第87号 水素生成や供給力関連の記事が増加

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2. 地方自治体・公共団体による施策
3.SOFCの開発と事業展開
4.PEFCに関する開発研究
5.FCV最前線
6.自動車以外の移動体におけるFC動力源
7.家庭用FCの開発と事業展開
8.情報端末用マイクロ燃料電池の開発
9.水素生成・貯蔵および供給技術
10.水素安全利用技術
・A POSTER COLUMN

1.国家的施策
(1)環境省
 環境省は、8月6日、04年度から環境保護を通して経済の活性化に取り組む自治体をモデル地区に指定し、事業費を補助する方針を固めた。想定しているモデル事業として、化学工場などで発生する水素を活用したFCの製造が含まれている。全国10ヶ所近くになる見通しで、3年間で総額5億円を補助する。
(読売新聞03年8月6日)
 環境省は、04年度から、家庭用FCや小型風力発電など、温暖化ガスを出さない発電施設を家庭が設置する場合、それを補助する方針を決めた。一般家庭が何軒かまとまって購入する場合、自治体などでつくる地域協議会に、国と自治体が購入費用の2/3を補助する計画で、04年度予算で3億円を要求した。
(朝日新聞03年8月17日)
 環境省は8月27日、鈴木環境相、事務次官、局長クラスが、都内のホテルで家電業界トップと懇談した。席上FCについては、規制や縦割り行政で事業展開が難しい事情が指摘され、環境省が横断的な取りまとめを行って欲しいとの要望が業界側から出された。
(日刊工業新聞03年8月28日)

(2)経済産業省・資源エネルギー庁
 経済産業省の“次世代低公害車の燃料および技術の方向性に関する検討会(座長;石谷久慶大教授)”は、自動車の環境・エネルギー問題に対する燃料と技術の方向性を示した報告書を纏めたが、その中で水素をFCVのエネルギー源として利用する社会の構築に向けた道筋が提起されている。又クリーン燃料のGTL、CNGの普及促進の有効性が強調されている。
(日本工業新聞03年8月14日、日刊自動車新聞8月15日)
 資源エネルギー庁は、04年度から、ガスエンジン・コージェネレーションシステムやFCなどの分散型エネルギー導入支援事業を開始する方針を固めた。送電線への負担が小さい電源の普及を後押しすることにより、エネルギー安定供給の基盤を確立することが目的である。財源にはエネルギー特別会計の電源開発促進対策特別会計(電源特会)を充てる。
(電気新聞03年8月15日)
 経済産業省は、05年の日本国際博覧会において、政府館の全電力を廃棄物を燃料として使うFCによって賄うことを決めた。愛知県やトヨタ自動車、中部電力、名古屋大学などと共同で、生ごみの発酵、ペットボトル片の高温ガス化などで水素を生成するシステムを開発し、これらを政府館敷地内に並べて必要な電力2000kWをFCによって供給する。
(東京、中日新聞03年8月28日)
 04年度の資源エネルギー関係の概算要求額が8月28日に纏まった。FC/水素エネルギー関連予算を03年度308億円から341億円に増額、この内水素を安全かつ低コストで製造・利用する基盤技術開発事業が18億円増の66億円、SOFCの実用化を目指したシステム技術開発事業に対しては新規に17億円が盛り込まれている。
(日本工業新聞、化学工業日報03年8月29日)

(3)NEDO
 NEDOは携帯電話やPDAなど、携帯機器用FCの開発を支援する目的で“携帯用FC技術開発補助制度”による支援対象企業を募集する。補助率は開発費の1/2、期間は03年度から05年度までの3年間、今年度予算で約2億円を確保した。
(日本工業新聞03年8月5日)

 
2.地方自治体・公共団体による施策
(1)山口県
 04年度概算要求における重点項目として、山口県は周南コンビナートのソーダ工場で発生する水素を新エネルギーとして活用するため、水素によるFCシステム研究を採り上げることになった。
(中国新聞03年8月9日)

(2)東京都
 東京都はFCバスの営業運行を8月28日から開始する。運行台数は1台で、東京駅八重洲口−東京テレポート駅(東16)又は門前仲町−東京テレポート駅(海01)の路線を、1日3〜4往復する。このFCバスは出力90kWのPEFC2個および21kWの2次電池4個を搭載、定員は61人で、1回の水素充填で走行できる距離は250kmである。
(毎日新聞03年8月23日、日経産業新聞8月25日、読売、朝日、毎日、日本経済、産経、電気、日本工業、日刊工業、東京、日刊自動車新聞8月28日)

(3)福岡市
 福岡市は福岡県内の企業や大学と共同で、博多湾の水質汚濁の原因となっている海藻のアオサに菌を加えて発酵させ、FC燃料としても利用できるメタンガスを抽出するバイオマス事業に乗り出した。これまでの実験で、4トンのアオサから30m3前後のメタンガスが採取可能であることを確認している。
(日経産業新聞03年8月28日)

 
3.SOFCの開発と事業展開
(1)日本ガイシ
 日本ガイシは、650〜750℃の低温でも高出力で作動するSOFCセルを開発した。同社が開発したセルは直径12cmの円形で、650℃で、出力密度は0.6W/cm2(電圧0.7V)、又750℃では1.6W/cm2を達成した。
(電気新聞03年8月11日)

(2)クリーンコールパワー研究所
 東京電力が核となり電力10社が出資するクリーンコールパワー研究所は、04年10月に予定されている常磐共同火力・勿来(福島県いわき市)への石炭ガス化複合発電(IGCC)準商用プラントの着工に向けた詳細設計を本格化させている。当面石炭をガス化してガスタービンと蒸気タービンを組み合わせ、48%の発電効率を目指すが、更にSOFCを加えればSOFC、ガスタービン、蒸気タービンのトリプル発電が可能になって効率は55%まで高められると期待されている。
(日刊工業新聞03年8月20日)

(3)新日鉄・住商
 新日本製鉄は、住友商事が出資するアメリカのアキュメントリックス製SOFCスタックを使って、出力10kW級の小規模発電設備を共同開発し、05年春には発売を開始する予定で、将来は工場や地域冷暖房用電力を賄う100kW級大規模システムまで手がけ、エンジニアリング事業の柱に育てる意向である。同社は03年7月末から八幡製鉄所の敷地内にアキュメントリスク製SOFCを設置し、LNGを燃料として実証試験を開始した。今後都市ガスや灯油なども使って国内で流通している燃料に最も適した仕様を固めることにしている。なお事業展開について、コンビニエンスストア1店分の電力を賄える10kW級モジュールを発売する時点では、価格を300万円/kWに設定し、住商と共同で商業施設や集合住宅、病院などに使える小規模電源として市場を開拓する意向のようである。
(日本経済新聞03年8月29日)

 
4.PEFCに関する開発研究
 東京大学工学系研究科の山口猛央助教授は、PEFCの材料設計に有用なモデル計算式を確立した。例えば、MEAは白金触媒微粒子を担持したカーボンをポリマーと混合し、それを塗布して作成されるが、これらの配合は目下のところ試行錯誤で行われている。カーボンの大きさ、担持白金量、ポリマーの厚みなどによってプロトン伝導性を理論的に制御しようとするのが計算式の目的である。DMFCではメタノールのクロスオーバーの抑制と高いプロトン伝導性の両立が難しく、その条件設定は課題の1つである。用途に応じた設計も、このモデル計算式を活用して行うことができると期待されている。
(日刊工業新聞03年8月6日)

 
5.FCV最前線
(1)トヨタ 
トヨタ自動車は、低公害技術について、中国の政府系機関“中国汽車技術研究センター”と共同研究を始める。研究内容は1)ハイブリッド技術など低公害技術導入のための実証試験と政策の研究、2)FCVやCNG車など自動車の石油代替エネルギーに関する研究の2つが柱となっている。7月31日に正式調印した。
(日本経済新聞03年8月6日)
 トヨタは8月22日、FCHVを愛知県庁、名古屋市、東邦ガス、東京ガス、新日本石油、岩谷産業へ計6台納車することになった。更に8月28日から東京都が運行を開始するFCバスを都に納車する。納車式は8月27日に予定。
(日本経済、日刊工業新聞8月15日、日刊自動車新聞8月16日、産経、電気新聞8月19日、読売、日本工業新聞、化学工業日報8月20日、日本経済、産経、日本工業、日刊工業、日刊自動車、電波新聞8月21日、化学工業日報8月22日)
 東京ガス、東邦ガス、新日本石油、岩谷産業の4社と愛知県と名古屋市が8月22日、トヨタのFCHVを一斉に導入し、各地で納車式を開催した。
(中日新聞03年8月22日、産経、電波、東京、中日、日刊自動車新聞8月23日、日経産業、日本工業、日刊工業、電気新聞、化学工業日報8月25日)
 トヨタ自動車は8月22日、FCHVを年内に5台追加販売する計画を明らかにした。これによりFCHVの販売台数は累計17台となる。新たな5台の内訳は中央官庁向けが1台、アメリカの大学や研究機関向けが4台である。
(中日新聞03年8月23日、日本工業新聞8月25日)

(2)中国
 中国の同済大学(上海)は上海汽車工業などと共同でFCV“超越1号”の開発に成功した。水素ボンベ搭載式で、蓄電池を併用、最長210kmの走行が可能である。試験走行では14秒以内に80km/hまで加速し、最高時速は110km/hに達した。車体は上海汽車工業が生産している“サンタナ2000”を改造したもので、後部に水素ボンベや制御装置、冷却水ボックスなどを搭載している。
(日経産業新聞03年8月8日)

(3)三菱自動車工業とDC
 三菱自動車工業とダイムラー・クライスラー(DC)は、FCVの開発や日本国内での走行試験を共同で展開する。ダイムラーとフォードなどが共同開発したFCVシステムを三菱車に搭載するとともに、ダイムラーが日本国内で行う走行試験に対しては三菱が全面的にバックアップする。日本は高温多湿であり、又都市部では渋滞が頻繁なため、自動車の電気系統に対する負担は重い。このような苛酷な走行環境においてもFCVがトラブル無く走行できるかどうか、DMは三菱と協力して検証する。
(日刊自動車新聞03年8月9日)

(4)GM
 GMはFCVなど駆動力に電気を使う自動車向けに、馬力をガソリン車なみに高める技術を開発した。これは両後輪に電動ホイールハブを組み込んだ動力機構で、エンジンから車軸を通して車輪に動力を伝達する方式に比べてエネルギー損失が少ないため、馬力を60%程度上げることができる。2010年頃の実用化を目指すとしている。電動ホイールはイタリアのルッキ・エレクトロメカニカが手がけ、クアンタム・テクノロジーを含めて3社でこの技術を開発した。
(日本経済新聞03年8月13日、日経産業新聞8月14日)

(5)ダイナックス
 オートマチック車用クラッチ板製造で国内最大手のダイナックス(千歳)は、東北大学大学院工学研究科と共同でPEFC用セパレータを開発したが、05年を目途にパイロットプラントを作り、他社よりも低価格で高品質の製品を製造して自動車メーカへの出荷を目指すことにした。大きさがA版程度の薄い板で、1枚数百円程度での出荷を考えている。同社は将来FCVの時代になれば、変速機は不要になり、クラッチ板の需要は激減するとみており、FC用セパレータの開発は自動車部品業界としての生き残り戦略である。
(北海道新聞03年8月24日)
 
6.自動車以外の移動体におけるFC動力源
 海洋科学技術センターは、8月11日、同センターの岸壁で、出力4kWのPEFCを搭載した深海巡航探査機“うらしま”のプロペラ駆動試験運転を行い、正常に動作することを確認した。PEFCについては、15年前から同センターの研究チームが研究を行ってきたが、水素貯蔵には水素吸蔵合金を使い、又生成された水を排水せずに自前で活用するなど、自動車用とは異なった独自のシステムを深海潜航用に開発した。同センターでは今後試験運転を繰り返して、05年中での実用化を目指している。“うらしま”は全長10m、空中重量約10トンの自律型無人探査機で、支援母艦上などに設置された制御室から、コンピュータプログラムによって自動航行することが可能である。これまではリチウム電池を動力源として、01年には3,518mの潜航試験、02年には132.5kmの航行に成功している。更に長距離航行を目指して、動力源をFCに換えることにした。
(朝日、産経、日刊工業、東京、神奈川新聞03年8月12日、日刊自動車新聞8月15日)
 海洋科学技術センターは、8月20日、MHI製完全密閉式PEFCを搭載した“うらしま”が、駿河湾で実施された水深300m、距離2.5kmの連続航行に成功したと発表した。
(読売、毎日、日本経済、日経産業、日本工業、日刊工業新聞8月21日、日本海事新聞、化学工業日報8月25日)
 三菱重工業は、同社が開発した完全閉鎖式PEFCを動力源とする“うらしま”が水中走行に成功したことを踏まえ、この技術を応用した他分野への事業展開を図る。
(化学工業日報03年8月29日)

 
7.家庭用FCの開発と事業展開
(1)DESSコンソシアム
 FCメーカや建設会社など27社は、家庭用FCを独自の送電線で連結し、余剰電力を融通し合う方法を開発するため、企業連合を結成した。結成されたのは、DESS(分散型エネルギーシステム・ソフトウエア)コンソシアムで、松下電器産業、三洋電機、大成建設、鹿島、積水ハウス、出光興産、丸紅などが参加、日本総合研究所が事務局を勤めている。企業連合は、各家庭がFCを個別に運用するよりは、複数で運用する方が効率的で普及しやすいとみており、送電ネットの構築方法を1年がかりで検討し、事業化を目指すことにしている。初めはマンションなど集合住宅での導入を考えており、幾つかの核となる設備をベースに、周辺地域に送電網を広げる構想である。これが実現すれば、電力会社に頼ることなく、信頼性の高いシステムを構築することも可能になると、企業連合では期待している。
(朝日新聞03年8月2日、電気新聞8月28日)

(2)東芝IFC
 東芝はアメリカのUTと共同開発しているFCのうち、出力1kW級の家庭用コージェネレーションシステムについては、東芝IFCで国内開発することを決定した。他方UTは乗用車やバス向けの大型製品、宇宙用など特殊用途のFCを開発する。
(日本経済新聞03年8月3日)

(3)東京ガス
 東京ガスは、04年からの販売を計画している家庭用PEFCコージェネシステムについて、荏原バラードグループ、松下電器産業と共同開発を開始したと発表した。開発機器の目標仕様および性能は、定格発電容量1kW、発電効率31%(HHV)以上、総合効率70%(HHV)以上、運転形態としてはDSSを想定している。04年度第四半期に販売開始、05年以降は上記2社以外のメーカとも協力し、次世代機の開発を進める予定。
(電気新聞03年8月4日、電波新聞8月6日)
 東京ガスは家庭用FC改質装置の耐久性を向上するため、ナノテクノロジーを用いて改良を加えることにし、04年度までに現在の8倍に相当する4万時間まで耐久性を引き上げることを目論んでいる。改良するのは触媒で、直径2〜3mmのセラミックスの球体表面に、直径数ナノないし数百ナノのルテニウムやニッケルなどの金属粒子をまぶした構造を考えている。酸化しにくい金属の組み合わせを選び、運転条件を最適化することにより耐久性を高める計画である。
(日経産業新聞03年8月18日)

(4)鈴与商事
 鈴与商事(静岡市)は8月25日、家庭用1kW級PEFCコージェネレーションシステムの試験運転を静岡市内の鈴与入江寮で開始した。燃料はLPガスで、メーカは新日本石油である。家庭環境に類似した使用条件で約1年間実施し、省エネ効果などを実証して05年での商品化を目指す。
(静岡新聞03年8月26日、日経産業新聞8月28日)

(5)日立
 日立製作所は、独自技術の内部改質装置を組み込んだ家庭用1kWPEFCシステム初号機を、NEFの実証プロジェクトへ提供した。従来の外部加熱方式の改質は、起動に1〜2時間を要するが、内部燃焼で水蒸気改質する内部改質方式は、容量がコンパクト(20L)になるとともに起動時間は15〜30分に短縮される。なお同社は電解膜やセパレータについても、大幅な低コスト化を目指して新しい材料を含めた開発研究を進めている。特に現在の黒鉛セパレータと比べて1/70の低コストを実現できる金属セパレータ(汎用金属に耐食金属をコーテイング)を開発中で、既にショートスタックで5,000時間の実証を終えており、今後家庭用1kW機にフル採用していく予定である。
(日刊工業新聞03年8月29日)

 
8.マイクロFCの開発と事業化計画
 三洋電機は、ノートパソコンや携帯電話用小型DMFCを開発し、05年までに製品化して国内外のメーカに売り込むことにした。東京製作所(群馬県大泉町)に専門の開発チームを設置した。大きさや価格は、リチウムイオン電池と同程度にする積りで、自社で生産する携帯電話に搭載するだけではなく、外販も手がける点において他社との戦略の差が認められる。
(日本経済新聞03年8月12日)

 
9.水素生成・貯蔵および供給技術
(1)東北大学金属材料研究所など
 福田金属箔粉工業(京都市)は、東北大学金属材料研究所所長の井上明久教授と共同で、パラジウムなど高価な金属の替わりに、安価なニッケルなどの合金を使った水素分離膜を開発した。これはニッケルとニオブ、ジルコニウムを主成分とする合金を溶かした後急冷して作られた金属ガラスで、幅5cm、厚さ30〜40μmに加工された薄膜である。水素中のCO濃度を1ppm以下に抑えられることを確認している。コストは1/10まで削減できると期待されている。
(日本経済新聞03年8月8日、京都新聞8月20日)
 東北大学金属材料研究所の折茂愼一助教授らのグループは、水素を放出させる温度を200℃程度と低い新タイプ水素貯蔵材料を開発した。水素を貯蔵する材料として、窒素の周囲に水素を房状に結合させたクラスター型の素材が使われており、合金系や炭素系などに比べて、重量比で3倍程度の水素を取り出すことができる。低温で水素を取り出すために、リチウム原子10個の内1個をマグネシウムに置き換えて電子の数を変える価電子制御と呼ばれる技術が用いられた。今後はより多くの水素を蓄積できるホウ素を使って効率を高めるための研究を、今後5年間続ける予定である。又豊田中央研究所と組んでFCV用水素貯蔵タンクとしての実用化を目指した開発を進める。
(日経産業新聞03年8月15日)

(2)日本製鋼所
 日本製鋼所広島製作所は、03年度から5年計画で、FCV向け水素ステーション用圧縮機の商用機開発に乗り出す。同社は2年前から水素用圧縮機の開発を始め、実験機では約10台納入した実績を持つが、商用機の供給能力は実験機のそれの5ないし10倍にまで高め、250m/hの供給量を目標としている。商用圧縮機は、高さ2m、幅1.5m、奥行き1mで、4つ並んだ筒状のシリンダー内を水素が通過する際にピストンが働き、段階的に圧力を高める仕組みになる模様である。
(中国新聞03年8月16日)

(3)岩谷産業
 岩谷産業は、FCVを運搬・保管できる専用トレーラーを03年内に導入し、全国各地でPR活動や実証試験などに利用する。約3,000万円で発注した専用トレーラーには、自社開発の水素充填装置を搭載しており、又消火器や水素漏れ検知装置なども備えているので、場所を選ばずにFCVを使えるようになる。
(日本経済新聞03年8月16日)

(4)クアンタム・テクノロジーズ
 GM系メーカのクアンタム・テクノロジーズは、2005年にも日本に進出、車載用高圧水素貯蔵タンクの工場を08年を目途に建設し、アジア向けの拠点としたい意向である。同社の社長兼CEOが日本経済新聞社に語ったところによれば、日本法人を設立し、経営責任者には日本人を起用、当初は技術者数人を配置する。クアンタムの主な顧客は、GM以外にオペル、トヨタ、スズキ、ヤマハ発動機、現代自動車などである。又クアンタムは03年4月に住友商事とアジア太平洋地域の総代理店契約を結んでおり、住商を通してホンダや日産自動車にも売り込みを掛けている。
(日本経済新聞03年8月18日、日経産業新聞8月20日)

(5)サムテック
 サムテック(大阪府柏原市)は最高充填圧力70MPaの超高圧水素貯蔵タンクの実用化に目途を付けた。アルミ板またはパイプを成形する薄肉ライナーに炭素繊維を被覆し、容器内に均一な内圧が掛かるよう設計を最適化した。アメリカの子会社サムテックインターナショナルによる航空宇宙産業用タンクの実績を生かして年内にも完成させる意向である。同社は既に35MPaタンク2基をNEDOの納入、又カワサキプレシジョンマシーナリー(神戸市)とアメリカで共同出願していたインナーバルブ一体型高安全タンクの特許も成立させている。
(日刊工業新聞03年8月19日)

(6)日本原子力研究所
 日本原子力研究所は、8月21日、原子炉の高温熱を利用して水を熱分解し水素を生成する技術開発において、35L/hの規模で、6.5時間にわたって水素を安定的に製造することに成功したと発表した。水の熱分解にはISプロセスが使われた。ISプロセスとは、原料水にI(ヨウ素)とS(硫黄)を反応させてヨウ化水素と硫酸を生成(ブンゼン反応)し、これを熱分解して水素と酸素を製造する技術である。05年度からは規模を更に大きくしたパイロットプラント試験へ発展させる意向である。実用化段階では、高温ガス炉(HTTR)と水素製造装置をヘリウム熱交換システムで結合し、HTTRの高温を利用する水素発生プラントとする。
(日本工業新聞03年8月22日、日刊自動車新聞、化学工業日報8月25日)

(7)若い研究者を育てる会
 富山県の企業による“若い研究者を育てる会”は、メタノール水溶液から電気分解により水素を改質生成する装置を開発した。従来の水蒸気改質に比べて、コストや変換効率はほぼ同じであるが、常温、常圧で水素が得られる。同会は小型DMFCを開発中で、これに使用している電解質膜をメタノール改質に活用した。常温での分解電圧は0.6V、1秒以内に改質ガスが得られ、膜が水素のみを透過するためCO除去装置が不必要、大きさがFCの1/2から1/3程度と小さく、又必要な電力量は水の電気分解に比較して約1/3と少ない点に特徴がある。携帯端末用マイクロFCの開発を目指している。
(日刊工業新聞03年8月25日)

(8)東ガスとMHI
 東京ガスと三菱重工業は共同で、都市ガス改質プロセスにおいて、特殊な膜で水素を分離・回収することにより、約80%の高い効率(エネルギー換算)で水素を精製する技術を開発した。水素透過膜は厚さ20μmの薄膜で、微小なパラジウムの触媒作用によって水素の分離効率を向上させている。FCV用水素供給装置への応用を目指しており、東ガスは東京都荒川区に持つ水素ステーションで9月から実証試験を行い、性能を確認する計画である。東ガスは関東にある約80ヶ所の天然ガスステーションを運営しており、今回の技術により、天然ガスステーションでの水素抽出が水素供給インフラとして役立てられると期待している。
(日本経済新聞03年8月29日)

 
10.水素安全利用技術
 金属系材料研究開発センター(JRCM)は、NEDOから水素安全利用技術等基盤技術開発を代表受託した。03年度から5年間のプロジェクトで、一連のFC関連技術開発の中でも特に材料物性の研究開発を中心に取り組み、共同研究には、新日本製鉄、住友金属工業、愛知製鋼の鉄鋼3社の他、高圧ガス保安協会、産総研、物質・材料研究機構、九州大学などが参加する。プロジェクトの主要な目的は、1)水素の安全確認、2)水素利用技術の高効率化・低コスト化、3)水素利用実用化のための基盤整備、に置かれているが、水素の貯蔵、運搬に関する法規制の見直しと、規制緩和に伴う法整備を進めるために、実証試験によるデータ分析などが含まれる。材料としては、水素脆性に対して耐久性が強いオーステナイト系ステンレスが有力と見られているが、先ずは既存の材料を一定の条件下で使用する実証実験を行い、それによって新しい材料を開発する方向に向かうかも知れない。
(鉄鋼新聞03年8月13日)

 
 ―― This edition is made up as of August 29 , 2003. ――


・A POSTER COLUMN
マツダが水素ロータリー車の開発をスタート
 マツダは水素ロータリーエンジンを開発することにした。通常のエンジンで水素を使うよりも高い燃焼効率を期待できる一方、FCVに比べるとコストを低く抑えられる。10月の東京モータショウに出品し、5年後には実用化したいと考えている。開発するのはスポーツカー“RX−8”をベースとした車両で、出力は約150馬力、1回の燃料補給で200km前後の走行距離を実現する見込みである。マツダは1990年代に水素ロータリーエンジン車の開発を行ったが、水素供給インフラが不十分のために中断していた。
 水素はガソリンよりも引火しやすいので、同じ燃焼室で吸気と燃焼、排気を繰り返す通常のエンジンでは、適正な位置よりも前に点火し、出力低下を招く異常燃焼を起こしやすい。ロータリーエンジンは、吸気、燃焼、排気の場所が異なるので、異常燃焼はほとんど起きないという長所がある。他方、FCVは1台当たりの生産コストが2〜3億円といわれているが、水素ロータリーエンジン車のコストは300〜400万円と予想されている。
(日本経済新聞03年8月13日)

カリフォルニア州排ガス規制訴訟を取り下げ
 GM、ダイムラー・クライスラー、いすゞ自動車は、アメリカ・カリフォルニア州が制定した2001年排ガス規制基準を巡り同州を訴えていたが、州政府が03年に新たな規制基準を作ったため、訴訟を取り下げると発表した。
(読売、日本経済新聞03年8月13日、産経、日刊工業新聞8月14日)

荏原が大学向けにFCスタックを割引販売
 荏原はバラード製出力1.2kWPEFCスタック“ネクサ”を、大学の研究者向け研究用に80万円の価格で発売する。荏原バラードは03年3月、一般向けとしては初めて、非常用電源向けのシステムを発売した。制御装置、電力変換器、バッテリーを含めたシステム価格は250万円であった。
(日本経済新聞03年8月15日)

長尺のカーボンナノチューブを高密度に生成する新技術
 大阪大学の尾浦憲次郎教授と高知工科大学の平尾孝教授等の研究グループは、基板上に長尺のカーボンナノチューブを高密度で形成することができる製造法を開発した。従来のCVD製膜技術を応用したもので、熱を使う熱CVDとプラズマ放電を使うプラズマCVDを組み合わせた。製造装置内に触媒金属をつけた基板を入れ、メタンガスなどを充填、700℃に熱してからプラズマ放電させると、基板と垂直方向にナノチューブが合成されていく。長いナノチューブを作る熱CVDとナノチューブの向きを制御できるプラズマCVDの長所を組み合わせた点に特徴がある。同技術で製造できるナノチューブは、10億本/cm2の密度で長さが50〜100μmに達する。従来は同じ密度だと長さ2μmが限界だった。又基板上の触媒金属の大きさを変えることによって、ナノチューブの直径を5〜10nmの精度で制御することができる。ナノチューブはチューブの筒の中や筒と筒との間に陽イオンや陰イオンを吸着して電気を蓄えることができる。したがって、FCV用キャパシターとして応用できると期待される。
(日経産業新聞03年8月21日)
 他方、大阪府立大学と太陽東洋酸素などの産学官チームは、ブラシ状カーボンナノチューブ(CNT)を高速生産する技術を開発した。ブラシ状CNTは、シリコンやガラスの基板にCNTを高密度で垂直に配置した構造で、反応容器に触媒を付着させた基板を入れ、それに炭素を含む原料ガスを供給してCNTを成長させる。50μmの長さにまでわずか1秒で成長、大阪府立大学の中山喜萬教授らは、4秒で100μmのCNTを作ることに成功した。CNT生産法として広く普及する可能性があり、実用化を急ぐ。これは科学技術振興事業団のプロジェクトで、大阪府立産業技術研究所や日新電機なども参加している。
(日経産業新聞03年8月26日)

家庭用PEFCの市場と普及規模に関する調査
 電力中央研究所は、各種分散型電源の普及規模に関する分析結果を纏めた。それによると、家庭用PEFCコージェネレーションシステムの本格的な普及は、機器価格や年間経費の割高さが影響して、2020年以降になる模様。他方業務用ガスタービンについては、一部の利用者による先導的な導入で価格低下が期待され、07年頃から一般的な普及が進むと分析している。電中研の分析結果は、民生用小型分散型電源の経済性が利用者の購入判断に与える影響は大きく、普及には補助金の設定など政策が必要であり、又PEFCの普及にはガス料金の一層の低下が不可欠なことも指摘している。
 20年度までの各種機器の普及過程を分析し、機器の効率や燃料の価格が普及に与える影響の検証では、蓄熱式空調(業務用)と自然冷媒給湯器(家庭用)が急速に普及し、自然冷媒給湯器の普及規模は、20年度で909万kWに達する。マイクロガスタービンについては、ガスのパッケージ料金38円/m3の効果により普及が進むが、07年頃の普及規模は約177万kWで、蓄熱式空調の349万kWに比べて半分程度にしかならない。PEFCに関しては、業務用と同様に家庭用も38円程度の料金設定が必要であり、この場合20年には330万kW程度まで拡大する。もし料金コストの低減が無ければ、普及規模は88万kWレベルにしかならないであろう。
(電気新聞03年8月26日)

FCVへの水素供給は石油産業が主役
 石油活性化センターは、石油業界が製造する水素で、当面のFCV向け水素需要を賄うことは可能で、コスト面でも鉄鋼製造工程の副産物としてできる水素よりも競争力があるとの報告書を纏めた。FCVが普及すれば、ガソリンの需要は落ち込むが、水素の製造、輸送、供給までインフラを持つ石油業界は、自動車用燃料の主導権を握れるとの見通しを示したものと云えよう。石油業界は、石油を脱硫するための水素製造装置を持ち、2020年にはFCV向けに35億m3の水素供給余力を保持することになる。石油コンビナート内にある石油化学、アンモニア業界などの余力を合わせると、それは72億m3にも達すると予想される。500万台にまでFCVが普及したとしても、水素の需要量は37.5億〜61.7億m3程度と予測されている。製造コストについては、最低で11.1円/m3、高圧水素としてFCVに供給する場合には、輸送経費などを含めて87円/m3になると積算している。他方鉄鋼業界からの水素供給能力は48億mあるが、純度を高める工程が必要なため、製造コストは最低で16.3円/m3、輸送コストを含めると92.2円/m3になって、石油業界よりも割高になることが分かる。
(日本経済新聞03年9月28日、日経産業新聞8月29日)