68号 わが国に水素供給ステーションが誕生する

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.NEDOプロジェクトによる水素供給ステーション
3.アメリカ政府の施策
4.PAFCの市場開拓
5.SOFCの開発と実証研究
6.PEFCの開発と実証成果
7.家庭用コジェネレーション用PEFCの実証実験と商用化計画
8.FCV最前線
9.水素および燃料関連技術
10.企業活動

1.国家的施策
(1)副大臣会議
 政府は02年1月31日、"FCプロジェクトチーム"を各省副大臣会議内に設置することを決めた。経済産業省の古屋圭司副大臣を中心に、経産、国土交通、環境の3省副大臣で構成し、2月から5月まで数回の検討会合を開いて03年度以降の政策に反映させる方針である。定置式および自動車用FCの実用化は、エネルギー消費の伸びが大きい民生部門や運輸部門におけるCO2排出量の抑制に大きく貢献できると期待されている。
   (毎日、電気新聞、化学工業日報02年2月1日、日刊自動車新聞2月5日)
 経済産業、国土交通、環境の3省副大臣によるFCプロジェクトチームの初会合が2月20日経産省内で開かれ、運輸部門や民生部門を中心にFCVや定置式FCを実用化し、普及するための施策に関する具体的検討に着手した。FCを国民に啓蒙する手段として、モデルハウスやFCバス等の実証実験によるPRなどを実施する、文部科学省の協力も得て学校教育に取り入れる、などの案や意見が出された。「次回会合では産業界からヒヤリングを行い、次回会合以降にはハード、ソフト両面からインフラ整備の課題を整理、5月に取りまとめを行い、03年度予算に反映されるよう、経済財政諮問会議に提言出来るようにする」との方針が示された。
   (日本経済、電気、日経産業、産経、日本工業、日刊工業、日刊建設工業、日刊自動車新聞02年2月21日、化学工業日報2月22日)

(2)国土交通省
 国土交通省は、水素を簡単に貯蔵・運搬できるシステムに関する市川勝北大触媒化学研究センター教授の提唱に着目し、02年春から道内でFCを活用した街づくりの調査に乗り出すことにした。02年度予算に6,000万円を計上し、4月には道内自治体や民間企業などで構成する検討委員会を発足させ、札幌などの道内の都市でFCの実用化に向けた実証実験を行う予定である。
 市川教授は、水素を高濃度に含むデカリン(液体)を天然ガスなどから効率よく生産する技術を開発しており、FCを設置している家庭などにこのデカリンをタンクローリーで運んで、FC用燃料として使うシステムを提案している。国土交通省は、FCで生じる電気と熱を効率的に利用できる北海道で、このようなシステムの調査・実験を行うことにより、寒冷地にFCを導入する方式の参考にしたいと述べている。
    (北海道新聞02年2月2日)

(3)経済産業省
 経産省はPEFC開発戦略を1部見直し、2010年以降と想定される普及時期での発電効率目標を、当初計画より5〜15%引き上げることにした。例えばFCV用PEFCスタックについては、従来の50%以上から65%に修正、車両効率では水素燃料FCVについては51〜60%程度、ガソリン改質車では45〜48%程度とした。これはこの時期においてはハイブリッド車を始め低公害車のエネルギー効率が更に向上し、コスト低下も著しいと見られることから、性能についてFCVの差別化の実現を狙った措置である。
他方家庭や業務用の定置式発電ユニットでは、スタックの効率を当初の50%以上から55%以上に、システム効率を35%から40%以上に目標数値をアップした。これも給湯器と系統連系を組み合わせた場合、他の分散型電源に比べて性能面での優位性を保つことを目論んだシナリオである。
    (日刊工業新聞02年2月5日)
 経済産業省原子力安全・保安院は、燃料電池の安全規制を太陽電池並に緩和する方針を固めた。現行の電気事業法ではFCなどの発電設備は"事業用"の扱いで、1台毎に主任技術者を定めて安全を確保するなど、厳しい保安が義務づけられている。FCの普及をはかるため、同院はFCの分類も一般用に変更し、保安義務の軽減を図ることにした。
   (読売新聞02年2月23日)
 経済産業省は、02年度からFCVの大規模実証運転実験を開始するに当たり、日本電動車両協会に設置した"FCVセンター(丹下昭二センター長)を実施主体とする方針を固め、組織や人員体制などを見直して組織強化を図ることにした。本実証運転計画は、内外の自動車メーカの参加を募り、東京近郊にガレージ機能を持つ水素ステーションを設置して実施するものであるが、参加メーカ全体がメリットを得ることを目的として、内外無差別、共有財産化、客観的評価の3原則を掲げている。
   (日刊自動車新聞02年2月25日)

(4)環境省
 環境省は02年度、地方公共団体がバイオマスを中心とした自然エネルギーを利用する事業を対象に、費用の半額補助を始めることにした。生ゴミ、畜産廃棄物から得られるメタンガスを使ったFCの運転も認められており、一般への普及に向けた啓発効果も期待できそうである。
   (電気新聞02年2月26日)
 
2.NEDOプロジェクトによる水素供給ステーション
 国内初の全天候型水素供給ステーションが、02年2月7日大阪市此花区の大阪ガス酉島技術センター内に完成し、実用化に向けた実証実験をスタートさせた。これはエンジニアリング振興協会が経済産業省とNEDOの委託を受け、WE−NET計画の一環として開発を進めてきたプロジェクトであり、岩谷産業、大阪ガスなどの企業グループが建設に参加した。都市ガスを原料にした天然ガスの改質により純度99.99%の水素を生成・貯蔵し、FCVに高圧水素ガスを供給することができる。2月7日の竣工式にはトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、ダイハツ工業の各FCVがスタンドに並び、水素ステーションにおいて圧力25MPaの水素ガスを充填した。
   (朝日、日刊自動車新聞02年2月8日)
 NEDOは、国内で2基目となるFCV用水素供給ステーションを高松市に完成させた。02年2月28日に四国総合研究所内で竣工式を開催する。エンジニアリング振興協会から再委託を受けた日本酸素が建設を担当した。これは固体高分子形水電解方式で、四国総研の電力を利用して水を電気分解し、純度99.99%の水素を生成する。FCVには25および35MPaの圧縮高圧水素を供給することができると同時に水素吸蔵合金タンク搭載のFCVを想定して圧力1MPaの供給設備を備えている。水素製造能力は毎時1台分で、充填時間は何れも10分以内が可能である。2003年まで運転試験を続けながら連続運転性能を確認すると共に、システムのエネルギー効率評価など実用化に必要な性能試験を実施し、水素充填時の最適な条件の選定や、安全性運転システムの確認を行う予定である。
   (電気、日刊工業新聞、化学工業日報02年2月21日)
 
3.アメリカ政府の施策
(1)FCVに対する税額控除
 アメリカのブッシュ大統領は、02年2月25日、ホワイトハウスで演説し、ハイブリッド車やFCVなど省エネカーを購入した人達に、今後11年間で総額30億ドルの税額控除を行うと発表した。大統領は、アメリカ内の石油消費量の2/3を占める運輸部門での省エネが重要であると指摘、「環境面からだけではなく、海外への石油依存度を下げるためにも新技術が市場に受け入れられるよう支援する」と語った。
   (朝日、毎日、日本経済、産経、東京新聞02年2月26日、化学工業日報2月27日)

(2)2003年度予算
 もし議会の承認が得られれば、02年2月4日に発表されたブッシュ政権の予算要求から推察して、アメリカDOEの水素計画(Hydrogen Program)に対する03年度予算は約1/3増加し3,990万ドル(02年度は2,920万ドル)になる見込みである。その1部はFreedomCAR計画に割り当てられることになろうが、その額については未だ明らかにされていない。ワシントンでは、FreedomCARの全予算は水素計画からの流入分を含めて1億5,000万ドルになると予想されている。しかしThe Office of Management and Budgetによる正式な発表は遅れている模様である。
    (Hydrogen & Fuel Cell Letter, February 2002 Vol.XVII/No.2, p1)

(3)FreedomCAR Hydrogen/Fuel Cell Partnership
 02年1月9日にDetroit Auto ShowでSpencer AbrahamDOE長官によって発表されたFreedomCARは、DOEと自動車産業界との水素/FC開発長期計画パートナーシップであり、CARはCooperative Automotive Researchの頭文字を意味する。それは政府と民間企業が、水素を燃料とする先進的な自動車用FC技術の研究に資金と努力を傾注することに主眼を置いているが、より効率的な先進的内燃機関を開発しようとする短期開発目標を排除するものではない。FCVに関しては高効率で、安く、無公害であり、ショウルームで他の車種と競争可能な自動車やトラックの実現が目標として掲げられている。
FreedomCARと以前のPNGVを比較すると、PNGVが先進的デイーゼルエンジンと云える自己着火直噴型エンジン(compression-ignition direct-injection engines;CIDI)に焦点を当てるとともに商用化以前の開発と実証を指向していたのに対して、FreedomCARでは水素/FCVに焦点を当て、かつコンポーネントレベルでの研究と開発を強調している点に特徴である。したがってFreedomCARが描くターゲットはより具体的であり、例えばFCシステムのコスト目標案に関しては、2010年で$45/kW、2015年で$30/kW、水素FCシステムの性能についてはピーク効率が60%、300マイル以上の走行距離を達成するFC動力システムの出力密度が325W/kg、220W/L、又水素製造に関してはwell-to-pumpエネルギー効率が70%、コストはガソリン換算(gasoline energy equivalent)で$1.5/gallon等となっている。
    (Hydrogen & Fuel Cell Letter, February 2002 Vol.XVII/No.2, pp1-2)
 
4.PAFCの市場開拓
 富士電機は、山形市の公共下水道浄化センターによる消化ガスPAFC発電システムを受注した。消化ガスは下水の汚泥から発生する有機ガスで、燃料消費量は毎時90m3、100kWPAFC2基からの発電電力は浄化センター内で消費される。又消化タンクやPAFCで発生する熱を回収し、センター内の空調に利用することになっている。このような消化ガス発電システムの場合、ガスの組成が処理場によって異なるため安定な発電は難しいと云われているが、山形市のケースでは、消化ガス組成について十分なデータがあり、富士電機では短期間での本格稼動が可能と述べている。
   (日刊工業新聞02年2月18日)
 
5.SOFCの開発と実証研究
(1)東邦ガス
 東邦ガスは独自に開発した高性能スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)電解質を用いたSOFCの商品化に乗り出すことにした。このScSZ電解質は第1稀元素化学工業(大阪市)と共同で99年度に開発した。従来のYSZ製電解質に比べて酸素イオンの透過率が2倍以上高く、出力当たりのSOFCの大きさを半分にできると共に、作動温度を800℃に下げられるので、低コスト化が期待されている。又改質器なしでメタンから直接発電する実証運転にも成功した。電解質がセラミックスの場合、振動などに弱いのがSOFCの難点とされてきたが、本電解質では材料の配合などに工夫を凝らし、厚さ0.15mmの薄膜状に成形、手で曲げられるほどの強度と粘りを持たせることができた。この電解質に同社が独自開発した空気極および燃料極を組み合わせ、これらを積層してSOFCスタックに仕上げることにしている。2003年度に実用化して発電システムメーカに売り込む予定である。
   (日刊工業新聞02年2月21日)

(2)電源開発
 電源開発は02年2月22日、若松総合事業所で進めているFC用石炭ガス製造技術(EAGLE)のパイロット試験設備の運転を開始したと発表した。試験期間は06年度までの5年間で、総事業費は約250億円である。NEDOからの補助分を除いた約1/3を電発が負担する。試験終了後、07年度から2年間、同所で開発しているSOFCを組み合わせた試験を実施することにしている。EAGLEは石炭ガス化複合発電(IGFC)に関する技術開発で、石炭をガス化して得られる水素とCOをFCに供給して発電すると同時にガスタービンにも排熱を供給して発電し、更に蒸気タービンも組み合わせる計画になっている。試験ではFCに適した酸素吹き石炭ガス化技術や、FCに適用できるレベルまで石炭ガスを精製する技術の確立を目指すことにしている。
   (電気、日本工業、日刊工業新聞02年2月25日)

(3)TOTO
 TOTOはSOFCの実用化に向けて、モジュール開発に本格的に乗り出す方針である。03年までにプロトタイプ機を製作し、04年度中にフィールドテストを実施したいとしている。
   (日刊建設工業新聞02年2月26日)
 
6.PEFCの開発と実証成果
(1)日石三菱
 日石三菱は、日石三菱トレーデイングが運営する根岸サービスステーションに設置したライトナフサを燃料とする出力5kWPEFCシステムにおいて、累計5,000時間の運転実績を達成しするとともに、水素中のCO濃度がほぼ0になることを確認した。この成果を基に02年中に導入する新しい水素改質装置では、CO除去装置の容積が現在の設備よりも40%はコンパクト化され得ると期待されている。水蒸気改質方式で、全装置は脱硫・改質・CO除去装置が1体化されてコンパクトな構成になっており、水素濃度は74%が目標とされていた。次ぎの運転目標は1万時間となっている。
   (日刊工業新聞02年2月6日)
 日石三菱はナフサ水蒸気改質装置(運転温度650℃)の容積を従来のそれに対して60%にまで減少させることによりPEFCシステムの小型化を実現することにした。2002年度から新装置による実証実験を進め、04年度の発売を目指すと述べている。小型化した装置の容積は国内最小規模の約0.2m3で、発電出力は5kWである。これにより給油所や家庭での設置が容易になると期待される。
   (日経産業新聞02年2月20日)

(2)電源開発
 電源開発はDMEを燃料とする定置式PEFCを開発することを決定した。NEDOの委託研究事業として03年度まで基礎研究を行い、その後商品開発段階に移行する。DMEについては国内の商社や化学、石油会社などが2006年までに商業生産の開始を目指している。
   (読売新聞02年2月13日)

(3)大阪府立大学
 大阪府立大学大学院の辰巳砂昌弘教授らの研究グループは、耐熱性の高いPEFC用電解質膜を開発した。この新素材は有機と無機の化合物を複合した膜で、130℃以上でも劣化を起こさない。すなわち親水性を持たせた有機化合物γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)と呼ばれる素材である。より長い高分子鎖を持つ有機化合物エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン(EHTMS)をエタノール溶液中で混合し、更にリン酸水溶液を混合、これを室温でゲル状に固め、次いで50℃で1日間、その後100℃から150℃で5時間熱処理を施すことにより、無機と有機化合物複合膜を合成した。この膜は130℃で6時間保持しても、0.0006S/cmの導電率を示した。
   (日本工業新聞02年2月14日)

(4)産総研
 産業技術研究所は氷の中を水素イオン(プロトン)が動く様子の観察に成功した。研究チームは、氷を1万気圧の高圧化に保って内部に隙間のない構造にすることによって融点を127℃に引き上げ、プロトンが吸収する赤外光の量を一定時間毎に測ることにより、氷の結晶中をプロトンが1秒間に300nmの速度で移動することを確認した。この研究はPEFCの性能向上の研究に役立つものと期待されている。
   (日経産業新聞02年2月15日)
 
7.家庭用コジェネレーション用PEFCの実証実験と商用化計画
(1)東北電力
 東北電力は02年2月4日、PEFCによる一般家庭向けコジェネレーションシステムの実証試験を、同社研究開発センター内で開始したと発表した。都市ガス13Aを燃料とした東芝製1kWPEFCシステム1台を研究開発センター内に設置、発生した電力はセンター内の系統に連係して消費するとともに、排熱は給湯(60℃)に用いられる。02年度末まで運転試験を実施し、発電効率、補機動力、起動停止時間、負荷追従性、騒音、燃料利用率、劣化性、改質性能、インバーター性能、排熱回収効率などを含むシステム性能や耐久性、信頼性、運用性を検証・評価することにしている。
   (電気新聞02年2月5日、日本工業新聞2月6日)

(2)日本ガス協会
 三菱電機、アメリカのUTCFCおよびプラグパワーの3社は、02年から日本ガス協会が推進する家庭用PEFC運転実験に参加することになった。既に松下電器産業、三洋電機、松下電工など7社が11ユニットの装置を提供して実験に参加しているので、これで参加企業数は10社となる。新たに参加する三菱電機は1kW級、UTCFCは6kW級、プラグパワーは5kW級PEFCを提供し、同協会ミレニアムPEFCプラザに設置する。運転試験に当初から参加している荏原バラードは、02年1月初めに発電効率34%を達成したと発表した。
   (化学工業日報02年2月15日)

(3)Hパワー
 Hパワーと三井物産の合弁企業Hパワージャパンは三井物産と共同で、天然ガス改質による出力500W規模の家庭用PEFCの販売を開始する。Hパワーが本体、大阪ガスが天然ガス改質器を開発した。試験販売している天然ガス又はプロパン改質の5kWユニットと、純水素燃料の500W規模も加えて3機種で市場開拓することにしており、その内5kW機は商用機開発ステージにあり、2002年中にも量産体制を整え03年から本格的な生産に入る計画である。天然ガス改質の500Wユニットについては試作生産段階に入っており、これ以外の2機種については、エネルギー企業などが試験的に導入、既に40台弱を販売した。価格は1kW当たり600万円を下回るまでに下がっているが発電効率は26%程度で低い。日本ガス協会が02年度に第2フェーズで実施する耐久性を中心とした実証運転プロジェクトには参加しないが、国が計画するプロジェクトには積極的に加わり、日本でのPEFC市場を創造していきたいとの意向である。
   (日刊工業新聞02年2月21日、)
 02年4月から販売予定のPEFCシステムは、携帯基地局における無停電電源装置の代替電源向けなどを主対象に売り込みを図ることにしている。現在使用されているバックアップ電源のバッテリーは寿命が限られ、使用後は廃棄物となるがFCなら長期の設置が可能である。アメリカでは通信大手との交渉も進んでいると伝えられる。
    (日本工業新聞02年2月27日)

(4)四国電力
 四国電力は02年2月22日、PEFCシステムを用いた家庭向けコジェネレーションシステムの実証試験を、四国総合研究所構内で実施すると発表した。04年3月まで2年間、発電特性試験や運転性能の把握、排熱特性評価や環境特性調査等を行い、信頼性や耐久性を含めた基本性能を検証する。今回の実証試験では東芝IFC製PEFCシステムを利用し、系統連系運転を実施、燃料にはLPガスを使用、又排熱利用に関しては貯湯槽(300L)に60℃の温水を蓄えて給湯する。
   (電気新聞02年2月25日)
 
8.FCV最前線
(1)ホンダ
 ホンダは03年に実用化する水素を燃料とするFCVを北米市場に限定して販売する方針を固めた。他方トヨタは同様に03年に実用化する水素燃料のFCVを日本市場に限定的に投入する予定であり、水素供給スタンドを自社整備するための検討を開始した。 現在ホンダが公道試験を実施しているFCV用水素燃料は、栃木県にある本田技術研究所の設備を使っており、遠隔地での公道試験ではFCVを運搬しているのが現状である。水素燃料スタンドの設置については、日本では国内の規制が厳しくてほとんど整備がされていないのが現状であり、したがって03年での実用化は、CaFCP等により地域的に水素供給スタンドが整っている北米市場に限定することにした。
 これに対してトヨタは、FCVの実用化は日本国内でスタートさせる方針であるが、限定的なユーザを対象にする予定で、現在水素スタンドが存在する本社と東冨士の研究所近辺が対象になると思われる。それと同時に同社は石油精製業者と共同で水素供給スタンドの整備を検討することにしている。
    (日刊自動車新聞02年2月5日)
 ホンダはFCV市販を機に、次世代タイプの蓄電装置"ウルトラキャパシター"の実用化に乗り出すことにした。バッテリーでは難しい瞬時の大電流放電が可能なウルトラキャパシタをFCVに組み込むことにより、回生エネルギーの活用を効率化して燃費性能を向上させることを狙っている。
   (日刊自動車新聞02年2月15日)

(2)日産
 日産自動車は、新タイプの環境対応ユニット"HCCIエンジン"の本格的開発に乗り出すことにした。これは40%の熱効率とFCVに匹敵する超低公害車を低コストで可能にする高効率内燃機関で、ハイブリッド車用動力源などとして実用化を目指す計画である。HCCIエンジンは、ガソリンを燃料としながら、デイーゼルエンジンのように点火プラグなしで圧縮工程時の温度上昇により着火する"自己着火方式"のパワートレーンであり、スロットルバルブが不要で吸気抵抗を低減できる他、希薄燃焼で対応できることから既存のガソリンエンジンに比べて2倍以上の運転効率を達成できるとされている。しかし、この種エンジンは燃焼コントロールが難しく、今まで自動車に適用された経験はないが、日産は直噴エンジンの開発などで培った制御手法を発展させて早期に課題の解決を図り、環境分野での優位性を確保したい意向である。
   (日刊自動車新聞02年2月9日)

(3)三菱自動車
 三菱自動車は、02年2月18日、三菱重工や三菱電機など三菱グループの総力を結集して共同開発しているFCシステムの開発チームから離脱したことを明らかにした。資本提携先のダイムラークライスラーとのFC分野における協業でも具体的な進展はなく、2005年を目途にFCVの実用化を目指すとしていた同社の構想は事実上実現が困難になった。
   (日本工業新聞02年2月19日)

(4)トヨタ
 トヨタ自動車は03年夏を目途に、水素を燃料としたFCVを首都圏で先行発売する方針を固めた。首都圏で限定的に発売するのは、水素ガス供給ステーションの整備が進められているためで、価格は1,000万円程度に抑え、官公庁や大企業を中心に販売する。発売するのは走行試験を続けているFCHV−4の改良型で、1度の燃料充填で250km以上走行できる特徴がある。大量生産ができないため、当初は10台程度の限定発売になる模様。開発費は1台当たり数億円ともいわれているが、普及への第一歩でもあり、あえて赤字覚悟で発売に踏み切ることにした。
 経済産業省は、首都圏に民間委託で水素供給スタンドの整備を進めており、第1号は02年6月に横浜市鶴見区に完成、03年までに5箇所程度が加わる計画になっている。
    (中日、東京新聞02年2月24日)
 
9.水素および燃料関連技術
(1)日本重化学工業 
 日本重化学工業は世界水素メーカ最大手のアメリカのエアプロダクトと水素吸蔵合金を利用したFC用水素供給システムを共同開発する。日重化が所有する水素吸蔵合金技術を用いて、FCで用いる水素の製造、貯蔵タンク、輸送手段など安全で効率的な供給システムを構築するのが主な目的である。
   (日刊工業新聞02年2月4日)
 日本重化学工業は、休止中のアメリカノースカロライナ州の水素吸蔵合金プラント(年産1,500トン)を近く再稼動する方針を決めた。アメリカでFCVや定置式FC向けの水素ステーション建設が活発化し、水素燃料タンク用水素吸蔵合金需要が今後拡大していくと判断した結果である。同社の水素吸蔵合金生産能力は、世界でもトップクラスであり、国内では年産4,500トンのプラントを保有している。又同社の水素吸蔵合金事業は、携帯電話向け小型2次電池のニッケル水素電池向けと共に、FC向けに水素の大量貯蔵やFCVの水素タンクを目的とした2本立てとなっていることが特徴とされている。
   (化学工業日報02年2月8日)
 経営不振に陥っていた新日本製鉄系の日本重化学工業は02年2月22日、自主再建を断念し、法的整理に入る方針を固めた。連結での負債総額は1,410億円で、会社更生法の適用を東京地裁に申請した。
   (東京新聞02年2月22日、上毛新聞2月23日)

(2)NKK
 NKKは02年2月5日、日本酸素、豊田通商、岩谷産業、出光興産、LNGジャパンなど9社と共同で、DMEの製造実証プラントを建設・運用する有限会社"DME開発"を設立したと発表した。新会社は今後5年間に200億円を投じ、釧路市にプラントを建設、直接合成法で日量100トンのDMEを生産する。なおこの実証実験は低コストでDMEを製造する技術の確立を目的としている。更にこの実証実験を経た後、LNGジャパン以外の8社で設立したDME Internationalが調査中のオーストラリア、インドネシア、中東において、2006年にも第1号の商用プラントを完成させる予定である。
   (日刊工業新聞02年2月6日)

(3)北大など
 北海道大学触媒化学研究センターの市川勝教授と積水化学工業、電制(札幌市)は、液体有機ハイドライドを使って定置式FC用水素貯蔵・放出に関する実証実験を開始した。積水化学の筑波研究所内に家庭用1〜3kW発電を想定した噴霧式高速水素発生装置を設置し、連続運転を行って安定性などを評価する。この液体有機ハイドライドはシクロヘキサンやデカリンなどの飽和炭化水素で、水素をそれぞれ3分子、5分子放出してベンゼンやナフタレンに変わる。逆反応を使えば水素を貯蔵することができる。水素キャリアとしては圧縮水素ガスや液体水素、水素吸蔵合金に比べてコンパクトで軽量、灯油や軽油と性状が類似して液体でありタンクローリーなど既存インフラが使える、1kg当たり100円以下で安価、などの特徴を備えている。市川教授は有機ハイドライドを白金触媒に吹き付けて380℃程度に加熱したとき、触媒がぬれているか乾いているかの境界状態で気体−液体の両方を存在させると、2秒程度で水素が発生することを発見した。積水化学が家庭用FCにこれらの媒体を適用して実用性を評価する。
   (日刊工業新聞02年2月19日)

(4)神鋼パンテック
 神鋼パンテック(神戸市)は量産タイプの水素発生装置"水素サーバー"を開発、販売に乗り出した。同サーバーは水道水を純水に変えて電気分解し、純度99.999%の水素を生成する装置で、高さ1.8m、幅1.1m、奥行き1.5m、水素発生量は毎時4〜10m3である。販売目標は年間30台で、播磨製作所で製造する。
   (神戸新聞02年2月26日)
 
10.企業活動
(1)TIFCとアメリカUTCFC
 東芝インターナショナルFC(TIFC)とアメリカUTCFCは、02年2月末に合弁でシンガポールにFCの販売会社"アジアパシフィックFC(APFC)"を設立することで合意した。両者が開発を進めている定置式PEFC(出力1kW〜100+kW)でオセアニア市場を開拓するのが目的である。将来は開発と生産拠点も設立し、世界市場での需要の拡大に対処したいとしている。APFCは資本金約1万ドル、UTCFCが51%、TIFCが49%を出資、社長はUTCFCから出すことになっている。当初は5人でスタートし、アメリカのユナイテッドテクノロジーズが保有するシンガポールの現地法人も活用してPAFCも含めて市場開拓を進める予定である。
   (日刊工業新聞02年2月7日)
 TIFCはUTCFCと共同で、02年中に出力1〜10kWクラス定置式PEFCにおいて、1kW当たり500万円の製作コストを実現し、更に量産化によってkW当たり50万円までのコスト引き下げを目指すと述べている。又PAFCと同等のkW当たり45万円を実現し、2004年にも小ロットでの実用化を目指す計画である。なお両社はPAFCに関しては世界最大の企業グループであり、200kWタイプでこれまでに225台を出荷している。
   (日刊工業新聞02年2月8日)

(2)日産とUT
 アメリカのユナイテッド・テクノロジーズ(UT)は、02年2月19日、FCシステムの開発で日産と提携したと発表した。日産と資本提携しているフランスのルノーもこれに参加する見通しである。UTは子会社のUTCFCが開発しているFCを日産のFCVに提供し、又UTCFC,日産、ルノーの3社でFC部品を開発する計画である。
   (日本経済新聞02年2月20日)

 

 ―― This edition is made up as of February 28, 2002. ――