第86号 スクーター用動力源としてDMFCが注目

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2. 地方公共団体による施策
3.PEFCの技術開発・実証試験と市場展開
4.DMFCの開発研究
5.FCVおよび移動体用FCの開発最前線
6.水素ステーションの開発と設置
7.住宅用FCの実証研究
8.情報端末用マイクロ燃料電池の開発
9.改質および水素生成技術
10.水素の輸送・貯蔵技術の開発
11.FC計測・評価装置の事業展開
・A POSTER COLUMN

1.国家的施策
(1)環境省
 環境省は、地方自治体を対象として03年度から3ヵ年事業として実施するFCV啓発推進事業用に、ホンダFCXを導入することを決定した。ホンダFCXは7月9日に納車された。本事業は、地方自治体と協力して、FCVの様々な利用形態によるデータを収集し、需要サイドに立った有効かつ効率的な活用方法について検討・調査するとともに、地域社会に対する啓発推進を目的とするもので、03年度は400自治体程度を選定する方針である。
(朝日、日本工業新聞、化学工業日報03年7月8日、日刊自動車新聞7月10日、電気新聞7月25日)

(2)経済産業省・資源エネルギー庁
 資源エネルギー庁が支援するプロジェクトJHFCは、FCVを含む多様な自動車の総合効率(Well-to-Wheel Efficiency)を推定する取り組みを始めた。効率のみならず、CO2の排出量についても総合で検証する。試算は現時点のほか、インフラや車両の技術進歩を織り込み、10年以降の幾つかの時点での推定も行う予定で、標準的な試算システムの確立につなげる方針である。
(日刊自動車新聞03年7月15日)
 経済産業省が5年間で約26億円を補助する“製鉄プロセスガス利用水素製造技術開発”の中間評価検討会が7月15日に開かれ、「研究開発はほぼ予定通りで中間目標もほぼ達成した」と評価、「2011年以降の実用化が見込まれる」との見通しが示された。03年夏以降、ベンチプラントの試験に入る。金属系材料研究開発センター(JRCM)が実施主体で、新日鉄、JFEスチール、京都大学、帝国石油などが参画している。
(日刊自動車新聞03年7月16日)

(3)NEDO
 NEDOは、太陽光発電やFCなどの新エネルギー技術を最適に組み合わせ、地域内で安定した発電やコージェネレーションを行う実験事業の委託先3件を決定した。1つは愛知県瀬戸市と常滑市で行う05年日本国際博覧会・中部臨空都市での新エネルギー地域集中実証研究、第2は八戸市でのプロジェクトで同市、青森県、三菱総研、三菱電機が参加、第3は京都エコエネルギープロジェクトで、富士電機、アミタ、日新電機、京都府などが京都府弥栄町で実施する。
(日刊工業、日本工業、電気新聞、化学工業日報03年7月11日)

(4)NEF
 新エネルギー団体(NEF)は、住宅用PEFCシステムの実証試験を、03年度は札幌、名古屋、大阪、広島、福岡の各市を始め全国31ヶ所で実施すると発表した。
(東京新聞03年7月22日)

 
2.地方公共団体による施策
(1)東京都
 東京都は、都立多摩動物園公園(日野市)で、動物の糞尿からメタンガスを生成し、それを園内施設の熱源やFC用燃料として活用する事業に取り組む。動物糞尿のバイオマスエネルギー利用は、1996年に京都府八木町で始まったのを皮切りに各地に広がっているが、動物園での利用は今までに例はない。
(東京新聞03年7月21日)

(2)つくば市
 つくば市は05年開通予定のつくばエキスプレス沿線沿いに400戸以上のFCコージェネレーション住宅を建設、日本一の普及率を目指す構造改革特区計画(つくば市新エネルギー特区)を政府に提出した。2010年までに100億円の経済効果を見込む。
(日経産業新聞03年7月22日)

 
3.PEFCの技術開発・実証実験と市場展開
(1)クボタ
 クボタはFC事業への参入を見送ることになり、GE子会社との販売提携を解消、製品開発も中止する。同社は2000年同社が出資するプラグ・パワー社製FCの国内販売権を得て、5kWPEFC実証機2台を納入、又01年には共同開発に着手していたが、これらの事業を中止することになった。
(日本経済新聞03年7月5日)

(2)出光興産
 出光興産は、7月7日、市販灯油を燃料とするPEFCシステムの実証実験を、7月下旬から同社子会社の京葉アポロ姉ヶ崎給油所で開始すると発表した。同社は高性能・長寿命の灯油用脱硫剤と改質触媒を用いることにより灯油改質に関連する難しい課題を解決した。実証試験で用いるシステムは、定格出力5kW、大きさは幅1.8m、奥行き0.7m、高さ1.65m、排熱回収温度は60℃、貯湯槽の容積は200Lと発表されている。
(毎日、日本経済、産経、日経産業、日本工業、日刊工業新聞、化学工業日報03年7月8日、電気新聞7月9日)

(3)東大 
 東京大学工学研究科の山口猛央助教授は、PEFC用MEAで、有効に作用する白金触媒量を2倍に高める技術の開発に成功した。通常は白金担持カーボン凝集体(数十nm)の周囲をポリマーが覆っているが、ポリマー分子が大きくて凝集体の10nm程度の内側空間に入り込めないため、内側にある白金微粒子(数nm)はポリマーに接触できなかった。本研究では、モノマー分子なら0.5nm程度の大きさで、凝集体内側に入り込めると判断し、市販の白金担持カーボンとモノマー液を合わせて開始剤を加え、カーボン表面からポリマー重合が起こって枝が伸びるように工夫した。すなわち、カーボン表面からグラフト重合し、ナノオーダーで制御することにより、反応に無関係であった凝集体内側の白金粒子もポリマーと接触するようになったわけである。この製法で作られたMEAを使ってFCの性能を計測した結果、白金触媒の利用率は倍以上になったと推定された。
(日刊工業新聞03年7月17日)

(4)蒲田製作所
 蒲田製作所は、セルを構成するアノード、カソード、電解質薄膜を手作業で形成できる塗布装置の開発に目途をつけた。薄膜のベースになるフィルムに、ニッケルなどのスラリーを複数回塗布して、酸素や水素ガスが通る溝を形成する。溝の経路に合わせてスラリーを転写するために動かすスキージの角度や圧力を調節できる機構を開発、手動でも押圧を一定に保ち、スラリーを均一に塗布できるようにした。印刷用フィルムパンチャーの製造で培った位置決め技術を応用した成果である。
(日刊工業新聞03年7月18日)

(5)デユポン
 デユポンは、PEFC用バイポーラプレートに熱硬化性に替えて熱可塑性樹脂を採用することにより、その大きさや重量を半減する技術に目途をつけたと発表した。従来の素材よりも加工しやすく、小型軽量化が可能になる。熱硬化性樹脂は耐熱性では優れるが、小型化が難しく、製造工程で内部にイオンが残り、長く使っているうちにそれが溶出することも課題として指摘されていた。分子設計や製造方法などを工夫してA4サイズの試作品を作り、サンプル出荷を始めた。
(日経産業新聞03年7月22日)

(6)日本電池と旭化成
 日本電池は電極触媒の白金量を従来の1/10である0.2〜0.4g/kWにまで下げた設計で出力1kW級PEFCを製作、600時間発電運転を行った。その結果触媒の劣化は少なく、むしろ回復する場合もあるというデータが得られた。この場合白金は2nmの原子状態でカーボンと結合し、高分子膜の中へ少し入り込ませた状態で担持されている。初期運転ではカソード側の劣化率は10%程度に留まり、しかもその後劣化が回復してくることが判明、又アノード側は途中から劣化が15%回復した。これは、白金が原子状で固定化されているため、運転の過程で白金が成長し、触媒としての働きを高めたためと同社では解釈している。
 旭化成は100℃に耐える高分子膜を開発した。フッ素系膜の化学構造を変え、フッ素樹脂にスルフォン酸が付いている結合を強くした。06年にはPEFCシステムで実証する計画である。
(日刊工業新聞03年7月22日)
(7)中部TLO
 中部TLOは、名古屋工業大学工学研究科の春田敏宏助教授が開発したリン酸塩ガラスを用いたFC用電解質膜の製造技術をテクノ螺子工業に移転、実用化研究を始めたと発表した。この技術はリン酸塩ガラスをハイドロゲル化する技術を用いており、従来のPEFC膜より水素イオン導電性に優れるとともに、ゲル状なので成形性にも優れ、薄膜化、大型化が容易である。又製造コストも大幅に低減出来ると期待されている。これまでの実験で、作動温度範囲が−20〜130℃において、0.4W/cm2の出力密度が得られている。
(日刊工業新聞03年7月25日)

 
4.DMFCの開発研究
(1)ヤマハ発動機
 ヤマハ発動機は7月2日、2輪車やスクーターの動力源としての適用を目的として、軽量小型のDMFCを開発したと発表した。4輪車用PEFCに比べて効率は劣るが、小型にできるため2輪車にはDMFCが適していると同社は語っている。出力500W程度のDMFCを50cc原付スクーターに搭載、テスト車による走行実験を行っているが、最高速度40km/hを実現、1充電当たり走行距離は200kmに達している。課題は重量とコストの低下であるが、重量については現在20kgあるシステムを半減させることを目標としている。コストについて、同社は「現在の技術で1台1,000万円はかかる」と述べている。
(読売、朝日、産経、日本経済、日経産業、日刊工業、日本工業、東京、中日、静岡、日刊自動車新聞03年7月3日)
 ヤマハ発動機はYUASAと排気量50cc級スクーター用DMFCを共同開発することにした。YUASAはヤマハに対してスタックを供給、ヤマハが走行試験で性能を評価し、その結果をベースにYUASAはスタックを改良する。
(日本経済新聞03年7月17日)

(2)アメリカ・デユポン
 デユポンは、DMFC用イオン交換膜で、メタノールの透過(メタノールクロスオーバー)を従来の膜に比べて60%低減できる素材の試作に成功した。膜の組成を改良した結果、膜厚が175μmのタイプで約60%、125μmのタイプで約40%低減した。これとは別に、イオン交換膜と触媒、電極、ガスバリアー層を複合した部品の開発にも成功した。
(日本工業新聞03年7月11日)

 
5.FCVおよび移動体用FCの開発最前線
(1)日野自動車
 日野自動車は、FCVとハイブリッド技術開発を効率化するため、6月27日付で“HV・FC開発部”を新設する組織改正をすると発表した。
(日刊自動車新聞03年6月28日)

(2)ホンダ
 ホンダは7月9日に環境省へ、又7月15日には岩谷産業へ、FCV“FCX”を納車する。
(日刊工業新聞03年7月1日、化学工業日報7月8日、読売新聞7月11日)
 ホンダは、7月15日、岩谷産業にFCXを納車、有明水素ステーションで納車式を開いた。リース料金は月額80万円、期間は12ヶ月である。ホンダの大久保専務は、この2、3年で、日本で10台、アメリカで20台の販売を目指す意向を示した。
(朝日、毎日、日本経済、日経産業、日本工業、日刊工業、東京、産経、日刊自動車新聞、化学工業日報03年7月16日)

(3)トヨタ
 トヨタ自動車は、水素漏れが原因で自主回収していた官庁向けFCV4台について、7月4日に再納入すると発表した。燃料の注入口に使う樹脂部品を取り替えた。アメリカ向けの2台、愛知県、名古屋市などの自治体や、東京ガス、東邦ガスなどの企業に納入予定であった6台は、8月中を目途に納入する予定である。
(読売、日本経済、日経産業、日刊工業、中日新聞03年7月4日、日本工業新聞7月7日)
 05年に愛知県で開かれる“愛・地球博”で、来場者の輸送手段として、トヨタと日野自動車が共同開発したFCバス“FCHV−BUS2”(定員60名)の改良型を導入する。車両台数は8台程度で、瀬戸会場と長久手会場の間を6〜8分程の間隔で運行させる計画である。
(日経産業、日本工業、日刊工業、東京、中日、日刊自動車新聞03年7月9日)

(4)GM
 GM製FCV“ハイドロジェン3”が東京都内を営業走行した。アメリカのフェデラル・エクスプレスが同FCVを使って週5日都内で集配作業を行い、今後1年間で燃費、渋滞時の走行状態、耐久性能などのデータを収集、実用化に向けての準備を進める。燃料は液体水素で、1回の充填量68Lで約400kmの走行が可能である。
(読売、日本経済新聞03年7月9日、産経、日経産業、日刊工業、日刊自動車、日本海事新聞、化学工業日報7月10日)

(5)CaFCP
 アメリカでのFCV走行実証試験は、04年から更に4年間、継続して実証運転を続けることになった。これまでのサクラメント周辺からロスアンジェルスを拠点に、範囲を南カリフォルニアに拡大する。
(日刊工業新聞03年7月15日)

(6)近畿車輛
 近畿車輛は、7月15日、FCを利用した鉄道車両の研究・開発に着手したと発表した。1/8サイズの模型車両を試作した。先頭車にFCを搭載、最後尾車の屋上に太陽電池を搭載、バッテリーを組み込んでいる。
(日本経済新聞03年7月15日、日経産業、日刊工業新聞7月16日)

(7)長瀬産業
 カナダのパルカンFCは同社製FCシステムの日本での販売について、長瀬産業と提携した。スクーター向け出力100W〜5kW小型PEFCを長瀬産業が国内販売する。燃料の水素は水素吸蔵合金に蓄えられ、1回の水素充填で走行できる距離は約30程度である。市販のスクーターや自転車に比較的簡単にシステムを取り付けることができる。長瀬産業では、一般道路を走行する乗り物向けではなく、遊園地やゴルフカート、限られたスペース内でのデリバリー用などに需要があるとみている。他方パルカン社は、上海で現地メーカと共同で、一般道路を走行するスクーターの生産に乗り出す計画を進めている。
(電気新聞03年7月23日)

 
6.水素ステーションの開発と設置
(1)エン振協
 エンジニアリング振興協会は、03年度に新たに3ヶ所の水素ステーションを首都圏地区に新設する。それらは、相模原;移動式アルカリ水電解型(栗田、シナネン、伊藤忠エネクス)、泰野;灯油改質型(出光興産)、青梅;移動式都市ガス改質型(バブコック日立)の3ステーションである。
(鉄鋼新聞03年7月16日)
(2)岩谷産業
 岩谷産業は、従来型に比べて約30%軽量化する一方で、充填能力を倍増させた小型移動式水素充填装置を開発した。移動式によって全国どこでも水素を充填できる環境を整える。新装置は400気圧の水素ガス50Lが入っているボンベを12本積載しており、FCV2台を満タンにする能力を持つ。重量は約2トン、荷台が昇降するトラックなどで積み下ろしが可能である。当面は子会社の岩谷瓦斯(大阪)が持つ全国8ヶ所の主要工場で保管する予定。
(日経産業新聞03年7月17日)

 
7.住宅用FCの実証研究
(1)NEF
 NEFは、7月14日、住宅用FCの実証試験を今年度は札幌、石狩、苫小牧、室蘭の道内4市や宮城県富屋町など寒冷地を中心に、全国31ヶ所で行うと発表した。FCを提供する企業は、従来の6社にMHI、IHI、栗田工業、日立ホーム・アンド・ライフ・ソリュウション(H&LS)、丸紅の5社が新たに加わった。出力は1kW級と5kW級の2タイプで、一般家庭やコンビニエンスストアなど小規模店舗に設置する。IHIは都市ガスと灯油、丸紅は都市ガスとプロパンガス、栗田工業、MHI、日立H&LSは都市ガスを燃料とする機種を提供する。又新日本石油は、ナフサ、LPG、灯油の3種類の燃料を使ったPEFCを提供する。
(日本経済、日経産業、日本工業、日刊工業、北海道新聞03年7月15日、電気、日本工業、新聞、化学工業日報、河北新報7月16日)

(2)都市基盤整備公団
 東京ガス、積水化学工業など8社は、04年始めにも東京都内、大阪で4プロジェクトの住宅用FC実証試験に乗り出す。都市基盤整備公団も04年に完成する都内と大阪の2ヶ所の集合住宅で実証試験を進める計画である。建築環境・省エネルギー機構は、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、西部ガスなどガス会社6社と大和ハウス工業など住宅メーカ2社に学識経験者を加えた“住宅用FC実用化総合研究委員会”を設置、04年始めから都内、大阪の4ヶ所の戸建住宅で実証試験を始める。
(日本工業新聞03年7月18日)

(3)東京ガス
 東京ガスは、家庭用PEFCシステムについて、機器メーカと提携して実証運転試験を行っており、04年秋には市場化する方針である。試験場所と提携メーカは、さいたま市(松下電器産業)、横浜市(荏原バラード)である。
(住宅新報03年8月1日)

 
8.情報端末用マイクロ燃料電池の開発
 NECは、ナノテクノロジーを使って、パソコンを屋外で40時間連続使用を可能にするノートパソコン内臓型マイクロFCの技術を開発した。6月30日に試作品を公表、2年以内に製品化する。試作品では燃料に濃度10%のメタノール300mmL使用した場合、動作時間は約5時間である。1日8時間で5日間の使用が出来るよう、研究開発を進めている。試作したマイクロFCの重量は900g(内メタノール燃料300g)、サイズは288×261×40mm、パソコンを含めた全重量は2kg、平均出力14W、駆動電圧12Vで、05年にはFCを内蔵したノートパソコンを発売する予定である。電極に直径2〜3nmの突起を持つナノホーンを採用し、これに白金触媒を付着させることにより、出力密度40mW/cmの出力密度を実現した。
(日本経済新聞03年6月29日、読売、朝日、毎日、産経、電気、日経産業、日刊工業、東京新聞、化学工業日報7月1日)
 NECは、マイクロFCの電極などに使うカーボンナノホーンの量産技術を確立、コストをリチウム電池並みの1万円以下に抑える目途をつけた。1時間当たり数グラムであった生産量は既に50gに達しているが、生産設備を改良して03年内には100gにまで引き上げる計画である。この量産技術は、レーザー光線で炭素を加熱して蒸発させ、これを高温のガス中で凝集させてカーボンナノホーンを作る方式であるが、温度管理を含めてこれらの工程を自動化した。電池外販も検討している。
(日本経済新聞03年7月10日)

 
9.改質および水素生成技術
(1)ウインスコンシン大学
 アメリカ・ウインスコンシン大学マデイソン校の研究チームは、植物などの生物資源を原料に水素を効率的に取り出すための、ニッケルとスズからできた安価な触媒を開発した。ブドウ糖などを原料に、この触媒により225℃において水素を生成することができる。
(日経産業新聞03年7月2日)

(2)日本製鋼所
 日本製鋼所は、アイスランドの地熱発電ベンチャー企業・ヴアルマラフ社に出資、地熱発電の電気で製造した水素を水素吸蔵合金に貯蔵し、必要なときにFCで発電するシステムを共同開発する。送電網のない場所での独立電源、例えば別荘地向けの独立電源、として普及を図る他、水素ステーションの開発も進め、アイスランドを足がかりに欧州市場への展開を図る計画である。05年での商品化を目指す。なおヴア社は熱電素子を使って地熱を電力に変換する装置を開発するベンチャー企業である。
(日経産業新聞03年7月7日)

(3)出光興産
 出光興産は、神奈川県秦野市内では灯油改質でのオンサイト型水素ステーションを04年4月の完成予定で建設を始めている。灯油は化石燃料の中で最も経済的であるが、改質は最も難しいとされている。脱硫ではニッケル系触媒を採用、これまでの運転で4000時間の耐久性をクリアし、脱硫剤の耐久性では5000時間弱まで到達してきている。
(日刊工業新聞03年7月23日、産経、東京、日本工業新聞7月24日)

(4)RITE・シャープ
 RITEはシャープと共同で、バイオ技術を用いて水素を連続生成する装置をRITE内に完成、安定したバイオ水素製造技術を確立することを目的に、8月から実証運転に入る。バイオ製造技術とは、遺伝子組み換え菌体を使い、常温常圧で有機化合物が持つプロトンから大量の水素を取り出す技術である。既にバッチ式で有効性が確認されたので、連続製造を目指すことにしている。シャープは共同開発の成果を家庭用やコンビニなどの業務用FCに応用することを目指しており、3年以内にもRITEと共同で1〜数kW規模でFCによる実証を行う意向である。
(日刊工業新聞03年7月25日)

 
10.水素の輸送・貯蔵技術の開発
(1)広島大学
 広島大学自然科学研究支援センターの藤井博信教授と市川貴之助手のグループは、リチウムアミドと水素化リチウムを10気圧の水素ガス中で混合することにより、150℃の温度で材料自体の重量の約6%に相当する水素が取り込まれ、更に水素を再放出できることを発見した。7月13日からアメリカ・メーン州で開かれる国際会議で発表する。
(朝日新聞03年7月7日、中国新聞7月8日)

(2)西部ガスと九州大学等
 西部ガスは九州大学、豊田自動織機と共同で最高充填圧力70MPaの水素タンクを開発するプロジェクト“炭素繊維強化超高圧水素タンク”に着手した。水素タンク全体に均一に内圧が加わるような巻き方で、タンクに炭素繊維を巻きつける。03年度中に技術を確立し、04年度から操作性や運用などの面を含めて実用化を検討する。
(日刊工業新聞03年7月8日)

(3)JFEコンテイナー
 JFEコンテイナー(伊丹市)は、03年度中に高圧水素ガスを大量に陸上輸送できるコンテナを国内の水素メーカと共同開発し、1〜2台を水素ステーションへの水素供給用に発売・リースする。同社が国内で独占販売しているコンテナは、カナダ・ダインテック製容器16本を4×4本に重ねて鋼製のラックに収納した製品である。コンテナの最大の特徴は軽いことで、ダインテック製の容器は、長さ1m、太さ15cm程度の円柱であるが、素材にアルミニウム合金とカーボン繊維を使っているので、コンテナの重さは1.5トン程度に収まっている。道路交通法では車両の総重量の上限が25トンと決められているので、コンテナが軽量であるほどより多くの水素を運ぶことができる。
(電気新聞03年7月9日)

(4)東北大金材研
 東北大学金属材料研究所の折茂慎一助教授らのグループは、“クラスター型”と呼ばれる特殊な水素の貯蔵材料を開発した。水素を放出させる温度は200℃程度、FCV向けに実用化を目指す。
(日本経済新聞03年7月23日)

 
11.FC計測・評価装置の事業展開
 東陽テクニカはFC評価事業を強化するため、営業担当者と技術者を合わせた人数を、従来の5人から14人に増員、これまで扱ってきたアメリカ・スクリブナーなどからの輸入品に加えて、03年秋からは自社製品の発売を手がける。又03年秋には出力5kWFC、04年1月には10kWFCに対応した製品を発売する予定である。
(日経産業新聞03年7月8日)

 
 ―― This edition is made up as of August 1 , 2003. ――


・A POSTER COLUMN
FC投資ファンド
 アメリカのボーイングは三菱商事、ロイヤル・ダッチ・シェルなど6社が出資するFC投資ファンド“クリサリックス・エナジー”への出資を決めた。クリサックスはバラード・パワー・システムズ、デユーク・エナジー、シェルの3社によって2001年7月に設立された。出資を通じて最先端の技術情報を入手し、FCの航空、宇宙分野への応用を目指す。
(日経産業新聞03年6月30日)

水素燃料供給容量
 岩谷産業の建元章ガス技術部部長は「2020年にFCVが500万台普及したとしても、化学や製鉄の工程で発生する副生水素で燃料を十分賄える」と語った。既存設備で供給できる水素は年間83億mとみており、FCV500万台分の必要量40〜45億mを上回っている。
(日経産業新聞03年7月3日)

天然ガス自動車の普及
 日本ガス協会は、7月17日、天然ガス自動車の普及台数が10,372台になり、天然ガススタンドは148ヶ所に増えたと発表した。
(毎日新聞03年7月7日)

愛知万博での新エネルギーシステム
 05年に開始される“愛・地球博”で、愛知県、中部電力、トヨタ自動車、日本ガイシ、MHI,NTTファシリテイーズ、京セラ、日本環境技研、博覧会協会の9企業、団体が新エネルギーを組み合わせた電源需給システムを導入する。太陽光発電(300kW)、MCFC、NAS電池、生ごみや木質チップからのメタン発酵などを組み合わせ、状況に応じて制御しながら電力を安定的に供給、発電出力としては1,500kW以上を見込んでいる。会期中博覧会協会管理施設と政府館で使う電力の50%を供給する。NEDOの委託事業で総事業費は86億円。博覧会終了後は、中部臨空都市にシステムを委譲し、実証研究を継続する。
(日本経済、日経産業、京都、中日新聞03年7月10日、電気、日本工業新聞7月11日)

家庭用FCの導入によるCO排出削減効果
 電力中央研究所は、家庭用PEFC導入がCO排出量に与える効果について分析した。それによると、電力会社が所有する系統側電源の種類によって、減少するCO排出量に大きな差が生じる他、PEFCの運転パターンや排熱利用を含めた総合効率もCO削減量に大きく影響するなど、外部条件によってPEFCの導入が必ずしも有効でないことが判明した。明らかに家庭用PEFCの導入によってCO排出が大きく削減されるケースは、PEFCの効率が高く、原子力の導入が進まない場合である。しかし、PEFCの効率が高くなく、エネ特会の税率変更による燃料シフトによって、最新鋭のLNG複合火力が多く導入されるようなケースでは、COの排出はほとんど削減されなかった。PEFCの効率が向上した場合と、そうでない場合を比較すると、COの削減に大きな違いが見られ、PEFCの導入を効果的になるための条件として、発電効率は35%、総合効率が70%の水準が必要であると述べている。
(電気新聞03年7月10日)

コロナ社の新エネルギーセンター
 コロナ(三条市)はFCコージェネレーションシステムの開発と、自然冷媒を利用した電気給湯器“エコキュート”の性能向上を目的とした“新エネルギー研究センター”を本社敷地内に建設するための工事に着工した。10月中旬に完成予定で、完成後すぐに稼動させる。
(新潟日報03年7月11日)

YUASAと日本電池が統合
 自動車・産業用バッテリーで世界4位のYUASAと、同6位の日本電池は、04年4月を目途に持ち株会社方式で経営統合すると発表した。持ち株会社名は“ジーエス・ユアサコーポレーション”で、04年4月に上場の予定。
(朝日、日本経済、電波新聞03年7月12日、日刊自動車新聞7月15日)

次世代低公害車の燃料
 経済産業省の“次世代低公害車の燃料および技術の方向性に関する検討会”は、その報告書において、デイーゼルバス・トラック用燃料に関して、GTL、バイオデイーゼル、CNGが最も有望な新燃料であると述べている。DMEについては、航続距離が不十分、高速高負荷域の性能が軽油に比べて低い、2010年までに燃料インフラを構築することが困難、などの理由により普及は困難と看做し、FCV用燃料の選択については、試行期間では水素タンク搭載型、移行期には化石燃料車上改質型、将来的には再生可能エネルギーから製造される水素利用が主流になると推定している。
(化学工業日報03年7月23日)