59号 生ゴミ処理・FC複合システムの市場展開

Arranged by T. HONMA
1.国家的施策
2.東京食品リサイクル事業共同組合の設立
3.USAにおける2002年度予算の概況
4.PAFCの市場展開
5.定置式PEFCの実証
6.家庭用FCコジェネレーションシステム
7.マイクロFCの出展
8.FCV最前線
9.船舶用FC動力源の開発
10.改質プロセス
11.計測技術の開発と事業化
12.企業活動
13.新燃料技術

1.国家家的施策
(1)経済産業省
 経済産業省はFCV用燃料として最有力といわれるGTLの導入促進を図ることを目的に、製品の評価研究を実施する方針を固めた。2001年度中に国内に小規模な実プラントを設置し、生産したGTLの評価研究に着手する。生産技術は国内の石油元売りや石油メジャーを対象にして、公募する方針である。
GTLの導入促進はFCVの早期実用化を後押しすることになると思われるが、同省の評価研究終了後の対応が注目される。経済産業省は"燃料電池実用化戦略検討会"の調査結果を受け、現時点ではガソリンが最も適しているとの結論を出していた。一方、同省は石油公団を通じて、数年前から国産技術によるGTLガソリンの研究を進めてきた。今年度からは、北海道でコスモ石油や新日本製鉄、大阪ガスなどが加わって日量7バーレルのテストプラントを設置、研究開発を加速している。しかし、国際的なGTLの技術水準は非常に高く、このプロジェクトとは別に、国内外の石油元売りや石油メジャーを対象に、広く世界から技術を公募することにした。石油メジャーでは、エクソン・モービルとロイヤルダッチ・シェルの両社が天然ガスからGTLを商業規模で生産する技術を開発しており、シェルはマレーシアで生産中のほか、エクソン・モービルもカタールで日量30万バーレルの大規模設備の建設を決定しているといわれる。また、石炭ガスからGTLを生産する技術を世界で唯一保有している南アフリカのサソールも、今年に入ってからカタールへの技術ライセンス契約を結んだと伝えられている。
(化学工業日報01年5月15日)

(2)環境庁
 環境庁が神戸市のポートアイランドで建設を進めていた生ゴミ処理システムとFCを組み合わせた発電プラントが2001年7月に竣工し、いよいよ同月から試験運転を始めることになった。これは環境庁の"地球温暖化対策実地検証事業"の一環として行われているプロジェクトで、以下のようなプロセスによる運用が検討されている。先ず神戸市内のホテルで発生する生ゴミを1日当たり6トンの割合で回収し、それからメタンガスを生成する。メタンガスは1時ガスホールダーに貯蔵された後に水素を抽出、それをFC発電プラントに導入するが、FCによって得られた電力は電気自動車用充電スタンドにも供給され、又余剰ガスは圧縮されてバス用の燃料基地に配送されることになっている。 運転開始から3年間は実証試験期間と位置ずけられており、メタンガスの発生量やFCによる発電量を検証すると共に、効率的な運用用法の検討が目的として挙げられている。
 一方で"食品リサイクル法"や"家畜排泄物リサイクル法"の施行があり、他方FC技術の開発によるコスト低下が予想されるなど、この種のプロジェクトが今後普及するための社会的環境が整いつつあると関係者は見ているようである。
(電気新聞01年5月24日)
 

2.東京食品リサイクル事業共同組合の設立
 東京都内の食品リサイクル法対象企業に対する環境ベンチャ"エキシー"等の働きかけにより、今回バイオマス発電事業を中心とする"東京食品リサイクル事業共同組合"を設立することを決定した。既に食品廃棄物を処理して発生したメタンガスから、触媒を使って水素を抽出し、それをFCに導入して発電するシステムを江戸川区に建設中であり、2001年10月頃には完成する予定になっている。協同組合の発足もこれに合わせたい意向で、都内東部地区に店舗を持つ流通・小売や外食産業、ホテル、旅館などを対象に約30社の参加を募ることにしている。計画ではエキシーが開発してサテライトと呼ばれている"生ゴミを貯蔵ユニット内で液状化する収集箱"を各事業所に配備し、タンクローリーで巡回収集する仕組みであり、1日に生ゴミ20トンを回収してフル運転すれば、発電容量は一般家庭の50軒分以上に相当する200kWh/日に達するものと見積もられている。
 このようなシステムが注目されている理由は、食品リサイクル法が2001年5月から施行されたことが背景にある。これまで生ゴミは焼却や埋め立てによって処分されていたが、同法では年間100万トン以上を排出する業者に対して、リサイクルと減量化を罰金付きで義務ずけている。
(日刊工業、産経新聞01年5月22日)
 
3.USAにおける2002年度予算の概況
 ブッシュ政権になって始めての予算要求(2002年度)が、前クリントン政権によるそれ(2001年度予算)との対比において注目を集めているが、再生可能エネルギー関連の予算は大きく減額されそうである。すなわち、再生可能エネルギー(Renewable Energy Resources)の全予算額は、01年度の3億7,317万9千ドルに対して、02年度要求は2億3,747万7千ドルであり、その減少率は36.4%に達する。特に水素研究に対する02年度要求は1,390万ドルで、01年度の2,688万1千ドルに比べて48.3%の減少となる。このような水素プログラムの大幅な予算の減額は、他のセクターの同様な傾向も含めて、クリーンエネルギー支持者の間に驚きと懸念の気持ちを引き起こしている。
 FCについては未だ全体像(picture)に不確定な要素があるが、分散型電源としてのFC開発に関しては4,510万ドル(01年度は5,260万ドル)であり、予算要求の文書には「この出資は商用規模のMCFCシステムおよびSOFC/GTハイブリッドプロトタイプの実証研究を完了するのに使われる」と唄われている。DOEは2002年度には研究開発の焦点を低コスト5kWSOFCの実現に絞ることを計画しているようである。他方自動車用に関してDOE筋は、PNGV関連予算は01年度の1億4,170万ドルに対して02年度要求は約1億ドルに減額されると述べているが、websiteに示された予算書(budget document)には不変と記されている。少なくともFC部分については01年の4,200万ドルのレベルは保持されるようでる。運輸交通部門全体では、2億5,540万ドルから2億3,940万ドルに減少となるが、これには自動車用バッテリー開発予算の大幅な削減が起因している。
 これらの傾向とは対照的に、石炭のクリーン化技術およびCO2隔離技術の開発費は増額されている。特に石炭のクリーン化技術は水素生成とCO2削減効果を勘案して、予算要求は大幅に増加し、01年度の898万ドルから02年度には8200万ドルと、その増加率は813.1%に及んでいる。又CO2隔離技術は、01年度の1,880万ドルが、02年度には2,070万ドルまで増額される。DOE全体の予算は、166億6,900万ドルから192億1,300万ドルまでわずかに増加した。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 2001, Vol.XVI/No.5, pp1-2)
 
4.PAFCの市場展開
 アメリカのIFCは、PAFCプラントについて、南アメリカでの始めての販売契約を成立させた。出力200kWPC25プラント3ユニットが、アルゼンチンのIFC販売拠点に搬送される予定である。プラントの設置場所はブラジルで、Parana州における地域電力会社Companihia Paranaense de Energia(COPEL)によって運転されることになっている。 IFCのWilliam Miller社長は「ラテンアメリカで運転される始めての商用プラントでる」と語り、このプロジェクトのスポンサーであるCOPEL配電会社(COPEL Distribution)のNascimento Neto支配人は「我々は常に最先端技術を追求してきたが、今回ラテンアメリカにおける最初のFC運転者になることに誇りを感じる」と述べている。第1号プラントは既に出荷されており、2001年6月末にはParana州のCuritibaに設置され、FCプラントはCOPELの電力系統に送電を開始するものと期待されている。他の2ユニットの設置場所は未定である。
 他方、IFCはアメリカで最近6台のPC25(合計出力1.2MW)の販売に成功した。これらはコジェネレーション用プラントとして、Connecticut Juvenile Training Schoolに設置されることになっており、2001年7月の中頃には運転を始めると伝えられている。購入者のSelect Energyによれば、プロジェクトを実施するNortheast Generation Service Companyとの契約金額の総額は1万8,000ドルで、これをConnecticut州が負担することになっている。なおこのコジェネ設備は、227,000平方フィート(21,000m2)の敷地に、1時間当たり900万Btus(約9,500MJ)の熱湯と680トンの冷水を供給する能力を持つ。
 IFCは2000年には、Anchorageの郵便配送センターにPC25を5ユニット設置した実績を持っている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 2001, Vol.XVI/No.5, pp1-2)
 
5.定置式PEFCの実証
 Ballard Generation Systemsは、出力250kW定置式PEFC発電プラント1ユニットを、同社のパートナーである荏原に出荷したと語った。これは北海道苫小牧の下水処理施設に設置され、実証運転が行われる予定になっている。嫌気性消化装置(anaerobic digester)から排出されるガスを燃料とするPEFCの運転は、始めての試みであると同社は述べている。Ballard Generation Systemsは、2001年から02年に掛けて、更にこの種プラント4台を出荷すべく目下準備中である。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 2001, Vol.XVI/No.5, p4)
 
6.家庭用FCコジェネレーションシステム
 長野計器(長野県上田市)は、都市ガスを燃料とする家庭のコージェネレーション用FCシステムの開発に参加することを決定し、2000年からNEDOの開発委託により、ガス昇圧器の開発に取り組んでいる。通常、都市ガスの圧力は低いので、昇圧することによってガス流量の精度を高め、FCシステムを作動させようとする計画である。
 
7.マイクロFCの出展
 2001年4月23日からドイツのHanoverで開催されたHanover Industrial Fairは、この催しが開かれるようになってから今年で6年になるが、今回は70,000社が出展し26万人が見学に訪れる等、未だ克ってない最大規模になったと伝えられている。 特に出展企業総数の1%に当たる70社が水素およびFC技術関連の製品やサービスを出展した点は注目に値する。 オープニングにはドイツのSchroeder首相が出席した。同首相は従来からFC技術に深い関心を持っており、今回も展示されたDMFC駆動のゴーカート(DaimlerChrysler & Ballard Power Systems)を見学しながら周囲の人と談笑している模様がH&FCL, May 01に紹介されている。
 FC関連で注目された製品の1つはマイクロFCを電源とする懐中電灯であり、他の1つは同じくマイクロFCを内蔵したカメラコーダ(camcorder)であった。前者の懐中電灯はアメリカ・カリフォルニア州のDCH社の製品で、電源部は出力4W、電圧7.5V、大きさは直径1.25インチ(3.2cm)、長さ2インチ(5cm)のFC本体"ENABLETM"、および燃料を貯蔵するための小さい缶状の水素化物から成り立っている。 従来の6Dサイズ蓄電池に替わるこの水素化物は、24時間懐中電灯を点し続けるだけの燃料を供給することができる。後者のcamcorderはドイツのFraunhofer Institute for Solar Energy Systemsを頂点にドイツの4社とアメリカの1社から成る企業連合によって出展された作品で、内蔵されている電源は、出力が10W、電圧8VのマイクロFCプロトタイプで、燃料は水素化金属に蓄えられている。FCの種類についての記述はなかったが、水素化物を使っている点からPEFCと思われる。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 2001, Vol.XVI/No.5, p3,10)
 
8.FCV最前線
(1)BMW
 独BMWは5月1日、水素エンジンを搭載した自動車の試乗走行を、日本で実施すると発表した。"7シリーズ"をベースとした試験車両4台を日本自動車研究所(JARI,茨城県つくば市)のテストコースで走行させる。 BMWは従来から水素エンジン自動車の研究開発を行っており、日本でも実車を走行させることによって、その成果をアピールする考えである。試乗走行の予定日時は5月31日、一般からも20人の参加を受け付ける。BMWは2001年から世界各国で水素自動車の試乗走行を始めており、既に、イタリー、ベルギーなどで開催した。
(日経産業新聞01年5月2日)

(2)トヨタ
 トヨタ自動車はハイブリッド車の月間生産台数を、今後3年間で現在の4倍の約1万台に引き上げる方針を明らかにした。トヨタはハイブリッド車「プリウス」を、現在月に約2,500台製造している。ミニバンの"エスティマ"にもハイブリッドシステムを搭載して新しく発売するとともに、今後クラウンなど幅広い車種にそれを搭載していく予定である。これらを合計すると、2004年には生産規模が約4倍に拡大することになる。トヨタはFCVを2003年にも発売するとしているが、当面はハイブリッド車の普及に注力する戦略を固めている。
(東京新聞01年5月9日)

 環境技術などで提携交渉に入っていたトヨタ自動車と米フォード・モーターは、ガソリンエンジンと電気モーターを併用して走るハイブリッドシステムを、2003年からトヨタ側からフォードに供給することで合意した。トヨタはGMともハイブリッド車を共同開発する方向で合意しており、米2大メーカーとハイブリッド技術でそれぞれ手を組むことになる。
 供給するのは、グループのアイシン・エィ・ダブリュ(AW)が開発したハイブリッドシステムで、フォードが開発するスポーツ用多目的車(SUV)"エスケープHEV"向けに年間1万〜2万台を供給する。システムに使うバッテリーは、三洋電機が供給する。AW製のハイブリッドは商品化の実績はないが、「小型で、燃費や出力に優れている」(関係者)とされており、2000年のトヨタ・フォード首脳会談でもフォード側が供給を強く要求し、トヨタがこれに同意したものである。なおトヨタはFCVにおいても、蓄電池とのハイブリッドになるとの考えを表明している。
(中日新聞01年5月8日)

 トヨタの張社長は「世界的に環境への意識が高まっており、トヨタだけで技術を抱え込むのは好ましくない」と語り、加藤副社長は「市場競争力のある価格にするためには、月産3万台が目安になる」と述べている。
(日刊工業新聞01年5月24日)

(3)日本特殊陶業
 日本特殊陶業は2001年5月14日、FCV用燃料である水素関連で、濃度、流量および漏洩検知の3種類のセンサーを開発したと発表した。車載可能な製品としては世界最初である。濃度センサーは固体高分子膜のプロトン誘電体を使用し、限界電流方式を採用した小型のプラグインタイプで、作動温度が80℃前後、測定可能濃度範囲は0%〜80%、測定回路と組み合わせることで、FCVのシステム制御が可能になる。流量センサーと漏洩検知センサーは、シリコン・マイクロヒーターを応用したもので、流量センサーはFCVのシステム制御に、漏洩検知センサーは予防安全に用いられる。FCV以外に、定置式FC、ガソリン、ディーゼルエンジン用の吸気系エアフローメーター、各種マイクロガスセンサーへの応用展開も計画している。
(中日新聞、化学工業新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞01年5月15日、日本工業新聞、電波新聞5月16日)

(4)GM
 アメリカのGMは水素燃料FCV"ハイドロジェン1"による24時間連続耐久走行実験で、走行距離は約1,400km、平均時速は約60km/hの記録を実現した。GMではFCVによる24時間走行距離は新記録になるとして、国際自動車連盟(FIA)に認定申請することにしている。"ハイドロジェン1"は"オペル・ザフィーラ"をベースにしたFCVで、純水素を燃料にしている。又同社は"ハイドロジェン1"の開発において、5大陸13カ所で150種類の実験に取り組んでいる。開発担当エンジニアは「今回の実験成功で、FCVは商業的にも10年以内に現実のものになるだろう」と話している。
(日刊工業新聞01年5月17日)

(5)松下電子部品
 松下電子部品は2001年5月17日、ハイブリッドカーやFCV向けの高性能小型コンデンサー"TC・XC"を開発したと発表した。耐熱性を高めたアルミ電解タイプのコンデンサーで、車載向けのネジ端子を備えており、大きさは同じ性能の従来品に比べて体積で40%小型化し、低抵抗の電解液と電極箔を独自開発した結果、耐リプル性能は、これまでより40%程度向上したという。5月から月産3万個の量産を開始する。サンプル価格は1個2,000円で、自動車や同部品メーカー向けに出荷する。
(日経産業新聞01年5月18日)

(6)ダイムラークライスラー
 ダイムラークライスラーは、2001年5月22日、都内のホテルで"NECAR-4a"(液体水素の替わりに圧縮水素を使用)を公開、ホテル構内でデモ走行した。最高速度140km/hで200km走行できると記されている。
(日刊工業新聞01年5月23日)

(7)Ballard Power Systems
 ホンダは、PEFCモジュールMark 900ならびにそれに関わるサービスの提供に関して、Ballard Power Systemsに対し、2,590万カナダドル(US$1,650万)相当額の契約発注をしたと伝えられている。この額は自動車メーカからの発注額として過去最大である。モジュールの個数については明らかにされていない。Ballardはこの契約をSupply agreementと呼んでいるが、後にリース契約(leasing deal)であることが確認された。Mark 900は"2000 Detroit Auto Show"で公開された最新世代のPEFCスタックである。ホンダ側は「この取引に特別大きな意味があるとは思っていない。我々は独自にFCスタックを開発しているが、他のシステムについても調査を行っている」と述べている。
 数日後、Ballardは、日産自動車から400万カナダドル(US$220万)相当で同様の発注があったことを明らかにした。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 2001, Vol.XVI/No.5, p4)
 

9.船舶用FC動力源の開発
 海洋科学技術センター(JAMSTEC)は、自律航行する無人深海巡航探査機"ウラシマ"に動力源として、同センターによって開発されたPEFCを搭載し、2002年度を目途に運用を開始する計画を発表した。搭載されるPEFCは、出力が4kW(2kW?2ユニット)、電圧120Vで、防水圧力容器に収められ、燃料となる水素ガスと酸素ガスは別途容器に貯蔵され、300kmの航行が可能となっている。発電時に発生する水は、容器の密閉度を保持するため、容器外に排出しない構造が選択された。今後同センターは、将来FC用燃料の自給が可能になるよう、水素と酸素を海水から発生させる技術の開発にも取り組むことにしている。ウラシマは各種測定器を搭載し、塩分濃度など海洋データを連続的に測定しながら海水サンプルを自動採水する機能を持ち、最大深度3,500mまで潜水することが可能である。現在リチウムイオン電池を動力源に採用しているが、2次電池では航続距離(現在100km)に限界があるため、FCの採用に踏み切った。
(化学工業日報01年5月21日)
 
10.改質プロセス
(1)大阪ガス
 大阪ガスはPEFCの改質装置用として、COの選択酸化反応とメタン化反応を同時に行わせることにより、CO濃度を1ppm以下まで除去できる高性能なCO除去触媒プロセスを開発したと発表した。このプロセスでは、セラミックス系酸化物にルテニウムを保持させた触媒を用いて、CO選択酸化反応およびCOと水素によるメタン化反応を同時に起こさせるので、全体の反応熱を低く抑えることができる。その結果、反応器の温度上昇が小さくなり、1段の反応器で温度制御ができるので、触媒の劣化も抑制され、1万時間以上の耐久性が実証された。2001年7月からPEFCメーカーに試験提供を始めることにしている。同社はCO除去器のコストや大きさが従来の半分程度になると語っており、今後は9万時間の耐久性の確立を目標に、さらに実証試験を進める予定である。
(日本工業新聞、日刊工業新聞01年5月14日、日経産業新聞5月15日)

(2)東京ガス
 東京ガスは2001年5月14日、PEFCの原燃料となる都市ガスやLPGに含まれる硫黄成分を、常温で簡易に除去できる高性能脱硫剤を開発したと発表した。 同社はゼオライト系の高性能脱硫剤を開発したが、それによって従来品の5倍以上の脱硫性能を実現、したがって脱硫剤の使用量が5分の1となるので、コストは2分の1以下に低減させることが可能である。又常温で使用できるため、機動性や操作性が求められる家庭用PEFCコージェネレーションシステムに最適と同社は語っている。今後、家庭用PEFCコージェネレーションシステムメーカーに脱硫剤をサンプル提供し、早期に商品化を目指すことにしている。
(電気新聞、日本工業新聞、日刊工業新聞01年5月15日)
 

11.計測技術の開発と事業化
 菊水電子工業は、FC用計測器の事業を本格的に立ち上げることにした。同社では今まで直流安定化電源や電気負荷装置のノウハウを生かし、リチウムイオン電池など2次電池向けの専用計測器、試験システムを提供してきたが、この実績をベースとしてFC専用の計測器、FC関連計測器の開発に努力をシフトし、これを次期事業化のターゲットとして位置付けることを決定した。その第1弾として、FC生産ライン向けに特化したFC用インピーダンス計測器"S−40026"を開発し、2001年7月から受注開発を開始する予定である。FCのインピーダンス計測には、複素インピーダンス法、電流遮断法など幾つかの方法が存在するが、今回のS−40026は、複素インピーダンス法でデータを収得し、コールコールプロットからFC等の等価回路に対応した各インピーダンスを算出する方法を選択している。データの収得には位相検波回路を採用、ノイズなどに影響されること無く、正確なデータが収得できる点に特徴がある。50Wの負荷を内蔵しているので、低負荷なら本体のみで計測が可能であり、又負荷の外付端子を装備しているので、50W以上の負荷に対してもインピーダンスを測定することができる。
FC開発各社による量産ラインの立ち上げはまだこれからであるが、関連する計測器のニーズを先取りし、高シェア獲得を目指すと同社は述べている。
(電波新聞01年5月21日)
 
12.企業活動
(1)産総研関西センターなど燃料電池・水素の技術基盤で懇談会
 関西地区の企業と経済産業省産業技術総合研究所関西センター、大阪科学技術センターなどが発起人になってFCと水素の基盤技術に関する懇談会(会長池田宏之助氏:佐賀大学講師)を設立、今月から本格的な活動を開始する。今後2ヶ月に1回開催、産官学が連携し、FCに関する幅広い課題での検討を進めるとともに、さきに発足した燃料電池実用化推進協議会とも協力関係を保っていく。メンバーは常任理事として東大、京大、産総研関西センター、関西電力、大阪ガス、岩谷産業が参加、幹事には三洋電機、大和ハウス、日本電池、松下電器、松下電工、積水化学、竹中工務店が、また委員としてはジャパンゴアテックス、タクマなど7社が加わった。今年度の活動としてまず定置式分野での技術検討や関西地区固有のローカル活動を行う。また、2002年6月にも燃料電池実用化推進協議会へFCの寿命やリサイクルシステム、標準化・LCA(ライフサイクルアセスメント)について提案する。
(日刊工業新聞01年5月10日)

(2)日本石油ガス
 日石三菱のLPG関連会社である日本石油ガスは、コージェネレーションやLPG自動車、あるいはFC、マイクロガスタービン、天然ガスなど新エネルギー技術に積極的に取り組むことになった。同社は今年10月をめどに同じく日石三菱グループの興亜石油ガスを吸収合併するが、企業基盤の強化を目指すと共に、これまで競合エネルギーとしてきた天然ガスの販売なども手掛けることとした。この合併によりLPGの販売シェアは17.8%と業界トップになる。FCについては既に静岡県内の病院に200kWPAFCの装置を初号機として納入しており、今後も受注活動を進めていく。
(化学工業日報01年5月11日)
 

13.新燃料技術
(1)関西電力等
 ガソリンや灯油のような感覚で扱える液体に大量の水素を吸収させ、FC用燃料として使う新技術について、関西電力や大阪ガス、積水化学工業、トヨタ自動車系の車体メーカーなど30社が実用化を目指して検討を進めることになり、この度研究会を発足させた。これはFCV開発の課題である水素取り出し装置の軽量化や、家庭用装置へ安全に水素を供給するために有効な技術と考えられている。愛知県下などで実証試験を進め普及の可能性を探る。各社が実用化に取り組もうとしている新燃料は、天然ガスや廃棄物ガスから製造したナフタレンやベンゼンに水素を反応させて生成するデカリンなどの液体有機物で、水素を重量比8%含み、簡単な装置で水素を取り出したり再度吸収させることが可能である。したがって、車上でガソリンやメタノールを改質して水素を取り出す方法に比べて、車載装置が軽量化され、又CO2を全く排出しない点に長所が認められる。
(日本経済新聞01年5月5日)

(2)原研
 日本原子力研究所は、熱エネルギーを利用して水から水素と酸素を製造する研究開発を本格化する。このほど毎時50リットルの連続水素製造試験装置を完成、工程別特性試験に着手した。工程別試験は2002年度まで行い、この結果をもとに2003年度から2年間かけ連続水素製造試験を実施する予定である。また、これと並行して耐食材料や分離膜の利用などによる水素製造効率の向上を目指した研究も進めることにしている。 同試験装置は高温ガス炉から供給される900℃を超える高温熱を活用、原料水をヨウ素Iや硫黄Sの化合物と反応させて得られるヨウ素化水素酸や硫酸を熱分解して水素と酸素を発生させる"熱化学法ISプロセス"と呼ばれる技術であり、製造過程で用いるヨウ素や硫黄の化合物はプロセス内部で循環使用するため外部に有害物質を排出しない点に特徴がある。原研ではすでに実験室レベルで同プロセスにより毎時1リットルの水素を48時間安定した速度で発生させており、既に原理的な実証には成功している。
(化学工業日報01年5月17日)
 

― This edition is made up as of May 24, 2001. ―