第75号 水素の製造・貯蔵技術の研究開発が活発に

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方公共団体の施策
3.外国の政策
4.SOFCの研究開発
5.PEFCの開発と市場導入
6.マイクロFCの開発動向
7.FCV最前線
8.水素ステーションの建設
9.FC用水素生成・供給・貯蔵技術
10.FC関連計測技術
11.FC市場予測

1.国家的施策
(1)経済産業省
   経済産業省は、03年度予算概算要求の自動車関係で、FCの開発促進を含む環境保全対策や、ITSの普及に重点を置くことにした。PEFC実証研究は、13億円増加して38億円とした。新規事業としては、PEFCの規制緩和に向けた安全性調査に十数億円、水素ステーションの設備・部品を国産化するための開発支援措置として数億円を計上する。
(日刊自動車新聞02年8月19日)  

   経済産業省は、PEFCプロジェクトに、03年度から“携帯用FC開発事業”と“水素安全利用など基盤技術研究開発事業”を新規に追加、予算化することを決めた。携帯用FCは03年度から3年間、水素安全利用基盤技術は5年間の予定である。
(化学工業日報02年8月27日、日本工業新聞8月28日)

   経産省は、02年8月28日、総額1兆9,084億円の2003年度概算要求を纏めたが、その中でFC技術開発は、前年度46%増の321億8,000万円であった。産業技術関係予算では、前年度比103%増の6,590億円で、その内FCVなど次世代低公害車の開発には、153億円を振り向ける。
(電気、日刊自動車新聞02年8月29日)

   日本電気協会は、経済産業省の原子力安全・保安院からの委託により、家庭用FCの保安面のあり方について検討するため、“家庭用FC保安技術検討委員会(委員長;正田東京理科大学教授)を設立、02年8月9日、第1回会合を開催した。検討事項は、小出力発電設備における一般用電気工作物にした場合の保安面のあり方についてであり、家庭用FCは専門的知識のない一般家庭で使用されることや、屋外に設置されることが想定されるため、使用形態や経年劣化による問題を踏まえた保安事項が対象となっている。02年度では、保安上必要な構造面、機能面の安全性に関わる要件を整理するとともに、それを満たすために必要な具体的技術要件を整理する。燃料については、天然ガスを基準とするが、LPGや灯油などについても対象とし、燃料の違いによる特性なども評価する予定である。
(電気新聞02年8月12日)

(2)資源エネルギー庁
  資源エネルギー庁は、水素ステーションの重要設備・部品の国産化を図る目的で、水素の充填に必要なコンプレッサーやノズルなど、現状では海外生産品に頼っている設備と部品の開発を支援する。水素ガスを350気圧に圧縮するために必要なコンプレッサーは、現在ドイツのメーカが1品ものとして受注生産しており、発注してから納品までヶ月程度を要している。02年度に首都圏に5ヶ所の水素ステーションを建設することになっているが、この影響により完成は03年になる見通しである。
(日刊自動車新聞02年8月19日)

  経産省と資源エネルギー庁は、02年中に販売される予定のFCV購入に合わせて、霞ヶ関の同省敷地内に、簡易・移動式の水素供給ステーションを導入することを明らかにした。霞ヶ関地区には、法規制により恒常的な供給施設の建設は難しいので、トレーラなどに積んだ水素タンクと供給施設をステーションとして活用する計画である。簡易式を採用することで、法的には問題はないと同省は話している。数千万円規模の予算を見込んでいる。
(東京新聞02年8月30日)

(3)産業技術総合研究所
  産総研は、経済産業省からの委託研究により、2002年度から06年度までの5年間で、 FCに関する各種技術の確立を目指して、水素貯蔵や触媒・電解質の劣化評価など、基礎技術の研究を実施する。実用化の基礎となるデータを蓄積して、開発が完了した技術を順次市場に投入していく考えである。研究テーマとしては、1)石油精製プラントでFC用クリーンガソリンを精製するための触媒技術、分離精製技術、2)PEFCの高性能化で、白金に替わる電極触媒の材料開発、電解質の導電率評価などを行ない、データベースを構築する、3)MCFC発電システムの電池材料の耐久性向上、4)SOFCの規格標準化、5)新規水素貯蔵材料の開発、が挙げられている。02年度は11億円の予算で、触媒用新素材の開発、性能試験などを行う。
(電気新聞02年8月20日)

(4)国土交通省
  国土交通省は、03年度予算編成の焦点である道路特定財源の新たな使い道の1つとして、FCVを国道などの道路パトロール用車両として率先導入するなど、FCV導入のための経費に充てる方針を固めた。
(日本工業新聞02年8月13日)

  国土交通省は、FCV普及に向けて省内の連携を強化するため、自動車交通局および道路局に跨る“FCV実用化促進プロジェクおよびFCV実用化促進会議”を設置、互いに検討事項や試験データを交換して、実用化に対応した基準作りを急ぐことになった。自動車交通局は、FCVの衝突試験や耐水試験などを実施し、FCVの保安基準や審査方法を検討、道路局はトンネル非常用施設基準など道路側からの基準作りを進める。又道路局は、FCVを道路管理維持用車両として試験的に導入する他、水底トンネルなどに設置されている非常用施設の基準を見直すことにした。
(日刊自動車新聞02年8月14日、電気新聞8月21日)

  国土交通省は、02年8月21日、国産自動車メーカが02年中に販売するFCVについて、自動車取得税と自動車税を03年度から2年間、非課税とする方針を決めた。非課税になると、中型FCVで1台1,000万円の場合、取得税50万円および年間の自動車税4万円程度がそれぞれ免除されることになる。
(毎日、日刊工業新聞02年8月22日、日本工業、日刊自動車新聞、化学工業日報8月23日、電気新聞8月26日)

  国土交通省は、02年8月28日に03年度概算要求を纏めたが、FCの普及には新規要求で30億円を計上、バイオガスをFCに使う実証実験や、住宅向けの用途開発に取り組む他、FCVの市販開始に向けた保安基準などを策定する。
(日本工業新聞02年8月29日)

  国土交通省北海道局は、02年8月26日、03年度北海道開発予算の概算要求を決めた。FCのエネルギー源である水素の安全対策研究や関連産業育成の方策を検討する“環境循環型FC活用社会形成モデル事業”に3億3,100万円を充てた。独立行政法人北海道開発土木研究所では、バイオガスを生かしたFCの実証実験などを進める。
(北海道新聞02年8月27日)

(5)環境省
  環境省は、2003年度予算概算要求で、自動車関連で9件の新規案件を盛り込んだが、その中で、“FCVの啓発−最適利用・運行の研究”が含まれている。
(日刊自動車新聞02年8月14日)

  環境省は、FCVを地方自治体に普及させるため、03年度から3年計画で全国の自治体と協力して走行試験に乗り出すことにした。自治体から車両性能、導入台数、利用目的、利用頻度と走行範囲、保守点検整備体制など利用形態を含むFCV利用プランを公募、同省がリースする実車を使って、これらの条件をどこまで満たせるかを検証する。利用プランは、県庁や市役所などの公用車としての利用だけではなく、医療、福祉、学校、消防、警察など地方自治体の各種機関や分野での利用が含まれる。実証試験によってFCVを導入する上での問題点を洗い出し、それを自治体での導入を支援する施策に役立てる方針で、03年度は6000万円を概算要求として盛り込むことにいした。
(日本工業新聞02年8月15日)

  環境省は、総額3,045億円の2003年度概算要求を纏めたが、FCVの環境調査や啓発推進に7,300万円を計上した。
(日刊自動車新聞02年8月24日)

 
2.地方公共団体の施策
  愛知県は、トヨタ自動車が02年中に発売するFCVを導入することを検討している。名古屋市も、これに前向きの姿勢を示している。導入するのは1台(5人乗り)で、リース料は月額200万円弱、期間は30ヶ月を予定している。FCVに値段をつけるとすれば、開発費を考慮して3億円程度と云われている。なお、愛知県は中部国際空港の前島周辺をFCなど新エネルギ−の研究開発および実証実験の拠点にしようとする“プロトンアイランズ計画”を発表している。
(東京、中日新聞02年8月23日)

 
3.外国の政策に関する話題
  アメリカにおける主要なFCおよび水素関連企業と研究機関で構成するグループは、議会およびBush政権に対して、水素およびFC開発のために、今後10年間に亘って55億ドルの政府による投資を要求するリポートを提出した。”Fuel Cells and Hydrogen; The Path Forwaqrd”と題する34ページのリポートが、02年9月5日、DOEおよびthe Office of Management and Budgetに提出され、同時にそれは議会における記者会見で紹介された。Robert Rose氏による序文には、このリポートの目的は「FCの商業化に関心を持つ政策担当者や企業等に対する基本的な情報(a baseline of information)の提供」にあると記されている。情報源の提供は30以上の企業を含むFCの推進母体の組合(ad hoc coalition)であり、United Technologies Fuel Cells、Plug Power、Siemens、Stationary Fuel Cells、Air Products and Chemicals、Ballard、Idatech、Teledyne Energy Systems、Dupont Fuel Cells、W.L.GoreおよびShellHydrogen等のCEOレベルの代表がワシントンの行事に参加した。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, September 2002, Vol.XVII/No.9, p1)

 
4.SOFCの開発
  ファインセラミックスセンターは、開発電力と共同で、低温動作SOFC用の高性能アノードを開発した。噴霧熱分解法でNiO-SDC複合微粒子を合成、同粒子を焼成して創ったNi-SDC電極の構造をミクロ制御した点に特徴がある。この電極を使った電解質自立膜型SOFC単セルによって、800℃で1.8W/cm2の出力密度を記録した。噴霧熱分解とは、異なるファインセラミックスの原料粉体を複合微粒子化するもので、具体的には出発原料の溶液を超音波振動子により霧化、そのミストを乾燥、熱分解、焼成の熱処理をした後、複合微粒子を捕集する工法である。同法で合成したNiO-SDC複合微粒子は、1個の粒子がNiOとSDCから形成されており、同粒子を焼成して創ったアノードは、構造がミクロレベルで制御されており、良好な多孔体構造となるとともに、ネットワークに微細なSDCが分散する構造となっている。このような構造が反応界面を広くするとともに、スムーズなガス拡散などにつながり、アノードとしての性能が向上したと説明されている。
(日刊工業新聞02年8月19日)

 
5.PEFCの開発と市場導入
(1)荏原・荏原バラード
  荏原は03年春に、定置式で出力約900Wの量産型PEFCユニット“Nexa”の発売を開始する。バラードからPEFC心臓部を調達、荏原の藤沢工場で組み立てる。本体は、幅73cm、高さ76cm、奥行き36cm、重さ64kg、持ち運びが可能で設置工事が不要なため、鉄道や電力会社が運用する通信施設のバックアップ用電源などの需要を想定して年間数百台の販売を目指すことにしている。価格は300万円以下となる見通しである。先ず改質装置が不要な水素ボンベ方式で発売し、運用面でのノウハウを取得してから、04年度にも改質器を備えた出力1kWの家庭用FCとして販売する考えであり、2010年には国内で4割のシェア獲得を目標としている。
  電機・機械各社は、出力1kW級住宅用FCを普及させるためには、価格を50万円程度に下げる必要があると考えている。その根拠は、FCによって電気料金を年間4万円程度の節約が可能と見られているが、ガス湯沸し器本体が30万円程度として、5年以上使えばFCの方が得になると消費者を説得するためには、50万円が1つの目安となるからである。又耐久性では4万時間が目標となっているが、荏原が今回発売する製品の寿命は1,500時間程度しかなく、更に機械メーカである荏原は、家庭用製品に対するマーケッテイングに弱く、東芝や松下電産、三洋電機などに比べるとブランド力で劣っている。荏原は実証実験のパートナーである東京ガスや大阪ガスと販売面でも協力する一方、FCを製品として売り出すことで先ず認知度の向上を狙うものと思われる。
(日本経済新聞02年8月14日、電気新聞8月26日)

  荏原はNTT環境エネルギー研究所と共同で進めている250kW定置式PEFCの実用化に向けた研究開発で、03年7月まで研究を1年延長することで同意した。FCの中ではPEFCしか対応できないピークカット運転を、負荷パターンを変えて実証運転し、これの寿命に与える影響を把握するとともに、送電端効率を現状の34%から40%にまで高めることを目標とする。3,000時間以上の運転実績があり、又FCの立ち上がり時間は20分以内を実現しているが、課題は高い信頼性が求められている空調を含めてコジェネレーションに残されている。
(日刊工業新聞02年8月23日)

(2)旭硝子
  旭硝子は、従来製品と比べて飛躍的に強度を高めたフッ素系イオン交換膜(IM)を開発した。カルボン酸系とスルフォン酸系を貼り合わせたIMで、カセイ曹達を生産するための電解槽に使用する。電解槽以外に、FC用膜の開発も加速させており、将来それを第2の柱に育てて、膜ビジネスの拡大戦略に拍車をかけることを目論んでいる。
(化学工業日報02年8月23日)

(3)東京ガス
  東京ガスは、FCによる家庭用コジェネレーションシステムの運転制御技術の確立を目指して、横浜市とさいたま市に居住する同社社員の戸建住宅にFCを設置し、約1年をかけて実用化のための課題を洗い出すことにした。設置するのは、荏原バラード製1kW級と、松下電器産業製の1.3kW級のPEFCコジェネシステムで、東京ガスが開発中である“省エネ・環境特性を最大化するための運転制御技術”を適用し、全自動運転で試験する。これにより、各家庭によって異なる電力や温水などの需要パターンを予測し、最適な運転状況を自動的に設定する新技術の確立を目指す。
(日本工業新聞02年8月27日)

 
6.マイクロFCの開発動向
NECは、同社が開発した特殊なガスを使ったカーボンナノチューブの量産技術を使って、2004年にもその1種であるカーボンナノホーンの量産を始める予定である。生産規模は年間1トン程度、マイクロFCの電極材料として自社で利用する他、外販も検討している。又FC以外の用途開発も進め、新材料を活用した新製品の開発も進める。
(日本経済新聞02年8月19日)

 
7.FCV最前線
(1)GM
GMは運転操作を電子的に制御して車両に伝えるバイワイヤー技術を搭載した、実走行が可能なFCコンセプト自動車“HY-wire”を発表した。02年9月26日から開催されるパリ・モーターショウで一般公開される。室内にペダル類はなく、“X・ドライブ”と呼ばれる操舵装置のみがあるが、このX・ドライブとは、ステアリングやブレーキなどの制御を機械的にではなく、電子的に制御する装置である。右手か左手で加速や制動を行ない、ステアリング操作はハンドグリップを上下にスライドさせて行う。FCシステムはオペル・ザフィーラをベースに開発された同社のFCV“hydrogen3”に搭載したものと同じものが用いられている。
(日本工業、日刊自動車新聞02年8月17日)

このHy-wireとは、GMが既にDetroitAuto Showにおいて発表した革新的な設計概念”AUTOnomy” を更に発展させ、実走可能なFCVとして構成された5人乗り4ドアセダンである。この自動車の名称”Hy-wire”は、水素を燃料とするFC駆動であること、および機械的な操作システムが全て電気・電子式のdrive-by-wireに置き換えられていることを象徴している。Drive-by-wire>は、動力源がFCという電源であることによって実現が可能となった。更に大きな特徴は、この自動車は長さ5m、中央での厚さ11インチ、両端で7インチの厚さを持つ”skateboard” 流の車台(chassis)と、その上に装備される車体によって組み立てられており、重心が低く、安全性と操縦性の面で優れている点にある。車台には動力源である連続出力94kWの同社製PEFCシステム、350気圧の圧縮水素ガスを貯蔵する3本のQuantum Fuel Systems Technologies Worldwide製タンク、その他駆動に必要なコンポーネントが格納され、人を乗せる車台と構造上区別されている。目下のところ前輪駆動用に1台のモータが設置されているだけであるが、将来は各車輪にモータが取り付けられる予定となっている。
02年の夏、Rochesterに建設されたGM開発センターの開所式において、1部の記者に公開された写真を見る限り、車台の上に跨る車体にはガラスがふんだんに使われており、前方と後方ドア間の金属製の柱が省略されているなど、軽快でスマートな形状を示しているが、この車体部分は顧客の好みに応じて設計・受注生産のできる点(customized bodies for individualized expressions)に新しい設計思想を見ることができる。車台と車体を電気的に接続するための装置として、車体にポート(single docking port)が設けられた。
Hy-wireの最高速度は、ドライバーがこの車両特有の新しい運転方式に慣れていないとの理由から、安全性を考慮して知事により40mphに制限されているようである。しかし、GMでは、もし顧客が望むならdrive-by-wire方式でも、容易にペダルを設置することができると述べている。350気圧の水素ガスによる航続距離は100kmと予想されており、これを延長するために、同社は700気圧水素ガス貯蔵を視野に入れている。
GMのDesign and Technology Fusion Groupの長で、Hy-wire概念の設計責任者であるChrisBorroni-Bird氏は、FCVが現在の内燃機関自動車のように一般的に受け入れられるようになるまでには、なお長い道のりを乗越えなければならないと語っている。彼はイギリスLiverpool出身で37歳、2000年にDaimlerChryslerからGMに移籍した。Cambridge大学出身で学位を取得したが、東京大学でも研究生活を送ったことがある。「Hy-wire式の自動車が実際に生産されるまでにどれくらいの期間を要するか?」との質問に対して、彼は「通常の自動車にFCとby-wire技術を適用した車は2010年以前にお目見えすることになろうが、この種の車台は2010年から15年の間に生産されることになろう」と語っている。そして「何故GMはHy-wire方式の自動車を今すぐ生産しないのか?」との質問に対しては「我々は、3つの大きな課題について更に開発を進めなければならない。その第1は水素の貯蔵、第2はFCのコスト削減、そして第3がBy-wire技術である」と答えていた。
(Hydrogen &Fuel Cell Letter, September 2002, Vol.XVII/No.9, pp1-3)

(2)日産
日産自動車は、北米専用SUV“エクステラ”を改造したモデルを使って、カリフォルニア州での走行実験に参加しているが、02年にも予想される国内でのFCV試験販売に向けて、国内専用モデルを開発する。量産に結びつけるためには、日本市場にマッチしたFCVを実現することが必要で、試験販売の段階でも、国内での人気車をベースにした車種によるデータの蓄積が有利と判断した。国内専用タイプとしては、小型SUVやミニバンをベースに開発を進める考えである。
(日刊自動車新聞02年8月26日)

 
8.水素ステーションの建設
(1)新日本石油など石油3社 新日本石油、コスモ石油、昭和シェル石油の3社は、02年度中にそれぞれ方式の異なるFCV用水素ステーションを首都圏に新設する。新日本石油は、横浜市旭区の約1,000mの用地に、ナフサ改質により水素製造能力30m/hを持つステーションを建設する。コスモは横浜市鶴見区の約1,200mの自社所有地に、脱硫ガソリンから水素を生成する方式のステーションを、昭和シェルは江東区の東京都用地に、岩谷産業と共同で液体水素を貯蔵・供給する設備を設ける。FCV実用化のための官民プロジェクト(資源エネルギー庁)の一環として実施。
(日本工業新聞02年8月23日)

(2)日本エア・リキード
日本エア・リキードは、02年8月26日、川崎市にメタノール改質型のFCV用水素供給ステーションを建設すると発表した。経産省が02年度から開始する“FCV用水素供給設備実証研究”の事業者として採択されていたもので、03年8月に完成予定。水素の純度は99.99%、水素製造能力は50Nm3/h、45MPa>まで水素を加圧して貯蔵し、高速充填が可能で、連続で5台のFCVに水素を供給することができる。脱硫は不要、加温・保温に要するエネルギー消費が比較的少ないなどの特徴がある。
(日刊工業新聞、化学工業日報02年8月27日)

(3)岩谷産業
岩谷産業は、02年8月28日、NEDOから受託していた水素供給ステーションが、横浜市鶴見区に完成したと発表した。7月に鶴見曹達本社工場内で現地工事を完了、この程システム性能を確認した。鶴見曹達の食塩電解で発生した純度97〜98%の副生ガスを利用したもので、不純物を除いて純度99.99%まで精製した後、19.6MPaまで昇圧して水素トレーラに充填し、工場からステーションまで輸送する。充填圧力は25MPa、FCV1台当たりの充填時間は5分で、乗用車5台分の連続充填能力がある。
(日本工業新聞02年8月29日、化学工業日報8月30日)

 
9.FC用水素生成、供給、貯蔵技術
11.FC用水素生成、供給、貯蔵技術
(1)鋼管ドラム
NKK系列のドラム缶大手の鋼管ドラムは、同社が資本参加しているカナダのダインテックと、FCV用高圧ガスの充填および搭載システムについて、共同開発することで同意した。同社は02年に入って35MPa圧縮水素ガス容器を約150本納入したが、FCVの走行距離を伸ばすため、70MPa高圧水素ガスの車両搭載および充填システムの開発を図ることにした。鋼管ドラムの容器は、アルミ・カーボンFRPライナー容器で、従来CNG自動車向けに出荷実績が拡大している容器を、高圧水素ガス向けに機能強化するとともに、FCV用システムとしての開発を目指す。
(鉄鋼新聞02年8月12日)

(2)三菱レイヨン
三菱レイヨンは、同社が出資しているカナダのダイナテックスと共同で、PAN(ポリアクリロニトル)系炭素繊維をFCVの水素ボンベ用として開発する研究をスタートさせた。同社は既に試作車に採用されている水素ボンベのFCVへの本格採用を目指して、開発を急ぐことにした。
(化学工業日報02年8月13日)

(3)岐阜大学
岐阜大学の上宮助教授らは、メタン改質ガスから水素を分離するのに用いられるパラヂウム製膜の厚さを、従来の1/20にする技術を開発した。直径0.2μmの穴が多数あいた長さ約5cmのアルミナ製の管表面に、“化学メッキ法”を使って金属パラヂウムの薄膜を形成したもので、膜の厚さは約3μmである。この際触媒として作用する物質が、管の表面を均一に覆うよう工夫されている。半導体製造などで使うクリーンルームを利用し、機械による制御で薄膜化すれば、不良品率を更に少なくなり、又メッキ時に発生する窒素を効率良く取り除くことにより、膜厚を1μmにまで薄くすることができると期待されている。厚さ1μmのパラジウム膜の製法が確立されれば、FCV1台当たりのパラジウム使用量を10g程度に抑えられ、コスト削減に大きく貢献することになる。
(日経産業新聞02年8月16日)

(4)>炭化木綿による水素貯蔵(ワイオミング大学客員教授)
門上洋一ワイオミング大学客員教授は、炭化した木綿に水素などのガスを吸収する性質のあることを発見し、この特性を水素貯蔵タンクとして利用できると考えている。酸素を抜いたプラント内で、200℃以上の高温に加熱して製作された炭化木綿を、室温で管に詰めて水素を通過させたところ、木綿重量の約9%の水素が吸収されることを確認した。その後、管を280℃まで熱すると、吸蔵した水素の80%を排出することが認められた。木綿の原料価格は1kg当たり数百円で、合金などに比べるとはるかに安い。環境ベンチャー企業の八紘社(旭川市)と組んで、早期の実用化を目指す。
(日経産業新聞02年8月19日)

(5)JARI
日本自動車研究所(JARI)は、03年度にFCV用水素タンクの火災試験設備を、つくば市の同研究所敷地内に設置する。FCVの水素タンクは、火災に見舞われた時には、徐々にバルブを開いて水素を逃し、爆発しない安全設計とすることが求められている。この試験設備は、爆発が起きた時に十分に耐えられる強度があり、かつ自動車関連の企業が利用しやすい設備であることが要求されていた。本試験室は強固な壁で覆われた各辺が20mの立方体で、排出ガスを外部に排出せず、完全に吸収する装置を内蔵する。投資額は10億円程度の見込みである。
(日刊自動車新聞02年8月26日)

(6)千葉工業大学
千葉工大の山口教授、尾上教授らの研究グループは、マイクロ波プラズマを使ってメタンから水素と炭素を効率的に生産するプロセスの開発に成功したと発表した。この新しいプロセスは、メタンにマイクロ波を照射すると、電子が励起して非平衡プラズマ(イオンと電子が分離した状態)となり、ある部分のみが1,000℃以上の超高温となる現象を利用したものである。具体的には、円筒型石英ガラス管を反応管として、原料メタンガスを上部から反応管に供給し、400Wのマイクロ波を照射したところ、メタンガスから水素が発生する反応が進行し、カーボンは反応器の側壁等に析出した。触媒や熱エネルギーを全く必要としない点に特徴がある。
(化学工業日報02年8月26日)

 
10.FC関連計測技術
日本自動車研究所(JARI)は、水素燃料FCVの燃費を正確に測定する技術“圧力法”を開発した。精度は±0.8%で、現状の測定法の中では最も信頼性も高い。02年北米で開催されるISOのTCに国際標準案として提案する。この圧力法とは、FCスタックの手前にバイパスを設け、測定用水素タンクに接続し、10・15モードの台上走行前後の容器内圧力、ガス温度、容積の測定値、それに気体の状態方程式を使って水素の消費モル数を計算する方法である。
(日刊自動車新聞02年8月20日)

 
11.FC市場予測
(1)矢野経済研究所
矢野経済研究所は、PEFCの市場規模が、2010年に年間4,011億円(出荷ベース)になるとの予測を纏めた。その内訳は、家庭用コジェネレーションが2,650億円、自動車(バスを含む)が725億円、携帯電話などモバイル端末用電源が440億円などである。
(日本経済、読売、日経産業新聞02年8月23日、日刊自動車新聞8月24日、毎日新聞8月25日)

(2)冨士経済
冨士経済は、02年8月26日、FC関連技術や将来市場展望について調査した“FC関連技術・市場実態総調査2002年版”を纏めたが、自動車FCシステムの本格普及は10年以降になると予測している。PEFCは自動車用、家庭用で主流になるとした上で、05年には2,500台、10年には3万台、15年には30万台の普及が見込めると推定している。
(日刊自動車新聞02年8月27日)

 

 

 

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