66号 SOFCで世界最高の出力密度を達成する

Arranged by T. HOMMA
1. 国家的施策と行事
2.地方公共団体による施策
3.PAFCの市場と普及
4.MCFCの導入
5.SOFCの研究開発と実証
6.PEFCの開発と実証試験
7.マイクロFCおよびDMFC
8.FCV最前線
9.水素および燃料関連技術
10.関連技術
11.企業活動

1. 国家的施策と行事

(1)経済産業省
 経済産業省は01年12月12日、国会内で"FCV試乗会"を開き、小泉首相、平沼経済産業相、川口環境相、鳩山民主党代表など、多数の国会議員が参加した。首相は「政府として普及に向けた助成措置を検討している」と積極的に導入促進策を打ち出していくことを明らかにした。又自動車メーカ側からは、トヨタ自動車の張社長、日産自動車のカルロス・ゴーン社長、ホンダの宗国会長、マツダの渡辺会長らが参加した。(日刊自動車、読売、毎日、日本経済、産経、日本工業、東京新聞01年12月14日) )

(2)国土交通省
 国土交通省は、北海道大学と連携して、FCで発生する電気・熱を生かした街づくりの研究に着手する。02年度明けにも学識経験者や北海道内の自治体関係者、民間企業で構成される検討委員会を省内に設置する予定で、1年間かけて水素の輸送・貯蔵技術などを検証することにしている。道内には苫小牧付近に天然ガス油田があるうえ、畜産業が盛んなことから家畜糞尿から発生するメタンガスを水素に改質できるなど、FCを街づくりに取り込む条件が整っている。冬場での熱需要が高いという地域の特性もあり、同省ではメーカ各社の技術開発動向を見ながら積雪地・寒冷地仕様のFC導入マニュアルを作成する予定である。水素の輸送・貯蔵技術に関しては北大が既に研究を始めているが、本プロジェクトでは国費6,000万円を投じて都市部での実証実験を進めることにしている。同省では「ハードの開発状況をにらみながら1年間検討し、FCを組み込んだ街づくりの1つの方向を示したい」と述べている。(電気新聞01年12月26日)  
 

2.地方公共団体による施策
 愛知県は、ゴミを水素ガスに分解してFCで発電したり、汚水を飲み水レベルにまで高度処理する再利用技術を、名古屋大学やトヨタ自動車などと共同で開発し、2005年の日本国際博覧会(愛知万博)のパピリオンで展示する方針を打ち出した。実用化が間に合えば万博会場の運営システムに組み込むことにしている。ゴミガス化FC発電では、プラスチックや廃材を酸素が少ない状態で約1000℃に加熱、水素とCOを取り出してそれを燃料として利用する。汚水処理では、処理槽内に高密度で詰め込む微生物とセラミックスろ過膜を使って窒素やリンなどを従来の2倍の速さで高度除去することができる。生ゴミをデイスポーザで砕いて汚水と一緒に流せば、一括処理でメタンガスの抽出が可能になる。いずれも産官学で運営する"先端技術連携リサーチセンター"での実証実験に成功しており、実用化の目途がつきつつあると関係者は語っている。 (中日新聞01年12月12日)
 
3.PAFCの市場と普及
 東芝インターナショナルFC(TIFC)は、02年度分のPAFC販売台数を、01年度予想の5倍となる年間10台に引き上げる予定である。東芝との協力体制を強化するとともに自治体向け案件などの掘り起こしを強化し、10億円強の売上高を目指すとしている。中核製品は出力200kWPAFCで、災害などで通常の電力供給が停止しても、直ちにFCによる発電に切り替えられる無停電電源としての機能を付加したのが特徴である。これまでは分散電源およびコンピューター用無停電電源として、IT化が進むビルや工場などに販売してきたが、装置単価が1億円強と高いことに加え、IT不況の影響などにより受注が落ち込み、01年度は2台の販売に止まりそうな情勢にある。低価格のマイクロガスタービンとの競争激化も要因の1つと見られている。他方、最近下水や生ゴミ処理過程で発生するメタンガスを燃料としてFCを運転しようとする機運が広がっており、こうした情勢を踏まえて同社では下水汚泥などの消化設備を導入しようとしている自治体などに働きかけ、東芝の電力・社会部門と連携して提案営業を加速することにした。又無停電高品質電源としての性能もFCのセールスポイントとして、病院等への拡販にも力を入れていく方針である。(日本工業新聞01年12月20日)
 
4. MCFCの導入
 キリンビールは、01年12月26日、丸紅を通してFCE(Fuel Cell Energy)製MCFC第1号を02年10月に取手工場に設置することを明らかにした。丸紅がFCEからMCFCを導入、キリンの工場内に設置して15年間に亘って電力を供給し、FCの保守点検も含めて運用はすべて丸紅が担当することになっている。燃料は排水処理過程で発生するメタン系の消化ガスで、取手工場ではこれまで東京電力から供給を受けていた電力3,722万kWh/年の5%をFCからの供給に切り替える予定である。電気代は当面は東京電力とほぼ同じであるが、キリンは将来はこの種FCを全国の工場に設置することも考えており、今後他工場にも設置が進んで供給量が増えれば電力料金は割安になることが期待される。現在このMCFCはアメリカとドイツで3台稼動しているが、日本への導入はこれが初めてである。(読売、日本経済新聞01年12月27日、電気、産経、電波、日刊建設工業新聞12月28日)
 
5. SOFCの研究開発と実証
(1)物質・材料研究機構
 独立行政法人・物質・材料研究機構(つくば市)は、アメリカのアルフレッド大学、オーストラリアのクイーンズランド大学と、ナノテクノロジー・材料分野で研究協力することになり、01年12月10日に研究協力のための覚書を締結した。3者が取り組むのは"ナノ組織制御・超イオン伝導性材料・素子"の開発で、SOFC電解質の内部に酸化物イオン電導性に優れたナノスケールのヘテロ組織を作製することを目的とする。研究期間は当面5年とするが、成果に応じて期間を延長することになっている。(化学工業日報01年12月10日、日刊工業新聞12月11日)

(2)関西電力、三菱マテリアル、JFCC、大分大学
 関西電力は、01年12月17日、三菱マテリアル、ファインセラミックスセンター(JFCC)と共同で、600〜800℃の低温で動作するSOFCセルにおいて、世界最高の出力密度を達成したと発表した。出力密度は800℃で1.8W/cm2、700℃で0.9W/cm2であり、従来の世界最高はそれぞれ1.22W/cm2、0.72W/cm2であった。このセルでは、燃料極に微細なニッケルとサマリウム添加セリアの複合多孔質体を、電解質にランタンガレートを基本とする5元素ペロブスカイト型酸化物の緻密質体を、そして空気極にはストロンチウムを添加したサマリウムコバルトタイトの多孔質体を用いている。セルの大きさについては、直径が1.6cm、厚みは電極が0.02mm、電解質は0.1mmと発表されている。電解質および空気極は三菱マテリアルと大分大学によって、燃料極は関西電力とJFCCによって開発された。作動温度が低いのでコストと寿命の面で有利であり、関西電力と三菱マテリアルはJFCCおよび大分大学と協力しながら更なるセルの改良を重ね、今後2ないし3年を目途に数kW級発電器を試作、将来は低コストで世界最高効率のSOFC電源を実用化する方針である。本研究成果は、02年7月1日から5日まで、スイスで開催される第5回SOFCフォーラムで発表する予定である。 (読売、産経、日本経済、電気、日経産業、日刊工業、日本工業、中日、鉄鋼、電波新聞、化学工業日報01年12月18日)

(3)NKK
 NKKは01年12月19日、カナダのフュエル・セル・テクノロジーズ(FCT)と、出力50kW以下のSOFCシステムの商業化で提携したことを明らかにした。FCTと組立製造契約を結び、2003年にFCTが発売する5kWおよび50kWの2機種(送電端発電効率45%以上)を、NKKが60万円/kWの低価格で販売する。NKKは既に販売提携しているシーメンス・ウエスチング・パワー(SWPC)製を含めて、数kWから数千kWまでのSOFC発電システムをラインアップする。
 FCTはSWPCからSOFCのセルを導入し、5kWと50kWのシステムといして商品化する計画で、カナダで工場の建設を始めている。セルがハニカム状になっているのが特徴で、電気抵抗が円筒形のものよりも低く、コンパクト化と低コスト化を実現した。FCTはこの小規模SOFCを03年に発売するため、02年に実証ユニットを立ち上げるが、NKKはFCTによる2機種のSOFCをパッケージ化して国内向け仕様にシステム化し、FCTの販売時期03年と合わせて国内とアジア太平洋地域で販売する予定である。国内での販売は天然ガスを燃料とするユニットとなるが、排熱が700℃と高いので、幅広い熱の利用が考えられる。
 他方、SWPCのSOFCについては、250kWプラントを03年に導入し、04年末には550kWプラントも導入する計画である。SWPCは03年にはアメリカで年間15,000kWのSOFC量産工場を立ち上げることにしている。NKKはこの2種類のプラントを日本では150万円/kWレベルの価格で発売する積りであり、特に550kWユニットについてはマイクロガスタービンと組み合わせることにより60%台の高効率複合発電プラントの実現を目指すと述べている。これらを含めてNKKはSOFCを、都会での分散型電源として、事業所やビルなどでの広範な商業化を実現する計画である。 (日刊工業新聞01年12月20日、日本経済、日経産業、鉄鋼新聞、化学工業日報12月21日)

(4)イギリス・キール大学
 キール大学は、SOFCを研究するための検査システムを開発した。本システムは、薄壁の管状セラミックスリアクターで、アノードで起こる燃料プロセス触媒作用や化学反応を実際に動作しているFCの中で調査できる点に特徴がある。同時に性能や耐久性もチェックできるので、新しいフォーミュレーションの開発と最適化が可能になり、SOFCの実用化に役立つと考えられる。 (日刊工業新聞01年12月24日)

 
6. PEFCの開発と実証試験
(1)九州電力
 九州電力は01年12月6日、PEFCの実証試験を総合研究所で開始したと発表した。燃料は都市ガスで東芝の出力0.7kW家庭用PEFCコジェネレーションシステムである。実証試験は2003年末まで実施され、基本性能の技術的評価を行って現状でのPEFCの開発レベルなどを検証することにしている。都市ガスの改質は水蒸気改質方式で、発電効率は30%弱、総合効率は70%、370Lの貯湯槽を併設し、60℃程度の温水を供給することができる。 (電気、日経産業新聞、化学工業日報01年12月7日)

(2)三菱電機
 三菱電機はPEFC用セパレータについて、コスト低減を目的に、黒鉛と樹脂で構成される"カーボン樹脂モールドセパレータ"の開発を加速する方針である。セパレータの製法はおよそ次ぎの3種類に分類される。1つは黒鉛の塊を圧縮した後、NC加工機により1枚ずつ高精度加工して製作する方法、2番目は黒鉛と樹脂を混ぜてモールドセパレータとして加工を施すタイプ、3番目は金属材料の表面を化学処理して製作する方法である。同社が開発に取り組むモールドタイプでは、熱を与えると柔らかくなる特性を持つ熱可塑性樹脂を採用し、更に高度なNC加工ではなくプラスチック部品の製作に適用される射出成型を可能にする方式であり、量産化に適した製法を目指している。これによりコスト面では、現状では1枚(100cm2)当たり5,000円程度といわれているセパレータ板を、200円以下にまで低減させることを目標とする。 (電気新聞01年12月17日)

(3)日立
 日立製作所は、PEFC開発の一環として、改質プロセスの改良を図ることにし、オートサーマル方式を家庭用PEFCに適用する技術を開発することにした。従来家庭用PEFCの場合、改質方式は水蒸気改質が主流であるが、この方法は起動・停止に時間がかかり、CO除去過程が複雑になるという欠点がある。このため水蒸気改質に、ブタンに酸素を送り込み酸化させながら水素とCO2を取り出す部分酸化改質を併用させたオートサーマル改質に着目し、この技術を開発することにしたが、1つの反応塔で2つの反応を行うことになるため、改質器の構造が複雑になるという懸念がある。又家庭用FCの場合、燃料は都市ガスが主流であるが、この改質には高温にする必要があり、同時に耐久性も実現しなければならない。更に酸化改質には純度の高い酸素を供給するため、窒素などを除去する機器も重要となってくる。同社ではこうした開発を積極的に行うと同時に、部品開発にも力を入れ、実証レベルの実験に目標を置いたFCの開発を進める。同社では出力1kWクラスの家庭用PEFCにおいて、2004年頃の実証を目指している。 (電気新聞01年12月21日)

(4)西宮市
 西宮市消防局は、PEFCを防災用携帯電源として、02年4月から試験導入すると発表した。静かでクリーンな特性を生かし、救助活動や照明用の他、人工呼吸の電源など非常時での医療活動などに利用する。近畿経済産業局職員を中心に関連企業約80社の社員200人で構成する個人参加の研究会"夢創造の会"が提案、阪神淡路大震災後、同消防局と意見交換して実現した。同会の有志が製作費を負担し、三洋電機が100WクラスPEFCを3ユニット製作することになっている。既に開発された試作ユニットは、縦30cm、横30cm、幅16cmで、重量は約5kgである。同会では「地下街での災害などにも使えるので、西宮での導入を踏まえて、各地に提案していきたい」と語っている。 (神戸新聞01年12月26日)

(5)日清紡
 日清紡は高強度薄型のPEFC用カーボン成形セパレータの開発に成功し、1部ユーザにサンプル出荷を始めている。従来のカーボン成形品と比べて約2倍の強度を持ち、柔軟性があるので金属セパレータ並みの厚さ0.25mmが実現可能になった。又従来のカーボン成形品と同等の成形性があり、両面での流路形成も容易である。高効率に製造できる新しい成形方法の開発にも目途がついており、今後低コスト化と量産化の向上を図ることにしている。なお需要拡大に対応して、現在研究開発センター(千葉市)にある生産設備を美合工場(愛知県)に移転し、2002年5月に稼動を開始する予定である。 (日本繊維、日刊自動車新聞、化学工業日報01年12月26日、日刊工業新聞12月27日)
 
 
7. マイクロFCおよびDMFC
(1)産総研
 産業技術総合研究所の環境調和技術研究部門のグループは、メタノールから直接水素イオンを取り出し、改質プロセスが不要な超小型チューブ状FCを開発したと発表した。このFCでは、市販のフッ素樹脂製の中空糸が電解質膜に使われており、外径0.6mm、内径0.3mmの中空糸の内側に白金の微粒子を担持した極細の炭素繊維を貼り付けた構造になっている。水で薄めたメタノールを中空糸の中に注ぐと、白金を触媒として水素イオンと電子が発生し、水素イオンは中空糸の膜を通リ抜けて空気中の酸素を反応する。実験では室温で1cm2当たり14.3microWの出力が得られており、中空糸を多量に束ねれば携帯電話を動作させる程度の出力は可能と期待されている。水素を通し易い炭素繊維の構造や、白金に替わる新触媒の開発に目途をつけていると研究グループ述べており、出力を1cm2当たり10〜12mWにまで引き上げられると予想している。日米欧とカナダで特許を出願した。又産総研の技術移転機関(TLO)を通じて共同研究を希望する企業を募ることにしている。今後の研究テーマは、発電性能の向上を可能にする電解質膜を新たに開発するとともに、中空糸を束ねたFCを試作することにより実用化に向けた課題の探索に置かれることになろう。 (日経産業新聞01年12月11日)

(2)YUASA
 YUASAは01年12月13日、小型DMFC電源システムを開発したと発表した。100Wと300Wの2種類で、燃料は3%のメタノール水溶液、2003年度での商品化を目指すとしている。出力100W電源の大きさは小型トランク程度で重さは25kg、1Lのメタノール溶液(45円)で24時間連続運転が可能である。他方の出力300W電源の外径寸法は、長さ500mm、幅500mm、高さ600mmで、重量は60kgとなっている。販売価格は10万円以下となる見通しで、パソコンや電子レンジなどの電気製品を稼動することができる。同社では野外用移動電源、無電化地域向け電源、家庭用災害時非常電源などの需要を見込んでいる。 (毎日、日本経済、産経、日刊工業新聞01年12月13日、日本工業新聞12月14日、日経産業新聞12月20日)

 
8. FCV最前線
(1)ホンダ
 ホンダはFCVに関して、水素を直接燃料として使う"純水素式"に絞り、FCVの開発を進めることを決定した。環境対応やエネルギー効率の面で最も優れた純水素式FCVが将来の本命で、ガソリンなどを改質する方式は過渡的な技術と見なされていることを踏まえた決断と思われる。同社は水素の供給手法も平行して開発し、純水素式の実用面の課題を広く解決することにしている。これまで培った改質器の技術は、燃料インフラ用低コストな改質器の実用化に振り向ける予定で、更にカリフォルニア州で実験を行った太陽光利用のクリーンタイプの水素精製システムなど、次世代型の水素供給システムの実現も目指すと語っている。 (日刊自動車新聞01年12月4日)

(2)トヨタ
 トヨタ自動車は、FCVの開発を担当する"FC開発センター"を2002年1月1日付けで新設する方針を固めたと発表した。同センターは、技術部門と生産技術部門に跨る組織で、450人規模になる模様である。2003年にも予定されるFCV発売に向けて、開発・生産体制を強化するのが目的で、センター長には渡辺浩之専務が就任、デンソーやアイシン精機などグループ企業からも引き続き人材の派遣を求めると述べている。又張富士夫社長は、03年半ばには、1,000万円以下の価格でFCVを発売したいという意向を表明している。 (東京新聞01年12月9日、日経産業、中日、日刊工業、日刊自動車新聞12月27日)

(3)Hyundai
 Hyundai自動車のSanta Fe fuel cell SUVは、01年11月に行われたCalifornia州のBibendum Challenge(競技会)において、幾つかのFCVおよび水素自動車の中で、最も輝かしい成績を挙げた車種となった。この車はCalifornia Fuel Cell Partnershipから参加した9台の自動車(8台の乗用車と1台のバス)の内の1台で、走行競技において2つの金メダルと2つの銀メダルを掻っ攫う結果となった。金メダルは排気と騒音、銀メダルはスラーロムと燃料効率に関しての評価である。1年前に披露されたこの自動車は、動力源はIFC製出力75kWPEFCであり、電気動力装置はEnovaによって開発された90kWのPantherTMを装備、又QUANTUM Technologiesによる350気圧(5,000psi)高圧水素ガスを貯蔵する軽量タンクが搭載された。この水素燃料による走行距離は100マイルである。 (Hydrogen & Fuel Cell Letter, December 2001, VolXVI/No.12, p4)

(4)GM
 General Motors/OpelによるZafiraをベースとするHydroGen1は、Los AngelesからLas Vegasに至る350kmを走破したFCVとして他を圧倒する性能を披露した。この道程は、高低差が1,350m、気温は32℃という極めて過酷な環境条件下にあったとGM社は述べている。又同車はFCシステムのパッケージに関してデザイントロフィーを獲得した。 (Hydrogen & Fuel Cell Letter, December 2001, VolXVI/No.12, p4)

 
9. 水素および燃料関連技術
(1)兵庫県
 兵庫県立工業技術センターとベンチャー企業のオクト(西宮市)が、海水などに含まれるマグネシウムで水素を大量に発生させる小型装置を共同開発した。開発された水素製造器は、特殊酸性水溶液にマグネシウムを浸し、水素を発生させる仕組みである。マグネシウムを練炭状に固め、溶液に触れる表面積を一定にすることで必要量を安定供給し、又表面積を変えることにより、発生量を調整することもできる。これをFCに応用すれば、FCシステムの小型化を実現、車載用電源として実用化の道を開くことができると期待している。又製造器を交換可能なカートリッジとすれば、長時間の水素供給が可能になる。海水と大気中成分を資源とする発電構想に、家電メーカやアメリカ投資会社も高い関心を寄せている。(神戸新聞01年12月4日)

(2)産総研
 太陽光を当てることにより水を分解して水素を発生する粉状の触媒を産業技術総合研究所が開発した。これは光エネルギーを利用して化学反応を促進する光触媒で、この物質はインジウムタンクレート系化合物である。太陽光に含まれる波長402nmの可視光域の光を利用して水を水素と酸素に分解する。現状はまだ実験段階で、1時間当たり発生する水素の量は触媒0.5gで2〜3ミリリットル程度に過ぎない。産総研ではナノテクノロジーを利用して構造を改良し、効率を100倍程度にまで高めることによって、この技術の実用化を目指している。(日本経済新聞01年12月6日)

(3)JRCM
 金属系材料研究開発センターは01年12月6日、新日本製鉄、NKK,帝国石油と共同で、製鉄所のコークス炉から発生する高温コークス炉ガス(COG)から水素を製造する技術の研究開発に着手すると発表した。高温COGの化学成分および熱を利用して水素を生成するための技術開発計画で、期間は2001年度から5年間、経済産業省の補助を受けて行われる。(日本工業、日刊工業新聞01年12月7日)

(4)高圧ガス保安協会
 高圧ガス保安協会(KHK)は、石油公団の委託事業として、DMEの安全性について基礎調査および設備部材の研究を開始した。DMEはLPGと物性が類似しており、天然ガス、石炭、バイオマスから製造される。DMEは、硫黄分を含まない、燃焼で粒子状物質の発生がない、着火性が軽油と同等など、環境上優れた特性を持っており、FC用燃料としても期待されている。現在、主にエアゾール噴射剤として世界で年間15万トン程使用されているに過ぎないが、合成技術の進歩で製造コストが低減し、燃料としての供給が可能になりつつある。2005〜06年頃には、約170万トン程度が日本に輸入される見込みである。(化学工業日報01年12月28日)

 
10. 関連技術
(1)三菱化学と三菱商事
 三菱化学と三菱商事は、ガン治療薬やFCなど多様な分野で応用研究が進んでいるフラーレンを量産するため、折半出資の会社"フロンテイアカーボン"を01年12月3日付けで設立したと発表した。資本金は10億円で、社長には三菱化学の友能茂樹科学技術戦略室部長が就任する。三菱化学の黒崎事業所(北九州市)において、年産400kgの試験生産を始め、03年春には年産40トンに引き上げる予定である。年間1,500トンを生産する2007年度には年商230億円を目指すと同社は述べている。 (日経産業新聞01年12月4日)

(2)松下精工
 松下精工は01年12月4日、消費電力が従来の半分で動作する"スクロール(うずまき型)"型空気ブロア(大型ファン)を開発したと発表した。これは低回転で昇圧できる容積型のスクロールブロアで、スクロール部は完全非接触構造となっている。消費電力は30W、ブローワ効率は26%で、従来の同性能品に比べて、騒音が約24%(17db)減少し、寿命が8倍の4万時間にまで延びたと伝えられている。04年に商品化を予定している松下電器産業の1kW級家庭用PEFCコジェネレーションシステムに酸素を供給するサブシステムとしてこれを採用する。同社はFC以外にも家庭用掃除機やハンドドライヤー、高圧送風分野など他の分野での適用も展開する予定である。 (毎日、電波、日刊工業新聞、化学工業日報01年12月5日、日経産業、日本工業新聞12月6日、電気新聞12月7日)

(3)昭和電工
 昭和電工は、繊維径80nmのカーボンナノファイバー"VGNF"を開発した。この程年産10トンの量産体制を確立し、FC、高性能2次電池、キャパシターを始めとする市場に提案を進めていく予定である。同社は80年代から微細炭素系素材の開発に取り組み、90年代には繊維径150nmのVGCFの量産を開始した。その後更に新しいナノゾーンの繊維開発に注目し、今回のVGNFの開発に成功した。VGNFはバルク材料であるVGCFと量子材料のカーボンナノチューブ(繊維径20nm)との中間で、VGCFに比べて導電性、熱伝導性、強度に優れており、FC以外にも幅広い市場での需要が見込まれると同社は期待している。(電波新聞01年12月14日)

(4)三井物産
 三井物産は01年12月26日、世界最大のカーボン・ナノチューブの量産設備を新たに建設すると発表した。同社100%出資の研究開発会社"CNRI(カーボン・ナノテク・リサーチ・インステイチュート)"を通して、昭島市の昭和飛行機工業の敷地内に年産生産能力120トンの新設備を02年4月に建設し、9月から運転開始を目指す計画である。量産するのは管径20nmのマルチウオール品が中心となるが、用途に応じて特殊品も手がけていくことにしている。 (読売、日経産業新聞、化学工業日報01年12月27日)

 
11.企業活動
(1)IFC
 アメリカUTCが90%、東芝が10%出資して設立したIFCは、01年12月1日付けで社名をUTCフューエルセルズ(UTCFC)に変更した。ブランド戦略の一環として親会社の社名を入れることにした。FC開発にUTCが力を入れる姿勢を積極的にアッピールする狙いがあるようである。なお東芝インターナショナル・フューエルセルズ(TIFC)は、東芝が51%、IFCが49%の出資比率で01年3月に設立した会社である。(電気新聞01年12月10日)

(2)荏原
 荏原は01年12月10日、定置式PEFC事業を強化するため、Ballard Power Systems(BPS)に資本参加する方針を明らかにした。BPSへの荏原の出資比率は1%強となる。これまではBPSの小会社であるBallard Generation Systems(BGS)に10%出資していたが、出資を親会社のBPSに切り替えることでPEFCスタックの開発にも積極的に参加し、2004年に家庭向け商用機の国内投入を目指すことにしている。 又荏原は1kWから250kWに至る機種の開発を念頭に、定置式で幅広い市場投入を模索しており、価格についてはkW当たり30万円の実現を目標に掲げた。これにより国内でのFC販売を800億円以上、30ないし40%のシェア獲得を目指すと述べている。既にBPSに資本参加しているDaimlerChryslerとFordも合計で31%から43%へ出資比率を引き上げた。(日刊工業新聞01年12月11日)

(3)京セラ
 京セラはFC事業に乗り出すことを決定した。既に家庭用FCの研究開発は進めており、早ければ2年後に家庭用発電システムとして市場投入する計画である。同社はソーラー発電システムでも堅調に事業を拡大しており、FC事業でもその販売ルートを活用するとしている。(京都新聞01年12月13日)

(4)フランス
 フランスのエア・リキードとフランス原子力委員会は、この程FCの共同研究契約に調印した。各種FCと水素貯蔵を開発することにより、FCを使った公共輸送手段やFCVの商用化に向けた前段階での開発を加速する。この研究はエア・リキードが、ヌベラ社と合弁で設立したアクサーヌで行ってきた研究の延長になる。 (化学工業日報01年12月20日)

(5)旭化成
 旭化成は、フッ素を中心としたPEFC用膜の開発を本格化させるため、これまで研究開発本部で進めてきた開発プロジェクトを全社直轄プロジェクトに組替え、開発体制を拡充することになった。又量産化技術を確立するためのデモンストレーション設備を立ち上げた。同社のコア技術であるポリマーサイエンスと成形加工技術を組み合わせ、FC用膜市場において高機能製品を提供することを目指している。 (化学工業日報01年12月20日)

 

 ―― This edition is made up as of December 29, 2001. ――