67号 GM社がFCVの革新的な設計思想を披露

Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.NEDOプロジェクト
3.海外における公的施策
4.地方自治体による施策
5.MCFCの開発
6.SOFCの開発と実証
7.DMFCの開発と実証
8.家庭用PEFCの開発と実証
9.FCV最前線
10.水素および燃料関連技術開発
11.GTLプラントの商談
12.携帯機器用マイクロFC
13.FC関連技術
14.企業活動

1.国家的施策

(1)経済産業省
 経済産業省は、2002年度の予算において、FCVの開発に新規分を含めて100億円強を割り当てる。新規となるPEFCの実証試験では25億円を確保し、水素供給を含めたFCVの公道走行実験を実施する。更にPEFCの普及基盤整備に31億円、PEFCの技術開発に53億円を確保した。
(日刊自動車新聞02年1月7日)

(2)環境省
 環境省は大気汚染防止法でバイ煙測定が義務づけられているLNG発電設備およびFCについて、経団連や総合規制改革会議からの要請を踏まえて、監視測定方法の簡素化など、測定義務の緩和を検討することになった。政府の規制改革推進3ヵ年計画にも盛り込まれる予定である。既に02年度中に関連法令を改正する方針を固め、それぞれの関係業界に対する排出実態調査を開始した。
 大気汚染防止法では、同法施行令で規定しているバイ煙発生施設に対して、ばいじん、硫黄化合物の自主測定義務を課している。FCについては、改質器が法令上のバイ煙発生施設に該当すると見なされ、都市ガス燃料の設備に年2回以上の測定が義務付けられている。
(電気新聞02年1月29日)  
 
2.NEDOプロジェクト
 NEDOがエンジニアリング振興協会に委託して進めていたPEM水電解型および天然ガス改質型の水素ステーション実証設備が完成し、天然ガス改質型は02年2月7日、PEM型は同28日に披露されることになった。 2つのステーションとも水素吸蔵合金搭載車に対して水素を急速に充填できる点に特徴がある。
 PEM水電解スタックは電極面積が1,000cm2の50セルから構成されており、1時間当たり30Nm3の水素供給能力(1日当たり300台の車に燃料を供給する実用スタンドの10分の1の規模)を備えている。車1台分の水素充填量は、25〜30Nm3である。夜間電力を使って水素を生成し、水素は水素吸蔵合金に蓄えられる。設置場所は四国総合研究所(高松市)内で、取りまとめ企業は日本酸素、設備の心臓部は三菱重工が開発し、水素吸蔵合金は日本製鋼所が担当した。
 他方天然ガス型については、規模はPEM水電解と同じで、改質装置・精製装置を大阪ガスが導入、大ガスの用地内に設置される。取りまとめ企業は岩谷産業で、水素吸蔵合金は日本重化学工業が担当、供給デイスペンサーは岩谷瓦斯が導入することになっている。
 自動車へ水素を供給するスピードは、両者とも10分間で25m3であり、水素貯蔵設備は30Nm3の水素を貯蔵できる2基の水素吸蔵合金タンクから構成されている。この水素吸蔵合金は5,000回の吸放出を繰り返しても初期性能が落ちないような性能を備えている。
 2年間の実証期間でスタンドでの充電時間や寿命、所要エネルギーなどの綿密なデータを取得するのが最大の狙いであり、この結果を踏まえて1日に100台、200台、300台の車が水素を充填するスタンドの標準化を提案することにしている。水素スタンドは1基2ないし3億円で建設が可能と云われているが、標準化によって低コストでの建設が実現するものと期待されている。
(日刊工業新聞02年1月4日、日本経済、電気、日刊建設工業新聞1月25日)
 
3.海外における公的施策
 アメリカのエーブラハムDOE長官は、デトロイトで開催中の北米自動車ショウの会場で、GM,フォード、ダイムラークライスラーの3大自動車メーカと協力してFCVの実用化を目指す研究プロジェクトを開始すると発表した。"フリーダムCAR"と命名されたこのプロジェクトは、石油依存度の引き下げを目標とするブッシュ政権の新エネルギー政策に沿って打ち出された開発計画であり、バイオマスなど国内の再生可能資源から取り出した水素を燃料とするFC、およびそれを搭載したFCVの量産技術、水素供給スタンドの基盤整備等が課題として挙げられている。これに伴い過去8年に亘って15億ドルを投じて進めてきたPNGV計画は中止されることになる。(朝日、日本経済、東京新聞02年1月10日、毎日、日本工業、日刊自動車新聞1月11日)
 自動車産業の中心地ミシガン州も税制優遇策などでFCV関連産業の育成・誘致を目指すことになった。同州のエングラー知事は「デトロイトを世界のFCV開発の中心地にする」と述べて、この構想を表明した。(日本経済新聞02年1月30日)

 
4.地方自治体による施策
 (1)東京都
 東京都は02年1月9日、FCVを臨海副都心の路線バスに導入する方針を打ち出した。02年度予算で先ず燃料となる水素スタンドの建設用地費1,500万円を盛り込み、03年度からは都バスなどに新車両を投入する予定で、都は「臨海副都心をFCVの実用実験とPRの拠点にしたい」と語っている。都の水素スタンドは、臨海副都心にある東京ビッグサイト付近の都有地約2,000m2での建設を予定しており、施設の整備や運営については民間の事業者を公募する。(読売新聞02年1月10日)
 東京とは2002年度環境関連予算で、FCバス運行実験を新規案件として盛り込み、それに1,000万円を計上した。水素ステーションを02年度中に設置する計画で、2月にも事業者を公募し、臨海副都心に都が所有する敷地2400m2を提供することにした。03年には水素の供給を開始する。都はデイーゼル車の規制強化と同時に、交通量の多い公道でFCバスの普及を進めたい意向である。
(日本経済、読売、日本工業新聞02年1月22日、日経産業新聞1月30日) 

(2)広島市
 広島市が2003年度を目標に、FC素材を開発する"未来エネルギー素材研究機関(仮称)"を設置する構想を発表した。場所としては"ひろしま西風新都(安佐南区)"を軸に検討する模様である。水素吸蔵合金の研究で最高水準のレベルを持つ広島大に協力を要請するとともに、広島に調査団を派遣しているアメリカのGMやフォード、わが国のマツダやトヨタ自動車をはじめとする国内外の自動車メーカ、中国電力など電力会社やガス会社などに参加を呼びかけており、将来研究機関を中心に新産業の創出を目指すことにしている。
 広島大は2000年、県立西部工業技術センターやマツダとの共同研究で、実用レベルとされる100℃以下の低温で、多量の水素を吸放出できる金属薄膜の開発に成功している。同時に京都大学との共同研究では、グラファイトをナノメートル単位にまで細分し、水素吸蔵合金に比べて3〜4倍多い水素を吸蔵する方法を開発した。当面研究機関は、軽量でコストの低い水素吸蔵合金の研究開発に着手するが、将来はFC以外の未来型エネルギ−関連の素材開発にも着手する予定である。
(中国新聞02年1月18日)

(3)名古屋市
 名古屋市が、生ゴミのメタンガス化によるエネルギー有効利用を目指し、中部電力など民間企業との共同研究を計画している。中部電力などは、01年3月、生ゴミを主原料としたFC用ガス発生装置の開発に成功しており、同社が検討会のメンバーであることなどから、同市との共同研究構想が持ち上がった。収集してからの経過時間や水分の含有量など、さまざまなケースでガスの発生率や質を調査し、都市ガスとの混合利用や自動車用燃料などへの使用の可能性を研究する。
(中日新聞02年1月24日)
 
5.MCFCの開発
 IHIはMCFCの研究開発施設を東京から相生工場に移転した。研究が実用段階に入ったため、電力事業の主力である相生工場を開発の拠点とし、01年末には製造装置や発電性能の評価装置の移転を完了した。02年度中に出力300kWMCFC2基を製造、03年以降は生産ペースを上げながら大型化を進める予定である。2010年頃には360MW級MCFCプラントの製造にも着手することを考えている。
(神戸新聞02年1月23日)
 
6.SOFCの開発と実証
 三菱重工業と中部電力は、平板型SOFCを共同開発しているが、これまでに7,500時間の発電運転に成功し、最高出力15kWを達成した。今後4万時間以上の発電運転を目指し、2004年度には実用化の目途をつける予定である。平板上の電解質を凹凸状に加工して強度と出力密度を向上させ、電池端部のシール材にはセラミック系材料を採用している。スタックは20cm角で出力が1kWのセルを水平方向に30枚積層して構成されている。出力密度は0.24W/cm2を記録している。
(日経産業新聞02年1月10日)
 
7.DMFCの開発と実証
 YUASAは、最大出力が100Wと300WのDMFC電源システムを試作した。これらの試作機で実証実験を行い、04年を目途に商品化を目指すことにしている。1リットル約45円のメタノールと純水で約24時間の発電が可能と伝えられる。(日経産業新聞02年1月10日)
 YUASAは、出力100Wおよび300Wプロトタイプの開発に成功したことを受けて、03年にもDMFCの量産に取り掛かることにした。02年内にも大阪工場内に専用生産ラインを設置する予定で、将来はFCを主要な事業の1つに育成し、年商数100億円を目指すと述べている。
 YUASAが開発したプロトタイプ電源システムは、3%メタノール水溶液を燃料として、電圧は100V、サイズは100Wユニットで幅30cm、奥行き50cm、高さ40cm、重さは25kg、300Wユニットでは幅、奥行きが共に50cm、高さ60cm、重さ60kgである。これらの結果から同社のDMFC技術は実用レベルに達したと判断し、量産時期の具体化に踏み切った模様である。 (化学工業日報02年1月18日)

 
8.家庭用PEFCの開発と実証
(1)荏原バラード
 荏原バラードは02年1月8日、都市ガスを燃料とする家庭用1kWPEFCコジェネレーションユニットの開発で、34%の発電効率(LHVベース・送電端AC)を達成したと発表した。これはプロトタイプ−2型機と呼ばれる試作ユニットで、発電効率と廃熱回収効率を高めた結果、総合効率が81%以上を記録し、又ユニットの大きは274Lで、昨年製作した1型機に比べて約40%の小型化を達成した。PEFCスタックはBPS(Ballard Generation Systems)製、それに東京ガスから技術供与を受けて製作した燃料処理装置を組み合わせている。 同社はこれをベースに準商用機の開発を進め、2004年にも商用機の販売を目指すことにしている。
(電気、日本工業、日刊工業新聞02年1月9日、日経産業新聞1月10日)

(2)東京ガス
 東京ガスは02年1月10日、荏原とBGSの合弁会社荏原バラードとBGSにPEFCコジェネレーションシステム用燃料処理技術を提供するライセンス契約を結んだと発表した。同契約は非独占で、両者とそれぞれ個別に締結した。同時に、東京ガス、荏原バラード、荏原、BGSの4社は、東京ガスのライセンス技術に基づく1kW級の家庭用PEFCコジェネレーションシステムを商品化する新たな開発フェーズに入ることで合意した。燃料処理技術の対象となる燃料は、メタンを主成分とする都市ガスやLPGである。  東京ガスは、小型で高効率な改質技術や常温で使用できる高性能脱硫剤などを既に開発しており、これらに関して同社が取得あるいは申請中の特許およびノウハウを荏原バラードとBGSに個別にライセンスすることになる。今後は、荏原バラードとBGSは、PEFCシステムで東京ガスの技術を使う場合、契約で規定した実施料を支払うことになる。
(日本経済、日経産業、電気、日本工業、日刊工業新聞、化学工業日報02年1月11日、電波新聞1月15日)

(3)三洋電機
 三洋電機は02年1月15日、韓国のサムソングループの研究機関"サムソン綜合技術院"と家庭用FC開発の技術協力で合意したと発表した。先ず三洋とサムソンが研究員の相互派遣などを通して技術情報を交換する。同社は04年での家庭用FCの実用化を目指しているが、両社が持つ技術を合わせることで、家庭用FCコジェネレーションシステムの早期商品化を図ることにした。これまでのところ、生産や販売面で協力する考えはないと話している。
(朝日、読売、毎日、日本経済、日経産業、産経、日本工業、日刊工業、電波新聞02年1月16日)

(4)エルピーガス
 エルピーガス振興センターは、NEDOからの委託を受け、LPガスを燃料としたPEFCの開発に着手することになった。中心となるのは、LPG改質装置の開発とコジェネレーション装置としての組み上げで、総合熱効率80%の家庭用1kWシステムの実用化を目的とする。日石三菱、出光興産、松下電工、エア・ウオーター、岩谷産業の5社が参加し、期間は5年、総額21億円(内補助金が2/3)のプロジェクトとなる。03年度中に中間評価をして、04年度から2年間の実証運転を行う予定である。 日石三菱と出光は、700〜750℃でのLPG改質技術および、コジェネに組み上げる全体システムを開発する。日石三菱は既に関連企業の日本石油ガスが、LPG改質PAFCの開発を進めてきた実績があり、この技術も取り組んで連続運転タイプのPEFCコジェネを開発、一方出光は日本最大のLPG企業として、関連企業の出光ガス&ライフ、および松下電工とも組んで、起動・停止タイプのシステムを開発する。エア・ウォーターは触媒改質器を、岩谷は純度の高い水素を取り出す膜方式のメンブレンリアクターの開発を担当することになっている。
(日刊工業新聞02年1月16日)

(5)日本ガス協会
 日本ガス協会は、7社が進めている11基の出力1kW級家庭用PEFC実証実験について、第1フェーズを終了して第2フェーズを02年3月からスタートさせる。これは01年12月から02年2月にかけて各社が開発した1kW機を、東京、大阪、名古屋に設置して実証実験を行う計画であり、わが国の企業では、荏原、松下電器産業、東芝、トヨタ自動車、三洋電機の他に新たに三菱電機を追加、海外からはHパワーに替わってプラグパワーが参加する。第1フェーズでは、各社とも合計1,000時間程度の運転を行ったが、第2フェーズでは耐久性の実証に重点が置かれ、運転時間は8,000時間を予定している。PEFCの発電効率は荏原が出した34%が目下の最高であり、他のほとんどは30%前後であった。したがって各社とも発電効率を更に高める努力を積み重ね、その上で本格的な耐久テストに望むことにしている。
 他方、新エネルギー財団は、02年10月以降にこれら電池メーカからFCをレンタルし、実際の家庭での実証試験に乗り出すことになっている。これで家庭用PEFCは2004〜05年に最初の実用機が登場する見込みである。
(日刊工業新聞02年1月17日)
 
9.FCV最前線
(1)東邦ガス
 東邦ガスは、ピザ宅配用などに使用されている光岡自動車の充電式電気自動車(1人乗り)をベースにFCVを試作、又燃料である水素の充填装置も開発した。試作FCVはアメリカ製出力250WのPEFCを2台搭載しており、走行距離は45km、既存車の改造のため数百万円程度で済んだと同社は話している。天然ガスから水素を製造する施設のある東邦ガス総合技術研究所で、水素の充填技術の開発に取り組むことにしている。
(中日新聞01年12月31日)

(2)日産
 日産自動車はFCVについては2005年までに市販可能な技術開発を完了させるなどを含む中期環境計画"ニッサン・グリーンプログラム2005"を発表した。政府が02年度に実施するFCV実証運転実験に参加し、実用化のためのノウハウを蓄積するが、FCVの燃料については、当面高圧水素ガス車載貯蔵方式を採用すると述べている。車のリサイクルや低排出ガス化にも数値目標を設けて、環境負荷を低減する予定。
(日本経済、日経産業、日刊工業、日本工業、日刊自動車新聞02年1月29日)

(3)GM
 GMは02年1月、アメリカのデトロイトで開催されている第14回北アメリカオートショウ(14th North American International Auto Show)において、全く新しいFCVの概念(hot new concept car)"AUTOnomy"を発表した。展示されたのは実物大の模型(mockup)であるが、それは電気推進ボートや航空機の翼を連想させるような滑らかな薄い車台であり、FC推進機関の特性を踏まえた革新的な設計思想が取り込まれている。
 AUTOnomyの最大の特徴は、GMの設計者がskateboardと呼んでいる長さ4,46m、厚さ15cmの車台(chassis)と、人を乗せる車体(body)が分離されている点にある。合成材料で作られた車体には、動力システムの主要な部分、FC電源、水素貯蔵タンク又はガソリン改質装置、ブレーキ、補機用電子部品、4つの電動機付き車輪が備えられている。オートショウで披露された2人乗りの小さい車体は、4つのメカニカルロックによって車台に取り付けられる。中央ラインの前よりの位置にuniversal docking connectionがあり、それは車体にある電子式操縦情報(drive-by-wire)を車台に伝達する役割を果たしている。
 もう1つの顕著な特徴は、ラジエータを持たない点にある。FC、電子機器、車輪モータから発生する熱は、車台の底辺に取り付けられた熱交換用フィンを通して外部に放散させる構造が採用されている。
 AUTOnomyのこのような斬新な設計思想は、FCの特性を最大限に生かすことによって齎された。FCスタックは薄いセルを積層して組み上げられる電源であり、その出力規模と形を自由に選択することができる。It's very easy to scale up and down! したがって、FC電源を車台に薄くかつ広く配置することが可能であり、内燃機関のようにシリンダーに纏める必要がない。それが車台をskateboardのような構造にすることを可能にした。
 GMの研究開発および企画担当の副社長Larry Burns氏は"You could steer by wire, brake by wire, or control your ride and handling by wire"と述べているように、FCが電源であることを最大限に利用して、動力伝達は全て電力によって行われ、運転、操縦、制御は電子情報処理システムと高度なソフトウエア−によって賄われることになろう。したがって、車体を車台にドッキングさせるために、パーツとしてはハードのみならずソフト面でのインターフェイスが用意されている。恐らく将来は車の運転席には足元のペダルが無く、その代わり中央に運転状況や位置を示すスクリーンおよびその両側に航空機の操縦桿のようなハンドルが備えられ、オートバイのようにドライバーはこのハンドル捻るか、動かすことによって車の速度をコントロールするような運転方法が実現するものと思われる。
 Burns氏は「AUTOnomyは単にそれが斬新な設計であるというだけではなく、将来の自動車の設計、組み立て、運転操縦方法の全てに対して革命的な変革を齎すであろう点において大きな意義が存在する。そして独立に製作された2つコンポーネントを組み合わせて1つの自動車を作り上げるという設計思想は、システムと部品のモジュール化を可能にし、製造工程を簡素化することによって低コスト化を実現するであろう」と述べている。事実車台については大・中・小の3種類を用意しておけば、2人乗りスポーツカーから車椅子での乗車が可能な特殊自動車、更に10人乗りのリムジーンに至るまで多様な市場ニーズに対応して自動車を組み立てることができる。そして同社はこの車台の耐久性を20年と予想している。GMは「FCは単に自動車の環境性を高めるのに役立つのみならず、カーメーカのビジネスの手法さえも変えてしまうような効果を持つかも知れない」と述べている。なおこれに伴って24種類の特許を申請中と伝えられる。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, January 2002, Vol.XVII/No.1, pp1-3、日本経済、東京新聞02年1月8日、朝日新聞1月9日)
 
10.水素および燃料関連技術開発
(1)出光興産
 出光興産は灯油に含まれる硫黄酸化物(SOx)を1/1,000にまで抑えることのできる脱硫剤を開発したと発表した。灯油に含まれる炭素数は天然ガスの12倍、粗製ガソリンの2倍と多いために、炭素と硫黄成分が結合してできる芳香族が増え、天然ガスなどに比べて脱硫が難しく、改質技術が確立していなかった。同社は脱硫剤にニッケルなどの金属を混ぜることによって問題を克服し、この脱硫剤が4,000時間の連続運転に耐えることを確認した。灯油は全国の給油所で購入できるなど、LPGやナフサに比べて供給インフラが整備されている。もし灯油の脱硫ができて改質プロセスが開発されれば、家庭用FCの実用化に大きく貢献し、電気メーカも灯油燃料のFCの開発に本腰を入れて取り組むものと見られている。同社ではこの技術開発成果を踏まえて、02年春にも灯油を使うFCの実用化に向けた取り組みを始め、04年度での販売を目指すことにしている。
 開発した脱硫剤 "IADS-147" は、ニッケルに2〜3種類の金属を混ぜ合わせ、これを酸とアルカリの水溶液に混ぜて後に焼き固めて造られる。大きさは直径2mm程度で、セラミックス成分のシリカを核にして、1/1,000cm単位の細微な金属の層を積み重ねた構造になっている。灯油中の硫黄成分だけが脱硫剤の表面にある金属群に吸着するよう、成分や形状が最適化されている。
 脱硫過程では、常圧のまま200℃の温度にまで昇温した灯油を、新しく開発された脱硫剤を入れた反応器に流し込んで硫黄成分を除去するが、30〜50ppmの硫黄成分を含む通常の灯油において、この脱硫過程により硫黄成分を0.05ppmにまで下げることができる。
(日経産業新聞02年1月4日)

(2)三菱化工機
 三菱化工機は、従来の自社製品に比べて2割安い中型の水素製造装置を開発した。都市ガスやLPGを原料として、毎時200m3の水素製造能力を持つ。従来の小型オンサイト水素製造装置を大型化したもので、大半を工場で事前に組み立てられる設計となっている。そのため設置場所での据付、配管工事が少なくてすみ、コストが削減できる。川崎製作所でほぼ完成させ、トレーラーに載せて出荷できる。
 同社は従来、100m3以上の案件では、デンマーク社から技術導入したプラントを現場で施工していたが、新型機は工場組み立ての比率向上に加え、技術使用料の支払いが不要になることが、コスト削減につながった。価格は1基2億円以下に設定する。FCV用水素ステーションの場合、毎時200〜300m3の水素供給装置が必要になると見られており、新型機をステーションに応用するための試設計も始めている。
(日経産業新聞02年1月11日)

(3)東京理科大
 東京理科大学工学部の斎藤泰和教授はFC用水素の貯蔵・輸送媒体として、軽くてコンパクトな炭化水素系液体デカリンを使う手法を開発した。デカリンが水素を放出してナフタレンに変わる反応が、触媒状態を工夫することによって210℃の低温でスムーズに進行した。
 実験では炭素に白金を少量まぶした触媒表面を、デカリンが湿らす程度(触媒0.75gに3mmリットル)にし、そのまま反応容器内において210℃でデカリンを2時間半沸騰・還流させた。触媒上のデカリンは"加熱液膜状態"になり、水素表出反応がスムーズに進行した。転化率は27%、熱効率は38%となり、通常の触媒懸濁による反応におけるそれらの値(2%)に比べて著しく向上した。より安価なニッケル系触媒も検討中である。デカリンを水素の貯蔵媒体としてFCVなどに使ったとすると、水素貯蔵量は重量比で7.3%と水素吸蔵合金に比べて高く、しかも媒体が液体であるため扱いが容易になる。風力発電などで得られる水電解水素を吸着させたデカリンをタンクローリー等で輸送し、FCV用スタンドで水素を放出したナフタレンと交換すれば、再生可能エネルギ−によるFCV用水素の供給が可能になる。
(日刊工業新聞02年1月11日)

(4) 神鋼パンテック
 神鋼パンテックは、高効率の水電解水素発生装置を開発した。この装置は厚さ200micronの電解質膜を電極のチタンなどで挟み、25ないし50枚重ねて1ユニットとした構造で、膜に純水を供給して電気を通すと陽極側で水は水素イオン、電子、酸素に分解され、陰極側では水素イオンと電子が結合して水素ガスが発生する。電極に使うチタンを従来の網目状から表面が滑らかなシート状に替え、反応時の温度を50℃から80℃に高めて電気抵抗を下げた結果、エネルギー効率は従来の60%から90%にまで上昇した。水素発生量1m3当たりの消費電力は4kWh、水や維持管理などを含めた総コストは約70円、発生する水素の純度は99.999%と発表されている。1時間当たりの水素発生量0.5〜100m3の12種類の装置が作られており、価格は10m3タイプのもので2,000万円である。
 ホンダは01年7月から太陽光発電によって水素を低コストで供給するFCV用水素ステーションの運用試験をカリフォルニア州で行っているが、これまでも神鋼パンテックの水素発生装置を試験利用してきた。今後は両社で高効率水素発生装置を実用化することで、FCVの開発を加速することにしている。又神鋼パンテックはFCV以外、一般家庭用にも需要が高まると見ており、02年度は約20億円の売上を見込んでいる。
(日経産業新聞02年1月22日)

(5) 産総研
 産業総合技術研究所の光反応制御研究センターは、植物の光合成メカニズムを模擬した"人工光合成システム"を用いて、可視光で水を水素と酸素に完全分解することに成功した。このシステムは、2種類の可視光応答性のある酸化物半導体粉末を、ヨウ素を含む水溶液に懸濁し、可視光を照射するだけで水から水素を生成するという非常にシンプルな技術であり、太陽光エネルギーの低コスト変換利用技術および再生可能エネルギーを利用した水素製造技術として期待できる。
 同研究グループは、可視光応答型光触媒プロセスの研究開発において、2段階光触媒の水分解プロセスの研究を進めてきた。その結果、まずクロムをドーピングした白金担持のチタン酸ストロンチウムと、白金を担持した酸化タングステンを、ヨウ素レドックスで連結することにより、人工光合成反応を実現するのに成功した。
(化学工業日報02年1月16日)

(6) 静岡大学
 静岡大学工学部の佐古猛教授の研究室と、電線メーカの共同研究組織である"(財)電線総合技術センター"は、高い分解力を持つ高温・高圧の超臨界水を用いて、廃プラスチックなど処理が困難とされてきた有機廃棄物や生ゴミを効率的にガス化する基礎実験に成功した。基礎実験では、自動車から銅などの有用物質をおおまかに回収して残ったシュレッダーダストが、700℃、300気圧の超臨海水によって30分間に80%分解し、ダスト1gにつき1,000ccの水素が得られたと報告されている。このように分解されたガスに大量の水素が含まれていることも特徴である。01年秋に特許を申請しており、02年春に化学工学会で発表の予定である。
(日経産業、静岡新聞02年1月31日)

(7) 日本重化学工業
 日本重化学工業は、アメリカのエアプロダクツ社と共同で、FC向けに水素を供給するシステムの開発に乗り出すことになり、事業化調査を共同で進める契約に調印した。日重化が得意とする水素吸蔵合金を活用して、水素の貯蔵・供給システムの実用化を目指すとしている。
(日経産業、鉄鋼新聞02年1月31日)
 
11.GTLプラントの商談
 GTLプラントのEPC商談がカタールで進められている。01年12月初旬に行われたテクニカル・プロポーザルの結果、千代田化工建設−三菱重工業、日揮−ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)−スナムプロゲテイーの2グループの採用が有力となったが、これを受けて早ければ02年4月から始まるコマーシャル・プロポーザルの入札で受注企業が選定される見通しとなった。ナイジェリアの商談も近く開始される予定である。
 GTLは天然ガス中のメタンガスからF−T(Fischer-Tropsch)反応を経て生成される。商談が進むカタールの計画は、カタール国営石油、南ア・サソールが事業主体で34,000バーレル/日規模のGTLプラントであり、他方ナイジェリアの計画は、生産規模はカタールと同じ34,000バーレル/日プラントであるが、アメリカのシェブロンが事業主体でサソールのプロセスを用いる計画である。これ以外にカタールでは、カタール国営石油、エクソン・モービルによる90,000バーレル/日のプラント計画があり、その他イラン、エジプト、オーストラリア、アラスカ、エネジェーラでも計画されている。
(化学工業日報02年1月18日)
 
12.携帯機器用マイクロFC
 東芝と日立製作所はノート型パソコンなど携帯機器用マイクロFCを相次ぎ開発し、03年にも実用化を達成したいと考えている。
 東芝は携帯情報端末(PDA)向けFCを試作した。最大出力で8W、燃料であるメタノール10mmリットルで40時間の連続表示が可能であり、これは現在主流の充電式リチウム電池の5倍に相当する。試作品は厚さ25mm、重さ500gであるが、同社によればそれぞれ5mm、100g以下にまで小型・軽量化する技術に目途をつけている模様である。03年には発売する予定で、携帯電話用も開発することにしている。
 他方、日立のFCは携帯電話の大きさで、ノートパソコン用を想定している。03年での実用化を目指し、充電池では3時間であった連続使用時間を、10時間以上にまで増大させたいと考えている。
 両者のFCは、特殊な膜にメタノールを通して水素を直接取り出すことに特徴があり、燃料はカートリッジ型にしてコンビニエントストアなどで買えるようにする積りである。価格は充電池並を予定している。
 ブロードバンド(高速大容量)時代では、携帯機器を使ってテレビ並みの鮮明な動画や大規模データを送受信できるようになるが、電力消費量が飛躍的に高まるため、電池の容量に問題があった。マイクロFCの実用化は携帯機器の開発を促すことになろう。
(日本経済新聞02年1月20日)
 
13.FC関連技術
 エレクトロニクス商社の丸文は、エヌエフ回路設計ブロックと共同で、FC総合評価装置を開発し、受注を開始した。ハード・ソフトが一体型で、1台のパソコンで各部の制御や監視、電流・電位特性の測定、膜抵抗測定ができる。具体的には100Wの電子負荷装置を内蔵しており、最高3気圧までの加圧や、最高100℃までの安定した温湿度制御が可能である。価格は800万円からで、02年度内に1億円、03年度には4億円の販売を目指すとしている。
(日刊工業新聞02年1月7日)
 
14.企業活動
(1)三洋電機
 三洋電機は韓国の大手メーカ三星(サムソン)電子と、家庭用や自動車用FCの共同開発を手始めに、戦略商品を生む次世代技術の共同開発に取り組むことを明らかにした。数千億円規模の投資が必要な次世代技術開発の投資効率を高めて開発速度を速める一方、既に提携を決めている中国最大の電機メーカ海爾(ハイアール)集団を含めた協業体制を整え、アジアの強者連合を目指すことにしている。
(朝日新聞02年1月11日、毎日、日本経済、東京、電波新聞1月12日)

(2)三菱商事
 三菱商事は、石油メジャーのロイヤル・ダッヂ・シェルの子会社やジョンソン・マッセイと共同で、FCに特化した投資ファンドを02年3月にロンドンで創設し、FCや水素に関連する技術を持つ企業に投資をする。ファンドの規模は最終的に1億ドルに拡大する予定で、FC関連では世界最大の規模となる。
(日本経済新聞02年12月28日)

 

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