57号 燃料電池実用化戦略推進協議会が発足する

Arranged by T. HONMA
1.国家的施策
2.民間団体、企業による戦略と活動
3.PAFCの実績と事業展開
4.MCFCの開発
5.SOFCの開発と事業展開
6.PEFCの開発戦略
7.家庭用PEFC電源の開発
8.FCV最前線
9.FCV用燃料の選択
10.燃料改質関連技術

1.国家家的施策
(1)総合エネルギー調査会  総合エネルギー調査会は、1次エネルギーに占める天然ガスのウエートが現在の12.7%から2010年には14.2%へと上昇するので、価格引き下げやパイプライン等のインフラ整備を図ると同時に、ガスや液体での利用推進が不可欠であるとして、利用拡大策を求めている。それによれば、2010年までに電力の燃料転換、産業用自家発電の燃料転換および都市ガス利用への拡大に重点を置き、それ以降2020年までにFCV用燃料として注目されているGTL合成やDMEとしての利用と普及促進、FCの拡大等を提言している。
(化学工業日報01年3月15日)

(2)NEDO事業
 NEDOは2001年秋までに、天然ガス改質型及び固体高分子電解質水電解型の2方式による水素ステーションの建設、運用を開始する。FCVへの水素供給を対象にした本格的な水素ステーションが建設されるのは日本国内では始めてである。天然ガス改質型は岩谷産業が開発し、水電解型は日本酸素が開発・システム化したもので、前者を大阪市内に、後者を高松市内に設置する。水素製造能力は両社とも1日当たり自動車30台分であるが、もともと1日300台分を供給できる能力を前提とした設計になっており、実証テスト完了後はそのまま実用化することも可能である。
 この水素ステーション方式は水素吸蔵合金搭載車への水素急速充填能力を持っている。NEDO、岩谷産業及び日本酸素は2001年秋以降03年まで実証運転を行いながらデータを収集する計画である。開発グループは、25m3の水素ガスを10分以内に供給できることを確認しており、このような水素ステーションの設置は純水素燃料型FCVの普及に弾みをつけるものと予想される。
(化学工業日報01年2月26日、日経産業新聞3月14日)
 

2.民間団体、企業による戦略と活動
(1)FC協議会
 FCの実用化、普及を推進する産業界の新組織"燃料電池実用化推進協議会"が3月19日設立総会を開催し、同日発足した。資源エネルギー庁のFC実用化戦略研究会が、2001年1月にとりまとめた報告書において、それの設置の必要性を提言していた組織であり、会長には西村泰三東芝会長(電機工業会会長)が選出された。参加企業は理事会員21社、一般会員44社、賛助会員21社の計86社で、自動車、電機、素材、石油、ガス、電力、商社、建設など各分野の企業が含まれており、又活動期間は5年とされている。
 協議会には"市場化等環境整備企画ワーキンググループ(WG)"および"技術開発企画WG"が設置されることになった。環境整備企画WGではFC普及の障害となる規制・制度を調査するとともに導入促進のあり方を議論し、技術開発企画WGでは燃料電池の性能や信頼性・耐久性、低コスト化、安全性等の基盤技術に重点を置き、技術開発の具体的な取り組みについて議論する予定である。
(朝日、日本経済、日刊工業新聞 01年3月20日、日本工業、日経産業、日刊自動車、日刊建設工業新聞、化学工業日報3月21日)

(2)東芝・IFC
 東芝はIFCと共同で、FC事業合弁会社"東芝インターナショナルフュエルセルズ(TIFC)"を2001年3月30日付で設立した。TIFCの戦略は東芝の電力システム社のFC事業を分離・移管し、東芝とIFCの技術と資源を融合することで、世界におけるリーディングカンパニーとしての地位を獲得することにある。TIFCの資本金は15億円で、出資比率は東芝が51%、IFCが49%、従業員数は約100人で、本社は東京・芝浦の東芝本社内に置かれることになった。 社長には東芝の加藤尚志電力システム社事業推進部長が就任し、1)住宅・オンサイト用PEFC、2)オンサイト用PAFCの開発、製造、販売、保守サービスを行う予定である。
 当面は従来のオンサイト用PAFCについて年間20台の販売を目指すとともに、PEFCについては2004年に商用機を市場投入することを目標に開発を進め、更に住宅用への市場拡大を図って行くことにしている。今後はPEFCを分散電源の主力として位置付け、経営資源を積極的に投入すると述べている。一方自動車用PEFCに関しては、IFCはイギリスのシェルとの合弁企業を立ち上げる予定であり、これにより東芝・IFCグループは世界連合を組んで定置型、FCV用PEFCの開発を加速することになる。
(日刊工業、日本工業、日経産業、電気新聞01年3月19日、日刊建設工業新聞3月23日)
 

3.PAFCの実績と事業展開
(1)UTC・IFC
 UTC(United Technologies Corporation)のIFC部門を担当するHarol H.Komaya副社長の発表によれば、極めて性能の高い(venerable)PC25PAFCシステムの全世界での設置台数は210であり、それらによる全累積運転時間は370万時間に達している。これらのプラントは全てSouth WindsorのIFCから遠隔操作されている。IFCの最近の代表的なプロジェクト(flagship project)は、アラスカの郵便局における郵便検索センターのシステムであった。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 2001,Vol.XVI/No.3, p5)

(2)川崎製鉄
 川崎製鉄は、千葉製鉄所内で稼動しているガス化溶融炉"川鉄サーモセレクト炉"(処理量1日当たり最大300トン)から回収されたガスを利用して、ガスエンジンやFCによる高効率発電の実証実験を開始することになった。ガスエンジンについては2001年9月から実証実験を始めるが、FCについては2001年度中に東芝と共同でPAFC設備を設置し、本格的な実証運転試験を行う計画である。
(鉄鋼新聞01年3月14日)
 

4.MCFCの開発
 アメリカのFuelCell EnergyのCEOであるJerry Leitman氏は、同社のMCFC生産容量を、2001年現在の50MWから2004年には400MWにまで増大させる計画であると発表した。2001年の終わりには、商用プラントとしての受注(commercial orders)が始まるものと期待している。定置式MCFCの需要を引っ張る原動力は、規制緩和の動きに加えて、現在の発電プラントの多くが老朽化を迎えていること、および高品質電力に対する要求の高まりにあると考えられている。又同社はMCFCとガスタービンを組み合わせた出力10ないし50MW級の超高効率発電システムの設計に取り掛かっているとも伝えられている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 2001,Vol.XVI/No.3, p4)
 
5.SOFCの開発と事業展開
(1)明電舎の開発と事業展開
 明電舎はエネルギー事業領域拡大を目的に"トータル・エネルギーソリューション・ビジネス"を積極展開中で、従来の風力、太陽光、マイクロガスタービンなどに加えて、FCや新エネルギーのハイブリッドシステムを今後の有望電源として事業戦列に加える意向である。FCに関しては作動温度の高いSOFCとMCFCを検討しているが、自社開発では時間と資金がかかるので、海外の有力メーカーと提携し、その技術を導入することにより数年先にも事業を立ち上げることを目指している。具体的には海外メーカー製のセルをベースにしてシステム化し、パッケージングを自ら行うエンジニアリングを軸に顧客に対応していくことになろう。
(電気新聞01年3月2日)

(2)中部電力・三菱重工
 三菱重工と中部電力は両社が共同で開発している出力15kW規模T−MOLB形SOFC(平板型)による累計運転時間が5,000時間に到達した。構造は部品点数が少なく、湿式法により一気に低コスト化を実現できる可能性が高い。今後は数kWから数10kWクラスの小型コージェネレーションシステム(目標熱効率80%)としての実用化を目指して開発努力を加速する積りである。
 三菱重工は平板型とチューブラー型との2タイプの開発を進めているが、同社の平板型は20cm角のセル(出力は約100W)を積層し、空気極にはランタンマンガン、電解質には安定化ジルコニア、燃料極にはニッケルイットリア安定化ジルコニアを採用し、インターコネクターにはランタンクロムを入れた材料を採用している。このセルを一体積層した15kW規模での運転を2000年7月から三菱重工神戸造船所で進めた結果、5,000時間の累積時間に到達したものである。同時に、天然ガスを燃料とし、燃料極でのニッケルに触媒作用があることを利用して、セル内部で改質を行う高効率内部改質の実験も同時に行われた。発電端効率は30%台であったが、実用化の段階では40%は確保できると想定している。今後は耐久テストや低コスト化への対応を本格化し、数10kW規模での実用化を目指すとしている。
(日刊工業新聞01年3月1日)

(3)日本触媒
 日本触媒は、FC材料および光・電子材料を中心とする新規事業の育成を図るため、2001年4月1日付で新設する新規事業企画室に、事業企画部、FC材料事業グループ等3グループを置くことにした。同社は2000年にSOFC用ジルコニアセラミックスシートの量産化技術を確立し、家庭用コジェネレーションシステム向けに販売を開始しているが、同材料の新用途開発とともに、新たな材料の開発も行う計画である。
(化学工業日報01年3月14日)
 

6.PEFCの開発戦略
(1)Ballard
 Ballard Power Systemsの財務担当副社長Paul Lancaster氏は、同社の発表会でのプレゼンテーションにおいて、商用第1号各種FC製品の導入時期について、ポータブル電源は2001年後半、バスのエンジンは2002年末、定置式電源は2003年、そしてFCV用エンジンは2004年になろうと語った。彼は小型の出力100W級FC発電器・燃料タンク付(FCの種類についての紹介は無かった)が小型テレビを動作させている風景を映し出しながら、幾つかのポータブル電源が、現在それぞれの得意先の要望に応える形で、開発が進んでいると報告した。これら得意先にはColeman Power Mate、ホンダ、ヤマハの名前が含まれており、更に日本における建築現場での使用を目的とした250Wポータブルユニット(松下電器)、東京ガスによる家庭用1kWコジェネ用電源などが紹介されていた。
 なおBallard製出力80kWのMark900PEFCは、DaimlerChryslerのNecar5およびJeep Commander2、FordのTh!nkFCV、ホンダおよび日産(Xterra SUV、the FCV station wagon)に採用されていることが報告された後、Lancaster副社長は11万平方フィート(約1万m2)の敷地面積を有する商用ユニット生産設備が2000年秋にBurnabyにおいてオープンしたことを紹介した。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 2001,Vol.XVI/No.3, p4)

(2)IFC
 現在世界中で稼動している分散電源の中で、比較的小容量出力電源による総出力は約120GWに達するが、2020年までには240GWにまで増大すると予想される。IFCのKoyama氏(最近UTCからIFCに移籍)によれば、分散型小容量電源の中で最も成長の高いのは出力3kWレベルの業務用又は家庭用電源と思われ、このような動向を踏まえてIFCは天然ガスを燃料とするPEFC電源プラントを開発中で、近い将来生産に入ることを予定している。第1段階の1ないし10kW級商用ユニットは2002年に誕生し、次世代の200kWプラントは2003年の中頃に出荷されると予想している。これらのPEFCユニットのコストは、2003年には$1,500/kWにまで低減し、FCV用エンジンのコストは、2010年までには目標の$50/kWを実現するとの期待を表明している。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 2001,Vol.XVI/No.3, p5)

(3)東京工業大学
 東京工業大学総合理工学研究科の山ア陽太郎教授は、高耐熱性の無機のFC用電解質膜を開発した。水を取り込む能力が高いゼオライト膜を、プロトン伝導性を持つ酸化スズで覆ったもので、100℃以上で性能を発揮することを確認した。更に、ゼオライトの穴を小さくするとメタノールの浸み出しも抑えられるため、DMFCの開発に貢献しそうである。電解質膜はフッ素樹脂が一般的であるが、80℃以上で水が蒸発し使えなくなる問題がある。山崎教授は穴が多く高温でも保水性が高く、有機膜に比べて安定しているゼオライト(モルデナイト型)に着目してこの構想に到達した。低温ではフッ素樹脂ほど性能は高くないが、100℃以上でも使えることを確認している。山崎教授は改質器が不要なDMFCでの利用を目指している。
(日刊工業新聞01年3月9日)

(4)旭化成
 リチュウム二次電池用セパレーターでは世界でトップのシェアを持ち、PEFC用電解質膜で開発実績を持つ旭化成は、次期主力製品の1つとしてPEFCスタック事業に本格参入することを決定した。 同社は99年にコーポレート研究開発の一環としてFC用のFCM(FC Membrane)プロジェクトを立ち上げたが、今後2年間でFCMプロジェクトにより技術的なブレークスルーを狙い、2003年までにベンチスケールでのプラントを設置、本格事業化に着手する予定である。更に、家庭用コージェネや自動車用でFC需要が本格化する2005〜10年頃には、数100億円規模の投資を行い、量産化設備を建設することを考えている。
(化学工業日報01年3月5日)

(5)栗田工業
 栗田工業は2001年3月21日、FC事業に参入すると発表した。Hパワー社と戦略的パートナーシップを結び、PEFCシステム用にメインテナンスフリーの純水製造装置及び遠隔監視システムを独占供給する。同社はHパワーの30万株を取得した。ターゲットとしているのは発電能力4〜7kW程度のPEFCで、アメリカ市場での事業化を武器に、国内市場も含め5年後には100億円の売り上げ規模を目指すことにしている。他方Hパワーは従来使用していた蒸留水を、栗田工業製に切り替えることにより、2〜3%の発電効率のアップが可能になると期待している。
 Hパワーは35kWのPEFCの商業生産を手がけているが、家庭用の3〜4.5kW機の商業化も進めており、アメリカの中小電力・ガス会社で組織する全米電力共同組合(ECO)に今後3年間で、12,300台を販売することが決まっている。栗田工業はまず、ECOに納入するFC用水処理システムを独占的に供給する。
(日本経済、日刊工業、日経産業新聞、化学工業日報01年3月22日)
 

7.家庭用PEFC電源の開発
(1)IdaTech
 2000年にNorthwest Powerから名前を変更したIdaTech社は、1996年に7人のスタッフで立ち上げた小規模な会社である。現在は61人のメンバーを抱えるまでに成長した。同社は安価で小容量PEFC電源の分野で、リーダー的地位の獲得を目指していると、設立者でCEOのAlan Guggenheim社長はその野心を語っている。得意とする分野は、メタノール、天然ガス、プロパン、デイーゼル油、Fischer-Tropsch合成ガス等、幅広い種類の燃料に対する燃料処理技術であり、パテントになっている同社の3段階水素清浄器付燃料プロセッサー(3-stage fuel processor-cum-hydrogen purifier)は、純度が99.95%の水素を生成することができる。IdaTechは数年後にも燃料改質器、UPSバックアップ電源、家庭用コジェネレーション用電源等において、OEM販売を始めることを計画しているようである。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 2001,Vol.XVI/No.3, p4)

(2)東芝
 東芝は、家庭用PEFCの開発を加速させ、5年後を目途に実用化を目指すと発表したが、コストについては50万円/kWを目標としている。先般同社開催の環境展に出品した天然ガスを燃料の家庭用1kWPEFCコジェネレーションのプロトタイプシステムは、発電効率が25〜30%、温水効率が40%であるが、商用機では発電効率が35%以上、温水効率は40%以上を狙うと述べている。(電波新聞01年3月13日)

(3)大阪ガス
 大阪ガスは2001年3月21日、家庭用PEFCの燃料改質技術をアメリカH・パワー社に供与すると発表した。非独占的契約で、供与開始は4月1日である。大阪ガスは日本の家庭用市場への参入を目指しているHパワー社に、小型・高効率・低コストの燃料改質技術を供与することで500W級の家庭用PEFCコージェネシステムの商用化を早め、それによってガスの需要を増大させたいと考えている。 元来大阪ガスは2005年をめどに家庭用FCコージェネレーションシステムの実用化を目指していたが、2003年頃の商品化を予定しているHパワーに技術供与することにより、計画を2年の前倒しで実現する可能性が高まった。
 大阪ガスが開発した燃料改質装置のプロセス熱効率は77%、改質ガス中のCO濃度は1ppm未満で優れた性能を持つ。又この改質器は蒸気発生器を組み込んだコンパクトな一体型であり、9万時間メンテナンス不要、そして量産時のコストは5万円以下と見積もられている。天然ガスを標準燃料とするが、若干の設計変更によりプロパンガスへの転用も可能である。Hパワーはこの装置の提供を受けて、日本市場向けに500WPEFCコージェネシステムを試作し、大阪ガスは2001年度中にそれの10台程度を一般住宅に設置し、運転試験を始めたいと考えている。同社は実用的な仕様として、発電効率35%(送電端)、排熱回収効率30%(60℃温水貯湯)、耐久性10年、価格60万円以下(設置費を含む)を目標にしており、又この目標はほぼ達成の見込みである。
(日本経済、日刊工業、日本工業、朝日、読売、毎日新聞01年3月22日)

(4)東邦ガス
 東邦ガスは総合技術研究所内に家庭用FCの評価試験を行うための実験住宅を建設した。実際の家庭と同等の環境で、1kW級PEFCシステムの使用状況をシミュレーションするのが目的である。同社では評価試験を通じて課題を洗い出し、2005年を目途に家庭用コージェネレーションシステムの商品化を目指す。 今回建設したFC実験住宅は4人家族を想定し、電力、ガス、水道などの消費量を連続的に自動計測する設備を備え、FCの運転評価試験のデータ収集も可能であるという。
(日刊工業、中日新聞01年3月20日、電気新聞3月22日)

(6)トクヤマ
 トクヤマは炭化水素系イオン交換膜でPEFC分野への進出を目指すことにした。PEFC用電解質膜はフッ素系の開発が先行しているが、価格に問題がある。トクヤマは炭化水素電解質膜は、フッ素系に比べて10分の1以下の低コスで製造可能であるとの見通しを踏まえて、耐熱性等の技術課題の克服に挑むと述べている。同社は「ネオセプタ」の商品名で製塩、電気透析システム等で、炭化水素系イオン交換膜では豊富な技術蓄積があり、当面小型発電装置向けに照準を絞って試作品の供給を進めていくことにしている。炭化水素系の耐熱性は100℃前後と見られ、耐熱要求が高まりつつある自動車分野への適用は困難と見られてきたが、同社は家庭用等の定置型発電装置分野をターゲットに置いて開発を強化する。
(化学工業日報01年3月21日)
 

8.FCV最前線
(1)トヨタ
 トヨタ自動車はFCV"FCEV3"を開発するとともに、今夏をめどに国内で公道テストを開始すると発表した。FCEV3は同社にとってFCVの3号車となるが、1,2号車と同様に、FCと二次電池を搭載するハイブリッド方式を採用しており、今回はSUV(Sport Utility Vehicle)の"クルーガーV"をベースにした。燃料となる水素は水素吸蔵合金に蓄える方式である。同車は国土通産省が3月1〜2日に開催した"燃料電池国際シンポジウム"で披露されたが、トヨタはこれを2003年を目標に実用化する予定である。
 燃料電池スタックは同社の独自開発によるPEFCで、出力は90kW、ニッケル水素電池が組み合わされている。したがって制動エネルギーの回収が可能で燃費性能は向上し、かつ始動性の解決にも目途をつけたと述べている。またFCシステムをコンパクトにまとめることにより、ガソリン車同様5人の乗車定員が確保された。最高時速は150km、航続距離は300km以上であり、モーターは永久磁石同期電動機型で最大出力90kW、最大トルク260Nmである。
(日本経済、日刊工業、日経産業、日刊自動車、中日新聞01年2月28日、鉄鋼新聞 3月2日)

(2)FCバス、アイスランドでの実地テスト計画
 アイスランドで、ダイムラークライスラー製のFCバスの実地テストが予定されている。これは、アイスランデイック・ニュー・エナジー(INE)の社長で、EU助成を受けたエコロジカル・シテイ・トランスポート・システム(ECTOS)計画を指揮するヨン・ビヨン・スクラーソン氏が明らかにされたものである。ダイムラーはアイスランドでFGVの実地走行試験を行って、FC技術の改良につなげる意向である。このためには、水素生産施設と専用サービスステーションの建設を要するので、走行試験約2年後に開始され、その後2年間続けられる予定である。
(日刊自動車新聞01年3月7日)

(3)本初のFCV公道走行試験
 FCVのわが国における初めての公道公開走行テストが2001年3月3日横浜・みなとみらい21地区で行われた。当日は約2kmの距離を時速30kmのスピードで走った。これは石油産業活性化センターの技術開発共同プロジェクトの一環として実施されたもので、ダイムラー・クライスラー日本ホールディング社提供の"NECAR5"とマツダ製の"プレマシーFC−EV"の2台を使用、燃料のメタノールは日石三菱が供給した。同プロジェクトでは既に2001年2月15日から日石三菱精製・横浜製油所内などで走行試験に入っており、今回の公道試験を含めて実用化に向けた走行性能、燃費、排ガス性能などのデータ収拾を図っている。尚、今夏まで横浜の他東京や広島でも走行試験を行う予定。
(日本経済、毎日、読売新聞01年3月3日、東京、産経新聞3月4日、日経産業新聞3月5日、化学工業日報3月6日)

(4)BMWおよびDelphi
 ドイツのBMWおよびDelphi Automotive Systemsは、ガソリンを燃料とする小容量のSOFCを補助電源(APU;auxiliary power unit)として装備した第1号プロトタイプ自動車を発表した。補助電源からの電力は、エンジンの制御、空調、窓の自動開閉、リアウインドウデフロスター、安全装置(ABS)、カーフォンを動作させるのに使われる。このような補助電力の需要は、過去30年間に出力で5倍、蓄電池容量で2倍にまで増えており、今後ますます増加するものと予想されている。BMWは既に2年前からこのような構想を実現するプロジェクト計画を発表していたが、今回SOFC電源を同社の主力機種(flagship)である750iモデルに搭載した。開発の責任者であるDr.Burkhard Goeschel氏は、5年以内に商用化が可能であると述べているが、値段については言及されていない。
 このSOFCの電解質はYSZであり、800℃の動作温度でガソリンを改質する。SOFCから排出された未利用成分を燃焼して得られた熱は、空気の予熱に使われている。したがって効率は従来の発電機に比べて2倍の大きいさであり、100kmの走行に消費されるガソリンの量は、従来方式の1.5lit.に対して0.7lit.に過ぎない。同社の説明によると、このプロトタイプは、動作温度に達するまでに10分を要するが、将来の出力5kWバージョンでは3分で起動することができるとのことである。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 2001,Vol.XVI/No.3, p6)

(7)フォード
 フォード・モータは、2004年からFCVの限定生産を開始し、2010年から量産型のFCVを市場に投入する計画であると、同社のドイツ子会社フォード・ウエルケが発表した。
(日刊自動車新聞01年3月13日)
 

9.FCV用燃料の選択
 トヨタは総合資源エネルギー調査会石油分科会開発部会第1回天然ガス小委員会で"将来の自動車用パワーソースとその燃料について"と題した意見発表を行い、FCVの改質燃料として天然ガスから製造する合成燃料(GTL)に注目していることを明らかにした。同社は将来の自動車用パワーソースには低排気化と同時に高効率化が求められるとし、GTLについての評価を行った結果、そのメリットが大きいことを確認した模様である。またFCVのシステムに対しては、基本的にクリーンガソリン(CHF、クリーンハイドロカーボンフュエル)の開発が重要であり、それを改質型FCV以外に、内燃機関や、内燃機関と蓄電池のハイブリッド車にも共用できる燃料として位置付けている。
(日刊自動車新聞01年3月5日)
 他方、アメリカのGMはFCV用燃料について、当面はガソリンが最も高効率で環境負荷が低いとする研究結果をまとめた。これはガソリンやメタノールなど、さまざまな燃料について採掘から輸送、車両での効率までを総合的に評価したもので、公立研究機関やエクソンモービルなどエネルギー産業との共同研究の結果として、3月21日にルイジアナで開催された国際会議で公表したものである。
(日本経済新聞01年3月23日)
 
10.燃料改質関連技術
 京大工学研究科の江口教授を中心とするグループは、出光興産と共同で、改質ガスに含まれるCOを効率よく取り除く技術を開発したと発表した。銅・亜鉛・アルミナ系の触媒を使い、微量の酸素を噴き込むことにより、高い効率でCOを除去できることができる。例えばCO濃度が15%で200℃の場合、従来の白金・アルミナ系触媒では約20%しか取り除けないのに対して、新技術では90%除去することが可能である。この研究はNEDOの委託で実施された。
(日本経済新聞01年3月16日)
 
― This edition is made up as of March 24, 2001. ―