第84号 GMがPEFCで35MWの発電

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1.国家的施策
2. 地方自治体による施策
3.海外政府による施策とプロジェクト
4.公共的団体・機関による施策
5.MCFCの開発と事業展開
6.SOFCの研究開発
7.PEFCの開発と事業化
8.FC関連の基礎・要素技術研究開発
9.FCV最前線
10.自動車以外の移動体用FC
11.水素生成および改質技術の開発
12.水素供給サービスステーションの整備
13.マイクロFCの開発と市場展開
14.燃料関連事業
15.FC計測関連事業の展開
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1.国家的施策
(1)経産省
 経済産業省は、SOFCの研究開発について、システムの実用化を目指す第4期プロジェクトを、04年度から3ヵ年計画でスタートさせる。海外での開発状況を踏まえて、高性能モジュールを完成させるとともに、これを組み込んだ実証プラントを建設・運転し、早期の市場導入を図る。
(化学工業日報03年5月2日)
 経済産業省・資源エネルギー庁は、高校生のエネルギー教育で活用する教材キットの作成・配布事業を行う。企業などへの委託事業として実施、採用した提案は教材として無料配布する。
(電気新聞03年5月26日、日本工業新聞5月27日)

(2)EUとの規格統一協議
 日本政府とEUは、FCやITSなど、次世代自動車技術の規格統一を共同で進めることで基本合意した。5月15日に東京で開かれる経済産業省とEU欧州委員会との次官級会合で、規格統一に向けた局長級定期協議となる“日欧自動車産業政策対話”の新設を決め、03年秋から具体的協議を開始する予定。FCについては、日欧共通規格を纏めて、05年を目途にISOの技術委員会で世界標準として認定を得るよう努める。具体的には、燃料となる水素の純度、燃料タンクの設置位置、燃費の測定基準など基本的な技術規格を共通化することを考えている。
(読売新聞03年5月11日、日刊自動車新聞5月16日)

 
2.地方自治体による施策
(1)静岡県
 静岡県は、03年夏にも、電力会社、新エネルギーに関する部品開発に意欲的なメーカ、大学、市町村を集めて“しずおかFC・水素エネルギーパートナーシップ”を発足させる。同県は既に01年に“FC・水素エネルギー研究会”を設立し、今までに5回の勉強会を開いている。今回のパートナーシップは、研究会に積極的に参加したメンバーを核に更に会員を募り、会員同士による情報交換の場を設けてビジネスチャンスを発掘する他、市町村も呼び込んで行政と民間の協力を促進することを目的としている。又同研究会は専門家など1部を対象としていたため、広く県民の参画を促す協働会議も設置、300人程度の会員を募ることにしている。県のエネルギー対策室は、2つの会を新設することによって、他県の企業なども参加する可能性が生まれ、新エネルギー導入に寄与するものと期待している。
(静岡新聞03年5月3日)

(2)岩手県
 岩手県と早稲田大学は、自然エネルギーとFCを組み合わせて電力の安定供給を目指す事業に着手する。廃木材を熱分解して取り出したガスを使うコジェネレーション計画、太陽光発電とFCを組み合わせた電力供給プラント、家畜糞尿から取り出したメタンガスによるFCの運転、ナトリウム硫黄電池による電力供給量の安定化、などが計画として挙げられている。04年度にもプラントの建設に着手、実験を始める。政府から補助金を受け、年間6億円を投じる予定である。
(日経産業新聞03年5月26日)

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3.外国政府による施策とプロジェクト
 アメリカエネルギー省は、ブッシュ大統領の“フリーダムCAR計画”の一環として、水素燃料を利用した次世代自動車の実証プロジェクトを、官民合同で04年度から開始すると発表した。民間からの参加者を公募した上で、3〜5事業を選定し、5年計画で取り組む。FCVの開発の他、水素供給ステーションなどインフラ面の実用化がプロジェクトの対象で、事業費は官民で折半とする。アメリカ政府は5年間で総額1億5,000万ドルを支出する。
(日本経済新聞、日刊自動車新聞03年5月10日)

 
4.公共的団体・機関による施策
(1)電気事業連合会と中央電力協議会
 電気事業連合会と中央電力協議会は、5月16日、03年度技術開発計画の概要を発表した。エネルギーセキューリテイー確保と地球環境保全、電力品質確保の2つの分野に総額166億円(前年度推定実績3億円減)の開発費を投じる。具体的内容としては、核燃料サイクル関連、石炭ガス化複合発電(IGCC)、FC、電力系統技術などが柱として挙げられている。
(電気新聞03年5月19日)

(2)自工会
 日本自動車工業会は、今年度事業計画で地球環境改善技術を総合的に推進し、FCVを始めとする低燃費・低公害車については、技術開発や車種拡大、2010年燃費基準の着実な達成、ならびにそれらの早期市場投入に努める。
(化学工業日報03年5月19日、日刊工業新聞5月23日)

(3)日本自動車研究所と日本電動車両協会
 日本自動車研究所と日本電動車両協会は、FCV用水素燃料純度の国際標準化規格策定に向けて、これまでに纏めた試験データを6月にアメリカで開かれるSAEの会合に提出する。FCVの水素は、長時間使っていると不純成分が濃縮され、FCに影響が出る濃度まで高まることが指摘されており、水素をパージして放出するのか、水素の純度をどうするのかといった問題で早急な対応を求められている。両機関では水素の純度を99.99%にし、不純物はCOが0.2ppm以下、硫黄酸化物や化合物はppbレベル以下とすることを、実証データを基に日本案として提出する意向である。
(日刊工業新聞03年5月19日)

(4)NEDO
 NEDOは5月21日、“水素安全利用等基盤技術開発”事業の委託先を決定した。MHIや日立など合わせて21社が参加する。
(日本工業新聞03年5月22日、日刊工業新聞、化学工業日報5月23日)

 
5.MCFCの開発と事業展開
 IHIはバイオマスをガス化してコジェネレーションするシステム事業を強化する。水熱反応(液状化)装置および消化ガスを発生させる嫌気性排水処理設備であるICリアクター、それにMCFCをシステム化して食品排水系の処理や高濃度汚水処理などで受注を強化していく。
 IHIは、丸紅が保守管理を一括して行うESCO(省エネルギー支援サービス)事業としてキリンビール取工場に設置したFCE製250kW出力のMCFC用に、このICリアクターを導入した。これは同社がオランダ・パケ社と技術提携して開発したメタン発酵バイオリアクターの高速排水処理システムである。このICリアクターと、同社が自主開発した亜臨界水、超臨界水による水熱反応技術をシステム化して、高濃度の排水や有機系固形物を高濃度液に転換して水処理する装置として製品化し、食品業界などへ導入していくことにしている。
 他方、名古屋市ではごみ処理場で生ごみから発生したバイオガスによってMCFCを運転する小型設備の試験に入っており、03年中には、02年に中部電力に納めた250kW実用第1号機で木質バイオガス化による発電をするためのガス化設備の建設にも着手する。
(日刊工業新聞03年5月22日)

 
6.SOFCの研究開発
 関西電力と三菱マテリアルは、5月7日、低温作動SOFCモジュール(作動温度800℃以下)による1kW発電実験において、現在の世界的技術水準である発電効率30〜35%を上回る40%を実現したと発表した。今回開発したモジュールは、単位面積当たり発電電力で世界最高レベルの1.8W/cm2;800℃を達成したセルを、実用サイズ(直径120mm)に大型化して41枚積み上げた構造になっている。関電は「低温で作動するためセパレータに高価なセラミックスなどを使わなくてすみ、長寿命化にも有利であり、他の分散型電源よりもコストが安くなる」と話している。両社は03年度中に運転性能試験に着手し、06年度末までに数十kW級の発電システムを開発、中型店舗や小工場向けの電源として商用化を目指す。
(毎日、日経産業、日本工業、日刊工業、電気、鉄鋼、日刊建設工業、建設通信新聞、化学工業日報03年5月8日)
 三菱マテリアルは、ランタンガレート系電解質(LSGMC)の薄肉化、燃料極に用いる酸化ニッケル−サマリウム・ドープ・酸化セリウム(Ni-SDC)の低コストプロセス開発などに取り組む意向である。同社は従来から豊富なセラミックス技術を生かして、大分大学やJFCC、産総研と共同でSOFCセルの開発を行ってきたが、それらは燃料極のNi-SDCの他、コバルト添加によって導電率を高めたLSGMC、ストロンチウム添加サマリウムコバルトタイト(SSC)の空気極等である。
(化学工業日報03年5月20日)

 
7.PEFCの開発と事業化
(1)IHI
 IHIはアメリカのモザイク・エナジーから、PEFCのスタック基本技術を導入し、ガソリンスタンドやコンビニ向けの小型FCの開発を本格化する。従来は完成品を輸入していたが、自社で製作できるようにして、開発を加速する考えである。先ず出力5kWのPEFCスタックを試作、実証実験を経て03年度中にも製品化するとともに、出力を20kWに高めたスタックを04年度を目途に完成させる予定。IHIは01年にモザイク・エナジーに7%出資し、PEFCの開発を始めたが、モザイク・エナジー製スタックとIHI製の改質装置を組み合わせる手法が難しく発売時期が遅れていた。今回スタックを自社製とすることによって、開発を進めやすくする。
(日本経済新聞03年5月3日)
 IHIは、都市ガスを燃料として、発電効率30%(送電端LHV)、給湯を含めた総合効率で75%以上(60℃LHV)の性能を持つ出力5kWPEFCを試作した。環境特性は、窒素酸化物10ppm以下、騒音は1mの位置で55dB以下、又全自動での起動および運転が可能、系統連系に対応、起動時間は40分以下と報告されている。運転形態については、DSSと連続運転を平行して開発を進めている。店舗や集合住宅、ビル、更にガソリンスタンド向けに製品化する予定で、各種部品開発からシステムまで全般をカバー、03年度内に製品可能なレベルである発電効率35%の達成を目指している。システムコストについては、現在の3,000万円程度から、2010年には100万円(20万円/kW)の実現が目標となっている。
(電気新聞03年5月12日)

(2)GMとダウ・ケミカル
 GMとダウ・ケミカルは、FC事業で提携すると発表した。発電装置性能向上や電力の効率的な利用法などを実証的に共同研究し、本格的な実用化を目標にコスト引き下げを目指す。具体的には、GMがPEFC500台をテキサス州にあるダウのフリーポート化学工場に設置し、同工場で副生する水素を燃料として35,000kWの電力を継続的に発電、電力供給の安定性などの実証試験を05年まで行う計画である。良好な結果が得られれば、ダウは欧米の生産拠点でFCによる発電を広げていく考えで、そうなれば化学企業の新たな電力源が創出されることになる。他方GMは、提携によって得られた研究成果をベースに、FCV用FCの開発を促進したいと考えている。
(日本経済新聞03年5月8日、日経産業、日本工業、日刊工業新聞、化学工業日報5月9日、日刊自動車新聞5月10日、電気新聞、化学工業日報5月12日、東京新聞5月13日、鉄鋼新聞5月14日)

(3)東芝IFC
 東芝IFCは、都市ガス改質型出力700W家庭用PEFCシステムにおいて、送電端効率35%(LHV)、31.8%(HHV)を実現した。排熱効率を加えた総合効率は83%であり、システムの容量は210Lで従来の機種よりもコンパクトされている。定格出力の43%(300W)における部分負荷運転で30%、250Wでは28%の発電効率を記録した。
(日刊工業新聞03年5月14日)

(4)エネルギア・ソリューション&サービス
 中国電力の子会社であるエネルギア・ソリューション&サービが、松江市に開設したエネルギー利用技術研究開発センターで、03年6月末から生ごみから発生するバイオガスによるPEFC発電運転が開始される。鹿島が開発した固定床式高温メタン発酵処理設備“メタクレス”で生ごみからメタンを取り出し、それを東芝IFC製700WのPEFCに導入し、発電運転を行う。
(日刊工業新聞03年5月26日)

(5)日本総合研究所
 日本総合研究所は、PEFCを複数の住宅に設置した場合の運用システムを確立するため、FCメーカ、電力、ガス、石油会社と共同で“DESS(Decentralized Energy System&Software)コンソーシアム”を設立する。複数のFCを制御するネットワークシステムを開発、発生したノウハウを特許の取得やソフト開発につなげる意向。既に十数社から参加の打診があったと伝えられている。6月5日に設立総会を開催する。
(電気新聞03年5月27日)

(6)松下電器産業
 松下電器産業は、5月27日、発電効率35%の家庭用コジェネレーションシステム(出力1kW)を開発したと発表した。PEFC部分のサイズは幅71cm、奥行き37cm、高さ94cm、貯湯タンクの容量は200Lである。性能劣化ついては、1,000時間当たり3mV以下に抑えられたと報告されている。05年3月の市場投入に向けた最終試験を6月1日から豊中市内の研究施設で行う。
(朝日、毎日、日本経済、日経産業、電気、日本工業、日刊工業、東京、電波新聞03年5月28日)

 
8.FC関連の基礎・要素技術研究開発
(1)化研
 化研(水戸市)は、カーボンナノチューブ(CNT)表面に、原子・分子サイズからnmサイズのRuO2超微粒子を分散させる技術を開発した。FCの電極用触媒や電界放出デイスプレー(FED)に活用できると期待している。ルテニウム溶液に酸化剤を添加すると、常温で気体のRuO4が発生する。このRuO4をガス状態で炭素材料に接触させれば、RuO2が炭素材料に担持される。液相法の場合は、RuO4をフッ素系有機溶媒に溶解し、その中に炭素材料を入れて攪拌する。
(日刊工業新聞03年5月16日)

(2)ミレニアムゲート
 メッキ技術開発のミレニアムゲートテクノロジー(東大阪市)は、超微粒子の表面に貴金属類をメッキした“ナノ触媒”を開発した。粒子の大きさは10〜12nm、安価な一般金属材料やセラミックスの表面に、触媒として使うプラチナやパラジウムなどの貴金属類を独自の通電方法でメッキする。貴金属を粒子表面部分にだけ使うため、価格が割安で大量に安定供給できるメリットがある。
(日経産業新聞03年5月26日)

 
9.FCV最前線
(1)ダイムラー・クライスラー
 ダイムラー・クライスラーは、FCバス“メルセデス・ベンツ・シタロー”をスペインのマドリード市に納入、商業運転を開始した。シタローは最大70人の乗車が可能で、350気圧の圧縮水素ガスを搭載、航続距離は200km、最高時速80km/hである。
(日本工業、日刊工業新聞03年5月13日、日刊自動車新聞5月14日)

(2)トヨタ
 トヨタ自動車は、5月13日“トヨタFCHV”を、愛知県、名古屋市、東邦ガス、東京ガス、新日本石油、岩谷産業にそれぞれ1台ずつリース販売すると発表した。リース料金は月額120万円で、5月29日に納車を予定している。
(読売、日本経済、日経産業、電気、日本工業、日刊工業、中日、日刊自動車新聞、化学工業日報03年5月14日)
 トヨタ自動車がリースで納めたFCHVの内1台で、圧縮水素ガスタンクの口金のシール部から水素の漏れが生じているのが発見され、同社は日・米で計6台納めている全FCHVを引き上げることを決めた。又5月29日に予定されていた愛知県等への6台の納車は延期することにした。
(読売、日本経済、日刊工業、中日、日刊自動車新聞03年5月20日、日経産業新聞5月21日)

(3)GM
 GMはワシントンDCでFCVの実証運転プログラムを開始した。当初2年間実施して、アメリカ議会関係者や環境保護団体関係者らを対象に、最高1万回の試乗機会を提供する方針である。試乗会にはHydroGen3を6台提供した。水素充填装置は、シェル石油のガソリンスタンド内に設置することになっており、03年内にも営業を開始する予定。
(化学工業日報03年5月15日、東京新聞5月29日)

(4)大同メタル
 大同メタル工業は、5月15日、FCV用キャパシターの部品である電極の量産に目途をつけたと発表した。同部品をホンダと共同開発し、ホンダが02年末にリース市販した“FCX”に採用された。大同メタルが製造するのは、巻き電極体の電極で、軸受製造で培った圧延、接着技術を生かして電極をシート状に巻く方式である。均一に仕上げることに成功したので、蓄電容量を大幅に向上させることができた。
(日刊工業新聞03年5月16日、日経産業新聞5月26日)

(5)日晴金属
 ルームエアコン据付部品などを製造する日晴金属(大阪市)は、シャーシーがグラスファイバー製の3輪FCV(前2輪、後1輪)を開発した。車体は全長295cm、全幅67cm、全高58cm、車体重量20kg、他社から借用したFCにより、最高速度は80km/hを実現した。水素を55Lのタンク2本に充填すれば、50kmの走行が可能である。
(日刊自動車新聞03年5月19日) (6)アメリカUPS
 アメリカ陸運大手が自動車メーカと組み、FCVなどの導入に乗り出す。UPSはダイムラー・クライスラーおよびアメリカ環境保護局(EPA)と協力し、FCVの実証実験を始める。ダイムラー・クライスラーがUPSにベンツの小型車“Aクラス”をベースにした“Fセル”1台を提供、ミシガン州にある研究所周辺で小荷物速配便用に使用し、EPAはスタンドを設けて実験に協力する。
(日本経済新聞03年5月22日、日経産業新聞5月23日)

 
10.自動車以外の移動体用FC
(1)深海無人探査機
 海洋科学技術センターは、深海無人探査機“うらしま”の動力源にPEFCを搭載、水素を貯蔵する水素吸蔵合金と組み合わせて性能を実証する。“うらしま”は自律航行が可能な魚雷型深海探査機で、2000年に建造された。02年にはリチウムイオン電池を動力源として、132.5km自動潜水航行に成功している。今回はリチウムイオン電池をPEFCに置き換えることにより、世界記録である300km航行を実現したいと考えている。
(日本経済、日経産業新聞03年5月12日)

(2)FC飛行機
 アメリカ国防省・高等研究計画局(DARPA)は、FCを動力源とするFC飛行機“ホーネット”の初飛行に成功した。ホーネットの全翼長は15インチ(約38cm)、総重量は6オンス(約170g)で、平均出力は10W、バッテリーなどは搭載しておらず、モーターや無線機器、調節器やポンプなどをFCで駆動した。
(日経産業新聞03年5月14日)

 
11.水素生成および改質技術の開発
(1)日本ガイシ
 日本ガイシは、都市ガスなどから効率よく水素を取り出す分離膜を開発した。試作した装置は、直径3cm、長さ30cmの円筒状、密度の異なる3層の円筒状セラミックスにパラジウム合金の薄膜をメッキした構造になっている。圧力によって条件は変わるが、水素濃度50%のガスを分離膜に通した場合、水素濃度は99.5%まで高めることができる。日本ガイシは微細な穴が均等に開いているセラミックスを開発しており、表面にばらつきが小さく、パラジウム合金を2μmの厚みでメッキすることができるようになった。この技術により高価なパラジウムの使用量を減らし、大幅なコストダウンが可能になると期待している。
(日本経済新聞03年5月5日)

(2)石川島芝浦機械と東京農工大
 石川島芝浦機械と東京農工大の亀山秀雄教授は、共同で都市ガス改質装置を従来の1/5以下のコストで製造する技術に目途をつけたと発表した。改質器はメタンを主成分とする都市ガスを、高温の状態でニッケル触媒を備えた金属板上に導き、表面での反応を通じて水素を取り出す従来の手法であるが、研究グループは改質プロセスの反応温度を600℃以上に引き上げ、又ガスが触媒に触れやすくするため、接触面を表面積の大きいスポンジ状に改良した。その結果、触媒の使用量が1/10で済むようになり、装置のコストを大幅に下げることが可能なったと述べている。金属板は厚さ80μmのステンレス板の両面に厚さ40μmの酸化アルミニウムを圧延して一体化した合金からできており、高い伝熱性を持つので起動時間を短縮することができる。石川島芝浦機械が縦30cm、幅30cm、奥行き70cmの装置を03年秋までに試作し、04年から実証試験を始める。
(日本経済新聞03年5月9日)

(3)出光興産
 出光興産は、LPG燃料の家庭用PEFCの実用化において、1年間交換する必要の無い長寿命タイプの新たな脱硫触媒(脱硫剤)を開発したと発表した。この触媒は直径が数mmの粉末状物質で、LPG中の硫黄化合物を吸着・除去する。同社が独自に開発したこの金属酸化物系の吸着脱硫剤を使用した実験では、室温下で市販のLPGを検出下限界の50ppb以下に脱硫できることを確認した。又1kWPEFCにおけるLPG使用量の10倍を単位脱硫剤に流す加速試験では、400時間の寿命を実証した。この吸着脱硫剤はカートリッヂ充填型のため、交換が容易である点にも特徴が認められる。
(日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報03年5月13日)

 
12.水素供給サービスステーションの整備
(1)岩谷産業
 岩谷産業は、FCVの普及をサポートするため、子会社の岩谷瓦斯が持つ国内14ヶ所の水素生産工場に移動式の水素充填機を配備する。又各工場を基地として、全国170ヶ所のLPガスなどの供給ステーションを巡回する水素供給インフラのネットワークを整える。同社は昭和シェル石油、新日本製鉄と組んで、製鉄副生ガスから水素を液化し、FCVに供給する方式でJHFCに参加している。
(日刊自動車新聞03年5月7日)
 岩谷産業は5月8日、大阪府堺市に国内最大の液体水素工場を建設する方針を明らかにした。工場の操業開始は06年度を目指しており、隣接地に建設する空気分離ガス工場と合わせて投資額は100億円を見込んでいる。液体水素はメタンガスを分解して生成する。現在1,000L/hの液体水素生産能力を持つ施設が国内に2ヶ所あるが、新工場はその数倍の規模になる模様である。
(読売、日本工業新聞03年5月9日)
 岩谷産業は、堺エル・エヌ・ジーと共同出資で、液体水素や産業用ガスを製造する新会社を、05年中に堺市に設立する。資本金は5億円で、岩谷産業の出資比率は80%。液体水素の製造プラントや低コストで生産できるLNG冷熱法を利用したガスプラントを、約100億円を投じて新設する。ガスプラントの生産能力としては約20,000m/hを見込んでおり、関西圏を中心に幅広い地域に売り込む考えである。
(日経産業新聞03年5月27日)

(2)東邦ガス
 東邦ガスは、05年万博会場にFCV用に天然ガス改質型水素ステーションを設置することを明らかにした。
(中日新聞03年5月10日)

(3)R.Dシェル
 ロイヤル・ダッチ・シェルは、FCV用水素供給ステーションをアイスランドの首都レイキャビックに開設したと発表した。地元のバス会社が導入したFCバス3台がここで水素を充填する。
(日刊自動車新聞03年5月10日)

(4)東京ガスと日本酸素
 東京ガスと日本酸素は5月13日、JHFCプロジェクトによって、東京・荒川に建設していたFCV用水素供給ステーション(千住)を完成したと発表した。開所式とFCHVの納車式は5月29日の予定。LPGを燃料とし、純度99.99%の水素を50m/hの速さで生産する能力を持つ。建設費は約3億円で、エン振協を通して全額国が補助した。運営は東京ガスと日本酸素の両社が担当する。
(日経産業、日本工業新聞03年5月14日、化学工業日報5月15日、電波新聞5月20日)
 水素ステーションが、東京都荒川区南千住3の東京ガス千住事業地内に完成、5月29日に開所式が行われた。
(読売、日本工業、日刊自動車新聞、化学工業日報5月30日)

(5)BP
 BPのシンガポール法人・BPシンガポールは、エアー・プロダクツとの間で、シンガポールにFCV用水素ガスステーションのパイロットプラントを建設することで基本同意したと発表した。04年第1・4半期を目途に日量20kgの水素ガス充填パイロット設備を建設する。
(化学工業日報03年5月23日)

(6)昭和電工
 昭和電工は、FCV向け水素燃料市場に参入、先ず水素ステーションを03年度中に川崎事業所に建設する。セイソーダ製造における副生水素を供給するが、将来は廃プラスチックの再処理で生成する水素も利用することを計画している。水素ステーションの建設費は、オンサイトでの改質型が3億円程度であるのに対して、既存の水素製造設備を活用するため、約1億円で済むと伝えている。
(日経産業新聞03年5月26日)

 
13.マイクロFCの開発と市場展開
(1)産総研
 産業総合技術研究所の環境調和技術研究部は、市販のフッ素系イオン交換樹脂製の中空糸を電解質膜に使ったチューブ型の超小型DMFCを開発した。電解質膜の内側に燃料極触媒を、外側に空気極触媒を配置し、燃料極には白金・ルテニウム触媒をカーボン材上に固定化、空気極には白金触媒を化学メッキで付着させている。直径が0.6mm、長さが3〜5cm、常温常圧で3mW/cm2の発電能力を確認している。
(日経産業新聞03年5月19日)

(2)東レ
 東レは、信州大学の高須芳雄教授等と共同で、携帯電話などに搭載可能な小型DMFCを試作したと発表した。開発したのは厚さ3mm程度のフィルム状にした膜電極複合体で、膜に開いた穴を小さくすることにより通過するメタノールを従来の1/5程度に抑えた。又電極反応触媒にも改良を加えて、従来よりも高濃度のメタノール水溶液が使用可能になったため、電池の使用時間と出力を3倍程度にまで高めることができた。携帯電話に使用した場合、10cm3のメタノール水溶液で1時間半通話できると報告されている。2005年を目途に部品を量産する意向である。
(日経産業新聞03年5月22日、毎日、日本工業新聞、化学工業日報5月23日)

 
14.燃料事業関係
 ロイヤル・ダッチ・シェルグループは、各国の事情に応じた燃料を開発するグローバル戦略を進めているが、昭和シェル石油もこの戦略に沿った研究開発を推進する。同社は消費者のアンケート調査の結果を基に、02年3月に新ハイオク“Shell-Pura”を発売したが、これに続きGTL、バイオ燃料、FCV用燃料などの市場導入に向けた検討を進めていくことにしている。
(化学工業日報03年5月14日)

 
15.FC計測関連事業の展開
(1)チノー
 チノーはFC評価試験装置を開発するための実証試験設備を完成し、埼玉県久喜市の同社装置計装事業部に設置、運転を開始した。投資額は約2,000万円。PEFCの単セル、積層セルを対象に、評価試験装置に求められるガス流量精度、ガス加湿精度、運転圧力の安定性など各試験項目について、応答性、安全性、操作性などの高度化要求に応えるため、試験データを蓄積、開発目標を定めて、それを実現するための実証試験を行う。又新たな制御ループ構成、装置構造、計測手法、制御機器、制御ソフトアリゴリズムを開発する。同社は今後実証された要素技術を組み込んだFC評価試験装置の標準化を進めるとともに、高機能化、小型化、安全性の向上、低価格化などの市場ニーズに対応していくことを目指している。
(電波新聞03年5月1日、電気新聞5月2日、日刊工業新聞5月20日)

(2)東陽テクニカ
 東陽テクニカは、5月12日、巴商会とFC評価システム開発で業務提携したと発表した。東陽テクニカの計測・評価技術と、巴商会のガス制御ノウハウを融合して、従来以上に安定性能を持つスタック評価装置を開発する。両社は03年秋にも5kW級評価システムを、04年1月には数十kW級の評価システムを発売する。価格は1システムで1,500万円、スタック用で5,000万円程度。
(日刊工業新聞03年5月13日、日経産業新聞5月16日)

(3)英和
 英和は水素ガスなどをFCに供給して、セル電流や電圧、セル温度などを測定する簡易型発電装置“標準セル発電キット”を発売する。価格は130万円。開発した装置は、高さ50cm、幅53cm、奥行き40cmで、水素ガスの流量は100〜1,000mL/分、酸素ガスは300〜3,000mL/分の範囲で調整できる。材料メーカ、大学、研究機関などに売り込む予定。
(日刊工業新聞03年5月23日、日経産業新聞5月26日)


 
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・A POSTER COLUMN
水素サービスステーションの評価
 現在JHFCプロジェクトに基づいて実施されている水素ステーションにおける高圧水素の生成方法はそれぞれ異なるが、水素生成方法の検証目的は「将来どれか1つの方式に集約するのではなくて、地域特性や立地条件に合った方式を選択できるようにするためのもの」と考えるべきであろう。太陽エネルギーを利用した究極のゼロエミッション水素生成は、環境面からは理想的であるが、太陽電池の価格が高く、約3億円と云われる水素ステーション設置コストの3倍である。現時点で有望なのは、製鉄や苛性ソーダの製造工程において副産物として生成される水素を供給する副生水素方式と思われる。ついで液体水素貯蔵方式(輸送・貯蔵が低コスト)、脱硫ガソリン方式(既存物流網を活用できる)などが挙げられる。
 エネルギー効率や税率が異なるため、単純比較は出来ないが、発熱量を基準に計算すると、産業用水素の製造コストはガソリンの約3倍で、輸送コストを含めると流通価格の格差は更に拡大すると予想されている。
(株式新聞03年5月7日)

極細単層CNTの研究開発
 信州大学の遠藤守信教授の研究室と三井物産の子会社CNRIは、極限の細さとなる直径0。43nmの単層カーボンナノチューブ(CNT)の合成に成功した。水素を貯める高圧タンクなど強い剛性が求められる素材として使われる可能性がある。
(化学工業日報03年5月7日)

アキュメントリスク社がSOFCを日本で販売
 住友商事が出資するアメリカのFCベンチャーであるアキュメントリスク社が、アメリカ政府から7,400万ドルの補助金を獲得した。同社はSOFCを開発しているが、今後住商とともに日本の使用環境で実証実験を進める予定であり、コンビニエントストアなどを対象に10kW級、工場向けなどに100kW級の2種類を04年にも日本で発売する。
(日経産業新聞03年5月9日)

ホンダによる水素スタンド用太陽電池の開発と戦略
 太陽電池業界の目標は、「現在約52円/kWhの太陽光発電電力コストを、2010年には22円/kWhにまで引き下げる」であるが、ホンダはCIS薄膜太陽電池の開発でこの目標を既に実現し、更にコストダウンを目指して大量生産に踏み切ろうとしている。ホンだの目標は、FCV用水素燃料を、先ず水素ステーションにおいて太陽光発電から製造することであり、最終的には家庭で水素を生成、それをFCVに供給する“究極の水素社会”を実現することにある。
(エコノミスト81巻4号03年5月20日)