58号 ヨーロッパ9都市で30台のFCバス導入

Arranged by T. HONMA
1.国家的施策
2.PEFC膜の研究開発
3.定置式PEFCの市場展開
4.AFCの生産
5.FC用燃料の生成と貯蔵技術
6.FCV最前線
7.企業によるFC事業の展開

1.国家家的施策
(1)経済産業省・日本工業標準調査会
 経済産業省の審議会である日本工業標準調査会の標準部会は、このほど自動車技術専門委員会にて、FC,ITS,リサイクルなどを標準化の優先課題として検討していくことを確認した。同委員会では、標準化に向けた検討を世界に先駆けて実施し、早期に標準化を確立することで、日本の自動車産業の国際的な優位性を確保することを目論んでいる。特にFCでは、燃料の選択が燃料供給インフラの整備計画に大きく関わるため、官主導の対応方針の基に民間の標準計画が議論されるべきだとの意見が出された。委員会では今後、燃料選択の策定手順について基本的な合意形成が先決であると述べている。
(日刊自動車新聞01年3月24日)

(2)経済産業省・21世紀石油産業研究会
 資源エネルギー庁は石油業界と共同で、21世紀の石油産業のあり方、石油産業の競争力強化策などを検討するための"21世紀石油産業研究会"を設置し、本格的な議論を開始した。石油業界側は、主要企業の副社長、専務、常務クラスをメンバーとし、エネ庁側は中堅幹部の課長クラスが参加する。 社会的背景や具体的検討課題について以下のように説明されている。「現在、わが国の石油産業は規制緩和の総仕上げの段階に入っている。更にFCやGTLのような新エネルギーの登場で、石油産業を取り巻く環境に大きな変化が予想される。こうした一連の動きの中で急務になるのが、石油産業の競争力強化であり、研究会はこのテーマに沿った諸問題について検討する。2001年4月から8月に掛けて、石油産業の将来性、FCやGTLなど新技術への対応、地球温暖化対策の実施による影響と対応、総合エネルギー企業への発展可能性、ならびにわが国石油精製業の競争力と今後のあり方について順次討議する」
(化学工業日報01年4月18日)
 

2.PEFC膜の研究開発
 高温に耐える電解質膜として注目されているPolybenzimidazole(PBI)(The Latest News, No.55参照)に、アルカリ金属の水酸化物を混入する(dope)ことによって、PBIの性能を向上させようとする研究が行われている。 PBIはNafion膜に比べて優れた熱化学的安定性と機械的強度を示すと共に非常に安価なコストで生産できるが、イオン伝導性が低い点が欠点とされていた。しかし、KOH、NaOH、LiOH等のアルカリ金属水酸化物を加えることにより、PBIのフィルムは5・10−5ないし10−1S/cmの範囲でイオン導電率を示すことが判明した。この導電率の大きさは、アルカリ水酸化物の種類、PBIの浸漬時間および温度によって変化する。例えば25℃で得られた最大の導電率は、KOHをドープしたPBIで、その値は9・10−2S/cmであった。アルカリ水酸化物をドープしたPBIを適用したPEFCを製作し、それの試験運転を行った結果、Nafion 117を用いたPEFCと同様の性能が得られたとB. XingおよびO. Savadogoによって報告されている。
 Phosphotungstic acid(PWA)を吸着させたシリカ(SiO2)およびPBIをベースとする複合膜が試作され、その物理化学的特性が実験的に観測された。 厚さ30μmよりも薄い膜において、その機械的強度は高く、沸騰水中で化学的に安定であり、400℃の空気中で熱的に安定であることが確認された。プロトン伝導率は、温度(30〜100℃)、膜の相対湿度、およびPWA装填量によって変化する。PBI中に60%重量%PWA/SiO2を含む膜においては、100%の湿度、100℃の温度において3・10−3S/cmの最大導電率が測定された。90〜150℃のより高い温度範囲では、100%の相対湿度において、導電率は1.4〜1.5・10−3S/cmの範囲で安定していることも判明した。これらの研究結果は、P.Staiti、M. Minutoli、S. Hocevarにより報告されている。
(Fuel Cells Bulletin, No.30, March 2001, p11)
 
3.定置式PEFCの市場展開
(1)IFC
 IFC(International Fuel Cells)は、ドイツのBuderus Heiztechnikとの間で、ヨーロッパにおけるIFC製FCシステムの市場展開に関する業務協定を締結した。IFCは天然ガス又はプロパンガスを燃料とする5kWPEFCユニットを開発中である。他方Buderusはヨーロッパにおいて最大規模を誇る有名な熱処理機器の会社であり、ガスエンジンを使ったコジェネレーションユニットの販売実績を持っている。本協定によりBuderusはIFC製FCシステムを家庭や商業ビルに導入することを目指して市場展開することになるが、それ以外の市場も視野に入れており、2003年中頃には主要な市場でのテストを開始したいと考えている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 2001 VolXVI/No.4, p5)

(2)コスモ石油
 コスモ石油は2001年4月12日、ブタンガスを燃料とする水素製造装置を開発、それをベースに出力1kWのPEFCを用いた家庭用コジェネレーションパッケージを開発したと発表した。 同社では改質プロセスの高効率化を目指して触媒の開発を行っていたが、先ず灯油からの水素生成触媒の開発に成功、これを基にNEDOからの委託研究を受けて家庭用FC用改質器の開発に取り組んだ結果、今回東芝の協力を得て上述したようにブタンガスを燃料とする家庭用システムのパッケージ化に成功した。 パッケージの出力は最大1kWで、発電効率は25〜30%、温水効率は4%である。2004年の商品化を目指して、商用電力と系統連系して試験運転を始めている。なお同社は今後、FCシステムを全国に普及させるため、燃料供給インフラの利用が可能な石油系燃料を使用したシステムの開発を進めると述べている。
(朝日、日刊工業、日本工業、電気新聞、化学工業日報01年4月13日)

(3)ガス協会
 家庭用定置式PEFCコジェネレーションシステムを集めた"定置用PEFCミレニアム事業"と称されている実証運転試験が、日本ガス協会によって始められた。2000〜04年度の5年計画で、NEDOからの委託事業として行われる。 試験方法の標準化、安全基準、規格の国際標準化に必要なデータを収集することを目的に、国内外7社が開発した11ユニットのFC(東京;7、大阪;3、名古屋;1)を実証運転することになっている。運転試験のために導入されたシステムは、荏原バラード(定格出力1kW)、三洋電機(同0.8kW)、東芝(同0.7kW)、松下電器産業(同1.3kW)の各2ユニット、トヨタ自動車(同1kW)、アメリカHパワーコープ(同3kW)、および松下電工の可搬型0.2kW)となっている。日本ガス機器検査協会(JIA)の東京、大阪、名古屋の事業所、検査所にシステムを設置して、起動停止試験や定格出力試験を実施する。日本ガス協会では、この事業を踏まえて2002年頃から実際の住宅で運転し、2005年頃から導入普及を図りたいと述べている。
(化学工業日報01年4月12日、電気新聞4月19日)
 

4.AFCの生産
 ZeTek Power Plcは、2001年3月8日、ドイツのCologneにおいてAFCの連続生産設備を正式にオープンした。世界で初めての事業であると同社は語っている。当面は5MW生産ラインを稼動させるが、将来は更に3ライン追加する予定になっている。ZeTekのNicholas Abson会長は、2001年の後半にはアメリカのTennessee州に第2の生産設備を開設することを予定していると述べている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 2001 VolXVI/No.4, p6)
 
5.FC用燃料の生成と貯蔵技術
(1)中部電力と日本ガイシ
 中部電力と日本ガイシは、生ゴミを主原料とするFC用のガス発生装置の開発に成功した。生ゴミの有望な処理方法の一つとして2005年の日本国際博覧会(愛知万博)への出展も検討している。1999年11月から、愛知県武豊町の武豊火力発電所に実験用小型プラントを設置し、基礎データの収集を続けてきたもので、プラントには日本ガイシが下水道汚泥処理用に開発した"熱アルカリ消化"法が採用されている。有機物の消化率を従来方式の75%から81%に向上し、発生ガスの主成分であるメタンガス量も30%前後増加、又20日前後を要していた処理期間も10日に短縮することができた。
(中日新聞01年3月31日)

(2)GMとANL
 GMはアルゴンヌ国立研究所と共同で、FCV用に候補となり得る75種類の燃料について、井戸元から車軸までの総合効率およびCO2排出量に関する分析評価を実施した。この調査にはメジャーも協力参加している。その結果、メタノール改質とガソリン改質では、エネルギー効率および温室ガス排出量の両方に対してほとんど差がないことが判明し、同社は「FCVには水素燃料が最も優れており、最終的には水素でいくことになろうが、当面は現在インフラの整備されているガソリン改質を採るべきで、あえてメタノール燃料のために投資をする必要はない」と述べている。分析結果は、燃料1ガロン当たりの走行距離において、ガソリン改質FCVは、内燃機関車に対して約50%程度改善され、又エネルギー消費では天然ガス車に比べて30%程度優れている。しかし、メタノール改質と比較するとほとんど差が認められなかった。ただしここでいうガソリンはガソリンをベースとするクリーンハイドロカーボン(CHF)を指していいるものと思われる。
(日本自動車新聞01年3月24日、日刊工業新聞3月26日)

(5)三重大学
 三重大学と岡崎国立共同研究機構分子科学研究所の共同チームは、カーボンナノチューブを使った水素貯蔵材料を開発したと発表した。 水素を取り込み易いナノチューブの先端形状を加工し、それを−196℃に冷やすと、貯蔵量が室温時でのそれの約7倍にまで増大した。通常のナノチューブは筒の先端の口がふさがっているが、三重大学の齊藤教授らはこの口を壊すことによって水素が入りやすくなり、その結果貯蔵量が増えると考えてこの着想に到達したようである。400℃で10分間、酸化処理することにより口は壊された。又同研究チームは水素貯蔵量を的確に測る方法も同時に開発することに成功した。
 現在自動車用水素燃料タンクなどで使われている水素吸蔵合金の水素貯蔵量は、高々2.2wt%であるが、それに対してカーボンナノチューブはこれより高い貯蔵量が観測されている。しかし、カーボンナノチューブの水素吸蔵量測定値は再現性が乏しく、その精度は確立されていない。 他方、ナノチューブは連続使用しても性能が劣化しにくく、従来品に比べ低コスト材料になると期待されている。アメリカDOEはFCVの実用化に必要な水素貯蔵性能は重量比6.5%としている。
(日経産業新聞01年4月4日)

(6)中国電力と出光興産
 中国電力は、出光興産などと共同で、2001年9月頃を目途に、LNGなど燃料供給の新会社を設立することになった。 柳井火力発電所の貯蔵基地を活用してLNGを小売する他、マイクロガスタービンやFCなどの分散型電源の販売や保守分野にも本格的に参入する意向である。
(中国新聞01年4月12日)

(7)ベイシテイーサービス
 産業機器開発のベイシテイーサービス(横浜市)は、FCVへの水素供給を目的としたポンプを開発したと発表した。01年6月下旬にもこのポンプを国立研究所に納入し、実用化のためのテスト受ける予定である。同社が4,000万円を投入して開発した"ロータリーピストンポンプ"は、メタノールから改質器やセパレータによって水素を取り出し、それをFCに送り込む役割を果たすものである。しかし、水素を取り込む開口部と、それを送り出す排気開口部が2つずつ付いており、ポンプの中で圧力と量を自動的に調整することができる。したがって、FCとポンプをパイプで繋くことにより、FCに一定量の水素を送り込むと同時に、余った水素をポンプに還流させる機能を持っている。ポンプは長さ15cm程度で、1台の値段は20〜30万円である。 FCV以外にも、液体の供給などに利用可能である。
(日本経済新聞01年4月17日)
 

6.FCV最前線
(1)ヨーロッパの各都市によるFCバスの導入
 ヨーロッパにおける9つの市交通局が、DaimlerChrysler製の水素燃料FCバス"Citaro"を合計で約30台購入することになり、2001年3月Amsterdamで契約に調印した。FCバスは2002年から03年に掛けて配備されることになろう。これらの市には、Amsterdam、London、Barcelona、Hamburg、Luxembourg、Porto、Stockholm、Stuttgart、およびReykjavikが含まれている。6年前、ヨーロッパにFCバスを売り込むために設立されたDaimlerChryslerの子会社であるEvoBusは、他の都市にも働きかけており、更に契約が増えるであろうとの期待を述べている。
 "Citaro"はもともと全長12m、70人乗りの低床型市バスで、FCバスとして動力源となるPEFCはBallardの"Mark900"、Xcellsisによってエンジンとして組み立てられることになっている。出力200kWのエンジンによって80km/hの最高速度が得られ、走行距離は200ないし250kmと予想されている。FCバス1台のコストは、2年間のサービスとデータ収集を含めて、125万Euro(110万ドル)となっており、これは現在のバスに比べて約5倍の高さである。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 2001 VolXVI/No.4, pp4-5)

(2)トヨタ、VW
 トヨタ自動車の渡辺常務は、名古屋市内で開いたFCVの説明会で「量産化時期を2010年頃に持っていきたい。商品化の自信はあるが、燃料の標準化などをはっきりさせて、研究開発の方向性をはっきりさせるべきだ」と述べた。これは燃料の規格統一を目指す国際的な協議を早急に進める必要があるとの主張を示したものである。又同常務は「ハイブリッドはFCVが普及するまでのつなぎという認識は誤りである。エネルギー損失の少ないハイブリッド車のコンセプトは、FCVの時代になっても引き継がれる」と語り、同社はハイブリッドFCEVの道を歩む考えであることを表明した。
 他方ドイツのVWのピエヒ会長は「FCVの実用化は、世間で言われているほど簡単ではない」と述べ、3lit.燃料で100kmの走行が可能な超低燃費車"3リットルカー"やデイーゼルエンジンの環境対応に力を入れることにしている。
(日刊工業01年4月10日、中日4月11日、日経産業新聞4月12日)

(3)日産
 日産自動車は、高圧水素を燃料として、FCとリチウムイオン電池を動力源とするハイブリッド型FCV"XterraFCV"を試作した。スポーツ多目的車"SUV"をベースとした車で、PEFCはバラード製、ネオジム磁石式同期モータを搭載している。アメリカ・カリフォルニア州の一般道路での走行試験を開始し、実用化のための基礎データを収集・蓄積する。ハイブリッド化により燃料使用効率が高まることが期待されている。 同社はルノーと共同でFCVの開発を進めており、05年までに両社で850億円の予算と300人の技術者を投入し、FCVの技術を確立する計画を立てている。
(日本経済、産経、日刊工業、日本工業、日経産業、日刊自動車新聞01年4月20日)

(4)カリフォルニア工科大学
 カリフォルニア工科大学のS.ハイル博士は、雑誌"ネイチャー"に、FCV用動力源として、電解質として可動水素イオンを含む固体、すなわち固体酸を用いた"中間温度で動作するFC"を提案している。固体酸である硫酸水素セシウムは、約160℃で作動するFCの電解質として適用可能であり、このような中間温度で動作するFCは、通常のPEFCよりも高い電圧を発生すると述べている。
(日刊工業新聞01年4月23日)
 

7.企業によるFC事業の展開
 東芝とIFCのFC合弁企業TIFCは、当面のビジネスプランを纏めたが、それによればPEFCの研究開発に経営資源を集中し、3年先を目途にその事業化を図ることにしている。従来のオンサイトに加え、業務、住宅用へ事業領域の拡大を目指すことにした。このような事業化努力により、日本、中国、インドなどのアジア市場で2005年に60億円、2010年には100億円の事業規模を確保する方針である。加藤社長は「今後分散型電源の主力と目されているPEFCの事業化に全力を傾ける」と述べている。
 具体的には、先ずマイクロガスタービン、デイーゼル等FC以外の分散型電源と競合しない出力5〜10kWの業務用電源を2004年にも市場に投入し、コンビニエンスストア、ファミリーレストラン、ガソリンスタンド、ホテル、病院等へ積極的に売り込むことにしている。続いて電気と給湯が可能な出力1kW級家庭用電源の実用化を図り、2006〜7年頃には商品の販売を始める意向である。なお東芝は2000年度には、定置式30kW級PEFCプラント、高信頼性の電力供給や熱併給発電を行う業務用10kWPEFC、家庭用コジェネレーション用1kW級PEFC4ユニットを開発製作している。これらの技術をベースにPEFCの商品化を加速することになるが、コストについては当面リン酸形並みの40〜45万円/kWを実現、最終的には15万円/kWを狙うと述べている。このような目標を実現するために、IFCおよびそれぞれのグループ企業との間で最も効率的な研究開発および生産の役割分担を行うことにしている。
(電気新聞01年4月13日)
 
― This edition is made up as of May 1, 2001. ―