第83号 消化ガス燃料のMCFCが運転を開始

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1.国家的施策
2. 海外政府関係機関の動き
3.MCFCの開発と事業展開
4.SOFCの開発成果
5.FCの基礎および要素技術の研究開発
6.家庭用等定置式PEFCの開発と商用化計画
7.FCV最前線
8.改質および水素生成技術の開発
9.水素ステーションおよび水素貯蔵技術
10.マイクロFCの技術開発
11.新燃料および新型FC
12.FCロボットに試作
13.FC関連計測技術と販売
・A POSTER COLUMN

1.国家的施策
(1)資源エネルギー庁
 資源エネルギー庁長官の私的研究会“FC実用化戦略研究会”が4月15日開催され、PEFCの実用化に対する取り組みの現状、予算の配分(03年度307億円)や、各種FCの開発動向について報告があった。水素エネルギー社会の実現に向けては、FCと水素の一体的導入の検討や、シミュレーションが可能な詳細モデルを開発し、最適な導入シナリオを検討すべきである、などとする報告がなされた。開発現状では、耐久性やコスト面で立ち遅れが目立つとの発言があった。又MCFCやSOFCなどの現況についても報告があり、これら高温型FCの開発推進策が議論された。
(日刊自動車新聞03年4月16日)
 資源エネルギー庁は、MCFCおよびSOFCの高温型FCについて、2010年度段階でのコスト目標を設定した。数百kWクラスでは30万円/kW、数千kWクラスでは20万円/kWで、コスト目標を設定することにより、FCの経済性向上につなげることを狙っている。
(電気新聞03年4月18日)

(2)環境省
 環境省は、生ごみを利用したFC発電システムのモデル事業を全国10ヶ所で始めることを決めた。都道府県などを通じて、マンションやホテル、病院など10ヶ所を9月までに選定する予定で、03年度予算で生ごみ利用FC等普及促進事業として1億円を確保している。設置費の1/3を同省が補助する計画である。
(毎日新聞03年4月26日、化学工業日報4月30日)
 環境省の“FC活用戦略検討会”は、4月25日、「バイオマス資源の有効利用に資するFC活用戦略」と題した報告書を纏めた。廃棄物系バイオマス資源を利用した定置式FCシステムが、年間1,293,000トンのCO削減効果を持つと推計している。
(電気、日本工業、日刊工業、日刊自動車、日刊建設工業新聞03年4月28日)
 
 
2.海外政府関係機関の動き
 欧州を中心に42カ国で構成する欧州運輸相会議(パリ)は、2004年初めに日米韓、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、メキシコの7カ国と共同で“運輸政策研究センター”をパリに設立する方針を固めた。FCVの普及など環境問題や情報技術を活用した交通事故削減などに取り組む意向である。
(日本経済新聞03年4月22日)

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3.MCFCの開発と事業展開
(1)キリンビールと丸紅
 キリンビールは、丸紅と共同で導入したFCE製出力250kWMCFCの本格運転を同社取手工場で開始したと、4月2日に発表した。工場内の排水処理施設から発生するメタンガスを主成分とする消化ガスを燃料として利用しており、燃料供給はキリンが担当、丸紅はシステムの運転管理を一括して引き受け、発生した電力や蒸気はキリンが丸紅から購入する運用方式となっている。キリンの買電価格は東電からの購入価格と同水準、取手工場で使用する電力の約4%を、蒸気供給量は175kg/hで、同1%を賄うことになっている。
(日経産業、日本工業、日刊工業、電気新聞03年4月3日、日本食糧新聞4月14日)

(2)IHI
 IHIは出力300kW級MCFC3基を相次ぎ受注した。近く7MW級のFS(事業化検討)に着手し、FC事業の展開を加速する。受注した3件は、第1がNEDO受託による中部電力川越発電所での試験運転、第2の商用機第1号は、中部電力・新名古屋発電所に設置して基本性能の確認作業中であるが、04年春までにガス化溶融炉と組み合わせた廃棄物ガス化発電技術の実証運転を予定している。第3のトヨタ自動車・元町環境センター向けは、NEDO実用化開発助成事業の一環で、マイクロガスタービンとのコンバインドサイクルの実証試験を目的としたものである。IHIはこれらの実績をベースに、ユニット化手法などを導入した標準設計手法を開発し、コンパクトで低コストの発電プラントを開発する。コスト目標は50〜60万円/kW。
(化学工業日報03年4月23日)

 
4.SOFCの開発成果
 イギリスのセント・アンドリュース大学のJ・アーバイン氏は、メタン燃料の使用に適したSOFCアノード材料を開発したと発表した。論文はネイチャー・マテリアル5月号に掲載される。現在アノード材料に最もよく使われているNi/YSZサーメットは、優れた触媒特性を持ち導電性も高いが、メタン燃料に由来する炭素や硫黄析出物が付着する傾向が避けられなかった。アーバイン氏らは、メタンに晒されても化学析出物が生成しにくいペブロスカイト型のニッケル無添加の新アノード材料を開発、これを採用したSOFCは中程度の温度(500〜700℃)でも動作可能になることを示した。
(日本工業新聞03年4月14日)

 
5.FCの基礎および要素技術の研究開発
(1)GSIクレオス
 GSIクレオス(旧グンゼ産業)は4月8日、信州大学の遠藤守信教授の指導を経て、カーボンナノファイバーを使った担持金属触媒の開発に成功したと発表した。同社が量産しているカップ積層型ナノファイバー“カルベール”の内外表面に、白金やパラジウムなどの触媒金属を任意の位置に担持することを可能にした。FCにおいて、電極の設計自由度が得られる他、高効率の触媒機能が低コストで実現できると期待される。カップ積層型と呼ばれる特異な構造を持つカーボンナノファイバーは、構造の終端部分にナノチューブにはない多くの活性点を持つ点に特徴がある。GSIクレオスはこの特徴を利用して、触媒金属の担持量、粒径、粒子間距離などを制御しながら担持する技術を開発したわけで、白金の単結晶原子クラスターを2〜3nmの間隔で配置できた。それに同ナノファイバーは量産性が優れているので、この技術により高効率で低コストFC用触媒の供給が可能になると期待されている。
(朝日、日経産業、日本工業、日刊工業新聞、化学工業日報03年4月9日、日本経済新聞4月11日)

(2)三井鉱山
 三井鉱山は、4月10日、天然黒鉛をベースとしたPEFC用セパレータ材料を開発し、小会社の三井鉱山マテリアルを通じて発売すると発表した。鱗片状の天然黒鉛を独自の粉砕技術で球形化し、熱硬化性樹脂との混合と造粒により成形性に適したコンパウンド材料を開発、更にホットプレスによる平板製造、バイポーラ型セパレータ製造技術も開発し、多様な供給形態に対応できる体制を整えた。人造黒鉛に比べてコストは1/10程度と極めて安価になる点に特徴がある。当面は三井鉱山コークス(北九州市)で月3トン生産し、05年度までに3億円投資して月産能力を10トンにまで引き上げる。
(化学工業日報03年4月11日、日本工業新聞4月14日、日経産業新聞4月23日)

(3)ジャパンゴアテックス
 ジャパンゴアテックスは、アメリカのゴアとの共同で、PEFC用イオン交換膜を改良、更に電極部分を含む構造や各種素材を工夫することにより、4万時間の運転を可能にするまで耐久性を高めることに成功した。4万時間、5年間の連続運転に相当する実験で性能を確認した。
(日本経済新聞03年4月11日)

(4)ルフトヴァッサーHC
 ルフトヴァッサーHC(東大阪市)は、気体と液体間の熱交換が可能なプレート型熱交換器を開発した。“ルフトヴァッサー”と命名したこの熱交換器は、プレス成型を使わず、エッチング技術により気体や液体が流れる溝を加工し、プレートを何枚も張り合わせて作る。熱交換性能は一般的な従来品に比べて3〜4倍、同じ性能なら1/3から1/4に小型化することを目指している。製作したのは11cm×3.5cm×1.2cmの手のひらサイズの熱交であり、小型化が求められている家庭用PEFCコジェネレーション装置などに搭載を働きかける。
(日刊工業新聞03年4月11日、日経産業新聞4月25日)

 
6.家庭用等定置式PEFCの開発と商用化計画
(1)松下電器産業など
 松下電器産業は、その資本力を生かして、レンタル方式によるFCの家庭への普及を検討し始めた。他方、荏原は03年4月にも企業向けに発売、量産化の土台を固めることにしている。
(日経産業新聞03年3月31日)

(2)ガス企業
 東ガスが05年、大ガスが06年のLNG改質型FCの実用化に向けて、メーカ選定に入ることにした。東ガスは4月からメーカと具体的な導入への評価作業を始め、大ガスは5月6〜9日までにメーカによるプレゼンテーションを経て、3ないし4社を6月10日前後に決定する予定である。東ガスはDSS運転で、目標価格を補助金半分込みで100万円、又大ガスは同120万円を目指している。
 大ガスがメーカ説明会で提示した条件は、発電効率31.5%、熱利用効率が45%、メーカ納入価格は78万円、定価が120万円などであるが、半分は国からの補助を前提としている。同社はホンダのガスエンジンをベースにした1.2kW級のコジェネレーションシステムを75万円で販売を始めており、FCの場合は補助金付きで同程度の価格を想定している。他方、東ガスはメーカを絞り込まず、4月から各社が開発した新機種の耐久性と信頼性の評価に入ることにしている。現在ではシステムの運転時間は荏原バラードが最長で5,000時間程度であり、当面はトラブルの起きないシステムの実現が条件となる。
(日刊工業新聞03年4月2日)

(3)ガス協会の実証試験
 IHIは5kWの天然ガス改質で、又松下電工は1kWのプロパン改質で、何れも日本ガス協会が実施するPEFCコジェネレーションシステムの実証試験に機種を導入した。
 IHIは新日本石油が実証するガソリンスタンドでの実証実験にナフサ改質PEFCを2機納めており、長時間の実証研究に入っている。IHIはこれまでアメリカ・ガス協会の研究機関であるモザイク社へ出資して同社の開発するPEFCを導入してきたが、IHIが全てを開発することでモザイク社からPEFCの開発権を引き取り、今回天然ガス改質の5kW機を製作して2機投入することになった。具体的には、FCスタックについてはIHIが改良を加えて導入、セパレータは自主開発、改質システムについては、ナフサ、天然ガス、LPG、DMEを対象に開発を進めており、今回のプラントはその一環である。
 松下電工は、既にバラード製PEFCスタックを導入した可搬型250W機を限定販売しているが、今回FCスタックを外部から導入、水蒸気改質を含む全体システムを同社が纏めることで、プロパン改質の1kW機を2台開発した。
 この他、MHIも初めて1kW機を投入した。システムを簡素化、送電端効率28%弱と報告されている。
 これにより荏原バラード、三洋電機、東芝IFC、トヨタ自動車、松下電器産業の各々1kW機、プラグパワー5kW機を含めて合計20台が勢ぞろいした。
(日刊工業新聞03年4月8日)

(4)日本総合研究所
 日本総合研究所は、4月16日、住宅向けFCの運用の仕組みを探る企業連合体“DSSコンソーシアム”を、03年5月を目途に設立すると発表した。FCを家庭に普及するためには、発電電力を住宅間で相互に融通する仕組みを作るなど、ソフト面での研究も不可欠と判断した。参加企業は、FCの信頼性維持の方法、燃料供給の仕組み、利用者負担のあり方などを調査研究する。
(日経産業、日刊工業新聞03年4月17日、電気新聞4月22日、日本工業新聞4月30日)

(5)大阪ガス
 大阪ガスは、家庭用FC向けにLPG改質装置を開発した。耐久テストを行い、07年3月からFC本体へ組み込み、1kW以上の規模で実用化を目指す。耐久テストには、LPGをボンベで供給して自然蒸発させると、重い留分がボンベの底に残ってLPGの性状が変わるという問題が指摘されているため、この変化への対応を検討することが含まれている。
(日刊工業新聞03年4月23日)

 
7.FCV最前線
(1)FCVのリース販売
 トヨタ自動車は、02年末中央官庁向けにFCVハイブリッド車FCHVを4台、アメリカのカリフォルニア大学バークレイ校などに2台をリース販売したが、5月末に計6台を新たに納車することになった。納車先は、愛知県庁、名古屋市、東邦ガス、東京ガス、新日本石油、岩谷産業である。なお、岩谷は6月末に大阪本社へホンダのFCXをリース導入する。
(日刊工業新聞03年4月7日)

(2)GMとBMW
 アメリカのGMは、4月9日、FCVをBMW、オペルと共同で開発すると発表した。両社は2010年までにFCVの販売を目指すとともに、開発した部品を世界標準として普及させることを意図して、他の大手メーカにも参加を呼びかける。
(読売新聞03年4月10日、日本経済新聞4月11日)
 BMWとGMは、液体水素燃料の共同開発に着手した。充填カップリング機器を中核とする装置を共同開発し、液体水素の搬送と車載貯蔵技術の開発を加速する。GMは700気圧圧縮水素と液体水素の両面から水素利用技術の確立を目指している。
(日刊工業新聞03年4月18日)

(3)BMW
 ドイツのBMWは、液体水素の保持能力を大幅に高めた燃料タンクを開発した。断熱方法の改善でボイルオフ現象を抑え込み、ボイルオフが始まる時期を貯蔵後3日から3週間へ大幅に延長することに成功した。なお、同社はFCVではなく水素エンジン自動車を開発している。
(日刊自動車新聞03年4月16日)

(4)スズキ
 スズキの津田社長は、FC軽自動車の開発が最終段階で、03年内にも公道試験を始めたいとの考えを明らかにした。同社はGMと共同でFCVの開発を進めていた。
(日本経済、中日新聞、河北新報03年4月17日)

 
8.改質および水素生成技術の開発
(1)出光興産
 出光興産は灯油から水素を効率的に製造するための触媒を開発した。開発した触媒は、アルミナ基盤に分離反応を促すルテニウム金属と添加剤を加えたもので、通常は直径100nm程度の塊になるルテニウムを、10nm程度に粒子を小さくした点に特長がある。反応が起きる表面積(活性点)が広がるため、高濃度の水素を効率的に製造することができる。又従来の触媒は400時間程度から徐々に劣化するが、この新触媒は2万時間その性能を維持すると伝えられている。新触媒を使った実証実験を石油活性化センターと共同で続けている。
(日経産業新聞03年3月31日)

(2)エイチ・ツー・ジャパン
 エイチ・ツー・ジャパン(札幌市)は、シロアリから取り出された嫌気性菌を用いて生ごみを発酵させて水素を取り出し、FCを運転させる技術を開発した。製粉工場から出るふすま(小麦を粉に引いた後に残る皮)を利用した場合、1日当たりのふすまの排出量を19トンと仮定すると、出力13.75kWの発電が可能であると積算している。同社ではこれまで10Lの発酵槽を備えた装置で実験を行ってきたが、十分なデータが得られたとして、03年度中に数百L規模の実証プラントを設置する予定。総費用は3,000万円程度と見積もっている。
(電気新聞03年4月1日)

(3)酪農学園大学
 酪農学園大学(江別市)の岡本全弘教授等は、産業技術総合研究所、セテック(札幌市)と共同で、牛のふん尿などを原料とするバイオガスから水素を抽出し、FCの燃料として活用する技術を開発した。微生物と酸化亜鉛を使い、牛の糞尿を発酵させたバイオガスから硫化水素を除去、水素を生成してPEFCに導入、7時間以上の連続発電に成功した。
(日経産業新聞03年4月2日、北海道新聞4月3日)

(4)住友金属鉱山等
 住友金属鉱山と産業技術総合研究所、環境ベンチャーのバイオテックなどは共同で、家畜の糞尿からメタンを取り出し、FCで利用する技術を開発した。糞尿を発酵させる際に生じる硫黄などの不純物を光合成菌と硫黄菌を使って効率的に除去し、メタンの精製コストを従来の1/10にまで下げることに成功した。又これらの菌と酸化亜鉛の吸着剤を組み合わせると、硫黄濃度を数ppbまで低減することができる。同共同研究には、鈴木商工、酪農学園大学が参加している。
(日経産業新聞03年4月3日)

(5)昭和シェル石油
 昭和シェル石油は、ナフサ改質プロセスにおいて、CO発生量を20%削減する技術を開発した。空気や水蒸気を加えたナフサを、触媒部分酸化法によって改質するプロセスにおいて、空気や水蒸気の比率を最適化し、発生する水素の量を増大するとともに、不純物を取り除くために水素のみを吸着する金属や膜を利用、水素生成に必要なナフサの量を15〜20%削減することに成功した。
(日経産業新聞03年4月28日)

 
9.水素ステーションおよび水素貯蔵技術
(1)トヨタ合成
 トヨタ合成は、4月3日、自動車用CNGのオール樹脂製燃料タンクを開発したと発表した。新開発の樹脂層とFRB層の2層構造で、ガス圧力は600気圧、温度は−40℃から100℃の範囲で耐えるとともに、60%の軽量化に成功しており、今後はFCV用高圧水素タンクを開発したいと語っている。
(日刊工業新聞03年4月4日)

(2)タツノ・メカトロニクス
 ガソリン計量充填機最大手のタツノ・メカトロニクスは、FCV用水素ステーションに用いる計量充填機の量産に目途をつけたと発表した。同社は水素計量充填機1号機を横浜市鶴見区のステーションに納入したが、価格が1台当たり1,000万円を超えていたため、2号機では部品点数を削減するなどによって、20%以上のコスト削減を実現した。なお、ガソリン充填機は1台150万円程度であり、タツノは水素の場合はガソリンのそれに対して3ないし4倍の価格で販売できると予想している。
(日本経済新聞03年4月5日)

(3)新日本石油
 新日本石油が横浜市旭区に建設を進めていたFCV用水素供給設備“横浜旭水素ステーション”が完成し、4月10日に関係者を集めて開所式を行った。ナフサの水蒸気改質方式で、JHFCプロジェクトによる開発である。乗用車であれば、連続でFCV5台に水素を充填する能力を持っている。
(日本経済、日経産業、日本工業、日刊工業、神奈川新聞、化学工業日報03年4月11日)

(4)住友商事
 住友商事は、アメリカ・クアンタム社(アーバイン市)と、FCV用高圧水素タンクについて、日本を含めたアジア太平洋地域での総代理店契約を締結した。クアンタムの炭素繊維製タンクはアルミ製に比べて重量が1/5と軽く、既に700気圧に耐えられる水素タンクも実用化している。なおクアンタムに対してはGMが19.9%出資している。
(日本経済新聞03年4月22日)

 
10.マイクロFCの技術開発
 化研(水戸市)は、携帯電話機などに使うマイクロPEFCのアノード用に使用する高性能触媒を開発した。炭素につけた白金の化合物に、揮発性の高い4酸化ルテニウムを吹き付け、110℃で乾燥させる手法で製造する。新触媒の粒子径は1〜3nmレベルで、従来の白金にルテニウムを混ぜた触媒の粒子(3〜5nm)よりも小さくなっている。大型の反応装置を必要としないので製造コストは従来の触媒の1/10程度と語っている。
(日経産業新聞03年4月7日)

 
11.新燃料および新型FC
(1)シクロヘキサンFC
 北海道大学の市川勝教授らは、シクロヘキサンを燃料とする直接型PEFCの開発に成功した。改質器が不要で、DMFCで問題となっているクロスオーバーによる出力低下がほとんどない、水素発生時にCO発生が無いなどの利点を有している。シクロヘキサンは分子のサイズが大きく、疎水性であるため膜透過量が非常に小さい点に特徴がある。FCの性能実験において、100℃で最も高い出力が得られること、100℃における限界電流は80mA/cm2であることが確認された。
(化学工業日報03年4月4日)

(2)ブドウ糖で動くFC
 アメリカ・ブラウン大学の研究チームは、ブドウ糖を燃料とするFCを開発、それを体内に埋め込めば、長期間動作するブドウ糖センサーとしての利用が可能になり、糖尿病患者の食事後の血糖値検査が不要になると述べている。電解質膜を使わずに、ブドウ糖だけが電極で反応するよう工夫することによってFCは小型化され、更に発電電気量が血流中のブドウ糖濃度によって変化するよう設計されているので、FCがセンサーの電源としても効果的に働く仕組みになっている。
(日経産業新聞03年4月9日)

 
12.FCロボットに試作
 綜合警備保障は03年4月1日、DMFC(詳細は不明)を使った警備用ロボット“XFCR−01”を試作したと発表した。濃度が5.8%のメタノール水溶液を燃料に約40分間稼動する。
(日経産業新聞03年4月2日、日本工業新聞4月18日)

 
13.FC関連計測技術と販売
(1)横河電機
 横河電機は、大容量FCのインピーダンスを直接測定できるインピーダンスメーター“WT1600FC”を開発、販売を開始した。このメーターは、外部センサーを使うことなく800Vまで測定可能で、インピーダンスを高精度で測定できると同時に、10V以下で抵抗値が数mΩ以下の単セルやショートスタックのような比較的小さい測定対象も、端子の切り替えによって対応が可能である。
(電波新聞03年4月2日、日経産業新聞4月11日)
 横河電機は、4月9日、FC用データ収集ユニット“MX100”を開発したと発表した。より高速でのデータ収集(最上位機種で100回/秒)、入力点数の増加(最大200点)、高耐圧を実現、パソコンベースで利用する。メインモジュールと入力モジュールの組み合わせになっており、用途は電圧、電流、温度、圧力、流量などの各種データ収集である。4月10日から販売を開始、工場からの初出荷は5月末の予定、初年度1500台の販売を目標としている。
(電気新聞03年4月10日)

(2)チノー
 チノーは装置計装事業部(埼玉県久喜市)に、FC評価試験の開発や生産に使う実証試験設備を完成した。FC評価試験装置は、FCに水素や酸素を正確な流量、湿度、圧力で送り込んでいるかどうかを検査する。投資額は約2,000万円。
(日経産業新聞03年4月24日)

 
 ―― This edition is made up as of April 30 , 2003. ――


・A POSTER COLUMN
アメリカ・GE
 GEは中国、ドイツに新拠点を設立し、中国やドイツなど世界各地で研究開発体制を強化する。ナノテクノロジーやFCなど最先端技術の開発に各国の優秀な頭脳を活用し、現地市場の開拓にもつなげる戦略である。具体的には、8,100万ドルを投じて、上海とミュンヘンに研究開発拠点(コーポレート・リサーチ・センター)を新設、上海拠点ではエレクトロニクスおよび資材調達に関連した技術開発を進め、ミュンヘン拠点ではFCなど代替エネルギー技術の他、ナノテクなどの研究開発に取り組む計画である。
(日本経済新聞03年4月7日)

天然ガス自動車の普及
 天然ガス自動車の普及台数がうなぎのぼりに増加している。01年末に初めて1万台の大台を超え、02年末には5割弱増えて1万4,810台となった。車種別の内訳は、軽自動車3146台、乗用車987台、小型貨物(バン)2784台、トラック5739台、塵芥車1234台、バス598台、フォークリフトなど322台である。
(日本工業新聞03年4月9日)

ナノテクノロジー素材開発会社の設立
 三菱商事は電池材料メーカの本荘ケミカル(大阪市)と、高温や低温の環境下でも使用できるFCを作るため、ナノテクノロジー素材の開発会社(プロトンC60パワー;資本金1億円)を4月中にも共同で設立する。120℃から−40℃で使用可能な素材の実用化を目指す。大阪大学工学部の大島巧教授らとFCの電解質膜や電極の共同研究に取り組む予定。
(日本経済新聞03年4月16日)

カナダ産業相の来日
 来日したカナダのアラン・ロック産業相は、4月17日の会見で「FC技術で日本企業と戦略的な提携を進め、開発を加速したい」と語った。滞在中にトヨタ自動車、ホンダ、スズキ、三菱自動車を訪問した。
(日刊工業新聞03年4月18日)