第74号 活性炭を利用したPEFC用カソード電極

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方公共団体の施策
3.MCFCの導入と応用
4.SOFCの研究開発
5.PEFCに関する研究開発・実証運転と市場開拓
6.家庭用PEFCコジェネレーションシステムの開発と商用化計画
7.FCV最前線
8.FC用燃料と水素生産・貯蔵・輸送・供給技術
9.FCおよび水素関連測定装置
10.企業活動および情宣活動

1.国家的施策
(1)経済産業省
 経済産業省は、環境省や国土交通省などと協力して、火力発電所や工場から排出されるCO2を地下の石炭層に隔離し、このCO2が炭層中の水素と化学反応して発生するメタンをFCに供給する研究を、02年8月以降にもスタートさせる。具体的には、炭層中の水素とCO2が反応して抽出されるメタンを搬送しやすいメタノールに変換して、このメタノールをFC等の燃料として再資源化するプロセスである。炭層への貯留は、石炭がCO2を吸収しやすい特性に着目したもので、"地球環境産業技術研究機構"を通して研究主体となる委託先を決める予定である。研究期間は2004年度まで、経産省では欧米諸国との連携も視野に入れている。
(電気新聞02年7月17日)

(2)経済産業省・資源エネルギー庁
 経済産業省・資源エネルギー庁は、02年7月17日、PEFCシステムの実証研究について、実施体制や事業概要を決定した。2002年から3年間にわたるプロジェクトで、今年度は25億円投入する。実験はFCVと定置式PEFCに分けて行われ、FCVと水素供給インフラの実証研究はJEVAが主体となり、自動車メーカ5社が参加して走行実験を実施する他、エンジニアリング振興協会を中心に水素ステーションの設置、運営、液体水素製造の実験を行う。設置される5ヶ所の水素供給ステーションは、それぞれ水素の抽出方法が異なっており、新日本石油、コスモ石油、岩谷産業、昭和セル等、石油元売りを加えるとこれらのプロジェクトに合計14社が参加することになる。
 他方、定置式PEFCの実験に関しては、新エネルギ−財団を主幹事に、東京電力、日本ガス協会、日本石油、荏原製作所、積水化学、松下電器産業、三洋電機など11社・団体が参加、気象環境や使用条件が異なる全国12ヶ所にFCコジェネレーションシステムを設置して、地域特性に応じた運転実態を検証する。
(読売、朝日、毎日、日経産業、産経、電気、日本工業、日刊工業新聞、化学工業日報02年7月18日、鉄鋼新聞7月19日)

 経済産業省・資源エネルギー庁は、FCに関連する各種法規制の緩和や新たな規制導入を目的として、安全性評価試験事業を2003年度に開始、予算として十数億円規模を要求する。具体的には、FCV関連では、高圧ガス保安法で規定する水素燃料タンクの検査要件、海外から水素燃料自動車持ち込みの際のタンク取り外し検査義務の可否、水素バルブの評価基準の見直しなどが項目として挙げられている。水素ステーション関連では、保安統括者の常駐、輸送容器の充填率制限、移動式充填設備(タンクローリーなど)が充填を行う場所の届出義務などがガス保安法で定められている。同庁はこれらの項目について、民間や団体に安全性調査を委託、データに基づいた根拠法の見直しを進める。
(日刊自動車新聞02年8月9日)

(3)国土交通省
 国土交通省は、トヨタ自動車、ホンダが年内に発売を表明しているFCVに関して、法律に準じる技術指針を作り、"保安基準の規定がない車両などを例外的に走行させる大臣認定制度"を使って審査し、市販を認める方針である。技術指針の作成を急ぐ他、走行条件など大臣認定の制限事項も可能な限り緩和し、FCVの発売を後押しする。
(日刊自動車新聞02年7月31日)

 国土交通省は建築基準法に規定されている水素貯蔵の制限、水素スタンド建築制限の規制措置を緩和する。安全性について確認した上で、04年度中にも同法の部分改正に踏み切る予定である。建築基準法第48条と施工令116条などでは、水素の貯蔵量に関し、水素ガスを含む可燃性ガスは準工業地域でFCV10台分、商業地域で同約2台分以下と制限、又水素供給施設については、現行法上商業地域や住宅地での建築は認めていない。
(電気新聞02年8月7日)

(4)総務省・消防庁
 総務省・消防庁はガソリンスタンドに水素供給施設を併設できるよう、消防法の政省令を03年後半にも改正する。現行法では給油取扱所には給油目的以外の建物、工作物は併設できないことになっているが、消防法技術基準に水素供給施設の条項を新設、ガソリンスタンドの敷地に水素供給ステーションを建築できる法体系に再整備する。
(電気新聞02年8月7日)
 
2.地方公共団体の施策
 東京都、国土交通省、経済産業省、およびトヨタグループは、FCバスの実証実験を都内臨海副都心地区で始めることにした。水素の充填設備は、経産省のFCシステム実証研究で整備する江東区有明の水素供給ステーションを利用する。計画期間の3年以内には、トヨタグループが開発中のFCハイブリッドバス"FCHV−BUS1"を実際に都バスとして走行運転させることを検討している。
(毎日、日刊自動車新聞02年8月2日)
 
3.MCFCの導入と応用
(1)トヨタ
 トヨタ自動車は02年10月にMCFCを導入する。IHIが製作しトヨタタービン&システムが商用化しているマイクロガスタービン(MGT)を、このMCFCにコンバインドして、同社の環境センターに複合発電によるコジェネレーション設備として設置する。MCFCはIHI製の出力300kWクラスで、MGTは50kW、出力は電気、蒸気および給湯となり、総合効率は80%台をクリアする予定である。メーカのIHIは、コストで40万円/kWの早期達成を目指すことにしている。
(日刊工業新聞02年8月5日)

(2)JFCC
 ファインセラミックセンター(JFCC)の福井武久主任研究員等は、MCFC用カソード電極の耐久性について、テストピースではあるものの、NiO単独のものに比べて4倍に、NiO粉末にマグネシウムやマグネフェライトを単純に混ぜた原料で作製したものに比べては2倍以上に高めることに成功したと発表した。この研究はMCFC研究組合の分担研究として行われた。
 MCFC用カソードには、従来NiOが使われてきた。実用レベルの1m2クラスを低コストで作成するため、NiO粉末をテープ成形し、それを還元雰囲気で焼成、電池内で酸化処理し、NiO化する製法が確立されている。しかし、高圧化でNiOが溶出する現象が起きるため、耐食性の向上が課題として挙げられ、この課題を解決するために、原料段階でNiO粉末にマグネシウムやマグネフェライトを単純に混ぜる手法が提案された。これにより耐食性は改善され、又大面積のものも作製されたが、実用的な作動時間を実現するためにはまだ十分ではなかった。
 今回の開発のポイントは、Niとマグネフェライト粉末を機械的に複合化し、Ni粒子表面をマグネフェライト微粒子で選択的に被覆した点にある。先ず2種類の粉末を容器に入れ、容器内壁と高速で回転するローターとの狭い隙間に粉末を通過させて、機械的な圧密でせん断力を加えることにより被覆複合化する。この原料を成形、焼成して電池内で酸化処理すると、NiOがマグネフェライトで被覆され、それにより上記のように耐食性が向上した。今後は実用的な面積の電極を作製して、この成果を実証する予定である。
(日刊工業新聞02年8月6日)
 
4.SOFCの研究開発
(1)産総研等
 産業技術総合研究所セラミック研究部門の日比野主任研究員と名古屋大学環境学研究科の佐野充教授のグループは、セリア系酸化物を薄膜化した電解質を用いたSOFCにおいて、作動温度600℃の低温で0.8W/cm2の高い出力密度を実現した。このセリア系酸化物はセリウムの1部をガドリウムによって置き換えた酸化物で、導電特性においては優れているものの、燃料ガスにより還元されるため、SOFCには使えないと思われてきた。しかし600℃の低温では、還元反応が抑制されることを発見するとともに、酸化物を厚さ30μmにまで薄膜化することによって、電気抵抗を0.4Ω/cm2にまで低減させることができた。他方、アノードにはニッケル・セリア酸化物に、触媒として重量比3%のルテニウムを添加、これを高分散させるとともに、高次構造制御を適用して反応速度を向上させた。メタン、エタン、プロパンなど炭化水素系燃料を使った場合でも、アノードでの炭素析出は起こらず、長時間安定して作動することも確認されている。
(日刊工業新聞02年7月19日)

(2)東京電力
 東京電力は、SOFCを火力発電への代替が可能な新型電源と位置づけ、部材性能検証や耐久性評価などを含む中長期的な研究を進めることにした。他方、定置式PEFCについては、経済産業省の新規プロジェクト"定置式PEFC実証研究"に参加、多様な発電技術を蓄積することによって"電力のベストミックス"の実現を図る考えである。同時にPAFCについては、病院やホテル向けなど用途が限られることや、当初の予測ほどコストダウンが図られなかったことなどから、実用化を目指した研究は02年度で終了する。
 同社は10〜20万kW級の比較的大規模な発電が可能で、ガスタービンと組み合わせることにより高効率でクリーンな発電が実現できるSOFCを、FC研究開発の柱として位置づけることにした。当面は電池部材の研究に力を注ぎ、ヒートサイクル試験を実施してセル部材の割れ、劣化を長時間試験によって評価する。将来的には60%程度の発電効率を実現することを目標とする。
(化学工業日報02年7月31日)

(3)電源開発
 電源開発は、02年2月から同社若松総合事業所においてEAGLE(石炭ガス製造技術開発)パイロット設備の試験運転を開始、FCに適合する石炭ガスを発生させる石炭ガス化炉(酸素吹き)技術および精製技術の確立を図っている。パイロット設備にFCシステムを接続するフェーズIIの段階については、当初EAGLEの終了後になる2007年度開始を予定していたが、ガス化技術の進展などにより、この計画の前倒しする方向で検討を始めることにした。連結を予定しているSOFCについては、電源開発がモジュール構造の簡素化、性能向上などの開発を進めているが、開発の進展によってはMCFCの導入も検討する積りで、プロジェクトに対する柔軟な対応が注目されている。IGFC(石炭ガス化FC発電)が実現すると、発電効率が約60%となり、CO2排出量も既存の石炭火力発電に比べて30%程度カットできる。
(化学工業日報02年8月9日)
 
5.PEFCに関する研究開発・実証運転と市場開拓
(1)大阪市立工業研究所
 大阪市立工業研究所は、02年7月29日、活性炭を活用したPEFC用カソード電極の開発に成功したと発表した。活性炭触媒の微細孔にフッ素系有機酸(トリフロロメタンスルホン酸)を吸着させ、電子移動を受け持つカーボンブラックを混ぜて電極を作製したところ、カーボンブラックを使う従来の方法に比べて、電圧ロスが20%低減した。有機酸によって酸素分子や水素イオンが動きやすくなったためと思われる。活性炭は表面に数nmの微細な穴があるため、白金微粒子が多くなって、効率良く触媒機能を発揮する。しかし、酸素分子や水素イオンが穴の奥まで届きにくいため、従来は使われていなかった。白金を付けた活性炭の価格は2,500円/gであり、カーボンブラックに比べて1/4である。耐久性も従来と同程度と見なされており、今後触媒やメーカに技術移転し、実用化を目指すことにしている。
(朝日、産経、日経産業、日刊工業新聞02年7月30日)

(2)GM
 GNは、02年7月29日、同社FC開発施設の開所式を行い、安定的な電力供給が必要な企業向け緊急バックアップ用電源として、04年までに据え置き型PEFCを販売する計画であることを明らかにした。病院や携帯電話ネットワーク、クレジッドカード処理センターなどが主な販売対象として挙げられている。同社の同事業担当責任者のテイム・ベール氏は「自動車用FCが実現するかなり前に、この分野での市場参入が可能であり、近い将来に収入をもたらすことになろう」と述べている。なお、同施設はFC研究センターに隣接し、面積は6万4000m2である。
(日刊工業新聞02年7月31日)

(3)三菱重工
 MHI広島研究所は03年秋から、PEFC1号機のフィールドテストを開始する。その後、数百台を生産し、購入した家庭や事業所と研究所をオンライン化し、発電量や触媒効率、トラブルなどをリアルタイムで管理することを計画している。そこで収集したデータを基に、改良を重ね、早ければ2007年にも本格生産に入る予定である。
 具体的には、広島製作所観音工場で、04年度に天然ガスの他石油系燃料を使う出力が1ないし10kWの製品を2又は3種類、数百台規模で生産する。更に05年度を"準商用期"と位置付け、製品を家庭や事業所などに発売、設置したPEFCを電話回線で繋いで管理する計画である。同研究所の吉田博久PEFC開発センター長は「普及には耐久性が最大の課題となる。実際に使ってもらって得られたデータに基ずき、触媒の交換サイクルなどを検討し、本格展開に繋げたい」と語っている。量産品の販売価格については、国の補助などを差し引いて50〜60万円/kWを目指すことにしている。なおMHIはFCを将来の主力製品と見なして開発・実用化を促進している。
(中国新聞02年8月6日)

(4)FJコンポジット
 FJコンポジット(沼津市)は、PEFC用セパレータ材料の低価格化を実現、自動車、家電、住宅メーカにサンプル出荷を始めた。これは炭素粉末と熱硬化性樹脂をプレス成形した新材料で、現在主流の黒鉛にフェノール樹脂を含浸させた材料に比べて価格が1/10、A4サイズ1枚3,000円で、量産すれば200円まで低価格化できると期待されている。なお、この材料は導電性と機密性の両方に優れ、電気抵抗は5μΩ・cm、機密性については、1秒間当たりの漏れが10−8cm3/secと報告されている。
(日刊工業新聞02年8月8日)

(5)ユニチカ
 ユニチカは、PEFC用セパレータを低コストで生産する技術を開発した。フェノール樹脂を焼成する温度を制御して従来の半分の時間で焼き上げることにより、エネルギー使用量を低減するとともに、生産コストも1/3程度に削減できると期待されている。同社が開発したのは、セパレータに用いるフェノール樹脂をアモルファスカーボンに焼成する方法であるが、フェノール樹脂中の窒素成分や水素成分が抜け出る温度を制御することにより、工程を短縮することができた。はがき大のセパレータを焼成する時間は、従来の半分である50時間程度にまで短縮される。フェノール樹脂を成型する方法も、量産が可能な射出成型を採用しており、セパレータ生産にかかる総コストは従来の1/3にまで低減した。
(日経産業新聞02年8月9日)
 
6.家庭用PEFCコジェネレーションシステムの開発と商用化計画
(1)大阪ガス
 大阪ガスは、02年7月16日、家庭向けPEFC用天然ガス改質技術の非独占的ライセンスを、荏原バラードおよびBGS(Ballard Generation Systems)に対して供与する契約を締結したと発表した。荏原バラードがPEFCによる家庭用コジェネレーションシステムを製作し、荏原製作所を含めた4社共同で研究を進めることについても合意した。今回の契約では、大ガスが燃料改質装置の製造技術や運転方法などの技術情報を開示し、荏原バラードとBGSは国内外で大ガスの改質装置を組み込んだPEFCシステムを独自に製造販売することができる。研究では荏原バラードが24時間運転可能な家庭用PEFCシステムを製作、大ガスが同システムを運転評価して、2005年度での商品化を目指すことになっている。BGSおよび荏原製作所は同システムの開発を製造技術の面から支援する。
(日本経済、産経、電気、日経産業、日本工業、日刊工業新聞、化学工業日報02年7月17日、日刊自動車新聞7月19日)

(2)北海道ガス
 北海道ガスは、天然ガス改質型PEFCによる家庭用コジェネレーションシステムを開発する。排熱は給湯や暖房に利用することにしているが、熱の効率的利用について北海道大学と共同研究を行い、3〜5年以内の商品化を意図している。
(日経産業新聞02年8月2日)

(3)キューヘン
 九州電力の関連会社で変圧器メーカとして知られているキューヘン(福岡県)は、分散型電源事業と家庭用FCコジェネレーションシステムの開発に乗り出すことにした。先ず出力28kWのMGTによるコジェネレーションを小中規模の病院、温水プール、ビジネスホテル等に売り込むが、PEFCによる家庭用コジェネレーションシステムの研究および製品化も進める予定で、系統連系装置や熱回収装置を独自に開発することにしている。
(電気新聞02年8月5日)
 
7.FCV最前線
(1)JEVA
 日本電動車両協会(JEVA)は、02年7月17日、国内ではトヨタ、ホンダ、日産の3社、海外はダイムラークライスラーおよびGMの2社、合計5社の自動車メーカが参加するFCV共同実証試験を始めると発表した。経済産業省の補助事業で、期間は2002年から04年までの3年間で、異なる方式の水素供給設備を平行して運用し、各水素供給施設の省エネ効果や環境への影響、安全性確保のためのデータ蓄積などを試験の目的としている。各メーカのFCVを置く基地となるガレージとショウルームを03年2月までに横浜市に建設する。
(中日、東京、日刊自動車新聞02年7月18日)

(2)ホンダ
 ホンダのアメリカ現地法人"アメリカン・ホンダモーターは、02年7月24日、同社のFCV"FCX"がアメリカ環境保護庁(EPA)とカリフォルニア大気資源局(CARB)から、FCVとして正式認定を受けたと発表した。今回の認定取得により、ホンダは当初の予定を前倒しして、年内にアメリカにおける発売に踏み切る予定である。今回認定を受けたFCVは、アメリカで走行試験を行ってきたFCXで、バラード社製PEFCを搭載し、156Lの圧縮水素ガス(350気圧)を燃料とする小型ミニバン風スタイル、大人4人がゆったりと乗車できるスペースを確保している。最高速度は150km/hで、355kmの走行が可能、価格は未定であるが、2ないし3年間で約30台をリース方式で販売する予定である。
(日本経済、読売、朝日、毎日、産経、東京新聞02年7月25日、日本工業、日刊自動車、鉄鋼新聞、化学工業日報7月26日)

(3)日産
 日産自動車は、2005年に予定していたFCVの発売時期を2年繰り上げ、2003年度中に日本で20台程度をリース発売すると発表した。02年7月30日、フェアレデイスZの発表会で記者会見したカルロス・ゴーン会長は「担当の技術者と話をした結果、わが社のFCV技術レベルも上がっており、部品メーカの選定も進んでいる。発売時期を少し前倒しする」と語った。現在の計画では、スポーツ・ユーテイリテイー・ビークル(SUV)にバラード製PEFCを搭載、純水素を燃料として走行する。価格は未定である。
(日本経済、朝日、読売、毎日、日経産業、日本工業、日刊工業、東京新聞02年7月31日)

(4)GM
 GMは、02年7月31日、Quantum Technologiesと共同で、700気圧の高圧水素ガスの貯蔵が可能なタンクを開発したと発表した。これにより1充填当たりの航続距離が480kmまで可能になる。車載技術の承認団体であるテクニカル・インスペクション・アッソシエーションから認可を受けた。
(日刊工業新聞02年8月1日)

(5)日産
 日産自動車は、FCシステムにヒータを取り入れることによって、−20℃でも短時間で起動可能なFCV技術に目途を付けた模様であり、今後耐久性などのテストを行って寒冷地でも利用可能なFCVの実用化を目指すことにした。日産は北海道などの寒冷地でも走行可能な、より実用性の高いFCVを市場に提供することによって、他社に対する優位性をアッピールする意向である。
(日刊自動車新聞02年8月5日)
 
8.FC用燃料と水素生産・貯蔵・輸送・供給技術
(1)サソール
 南アフリカのサソール社は、アメリカのエンゲルハルド社と共同で開発を進めていたGTL向けのコバルト系新触媒"SAC2-100SB" の生産施設を新設、本格稼動を開始した。サソールは国内でGTLプロセスの開発を進めるとともに、ナイジェリアとカタールでの合弁開発にも着手している。何れも日産34,000バーレルを持つナイジェリアとカタールの両プロジェクトは、GTLとともに高品質のナフサやLPGが併産される予定になっている。この新触媒設備は2005ないし06年に稼動する予定の両プロジェクトに対応するためのものであり、新工場はエンゲルハルド社のオランダユトレヒト近郊の工場内に建設された。
(化学工業日報02年7月16日)

(2)東京理科大
 東京理科大学の斎藤泰和教授らは、水素貯蔵・輸送の調査・研究を行う大学発ベンチャー"水素エネルギー研究所"を同大学内に設立した。又デカリンをガソリンスタンドで供給するシステム構築のため、新日本石油、新日本製鉄のほか家電メーカ、自治体などが参加する研究コンソーシアムを併設、これを同社と科学技術振興会が運営する。この技術は斎藤教授が開発し、特許を取得したもので、特殊な触媒によってデカリンとナフタレン間で水素の貯蔵と放出を繰り返し行うことができる。製鉄工程で発生する水素を使って、ガソリンスタンドで水素貯蔵デカリンを生成して家庭用に配送、家庭での水素放出後ナフタレンを回収するシステムの開発が想定されている。
(日刊工業新聞02年7月16日)

(3)オクト
 化学品商社オクト(西宮市)は、兵庫県立工業技術センターなどの協力を得て、化粧品原材料や土壌改良剤に使う強酸性液が、水素発生反応液として有望なことを確認した。酸性液1mLをマグネシウム粒と反応させると70mL以上の水素を発生し、反応後には白濁した水酸化マグネシウム液が残る。発生水素中には、COなど触媒を劣化させるガスや、マグネシウム粉末などの不純物は一切含まれていない。気中酸素との反応も常温で進むので、PEFCセルへの水補給も不要であり、同社では既に試験装置で約1,500時間の発電実績を持つとともに約150Wのモデル機も完成している。
(日刊工業新聞02年7月17日)

(4)新日本製鉄等
 新日本製鉄は、NKK,帝国石油などと共同で製鉄プロセスから発生するコークス炉ガス(COG)中に含まれるメタンから水素を取り出し、それに副生ガスからの水素生成量を加えて水素の大幅増量化を実現する高効率水素製造技術開発を本格化する。副生ガス中には水素が55%含まれており、吸着分離方式(PSA)によって水素を連続的に抽出、更に30%のメタンから水素を効率良く取り出して、大幅に水素供給量を増量する予定である。COG改質技術では、改質反応をより効率的に進めるために、酸素を投入して部分酸化反応を併用させる方式の開発を進めており、改質に必要な熱はCOGの持つ800℃の廃熱を利用する。これにより国内製鉄所からの副生ガスによって、年間100億m3を超える水素を確保することができる。
(日刊工業新聞02年7月19日)

(5)LPガス振興センター
 LPガス振興センターは、02年度の事業計画において、経産省委託新規事業"DME燃料実用化基盤実証試験研究"を3年計画で開始するとともに、"LPガスPEFCシステム開発"(NEDO委託)で1kW級家庭用システムの試験運転を始める。同時に硫化触媒、改質触媒を試作・評価して1年程度の耐久性を持つ触媒の開発を進めていく。
(化学工業日報02年7月26日)

(6)トヨタ
 トヨタ自動車グループが、東京お台場沖の風力発電事業に絡み、FCV用水素ステーションの整備構想を打ち出している。この事業は、東京都の公募で、トヨタグループの豊田通商と電源開発の2社が受注、02年度末から出力850kWの風車発電機2機を建設して電力を供給する予定になっている。風力発電のようなクリーンエネルギーから、水素を供給すれば、企業グループのイメージにもプラスになると思われる。又同社は東海地方でもFCVを販売したいとの意向を強く抱いており、今後グループとして東海地方でも水素ステーションを整備し、FCV普及を側面から支援していく可能性もでてきたと云えそうである。
(東京、中日新聞02年7月27日)

(7)水素補給システム標準化
 BMWは、水素補給システムの標準化を目的に、日米欧の自動車メーカなどをメンバーとする国際的な共同開発機関の設置を呼びかけている。早ければ03年中にも国際機関を設け、共同開発に着手したいと考えである。標準化の対象項目の第1は、カップリングと呼ばれる水素ステーションから車両側へ水素を補給する装置で、既にドイツで実験している全自動での補給システム以外に、手動方式も含めた補給装置の規格を定める。その他、車両とステーション間のデータ通信、および貯蔵タンクの1部についても規格を統一する必要があると主張している。
(日刊自動車新聞02年7月27日)

(8)副生水素による水素スタンド
 副生水素を原料とした水素スタンドが、02年7月29日、横浜市鶴見区にオープンした。NEDOの出資により岩谷産業が建設した高圧水素ガス供給ステーションで、鶴見曹達が敷地を提供し、水素の供給と運営を受け持つことになっている。鶴見曹達のカセイソーダ製造工程で発生する副生水素を99.99%以上に高純度化し、−70℃、200気圧でトレーラに搭載、構内からステーションタンクに輸送する。公道に面したステーションタンクでは水素ガスを250〜350気圧で貯蔵、FCVには圧力差を利用して充填するが、充填スペンサーは公道から10m離れた場所に設置された。1台につき35Nm3の水素ガスを供給するとして、連続5台の充填が可能である。
(日刊工業新聞02年7月30日)

(9)DME
 DME開発は、02年7月29日、03年度までにDMEを日産100トン規模で製造するパイロットプラントを建設すると発表した。最長3ヶ月程度の連続運転を5回実施し、DMEの直接合成技術を確立、2006年までに運転データを収集して将来の商用プラント(日産2,500トン規模)建設に繋げる意向である。なお、DME開発はNKKなど9社が共同出資して、02年2月に設立された研究開発会社である。
(日経産業新聞02年7月30日)

(10)鋼管ドラム
 NKKの関連企業である鋼管ドラムは、同社と包括提携しているカナダのダインテックと共同で、FCV用700気圧の水素ガス貯蔵タンクの開発を推進する。350気圧タンクについては、特別認可を取得して既に納入している。700気圧の場合、350気圧と同様にアルミライナーにカーボン繊維を巻きつけた構造となるが、シールや充填設備とのインターフェースが開発のテーマとして挙げられている。今回の開発はFCV普及に向けた高圧ガス供給システムに関する国際的な規格の標準化を目指す動きの一環で、今後自動車メーカの賛同を得ていく積りである。
(日刊工業新聞02年8月9日)
 
9.FCおよび水素関連測定装置
(1)産総研
 産業技術総合研究所は、幅広い範囲で水素ガス濃度を定量的に測定できる水素センサーの開発に成功した。産総研シナジーマテリアル研究センターの環境認識材料チームが開発したこのセンサーは、白金の持つ高い水素選択性を利用したもので、水素ガスが触媒と反応する時に生じる熱(温度差)を熱電変換材料により電圧信号に変換して水素濃度を測定する。60〜180℃の範囲では季節変化などの補正を行わなくても正常に動作し、100℃では250ppmから10%の範囲で誤動作無く、又再現性もよく定量的に測定できた。簡単な希釈装置を用いることにより、水素濃度100%の計測にも成功したと伝えられている。なおセンサーは有効素子面積が1cm2以下で極めて小さく、薄膜プロセスを用いて作製できる点にも特徴がある。価格も10万円未満と大幅な低コスト化が見込めると期待されている。
(化学工業日報02年7月16日、電気、日刊自動車新聞7月17日)

(2)横河電機
 横河電機は、02年7月22日、FCのための専用計測器事業に参入したと発表した。この計測器はFCの動作確認を行う際に使用するもので、発電特性などを評価するのに用いられる。第1弾として市場に投入したのは"FC用インピーダンス測定器(交流法)"で、信号発生器と電流センサー、電力計などの自社計測技術を組み合わせて開発したものである。電気化学反応特性を電気的な信号として正確かつ素早く捉えることができる。具体的には、FCの稼動状態で電圧・電流、内部抵抗などの電池特性の変動を的確に把握、FCの稼動状況や発電特性を数値として観測できる点に特徴がある。
(日本工業新聞02年7月23日)
 
10.企業活動および情宣活動
(1)大同メタル工業
 大同メタル工業は、小型・軽量FCの応用商品として、ハンドライト、学校教材、ミニ自動車の3種類開発し、受注活動を開始した。このFCはアメリカのDCHテクノロジーと共同開発した円筒型のポータブルタイプで、白金触媒を電極に薄く均等に塗るコーテイング技術は大同メタルが提供した。水素吸蔵合金から水素を供給するので、安全性は高い。ハンドライトは、非常用電源として販売し、価格は9万5,000円である。教材用組み立てキッドは、FCの仕組みを学習するための小中学生向け商品で、価格は1万円前後。又科学館など教育施設向けのミニFCVは、新エネルギー財団(NEF)に2台納入されており、30万円前後の価格になっている。同社はFC応用商品を、軸受けに次ぐ将来の収益の柱に育てたいとしており、判治社長は「水素を充填した交換用ボンベが、乾電池のようにコンビニで手軽に買えるようになれば普及するだろう」と話している。
(日経産業新聞02年8月2日)

(2)FC啓発活動
 電動車両協会(JEVA)、燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)などFC開発関係団体は、小学生など若年層を対象としたFCに関する啓発活動を始める。第1回は9月、東京・江戸川区の小学校で、FCの体験学習を開くことにしている。
(日刊自動車新聞02年8月7日)
 

 

 

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