第69号 携帯情報端末用超小型のメタノール改質器

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体での施策
3.MCFCの研究開発
4.PEFCおよび関連技術の開発と実証成果
5.FCV最前線
6.マイクロFCの開発
7.FC関連技術の情報
8.水素および燃料関連技術
A POSTER COLUMN

1.国家的施策
 国土交通省、東京都、およびトヨタグループは、2003年中にも都内でFCバスの運行を行う予定である。都は民間企業を募って水素ステーションを都有地に整備し、トヨタ自動車がFCハイブリッドバス"FCHV−BUS1"を路線バスとして走らせる。又国土交通省は、来年度からスタートさせる次世代低公害車開発促進事業の一環として、予算措置などにより支援することにしている。3者はFCバスの運転実験によって、実際の走行環境下での走行性能や問題点をチェックし、路線FCバスの実用化に寄与する意向である。
(日刊自動車新聞02年3月4日)
 国土交通省は02年度、住宅へのPEFC導入に関する実証研究を始めることにした。さまざまな住宅様式や住宅の寿命を想定し、各住宅環境毎にFCで発生する電気と熱を効率的に利用する運転方法、機器に求められる性能を明らかにする。現在の一般的な住宅を念頭に置き、PEFCは系統電源と併用、燃料は都市ガスを想定している。
(電気新聞02年3月6日)
 国土交通省は、2003年末までにFCVに関する保安基準を整備する。現在、大臣認定で公道走行試験を実施しているメーカからのデータ提出をベースに、水素タンクや配管、電気装置などの装置を対象に、燃料補給や衝突時の安全確保について所要の規定を設けることを考えている。安全面では、燃料となる水素やメタノールを蓄える容器の他、電気装置などが中心となる見込みで、CNGと同様、法律に準ずる技術指針を作って対応することも検討課題になっている。
(日刊自動車新聞02年3月18日)
 
2.地方自治体での施策
(1)静岡県
 静岡県の新エネルギー導入施策のあり方を検討してきた専門家等による研究会は、02年2月28日、FCやクリーンエネルギー自動車などの導入目標値を掲げることを盛り込んだ提言書を県に提出した。同県はこれを踏まえ、02年度中に現行の"しずおか新エネルギー等導入ビジョン"を改定することにしている。提言では現行のビジョンで2010年度に5%としている導入目標値を5%以上とするとともに、現行ビジョンには盛り込まれていないFCや電気、ハイブリッドカーなどクリーンエネルギー自動車についても導入の目標値を設定する。
(静岡新聞02年3月1日)

(2)札幌市等
 札幌市と北海道ガスは、同市中央区の北ガス所有地区(28,000m2)に、集合住宅、オフィス、店舗ビルなどを建設し、これらの施設にFCやマイクロガスタービンなどを導入、クリーンエネルギーで電気や熱を供給するモデルタウン建設構想をまとめ、事業への支援を求めて首相直属の都市再生本部にその構想を提出した。
(北海道新聞02年3月5日)
 
3.MCFCの研究開発
 MCFC研究組合は、天然ガスを燃料とする10kW級MCFCにおいて、1.2MPaの運転圧力での試験運転を、02年3月15日から開始したと発表した。02年末までに3000時間程度の運転を行い、炭素の析出を防ぐ運転方法や極間差圧制御法などの試験を実施する。MCFCスタックの開発と運転試験設備の設計・製作はIHI、運転研究は川越MCFC発電試験所が担当する。
(電気、日刊工業新聞02年3月20日)
 
4.PEFCおよび関連技術の開発と実証成果
(1)栗田工業
 栗田工業は、ガス改質やPEFC用高分子膜の加湿に必要な純水を作り出す電気脱イオン装置の小型化と水の流れを均一化する技術開発に成功した。同社はHパワーと資本参加も含む戦略提携していることから、Hパワーがアメリカ地方電化組合公社から受注している5kWクラスで合計1万2,300台に及ぶPEFCの生産にこの技術が採用されることになろう。通常純水の製造にはイオン交換膜を使っているが、定期的に交換する必要があり、それがコストアップの要因になっている。同社が開発した電気脱イオン装置(KCDI方式)は、電気の透析を応用した技術で、高分子膜を配列した中へイオン交換樹脂を入れ、更に電極を挿入した構造になっている。電極に電圧をかけると樹脂に吸着していたナトリウムイオンと塩化物イオンが、それぞれマイナスおよびプラス電極に引き寄せられて濃縮されると同時に脱塩質にはイオンがなくなり、膜の中から常に純水が取り出せる仕組みになっている。半導体製造装置の超純水製造に使われている技術で、これをPEFCシステムへ応用することに成功した。02年度には小型化と量産によるコストダウンに取り組み、標準化して実用化と市場投入を図っていく計画である。
(日刊工業新聞02年3月6日)

(2) 荏原
 荏原は国内2箇所、すなわちNTT武蔵野研究開発センターの250kWコジェネレーション用PEFCおよび苫小牧市の西町下水処理センターにおける消化ガスを燃料とする250kWPEFC発電システムの実証試験を02年で終了し、バラードと共同で2005年を目標とする商用機の検討に入る予定である。NTTに設置したPEFCは01年3月に運転を開始、現在まで2000時間以上の総合運転により、34%の発電効率を実現、又自社開発した吸収式冷凍機は、FCから排出される74℃の熱を受け入れて順調に動作し、総合熱効率74%を達成した。又苫小牧では、消化ガスに含まれるメタン60%とCO240%の内、メタンを90%まで濃縮するとともに、硫黄などの不純物を都市ガス並に精製してFCに供給した。又CO2の吸収に大量の処理水を使用せず、FCからの排熱を有効活用し、エタノールアミンを吸収液として循環活用している。これまでの運転で、不純物を取り除けばPEFCは順調に動作することが確認された。バラードは欧米でも04年後半までにフィールドテストを終了し、商用機の販売を目指すと語っている。
(日刊工業新聞02年3月7日)

(3) 大日本インキ
 大日本インキ化学工業(DIC)が、PEFC用セパレータをアメリカのプリミックスと共同開発し、2004年を目途にFC事業に参入することにした。従来のセパレータの製法では、先ずカーボンを数千℃の高温状態で焼成して黒鉛化し、その後燃料ガスや空気を供給するための通路を表面に作っていたが、この製法では工程が複雑なためコストが高く、1枚(10cm角)当たりの価格は2〜3万円となっていた。DICはカーボンに不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を混ぜ合わせ、導電性とともに成型性に優れた材料を開発、他方プリミックスが低コストで通路を成型できる金型成型技術を確立し、これらの技術によって価格を1枚当たり数百円にまで低減させる事に成功した。DICは02年4月からFCメーカを中心にサンプル出荷し、04年までに10億円弱を投じて年間数万枚の量産体制を整える。投資先は堺工場と滋賀県の子会社が有力である。
(日経産業新聞02年3月14日)

(4) 昭和電工
 昭和電工は、ファインカーボン事業の一環として、PEFC用セパレータの分野に参入することを目指している。特殊紙を多層プレスして焼成する製造プロセスを最適化するとともに、量産性に優れる射出成形プロセスの開発にも着手しており、2つのプロセスを揃えることによって家庭用、自動車用PEFC生産技術のニーズに対応していく考えである。
同社はPAFC用セパレータでは優れた実績を持っている。この場合は、特殊紙にフェノールを含浸させたシートを多層プレスした後に黒鉛化する製法であり、このガラス状カーボンは気密性に優れると共に、大サイズ化か容易などの特徴を持つ。この製造プロセスをPEFC用セパレータに適用するが、PEFCの場合には使用温度が低いため黒鉛化する必要がなく、焼成温度などをPEFC用に最適化してコストダウンを図ることにしている。他方射出成形プロセスについては、特殊黒鉛微粉とバインダー樹脂を複合化し、原料シートを射出成形によって生産する手法で、生産性を大幅に向上できる可能性を持っている。
(化学工業日報02年3月19日)

(5) 千葉大学
 千葉大学理学部の金子克美教授は、ナノサイズのカプセル形白金微粒子を開発した。2酸化ケイ素(シリカ)のナノ粒子表面に白金を析出させた上で、シリカを溶かして除去させるという簡単な方法である。直径20nm前後の白金カプセルが1nm程度の隙間を作って米粒のように集まった構造を持っている。カプセルにはシリカ除去時にできた孔があるため、カプセルの外側だけでなく内側も有効であり、両方を合わせて約2倍の表面積になることを確認、その結果表面積は通常のナノサイズ白金黒に比べて4〜8倍に向上した。表面積が活性炭並と大きく、ナノサイズの中空を持つため、高活性で目的反応だけが起こる触媒やFC用白金電極として利用できそうである。
(日刊工業新聞02年3月19日)
 
5.FCV最前線
(1)ホンダ
 ホンダはFCV"FCX−V4"が、02年3月3日に開催される第17回ロスアンジェルスマラソンで先導車を務めると発表した。昨年のマラソンにおけるFCX−V3に続き2回目となる。FCX−V4は高圧水素タンクの圧力を350気圧に上昇し、航続距離を315kmまで延長している。
 ホンダはFCV"FCX−V4"の国土交通大臣認定を取得し、3月上旬から国内での公道運転試験を開始すると発表した。FCはバラード製の78kWタイプ、又高圧タンクを後席背面から床下へと移動したことで、通常車両並みのトランクスペースを確保している。
(日刊自動車新聞02年3月2日、日経産業、日本工業新聞3月4日)

(2)フォード
 アメリカのフォードモータは、PEFCと蓄電池を組み合わせたハイブリッドFCVを開発、02年3月下旬に開かれるニューヨーク自動車ショウで発表することを明らかにした。小型車"フォーカス"をベースに、バラードパワーシステムズ社のPEFC、蓄電池、および制動時の動力を回収する装置を搭載しており、最高時速は80マイル(約130km/h)、連続して160〜200マイルの走行が可能である。2004年の生産開始を予定している。
(日本経済、産経新聞02年3月22日、日経産業新聞3月25日)

(3)ヨーロッパ10都市におけるFCバス実証計画
 ヨーロッパのロンドンなど10の都市で、30台のFCバスによる実証運転が計画されているが、その1号車がバンクーバーのXcellsisにおいて運行担当者に披露された。これはDaimlerChryslerによる"MercedesBenz Citaro"と称される全長12mの60人乗り低床式FCバスである。出力200kWのPEFCエンジンと350気圧水素ガスボンベを天井に搭載、モータやトランスミッション等は後部に格納されており、最高速度は80km/h、航続距離は約200kmが可能と報告されている。2001年3月に10都市の運行管理者との間で売買契約が締結された。メーカはこのFCバスは、準生産車標準のプロトタイプ(the first prototype of a near production-standard bus)と位置づけており、DC社のWolfgang Diez氏は「30台のFCバスの販売は、新技術における市場投入の成功例(successful market launch for the new technology)であり、運輸担当者にFCV自身のみならずインフラを含む革新的技術を経験させる良い機会を提供することになる」とコメントしている。
 ヨーロッパ10の都市とは、Amsterdam(the Netherlands)、BarcelonaとMadrid(Spain)、HumburgとStuttgart(Germany)、London(UK)、Luxembourg、Porto(Portugal)、Stockholm(Sweden)、Reykjavik(Iceland)であり、Icelandを除くEUの9都市にはEuropean Commissionから1,850万ユーロの補助金(award)が提供されることになっている。なおプロジェクトはthe Clean Urban Transport for Europe(CUTE)demonstration projectの1部であり、Fifth Framework Programme for R&Dの一環として行われる。
(Fuel Cells Bulletin, March 2002, No.42, p1)
 
6.マイクロFCの開発
(1)カシオ
 カシオ計算機は、ノートパソコンなど携帯情報端末向けの小型長寿命のFCを開発、2004年にも実用化すると発表した。カシオが開発したFCは、リチウムイオン電池で連続5時間使用できるノートパソコンであれば、1回の燃料補給で20時間の使用が可能と発表されている。このFC技術はメタノール改質器を切手大にまで小型化した点に特徴があり、従来300ないし1,000点を要した改質器の部品をシリコンウエハーに微細加工し、水素を取り出す特殊な触媒を接着してワンチップ化する技術を独自に開発した。国内外で120件程度の特許を取得する。又FCシステムの価格は量産により充電式リチウムイオンと同程度に抑える方針で、燃料となるメタノールのコストは1リットル当たり20円程度のため、このFCが実用化されれば安価で手軽に使える電池として普及するものと期待される。
(日本経済新聞02年3月5日)

(2)東芝
 東芝は既に携帯情報機器(PDA)用PEFCを、2003年10月を目途に発売する計画を固めているが、その出力を約2倍の15W以上に高め、新たにノートパソコン用FCとしても市場に参入することを決めた。
 東芝のPEFCへの取り組みはは1992年のNEDOプロジェクトへの参画によって始められたが、97年には改質器が不要なDMFCにも着目、直径約1μmのカーボン粒子の表面に、数nmのプラチナ系触媒を載せ、全体をプラチナ系プロトン触媒でコーテイングした電極を開発した。このDMFCはメタノール10ccで数十時間の運転が可能である。メタノール1gの消費に対して1ccの水が発生するが「この程度の水分の発生であれば、ファンで十分蒸発させることができる」と同社は述べている。PDA用としてPEFCを製品化するに当たっては、カーボンなどの材料を軽量の樹脂へと代替を進め、小型化と軽量化、低価格化を実現しようとしており、例えばカーボン製のセパレータ材料を、伝導性を持つ軽量かつ耐食性のある樹脂に代替するとともに、各種金属部品も樹脂への転換を図るべく検討を進めている。これらPEFCのキーデバイスである高機能電極については、既に特許出願中である。
(化学工業日報02年3月18日)
 
7.FC関連技術の情報
(1)FCインピーダンス計測器
 菊水電子工業(横浜市)は、FC生産ライン向けにFCインピーダンス計測器"S−40026"を開発、3月から発売する。60Wの負荷を内臓、低負荷なら本体のみで測定が可能である。価格は120万円で、年間150台の販売を見込んでいる。これは交流インピーダンス測定法に基づくデータを取得し、コールコールプロットからFCの各パラメータを算出する専用計測器である。
(電波新聞02年3月11日)

(2)フラーレン
 三菱化学・三菱商事系のフロンテイアカーボンは、02年4月からFCに利用可能な炭素系新素材のフラーレンを従来の1/10に近い1グラム当たり500円の低価格で売り出すことにした。北九州市に量産プラントが完成したためで、03年4月には設備を拡張して年間40トンを供給、更に07年には年間1,500トンまで製造能力を高める予定である。
(日本経済新聞02年3月11日)
 
8.水素および燃料関連技術
(1)新日鉄
 新日本製鉄は、FCVの実用化による純水素の需要増に対応して、高純度純水素事業を立ち上げる。コークス炉などで発生する水素を含有するガスから、高純度の水素ガスを分離・精製して水素を供給しようとする計画で、2年以内に大規模な実証プラントを設けて事業化を目指すとしている。コークス炉ガスCOGの組成は50%が水素、残りの30%がメタンで、炉から発生するガス温度は800℃である。これを水冷してタールなどの化合物を分離すると純水素などの燃料ガスガ得られる。
(日刊自動車新聞02年3月8日)

(2)産総研とマツダ
 産総研の秋葉総括研究員とマツダの研究者は、優れた水素吸蔵特性を持つマグネシア・チタン合金の作製に成功したと発表した。製法には溶融法に替わって金属材料を機械的に混ぜ合わせるメカニカルアロイング法を用いた点に特徴がある。マグネシウムの水素吸蔵能力は重量比で7.6%、チタンは4.1%と優れた特性を示しているが、動作温度が300℃以上と高温であり、動作温度を下げるための合金化が研究されてきた。新合金は体心立方構造を持ち、結晶構造から見ると金属原子1個当たり2個の水素原子の貯蔵が可能で、希土類系合金に比較すると3倍以上になる5%(重量比)以上の水素吸蔵量と、100℃以下での動作が可能と見込まれる。水素吸蔵材料としてだけではなく自動車用軽量構造材料として幅広い用途が期待される。
(日本経済、毎日、日刊工業新聞02年3月21日、電気、日経産業新聞3月22日、化学工業日報3月25日)
 

 

 ―― This edition is made up as of March 25, 2002. ――