第78号 官用車としてFCVのリース運行スタート

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.海外における公共機関の施策
3.SOFCの開発と利用展開
4.PEFCの開発と利用
5.DMFCの研究開発と事業化
6.改質技術の開発と市場展開
7.FCV最前線
8.水素関連技術および水素ステーションの建設
9.携帯機器用マイクロFCの開発
10.FC計測および評価システムの開発と事業化
11.その他のFC開発動向
12.A POSTER COLUMN

1.国家的施策
(1)内閣官房 
  福田康夫官房長官は、02年11月8日の閣僚懇談会で、政府公用車へ低公害車を導入する政策の一環として、12月2日に小泉首相が出席してFCVの納車式を行うと述べ、更に各閣僚に対して「引き続きFCVの本格導入に必要な取り組みを着実に進めて欲しい」と要請した。
(日刊自動車新聞02年11月9日、化学工業日報11月11日、日本工業新聞11月12日)

(2)経産省・資源エネルギー庁
  経済産業省は、移動式水素供給設備を導入、同省の中庭に設置する。中央官庁が導入するFCVへの水素充填設備として使うほか、国の予算で実施するFCV実証運行試験において、水素充填用サポートカーとして運用する。同設備は、水素を詰めるボンベ、水素ガスの昇圧機、蓄圧機、水素充填用デイスペンサーから構成されており、1度に2台分のFCVに350気圧の水素ガスを充填することができる。通常は首都圏の水素ステーションに常駐する予定。
(日刊自動車新聞02年11月20日、日刊工業新聞11月29日)
  NEFは、資源エネルギー庁の2002年度PEFCシステム実証研究の一環として、東京、大阪、名古屋の3大都市圏における交通頻繁地区および一般住宅地区で、定置式PEFCの運転試験を開始した。運転試験では、家庭用コジェネレーションシステムに関して、実際の電力・熱需要データやそれに対応する運転状況に関するデータを収集する。
(電波新聞02年11月21日)
  経済産業省は、環境JISの作成促進のアクションプログラムの勧告を受けて、FC、風力・太陽光発電などを対象に、環境規格を策定する方向で検討を始めた。
(電気新聞02年11月25日)
  資源エネルギー庁は、11月28日、全長20cmのFCVを作製できる教材用キットを全国の中学校に無料配布すると発表した。2,500セットを用意し、応募のあった中学校に提供する。大同メタル製の小型FCを搭載し、水素ガスをボトル缶から注入して走らせることができる。
(日刊工業、東京、日刊自動車新聞02年11月29日)

 
2.海外における公共機関の施策
(1)EU 
  EUは02年10月10日、EU域内における輸送やエネルギー生産、その他関連分野で水素を燃料とするFCの潜在的な利点を評価するため、“水素およびFC技術に関する高レベル・グループ(HLG)”を発足させた。同グループは、EU加盟国の電力・エネルギー企業、自動車メーカ、公の研究センター、政策立案者など関連分野の代表者の他、フランス原子力庁のP.コロンバニ長官、ノーベル賞受賞者で核物理学者のC. ルビア氏などで構成される。HLGはFC産業と持続可能な水素エネルギー経済の実現に向けて、研究開発項目や実用化対策など、欧州全体として取るべき行動を、2003年半ばまでに報告書としてまとめることになっている。独立の調査機関が実施した市場調査によると、FCを推進機関とする輸送機関産業の市場規模は、2020年時点で163億euro、2040年には520億euroに達すると予想されている。他方この分野におけるEUの開発予算は、アメリカや日本に比べて少なく、03年から06年までの第6次研究開発枠組み計画では、FC関連に第5次(99〜02年)よりも多くの予算が割り当てられる見込みである。又水素生成のための資源としては、化石燃料や再生可能エネルギーのみならず原子力も挙げられている。
(原子力産業新聞02年11月7日)

(2)アメリカDOE
  アメリカのエネルギー省(DOE)は、02年11月15日、ラスベガス市に建設された水素ステーションの開所式を行った。この施設は市のFCVならびに30世帯に電力を供給できるFCに対して水素を供給するためのもので、DOEとラスベガス市に加え、2つの民間企業が計画に参加している。又この計画は、同地域での水素燃料インフラの建設を推進する5ヵ年試験計画の一環であり、水素利用技術の実地試験を行うのが目的である。
(電気新聞02年11月20日)

 
3.SOFCの開発と利用展開
(1)中部電力とMHI
  中部電力とMHIは、FCを使った分散型電源事業を手がける共同出資会社を2004年を目途に設立、SOFCによるコジェネレーションシステムを製品化して、全国の商業施設などに売り込む意向である。両社は03年から一体積層で平板型SOFC50kW級コジェネレーションシステムの評価試験を開始する予定で、その事業化を急ぐとともに、これをベースに50〜200kWの製品をシリーズ化する意向である。
(日本経済新聞02年11月2日、化学工業日報11月6日)

(2)ホソカワ粉体技術研究所
  ホソカワ粉体技術研究所(大阪・枚方市)は、大阪大学接合科学研究所と共同で、SOFCに使う電極の高性能化に成功したと発表した。ホソカワのメカノケミカルボンデイング(MCB)技術を活用したもので、混合法で作成した電極に比べて電気抵抗は1/3に低減し、1cm2当たりの出力密度は3倍にまで高められた。特に作動温度800℃の低温において、決定的な優位性が確保できることを確認した。このMCBとは、接合剤などを使わずに粒径が数μmの超微粒子同士を結合させるホソカワの持つ独自技術で、今回は酸化ニッケル粒子とジルコニア粒子を一定の配合比で結合することにより、微細構造で均質性において優れた電極の作成に成功した。
(日刊工業新聞02年11月5日、化学工業日報11月6日)

 
4.PEFCの開発と利用
(1)カナダの企業
  カナダのパルキャン・フューエルセルズは、100Wから5kWのPEFCシステムを開発、これを利用してFC搭載の自転車を製作した。同社は小型FCを得意とし、電解質膜、FCスタック、水素吸蔵合金など要素製品でも事業化を図っている。同FC駆動自転車は、バッテリーを積んでおり、発車時や登り坂ではバッテリーから電力が供給される。低速用(1.5kW)、中速用(3kW)、通常(5kW)のパワーシステムを用意している。
(化学工業日報02年11月1日)
  同社はFC駆動のスクーターを開発、日本の2輪車メーカに技術をライセンスする形で、2年後には日本市場を対象に本格発売する計画である。上記5kWPEFCを使っており、水素を燃料として最高時速は約100km/h、1回の燃料充填で100〜120kmの走行が可能である。
(電気新聞02年11月22日)
  バラード社のジョン・ハリス副社長が來日し、自動車用と定置式で日本市場を開拓すると表明、自動車用についてはホンダや日産自動車に納めるなど、同社の市場戦略について述べた。更に「自動車用では冬の朝でもすぐ走り出せる性能が重要であり、発電部内の内部構造を改良して、電解質膜の水分が凍りつく問題を解決するとともに、電解質膜で世界標準となっているデユポン製を上回る高性能タイプを開発する」と語った。なお同社が過去15年間に取得したPEFC関連特許は1,200件以上に達している。
(日本経済新聞02年11月1日、日経産業新聞11月6日)

(2)三井物産
  三井物産は、H−パワーが製造、10月にアメリカで発売した出力500WのPEFCを、日本国内で輸入販売する。本体の大きさと重量は幅49cm、高さ36cm、奥行き57cm、重さ約30kgで、設置工事が不要、持ち運びが可能である。価格は250万円以下、水素の供給用ボンベも販売する。当面通信設備のバックアップ用電源などとしての利用を想定しており、初年度100台以上の売り上げを目指している。
(日本経済新聞02年11月17日)

(3)富士総研
  富士総合研究所はPEFCの設計用シミュレーションソフトを開発した。流体力学の解析技術などを駆使して、最適な電気特性のFCを短時間で設計できるツールを作成、自動車・電気メーカに売り込む積りである。このソフトでは、水素や酸素が流れる流路の数や太さ、配置パターン、高分子膜の厚さなどのパラメータを変えて、PEFCから取り出せる電流や電圧を計算できるし、ガス濃度分布などを画面に表示したり、特定部位の電流と電圧の関係などもグラフ化することができる。電流を増やすと発生する水分が増大し、高分子膜が詰まるという状況もシミュレーションが可能である。価格は1億円以下となる見通しである。
(日経産業新聞02年11月19日)

(4)新日本石油
  新日本石油は、国内給油所の自家発電用として、03年から自社製出力8.5kWPEFCの設置を進めることにした。2005年までに約100箇所、2010年には同社系給油所の約1割に相当する約1,000箇所に広げるつもりで、量産効果を追求し、早期の商品化につなげたいとしている。給油所の最大消費電力は30kW程度であるが、通常レベルの営業なら8.5kWで十分まかなえるし、発生する熱は洗車用温水の加温に利用する予定で、電力会社から電力を購入する場合に比べてコストは3割程度節約になると見積もられている。
(日本経済新聞02年11月22日)

 
5.DMFCの研究開発と事業化
(1)東レ
  東レはポリマーをナノレベルで構造制御することにより、DMFC用に低メタノール透過とプロトン伝導を両立させる高分子電解質膜の開発に着手した。同社はDMFC用MEAを早期に事業化させる方針で、外部の企業や大学、研究機関などとのアライアンスを模索していく予定である。
(化学工業日報02年11月25日)

(2)YUASA
  YUASAは02年11月26日、安定で小型化が可能なDMFCをベースとして開発した可搬電源“YFC−100”を03年3月中旬に発売すると発表した。最大出力は100W、大きさは350mm×380mm×420mmで、重量は25kg、内蔵している3%の低濃度メタノール水溶液2Lで8時間の発電が可能である。キャンプ用や非常用電源として初年度100台、2年目以降500台の販売を見込んでいる。当初の価格は1台100万円程度であるが、量産化を進める2年目以降は20万円程度になると予想している。
(毎日、産経、日経産業、日刊工業新聞02年11月27日、化学工業日報、電波新聞11月28日)

 
6.改質技術の開発と市場展開
  大阪ガスは、天然ガス改質装置について、実用機としての技術開発が完了したとの判断から、1kW用と500W用2機種の販売を開始する。これまで三洋電機、H−パワー、荏原バラードの3社に技術を供与して共同研究を続けてきたが、ほぼ実用レベルの技術開発が完了、又海外を中心に改質機のみを求める声が高まってきたため、国内外に広く製品を提供することにした。9万時間の運転が可能で、CO濃度は9万時間の運転後でも10ppm以下に抑えられている。価格は300万円であるが、購入先が自ら生産することも可能で、年間10万台規模の量産を行えば、製造コストは5万円程度に抑えられると予想されている。国内向け販売は大ガスが、海外向けは三井物産が窓口となる。
(日刊工業新聞02年11月15日)

 
7.FCV最前線
(1)ホンダ
  アメリカエネルギー省と環境保護庁が発行した“2003年モデル自動車燃費ガイド”にホンだのFCV“FCX”が掲載された。今回のガイドブックから従来のガソリン車、デイーゼル車、圧縮天然ガス車などに加えてFCVの項目が設けられた。
(日経産業、日刊自動車新聞02年11月1日)
  ホンダは02年11月22日、国土交通省からFCVの公道運行に関する大臣認定を取得したと発表した。大臣認定取得は、11月18日のトヨタに次いで2社目になる。トヨタと同様、12月2日にFCX1台を内閣府にリース販売する。リース料は期間が12ヶ月で月額80万円と発表されている。FCXは4人乗り、バラード社のPEFCに自社開発のウルトラキャパシターを組み合わせて搭載、最高時速は150km/h、燃料は350気圧の圧縮水素ガスで、1回の充填で355kmの走行が可能である。
(読売、朝日、毎日、日本経済、産経、東京新聞02年11月23日、日経産業、日刊工業、日本工業、日刊自動車新聞11月25日、化学工業日報11月26日)

(2)トヨタ
  トヨタ自動車は、FCV“FCHV”を02年12月2日から首相官邸(内閣官房)と国土交通、経済産業、環境省に各1台、合計4台をリース販売する。機種はFCHV−4の改良型で、SUVの“クルーガーV”を原型としたもの、燃料の高圧水素ガスは車内の高圧タンクに貯蔵される。最高速度は155km/h、1度の充填で300kmの走行が可能である。国交省から公道走行の大臣認定を受けた販売開始で、リース料は月額120万円、30ヶ月間の貸し出し契約となっている。
(日本経済、読売、朝日、毎日、日経産業、日本工業、日刊工業、東京、中日、鉄鋼、日刊自動車新聞、化学工業日報02年11月19日)
  トヨタ自動車のアメリカ法人である米国トヨタ自動車販売は、02年12月2日からカリフォルニア大学アービン校および同デービス校に対して、FCHVを各1台づつ、月額1万ドルで30ヶ月間のリース販売を行うと発表した。
(鉄鋼新聞02年11月20日)
  トヨタ自動車、日野自動車、および東京都は、2003年にもFCバス“FCHV−BUS2”を都内の路線バスとして実験走行することを検討している。今後都内に水素スタンドが整備される見込みで、これに合わせてFCバスの走行運転実験を実施し、問題点を検証していく方針である。
(日刊自動車新聞02年11月22日)

(3)DM社
  ダイムラークライスラーは、03年初めに、世界各地でFCVによる1連のテスト運転を計画していると発表した。同社は又水素化ホウ素ナトリウムを燃料とするFCVの開発を予定している。
(日刊自動車新聞02年11月29日)

 
8.水素関連技術および水素ステーションの建設
(1)有明水素ステーション
  有明水素ステーション建設起工式が、02年11月12日に、東京都江東区の同ステーション建設予定地で行われた。昭和セル石油および岩谷産業が設置・運営する本ステーションは、2003年3月の完成後1年程度は岩谷瓦斯の尼崎工場から水素を搬入するが、04年度からは新日鉄の君津製鉄所から液体水素の供給を受ける予定である。地理的な問題に加えて、新日鉄が液体水素製造技術の実証研究に名乗りをあげていることから、経済性に優れた君津からの供給に切り替える。
(化学工業日報02年11月13日)

(2)産総研とNOK
  産業技術研究所の伊藤直次触媒・膜反応システムグループリーダー等は、NOK筑波研究所と共同で、有機溶媒に吸蔵させた水素を低コストかつ高効率で回収する技術を開発した。新技術は水素吸蔵性の良いシクロヘキサンやデカリン、メタノールなどの液体に水素を吸蔵させ、使用時に水素を取り出す方式に関するもので、多孔質アルミナ表面に水素の選択透過性に優れたパラジウム薄膜を形成した細管を使う。水素吸蔵液をパラジウム膜を挟んで流すと、水素が染み出す膜分離技術の応用である。パラジウムは値段が高く、膜にすると強度が低くなるが、それらの問題点をアルミナ細管外壁に化学気相成長法(CVD)でパラジウム薄膜を形成することにより解決した。細管は直径3mm、管厚0.2mm、パラジウム膜厚は約1μmであり、生産コストを2万円/m2以下に抑えることができる。成膜時に細管の内側を減圧するのがポイントで、パラジウム微粒子がアルミナ内部にまで入り込むために分離性が著しく向上し、更に長時間使用時の安定性と強度が改善された。シクロヘキサンによる実験では、管外に水素吸蔵液を流し、管内の圧力を0.1気圧にしたとき、90%以上の水素を回収することができた。シクロヘキサン1kg当たり65gの水素を取り出せることになり、それを基に試算すると水素1m3当たりの輸送・回収コストは6〜8円となる。
(日刊工業新聞02年11月18日)

(3)東洋ラジエータ
  東洋ラジエータは、定置式FC用改質システムのコンパクト化と軽量化、およびコストの大幅な低下が可能な内熱式水蒸気改質技術を開発、03年までに実用化のための基本技術を確立して04年にフィールドテストを実施し、1ないし5kW級改質装置を中心に事業化に乗り出すことにした。この技術の特徴は、酸素が混在する条件下で改質反応を起こすことを可能にした点、更に改質器とシフト反応器が一体化した構造になっており、内部自己熱回収機能を採用しているため、改質熱効率が向上、コンパクト化が図れた点にある。より具体的には、白金系が10%以下の酸化触媒とアルミナ系の水蒸気改質触媒を混合した触媒層において、燃料と水蒸気を700℃で均一に熱分解する。更に高温シフト触媒と低温シフト触媒を一体化したシフト反応層と、改質反応層を一体化することにより、シンプルな自己熱改質機能を実現した。5万円を目標に実用化を目指す。
(日刊工業新聞02年11月19日)

 
9.携帯機器用マイクロFCの開発
三菱ガス化学は、携帯機器用FCの開発を推進する計画で、実績のあるメタノール改質技術、分離膜技術などを用いて、マイクロFCの要素技術研究を進めている。同社はもともとメタノールを主力事業の1つとしているが、DMEなどの事業展開を考えており、又低温高性能触媒技術も得意の分野であることから、改質型FCおよびDMFC両者を含めて積極的に開発を進めることにした。
(化学工業日報02年11月20日)

 
10.FC計測および評価システムの開発と事業化
横河電機は、03年春を目途にFCの電圧低下などの測定が可能な、“FC評価システム”を製品化する。本システムは任意の電圧波形を発生する“ファンクション・ジェネレータ”に加えて電力計、パソコンおよびコストウエアーで構成されている。電気的特性の計測には交流法を採用、一定の条件下で交流周波数を変化させて、インピーダンスを算出することができる。
(電気新聞02年11月11日)

 
11.その他のFC開発動向
カナダのマグパワー・システムズは、Mg・空気FC技術のライセンス活動を本格化させる。これは塩水に浸漬したMg板と空気中の酸素を反応させることによって発電するタイプのFCで、同社が独自に開発した水素インヒビターにより水素の発生を抑え、安全でかつ高効率の発電ユニットの開発に成功した。既に12V、100WレベルのFCを実現している。同Mg・空気FCは、03年にもライセンス契約を通じて商品化される予定である。
(化学工業日報02年11月7日)

 

 
 ―― This edition is made up as of November 30, 2002. ――


・A POSTER COLUMN
世界のFCシステム稼動状況
  イギリスのジョンソン・マッセイ社が管理するオンライン情報サービス会社“フユーエル・セル・ツウデイ”は、02年11月14日、世界の燃料電池システムの稼動件数を調査したリポートを発表した。それによると、現在世界で稼動しているFCシステムは3,800件以上を数え、又01年におけるFC市場の年間成長率は58%に達している。特に近年は自動車業界の動きが活発で、FCVプロトタイプは、今までに300種以上が製造された。
(日本工業新聞02年11月15日、日経産業新聞11月20日、日刊自動車新聞11月26日)