第85号 大ガスは家庭用PEFC開発で4社と契約

Arranged by T. HOMMA
1.国家機関による施策
2. 地方自治体による施策
3.海外政府機関による施策および国際的活動
4.MCFCの開発と市場展開
5.SOFCの開発
6.PEFCの研究開発と事業展開
7.家庭用PEFCの開発と事業展開
8.FCV最前線
9.水素供給ステーションの建設
10.マイクロFC関連技術開発
11.燃料改質および水素生成技術の研究開発
12.水素の貯蔵技術の開発
13.FC関連技術と保守管理業務
・A POSTER COLUMN

1.国家機関による施策
(1)文科省
 文部科学省は03年度から、次世代FCの開発に取り組むため、PEFCに使われる素材を見直し、低コスト・高性能化などを目指した研究開発を進め、そのために10億円の予算を支出する。プロジェクトの中心は山梨大学クリーンエネルギーセンターで、トヨタ自動車や旭化成など民間企業との共同で研究体制を固めることにしている。具体的には電解質膜の耐熱性を100℃まで高めるため、フッ素系素材に替えて炭化水素系素材の研究開発などが挙げられている。
(電気新聞03年6月5日)

(2)経産省・資エネ庁・NEDO
 資源エネルギー庁は、DME燃料の利用機器開発補助金交付申請の募集を開始した。開発費の2/3以下を補助、03年度の補助金総額は74,830万円である。
(日経産業新聞03年6月5日)
 国は05年3月までに水素に関わる規制緩和を実施するため、そのための実証試験を含めた準備として、NEDOが日本自動車研究所や日本ガス協会、石油活性化センターなどへ委託、5年間で250億円を投じる水素の安全と貯蔵・輸送に関する開発をスタートさせた。規制緩和ではFCVで11、水素インフラで10、家庭用FCで5、などを含めて合計28項目がテーマとして挙がっている。
(日刊工業新聞03年6月26日)
 石油活性化センター(PEC)は、NEDO事業“水素安全利用等基盤技術開発事業”の一環である水素インフラに関する安全技術研究を受託した。予算規模12億円の内、PEC分は1億7,000万円で、主な研究内容は1)水素スタンドの安全評価と安全対策検討、2)改質器の安全性の検証、3)保安関連項目の検証、4)SS併設型水素スタンドの最適化検討、の4項目である。
(化学工業日報03年6月20日)

(3)国交省
 国土交通省は、FCVの安全基準などを検討するため、独立行政法人交通安全研究所に“FCV実用化促進プロジェクト検討会”を設置する。FCシステム(水素、高電圧)、自動車部品、車体全体の安全性に関する基準と環境保全上の基準を整備し、FCVが道路運送車両法に基づく型式指定を取得できる環境を整える。初会合を6月11日に開く。
(産経、日本工業、日刊建設工業新聞03年6月10日、日刊自動車新聞6月11日、電気新聞、化学工業日報6月12日、日本工業新聞6月13日、鉄鋼新聞6月18日)

 
2.地方自治体による施策
 山口県は6月6日、17項目の政府重点要望を纏めた。内新規要望は5項目で、周南コンビナート地域での水素エネルギーの活用促進などを盛り込んだ。水素エネルギーの活用については、水素発生量が全国最大規模のソーダ工場が立地している周南コンビナートの特性を生かして、県が推進しているプロジェクトである。定置式FCの実証研究や、FCVの走行実証試験を国家プロジェクトとして実施するよう国に求める。
(中国新聞03年6月7日)

 
3.海外政府機関による施策および国際的活動
(1)エビアンサミット
 エビアンでの主要国首脳会議(サミット)での討議では、経済と環境保護の両立を果たすための科学技術の重要性を確認し、その中で20年以内にFCVが価格競争力を持つよう、インフラ整備をなどの普及をサポートするとともに、国際的な規格・標準の策定を急ぐとの方針を盛り込んだ。
(朝日、日本経済、日本農業新聞03年6月3日、日刊自動車新聞6月4日)

(2)EUとアメリカ
 EUとアメリカは、6月16日、ブラッセルでFC分野の開発協力に関する合意文書に調印した。合意に基づきFCVと燃料ステーションの開発、補助電源としてのFC開発、技術基準作りなどに取り組む予定である。欧州委員会によると、EUにおけるこの分野での公的支出額は2002〜06年で約6億ユーロであり、同日発表委されたEU諮問グループの報告書は「日米と競争するためには大幅な増額が必要」と訴えている。
(日本経済新聞03年6月17日)

(3)カナダ
 カナダはFCと水素関連分野へ、新たに計204万カナダドルを投資すると、バンクーバーで開催された水素・FC会議で公表した。カナダ西部経済多様化庁(WD)からBritish Columbia大学のクリーンエネルギー研究所に54万カナダドルを拠出する。又WDとカナダ国立研究機構からFCsカナダに運営資金150万カナダドルが拠出される。
(日刊工業新聞03年6月18日)
 カナダの“FCsカナダ”は、フォードなどと展開するFCVの長期実用化都市としてバンクーバー市を選定したと発表した。04年初頭にフォードの“フォーカスFCV”を5台導入して実地走行試験を行う。この共同事業には、カナダ連邦政府やBC州なども参加する。
(日刊自動車新聞03年6月20日)


 
4.MCFCの開発と市場展開
 丸紅は、同社が国内販売を担当するアメリカFCE社製250kWMCFCが、03年内に世界で30台普及するとの見通しを明らかにした。日本国内では5台の普及を予定している。アメリカでは4台が稼動中で、03年内に大学やホテルなどに9台の納入が決まっている。ドイツではダイムラークライスラー系のデイーゼルエンジンメーカが組み立てと販売を引き受けており、病院やタイヤ工場等に計6台を設置済みである。更に03年中に6台の設置を予定している。国内の5台は、キリンビール取手工場(1台設置済み)、福岡市西部水処理センター(受注済み)、日本金属工業(同)、以外に2台の受注を目指している。価格は出力250kWで1億5,000万円、スタックは3年毎の交換が必要で、価格は約2,000万円。発電効率は47%と高い。
(日経産業新聞03年6月18日)

 
5.SOFCの開発
 日本ガイシは700℃前後でも高い出力が確保できるSOFCを開発した。同社が開発したのは、電解質とアノード、カソードの3層からなる直径12cmの円盤状発電セルで、セラミックス電解質を10μmの薄膜に加工し、低温での動作を可能にした。650℃で出力密度0.6W/cm2、750℃で同1.6W/cm2(電圧0.7V)を実現したと報告されている。家庭やオフィスなど幅広い範囲での分散型電源として実用化実験を進めるが、将来はFCVにも応用したいと考えている。
(日経産業新聞03年6月11日)

 
6.PEFCの研究開発と事業展開
(1)新日鉄化学
 新日鉄化学は、炭素を使った部材でリチウム電池やPEFC用セパレータなどの電池材料分野に参入する。セパレータは定置式に照準を当て、素材のサンプル出荷を始めており、05年での実用化を目指している。炭素に混ぜる樹脂として、フェノール系とエポキシ系の双方から選択可能であり、コスト削減を目標に射出成形を含めた成形手法も開発する。
(日刊工業新聞03年6月5日)

(2)バラード
 バラードパワーシステムズは、自動車用では1段とコンパクト化と高性能化を実現したPEFC“マーク902”をベースに、世界の全ての自動車メーカへの供給を目指し、又定置式については、1kW級から新たに30〜40kW級を投入、日本をターゲットに含めて市場戦略を展開する模様である。フィローズ・ラズル会長は「家庭用FCでは、世界中で日本が経済力に加えてエネルギーコストが高いなど、導入要素が一番優れている。価格は長期目標として1,500ドル/kW、短期的には3,000〜5,000ドル/kWを実現する」と語っている。
(日刊工業新聞03年6月5日)

(3)東洋紡
 東洋紡は、6月10日、高い強度と耐熱性のある繊維の製造技術を応用し、高温で低湿度でも動作が可能なPEFC用イオン交換膜を開発したと発表した。イオン伝導性を持つ高耐熱型炭化水素系ポリマー“SPNポリマー”を開発するとともに、同ポリマーと自社開発による耐熱性・強度特性を持ったポリパラフェニン・ベンゾビス・オキサゾール(PBO;ザイロン)の多数の微細孔を持つ支持フィルムを複合化したナノコンポジットイオン交換膜を実現した。分りやすく説明すれば、細かい穴を多数開けた熱に強い膜に、低湿度でも高いイオン伝導性を持つ高分子を埋め込んだ構造になっている。同社は「温度が80℃、湿度が10〜20%でも、実用性のある出力が確認しており、100℃以上の高温下での活用も可能である」と述べている。
(読売、日経産業、日本工業、日刊工業、日本繊維、繊研新聞、化学工業日報03年6月11日)

(4)ニューガラスフォーラム大阪研究室
 (社)ニューガラスフォーラム大阪研究室の菊川敬研究員、産総研の蔵岡孝治研究員(神戸商船大学助教授)、姫路工業大学の矢沢哲夫教授らの研究グループは、多孔質ガラスのナノサイズ細孔内にプロトン伝導性有機分子を導入し、100℃以上の高温に耐える有機−無機ハイブリッド固体電解質の作成に成功した。多孔質ガラスへの導電性分子の付与には、表面改質法が用いられた。すなわち、シランカップリング剤と呼ばれる有機珪素化合物と、ガラス表面や細孔内表面の水酸基との反応を利用して、共有結合を介して基材表面に有機分子などを導入する。作成した多孔質ガラスは正方形の板状で長さ20mm、厚さ0.9mm、平均細孔径は約4nmであった。
(日経産業新聞03年6月23日)

(5)エイアールブイ
 エイアールブイ(愛知県新城市)は、PEFC電極触媒のプラチナ微粒子をカーボンナノホーンの突起した部分の間に入れ、450〜470℃で熱処理する方式を使うことにより、発電効率を従来のそれよりも20%上昇させることが可能な電極材料を開発した。熱処理はカーボンナノホーンとプラチナ粒子の隙間をなくする効果を持つ。新しい電極材料は現在、試作品を10万円/gで販売しているが、8月には同3万円で本格販売に乗り出す予定である。同社は1日に400g生産する能力を持っている。
(日経産業新聞03年6月27日)

 
7.家庭用PEFCの開発と事業展開
(1)MHI
 三菱重工業(MHI)広島研究所は、出力1kW家庭用PEFCシステムを開発、03年末からガス会社や公的機関にサンプル出荷を始め、06年での製品化を目指す。新装置は幅60cm、奥行き30cm、高さ1m、容積180Lで、エアコンの室外機程度の大きさであり、同研究所は世界最小と述べている。同研究所は02年6月に容積340Lの家庭用PEFCシステムを開発したが、台座や側壁と一体になった樹脂製の配管を採用することによって、FCの外側を取り囲む燃料、空気、排水用配管のスペースを省き、又制御機器の性能を向上させた結果、部品点数を4割減らすことに成功し、上記のような小型化を実現した。発電効率は定格出力においては36%(LHV)、最低出力300Wで32%、総合効率は定格で87%と発表されている。電池スタックを6ブロックに分け、それぞれカートリッジのように取り替えることが可能になっている。
 MHI広島研究所が開発した上記の出力1kW家庭用FCについて、その特徴は6種類の燃料から水素を取り出す技術にもあり、今回の装置で採用した都市ガスとLPG以外に、灯油、ナフサ、メタノール、DMEの使用が可能である。改質効率は定格時で83%、300Wレベルで79%まで向上した。又改質器は窒素ガスに替わるパージ用ガス発生機能を持つので、DSSの運用性能が大幅に改善されたと同研究所は述べている。
(読売、毎日、日本経済、電気、日経産業、日本工業、日刊工業、中国、東京新聞、化学工業日報03年6月3日)

(2)大阪ガス
 大阪ガスは、天然ガス改質の家庭用FCに関して、6月10日に複数メーカーと第1次の契約を決定、06年3月の実用化を目指した開発を進める。メーカは松下電器産業、荏原バラード、三洋電機、東芝IFCの全社か、その内の3社を選び、04年4月にも2社に絞り込む予定。大ガスは既にメーカに対して条件を提示しており、それらは24時間運転で発電効率31.5%、熱効率は45%で総合効率76%、寿命は10年、実用時点でのメーカ納入価格は78万円で定価は120万円となっている。性能については大ガスとメーカの間で大きな隔たりはないが、コストについてはガス側が現状でも250万円で可能との見方に対して、どのメーカもその価格は無理と述べている。
(日刊工業新聞03年6月5日)
 大阪ガスは、6月19日、家庭用PEFCコジェネレーションシステムを、松下電器産業、三洋電機、東芝IFC、荏原バラードの4社との間でそれぞれ共同開発することで同意した。
(読売、朝日、毎日、日本経済、産経、電気、日経産業、日本工業、日刊工業、建設通信新聞、化学工業日報03年6月20日)

(3)日本ガス協会
 日本ガス協会は、6月17日、北海道ガス社員の自宅敷地内で行っている出力1kW家庭用PEFCシステムの実証試験を公開した。これまでの試験では、冬も順調に稼動しており、家庭で電気を多く消費する朝や夜の1部を除けば、FCの発電のみで十分需要を賄っているとのことである。
(北海道新聞03年6月18日)

(4)富士電機
 富士電機は、発電効率が31%(HHV、総合熱効率76%)の性能を持つ出力1kW天然ガス改質PEFCシステム(2次試作機)を製作した。改質器を含む容積は252Lで、前回(484L)に比べてかなりコンパクトになっている。改質器、CO変成器、CO除去器を一体化して高性能触媒を採用、装置の容積は半分以下、改質効率は81%となった。又80℃の作動温度で75℃の熱が取り出せるのも特徴の1つである。今後は部分負荷運転での改質効率を改善するとともに、1万時間の耐久性試験を行い、信頼性を高めていくことにしている。実用化に向けた最後のプロトタイプとなる3次試作機は04年4月に完成の予定である。
(日刊工業新聞03年6月24日)

 
8.FCV最前線
(1)DC
 ダイムラークライスラーグループは、アメリカの宅配業者に、ハイブリッド車やFCVを相次いで提供する。特にUPSとは03年からFCVの実証運転を始める予定で、EPA(アメリカ環境保護局)と協力して03年夏にもAクラスをベースにしたFCV“Fセル”1台を使い、ミシガン州にあるEPA研究所周辺の小荷物の速配便を手がけることを計画している。更に04年末にはクライスラーの商用バン“ダッジ・スプリンター”のFCVを使って、通常の配達業務を実施する。
(日経産業新聞03年6月3日)

(2)トヨタ
 トヨタ自動車は、6月10日、環境省にリースしていたFCHVで発生した水素漏れの原因は、高圧タンクの部品不良であることが分ったと発表した。注入口の口金の密閉に使っていたゴム製リングの材質が不適当であったためリングが劣化し、その隙間から微量の水素が漏れ出したと報告されている。
(日本経済、日経産業、日刊工業、中日新聞03年6月11日)
 トヨタ自動車は、LCAの考え方を導入したリサイクル性の高いFCV専用モデルを開発、03年10月に開催の東京モーターショウに出展するとともに、次期FCVとして実用化も検討する。この次世代モデルは、排ガスのみならず、自動車自体の環境負荷物質を削減すると同時に、リサイクル性の高いパーツを採用し、解体しやすい構造にするなど、生産から廃棄までを通してLCA評価を取り入れ、総合的なエコカーとしてのFCV専用モデルを開発すると述べている。
(読売新聞03年6月17日、日刊自動車新聞6月18日)

(3)三菱自動車、スズキ、日野自動車
 三菱自動車、スズキ、日野自動車がJHFCのFCV走行実験に加わる。三菱自動車はミニバン“グランデイス”をベースにFCVを開発するが、ダイムラークライスラーから基幹技術の提供を受け、バラードのPEFCを搭載する。スズキはGMから技術供与を受けると見られるが、ベース車は未定。日野はトヨタと共同で路線用FCバスを開発済みである。3社に対しては経産省が日本電動車両協会を通じて総額5億円を支援する。
(日本経済、日経産業新聞03年6月12日、読売新聞6月13日)

(4)FCVレース
 秋田県の大潟村でFCVレースが行われ、日本ケミコンの電気2重層キャパシター(EDLC)が活躍した。日本ケミコンは今回のレースのため、専用に2.5V/500FのEDLCを作り、事前の講習会で紹介、12台のFCVの内9台にそれを供給した。
(電波新聞03年6月16日)

(5)三菱電機
 三菱電機は、FCVなど電気自動車向けにインバーター制御用パワー半導体モジュール“DIP−IPM”を製品化し、04年3月から順次サンプル出荷する。従来は家電製品用に採用されていたが、高信頼性を図り車載を可能にした。小型パッケージ化した製品で、周辺回路を含めた実装面積を従来品に比べて約40%縮小することができた。サンプル価格は5,000円。05年1月からは量産化の予定。
(電気、電波新聞03年6月20日、日本工業新聞6月23日、日経産業新聞6月24日)

 
9.水素供給ステーションの建設
(1)有明水素ステーション
 岩谷産業と昭和シェル石油は、液体水素の供給が可能な“有明水素ステーション”を東京の江東に完成、6月12日に開所式を行う。尼崎市にある岩谷産業子会社の工場から液体水素を輸送し、タンクに貯蔵するが、04年度末からは新日鉄君津製鉄所に建設中の液体水素製造設備からも供給を受ける予定。JHFCプロジェクトによる水素ステーションはこれで4つ目となる。
(日本経済、日経産業、日刊工業新聞03年6月10日、毎日、日本経済、日経産業、日刊自動車新聞、化学工業日報6月13日)

(2)出光興産、栗田工業、バブコック日立等
 出光興産、栗田工業、バブコック日立などがJHFCプロジェクトによる水素ステーション事業に参加する。出光興産は灯油から水素を生成する施設を神奈川県泰野市に建設する。栗田工業、シナネン、伊藤忠エネクスの3社連合は水電解槽をトラックに搭載した移動式ステーションを相模原市に設置、バブコック日立は都市ガスから水素を精製する装置を搭載した移動式ステーションを青梅市に設置する。それぞれ04年3月までに完成予定でエンジニアリング振興協会が総額20億円を投入。
(日経産業新聞03年6月12日、朝日、日本経済、日本工業、日刊工業新聞、化学工業日報6月13日、神奈川新聞6月17日)

 
10.マイクロFC関連技術開発
(1)オーモリテクノス
 オーモリテクノス(広島県海田町)は、マイクロFCの燃料供給機能として適用可能な超小型ポンプを開発した。ポンプの大きさは、縦横8mm、奥行き5mmの直方体で、外側に吸入口と排出口が付いている。十字型をした内輪と、ヒトデの形をくりぬいたような外輪がともに回転し、隙間が広がると液体を吸い込み、狭くなると排出するメカニズムになっている。ポンプの後ろには、長さ約1cmの円筒型モータが取り付けられている。材料にはメタノールと化学反応しないよう樹脂を採用した。
(中国新聞03年6月5日、11日)

(2)NTTドコモ
 NTTドコモの立川敬二社長は、第3世代携帯電話“FOMA”の電源にFCを採用する計画であると発表した。
(日本工業新聞03年6月6日)

 
11.燃料改質および水素生成技術の研究開発
(1)IHI
 IHIは都市ガスから水素を取り出す装置を05年までに開発し、国内のガス会社などに販売する。独自の技術を使いパラジウム合金の膜に都市ガスを通して水素を取り出すプラントの開発に着手した。装置がコンパクトになり、更に現在Nm当たり100円程度となっている水素の製造コストを半分程度にまで低減できる可能性がある。40Nm/hの水素製造装置を、高さ、幅、奥行きともに2.5mにして、市街地の狭い土地にも水素ステーションを新設できるようにする。
(日本経済新聞03年6月7日)

(2)日本テクノ
 日本テクノは水素・酸素混合ガス発生装置“G−500型”を発売した。10MPaまでの圧縮を実証済みである。安全装置などの付属品付きで500万円から。
(日刊工業新聞03年6月17日)

(3)日本製鋼所
 日本製鋼所は6月18日、MSP(室蘭戦略プロジェクト)推進本部傘下の“水素エネルギー開発センター”を6月27日付けで研究開発本部内に移管すると発表した。同社は水素ガス供給用高圧圧縮機を開発するなど、水素関連事業を展開している。
(日経産業新聞03年6月19日)

(4)JFCC
 ファインセラミックスセンター(JFCC)は、水素製造プロセスの効率化に役立つ水素分離膜の2つの形成方法を開発したと発表した。いずれも分離膜の極微細孔構造を緻密に制御する手法で、分子ふるい機能を備えている。形成方法の1つである化学反応法は、シリコン系ポリマーであるポラシラザンの熱処理条件をコントロールし、細孔の大きさを数nmからサブnmまで制御する技術である。水素分離膜では、厚さ150nmで欠陥のない緻密な多孔体を製作することができた。又電子化学法は、アルミニウムに電圧をパルス状にかけ、多孔質支持基材の孔径を微細化する技術で、3nmにまで微細化することに成功した。今後はこれら2つの方法を組み合わせることにより、水素分離膜の機能向上を図ることにしている。
(日刊工業新聞03年6月24日、化学工業日報6月25日)

(5)名大
 名古屋大学工学研究科の吉田寿雄助手は、希土類セリウムを担持したシリカ触媒で、メタンをエタンと水素に変える光触媒反応に成功した。この反応は常温、常圧で安全性が高く、エタンも1段階で生成できる点に特徴がある。メタンの直接改質には高温・高圧が必要であるが、エタンは各種炭化水素に変えやすく、水素も得られるため、この形で利用した方がエネルギーポテンシャルは高いと評価している。光触媒で有効な酸化チタンは、それ自身に変化が起こって使えないため、光触媒作用のある希土類元素に着目してこの現象を発見した。反応する光の波長も300nmだったのが、400nmまでと可視光側に広がったので、光をより有効に利用することができる。
(日刊工業新聞03年6月25日)

 
12.水素の貯蔵技術の開発
(1)JFEコンテイナー
 JFEコンテイナー(伊丹市)は、カナダのダインテック・インダストリーズと共同で、減圧弁と電磁弁を容器に内蔵するタイプのFCV用高圧水素容器を03年度内に開発する。水素ガススタンドからの高圧水素の充填を安全に行うための電磁弁と、水素ガスを減圧してFCに送り出す減圧弁は、現在は容器に外付けされているが、これらの弁を外部からの衝撃から保護したり、燃料漏れを防止するためには、もともと頑丈な容器自体の中に保護する方が優れている。両社は03年度中に35MPa用を完成させ、04年には70MPa用の容器を開発する計画である。なおJFEコンテイナーは、ダインテック社と99年に業務提携し、同社のアルミライナー・カーボン容器を自動車メーカ向けに日本で独占供給している。(電気新聞03年6月9日) (2)関西企業4社
 岩谷産業、村田機械(京都市)、住金機工(尼崎市)、ネリキ(同)の関西企業4社は、それぞれの技術を持ち寄り、70MPaの水素ガスを貯蔵できるFCV用新型タンクを共同開発することになった。京都の伝統工芸品である組みひもの技術を応用して、編みこんだ炭素繊維によってタンクを補強するのが特徴、04年度中に試作品を製造し、07年度での実用化を目指す。既に村田機械が“組みひも製作機”の技術を生かした炭素繊維の加工装置を開発しており、住金機工がアルミニウムなどの軽い素材でタンクを製造、ネリキが安全弁などを提供する。岩谷産業は安全性など総合的な性能評価を担当する。上記4社は、経済産業省の産業クラスター計画で、近畿経済産業局が重点分野の1つとして位置付けている“エネルギー・環境”分野のネットワークに参加している。
(読売新聞03年6月10日)

(3)京大
 フラーレンに穴を開け、水素分子を封じ込める技術を、京都大学化学研究所の小松紘一教授と村田靖次郎助手らのグループが開発した。同グループは、C60に窒素化合物と酸素、硫黄を順番に添加して、球状の結合の1部を解いて穴を開け、この分子に200〜800気圧をかけて水素を押し込んでからレーザを照射して穴を塞いだ。この技術により、全ての分子に水素が封じ込められていることが確認された。小松教授は「封じ込めた水素分子は常温では抜け出さないため、水素の安全な運搬手段として利用できる」と語っている。
(京都新聞03年6月17日)

 
13.FC関連技術と保守管理業務
(1)IHI
 IHIは同社が納入した風力発電機、ガスタービン、FCなどの運転状況をセンサーで常時監視し、異常が発生した時にはオペレーターが保守管理担当者などに通報する新サービスを開始した。修復にかかる時間を短縮するとともに、蓄積した運転データは設計者にも供給し、新製品の開発などに生かす。サービス名は“アイ・ホットライン”で、東京・江東にコールセンターを置く。
(日経産業新聞03年6月3日)

(2)エコトロン
 日新電機の子会社、エコトロン(京都市)は、FC用インバーターに組み込む整流素子で、シリコン基板に替えてシリコンカーバイト基板を使った製品を開発した。開発したのは“ショットキーバリアダイオード(SBD)”、シリコンカーバイトは基板にすると微細な穴ができるが、穴の無いところだけを基板にして実用化した。この整流素子は電流の抵抗損失が約1/10と小さく、インバーターの効率が上昇するとともに、耐電圧性は1000Vにまで高められた。
(日経産業新聞03年6月12日)

(3)新東ブレーター
 新東ブレーター(愛知県西春町)は、FCなどの検査・測定に使った電力の余剰分を回収する再生機能を備えた双方向電源装置を完成、発売を開始した。消費電力を最大で70%削減可能で、容量120kWの電源装置であれば、年間300万円の省エネ効果があると発表されている。当面は受注生産で対応する。
(日本工業、日刊工業新聞03年6月13日)

 
 ―― This edition is made up as of June 30 , 2003. ――


・A POSTER COLUMN
BMWによる水素内燃エンジンの研究
 BMWは東京都内で主催・開催したフォーラムにおいて、同社が開発している水素エンジンは、10年後にはエンジン効率50%を実現、FCVと同等のレベルが可能であるとの考えを示した。同社は1979年から2002年までに5世代の水素エンジン研究モデルを作成し、水素エンジン効率は現在37%程度となっているが、今後極低温混合気形成技術、燃焼制御、高圧縮比、過給技術を含む直噴技術、専用点火システム、摩擦の最小化、FCによる補機駆動などの改善を図ることによって、将来的には効率50%の実現が可能になると述べている。
(日刊自動車新聞03年6月3日)
 BMWは05〜06年での実用化を目指す水素自動車量産に向けた取り組みを本格化している。内燃機関エンジン新7シリーズベースのバイフューエルカー(ガソリンと水素を同一内燃機関で燃焼)で、補助電源にFCを使っている。同社クリーンエネルギー・水素・インフラ技術担当のミヒャル・シュトックリン氏は「大きな課題である水素貯蔵タンクは今後も液体水素で進める。液化水素のボイルオフは大命題であるが、高圧水素ガスも漏れの問題がある。又ボイルオフした水素をFC用燃料に供給するのもポイントの1つである。水素自動車では、車内電源用に出力5kWのPEFC(42V)を採用する予定であるが、ガソリン車の電源用で用いているSOFCを使うことも最終的に検討しており、最初のバイフューエルカーにSOFCを搭載するかも知れない」と述べている。
(日刊工業新聞03年6月10日)

アメリカ、原発新設に財政援助
 アメリカ上院は、6月10日、原子力発電所の新設に対する財政支援などを柱とするエネルギー法案を賛成多数で可決した。“原子力2010イニシアチブ”を法的に裏付けるのが狙いで、2010年までに6基の新型原発の新規稼動を目指す。
(産経新聞03年6月12日)

水素の放出がオゾン層を破壊する?
 FCが普及して水素が大気中に大量に放出されると、オゾン層を破壊する恐れがあるとの研究結果を、アメリカ・カリフォルニア工科大学のユン教授等の研究グループが纏めた。6月13日付け科学誌“サイエンス”で公表する。同研究グループは、石油を燃料とする現行の技術が全て水素燃料のFCに置き換えられた場合、今より4〜8倍の水素が大気中に漏れ出る可能性があると推定、その場合、モデル計算によって成層圏の気温が低下してオゾン層を侵食する化学反応が進みやすくなると結論付けている。燃料タンクからの水素の漏出防止などを徹底する必要があるとユン教授は警告している。
(日本経済新聞03年6月13日)

ホンダの02年度環境コスト
 ホンダの“環境年次レポート”によれば、投資と費用を合わせた2002年度の同社による環境コストは、前年比18.3%増の1,340億円に達した。FCV開発を含めた研究開発コストは、投資で98億7,000万円(前年度39億7,000万円)、費用で1,134億円(同1,003億6,000万円)となっている。
(化学工業日報03年6月27日)

高強度・電導プラスチックの開発
 微小なカーボンナノチューブを混ぜ込むことにより、強度が高くて電気伝導性のあるプラスチックを作ることに科学技術振興事業団の研究チームが成功、6月27日発行のサイエンスに発表する。カーボンナノチューブを様々な形に加工することが出来るので、電子機器やFCなどに利用可能ではないかと期待されている。チームは相田卓三東大大学院光学系教授らである。
(朝日新聞03年6月27日)