第89号 ホームエネルギーステーションの運転実験開始

Arranged by T. HOMMA
1.国家的機関による施策
2. 地方公共機関による施策
3.SOFCの研究開発
4.PEFCシステムと要素技術開発
5.FCV最前線
6.水素ステーションとその関連技術
7.DMFCおよびマイクロFCの開発
8.FC市場予測
・A POSTER COLUMN

1.国家的機関による施策
(1)経済産業省・資源エネルギー庁・NEDO
 資源エネルギー庁は、出力50kW以上のSOFCの実用化を目指したシステム技術開発をバックアップするため、NEDOに委託してプロジェクトを立ち上げる。04年度予算は17億円。MHIは円筒形セルで印刷技術を用いた大幅なコストダウンが可能な製造法を開発しており、これをベースに出力100kWへのスケールアップを電源開発と共同で進める計画を立てている。他方、関西電力と三菱マテリアルは低温動作のSOFCの開発を進めている。価格は検討中であるが、60万円/kWを目標としている。
 NEDOは携帯用マイクロFCを実用化するための助成プロジェクトで、日立製作所・日立マクセル・日立電線の日立グループとNECを採択した。日立グループは、低コストの炭化水素系膜の開発などを進めており、NECはカーボンナノホーン電極を開発している。研究開発期間は03年から05年度までの3年間で、必要費用の半額助成。
(日刊工業新聞03年10月2日、日本工業新聞10月8日、電気新聞10月17日)

 
2.地方公共機関による施策
 山口県は、10月14〜17日、トヨタからFCVをリースした岩谷産業と共同で、走行実証試験を県内で実施した。高速道や平地、山間部など条件の異なる環境で走行し、燃費などのデータを把握、走行面での課題を抽出する。
(中国新聞03年10月10日)

 
3.SOFCの研究開発
 三菱マテリアルは、東京工業大学および産業技術総合研究所と共同で、高速酸化物イオン伝導体の1種であるランタンガレート系電解質において、酸化物イオンの伝導経路および空間分布の温度依存性を解明するとともに、酸化物イオン伝導経路の可視化に成功したと発表した。3者はX線の替わりに中性子線を用いることにより、電子による影響を避けて原子核の分布を捕らえることができたし、又1,392℃の高温で測定したために、常温では分からないイオン分布も鮮明に捕らえた。データ解析には最大エントロピー法を利用して、結晶構造内におけるイオンの複雑な分布を導き出すとともに、分布状態を可視化することに成功した。同社では今後この研究成果を、他のSOFC用電解質材料の構造解析にも適用するとともに、さまざまな機能性材料の最適設計にも役立てたいと話している。
(日本経済、電気新聞、日刊工業、鉄鋼新聞、化学工業日報03年10月10日)

 
4.PEFCシステムと要素技術開発
(1)東工大
 東京工業大学大学院理工学研究科の大塚潔教授と山中一郎助教授のグループは、NOxと銅微粒子が、PEFCのカソードでの電極反応に対して触媒作用を持つことを実験で確認した。実験では体積比でNOxを20%、酸素80%の混合気体をカソードに供給したところ、NOxが還元反応の仲立ちになり、それ自体の量は変わらないことを発見した。これまでの最高のデータでは、PEFCで白金を触媒とした場合と同等の電流、電圧が得られている。
(日経産業新聞03年9月29日)

(2)東洋ラジエータ
 東洋ラジエーターは、アメリカのプラグパワーに、不凍液を冷やすラジエータやファン、それを循環および加熱するポンプやヒーター、その他熱交換器などで構成する熱管理モジュールの供給を始めた。本モジュールは、発電に伴って発生する熱を取り出してスタックの温度を最適化すると同時に、寒冷時にはスタックを暖める役割を果たす。当面通信ネットワークのバックアップ電源用に開発されたプラグパワー製5kW定置型PEFC(GenCore 5T)向けに納入する。
(日経産業、日刊工業新聞03年10月1日)

(3)東芝IFC
 東芝IFC(TIFC)はPEFCに関する技術の非独占的な使用権を有料で他の企業に広く供与することにした。供与先の企業がその技術を自由に使って商品開発するのみならず、開発した製品を自由に販売することも認める。TIFCがその商品も販売することもある。TIFCがこのような戦略を打ち出した理由は、競合する企業の成長を手助けすることによって、業界が活性化し、業界内部での競争も激化する結果、価格低減と市場の育成に繋がると判断したためである。又他社にも技術開発を促すことにより、商品開発のリスクを低減させられる効果があると目論んでいる。逆に技術を抱え込めば、かえってFCの市場拡大が妨げられかねないとの思考が根底にあるものと思われる。
(電気新聞03年10月14日)

 
5.FCV最前線
(1)ホンダ
 ホンダは9月26日、アメリカ現地法人のアメリカン・ホンダモーターがFCV“FCX2”を2台、サンフランシスコ市に販売すると発表した。日本では既に官庁や岩谷産業などに4台、ロスアンジェルス市に5台納入しているから、これで累計販売台数は11台となる。リース料は1台当たり500ドル/月。
(読売、日経産業、日刊自動車新聞03年9月27日、日本工業、日刊工業新聞9月29日、化学工業日報10月3日)
 ホンダは自動車用新型PEFCスタックを開発したと発表した。新型スタック ”FC STACK”は、低温での導電性が高い電解質膜の採用などにより、−20℃でも始動が可能となり、又セパレータを炭素繊維から金属に切り替え、部品点数を半減することによって、量産コストを引き下げる目途をつけたと述べている。スタックの開発に合わせて、システム全体の効率を高め、燃費は現行車よりも10%向上、水素充填1回当たりの走行距離は395kmと従来より40km長くなった。これらの開発により、ホンダはFCVのコストを1/10にできる可能性が出てきたとも述べている。同社はこの新型スタックを自社の“FCX”に搭載し、アメリカと日本で公道走行実験を始める予定である。寒冷地での走行性能を確認して早期販売を目指すことにしている。
(日本経済新聞03年10月10日、読売、朝日、毎日、産経、日刊自動車、東京、西日本、中日、北海道新聞、河北新報10月11日、日経産業、日刊工業新聞10月13日、鉄鋼新聞10月14日)

(2)GM
 GMは10月6日、FCV最新型コンセプトカー”ハイ・ワイヤー(Hy-wire)”を報道機関などに公開した。FC、電動機、水素タンクなど動力機構を厚さ28cmのスケートボード状土台に収め、その上に車体が搭載される。5人乗りで最高速度は約60km/h、燃料は液体水素で、1回の水素充填で約400km走行できる。アクセルやブレーキ用ペダルは無く、それに替わって飛行機の操縦桿のような計器類と一体化した電子制御方式が装備され、手のみで運転が可能である。
(毎日新聞03年10月6日、産経、日経産業、日刊工業、鉄鋼、東京、北海道新聞10月7日)
 GMのラリー・バーンズ副社長は、FCVの市場展開について「次世代環境技術車としては、ハイブリッドよりはFCVを重要視している。2010年にアメリカ、日本、ヨーロッパ、中国の4地域で本格的な実用車の販売を始め、利益を確保した上で、その後10年間に100万台を販売する」と述べた。又FCVの研究開発費が同社の研究開発費総額の約25%に達していることを明らかにした。
(朝日、日本経済、産経、日経産業、日刊工業、西日本新聞03年10月7日、毎日新聞10月8日、日刊自動車新聞10月9日)

(3)スズキ
 スズキは10月10日、”ワゴンR、MRワゴン”をベースとした軽乗用FCV2台について、国土交通省から公道走行ができる認定を受けたと発表した。何れもGM製スタックを搭載、燃料は345気圧の水素ガスで、航続距離は130km。
(読売、日刊自動車、中日新聞03年10月11日)

(4)DCおよびDCJ
 ダイムラークライスラーのクライスラー部門は、都市利用型3人乗り小型ジープを開発した。EVではあるが、FCVにもなる。
(日本経済新聞03年10月15日)
 ダイムラークライスラー日本(DCJ)は10月16日「東京ガス、ブリッジストンの2社の間で”メルセデス・ベンツAクラス”ベースのFCV "F−Cell"の使用に関するパートナーシップ契約を締結した」と発表した。2社は月額基本料120万円をDCJに支払い、事業活動にF−Cell を使用する。東京ガスは3年間、ブリッジストンは2年間の使用契約で、同FCVを各1台ずつ導入する。なおDCは日本、ドイツ、アメリカ、シンガポールの4カ国に計60台の F−Cellを、03年から04年に掛けて導入する "F--Cell グローバルプログラム"を推進している。
(電気、日経産業、日刊工業、日本工業、日刊自動車新聞、化学工業日報03年10月17日)

 
6.水素ステーションとその関連技術
(1)ホンダ
 ホンダは、10月2日、天然ガスを燃料として水素供給とコージェネレーション機能を併せ持つ”ホームエネルギーステーション(HES)”の運転実験をアメリカ・カリフォルニア州で開始したと発表した。プラグパワーとの共同開発で、実験は本田技術研究所とホンダR&Dアメリカズが実施する。又同社は、ロスアンジェルス研究所に設置している太陽電池利用水素ステーションも改良、製造時のCO2排出量が従来の1/5となる独自開発のCIGS薄膜太陽電池を採用するとともに、水電解モジュールには白金の替わりにルテニウム系触媒を使用した。
(日本経済、日本工業、日刊工業、東京、中日、日刊自動車新聞03年10月3日、電気新聞10月7日、鉄鋼新聞、化学工業日報10月8日)

(2)ガシズ
 ジャパン・エア・ガシズが、川崎市に建設していたFCV用”JHFC川崎水素ステーション”が開所した。メタノール改質方式で、連続で5台まで充填が可能である。
(日本工業新聞03年10月7日)

(3)日立インダストリーズ
 日立製作所の産業機械部門の子会社“日立インダストリーズ”は、40MPaの水素ガスをFCVに充填することができる水素ステーション向け圧縮機を開発した。1台1,000万円程度で03年度末にも納入を始める予定、更に次世代車用に備えて84MPa>型を現在開発中である。水素ステーション用水素ガス圧縮機については、現在1台5,000万円程度のドイツ製が使われており、海外の部品・装置を採用した水素ステーションは3億円前後で、ガソリンスタンドの4ないし5倍のコストになっている。
(日本経済新聞03年10月11日)

 
7.DMFCおよびマイクロFCの開発
(1)STマイクロエレクトロニクス
 フランスとイタリア合弁のSTマイクロエレクトロニクスは、マイクロFCの開発において、直径数nmの微細な穴を電極材に形成、それらに白金触媒を埋め込むことによって白金の凝縮を防ぎ、発電効率を高めることに成功した。電極材の一部であるシリコン層に数nmの微細孔を数百万個形成した。2年以内にマイクロFCを実用化の予定。
(日経産業新聞03年9月29日)

(2)東芝
 東芝は出力1W、製品の容積140cc、重さ130g、25ccの高濃度メタノール燃料により約20時間の発電が可能な携帯機器用マイクロDMFCを開発した。今後更に小型化と出力向上を図り、05年中に出力2Wの製品発売を目指す。なお同社は出力12WのノートPC用DMFCについては、04年中の製品化を目指している。
(読売、毎日、日本経済、産経、電波新聞03年10月4日、電気、日経産業、日刊工業新聞10月6日)

(3)ノリタケ
 ノリタケカンパニーリミテッド(名古屋)は、有機物と無機物を複合化した電解質膜を使ったDMFCにおいて、メタノールのクロスオーバーを減少させるとともに膜の形状安定性を高めたことにより、160mW/cmの最高レベルの出力密度が得られたと発表した。従来の1.5倍の性能である。
(日刊工業、中日新聞、化学工業日報03年10月7日、日本工業新聞10月10日)

(4)日立
 日立製作所は、B5サイズのノートPC駆動用出力10W級DMFCを試作した。PC以外にPDA用もあり、その場合は出力1Wの電源として対応する。メタノール濃度は10〜20%で、1回の充填で8時間連続で使用することができるが、起動用にリチウム電池を搭載したハイブリッド型のため、FCの出力は電池の充電にも利用できる。白金触媒を2〜3nmに微細化し、同時に白金が凝集するのを防ぐ構造を取り入れた。今後は発電時に生じる水の処理機構などを改良して1/3以下にまで小型化し、05年初めにも商品化する計画である。
(日本経済新聞03年10月8日、電気新聞10月10日)

 
8.FC市場予測
 富士経済は10月9日、FC関連の国内市場規模は、2020年に3,660億円に達するとの予測を纏めた。FCVについては、2015年に市場形成期が訪れ、同年には年間1万台規模に、20年には同10万台規模になる見通し。定置式住宅用は20年に10万台の普及を予測、FCVと住宅を併せて3,500億円規模の市場が形成される。又携帯機起用マイクロFCについては、同年に年間100万台、100億円規模の市場に成長すると予測している。
(日経産業、日本工業新聞03年10月10日、日刊工業新聞10月13日)

 
 ―― This edition is made up as of October 17 , 2003. ――


・A POSTER COLUMN
次世代電解質材料として注目されるイオン性液体の開発と製品化
 日本合成化学工業は、次世代電解質材料として注目されるイオン性液体の開発に成功、同社大垣事業所において量産化を行い、新規事業として育成する方針である。既にエチルメチルイミダゾリウムなど4種類のイオン性液体を製品化しており、今後更にラインアップを拡充していく。
(化学工業日報03年10月10日)

ナノ樹木状金属の作成技術
 物質・材料研究機構は、枝の太さが約3nmの樹木状金属を作る技術を開発した。絶縁性の基板に気体状の有機金属を吹きかけながら電子ビームを当て、基板から多数の金属性ナノ樹木を成長させた。電子ビームを走査すれば様々なパターンが作れるし、同じ場所でビームを照射し続ければ、樹木は大きく成長する。実験では100〜200nmの樹木を試作することができた。表面積が大きくなり、自動車の高性能排ガスフィルターやFCの電極への応用が期待される。
(日本経済、日経産業新聞03年10月10日)

日立、大ガスなど300社が参加するナノテク推進協を設立
 日立製作所、三菱商事、大阪ガス、クラスターテクノロジー(東大阪市)は、10月14日、ナノテクノロジーの商用化を推進するため”ナノテクノロジービジネス推進協議会(会長;金井日立製作所会長)”を設立したと発表した。10日時点で参加企業は約300社。ナノテクノロジーの基礎研究や材料だけでなく、ナノテクノロジーを活用した具体的な製品や事業を確立することを目的とする。今後、複数の企業による共同プロジェクトの立ち上げ支援や関係府省への規制緩和などを働きかけていく予定である。協議会に3つの委員会を設置するが、その中の”新市場開拓・ロードマップ委員会”ではエレクトロニクス、FC、環境など8つの分野に対応した分科会を設ける。
(電気、日経産業、日本工業新聞03年10月16日、化学工業日報10月17日)

2003東京モーターショウで燃費60km/Lの超低燃費軽乗用車が登場
 ダイハツ工業が東京モーターショウで参考出品する4人乗りハイブリッド軽自動車 "UFE-II" は、車両重量570kgの超軽量ボデイーを採用、最高水準の空力特性に加えて燃費重視の新しい直噴エンジンを搭載した結果、60km/Lの超低燃費を実現した。
(日刊工業、北海道、日刊自動車新聞、河北新報03年10月15日、日経産業新聞10月16日)