第80号 ブッシュ大統領 FreedomFuel 計画を提案

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2. 外国政府機関による政策
3.地方自治体・公共団体による施策
4.PAFCの市場展開
5.MCFCの開発と実証試験
6.SOFCの開発
7.PEFCの要素技術開発
8.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの開発と実証運転
9.DMFCの開発と実用化
10.再生式FCの開発
11.FCV最前線
12.水素生成および施設
13.水素エンジン自動車の開発と商用化
14.FC用燃料GTLの生成技術
15.FC用計測機器の市場展開
16.白金相場の動き
・A POSTER COLUMN

1.国家的施策
(1)環境省
   環境省は、グリーン購入法による特定調達品目の追加などを盛り込んだ概要(案)をまとめ、意見募集を開始した。自動車の基準にFCVが加えられた。
  (日刊工業新聞03年1月8日、化学工業日報1月10日)
   環境省は、海上に建設する風力発電所で海水を電気分解し、FC用水素燃料を取り出す技術開発を、03年度から実施することを決めた。又生ごみや木くづ、廃プラスチックなどの廃棄物から水素を取り出す技術を03年度から開発することを決めた。
  (産経新聞03年1月14日、電波新聞1月15日、電波新聞1月18日)

(2)経済産業省
   家庭用PEFCの実用化に向けて、DSSでの窒素パージの規制、および小出力の発電機でも義務づけられている電気主任技術者の常駐に関する規制が、05年にも緩和される見通しである。PAFCの実用化以来、窒素パージを必要とする燃料ガスの排出規制が設けられており、そのために窒素タンクの設置が必要とされてきたが、日本ガス協会での実証試験において、その必要がないとするデータが得られた。これまでに窒素以外の蒸気、空気でパージできることが実証され、又三菱重工などはパージなしで触媒劣化を防止する技術を確立した。FC開発業界は、非常用発電設備としての設置規制もガス機器並みにすることを要求している。
  (日刊工業新聞03年1月23日)

(3)国土交通省
   国土交通省は北海道大学、日本製鋼所と共同で、03年度から畜産業で発生する廃棄物をバイオマスとして利用したFCシステムの開発に着手する。し尿からメタンガスを取り出し、それを常温で液体になる有機化合物に効率よく変換し、必要なときに水素を取り出す仕組みを確立する。北海道は夏と冬で電力や熱の需要が大きく変化するので、FC用燃料を危険性の低い液体の状態で保存できれば、有効な燃料サイクルが構成される。北海道では年間2,000万トンのし尿が発生するので、これをFC用燃料として利用できれば、温暖化ガスを発生することなく、18万世帯以上の電力と暖房が賄える。05年度での実用化を目指している。
  (日本経済新聞03年1月27日)

 
2.外国政府機関による政策
   ブッシュ大統領は、1月28日の一般教書演説で、エネルギー環境政策の一環としてFCVの開発で世界の主導的地位を目指すとの方針を盛り込み、2002年11月に発表したFCV開発構想を発展させ、12億ドルの研究開発予算の支出を提案した。新たな開発プロジェクトは、“フリーダム・フューエル”と命名された。FCVの普及には水素供給方式など多くの問題が残されているが、業界標準を確立できればアメリカに多大の利益を齎すと述べ、同大統領は「研究室からショールームへ」と早期実用化への意欲を示した。
  (読売新聞03年1月29日、朝日、日本経済、日本工業、日刊工業新聞1月30日)

 :
3.地方自治体・公共団体による施策
(1)東京都
   東京都はFCバスを都に無償貸与する民間企業を募集する。本事業は、都の環境局、交通局、および民間事業者が協力して、都営バスの営業路線でFCバスを運行し、走行データの収集やFCVの普及啓発を図るのが目的。水素の供給には、江東区有明に03年3月末に完成予定の水素ステーションを使う。トヨタと日野は連名で応募した。
  (日本工業新聞03年1月7日、読売新聞1月17日)
   東京都は、1月29日、FCVバスの試験走行事業への参加事業者として、トヨタと日野自動車の2社を決めたと発表した。両社はFCHV−BUS2を路線バス向けに改良して走行させる。
  (日本経済、産経、日本工業、日刊工業、中日、東京新聞03年1月30日、日経産業、日刊自動車新聞1月31日)

(2)静岡県
   静岡県と静岡大学、および静岡ガスなど県内企業が、03年度から産学官共同で、有機廃棄物から生成されるバイオガスを利用したFC発電システムの開発に乗り出す。中小事業所やマンションなどでも導入可能な自己完結型システムの構築が目的として挙げられている。
  (静岡新聞03年1月7日)

(3)大阪府
   大阪工業会が02年10月に設立した“FCシステム部品実用化推進研究会”をきっかけに、部品や周辺機器の研究開発企業によるプロジェクトチームが8組誕生した。03年末までにFCシステムを構成する部品や周辺機器の実用化と製造コスト削減を目指す。
  (日経産業新聞03年1月20日)

 
4.PAFCの市場展開
   東邦ガスは建設中の大同病院と日本赤十字豊田看護大に出力100kWPAFCを使ったコジェネレーションシステムを設置することを明らかにした。大同病院は03年8月、豊田看護大は04年4月に稼動を開始する予定である。
  (中日新聞03年1月21日)

 
5.MCFCの開発と実証試験
(1)IHI
   IHIは、NEDO事業として進めている中部電力川越火力に設置した加圧型MCFC最終実証機(電気出力300kW)およびトヨタ自動車から受注した最初の実用機(同300kW)による運転を03年1月から開始する。これらによる実証結果を踏まえて04年度には50〜60万円/kWでの実用化を目指すとしている。中部電力川越火力向けは天然ガスを燃料に動作温度650℃、圧力4気圧程度で運転し、送電端発電効率43%の実現を目指す。トヨタ向けはマイクロガスタービンと組み合わせた複合発電で、トヨタ元町環境センターに設置、本格運転に入る。なお中部電力新名古屋火力に導入する機種も受注しており、第2ステップでは30万円/kWを目指すと同社は述べている。
  (日刊工業新聞03年1月7日、建設通信新聞1月8日)

(2)ファーストエスコ
   省エネルギー支援サービス事業のファーストエスコは、FCを使ったコジェネレーションシステムを工場などにレンタル形式で設置し、その管理や運営、燃料の調達まで一手に引き受けるサービス“グリーンオンサイト”を開始した。04年にも産業分野を対象に、出力250kWMCFCで20件程度の設置を目指している。同社が設備投資コストを負担し、需要家の敷地内で発電する。出力250kWMCFCのコストは1億5,000万円程度で高価である。
  (日刊工業新聞03年1月30日)

 
6.SOFCの開発
(1)東邦ガス
   東邦ガスは電解質材料にスカンジア安定化ジルコニアを採用し、従来の1.5から2倍の高い発電能力を持つSOFC単セルを開発した。スカンジウムとジルコニアの配合量や粒子の大きさを調整することにより、高出力と同時に強度を確保することができた。単セルは、直径12cm、厚さ0.1mmでCDに似た形状を示している。03年度中に電機メーカなどに向け単セルの販売を開始するが、将来は1枚当たりの価格を1,000円程度に抑えるとともに、電機や機械メーカと組んでシステム開発を行うことも検討中である。
  (日経産業新聞03年1月15日)

(2)NKK
   NKKは同社が提携しているカナダのフューエル・セル・テクノロジーズ(FCT)から出力5kWSOFCを2月末に導入し、電力系統と連系した実証運転を03年3月から実施、04年からサンプル集荷を開始する。FCTは先ずプロトタイプ機5台を組み立て、内1台をNKKが購入して横浜市の研究所に設置する。燃料は都市ガスで改質機なしで動作し、送電端効率は40%以上を目指している。FCTは03年中に準商用機を20台組み立てるが、その内の1台もNKKが購入することにしている。又04年にはLPGとバイオガスも燃料として投入し、実証運転を行う予定である。
   他方、NKKはシーメンス・ウエステイングハウス・パワー(SWPC)製250kWSOFC実証機を05年に導入し、06年から販売に乗り出すことを計画している。SWPCは現在年間2,000kW規模の試験設備をピッツバーグの研究所に持っているが、ここに量産工場を03年までに建設する予定であり、04年からは長さ1.5mのSOFC円筒型セルの量産が軌道に乗るものと思われる。
   NKKは購入するセル以外は、補機類、インバータなどを自ら設計し、システムとしては国産化して販売することにしており、価格については5kW機、250kW機とも60万円/kWを目標としている。
  (日刊工業新聞03年1月21日、日経産業新聞1月30日)

 
7.PEFCの要素技術開発
(1)ユニチカ
   ユニチカは特殊フェノール樹脂を活用した射出成形が可能なセパレータの本格事業化に乗り出す。特殊フェノール樹脂にフィラーを混ぜ、炭化焼成させたガラス状カーボン製品で、従来の黒鉛製品に比べて電気伝導性、ガスバリア性、耐腐食性に優れている。又射出成形ができるため、コスト的にも有利であり、同社は宇治工場に年10万枚の生産能力のある設備を設置し、サンプル出荷を開始した。
  (化学工業日報03年1月8日)

(2)ダイナックス
   ダイナックス(千歳市)は、東北大学大学院とセパレータを共同開発する。材質などを工夫して大幅にコストを下げ、1枚100円程度の低価格品を実現、05年春を目途に商品化する予定。
  (日経産業新聞、河北新報03年1月10日)

(3)名工大
   名古屋工業大学の野上正行教授らは、ゾルゲル法でプロトン伝導性の高いリン・ケイ酸塩系ガラス薄膜を開発した。表面比抵抗値は、PEFC用電解質のナフィオン膜の1/2以下で、50℃で約0.2Ω/cm2であった。電流・電圧特性を計測し、同薄膜がFC用電解質として利用可能であることを確認した。マイクロFCとしての実用化が期待される。
先ず金属アルコキシドと、市販の非イオン系界面活性剤を反応させてゾルを作り、それを基板にコーテイングする。これを約400℃で加熱処理して界面活性剤を除去するとともにガラス化することにより膜が作製される。ガラス膜の厚さは0.5μmで、界面活性剤が取り除かれた後の細孔の径は約2nmと微細であり、細孔表面積は1g当たり800m2と非常に大きい。細孔構造は界面活性剤により制御が可能である。細孔内にいったん吸着された水は、細孔自体が非常に微細なため離脱しにくいことが特徴で、湿度が40%以下の環境でも抵抗値の上昇は見られず、安定した特性が得られるので、これを電解質として使ってもナフィオン膜のような水分管理は不必要である。
  (日刊工業新聞03年1月13日)

(4)東北大
   東北大学金属材料研究所の井上明久教授らの研究チームは、極めて強い耐食性を持つ新しい金属素材の開発に成功した。ニッケルを中心にニオブなど3金属を配合した合金で、結晶しにくく加工が容易なのが特徴である。塩酸に対してステンレスの1,000倍以上の耐食性があり、強度は同約7倍、薄い板状に加工することもできると報告されている。FC用セパレータに適用すれば大幅なコストダウンが期待される。
  (朝日新聞03年1月14日)

(5)大阪市立工業研究所・三昌化工
   大阪市立工業研究所は、1月15日、三昌化工(豊中市)と共同で、ベンゾオキサジン系フェノール樹脂を使うことにより、従来の製品に比べて製造コストを数10分の1にまで低減できるセパレータの製造技術を開発したと発表した。このフェノール樹脂は大阪市立研究所が開発した熱硬化性樹脂で、これに黒鉛などの導電材を粉末の状態でブレンドし作成する。圧縮成形、トランスファー成形など金型を使った高精度加工、量産化が可能で、セパレータ1枚当たりの加工時間は10分程度である。三昌化工は今後サンプル提供を始めるが、03年秋頃からはA4サイズのセパレータを量産する計画を立てている。
  (朝日、日刊工業新聞03年1月16日、日本経済、日経産業、日本工業新聞1月17日)

(6)産総研
   産業技術総合研究所は、ニューガラスフォーラム、姫路工大と共同で、100℃以上の高温でも使用可能な導電膜を開発した。開発された膜は、厚さ0.5mm の多孔質ガラスが持つナノレベル細孔(直径4nm)中に導電性有機分子を導入したもので、水蒸気や有機溶剤による膨張がない点に特徴がある。産総研では今後細孔の配向を制御することにより、更に高い導電性を持つ膜を開発したいと述べている。
  (日刊自動車新聞03年1月23日、化学工業日報、日本経済、日経産業、建設通信新聞1月24日、日本工業新聞1月28日、日刊工業新聞1月29日)

(7)宇部興産
   宇部興産は、ポリイミド多孔質膜を2,800℃程度の高温で黒鉛化することにより、優れた電気伝導性や耐腐食性、柔軟性などを持つナノ構造の炭化多孔質膜を開発した。直径10nmから1μmの連続した多孔構造をしており、酸素ガスや水などを通過させるのに適していることから、PEFCの電極材として利用できると期待している。
  (日経産業新聞03年1月27日)

 
8.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの開発と実証運転
(1)MHI
   三菱重工業広島研究所と広島製作所は、03年1月8日、都市ガス(天然ガス)燃料の家庭用1kWPEFCの実用性を評価試験するためサンプル出荷を開始した。02年12月と03年1月に各1台を大阪と東京のエネルギー関連団体の評価機関に出荷し、高温、多湿、暴風雨など様々な条件下で実証試験を実施する。03年度には広島地区を含めて約10台を出荷し、実証試験を通して発電効率を高めるとともに小型化して2005年での発売を目指すことにしている。このサンプルは、配管を簡素化して台座に埋め込む“2次元集積配管”や窒素を使わずに残留ガスを除去する独自技術でコンパクトした点に特長があり、改質器では東京ガスの技術を導入している。発売時には1台50万円以下の販売価格の実現を目標とする。
  (日経産業、電気、日刊工業、日本工業、中国新聞03年1月9日、化学工業日報1月10日)

(2)新日本石油
   新日本石油は、03年1月末からLPGを燃料とする家庭用1kWPEFCのモニター試験を開始する。本体は高さ1m、幅90cm、奥行き50cmで、発電効率は32%、熱供給を含めたシステム総合効率は72%と発表されている。横浜市、新潟県、静岡県、東急建設や三菱地所などへ貸し出し、公営住宅や企業の社宅などに約100ヶ所以上設置する。同社の横浜製油所内にある監視センターでモニタリングし、24時間体制で故障などに対応する。同社は1連の実用試験結果を踏まえて、遅くとも05年には1台50万円以下を目標に本格販売することを目論んでいる。
  (読売、朝日、毎日、日本経済、産経、日本工業、日経産業、日刊工業、東京新聞03年1月9日、化学工業日報、日刊自動車新聞1月10日)
   新日本石油が開発したプロパンガスを使う1kW家庭用PEFCシステムの実証実験が、市長庁舎および横浜みなとみらい21(MM21)地区の住宅展示場で行われることが決定した。
  (日刊工業、神奈川新聞03年1月23日、日本工業新聞1月24日)

(3)東京ガス
   東京ガスは、家庭用PEFC向け燃料処理器の大幅な性能向上に成功したと発表した。新タイプの改質装置は、定格出力1kWに対して0.3kWの低出力運転でも76%の高い改質効率を達成した。又内部構造の簡素化により、従来製品に比べて1/2の軽量化にも成功しており、今後家庭用コジェネレーションシステムのコストダウンにつながると予想している。
  (日本工業、電気新聞03年1月31日)

(4)荏原と東ガス
   荏原と東ガスは1月30日、都市ガスを燃料とする家庭用PEFCコジェネレーションシステムを開発したと発表した。総合エネルギー効率は92%まで向上し、容積も従来の試作機に比べて約17%コンパクト化した。04年度での実用化を目指す。
  (日本経済、日経産業、日刊工業、日本工業新聞03年1月31日)

 
9.DMFCの開発と実用化
   YUASAは可搬型DMFC“YFC−100”を03年3月中旬に売り出す予定である。最大出力100W、本体の大きさは幅35cm、奥行き38cm、高さ42cm、重量25kg、低濃度の液体メタノール溶液2Lで8時間の発電が可能である。価格は100万円程度を予定している。
  (日本経済新聞03年1月7日)

 
10.再生式FCの開発
   北海道大学の市川勝教授等のグループは、充電が可能な再生式FCを開発した。同教授はシクロヘキサンなどの液体を300℃に熱して水素を取り出す技術を開発しているが、水素原料を霧状にして、高温熱を使うことなく液体から水素を取り出し、それをFCに供給することができる手段を開発した。このFCは外からの電力によって水を分解して水素を取り出し、再び発電ができる再生型FCとしての利用が可能であり、電源開発と協力して実用化を図る。
  (日本経済新聞03年1月10日)

 
11.FCV最前線
(1)FCVのリース販売
   トヨタとホンダがリース販売を開始したFCVを幾つかの民間企業が購入することになった。トヨタの“FCHV”は、東京電力と新日本石油、東邦ガス、岩谷産業が、ホンダの“FCX”は岩谷産業が、いずれも6月に購入する。他方、地方自治体では愛知県がFCHVを導入する予定である。
  (日刊工業新聞03年1月1日)

(2)ダイハツ
   ダイハツ工業(池田市)は、03年1月12日、FC搭載の軽乗用車の走行試験を、1月中にも開始する予定であると発表した。ダイハツの軽乗用車“ムーブ”の車体にトヨタのPEFCシステムを搭載しているが、軽自動車の小さな空間にFCを収納するための独自の工夫が凝らされている。
  (毎日新聞03年1月13日)
   ダイハツ工業は、1月15日、FC軽自動車(FCV−K−2)2台による公道走行を、国土交通省から認可されたと発表した。1月中に公道走行試験を始め、商品化に必要なデータを収集する。燃料は250気圧の高圧水素ガスで、最高速度は105km/h、1回の充填で約120kmの走行が可能である。トヨタのハイブリッドカーの技術を応用、減速時に発生するエネルギーの回収および補助電源用にニッケル水素電池を搭載し、又モータにCVT(無段変速機)を組み合わせている。
  (朝日、日本経済、毎日、読売、産経、日経産業、日本工業、日刊工業、東京、日刊自動車新聞03年1月16日、化学工業日報1月17日、電気新聞1月23日)

(3)中国
   新華社電によると、中国が開発したFCV“超越1号”の試運転が上海の同経済大学構内で行われた。中国のFCVについては、上海汽車、上海経済大など十数の企業、研究機関が約1年前から共同開発に取り組んでおり、2008年の北京オリンピックや、10年の上海万博向けに実用化を目指している。
  (産経新聞03年1月14日)

(4)トヨタ、日産、DC等
   トヨタ自動車、日産自動車、ダイムラークライスラーなど世界の主要自動車メーカ約20社は、FCVの走行距離を500kmにまで上げる技術を共同で開発する。具体的には700気圧の高圧水素ガスを蓄えることができるタンクを開発し、水素貯蔵量を4割増加させる。
  (日本経済新聞03年1月13日)

(5)内山工業
   内山工業(岡山市)は、FCV向けガスケット(密封材)の量産体制を整えた。量産化のため、子会社の工場に成形機や原料の混練機など専用設備を約1億円かけて導入した。
  (山陽新聞03年1月18日)

 
12.水素生成および施設
(1)日本酸素
   日本酸素はFCV用水素の移動式充填装置を開発、国の委託を受けて経済産業省の中庭に設置し、実用化試験を開始した。1回の水素補給で10台のFCVを満タンにする容量を備え、約5分で1台のFCVに水素を充填することができる。装置は大型トラックで輸送、約30分の作業で設置が可能であり、又固定式の水素ステーションに比べて10分の1の価格ですむとともに機動性も高いので、FCVの普及にプラスになると期待されている。水素貯蔵タンクの容量は300m、製鉄所などで発生する水素をタンクに詰め、装置ごとトラックで運んで所定の場所に設置する。価格は約2,000万円である。
  (日経産業新聞03年1月6日)

(2)産総研
   産業技術総合研究所は、パラジウム薄膜を用いて、水素を効率よく分離する技術を開発した。水素貯蔵物質に吸収させて運んできた水素を供給所などで取り出す装置として利用する。開発した装置は、筒状の容器の中に厚さ約1μmのパラジウム膜から成る細管を通した2重構造になっている。容器内細管の外側に水素貯蔵物質のシクロヘキサンと触媒を入れると、水素とベンゼンに分解する反応が進行するが、パラジウム膜は水素のみを透過させるので、細管の内側には水素のみが分離されて存在する。細管内側の圧力を下げると、水素の回収率は90%にも達した。パラジウム膜は高価であるが、この新手法では1m2当たり1万ないし2万円で合成できると同所は語っており、今後実用化を目指して大型装置で試験する予定である。
  (日経産業新聞03年1月8日)

(3)三井造船
   三井造船は、家畜糞尿からメタンを取り出すバイオガス化プラントで、発生したメタンに含まれる硫化水素の濃度を現行の1/5,000以下に抑制できる技術の実用化に目途をつけた。硫化水素中の硫黄分を硫酸アアンモニウムの形で除去する硫黄酸化細菌と呼ばれる微生物の働きを活用したもので、既存の脱硫工程の最終段階にこの方式を導入した実験によって、現行の50ppm程度の硫黄濃度が、10ppb程度にまで低下することを確認した。同方式の脱硫設備2基で並列処理した後、更に脱硫効率を高めた設備をもう1基配置すれば、硫化水素や他の硫黄化合物の濃度も数ppb単位に下げることが可能と報告されている。
  (日本工業新聞03年1月14日)

(4)住商エア・ウオーター
   住商エア・ウオーターはFCVに水素を供給する移動式の水素ステーションを開発した。超高圧対応の容器やデイスペンサーをシステムにしてトラックに積み込んだ。現在のFCVでは400気圧の充填が可能になったが、低圧の工業用ガスの運搬車から水素を取り込んで昇圧する圧縮機付システムも開発した。700気圧水素ステーションを1年以内にも開発する予定。トヨタ自動車には1台5,000〜6,000万円で納入し、日産自動車とはレンタル契約を締結した。圧縮機付システムの料金は1週間で200万円。
  (朝日、毎日、日本経済、日経産業、日本工業、日刊工業、東京新聞03年1月31日)

 
13.水素エンジン自動車の開発と商用化
(1)フォード
   フォードは1月5日、デトロイドモータショウで、高圧水素(690気圧)燃料を搭載した水素エンジンとバッテリー駆動によるハイブリッド水素自動車“モデルU”を発表した。スーパーチャージャーと内部冷却型エンジンの適用、および回生制動によるエネルギーの回収によって、燃費効率をガソリン車に比べて25%高められている点に特徴がある。水素タンクはカナダのダインテックとの共同開発、ボデイーにはリサイクル材や分解性プラスチック材を使用している点も特徴と云える。
  (日刊工業新聞03年1月6日)

(2)BMW
   BMWは水素自動車の商用化について、最終的な開発日程を纏めたが、早ければ05年にも限定販売ながら市場投入を目指すことにしたようである。先ず最初は内燃機関エンジンの7シリーズをべースにしたバイフューエルカー(ガソリンと水素を同一内燃機関で駆動)が主体で、補助電源としてPEFC又はSOFCの搭載を考えている。燃料は液体水素で、航続距離を伸ばすためにオーストリアのマグナシュタイヤーと大容量タンクを開発する。液体水素の場合、ボイルオフが最大の課題であり、水素を回収しFCで電力に変換する、あるいは触媒で酸素と反応させて水で放出するなどの案が検討されている。上記のバイフューエルカーと2010年以降に予定している水素のみを燃料とする自動車の大量生産を目的に、基本設計を開始したと報じられているが、水素ステーションの普及が商用生産に大きな影響を与えそうである。
  (日刊工業新聞03年1月6日)

 
14.FC用燃料GTLの生成技術
   新日本石油は、天然ガスからGTLを精製する技術と平行して、原油からGTLに相当するクリーンな燃料油を製造するための技術開発を本格化させる。GTLは技術的には製造可能な段階にあるが、コスト面では多くの課題を残している。現段階では、原油から製造した従来の燃料油とは価格面では競争可能なレベルにはないが、硫黄分を含まないなど環境面では優れた性質があり、中長期的には熱源や輸送用燃料、FCなどへの利用が期待できる。研究開発は中央技術研究所で展開し、様々な不純物を含む原油から、その組成を崩すことなく硫黄分などを取り除くことなどに開発の焦点をおいて進める考えである。
  (日本工業新聞03年1月15日)

 
15.FC用計測機器の市場展開
(1)ハイドロジェニックス
   FCおよびFC関連試験装置を手がけているカナダのハイドロジェニックスは、カナダの同業メーカグリンライトパワーテクノロジーズ(GPT)を買収した。ハイドロ社は豊田通商と協力して日本でも試験装置を販売し、GPTの製品は東陽テクニカが国内での独占販売権を持つ。両社を合わせた国内での売上高は30〜40億程度と見られている。
  (日経産業新聞03年1月16日)

(2)北大
   北海道大学の大沢雅俊教授等は、触媒反応を短時間で詳しく調べられる検査装置を開発した。白金電極を溶液と反応させて電極表面で起きる現象を赤外光で分析する方法で、1万分の1秒以下での分析が可能である。具体的な方法は、調べたい溶液を装置の中に入れて、白金膜と溶液を反応させ、反応の過程で白金膜の表面に付着した分子の変化を赤外光で観察する。赤外光は分子の種類によって吸収される波長が異なるので、吸収後にはね返ってくる光の波長分布を詳しく分析すれば、白金膜の表面でどのような反応が起こっているかを突き止めることができる。同教授等は、DMFCの電極で起こる反応過程などをこのセンサーで調べることに成功しており、FCの開発に役立つと期待されている。
  (日経産業新聞03年1月28日)

 
16.白金相場の動き
   1月30日の東京工業品取引所の貴金属相場で白金が急騰した。29日のブッシュ大統領の一般教書演説でFCVの開発に12億ドル拠出するとの提案を好感し、ニューヨーク・マーカンタイル先物取引が急騰したことを反映した。又パラジウムの交際相場も、白金につられる形で堅調に推移している。
  (日刊工業新聞03年1月31日)

 

 
 ―― This edition is made up as of January 31, 2003. ――


・A POSTER COLUMN

アメリカの”FreedomFUEL Program”

   アメリカのBush大統領は、03年1月28日、彼の一般教書演説 “The U.S. President’s State of the Union Speech as his platform” において、FCVの実用化を推進するための新しい開発計画 “FreedomFUEL” を提案し、2002年に発足した“FreedomCAR” を含めて総額12億ドルの資金を拠出する計画を議会に提案した。本文はFuel Cell Seminarの組織委員宛にメイルで送付されてきた大統領提案の要約およびそれに対する反応をレビューした資料である。
   大統領は先ず「新たな国家的施策(with a new national commitment)によって、科学技術者たちは“現在FCVを研究室からショールームに持ち出すことを阻んでいる障害”を克服し、今日生まれた我々の子供たちは、将来水素で駆動するクリーンな自動車を運転することになるであろう」と語りかけ、このプランの意義として「アメリカ社会に水素システムを持ち込むことによって、エネルギー資源の外国への依存度を減らし、かつ大気の汚染を防止すること」を挙げ、最終的には水素経済社会“Hydrogen Economy”を確立することにあると述べている。
   演説はその具体的な内容について語っていないが、1月29日にはアメリカDOEがそれに肉付けを施した内容を発表した。”FreedomFUEL”は、02年にスタートした“FreedomCAR”と対をなすプログラムであり、上述したようにそれが水素社会の実現を目標として掲げている関係上、FCVのみならず、ビルや家庭用FCの技術開発をも含めている。特に課題としては「自動車メーカを中心にFCのサイズやコストについてはかなりの成果が得られたものの、水素の生成、輸送と供給、および貯蔵にはまだ克服すべき最大の課題が残されている」と指摘し、燃料技術の開発を強く意識しているように思われる。
このBushのプランに対して産業界はおおむね賛成であり、特にCalifornia Fuel Cell PartnershipのスポークスマンJoe Irvinは「このプランは自動車用FCの商用化を進めるための強力な推進力になる(A presidential push is golden and gives extra momentum to the quest for commercialization of fuel cells for transportation)」と大統領の提案を賞賛した。しかし、投資銀行協会のアナリスト(An analyst at the investment banking firm Adams, Harkness and Hill)であるEric Proutyは「大統領の教書によって幾つかの燃料電池関連会社の株は上昇したが、しかし市場はより具体的な施策を見守りたいとの空気であり、燃料電池が未だ利益を出す段階に至っていないことを考えると、気まぐれな展開を示すことになろう」と述べている。
   他方、辛らつな評価も囁かれている。特に環境関係の専門家からは、大統領の意図に対して懐疑の念を表明している人が多い。例えば「FreedomCARによって政府は多くの資金をDetroitに投じているが、彼らは未だ市場に1台のFCVも市場に投じていないではないか。ホンダとトヨタは現在ハイブリッド自動車を売り出しているが、ビッグ3は皆無である。自動車産業は石油依存性と環境破壊を齎している現在の技術に対する盾として、FCV実用化についての将来の約束を振り回しているに過ぎない」(the Sierra Club’s Daniel Becker)などがそれである。更にThe National Environment Trustの会長Philip Clappは「2年前にAl GoreがFCを提案したとき、Bushはそれを無視した経緯がある。この案は彼がかつてあざ笑った技術を進める上で大した効果を齎すとは考えられない」(won’t make much difference to promote the very technologies he made fun of two years ago)と語っていた。
  (Mail To the International Committee Members, Subject; President Bush’s speech)