第70号 GTL等クリーン液体燃料の開発が進展中

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.METIおよびNEDOプロジェクト
3.地方自治体の施策
4.MCFCの開発と利用展開
5.SOFCの開発と利用展開
6.PEFC技術開発
7.家庭用PEFCの実証試験
8.FCV最前線
9.ポータブルFC
10.燃料関連技術開発
11.企業活動

1.国家的施策

(1)副大臣によるFCプロジェクトチーム
 関係省庁の副大臣級で構成する"FCプロジェクトチーム"は、PEFCの実用化・普及に向けた課題について産業界からヒヤリングを行った。コスト低減、法制面の対応や認知度向上が課題であるとの観点から、触媒として大量に使う白金の確保や代替品の開発、誰にでも分かりやすい呼称の考案、などの取り組みが必要と指摘し、又電力会社の余剰電力購入制度で、FCからの購入単価を引き上げるべきだとの意見も出された。
 燃料電池実用化推進協議会が車載用、定置用それぞれについて開発の現状を説明した。現在のFCVは1台当たり150gの白金触媒を使用しているが、白金の値段は2,200円/g程度高価であり、コスト低減のためには国際市場における白金の確保のみならず、使用量の低減、安価な代替品の開発を進める必要があることを確認した。
 燃料の選択と供給方式については、ガソリン改質、天然ガス改質、水素直接供給など複数の案が考えられるが、未だ絞込みの段階ではなく、データの蓄積が必要だと述べている。又水素供給ステーションは既存のガソリンスタンドと併設できない、車両搭載タンクと車検間隔が不一致である上、搭載状態での検査が認められていないなど、法制面での問題点が指摘された。
 定置用に関する現行の規制・制度では、FCが中大規模発電機の安全確保に基づいた扱いとなるため、設置離隔距離の確保、電気主任技術者への運転管理委託、安全対策として窒素ボンベの設置が求められている。一般家庭でも容易にFCを導入できるよう、規制・制度の見直すべきだとの要望が出された。
   (日刊自動車新聞02年4月1日、電気新聞4月4日)

(2)国土交通省
 佐藤静雄国土交通副大臣は、02年4月20日、国土交通省が5月にも札幌市を中心とした地域を、FC導入に向けたモデル地域として指定する考えを明らかにした。同市内でFCを使ったモデル施設を公開し、03年度は同市周辺でFCVの導入実験を実施する。02年5月にも開設するモデル施設では、FC発電の仕組みを見学できるPRコーナーを設け、住宅への電力の供給や排熱を利用した温水システムなどを説明するなど、教育的な役割を果たすと共に、03年度には同市を中心とした半径約100km圏内をFCVの実証モデル地域とし、水素供給スタンドを最大で10箇所程度設ける予定である。又札幌市と北ガスもFCの実用化を目指した共同研究を行う構想も進めている。
   (北海道新聞02年4月21日)
 
2.METIおよびNEDOプロジェクト
(1)FCV用水素供給ステーション
 NEDOがWE−NETプロジェクトで進めている水素供給ステーションの建設で、鶴見曹達が02年7月に副生水素を使ったステーションを完成させる予定である。横浜・鶴見区にある鶴見曹達の本社工場内で、同社が同工場のカセイソーダ製造工程から副生する水素を取り出し、それを圧縮して貯蔵、その水素をFCVへ供給するためのスタンドを新設する。貯蔵システムは岩谷産業が担当し、その規模は車5台が連続して水素の供給を受けられるような容量と伝えられている。更に経済産業省は、公募で4ヶ所程度(この他1件は東京都のプロジェクトへの補助)に異なったタイプの水素ステーションを建設する予定である。これらのタイプとしては、メタノール改質、ガソリン改質、電気分解、液化水素型などが挙げられている。
 又同省は、02年度末には、家庭にFCを持ち込んで実証するプロジェクトも公募し、両プロジェクトに合計25億円の予算を充てることにしている。
   (日刊工業新聞02年4月1日)

(2)資源エネルギー庁
 資源エネルギー庁は、02年度から"PEFCシステム実証等研究"の実施内容に「認知度を高める活動」「普及促進のための課題明確化」を盛り込んだ。技術開発だけではなく、社会的な受け入れ環境を整える必要があるとの判断からである。
   (電気新聞02年4月17日)

(3)METIによる技術開発特別予算枠
 経済産業省は、実用化に直結する民間技術開発に政府予算を重点配分するため、03年度予算の概算要求基準に特別枠を求める方針を決定した。4月23日に開かれる総合科学技術会議で、平沼経済産業相が提案する。市場の急拡大が見込まれながらなお技術的課題の残る技術開発プロジェクトを、政府と民間企業が資金を出し合って進めることが目的であり、年間数千億円規模を想定している。高機能半導体、省エネ平面デイスプレー、実用化可能なFC、省エネ自動車向け素材、等が候補技術として挙げられている。
   (朝日新聞02年4月20日)
 
3.地方自治体の施策
 東京都が公募していた東京湾臨海部の風力発電の事業者が電源開発と豊田通商のグループに、FCV用水素供給ステーションの事業者が、昭和シェル石油と岩谷産業のグループにそれぞれ決定した。水素供給ステーションは03年3月までに建設、03年度から2年間、経済産業省と自動車メーカによるFCV実証試験のために稼動させる予定である。
   (日本経済新聞02年3月30日、電気新聞4月1日)
 
4.MCFCの開発と利用展開
 石川島播磨重工業は、MCFCを石炭火力発電設備と複合化し、発電効率を高めると共に、MCFCがCO2を液体状で回収する能力を持つことに着目して、石炭火力から排出されるCO2抑制装置として実用化することを考えている。これにより100万kWの石炭火力発電ではCO2が15%程度削減できる見込みである。COを含む石炭ガスからの改質ガスをMCFCに導入すると、カソードでCOと酸素が反応して炭酸イオンとなり、それが電解質を通過してアノードに達すると水素と反応して水とCO2が発生する。高濃度のCO2は加圧すると液体になるが、MCFCは大型化に伴って圧力を10気圧以上に引き上げていくため、それだけCO2の液化がし易くなる。
 同社は現在出力300kWのMCFC実証ユニットを製作中であり、02年夏から中部電力川越火力発電所で運転に入ることになっている。発電効率は数百kWで45%、1000数百kWで50数%と予想されており、商用化の過程ではまず300kWをモジュールの単位として、05年の初期段階では44万円/kW程度で販売したいと考えている。
   (日刊工業新聞02年4月12日)
 
5.SOFCの開発と利用展開
(1)電源開発と三菱重工
 電源開発と三菱重工業は、共同開発しているSOFCについて、1000kW規模を最小単位にした発電設備の事業化を目指すことにした。そのため、これまで予定していた構造を、丸型スタックから四角の構造へ根本的に変更して100kW級を2004年までに完成させ、実証運転を始める予定である。
 三菱重工が開発したセルは、溶射法による製造工法に比べて1割のコスト低減が図れる湿式スラリー焼結法による円筒横縞型のチューブ方式で、この作動セルを何本も束ねた構造になっていた。しかし、円筒構造では10kW規模を1000kWまでスケールアップするのが難しいため、構造を見直すことにし、その結果スタックを置くのに余分な空間を無くして効率良く配置できるようなレイアウトを考えることにした。新しい構造は02年中に決定し、04年までに100kWユニットを完成、1万時間の運転実験を踏まえて、06年までには1000kW規模のユニットを完成させることにしている。この1000kWユニットを最小単位に、数千から数万kWの分散型発電設備において、1kW当たり30万円までコストを下げる意向である。
   (日刊工業新聞02年3月28日)

(2)BMW
 ドイツのBMWは01年に開発した水素自動車745hを最後のプロトモデルとして、02年から商用化の段階に入っているが、この水素自動車の補助動力源(APU)として積層タイプのSOFCを設置する予定である。SOFCスタックは、ランフラットタイヤの登場によって不必要になってきたスペアタイプの収納エリアに設置される。最初に実用化する水素自動車はバイフューエルカー(ガソリンと水素を同一内燃機関で燃焼)になる模様で、SOFCの燃料には、このガソリンを内部改質して得られた水素と、水素タンクからのボイルオフ水素が使われることになる。SOFCの動作温度は700℃、現状では発電効率は35%以上、大きさは50リットル以下、重量は50kg以下であるが、3ないし4年後には更にコンパクトかつ軽量化して実用に供したいと考えている。
   (日刊工業新聞02年4月12日)

(3)電力中研
 電力中央研究所は、ナノテクノロジー研究を本格化し、高性能のFC材料や高効率半導体レーザ用材料などを開発する。2002年度の事業計画に先端的基礎研究の新規テーマとしてナノテクを取り上げ、初年度、設備費や光熱費、人件費などを除き4,000万円程度を計上することにした。FC関連では「SOFC用電極材料などを大型放射光施設"SPring-8"のビームラインを活用して解析する」が挙げられている。
   (日経産業新聞02年4月22日)  
 
6.PEFC技術開発
 日本原子力研究所高崎研究所は、02年4月25日、PEFC用高性能フッ素樹脂膜を開発したと発表した。この新フッ素樹脂膜は、放射線化学を応用して、スチレン系高分子鎖を導入、それをスルフォン化したもので、従来のPEFC用イオン交換膜と比較して3倍のイオン交換性能を持つことが確認されている。又基本構造として網目状になっているため、アルコールに対して膨潤しにくく安定であることも確認されており、DMFC用膜としても有用性が高いと期待されている。
 製法についてより具体的に説明すると、先ず4フッ化エチレン樹脂(PTFC)膜に放射線を照射、フッ素の高分子膜に架橋鎖を導入して網目構造とした後、再び放射線を照射することによって高分子鎖に反応開始点を生成する。グラフト重合でスチレンモノマーを導入し、このスチレン末端をスルフォン酸基に置換し、膜に導電性を付与している。 当研究所の研究グループは、PEFCへの組み込み、高温での膜寿命の向上、コスト評価など、実用化に向けた応用開発を進めていく意向である。
   (日本経済、日経産業、日刊工業、日本工業、上毛新聞、化学工業日報02年4月26日)
 
7.家庭用PEFCの実証試験
(1)広島ガス
 広島ガスは、02年3月25日に、同社技術研究所で、家庭用の天然ガス使用PEFCの実証試験を開始した。耐久性、発電効率、熱の回収率、経済性などを検証し、05年での実用化を目指すと述べている。
   (中国新聞02年3月26日)

(2)大阪ガス
 大阪ガスは02年4月4日、PEFCによる家庭用コジェネレーションの運用試験を、約1年間に亘って実施し、実際の住宅で最適な運転方法や耐久性、信頼性を評価すると発表した。Hパワーと共同開発した500W級システム(給湯)が5日から大阪市の実験集合住宅"NEXT21"で、更に今月末からは三洋電機と共同開発した1kW級システム(暖房も可能)が京都市の1戸建て住宅でスタートする。
   (朝日、毎日、読売、日本経済、産経、東京、日本工業、日刊工業新聞02年4月5日、電気新聞4月8日)

(3)トヨタ
 トヨタ自動車は、アイシン精機などと共同で家庭用コジェネレーションシステムを開発、早ければ05年を目途に販売する計画である。同社は03年にもFCVを発売する予定であるが、高額になるため一般への普及には時間を要すとの判断から、家庭用でPEFCの量産化を先行させ、FCV用との相乗効果を狙うことにしている。現在、同システムの試験、評価を実施中であり、信頼性および耐久性を高めて商品化し、住宅事業のトヨタホーム店を通して販売する。又太陽光発電装置と組み合わせるハイブリッド化や、リサイクル可能な建材を採用拡大することも検討している。
   (日刊工業新聞02年4月16日)

(4)日本ガス協会
 日本ガス協会が進める家庭用コジェネレーション用PEFCの運転実証試験第2段がスタートし、9社による13ユニットのPEFCが勢ぞろいした。アメリカ勢は、UTCFCの出力6kW機、プラグパワーの4.5kW機、日本側は松下電工の可搬用ブタン改質の0.2kW機以外は天然ガス改質の0.7ないし1.3kWタイプである。
    (日刊工業新聞02年4月26日)
 
8.FCV最前線
(1)トヨタ
 トヨタ自動車は、FCV分野における競争力を強化するため、最も重要な課題であるPEFCのコストダウンに本格的に取り組むことにした。具体的には、最大のコスト要因である白金の使用量の削減を図り、それを従来タイプの1/50のレベルにまで低減する、白金に替わる高効率な触媒用素材の開発を急ぐと共に、発電の管理・制御技術を確立する、を挙げている。
(日刊自動車新聞02年4月1日)
 トヨタ自動車は、350気圧の高圧水素ガスを燃料とするFCVハイブリッド車のプロタイプを開発し、走行実験を始めた。走行距離は350kmを超えるものと予想されている。同社はこのタイプで、最初のFCV実用車を03年に投入する計画である。トヨタは当面のFCV用燃料は、圧縮水素ガスしかないとの認識を持っており、走行距離を延長するために、500気圧から最終的には700気圧まで高圧化した燃料タンクの開発を進めていくことにしている。
(日刊工業新聞02年4月18日)

(2)ホンダ
 ホンダは02年4月4日、FCX−V4の走行テストを公開、報道陣に試乗させた。FCX−V4は、バラード製PEFCスタックを床下に設置、ブレーキエネルギーを回収するため大型のキャパシターを備えており、最高速度が140km/h、350気圧の圧縮水素137リットルで走行距離は315kmに達している。同社の開発責任者である加美陽三上席研究員は「日本とアメリカで1万kmを超える公道テストを実施しており、走行性能だけではなく、安全性、信頼性も市販車と比べて遜色がない」と語っている。
(朝日、日本経済、毎日、産経、日経産業、日刊工業、東京、中日新聞02年4月5日、日本工業新聞4月8日)
 ホンダはFCVの市販第1号モデルの生産計画を固めた模様である。03年から栃木製作所高根沢工場で生産を開始、3年間をかけて50台規模で生産する。この内30台以上をアメリカ・カリフォルニア州に、十数台を国内に供給、フリート向けに販売する他ホンダ自身がデモカーとしても活用する。FCVの市販第1号モデルは、プロトタイプ"FCX−V4"を基本としたもので、変更は外観デザインの1部にとどめる考えである。50台規模での限定生産は、割高なコストの解決にまだ目途がつかないためで、実際のユーザーによる走行データを集めることでノウハウを蓄積し、それを量産モデルの展開へ繋げていきたいと考えている。
(日刊自動車新聞02年4月9日)
 ホンダはFCV"FCX−V4"によって、10・15モードで既に315kmの走行距離を実現しているが、市街地走行や高速路走行などを含めた実走行では、220ないし250kmにとどまり、ガソリン車に比べると半分程度に過ぎない。そこで近く製作する市販型タイプにより近いモデルとなるFCX−V5では、高圧水素タンクの容量を拡大して、更に走行距離の延長を図ることにしている。しかし、ガソリン車並みの走行距離を実現する効率の高い水素貯蔵方式がまだ開発されていないため、高圧水素による貯蔵方式の改良を進めていく考えである。
(日刊自動車新聞02年4月16日)
 ホンダは、03年度に投入予定のFCVについて、車両価格に事故修理を含むメンテナンス費用を組み入れ、維持費を実質無償とする方針を固めた。市販第1号車は、50台規模の限定生産となるため、補修部品の金額設定が難しく、又従来とは異なった新しい動力機構を搭載しているので、ユーザが使用した車両の整備にどれだけの手間がかかるかを計りにくい状況にある。したがって、車両価格と補修費をセットにして、ユーザの負担を抑えると共に、こうしたサービスを通じてFCVの本格販売に向けたノウハウを蓄積していくことにした。
(日刊自動車新聞02年4月26日)

(3)ダイムラー
 ドイツのダイムラークライスラーがドイツのコーレン・インダストリーズと組んで、バイオマスからメタノールとデイーゼル燃料を生成する共同研究プロジェクトに着手したと発表した。新燃料はFCVとデイーゼル自動車で試用される。ダイムラーは本事業に100万ユーロの資金を投じ、ドイツ経済省も約550万ユーロの助成を行う。
   (日刊自動車新聞02年4月10日)

(4)Ford
 Fordは、実証試験運転を目的として、02年中に5台の第1号ハイブリッドFCV"Focus"を製作する予定であることを、New York showで明らかにした。このハイブリッドFCVの動力源は、出力85kWのBallard製"Mark 902"PEFCスタック、および三洋の300Vバッテリーパックで構成されており、回生制動が可能である。しかし、バッテリーは加速や登坂時にFC出力を補う程度の容量で、バッテリーのみで車を動かすことができる程強力ではない。同社はこれを温和な(mild)ハイブリッドと呼んでいる。35Mpaの圧縮水素ガスを保持する燃料タンクによって、4kgの水素を貯蔵することができる。新しいPEFCスタック、回生制動の採用、および燃料タンクの更新によって、前回の試作車に比べて走行距離は30%増大し、最高時速130km/h、航続距離は260〜320kmにまで達したと報告されている。
 安全性についてはエアバッグやタイヤ空気圧の検知装置等の設置など、アメリカ連邦政府の安全基準を全てクリアしている。水素関連ではFCスタック、トランク、車内コンパートメントの各所に水素検知器が設置されており、もし水素がリークしていれば、そのレベルに応じて、それをドライバーに警告し、運転モードの制限、更にそのレベルが高くなれば、最終的にシャットダウンの措置が採られることになっている。
 最初の商用車は、政府関連機関やフリートオペレーター向けに、恐らく10台以内の限定生産になろうと同社は述べている。価格については発表されていない。
   (Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 2002, Vol.XVII/No.4, p2)
 
9.ポータブルFC
(1)NEC
 NECはカーボンナノチューブの実用化研究を促進するため、つくば市の同社基礎研究所にCNT応用研究センター(久保佳美センター長)を設置、研究者数を従来より倍増した。当初は携帯機器向けFCを対象に研究を進め、1年をかけてノートパソコンや携帯電話に使えるFCの技術開発に取り組んで2003年度からは量産技術を開発、05年には発売を開始したいと考えている。ナノチューブは、FC以外に次世代デイスプレーや高性能材料に応用できると見られている。
   (日本経済、日経産業新聞02年4月8日、電波新聞4月16日)

(2)Mechanical Technology Inc.(MTI)
Mechanical Technologyは、02年3月に開催された年次株主総会(annual shareholder conference)において開発された最新のマイクロDMFCを公開するとともに、William P. Acker社長は、2004年末までに商用品を市場投入したいとの期待を述べた。この度公表された機種は、昨年秋に公表された前回機種に比べてサイズは20%縮小され、逆に出力は2倍にまで向上されている。Acker社長がH&FCLに語ったところによれば、このデバイスは現在の掲帯電話市場よりも、携帯電話とPDA(Personal Digital Assistant)の機能を組み合わせたよりエネルギ−多消費型次世代機器(power-hungry machines)に照準を合わせているようである。マイクロFCは当面機器のエネルギー密度を現状のバッテリーに対して2倍にまで拡大することは容易で、最終的には10倍にまで高めることができる。このような機能面での向上と同時に、現在のバッテリーにおけるkW当たり1万ドルの価格を維持することができると同社は語っている。デジタルビデオカメラや平板型スクリーンデバイス等への応用も考えられている。
 持続時間(standby time)は、ある程度、サイズや形、ユーザが持ち運ぶメタノール燃料の携帯容器等、いわゆる"form factor"と称される項目に依存する。同社は「我々はユーザが望む性能をできるだけ多く実現するため、携帯電話会社と協力して開発を進めて行きたい」と述べている。Acker氏は価格や最初の生産量については語ろうとしない。彼は市場動向を調査することが先決で、それ以前に自分達の行動を縛るような約束をしたくないというのが本音のように思われる。
   (Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 2002, Vol.XVII/No.4, p7)
 
10.燃料関連技術開発
(1)ホンダ
 ホンダは02年4月11日、銅−インジウム−ガリウム−セレン(CIGS)を原料とする次世代型薄膜太陽電池を開発したと発表した。従来の太陽電池に比べて発電効率が20%高く、製造時の消費電力は1/5と報告されている。生産はホンダが全額出資するホンダエンジニアリングが担当する。ホンダは既にカリフォルニア州トーランス市で太陽電池を使った水素供給ステーションを試験的に運営しているが、今後は自社開発した太陽電池をFCV用水素スタンドに採用していく方針である。
   (日経産業新聞02年4月12日)

(2)IHI
 IHIと日商岩井は、南アフリカのエネルギー・石油化学最大手サソールのグループ会社、サソールテクノロジーとの間で、GTLのリアクター(反応塔)を長期間供給する契約について、基本合意に到達した。
 サソールは競合する国際石油資本やベンチャー企業に先駆けて"スラリー相・低温F−T合成技術"の商業化に成功した会社である。この技術は、固定床などに比べて熱除去が容易で、反応の制御において優れ、触媒交換が容易など、優位性を持つと評価されている。
 このサソールグループが開発した技術を用いて今後世界各地で展開するであろうGTLプラントのリアクターを、IHI/日商岩井が今後10年間独占的に供給する。GTLは天然ガスからF−T法によって合成され、硫黄、窒素、芳香族など環境汚染物質をほとんど含まないクリーンな液体燃料であり、2005年以降自動車の排ガス規制が強化される日欧米で、市場が拡大するものと予想されている。又FCV用燃料や水素の原燃料としても需要が発生するものと思われる。このような情勢を踏まえて、今後市場動向をにらみながら、世界各地で本格的な商業プラントの建設が予定されている。IHI/日商岩井は、サソールがアメリカ・シェブロンとナイジェリアが計画している案件およびカタールでカタール石油会社と計画している案件(合計20億ドル)を始めとして、今後10年間に超大型のリアクター14〜20基を供給し、合計250億円の受注を予定している。
   (化学工業日報02年4月18日)

(3)電源開発
 電源開発は、03年度から本格的な実証運転に入るFC用石炭ガス製造技術(EAGLE)の開発において、石炭ガスから化学原料やGTL、DMEなどクリーンエネンルギ−を取り出す技術開発にも取り組むことにした。EAGLEは電発が日立製作所と共同で進めているプロジェクトで、電発若松総合事業所に石炭によるガスタービン発電パイロットプラントを建設し、03年から本格運転を始める予定になっているが、04年度には出力100kWのSOFC実証ユニットを完成、運転実験によって07年度以降に予定されている石炭ガス化FC複合発電システムの実証運転に備えることにしている。これと平行して、化学原料やクリーンエネルギーを生成する技術を開発実用化することにより、プラントの利用効率を高め、低コスト化を実現しようとする計画である。
 昨年シンガポールで実用設備が稼動したテキサコ法によるガス化炉は、石炭残渣油からCOと水素を取り出し、それらを酢酸やアンモニアの化学原料として利用するプラントであり、昼は発電設備として運転、夜間は化学原料の生産に使用されている。EAGLEもこのような石炭ガス化炉の多目的利用を目指す計画であり、GTLやDMEの原料としても利用することによって、石炭ガスから幅広い製品を生産する環境対策型石炭利用技術を確立することを狙っている。
   (日刊工業新聞02年4月24日)
 
11.企業活動
(1)荏原
 荏原は、FC、風力発電、太陽光発電システム、原子力発電事業を統括する"新エネルギー事業本部"を設置した。風力の伸びが大きい(01年度70億円)が、FCついても定置式で04年以降の導入を目指して事業を加速している。
   (日刊工業新聞02年4月10日)

(2)IHI
 石川島播磨重工は、資本参加先のアメリカ・モザイク社からPEFCシステム技術を移転し、02年度中に天然ガス改質出力5kW級定置型PEFCを10ユニット製作する。同社は2000年、アメリカGTI系列のモザイクに資本参加し、モザイク社からPEFCスタックの供給を受けて事業に乗り出す予定を立てていたが、開発を加速するため、技術移転に切り替え、独自で定置型PEFCを組み上げることにした。国内では既にモザイクから供給を受けたシステムで1号機を設置、ナフサ改質で運転しているが、今後は灯油、天然ガスにも対応するため、石油企業などと組んで改質技術も開発する予定である。  同時にMCFCで進めてきた改質技術開発で得られた成果の1つである"コンパクト化ができる水素分離膜の技術"をベースに、水素供給ステーションの分野にも進出することを計画している。これまでプレート型水素分離膜を開発し、MCFC用の天然ガス改質器に適用したが、このプレート型水素分離膜と、プレート型改質器を組み合わせて水素ステーションを開発する計画を立てている。
   (日刊工業新聞02年4月22日)

(3)SiC半導体コンソーシアム
 住友電気工業や日進電気、松下電器産業など、SiC半導体に関わる国内の大手企業や官学の関係者が集まり、同半導体の工業化を目指したコンソーシアムの設立を計画していることが明らかになった。02年7月には"SiCパワーテクノロジー研究会(会長;松浪京大教授)"の名称で正式に発足、トヨタ自動車、関西電力、経済産業省、関西学院大学などが参加する予定である。発足後2年間で低コスト生産技術などを確立し、2005年にはFCV用電流変換装置向けなどに本格的な供給を開始することを目指している。
   (化学工業日報02年4月24日)
 

 

 ―― This edition is made up as of April 26, 2002. ――