第72号 家庭用FCシステムで改質器の開発が進む

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.公共的団体の活動
3.MCFCの開発と市場開拓
4.PEFCの開発とその利用
5.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの開発
6.FCV最前線
7.マイクロFCの開発
8.水素関連技術
9.FC用計測器
10.企業活動
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1.国家的施策
(1)経済産業省
 経済産業省は、環境・エネルギー分野で市場創出と潜在需要の開拓を図るための行動計画を02年中に作成する。京都議定書の目標達成に向けて"環境と経済の両立"を基本とする政府の方針に合わせて、環境政策、エネルギー政策の結びつきを従来以上に強め、3〜5年程度の技術開発戦略・市場化戦略を纏めることにした。具体的には、環境配慮型企業に対する支援措置の充実、分散型電源普及のための制度・インフラの整備、公的機関でのESCO(省エネルギー総合サービス)の率先実施を柱に、包括的プログラムによるFC実用化推進や製品の消費段階まで含めたトップランナー市場の拡大、などを盛り込む方針である。
(電気新聞02年5月27日)
 経済産業省は、02から04年度にかけて、水素ステーションおよび家庭用FCの実用化モデルについての集中実証試験に乗り出す予定である。02年度は総額で25億円を投じるが、内16億円は水素ステーション向けで、エンジニアリング振興協会と日本電動車両協会が委託を受け、具体的には石油、ガス企業が東京、川崎、横浜に計4ヶ所、石油、LPG、メタノール改質の水素スタンドを設置する。このプロジェクトとは別に東京には液化水素ステーションが、川崎には副生水素ステーションが02年度中に建設されることになっている。
 家庭用FCについては、新エネルギー財団が担当し、出力1kWを中心に最大5kWまでの機種を、02年度には12ヶ所、04年度までに計50ヶ所、寒冷地から山間部、海岸域、住宅地等全国に分散して設置する予定である。
(日刊工業新聞02年5月27日)

(2)国土交通省
 国土交通省は、建築基準法に規定されている水素貯蔵制限や水素スタンド建築制限の規制を見直すことにした。貯蔵量規制は市場の普及状況に見合った量に増やし、用地規制については工業地域に限られていた規定を、商業地域・住宅街にも拡大する。当面は大阪ガス等民間企業が進めている水素ステーションの実証実験データの蓄積結果を参考にし、安全性について確認した上で、04年度中にも同法の部分改正に踏み切る考えである。国交省では「消防法など関連法規と整合性を取りながら、見直し作業を進めていく」と話している。
 現在、建築基準法第48条と施行令116条などでは、水素の貯蔵量に関し、水素ガスを含む可燃性ガスは準工業地域で350m3(FCV10台分)、商業地域では70m3以下と制限しており、水素供給施設の設置は、商業地や住宅地ではその建築を認めていない。
(電気新聞02年5月27日)

(3)政府のFCプロジェクトチーム
 政府のFCプロジェクトチーム(経済産業・国土交通・環境各省の副大臣5人で構成)は02年5月27日に第4回会合を開き、"日本発プロジェクトX−地球再生のためのエンジンを開発せよ"と題する報告書を取り纏めて発表した。同報告書は、2020年でFCV500万台、定置式FC1,000万kWを前倒しで達成するよう訴えている。又具体策として、バスによるFCVの実証運転、水素ステーションの増設、05年を目途に型式認定を可能とする保安基準の整備などを提案しており、地域特性を生かした北海道での公開実験や、普及啓発のための"FCVレース構想"などのアイデアも提示、更に国際標準化や包括的な規制内容の再点検の必要性にも言及している。5月30日の副大臣会議で正式に決定し、経済財政諮問会議に提言する予定。
(読売、朝日、毎日、日本経済、産経、東京、日刊工業、日本工業、電気、日刊自動車、北海道新聞02年5月28日、日刊建設工業新聞5月29日)
 
2.公共的団体の活動
(1)経団連
 日本経済団体連合会は、02年5月29日、経済活性化に向けた72項目からなる規制改革緊急要望をまとめ、石原行政改革相に提出したが、FCVの普及促進を目指した関連法案の見直しなどを新たに盛り込んだ。
(日本経済、産経、日本工業、日刊工業新聞02年5月30日、化学工業日報6月6日)

(2)大阪工業会
 大阪工業会は、新産業創出事業で、優れた製造技術を会員に持つ東大阪商工会議所と提携、2002年度の事業としてFCの開発に取り組むことにした。会員企業から賛同者を募っており、9月には事業を始める意向である。開発過程でFC構成部品を試作する必要があり、東大阪商議所を通して部品試作を得意とする中小企業を紹介してもらうことにしている。
(日経産業新聞02年6月4日)
 
3.MCFCの開発と市場開拓
(1)電力中研、IHI等
 電力中研、北海道電力、中部電力、およびIHIは、共同で石炭ガスや廃棄物ガスを燃料とするMCFCの実用化に目途をつけたと発表した。不純物を含む模擬ガスを用いて出力10kW規模のMCFC(セルの大きさ1m2)による連続発電実証運転を行い、1万時間におよぶ運転時間でも電圧劣化について問題のないことを確認した。廃棄物や石炭から発生するガスは水素濃度が低くてCO濃度が高く、更にフッ素、アンモニア、硫黄などの不純物を含んでいる。模擬ガスはCOに水を加えることにより作られた。
 電圧低下は1,000時間当たり0.25〜0.35%で、4万時間でも電圧低下を10%以下に抑えられる見通しを得た。この結果を踏まえて、IHIは300kWプラントを02年夏にも完成し、中部電力川越発電所で最後の実証運転を実施、04年以降での商用化を目指すと述べている。同社は1kW当たりの設備コストが40万円以下になることを目標にコストダウンを進めていく考えである。
(日刊工業新聞02年6月4日)

(2)福岡市と丸紅
 福岡市と丸紅は、下水汚泥から発生するメタンガスを燃料としてMCFCを運転する実証試験プロジェクトを03年4月に立ち上げることにした。MCFCはアメリカ製(FCE製と思われる)で出力は250kW、発電電力と排熱は下水処理施設内で利用し、運営コスト削減する。実証運転では、発電効率の確認や、発生する400℃の水蒸気を生かした給湯や汚泥乾燥の仕組みの確立を目的としており、丸紅は実証運転を経て全国に売り込む積りであるが、量産化につながれば、現在約1億5,000万円の装置価格を、半分程度にまで下げることができると述べている。又福岡市下水道局は、メタンガスを燃料とするマイクロガスタービン発電の運転も予定している。
(西日本新聞02年6月9日)
 
4.PEFCの開発とその利用
(1)海洋科学技術センター
 海洋科学技術センター(JAMSTEC)は、02年秋から無人深海巡航探査機"うらしま"の動力源をリチウム電池からPEFCに入れ替える作業に取り掛かり、03年度から運行試験を実施する予定である。リチウムイオン電池では航続距離は100kmに過ぎないが、PEFCに置き換えることにより、300kmまで飛躍的に向上する。搭載するPEFCは、定格発電端出力が4kW、電圧120Vで、連続運転50時間を目標としている。燃料となる水素は、水素吸蔵合金に蓄えられる。
(化学工業日報02年5月27日)

(2)横浜国立大学
 横浜国立大学の太田健一郎教授と神谷信行教授らのグループは、電極反応を促進させる新たな触媒を開発し、それによってFCで取り出せる電流を従来の10倍にまで増加させる可能性を示した。02年秋にもPEFCに組み込み実証試験を行う。新触媒は白金の表面に、電気メッキの手法を使って、酸化タングステンを付着させたもので、電解質溶液に入れて電極として動作させると、触媒上で水素イオンが酸素と結びつく反応の効率が高まり、取り出せる電流が10倍に増加した。酸化タングステンが反応を促進するためと考えられている。反応が早く進めば大きな電流を取り出すことができる。これがPEFCの電極反応で実現すれば、発電出力、効率等性能が上昇する他、高価な白金の量を減らすことにより、コストダウンが図れるものと期待されている。
(日経産業新聞02年6月6日)
 
5.家庭用PEFCコージェネレーションシステムの開発
(1)日石三菱
 日石三菱は、一般家庭での使用を目的とした、LPG燃料の出力1kWPEFCシステムを開発し、2004年を目途に発売する予定であると発表した。大きさは幅90cm、奥行き42cm、高さ97cmで、小型の冷蔵庫程度である。FC主要部分の性能を高めると同時に、改質用触媒技術を高度化して、小型化を達成した。神奈川県の多目的ホール"かながわドームシアター"に同種のFCを導入、商業化を目指したデータ収集を02年6月から開始する。排熱を利用した給湯タンクを併設しており、コージェネレーションとしての効率も検証する。04年には出力1kWシステムを50万円程度で販売したいとしており、一般家庭での普及を狙う。
(日経産業新聞02年5月31日)

(2)MHI
 三菱重工業広島研究所は、02年6月12日、家庭用FCの燃料である天然ガスの改質において、改質触媒の劣化を防ぐ新技術を開発し、それを採用して深夜には運転を止め、朝になると再起動するDSS運用制御手法の確立に成功したと発表した。装置内で発生する蒸気と排ガスを活用し、運転を停止した時に残った燃料ガスを排出する方式で、改質器内に残留した燃料ガスが時間とともに白金や銅などの改質触媒を劣化させるのを防ごうとするものである。現状では連続運転するか、窒素ガスでパージする方法が採用されている。この新技術を使えば、必要な時だけ運転できるのでエネルギー利用効率が向上するとともに、窒素ボンベの設置スペースが不要になり、家庭用PEFCシステムでは1回当たり数十リットルにも達する窒素の充填作業も要らなくなる。又改質用に使う数種類の触媒の中で劣化が顕著な触媒を突き止め、劣化のメカニズムを解明することにより、蒸気やガス温度の最適運転条件を求めた。最適運転制御により、起動停止の回数は、従来は数十回であったのが、数千回まで可能になったと同研究所は話している。
 広島研究所では"エアコンの室外機程度の大きさ"(高さ102cm、幅80cm、奥行き32cm)で出力1kWの装置を製造し、02年末からサンプル集荷を始め、1台50万ないし60万円で発売することを考えている。本格的な普及時期である2010年頃には、20万ないし30万円での販売を見込んでいる。給湯にも使えるので、一家4人所帯では、電気、ガス代を年間5万円程度削減できると見積もっている。MHIでは02年4月からFCの研究開発機能を広島研究所に集約し、研究者50人体制でPEFC開発センターを新設した。
(読売、朝日、日本経済、日経産業、電気、日本工業、中国新聞、化学工業日報02年6月13日)

(3)バブコック日立
 バブコック日立は、都市ガス用改質器において、独自の触媒技術で作動温度を低くし、起動時間を従来の半分以下に縮小した新型器を開発したと発表した。新しい触媒技術の適用により、従来は700℃まで加熱する必要のあった改質プロセスの温度を、600ないし650℃まで引き下げることが可能になり、その結果起動時間が40分から20分以下に短縮された。新技術を適用した改質器は、電源を入れてから12分程度で水素を発生すると述べている。家庭用PEFCに適用、2005年にも発売する意向である。
(日経産業新聞02年6月14日)
 
6.FCV最前線
(1)ホンダ
 ホンダは、03年に投入するFCVをレンタルで提供する計画を立てている。車体価格が1億円を超えると言われるFCVを、より手ごろなコストで利用してもらうと共に、先端技術の流出を避ける狙いも含まれている。吉野社長は「2足歩行型ロボットのアシモのような形で提供することになる」と話しており、ホンダの開発関係者は「FCVを販売する場合、相当な赤字覚悟の価格にせざるを得ない。購入した車両を分解してパーツとして販売すれば、ユーザはかなりの利益を得られるだろう」と指摘している。FCVは未完成の技術も多く、車両を日常運行するためには、細かいメインテナンスが必要となるが、それにデイーラーは対応できず、メーカから技術者を派遣することになると思われる。ユーザに引き渡したFCVを最良のコンデイションで維持し、適切に使われているかどうかをチェックするためにもレンタルの方が有利と判断している。
 ホンダのFCVは純水素を燃料とするため、初期のFCVユーザは水素供給スタンドを準備できる法人に限定さされると考えられる。現在FCV購入に名乗りを上げているのは、公用車として導入する方針を表明している政府だけである。
(日刊工業新聞02年5月27日)

(2)GM
 GMは次世代の燃料、自動車駆動方式などを研究している代替動力源センター(GAPC)の名称をFC事業本部(FCA)に変更した。ドイツのアダム・オペルなどとの共同研究の結果、水素によるFCVの事業化が最も有望であるとの結論に達し、今後はFCVの商品化に注力するため事業本部を設けることにした。日本支部の名称もGMFC事業部日本支部に改めた。
(日刊自動車新聞02年5月31日)

(3)トヨタ
 トヨタ自動車は、02年5月30日、FCバスを2005年の日本国際博覧会に出展し、実証試験を行う計画を明らかにした。同博覧会協会は、主会場である愛知青少年公園会場内の観客輸送手段として、同バスを活用する意向である。
(中日新聞02年5月31日)

(4)日産
 日産自動車は、ピックアップベースの北米専用4WD車"エクステラ"に、高圧水素ガスを燃料とするPEFCシステムを搭載し、CaFCPに参加して01年4月から公道での走行試験を行ってきた。同モデルによる走行試験では、最高時速120km/h、航続距離200km以上を当面の目標として掲げていたが、目標達成の目途がついたので、次ぎのステップとして小型車での実験に入ることにした。年内にもCセグメント車(サニークラス)にFCシステムを搭載し、アメリカで公道運転試験を実施する。同社は2005年の実用化を目指してFCVの開発を行っているが、小型車の走行試験では、航続距離200マイル(320km)を達成し、市販化を視野に早期実用化を図る意向である。
(日刊自動車新聞02年6月5日)

(5)ドイツでのFCV試験センター設立
 ダイムラークライスラーは、BMW、GMの独立小会社オペル、MAN、リンデ、ドイツ最大のガソリンスタンドチェーンのアラルなどと共同で、純水素利用FCVなどクリーンエネルギーを利用した自動車の試験センターをベルリンに創設する計画を発表した。ドイツ政府も1部出資すると伝えられている。
(日刊工業、鉄鋼新聞02年6月6日)
 
7.マイクロFCの開発
 日立製作所は、グループ企業10社と協力して、"ナノテクノロジー統括推進センター"を設置、ナノテクノロジーを利用したFCやプラスチックなど4品目の研究開発に重点的に取り組む。FCではメタノールを燃料とする携帯型を開発する予定で、ナノレベルで分子構造を制御する技術を電解質膜部分の製作に応用し、FCの出力や耐久性を大幅に引き上げることにより、携帯電話やパソコン向け電源として2003年〜04年に製品化することを意図している。
(日経産業新聞02年6月10日)
 
8.水素関連技術
 日本製鋼所は水素燃料を供給する30気圧まで水素を圧縮して水素貯蔵タンクに収める機能を持つ高圧コンプレッサーを開発、受注を開始した。価格は2,000万ないし3,000万円である。既に販売している水素貯蔵タンクなどと組み合わせて、2005年には設置数が100基を超えると見られるFCV用水素ステーション向けの中核装置として、自動車メーカなどに売り込む意向である。今後は燃料改質装置や水素発生装置などと合わせた水素ステーション全体のシステム提案を目指すと述べている。
 同社は2001年6月にFC関連技術の開発を担当する"水素エネルギー開発センター"を設置、6月には高圧コンプレッサーを製造する広島製作所に専門チームを配置し、生産部門との連携を強化した。01年度(02年2月)に大阪市に設置されたNEDO事業による水素ステーションではドイツの機械メーカのフォーファー社が受注したが、高松市のステーションには納入した実績を持つ。
(日経産業新聞02年6月6日)
 
9.FC用計測器術
 計測器メーカのチノーは、FCの評価試験装置を開発、02年6月下旬にも発売する。最大で数十の発電セルを復層配備したFCスタックを対象とした装置で、測定できる負荷電力を100kWにまで高め、家庭用から大型車両向けなど幅広い用途の実用化試験に使えるようにした。同装置は、ガス燃料の供給装置、湿度制御装置、冷却装置、評価装置で構成される。温度や湿度、水素ガスの供給量などをコンピューターで制御しながら、発電効率や電流特性などを測定することができる。装置の価格を2,000万円から5,000万円に設定、02年度で10台以上の売上を見込んでいる。
(日経産業新聞02年6月7日)
 
10.企業活動
 日清紡は携帯端末向けのFCに使うカーボン製部品を研究する専門チームを発足させた。04年度にも実用化されるとみられている携帯端末向けFCに必要な部品の薄型成形技術を開発することにしている。又02年5月、セパレーターを年間200万枚生産する設備を見合工場に導入し、製造を開始した。投資額は2ないし3億円である。これに合わせて、FC関連の研究者を千葉市の研究開発センターから同工場に集約した。この内携帯端末用FCを対象にした専門チームは、薄型・小型化技術に特化して研究を進める。
(日経産業新聞02年5月27日)
 日清紡は、PEFC用カーボンセパレータの生産能力を段階的に年間数千万枚まで引き上げる。家庭用やポータブルタイプのFC向け出荷量に加えて、国内外の自動車メーカからの引き合いが強まっており、FCVの実用化に備えて生産能力を増強することにした。既に従来のカーボン成形品に比べて約2倍の強度を持ち、厚さも従来の4分の1に相当する0.25mmを製品化しており、更に従来難しかった柔軟性を付与するなど、開発を加速させている。
(化学工業日報02年6月10日)
 

 

 

 ―― This edition is made up as of June 25, 2002. ――