊工業、日本経済、読売新聞11月6日、化学工業日報11月7日)

(2)日産自動車
 日産自動車は氷点下でも始動・走行可能なFCVを年度内に国内でリース販売する方針である。米国のUTCFC社と共同開発した低温での始動 に強いスタックと、日産が独自で開発したコンパクトリチュウムイオン電池を搭載したSUV「エクストレイル」で実用化する。このスタックは現 在試験中であるが氷点下20℃程度で始動・走行が可能となる見込みである。現在、トヨタとホンダがFCVを限定でリース販売しているが、氷点 下での始動・走行には問題がある。ホンダは氷点下でも始動・走行できる自社製のスタックを開発し、公道試験を行っているが実用化は未定として いる。従って、氷点下でも始動・走行できるFCVの実用化は日産が先行しそうである。
(日刊自動車新聞03年11月10日)

(3)ダイハツ工業
 ダイハツは軽自動車ベースのハイブリッド方式FCVを来年国内で発売する方針である。ダイハツはFCVをトヨタと共同開発し、今年1月軽自動車と して初めて公道走行の国土交通大臣認可を取得し、現在「ムーヴFCV−K−2」で公道試験中である。これをベースに市販向けの仕様として、リース 形式で限定的に販売する。リース価格はトヨタやホンダの例から80万円以下を基準に設定する方向である。
(日刊自動車新聞03年11月17日)

 
5.水素ステーション技術と実証研究
(1)バブコック日立
 バブコック日立はFCV向けの都市ガス改質タイプ移動式水素ステーションを東京都青梅市内に来年4月に開設する。2台の大型トラックにボイ ラー、改質装置、水素精製装置、圧縮機等を搭載し自由に移動でき、都市ガスや工業用水などが入手できれば何処でも水素を供給できる。尚、天然 ガスと原料水、発電機などを積んだもう1台のトラック(ユーティリティ車)を導入し3台編成にすれば、都市ガス区域外でも稼動が可能である。 経済産業省のプロジェクト「FCV用水素供給設備実証研究」の一環として行う。
(日本工業、日経産業新聞、化学工業日報03年11月17日)

(2)三菱重工業
 三菱重工業は都市部を巡回しながらFCV用水素ステーションに水素を供給する移動式の水素製造装置を開発した。ステーションはタンクと充填装置 を置くだけで済むので建設費用を大幅に削減できる。10m前後の長さのトレーラーに水素製造装置、二酸化炭素回収装置、制御装置などを搭載す る。水素はトレーラーの停車時に製造し、既に40m3/hの製造装置の試作をしており、将来は160m3/hの製造装置を搭載する計画である。
(日経産業新聞03年11月20日)

 
6.MCFCのコージェネ導入
(1)ファーストエスコ
 省エネ支援サービスのファーストエスコはMCFCによる自家発電代行サービスをセイコーエプソンから初受注した。ファーストエスコが設備投資し、 エプソンに電力と蒸気を供給する。250kWのMCFC2基によるコージェネレーションシステムで、セイコーエプソンの伊那事業所に設置する。投 資額は約3億円で来年4月に稼動の予定である。セイコーエプソンは既に伊那事業所に400kWのPAFCを導入しているが、発電効率が高く廃熱も 高温であるMCFCを導入することにより、COなどの温暖化ガスの削減を加速する。
(日本経済新聞03年11月5日)

(2)中部電力
 中部電力が開発中の廃棄物ガス化炉とMCFCを組み合わせた高効率廃棄物発電システムが来年度から実証試験を開始する。新名古屋火力発電所に導入 したMCFCは既に発電を開始しているが、これに接続する廃棄物ガス化炉の設計・製作が完了し、据付工事にこのほど着手した。2004年10月頃に 両機を接続してトータルシステムとしての運転試験を実施する予定である。廃棄物ガス化炉は今年度末までに据付・試運転を完了する。廃棄物は木質系バ イオマスを使用し、燃料使用量は1日当たり3.5トンである。冷ガス効率65%、設備に有害な硫化水素と塩化物を共に1ppm以下に抑えることが目 標となっている。
(化学工業日報03年11月7日)

 
7.改質および水素生成技術
(1)コスモ石油
 コスモ石油は、天然ガスから製造したGTL油を原料にFCV用の水素製造に国内で初めて成功したと発表した。このGTL油は北海道苫小牧市のパイ ロットプラントにて製造したもので、「大黒水素ステーション」にて水素製造した。GTL油は硫黄分などの不純物をほとんど含まず、デイーゼル燃料や 灯油の代替燃料用途が検討されてきたが、水素ステーションでGTLを原料に水素製造が出来ることを確認したことで、その用途がFCV用燃料にも拡大 したことになる。
(日刊工業、日本工業、日経産業新聞、化学工業日報03年11月11日)

(2)産業技術総合研究所
 産業技術総合研究所は、FC用クリーンガソリンの製造が可能な新規製油精製触媒の開発に成功した。パラジウム−白金、イッテルビウムなど耐硫黄性 貴金属触媒をゼオライトに担持させたもので、硫黄濃度0.12ppm、脱硫率99.8%の性能を確認した。さらに吸着脱硫すればFC用に要求される 数10ppbオーダーの硫黄濃度まで下げることが可能である。水素を製造する原燃料として天然ガス、メタノール等いろいろあるが、総合エネルギー効 率が高く、インフラの点からガソリンが使用できれば一番よく、新規精製触媒はこの可能性を示すものとして注目される。
(化学工業日報03年11月12日)

(3)東京工大と早大
 東京工業大学の岡崎健教授らと早稲田大学の関根泰講師らは、天然ガスから水素を発生させるのに、触媒法より低温で小型装置で出来る火花プラズマ放 電にて成功した。放電プラズマによる化学反応は、電極に高電圧をかけて高エネルギー状態の電子を原料ガスの分子にぶつけて反応を進める。今回の方法 は火花放電を利用しメタンの水蒸気改質を進めた。約70%で水蒸気改質が進み、エネルギー効率は50%であった。
(日刊工業新聞03年11月13日)

(4)ジョンソン・マッセイ
 ジョンソン・マッセイは高強度の水素プラント用の新触媒を開発した。新形状Qタイプと呼ばれるデザインを採用し、従来品と同等の活性を維持しながら 、強度を2.5倍に高めた。新形状Qタイプ触媒は、円筒形の外側に溝を入れ肉厚を従来品と比べ均一化した。これにより運転中の圧力損失を減少させ、触 媒の劣化防止や長寿命化に成功している。
(化学工業日報03年11月21日)

(5)   京都大学
 京都大学江口浩一教授らは、FC用の水素製造法の1つとして期待される炭化水素の部分酸化反応に利用できるヘキサアルミネート型触媒の開発に成功 した。ヘキサアルミネート化合物の一部をニッケルに置き換えたもので、活性成分が触媒表面に出ており、凝縮を起こさないため長期間安定に使用できる と期待されている。ニッケル以外の金属種についても広く検討し、より高効率の触媒の設計を進める予定である。
(化学工業日報03年11月25日)

 
8.FC用計測機器の開発
 産業技術総合研究所はセラミック製の超小型・軽量で、曲げても割れにくいガスセンサーを開発した。セラミックスを原子・分子レベルから積み上げて 素子を作る新手法を利用したもので、FC向けなどで実用化を目指す。開発したセンサーはポリマーフィルムの上にガス検知能力を持つセラミックスの薄 膜を接着して作る。両者の接着剤として厚さ1−3ナノメーターの無機物層をポリマー上に被覆しておき、密着性を高めた。
(日経産業新聞03年11月13日)

 
9.水素・FC技術開発の国際協力合意
 日米など15カ国と欧州委員会は20日、水素エネルギーを利用する経済システムの実現に国際協力することで、閣僚会議にて合意した。水素・FC技 術について国際的な技術基準を作成し、各国企業が効率的に研究開発を推進できるようにする。これは「水素経済のための国際パートナーシップ(IPH E)」と命名された国際協力の枠組みで、米ブッシュ政権が提唱していたものであり、日本やEUなど各国・地域が呼びかけに応じたものである。
(日本経済、毎日新聞03年11月21日、読売新聞11月22日、日刊自動車、電気新聞、化学工業日報11月25日、日本工業新聞11月26日)

 
10.FC普及へ民間団体の国際協力
 日米欧カナダのFC普及を目指す民間4団体はFCの実用化に向けて協力する。規格の標準化やFCVの走行実験などに関連した情報を交換する為の委 員会を設ける。協力するのは日本の燃料電池実用化推進協議会と、米国、欧州、カナダの民間のFC普及団体である。FCやその燃料などの企画と安全性 、啓蒙活動にて協力することで合意した。メタノール燃料の小型燃料電池の普及でも協力する。
(日本経済新聞03年11月28日)

 
 ―― This edition is made up as of November 28 , 2003. ――


・A POSTER COLUMN
55℃でメタンからメタノールを作る新細菌
 沼津工業高等専門学校、東京工業大学と大阪ガスは、55℃の温度条件でメタンからメタノールを作る新規細菌を見付けた。高温高圧が必要な工業プロ セスに対して、このような温度でメタンを栄養源にしてメタノールを作るため、製造コストの大幅削減が期待される。65℃程度まで耐熱性を上げられれ ばメタノールをガス状で回収、液化で高純度のものを得られる可能性もある。
(日刊工業新聞03年11月18日)

エネルギー容量がキャパシタの3−5倍の蓄電素子を開発
 旭化成エレクトロニックスは大阪ガス子会社のKRIと共同で新しい蓄電素子を開発した。従来のキャパシタと同程度の出力で電気を取り出す事ができ 、エネルギー容量はキャパシタの3−5倍大きい。ハイブリッド者に使用すると長距離を連続して加速することが出来る。開発した蓄電素子は正極にキャ パシタと同じ活性炭、負極には活性炭の表面に分子構造の異なる炭素を付着させた新材料を使った。
(日経産業新聞03年11月27日)