第71号 FCおよび水素関連SSの規制を大幅緩和

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.海外政府機関の動き
3.PAFCの実用展開
4.SOFC開発
5.PEFCの開発
6.家庭用PEFCコジェネレーション
7.FCV最前線
8.超小型FCの開発
9.改質技術
10.水素製造、貯蔵および水素ステーション技術
11.企業活動
A POSTER COLUMN

1.国家的施策
(1)閣僚懇談会
 小泉首相は、02年4月26日に開催した閣議後の閣僚懇談会で、03年に市販されるFCV第1号車を、政府として大規模に率先導入する方針を示した。首相は「産業競争力の観点からも、日本が世界に先駆けてFCVの早期実用化を図ることが重要」との認識を示し、02年度中に率先導入のための措置を講ずる他、2005年を目途に関係する規制の再点検を実施するよう関係閣僚に指示した。この首相発言を受けて、平沼経済産業大臣は「経済産業省として自ら率先してFCVを導入するとともに、水素供給設備の導入を図っていく」と発言、同時に安全性確保を前提として、05年を目途に関係する規制の再点検を実施する方針を示した。トヨタとホンダが03年にも発売する市販第1号車は水素を燃料とするため、普及には水素供給設備の整備が必要になる。又水素を高圧ガスとして車両に貯蔵するため、公道試験でも高圧ガス保安法によりさまざまな規制を受けているのが現状で、FCV普及のためには、こうした関係規制の見直しが不可欠である。
(日刊自動車新聞02年4月27日、日本工業、日刊工業新聞4月30日、化学工業日報5月2日)

(2)経済産業省
 経産省は、FCVのグランプリレースを企画していることが明らかになった。モータスポーツの振興を通してFCVの需要を喚起しようとする政策で、自動車業界や地方自治体などと協力し、早ければ2006年にもレース開催にこぎつけたい意向である。具体的には、経済産業、国土交通、環境3省の副大臣で構成する"FCプロジェクトチーム"が02年5月末を目途に取りまとめようとしている報告書に新規施策として取り入れ、経済財政諮問会議や総合科学技術会議などに提言、2003年度予算要求に反映させたいと考えている。
(日本工業新聞02年4月30日)
 経済産業省原子力安全・保安院は02年5月8日、FCを家庭に設置する場合、その規制を緩和する方針であることを、総合エネルギー調査会の委員会で明らかにした。
(朝日新聞02年5月9日)

(3)国土交通省
 国土交通省は、北大触媒化学研究センターの市川教授等の研究グループと共同で、有機ハイドライドを活用した水素の貯蔵・供給プラントを利用してPEFCを運転、更にPEFCで発生する電力と熱をイルミネーションと建築物の室内空調に活用する実証実験を、サッポロさとらんど(札幌市東区)で7月下旬から8月中旬にかけて実施することになった。システム効率、耐久性などについて基礎データを収集するほか、夏休み期間中に小中学生らの施設利用者に実験を公開し、FCの将来性などを利用者にアッピールする。
(日本工業、日刊建設工業新聞02年5月2日)

(4)環境省
 環境省は"環境ビジネス研究会"の第3回会合を開催、トヨタ自動車の渡辺専務と松下電器産業の三木専務を招き、両社の環境ビジネスの現状や課題、そして行政に対する要望などについてヒヤリングを行った。トヨタの渡辺専務は、燃料ステーションなどの将来像を提示、水素充填スタンドなどFCV普及のためのインフラ整備・法整備の必要性を訴えた。
(化学工業日報02年5月10日)

(5)規制緩和と支援策
 政府はFCの開発を国家的課題と位置づけ、経産省や国交省など関係省庁は02年5月末に"FC実用化に向けた連絡会議"を設置し、規制緩和などの支援策を年内を目途に纏める。政府はこれまで水素を利用したFCを危険物とみなし、建築基準法や道路法などで貯蔵や使用を厳しく規制してきたが、今回FCの安全基準などを明確にした上で、規制を全面的に見直すことにした。
 具体的には、水素を自動車に充填する基地を工業地域以外に事実上設置できない規制を撤廃するとともに、水素搭載自動車が長いトンネルなどを通れない規制も外す。道路運送車両法で1台ずつ安全検査を受ける義務があるのも見直し、同一型式なら一括検査で済むように改正する。又個人がFCを家庭用に使う場合、住宅毎に発電所の管理に必要な国家資格を持つ者の常駐を求める電気事業法も改正し、資格がなくてもFCを扱えるようにする。
 規制緩和以外の支援策としては、首都圏で5つの水素ステーションを設置、FCVの公道走行試験を支援すると共に、03年にはこの基地をインフラとして活用し、政府の公用車にFCVを採用する。又民間による購入費の1部を政府が補助する制度も検討する。政府の見通しによると、FCの国内市場規模は2010年度に1兆円、2020年度には8兆円に達することになる。
(日本経済新聞02年5月10日)

(6)FCプロジェクトチーム(FCPT)
 環境省、経産省、国交省の副大臣で構成するFCプロジェクトチームは、02年5月13日、第3回会合を開き、これまでの検討経緯を踏まえた報告書骨子案を纏めた。骨子案には1)今後の技術開発のあり方、2)実施検証とモデル事業、3)普及啓発の必要性、4)規制緩和などソフトインフラの整備、の4つの提言が盛り込まれた。
(日本経済、電気、日本工業、日刊工業、日刊自動車新聞02年5月14日)

(7)総務省・消防庁
 総務省・消防庁は、水素インフラの普及を目的に、消防法上の規制措置を大幅に見直す方針を固めた。現行法では、ガソリンスタンドなど給油取扱所に給油用途以外の建物、工作物を併設できない規定になっているが、FCVに水素を供給する施設の技術基準を新たに設ける。天然ガスや石油系燃料をオンサイトで改質し、水素を取り出す場合の技術基準づくりも併せて実施し、市街地での水素供給施設の普及に支障とならないよう法体系を整える。02年度中に検討を開始し、03年度後半には政令・省令を改正、公布する予定である。
(電気新聞02年5月17日)
 
2.海外政府機関の動き
 フランス原子力庁(CEA)のP.コロンバニ長官は、02年4月19日、韓国の複数の原子力研究開発機関と3種類の協力協定を締結した。それらの中で、韓国科学技術研究所(KIST)との間ではFCや水素技術について、韓国エネルギー協会(KIER)とはエネルギー貯蔵、FC分野における協力に関する協定を結んだ。
(原子力産業新聞02年5月16日)
 
3.PAFCの実用展開
(1)山形県  下水の汚泥処理で発生するメタンガスで発電するPAFCが、山形市の下水道浄化センターに完成し、02年5月13日から稼動を開始した。同センターには、毎日下水約4万m3が集められており、処理過程で発生するメタンガスはこれまで発電用ガスエンジン(能力178kW)の燃料として使用されてきた。しかし下水集積量の増加に伴い、メタン総発生量の68%しか処理できなくなったため、完全活用を目指して富士電機製出力100kWPAFCを2基導入した。ガスエンジンと合わせると、センター内の消費電力の約4割は、汚泥処理によって賄えることになる。又PAFCからの排熱は汚泥の加熱処理に利用され、冷却作業を省いてエネルギー循環の効率化も図っている。同センターは「ガスや水分が抜けた汚泥は、乾燥して農業用のコンポストに加工する。今回の処置で下水の有効活用の形がほぼ整った」と語っている。
(山形新聞02年5月14日、日経産業新聞、化学工業日報5月20日)

(2)神戸市
 環境省が神戸市のポートアイランドで進めているバイオマスによるPAFC発電の実証実験に加えて、同省は生ゴミから生成されるメタンガスをCNG車の燃料として供給するバススタンドを02年夏にも建設する計画で、既に具体的な設計を始めている。バイオマスPAFC運転実験については、富士電機と鹿島が運営管理しているが、同省によると稼働率は約40%、出力は約40kWで、得られた電力は施設内の電源として利用されている。当初はポートアイランド地区にある6つのホテルから1日約6トンのゴミを集める計画になっていたが、分別作業に手間がかかることや、分別スペースを確保することが難しいなどの理由により、1日4トン弱の生ゴミしか確保されていない。環境省は神戸市に対して、市民病院で発生する生ゴミを提供するよう要請しており、電気出力を100kWに近づけたいと考えている。
(電気新聞02年5月24日)
 
4.SOFC開発
 NKKは、2004年から常圧型SOFCによるコジェネレーションシステムの国内販売を目指すことになった。シーメンスウエスチングハウスと発電出力250kWの商用プロトタイプの開発を進め、先ず03年後半を目途に海外で実績を作る。その後日本を含むアジアでの販売権を持つNKKが、04年にも日本での販売を開始する方針である。海外ではアラスカ州にあるイギリスBPの施設向けに第1号機を納入する予定になっている。この出力250kW発電システムは、当面45%以上の発電効率を前提とするが、将来は50%を目指すと述べている。シ社が開発製造と世界規模での販売を担当するが、日本を含むアジアではNKKが販売することになっている。
(電気新聞02年5月10日)
 
5.PEFCの開発
 バラードパワーシステムズ(BPS)と荏原は、02年5月22日、PEFC用陽イオン交換膜(BAM Grafted PEM)を、パイロットスケールで製造するプロセス装置に関し、独占的な開発契約を結んだと発表した。今後3年間両社が資金を出し合って開発を行う。荏原では専用のパイロットスケールの製造設備を作り、生産能力の実証を行う。
 バラードの陽イオン交換膜は、市販の母材に同社が独占的に所有権を持つ化学材を結合させたもので、今回の契約により両社は、バラードの技術を基に、実用化に結びつけるためのパイロットスケールでの製造を目指し、プロセスと装置を共同で開発する。開発期間は18ヶ月を予定している。荏原は化学的なプロセスを利用してフィルムなどの膜にイオン交換などの機能を新たに付け加える技術を持っている。これは"連続グラフト重合技術"と呼ばれるもので、今回の共同開発にも適用する方針である。一方バラードは、荏原が製造した膜を使い、PEFCを製作し、その性能仕様を検証する。
 荏原はPEFC用フッ素系膜を開発、03年末までに藤沢工場にパイロット製造プラントを設置、事業化段階へ移行させる方針である。これは資本参加しているBPSと共同で開発したもので、デユポン製ナフィオン膜を性能で上回り、低コストも実現できると述べている。
(電気、日経産業、日刊工業新聞02年5月23日、日本工業新聞、化学工業日報5月24日)
 
6.家庭用PEFCコジェネレーション
(1)日本ガス協会
 日本ガス協会は、PEFCコジェネレーションシステムの安全性、信頼性に関するデータ収集を加速することにした。PEFCを家電製品やガス機器並みの手軽さで取り扱えるようにすることを目標に、基本性能のデータ収集に加え、今後は実際の使用環境での安全性や信頼性に関するデータ取得を進めて、試験方法や安全基準の検討と策定に反映させたい意向である。そして試験方法の国際標準化提案や、設置基準の規制緩和を求めるなど、普及基盤を整備していくことにしている。同協会によると、PEFCは電気事業法や消防法で通常の発電設備として位置づけられているため、近接する建物との間に一定以上の距離間隔が要求されるなど、厳しい設置基準が設けられている。現状の設置基準が見直されない場合、PEFCコジェネレーションシステムの導入に支障をきたす恐れのあるとの判断から、上記のような事業を展開していくことにした。
(電気新聞02年5月8日)

(2)広島ガス
 広島ガスは、同社の技術研究所に天然ガスを使ったHパワー製PEFC試験用設備(発電出力4kW)を導入した。天然ガス利用の家庭用コジェネレーションシステムの開発を目標に、02年度末までに発電効率や排熱回収率などのデータを収集、経済的な使用形態やガス流量の適正管理手法などを検討して、2005年には実用化したいと考えている。又耐久性や安全性、環境性なども併せて調査する予定である。
(日経産業新聞02年5月9日)

(3)東京ガス
 東京ガスは、家庭用コジェネレーションシステムの利用でCO2排出量を2割削減できることを確かめた。02年3月から横浜市とさいたま市の各一世帯に試験装置を設置、湯の利用状況などに応じてガスの流量をきめ細かく制御すると、ガスの消費量は増えても電力使用量が減るためCO2の排出抑制に繋がると説明されている。光熱費も約10%、年間で4万円程度が削減できると試算した。
(日本経済新聞02年5月10日)

(4)富士電機
 富士電機は、02年5月22日、家庭用PEFCにおいて、実用レベルの信頼性を達成したと発表した。同社はPEFCの信頼性を高めるため、電圧経時変化の改善に力を入れ、天然ガス改質のPEFCセルとスタックで、これまで1万時間以上の運転を行ってきた。今回電池電圧の低下率が4,000時間までは従来の1/3、4,000〜1万時間では、1,000時間毎に2mVしか低減しない事を確認し、現在商業化されているPAFCの信頼性レベルに達したと述べている。これは水マネジメント技術の開発によって、電解質膜の湿潤状態が適正に保たれていることを示すものと思われている。なお、純水素を使った1kWPEFCスタックの運転では、15,000時間を超えている。
(日刊工業新聞02年5月23日)
 
7.FCV最前線
(1)GM
 アメリカGMは、02年5月1日、ガソリン改質型FCV(ピックアップトラック)の実験走行に成功したと発表した。低硫黄ガソリンによるエネルギー効率は40%、CO2排出量は内燃機関の半分に低減できると発表している。
(産経、日刊自動車新聞02年5月2日、電波新聞5月3日)
 GMのFC開発・商用化部門の責任者バイロン・マコーミック氏は、02年5月1日、FC研究施設をニューヨーク州北部に開設する方針であることを明らかにした。FCの商用化を促進するのが狙いである。新研究施設は7,200m2の規模、50ないし100人が雇用される予定で、大量生産に適した素材や工程を研究することにしている。同氏によれば、GMは現在FCの研究に年間数億ドルを投入しており、05年頃までにFCV用以外のFCの開発実用化も目指している。
(日刊工業新聞02年5月3日)
 GMは、太陽電池パネルを張った水素供給スタンドでFCVに水素を供給するイラストを示し、環境対策技術をアッピールしようとしている。
(読売新聞02年5月6日)

(2)西部ガス
 西部ガスは、アメリカ製出力250WのPEFCを搭載したFCカート車を、同社総合研究所に導入した。重さ500kgの車両に4人を乗せて、10km/hの速度で走行できる。5月中旬から施設見学者に試乗してもらうことにしている。
(西日本新聞02年5月5日)

(3)ダイハツ
 ダイハツ工業は02年5月9日、今年度中に軽FCVの公道テストを開始する予定であると発表した。燃料は高圧水素で低排出ガス車"ムーブ"がベースとなる。FC・燃料技術は親会社のトヨタと共同開発しており、ダイハツは軽自動車の制御面で技術的な課題を解決することにしている。走行テストは、開発拠点のある滋賀県内や大阪府内で実施する予定であるが、開始時期や期間は今後詰めると述べている。
(読売、日本経済、産経、日経産業、日本工業、東京新聞02年5月10日、日刊自動車新聞5月11日、化学工業日報5月13日)

(4)日本自動車研究所
 日本自動車研究所は、水素に燃料漏れを検知するためにわずかな付臭材を添加しても、FCスタックの触媒被毒で電圧低下が起きないことを突き止めた。FCVの安全性を確保するためには、水素漏れを感知するセンサーの設置が求められており、同研究所では漏れを臭いで把握しようと、都市ガス、LPG用の付臭材がFCに及ぼす影響を調査してきた。その結果、FCスタックの中枢となる触媒の機能を低下させないようなある種の付臭材が実用できる可能性のあることを発見した。メルカプタン系やスルフィド系での付臭材で適応性を評価した結果、特に臭いが強いジエチルスルフィド(DES)において、添加濃度2〜20ppmの範囲では触媒被毒の影響が軽微であり、電圧の降下は見られなかった。これまで水素にわずかでも硫黄系の付臭材を添加することは問題外とされてきたが、DESは硫黄分の周りをオブラード状に取り囲んでいる物質を持つ分子構造を有しており、硫黄分が漏れずに触媒が被毒しないことが判明した。
(日刊工業新聞02年5月13日)

(5)マツダ
 マツダは、開発中のFCVに使用する部品・素材のリサイクルアップの研究に取り組む。同社がフォードなどと共同開発しているFCVはメタノール改質型のため、改質器やPEFCスタックに白金など高価な素材を大量に使用しており、それがFCVの価格を押し上げる原因になっている。このためFCVに使う部品のリサイクル率向上に取り組み、コスト削減を図ると共に、環境問題に配慮した姿勢を示すと語っている。
(日刊自動車新聞02年5月20日)
 
8.超小型FCの開発
 アメリカのケースウエスタンリザーブ大学の研究グループは、体積が5mm3の超小型FCを試作した。半導体の製造に使われる微細加工技術を活用し、FC機能をシリコン基板上に作製した。水素を直接供給し、酸素と反応させる方式である。超小型演算処理装置(MPU)や通信装置と組み合わせてワンチップ化することも可能であり、マイクロマシンの電源などに応用できると見られている。
(日経産業新聞02年5月16日)  
 
9.改質技術
(1)大阪ガス
 大阪ガスは、天然ガスや石油の改質技術で、ドイツの触媒メーカであるズードケミーグループ(ミュンヘン)と、開発から製造、供給、販売に至る包括的な業務提携について合意したと発表した。大阪ガスは世界最小の改質システムを開発しており、ズード社は貴金属触媒をニッケルに置き換える技術に優れていると云われている。小型で耐久性が高く、低コストの次世代触媒を両社が共同開発し、04年を目途に量産化を図る予定である。触媒のコストは現在1万円/kWであるが、新触媒はその半分の5,000円/kW程度を目標にしている。大ガスは既に2005年の製品化を目指し、30万円/kW程度の発電能力1kWクラスFCシステムの開発を進めているが、新触媒技術を使ってこの価格を20万円/kW台にまで下げられると期待している。又同社は「双方の技術の相乗効果で次世代触媒を開発、世界標準の確立を目指す」と話している。
(読売、毎日、日本経済、日経産業、日刊工業、電気、日本工業新聞、化学工業日報02年5月10日)

(2)東京工大
 東京工業大学の大塚潔教授らは、メタンガスを水素と炭素に直接分解する新しい触媒を開発した。水素、炭素とも高純度で分解でき、又その能力も従来の触媒の2倍以上と述べている。新触媒は、細い炭素繊維の表面にニッケル系の金属微粒子が付いた構造で、これを網目状にして、約500℃の高温下でメタンガスを流すと、水素と炭素が分離する。粒子の直径が20ないし80nmの時に最も分解効率が高まり、触媒1g当たり2リットル/分の速度で水素を発生した。分離した水素は純度が高いので、そのままFCに供給できると同教授は述べている。
(日経産業新聞02年5月16日)
 
10.水素製造、貯蔵および水素ステーション技術
(1)東京工大
 東京工業大学の大塚潔教授等は、鉄に水蒸気を当てて水素を生成する技術を開発した。鉄にチタンやバナジュウム、クロム、アルミニュウム、ガリウムを添加すれば、従来よりも遥かに低い300℃の温度、又常圧において鉄の酸化還元反応を起こし、水素を発生させることができる。試算では、100kgの鉄を酸化還元反応させることにより、4.8kgの水素が得られるはず。この成果は6月にカナダのモントリオールで開かれる"水素エネルギーに関する国際会議"で発表する予定である。
 FCVに反応装置を搭載し、車上で水蒸気から水素を供給すれば、水素そのものを車に積むよりは安全性が高まるとともに、水素吸蔵合金に比べて鉄は製造コストが安いというメリットが存在する。同教授等は、部品メーカなどと実証研究を進め、1ないし2年後を目途に実用化を目指すと述べている。
(日経産業新聞02年4月30日)

(2)住友精化
 住友精化は、約1/2のサイズで、従来型と同等の処理能力を持つ水素PSA(Pressure Swing Absorber)の開発に成功、このPSAを利用した毎時20Nm3の水素製造装置を完成した。先ず光ファイバー製造などのオンサイト装置として販売を開始するが、安価に水素が得られるため、将来はFC用水素ステーション向けへの展開も視野に入れている。同社はPSA法ガス分離技術では国内最先発のメーカで、世界トップシェアの酸素PSAの他、各種ガスPSAを事業化している。この内水素PSAはメタノールや天然ガスの改質器と一体化したものを含むと35基の納入実績を持っている。今回開発した水素PSAは、吸着塔が3塔又は4塔であり、操作方法や反応器を大幅に改善することにより水素の回収率を高め、上記のような性能を実現した。メタノール又は天然ガスを原料に水素を濃縮する毎時20Nm3の装置(MGCプロセス水素製造装置)を1号機として製作したが、1Nm3当たり70ないし80円のコストで、99.999%クラスの高純度水素を製造する性能は実証済みであり、又消防法や高圧ガス保安法にも該当しない仕様になっている。
(化学工業日報02年5月9日)

(3)岩谷産業
 岩谷産業は副生水素と液化水素による水素ステーションの建設に着手した。 鶴見曹達がNEDOの資金を得て横浜市鶴見区の同社工場内に立地する水素ステーションの建設に携わる。02年6月に完成予定。カセイソーダ製造過程で発生する副生水素(純度97〜98%)から酸素、窒素、炭素分を除去して純度を99.999%まで高め、−70℃、200気圧の状態でトレーラにより構内から搬出、水素ステーションにおいて高圧貯蔵、FCVに水素を充填する。デイスペンサーは、立地認可を得るため、公道から10m後退して設置することにした。
 又同社は昭和シェル石油と共同で、東京の有明での液化水素ステーションの建設・運営も受注した。東京都が用地を提供、建設費は経済産業省が出資、液化水素は同社の尼崎工場からタンクローリーで輸送してステーションに貯蔵する。液化水素による水素貯蔵は、通常1日1%程度の蒸発を伴うが、今回のタンクはボイルオフガスを封じ込める方式になっている。     建設費は鶴見曹達の方が3億円、有明は4億円となっている。こうした実績をベースに、同社は03年からのFCV普及に向けて、水素ステーション事業でリーデイングカンパニーを目指すことにしている。
(日刊工業新聞02年5月9日)

(4)鋼管ドラム
 NKKの関連会社である鋼管ドラムは、資本提携しているカナダ・ダインテックと共同で、700気圧水素貯蔵タンクの開発に着手した。同社はダインテックと水素貯蔵タンクで包括提携しているが、更に関係強化を図るため、出資比率を3%から13%へ高める一方、水素タンクの高圧化へ乗り出すことにした。350気圧タンクでは、アルミライナーにカーボン繊維を巻きつけた構造で開発を進めている。水素貯蔵タンクは気圧によってタンクへの注入バルブが異なっており、開発に際してはバルブや高圧水素をFCに減圧して送り込むレギュレータなどの開発が鍵となる。今までの水素貯蔵タンクは、天然ガス自動車のタンクの延長であったが、700気圧タンクでは設計そのものが異なったものになる。このため700気圧タンクを実現して、その技術を350気圧タンクへも応用し、世界標準化を視野においた開発を加速する。
(日刊工業新聞02年5月14日)

(5)大阪ガス
 大阪ガスは、02年5月14日、高い水素吸着能力を持つカーボンナノチューブを開発したと発表した。新開発のカーボンナノチューブは、側壁を不規則な原子配列のアモルファス構造にすることにより、内部に水素を取り込むことが可能になった。3.5wt%程度の吸収能力を確認しており、2ないし3年後には5.5%以上を達成できそうであると同社は話している。フッ素系樹脂と触媒を使って800℃程度に加熱して作る簡単な製法のため、低コスト化も可能と考えられている。
(朝日、読売、日本経済、産経、東京、電気、日刊工業、日本工業新聞、化学工業日報02年5月15日、日刊自動車新聞5月16日、日経産業新聞5月17日)

(6)日石三菱
 日石三菱は、中央研究所に水素チームを発足、ナノテクノロジーを活用して水素を効率的に貯蔵する素材の開発に着手した。表面を凹凸に加工した炭素素材に、直径数nmのパラジウムなどの貴金属粒子を付着させることにより高い水素の吸着効率を実現しようとする手法で、貴金属粒子の直径をナノオーダーにすれば、素材の10wt%の水素を貯蔵できると考えられている。新素材が実用化されれば、容積60リットルの素材をFCVに搭載することにより、500kmの走行距離を達成することができると同社は期待している。
(日経産業新聞02年5月20日)
 
11.企業活動
(1)鈴木商館
 鈴木商館は、FCを利用した水素エネルギーキッドを開発して発売した。学校等でのプレゼン用で、太陽電池パネルやプロペラを備え、自然エネルギーの応用プロセスを目で見て理解できるよう教材風に仕上げられている。価格は5万6,000円で、年間100台販売する予定である。又1万円以下でFCのみの販売も受け付けると述べている。
(日刊工業新聞02年5月2日)

(2)東陽テクニカ
 東陽テクニカは、カナダのグリーンライトパワーテクノロジー(GPT)とこの程日本国内での独占販売契約を締結し、FCの性能評価システム、特にFCセルに加えてスタックの評価システムを提供できる体制を整えることにした。東陽テクニカはこれまで最小単位のFCセルを評価するシステムを自社開発し、200システム近い納入実績を上げてきた。GPTはバラード・ジェネレーション・システムに評価システムを提供している。東陽テクニカは独占販売権の取得に伴い、評価システムの営業から技術サポートまでを手がける13人の専門部隊を設立し、セル、スタックに続き、将来はガソリンスタンドなどで簡単にFCを評価できる製品も用意することを考えている。
(日経産業新聞02年5月10日)
 

 

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