第73号 FCV・家庭用FC商品化で前倒しの動き

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.SOFCの開発と市場導入
3.PEFCの開発・生産と商用化
4.家庭用FCの開発と実証実験
5.FCV最前線
6.船舶用FC推進装置
7.マイクロFCおよびDMFC
8.改質および水素生成技術の開発
9.FC関連計測技術
10.FC教材用キットとFCVモデルカー
A POSTER COLUMN

1.国家的施策
(1)総合資源エネルギー調査会
 総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の電力安全小委員会は、FCの一般家庭への普及に備えて、安全性を確保するように求める中間報告を纏めた。中間報告は「一般家庭で用いられることを考え、十分高い安全性を確保すべきである」と述べている。
(化学工業日報02年6月24日)

(2)経済産業省原子力安全・保安院
 経済産業省原子力安全・保安院は、小規模分散型電源について安全規制体制の再整理、再検討に着手する。特に2003年中にも製品化が見込まれる家庭用PEFC発電設備については、電気事業法上の一般用電気工作物として位置づけるために、設備の構造面や機能面の安全性や経年劣化による問題などを含めた技術的検証を行うとともに、電事法に基づく技術基準を整備する。
 電気事業法では、600V以下の受電設備、一定の規模以下の発電用電気工作物が一般用電気工作物と位置づけられ、技術基準の適合命令などの規制が課されている。この内、発電設備では、出力20kW未満の太陽光発電設備、出力20kW未満の風力発電設備などは、従来の発電設備に比べて構造面、機能面で安全性が高いため、95年の電事法改正で一般用電気工作物の中の"小出力発電設備"として位置づけられた。
 保安院では、総合エネルギー調査会の電力安全小委員会で、PEFCについて新たに"小出力発電設備"として扱う方針を決め、今後既存設備の経年劣化など新たな問題と合わせて、小出力発電設備の安全規制の再検討を進めることにした。
(電気新聞02年7月3日)

(3)国土交通・経済産業・環境省
 国土交通・経済産業・環境の各省は、FCを導入するモデル地域として北海道を選ぶ方針を決定、先ず02年7月下旬に札幌市内で公開実験を行う。2003年には官公庁の冷暖房などに使う実用実験を開始するとともに、FCVを率先して利用、又FCVに水素を補充するスタンドも設置する。上記3省は北海道でFCを活用するノウハウを蓄積し、05年までに利用地域を全国に広げたいとしている。(日本経済新聞02年7月3日)
 国土交通省は、02年7月27日から、北海道大学と共同で、水素・FCシステムの実証実験を開始する。具体的には同大学が持つ有機ハイドライド活用技術をコアに、その活用を目的とした基礎実験で、FCのコジェネレーション実証運転とFCVのデモ走行を併せて行うことにしている。実験では、太陽電池からの電力を使って水を電気分解し、発生した水素を有機ハイドライドで貯蔵、その水素を供給してPEFCを運転する。8月11日まで、"サッポロさとらんど"で公開、夏休み期間中の小中学生を集め、FCに対する興味を促すことを狙う。
(電気新聞02年7月9日、日本工業新聞7月10日、化学工業日報7月11日)

(4)経済産業省とNEDO
 経済産業省は、発電効率の向上、低コスト化、長寿命化を目指して次世代型FC、特にPEFCの中心とする開発に着手することになり、02年度中にNEDOを通して、大学、並びに自動車や電機、ITなど関係企業の参加を募集し研究委託を始めることにした。PEFC用電解質膜については、ポリイミド系化合物など、従来のフッ素系化合物より100℃以上の高温に耐える新素材の開発、触媒に関しては、従来の白金系よりは低価格でCOに強い合金素材の開発等が課題として挙げられており、又FCシステムの長寿命化、太陽電池とのハイブリッド化などの研究開発も進めることにしている。03年度からは、車載型高圧タンクなどの周辺技術開発、水素ステーションの安全向上策など、インフラ整備に関わる問題も含め、最終的には全体システムの統合を目論んでいる。文部科学省とも連携して予算獲得を目指す。
(日刊工業新聞02年7月9日)
 経済産業省は、25億円を投じて、首都圏の5箇所に水素ステーションを建設するとともに、定置式FCの実証試験を開始する。25億円の内、水素ステーション関連の予算は15億円程度で、2002〜04年の実証試験が可能な事業者を対象に、首都圏の準工業地帯など保安規制を満たす5箇所に設置する。比較調査を行う目的で、地域毎にガソリンやメタノール等、燃料や水素生成方式を変える方針であり、実施地域・事業者については近く詳細を固めることになっている。他方NEDOがエンジニアリング振興協会に委託した水素ステーションの実証設備は、横浜に7月にも完成の予定である。定置式FCの実証試験については、家庭にFCを設置して試験を行う計画に対して公募しており、両方を含めてわが国FC開発の加速を意図している。
(化学工業日報02年7月12日)

(5)環境省
 環境省が、生ゴミから発生するメタンガスを利用したFC試験プラントの建設を名古屋市で計画している。このプラントは、名古屋市が前環境庁の意向で藤前干潟のゴミ処分場建設計画を断念した代償として求めている財政支援策の1つである。01年9月に設立した神戸市のプラントに続く第2号で、設置場所や規模は、計画を具体化する中で市と協議して決めることになっている。これまでの生ゴミFC発電の研究では、生ゴミに異物が混入していると発電効率が下がるため、収集段階で他のゴミとの選別を徹底させる必要のあることが判明し、実用化では採算面で課題のあることが判明している。同省は名古屋市のプラントで問題点をクリアする新技術の開発に取り組む。これが実現すれば、生ゴミの減量が課題になっている市にとっても、処理先を確保できるメリットを享受することができる。
(中日新聞02年7月10日)
 
2.公共的団体の活動
 NKKは発電効率が45〜55%と高く、排熱を利用しやすいSOFCで、出力が5kWおよび250kW以上の、小型および大型タイプを2004年にも同時に発売すると発表した。02年11月を目途に小型の実証実験を始め、得られたノウハウを大型の実験に生かす予定である。
 NKKはカナダとアメリカの2社と提携しており、それぞれの製品について日本国内での販売権を取得している。この内出力5kWの小型SOFCはカナダのFCT(Fuel Cell Technologies)から、250kW以上の大型はアメリカのSWPC(Siemens Westinghouse Power Co.)から輸入、小型ユニットの実証実験では、起動時間や変動する電力負荷への応答性を調査し、その結果を同じタイプのセルを利用している大型ユニットに生かすことにしている。現在ピッツバーグに建設中のSWPCのセル生産工場が本格稼動する04年に合わせて、国内仕様のSOFCを発売する方針で、価格は何れも200万円/kW程度になると見られている。
(日経産業新聞02年7月8日)
 
3.PEFCの開発・生産と商用化
(1)日本電池
 日本電池の村上社長は、京都市内で会見し、FCV用PEFCの生産を当初の計画より1年早め、03年春から始めることを明らかにした。自動車メーカがFCVを早期に市場投入する意向を示しているため、最重点課題として開発を加速する。日本電池が開発したPEFCは、発電能力がダウンさせることなく、白金触媒の使用量を10分の1に削減させた点において大きな特徴を持つ。
(産経、日本工業新聞02年7月5日)

(2)クボタ
 クボタはGE傘下のGEFCS(GE Fuel Cell Systems)との提携を拡大、PEFCを共同開発し、05年までの販売を目指すことにした。発電効率向上のための基礎研究の他、遠隔地から監視して緊急停止などの操作が可能な監視システムを追加するなど、国内向けの改良も予定している。
 クボタは2001年4月に新環境プロジェクトをスタートさせ、土壌浄化、マイクロガスタービン、FCなどの事業化を急いでいる。GEFCSとの提携拡大に合わせて、現在10人程度のFC専門スタッフも増やすなど、FC開発を加速させ、2004〜5年までに出力5kWPEFCの市場投入を目指すことにした。大型レストランや集合住宅をターゲットに販売する考え。
(日経産業新聞02年7月9日)

(3)スリーボンド
 スリーボンド(八王子市)は、ゴム弾性を保ちながら高い水素遮断性と低透湿性を併せ持つPEFC用シール材"スリーボンド1152、同1153"を製品化し、発売を始めた。1152は塗布機で吐き出し、セパレータなど部品組み付け後に硬化させるタイプであり、1153は金型による射出成形や塗布後硬化させる成形ガスケットタイプである。両製品とも気体遮断性が高いオレフィン系(ポリイソブチレン)を主成分にした1液性加熱硬化型シール材で、水素ガスに対する遮断性はシリコーン系シールの約20倍、透湿性は約50分の1、又耐薬性にも優れている。
(日刊工業新聞02年7月11日)
 
4.家庭用FCの開発と実証実験
(1)東京ガス
 東京ガスは、出力1kWの定置式PEFCを横浜市とさいたま市の一般家庭に持ち込んで本格的な運転試験を開始した。省エネルギー効果が最大になるように、発電出力や給湯量を自動制御するシステムを開発、それを適用して最大15%の省エネ効果の実現を目指している。03年3月まで試験を続け、同時にシステムを改良、04年には50万円程度で市販したいとしている。
(読売新聞02年6月21日)

(2)三洋電機
 三洋電機は、02年度に発電効率を35%に高めた出力1kW級家庭用PEFCシステムを開発、今後はコスト低減を進め、05年での市販を目指すことにした。天然ガスの改質効率を高める他、スタックの高電圧化などの改良によって実用化の目標とされている35%の発電効率を実現する目途がついたと同社は述べている。次ぎのコスト低減については、1枚当たり1万円以上するバイポーラプレートを大量生産によって数百円程度に抑え、更に安価な昇圧ポンプを採用することにより、1台当たり50万円程度のコストを実現したいとしている。又2次電池を搭載し、電力需要の少ない時の発電電力を蓄積、需要の大きい時に電力会社から買う系統電力を少なくすることも考える。
(日経産業新聞02年7月8日)

(3)大阪ガス
 大阪ガスは、松下電器産業や三洋電機、東芝など18社のFCメーカを対象に、02年7月9日、家庭用FC商用化のための予備説明会を、予定よりも1年前倒しで行うことにした。FCの開発が加速しているためで、04年4月には商品を年間500台から5,000台購入するメーカ2社を選定する。
 予備説明会では、開発商品の目標仕様を公開、03年4月に開催する本説明会までにメーカに運転データの収集を求める。03年5月にはメーカからプレゼンテーションを受け、6月に共同開発メーカを3ないし4社に絞り込むことにしている。これらメーカとはシステムの試作や運転試験などを行い、04年4月にはこの中から更に性能の高い製品を提供できる2社を選んで商品購入契約を締結、量産試作機のモニター試験や施工、メンテナンスなどの検討を行う予定である。FCメーカとしては、最後の2社に残れば安定した販売が見込めるため、その後の市場展開が有利になると思われる。大阪ガスは商品化の時期を05年とする当初の計画を変更しているわけではないが、開発がスムーズにいけば、販売を前倒しして、04年度にも家庭にFCが入る可能性がある。
(日刊工業新聞02年7月9日)
 
5.FCV最前線
(1)ホンダ
 ホンダは、03年度に投入予定のFCVにおいて、氷点下20℃での冷間始動の実現を目標とすることにした。FCVは発電時に水が発生するので、氷点下ではパワートレイン内部が凍結し、始動不能に陥る可能性がある。又PEFC電解質膜の加湿を必要とするため、その水分を蓄えるタンクを設置しなければならない。ガソリン車などの冷却系では、不凍液を使って氷点下での始動性を確保しているが、FCVではこのような対策の流用は困難であり、同社はレイアウトを最適化するとともに、独自の工夫によって断熱性を高めるなどの方策を施し、ヒータを必要としない凍結防止技術の確立を目指す。
(日刊自動車新聞02年6月15日)
 ホンダの吉野社長は、02年7月10日の記者会見で、FCVの実用化を前倒しする考えを表明、02年内にも発売する可能性を示唆した。しかし、コストやインフラ整備に課題が残るとして、具体的な販売時期については明言を避けた。
(日本経済、産経、日刊自動車新聞02年7月11日)

(2)三菱自動車
 三菱自動車は、従来三菱重工業とFC技術の開発を行ってきたが、この共同事業を中止し、新たに資本提携先のダイムラークライスラーとの共同で、水素直接注入方式のFCVを開発する方針を固めた。他方ダイムラークライスラーは、フォードモータとメタノール改質方式のFCVを開発してきたが、この方式は燃料供給インフラが整っていないことに加え、技術的にも不安定なこともあり、三菱とともに水素燃料FCVを共同開発することにした。政府は2003年からFCVの公道試験を行う予定であるが、ダイムラークライスラー・三菱グループとして参加する予定である。
(日刊自動車新聞02年6月17日)

(3)ダイムラークライスラー
 DM社は2000年に開発したメタノール改質型FCV"Necar5"によって北米大陸横断運転実験に成功した。02年5月20日に西海岸のサンフランシスコを出発、16日の日数をかけて東海岸のワシントンに到着した。ダイムラークライスラー日本ホールデイングによれば、約5,250kmを平均時速約60km/hで走った計算になる。
(日経産業新聞02年6月17日)

(4)トヨタ
 トヨタ自動車は、カーボンナノチューブによる水素貯蔵技術の実用化研究に着手した。FCV用水素タンクとしての実用化を目指し、先ず水素吸蔵率の評価手法の確立を手がけ、これによりコンパクトで高効率の水素タンクを開発する。現在世界で多くの研究者が、カーボンナノチューブによる水素の吸着率を高める研究を行っているが、データに対する評価基準が確立されておらず、客観的評価が難しいのが現状である。このためトヨタは、国際的な評価基準に着手した。
(日刊自動車新聞02年6月19日)
 トヨタ自動車は、02年7月1日、FCVを日本とアメリカで02年中に発売すると発表した。国内では01年6月、アメリカでは同7月から始めた試作車"FCHV−4"による延べ11万km走行試験の結果が良好なため、実用化の目途がついたと判断、これまで03年半ばとしていた発売時期を前倒しする。ただ、コスト面や低温下での走行に課題が残るため、販売台数は年間20台程度(日米合わせて)とし、販売先も政府関係機関や研究機関、エネルギー関連企業などに限定し、リース方式で販売する。燃料となる水素の供給スタンドが整備されていることが前提になるので、販売地域はアメリカではカリフォルニア州、日本では東京と横浜を予定している。
(朝日、中日新聞02年7月1日、読売、朝日、毎日、日本経済、産経、日経産業、日本工業、日刊工業、東京、日刊自動車新聞7月2日、化学工業日報7月3日)
 トヨタ自動車は、02年内に発売するFCVに、デンソーが開発したCO2を冷媒とするカーエアコンを搭載することにした。
(日刊自動車新聞02年7月4日)

(5)GM
 GMは02年7月12日、FCVにおいて、燃料候補の1つであったメタノール改質方式を断念したと発表した。毒性が強く危険であることに加えて、Well-To-Wheel効率がガソリン改質に比べて悪いためである。同社は「今後メタノールの技術研究は中止し、ガソリン改質に研究を集中する」と述べている。又同社は燃料インフラが整わない時期に発売しても売れないとの判断から、本格発売は2008年以降との方針である。
(日本経済、日経産業、日刊工業、日刊自動車新聞02年7月12日)
 GMは経済産業省が02年秋にも実施する日本でのFCVの公道走行試験に参加する意向である。同社は日本を主力市場と位置づけており、08年から量産に乗り出す方針を表明している。
(日本経済新聞02年7月12日)

 
6.船舶用FC推進装置
 海洋科学技術センターは、深海巡航探査機"うらしま"の動力装置として、03年からリチウムイオン電池に替えてPEFCを搭載することにした。"うらしま"は同センターが1998年に約30億円をかけて開発した自律型無人潜水機で、コンピュータへの入力データによって自律的に航行し、塩分濃度の測定装置を備えている。01年には水深3,518mでの運行を記録した。しかし、リチウムイオン電池では連続航続距離は100kmが限度であり、これを出力4kWのPEFCに置き換えることによって当面300kmの航続距離を目指すことにしている。燃料の水素は吸蔵合金に蓄え、酸素は高圧ボンベに貯蔵される。水深3,500mでは水圧が350気圧に達するので、FCから排出される水を外部に吐き出すことが不可能なため、ドイツで開発が進んでいる密閉型構造が採用される。北極海の氷の下を潜行するためには、航続距離1,000km位が必要とも云われており、更に長距離航行を実現するための基礎データを得たいと同センターは語っている。
(東京新聞02年7月6日)
 
7.マイクロFCおよびDMFC
 武蔵工大の小林光一教授らは、触媒材料として希少金属のルテニウムの替わりに安価な酸化チタンを使ってDMFCなどでメタノールから水素を分離する触媒を改良し、実用的な性能を出せることを実験によって確かめた。携帯端末用DMFCとして利用できると期待される。この触媒は、直径4〜6nmの酸化チタン粒子を白金の表面に500℃で焼き付けたもので、酸化チタンの働きにより、触媒の表面でCOがCO2に変化し、COによる被毒が避けられてメタノールの反応がスムーズに進行した。FCに組み込んだ実験では、ルテニウムを使う場合に比べて、発電量は約6割にまで下がるが、携帯端末用電源としては十分な性能であり、チタンは安いのでFCの価格を下げることに貢献する。
(日経産業新聞02年6月17日)
 
8.改質および水素生成技術の開発
(1)エア・ウオーター
 高圧ガス大手のエア・ウオーター(大阪市)は、10分以内の短時間で起動が可能なLPガス改質装置の開発に成功した。300℃の低温で反応する新規の触媒を採用して、1時間以上かかかる現状の立ち上げ時間を大幅に短縮した。1分以内での起動の目途が得られたとして、03年秋に予定されているNEDOの中間技術審査を経て、詳細を発表する予定である。開発した触媒は、酸化に関わる白金およびロジウムと、吸熱機能があるニッケルおよびセリウムで構成されている。既存のルテニウム系触媒等では700〜800℃まで加熱しないと反応が始まらないが、新触媒は300〜400℃の低温で反応するため、改質装置の起動時間を短縮できる。立ち上げ10分以内で安定的に水素を発生する低価格で小型装置のサンプルは年内に完成し、1分以内の装置は03年春には開発する見通しであると同社は語っている。
(化学工業日報02年6月20日)

(2)早稲田大学
 早稲田大学の関根泰助手は、ガソリンやメタノールから放電によって水素を簡単に取り出す方法を開発した。触媒を使う従来の方法に比べて措置を小型化することが可能であり、反応温度も低いのが特徴である。2年後を目途に実用化することを目指し、ベンチャー企業"事業創造研究所"を設立した。
 具体的には、耐熱ガラスで作った直径8mm、長さ5cmの放電管の中にガソリンなどを吹き込み、約9,000Vの電圧を断続的にかけると、水素ガスが抽出された。実験ではウオッカからも水素を取り出すことができた。
(日本経済新聞02年6月28日)

(3)日本ガス協会
 日本ガス協会は、従来の方法に比べて水素の発生量が1割多く、装置の大きさが8分の1から10分の1と極めて小さい都市ガス水蒸気改質装置を開発したと発表した。メタンを主成分とする都市ガスと水蒸気を触媒反応させて得られた水素リッチなガスを、パラジウム合金の薄膜を通して水素だけを分離、特殊な合金で吸着・回収する。水素を分離して排出されたCOなどは燃やして改質反応に必要な熱を得るのに利用している。反応温度も約500℃で従来の方式より低くなっており、安価なステンレスの利用が可能である。NEDOからの委託を受け、東京ガスや大阪ガスの研究者が協力して開発した。
(日本経済新聞02年7月12日) 
 
9.FC関連計測技術
(1)計測エンジニアリング
 測定器製造・販売の計測エンジニアリング(東京)は、スウエーデンのソフトウエア開発会社のCOMSOLが開発したFC開発支援ソフト"FEMLAB"の輸入販売を開始した。従来は複数のソフトを使って処理していた化学反応や圧力計算など専門的な解析が、1つのソフトによって可能になり、デスクトップパソコンで利用することができる。海外では500を超える企業・研究機関で稼動実績があり、価格は基本セットで約110万円、年間200セットの販売を目論んでいる。
(日経産業新聞02年6月17日)

(2)チノー
 チノーは、FC試験装置を開発、02年7月1日から発売を開始した。電池高速冷却や加湿タンク自動浄化、目的別温度制御の各システムを標準的に装備しており、PEFCのショートスタックの評価試験を対象としている。価格は負荷電力1kWタイプの標準装置で3,000万円、オプションで高速加湿制御機能や抵抗測定機能付電子負荷装置が用意されている。又自動運転ソフトには、工業用ソフト"CISAS/EX"のFC専用版を採用しており、FCの組み立て時の初期活性化、タフェール測定、ガス利用率一定制御、自動判別データ収録などの活用で、データ収集も容易になると報道されている。
(日本工業新聞02年7月1日、電波新聞7月3日、化学工業日報7月4日)
 
10.FC教材用キットとFCVモデルカー
(1)西日本ラジオ
 電子機器・パーツ総合商社の西日本ラジオ(福岡市)は、小型FC単セル組み立てキットを、従来から販路が確立している学校など教育関連を初め、一般企業向けにも販売し、その関連の事業を立ち上げようとしている。
(電波新聞02年6月22日)

(2)テラリウム
 環境関連商品販売のテラリウム(川崎市)は、02年7月に、FCを動力源とするモデルカーを発売する。ドイツの科学教材メーカ"H−TEC"の商品で、テラリウムが輸入販売する。このモデルカーは、太陽電池又は家庭用電源(ACアダプター付)で得られた電力によって車載容器に注いだ水を電気分解し、発生した水素を使って出力500mWのPEFCを運転、モータを駆動する方式である。FCによって排出された水は、再び車載の容器に戻る仕組みになっている。発売するのは、商品名が"ハイランナー"、全長20cm、車幅9cm、車高7.5cm、車重260gで、約30cm3の水で8分間走行できると記されている。希望小売価格は5万8,000円。
(日経産業新聞02年6月27日)

(3)大同メタル工業
 自動車部品メーカの大同メタル工業は、子供1人が乗って4時間以上走行できる"ミニFCV"を発売した。トヨタ自動車のミニバン"エステイマ"などを模した子供用玩具に、アメリカのDCHテクノロジーと共同開発した小型軽量のFCを搭載している。車体などは最大で25kgまでの重さに耐えられ、低学年の小学生が利用できる。価格は30万円前後で受注活動を開始、政府関係機関や科学館など教育施設での展示用として売り込むことにしている。高学年の小学生でも乗れる新タイプも近く売り出す予定で、これは日産自動車の"スカイライン"をモデルに、最大60kgの重さに耐える設計とする。なお、大同メタルは携帯電話用のマイクロFCや学校教材用向けなどの商品を製品化している。
(日本経済新聞02年7月5日)
 

 

 

 ―― This edition is made up as of July 12, 2002. ――