63号 ガソリン改質小型FCトラックが出現する

Arranged by T. HONMA
1.国家的機関による施策
2.PEFCの開発
3.PEFCの実証と市場展開
4.家庭用FCの開発、実証運転と市場戦略
5.FCV最前線
6.改質プロセス
7.超小型FC
8.企業活動

1.国家的機関による施策
 NEDOは01年度の産業技術実用化開発費助成事業に、トヨタ自動車、横浜ゴム、日石三菱など31事業者を決定した。トヨタはMCFCとMGTのハイブリッド化による高効率で環境低負荷の次世代小型自律分散コジェネレーションシステムを開発し、2005年に予定されている日本国際博覧会での実用化を目指すことにしている。又日石三菱は、高次脱硫灯油を原燃料とする高効率PEFCシステムの開発を行う。補助率は1/2又は2/3以下で、助成金額は1件1年当たり3,000万円から1億円が目安とされている。
(日刊自動車新聞01年9月6日)
 
2.PEFCの開発
(1)積水化学・産総研・千葉工業大学
 積水化学工業、産業技術総合研究所、千葉工業大学は共同で、耐熱性を3倍にまで高めたPEFC用電解質膜を開発した。この電解質膜は、ポリエチレンオキサイドなどの樹脂原料にケイ素を半分ほど混合して作った複合材料で、動作温度は200〜250℃が可能である。オクタンやヘキサンを原料にすれば、350℃まで高まったと伝えられている。PEFCにおいて高温動作が可能になれば、CO問題も解決し易く、熱の処理も容易で、且つ排熱の価値も高まるので、PEFC市場の拡大が見込めると研究グループは期待している。材質の強度を高めることによる膜厚の減少とイオン伝導性の向上が今後の課題として残されている。
(日経産業新聞01年9月6日)

(2)名工大
 名古屋工業大学の野上正行教授らは、ゾルゲル法で作成したリン・ケイ酸塩ガラスが、130℃から−20℃の広い温度範囲で安定したプロトン伝導性を示すことを発見した。イオン導電率の値は、温度130℃、湿度100%において0.06S/cmであり、−20℃でも凍結現象が起きないため、0.01S/cmの値を示した。ポストナフィオン膜の候補として期待される。
(日刊工業新聞01年9月7日)

(3)NDC
 NDCは成形が難しい純アルミニウムを薄肉鋳造できる特許技術を使い、PEFC用セパレータの金属化に挑戦することになった。01年10月中にも熱電解腐食に強い表面処理技術を持つ協力企業を組織化し、年内には量産体制を整える意向である。セパレータについては、強度が弱い炭素では1枚の厚さが15mm程度必要なのに対して、金属ならその1/5程度にまで薄く出来ると見なされており、コスト低減とコンパクト化に貢献する。NDCは薄肉アルミ鋳造技術で、最大厚さ約4mmの板上に、反応ガスを供給する溝をくっきり刻んだセパレータの試作に成功しており、又PEFCメーカと組んで金でメッキ処理した試験品などを使い、機能実証も済ませている。
(日刊工業新聞01年9月27日)

(4)GM
 アメリカGMは、PEFCスタックで、1リットル当たり1.75kWの出力密度を実現したと発表した。同社は「小型車などあらゆる車両に搭載が可能になるとともに、経済性も大きく改善する」と語っている。
(日本工業新聞01年9月25日)
 

3.PEFCの実証と市場展開
(1)荏原
 荏原は下水処理場から発生する消化ガスを燃料とするPEFC発電システムを、苫小牧市の西町下水処理センターに完成した。システムは、荏原バラードが納入するBGS(Ballard Generation Systems)製250kW級ユニットと消化ガスの精製装置で構成されており、排熱も有効利用する。実証試験は02年11月までの予定。
(日刊工業、日経産業、日本工業新聞01年9月27日)

(2)東芝・IFC
 東芝とアメリカのIFC両社は、定置型PEFCで"技術開示戦略"を打ち出した。これによってPEFCの開発に参加しているベンダーが、技術成果を他社にも提供できることになる。PEFCはまだ開発段階にあるため、コストは1kW当たり数百万円レベルにあるが、これを商用化し普及するためには、100分の1以下にまで劇的にコストを低減しなければならない。そこで両社は技術成果を開発に参加していない企業にも提供し、量産に結びつけることが必要と判断した。このような措置によって、設備コストを10万円/kW台にまで引き下げることを目指す。
 東芝とIFCは01年春に合弁でTIFCを設立し、日本とアメリカで1〜150kWまのPEFCの開発を実施している。IFCが800人、TIFCが100人、それにシェルとIFCの改質器開発会社ハイドロジェン・ソーシーズが80人で、合計1000人の規模で、定置型はTIFCが1kW級を、IFCが5〜150kW機を開発している。
(日刊工業新聞01年9月28日)
 

4.家庭用FCの開発、実証運転と市場戦略
(1)三井物産・大阪ガス・Hパワー
 三井物産は01年9月4日、アメリカのHパワーと共同で、日本市場向け家庭用FCの開発に乗り出したと発表した。8月29日、三井物産、米国三井、Hパワー3社による出資でHパワージャパンが設立された。三井物産とHパワージャパンは、大阪ガスが開発した改質装置を採用して出力500Wの家庭用PEFCコジェネレーションシステムを製作しており、これを戦略製品として日本市場の立ち上げを目論んでいる。02年5月頃までに市場調査やメインテナンス・モニタリング網の検討を実施し、市場展開のための戦略を構築する。
(日本経済新聞01年9月4日、電気新聞9月5日)

(2)富士電機
 富士電機は都市ガスを燃料とする1kW級PEFC試作1号機によって1000時間の連続運転を達成した。実際の使用条件を模擬して、十数回の起動停止試験を実施した後、長時間の安定運転を行った。PEFCスタックは60個のセルから成り、電極面積は100cm2、水自立運転が可能な内部加湿方式で、直流の発電端効率は38%である。排熱は60℃の温水として貯湯槽に蓄えられる。今後は改質系機器などの信頼性を確認、コストダウンと燃料の多様化などを実現し、2005年までの商用化を狙うことにしている。
(電気新聞01年9月7日)
 

5.FCV最前線
(1)ホンダ
 ホンダは01年9月4日、新型のFCV"FCX−V4"を発表した。4人乗り小型乗用車タイプで、圧縮水素ガス燃料(350気圧)を1回充填して走行できる距離は、従来の180kmから300kmにまで向上し、最高時速は10km/h速くなって140km/hとなった。動力源となるPEFCスタックは、バラード製、出力は78kWであるが、FCシステムの各部位を新しく設計することにより、コンパクト化を実現している。2003年の実用化を目指して走行テストを実施することにしている。
(読売、日本経済、東京、日刊工業、日本工業、日刊自動車新聞、化学工業日報01年9月5日)

(2)三菱重工
 三菱重工は、高分子膜以外は同社の自主開発による出力45kWメタノール改質PEFCを製作し、三菱自動車製ワンボックスカーに搭載、その床下に格納した。三菱自動車のテストコースで実証運転し、時速70km/hを実現した。しかし、同社はFCVの普及にはインフラの問題が課題となることから、定置式が先行すると判断して、ダイムラークライスラーと共同で1〜数kW級家庭用PEFCの開発に乗り出すことにした。
(日刊工業新聞01年9月14日)

(3)GM
 GMは2001年8月、ミシガン大学の年次automotive management conferenceで、ガソリン改質FCVを公開した。この機種は青と白に塗られたS-10pick-up taruck(集配用無蓋小型トラック)であり、改質プロセスはautothermal方式、動作温度は800℃で、この温度に達するのに3分を要する。このS-10トラックはもともとバッテリー電源で駆動する電気自動車として製作されたものであり、これにFCシステムを加えることにより、ハイブリッドカーとなっている。したがって、3分間の昇温期間はバッテリーで運転されることになる。同社の主任技師Matthew Fronk氏は、スタック(GM stack2000)の出力は25kW、プロセッサーは30〜35kW相当の容量で50%の効率を示し、出力密度は2.2kW/lit.と報告している。ガソリン改質プロセスについては、1年前GMに研究開発担当Larry Burns副社長によって予告されていたが、当時彼は「改質プロセッサーを我々のPEFCスタックと組み合わせれば、40%の総合システム効率を実現できる」と語っていた。ただガソリンは市販の品種ではなくS分を含まないクリーンガソリンでなければならない。
 なお、このFCVはあくまで実証用車両であって生産品ではないこと、又将来の目標は起動時間を20秒レベルにまで短縮することであるが、それにはなお3年位の時間が必要であろうと同社は述べている。又同社は定置式FCが自動車用よりも早く商用化すると見ているようである。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, September 2001 Vol.XVI/No.9 pp1-2)
 

6.改質プロセス
 2001年9月に開催されたGrove SymposiumにおけるGMの主任技術者Matthew Fronk氏の発表によれば、同社による第3世代ガソリン燃料処理プロセス(GenIII)の起動時間は138秒であり、98年に開発された原形となる改質器(GenI)に比較して起動時間は約10分の1にまで短縮されている。改質プロセスはautothermalであった。GenI、GenII、GenIIIの開発年度および定格出力等各種性能を比較すると下表のようになる。ここで出力とは改質器で生成されたLHV換算での水素エネルギー量(エンタルピー;kW)である。

Gen(開発年) 定格出力 出力密度(kW/L) 出力密度(kW/kg) 起動時間
I(1998) 58(最大) 0.87 0.50 1,800
II(April 2000) 187 1.46 0.93 720
III(2001) 70 2.2 1.48 138

 第3世代の改質プロセッサーについてのFronk氏の説明では、効率については4月18日には77%(LHV)であったのが、2週間後の5月3日には81%を記録し、5月14日には80%であった。コストについては定量的に示されてはいないが、原形の比べて1桁は下がっており、更に1桁下げる必要があると彼は述べている。又耐久性については、目標5,000時間に対して1,400時間の実績が報告されている。
 GMは燃料の選択に関して、75種類のパスについて、well-to-wheels効率の計算をベースに、環境に対する影響の大きさを評価したが、水素を基盤とするFCシステムが最も優れた選択であるとの結論を出している。これら燃料パスの中には、原油からナフサ、天然ガスからメタノール、Fischer-Tropsch GTLから水素、再生可能エネルギー、celluloseからエタノール、電気分解による水素生成などが含まれている。しかし、水素経済は近い将来には実現しないと思われるので、GMは"つなぎの戦略(bridging strategy)"としてガソリン改質プロセスの開発を進めていると説明されている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, September 2001, VolXVI/No.9, p4)
 

7.超小型FC
(1)ホンダ
 ホンダは01年9月4日、アメリカ・スタンフォード大学と共同で、半導体製造技術を応用した超小型FCの開発に成功したと発表した。同社はこれを発展させてロボットや車載の電気機器に応用したいと考えている。今回開発したFCは、水素と酸素を通す溝を、厚さが0.8mmのシリコンウエハーに微細加工してあり、厚さ数mmの電池内部を水素と酸素が流れて発電する仕組みになっている。又極薄膜を作る技術の応用によって、半導体のように平面上に発電セル基板を並べた構造が可能になり、超小型FCが実現した。1つのセルは1辺が1cm程の薄い正方形で、直径10cmの円形基板の場合、16個並べることができる。従来のスタック型セル構造に比べて、構造の簡素化による高出力密度化や製造工程の簡略化が図られるため、同社は「品質の安定化に加え、大規模な量産化につながる公算が大きい」と期待している。サンフランシスコで開催中の第200回ECS会議で発表する。
(毎日、産経、日刊工業、日経産業、日本工業、日刊自動車新聞01年9月5日、朝日新聞9月6日)

(2)マンハッタン・サイエンテイフィックス
 横須賀市で01年春に開かれた携帯情報機器の見本市で、アメリカのベンチャー企業マンハッタン・サイエンテイフィックス(ニューヨーク)のフィルム状超小型FCが来場者の注目を集めた。外部の厚さが3mm足らず、内部は厚さ0.02mm程の樹脂フィルムに多数設けた穴(ポーラス状)に電解質を注入し、両面に電極と触媒を貼り付けた構造になっている。試作した携帯型充電器では、メタノール燃料約20gで通常約1ヶ月、待ち受けだけだと約4ヶ月の連続使用が可能である。ライターのオイルを補充するような感覚で、繰り返し使用することができる。事業化には化学品商社の美浜が協力し、化学会社や半導体メーカなどに呼びかけ、01年内にも実用化に向けた共同研究に乗り出す予定である。
(日本経済新聞01年9月21日)

(3)マイクロフューエルセルシステムズ(MFCS)
 MFCSはNASAとカリフォルニア工科大学が開発したマイクロFCを実用化するため、日本で提携先企業を募集する。MFCSとカルフォルニア工科大は、2%のメタノール溶液を直接注入するマイクロDMFCの基本設計を完成した。大きさは5x4cm、重量150gの出力3W(持続時間15時間)の携帯電話用から、15x7.5cmで500gの出力25W(15時間)ノートパソコン用まであり、2年後を目途に商品化する予定である。MFCSでは開発投資に30ないし40億円程度の資金が必要とみており、エネルギー、情報分野などでFCを手がけている日本のメーカに出資を求めるとともに、共同開発をしたいと考えている。
(日本経済新聞01年9月23日)
 

8.企業活動
(1)トヨタ自動車
 トヨタ自動車は、01年9月6日、1300℃以上の高温でゴミをガス化して生成される水素とCOを燃料として、FCで熱併給発電するシステムの開発に目途をつけ、実証プラントを2005年の愛知万博に出展することを明らかにした。名古屋大学架谷昌信、森滋勝両教授との共同開発するシステムは"ハイブリッド・コジェネレーションシステム"との名称が付されている。04年にも施行される自動車リサイクル法を意識して、将来は廃車の粉砕くずも燃料に加える方針である。
(中日新聞01年9月7日)

(2)中国電力
 中国電力は、島根県が01年10月25日にオープンする研究開発型工業団地"ソフトビジネスパーク島根"に、エネルギー利用技術の研究開発施設を新設する。LNG、石炭などを含めた総合的なエネルギーサービスの技術開発拠点として整備するとともに、FC、バイオマス発電、マイクロガスタービン等分散型電源の効率的なシステム、火力発電で発生する石炭灰のリサイクル方法などについても研究する予定である。
(中国新聞01年9月14日、日経産業新聞9月18日)

(3)丸紅
 丸紅は今回、メタノールの世界最大手メタネックスが、三菱商事、三井物産と設立したFCVの普及推進委員会にメンバーとして参画することにした。今後自動車や石油会社、官公庁と連携し、メタノール供給のインフラ整備に協力する。
(日刊工業新聞、化学工業日報01年9月20日)
 


 
― This edition is made up as of September 30, 2001. ―