55号 高温で動作可能なPEM膜の実現が視野に

Arranged by T. HONMA
1.国家的施策
2.PAFCの市場展開
3.MCFCおよびSOFC
4.SOFC/GTコンバインドシステム
5.高温作動のPEFCの開発研究
6.PEFCの実証運転試験
7.PEFCの開発と商品化計画
8.FCV最前線
9.DMFC
10.レドックスフローFC
11.燃料関連技術

1.国家家的施策
(1)自民党
 自民党は"FCを推進する議員連盟"(FC推進議連)を発足させた。FCに関する技術革新と普及・発展を側面から支援し、FCを利用した画期的な社会システムへの変革を推進することを目的に、江藤隆美衆議院議員が発起人代表として設立した。今後、関係省庁との連係の下でFC施策を展開する意向である。上杉光弘参議院議員は「FCを我が国の国家戦略と位置づける一方、燃料源として日本近海に多量に埋蔵されているメタルハイドレートを使うべきで、採掘技術の開発に本腰を入れる必要がある」との見解を示した。又中川義雄参議院議員は「電力会社を通じてのみ電力を販売出来る体制を打破する必要がある。現行の法律では限界がある」と、法改正を視野に入れた施策の展開を示した。
(化学工業日報01年1月17日)

(2)資源エネルギー庁・FC実用化戦略研究会報告書
 資源エネルギー庁長官の私的研究会であるFC実用化戦略研究会(座長・茅陽一慶応大学教授)は、このほど報告書をとりまとめた。現時点から本格普及が見込まれる2010年度以降までを3段階に分けてシナリオを描き、夫々の期間に行うべき技術開発や施策を提案、燃料選択についての見通しにも触れている。
 FCの実用化・普及を図る上での課題としては1)FCの基本性能の向上、2)経済性の向上、3)燃料開発とインフラの整備、4)基準・標準及び規制整備、その他を挙げ、3段階に分けたシナリオでは、2000〜05年頃を"技術実証段階"、05〜10年頃を商品の"導入段階"、10年頃以降を"普及段階"と位置付けている。
 FCVの燃料選択に関する見通しでは、当面、初期導入が可能であるのは圧縮水素やメタノールであるが、その場合でも特定地点間をフリート走行する自動車に限定される。近未来においては、硫黄などの不純物を除去した"クリーンガソリン"、天然ガスから生成される液体合成燃料(GTL)などが選択される可能性が高い。長期的将来については水素が有力であり、その場合車載貯蔵技術の確立や水素供給インフラの構築が前提になると述べている。
 こうした技術の進展により2010年にはFCVで5万台、定置型で210万kW、2020年にはFCVは500万台、定置型で1,000万kWの導入が期待されると提言している。
(朝日、読売、毎日、産経、東京、日刊工業、日経産業新聞01年1月23日、化学工業日報、電気、日刊自動車新聞1月24日)

(3)資源エネルギー庁・石炭ガス化FC複合発電の開発
 資源エネルギー庁は石炭を使った発電方式の高効率化を目指して、石炭ガス化FC複合発電システムの技術開発を本格化させることにした。電源開且瘴シ総合事業所(北九州市)において、当初の予定より1年早い2001年7月に実証プラントを完成させ、2002年以降に本格稼働させる。発電効率は従来の石炭火力に比べて15ポイント以上高い55%程度にまで向上し、CO2排出量は約40%削減することができる。実証プラントの出力は3万kWで、1日当たり150トンの石炭を使用する。実用化段階では100 万kW級のプラントを想定している。日本の石炭火力発電は燃料に高品質の石炭を選んで使用しているのが現状だが、今回の技術では石炭をガス化するため、石炭の品質を問わずに使用できる点に魅力がある。又発電効率が1%向上することでCO2排出量は2.5%削減できるので、資源エネルギー庁では今回の技術開発によって、40%のCO2の削減が可能になると試算している。
(日本工業新聞01年1月18日)

(4)NEDO・家庭用LPガスPEF
 経済産業省は来年度から、家庭用のLPガスPEFCシステム開発事業に着手する。NEDOへに委託事業として2001年度から5年計画で実現を目指す。初年度予算は約2億7,000万円、総事業費は14億2000万円である。NEDOでは92年度から運輸・民生用PEFCの研究開発を進めており、来年度から「フェーズV」として4年計画で実施するが、これと並行して家庭用にターゲットを絞ったLPガスPEFCシステムの開発プロジェクトに新たに取り組むことになった。この開発目標としては、35%の発電効率と、水素製造装置を従来比約80%以下の大きさにまでコンパクトする等が挙げられている。LPガスは、家庭用ガス需要のうち54%を占め、わが国全土へ幅広く供給されている。供給ネットワークが構築されていることや、化石燃料の中ではLNG並みの環境特性を持つことなどの特徴があるため、FCなど小型分散型電源向けの燃料として優位性があり、その利用が期待されている。
(電気新聞01年1月26日)
 

2.PAFCの市場展開
(1)東芝
 東芝は2001年1月17日、PAFCを電源として組み込んだ無停電電源装置(UPS)"UPSインテグレーションシステム"を商品化し、同日から営業活動を開始した。従来のUPSに比べランニングコストを15〜25%低減出来るほか、電力変換ロスを半減させている。また、通常時にFCにより発電した電力をUPSに接続していない機器に供給することにより、受電電力を低減できるほか、FCの発電時に生じる排熱をコージェネレーションとして利用することも可能である。予備燃料を設置すれば、ガス供給が停止した災害時でもFCの運転を引き続き行うとともに、重要機器や所内の一般機器への電力供給を継続出来る。工事費と試運転費用を含めた価格は1億4,000万円程度で、データセンターや病院などに向けて初年度10台以上の販売を目指すと述べている。
 このシステムに使用するのは出力200kWPAFCである。非常時に安定な電源を供給する必要のある重要負荷と同時に一般負荷へ給電することで、FCを常に効率の高い定格負荷で運転することが出来る。停電時はFCから継続して電力を供給出来るので、バッテリーは必ずしも必要とはしない。又地震などの災害時には、予備燃料として標準の2.9トンのLPGタンクを設置することにより、約3日間の電力供給が可能である。
 このUPSシステムは1999年10月から東京ガス、大阪ガス、東邦ガスと共同で開発を進めてきた。2000年6月東邦ガス本社にシステムを設置、基本性能確認試験と実証試験を行ってきた。検証が完了したことから業界に先駆けて製品化する。導入費用は通常のUPSに比べて割高になるが、本シシテムの導入に際してはNEDOから補助金を受けることが出来る。補助金比率は民間では1/3,自治体では1/2であり、民間で1/3の補助金を受けた場合、4〜5年で初期費用を回収できると見積もられている。
(日刊工業、電波、日本工業、日経産業、電気新聞01年1月18)

(2)LPG振興センター
 LPGを燃料としたFCコージェネレーションシステムが近く登場する。沼津市内の病院に200kWのPAFC(東芝製)1基を設置し、電力のほか排熱を給湯・空調に利用する。これはエルピーガス振興センターの2000年度石油ガスエネルギー利用システム導入補助事業の一環として建設が進められているものである。建設費2億3,000万円のうち7,500万円が補助される。2001年2月末完成予定。
(化学工業日報01年1月24日)
 

3.MCFCおよびSOFC
 中部電力は、地球環境の保全や資源の有効活用の観点から、FCの技術開発や実証導入に向けた研究開発を積極的に進めている。SOFCについては、コンパクト化が期待できる一体積層(MOLB)方式に着目し、1989年に基礎研究を開始、1990年から三菱重工業と共同で開発を進め、1996年には電気出力5.1kWを実現した。その後、耐久性や信頼性の向上を図って、一体積層(T-MOLB)方式と呼ばれる新型SOFCを開発し、1998年には0.35W/cm2の出力密度を実現した。昨年8月には平板方式としては世界最高出力である15kWを達成、3,000時間を超える長時間発電に成功している。
 他方MCFCに関しては、NEDOの委託を受けて進めている同社川越発電所構内での1,000kW級MCFC発電プラントの運転研究成果を踏まえ、2000〜2004年度の5年間で高性能モジュール(750kW級)を開発する予定で、研究開発活動を積極化させている。
(電気新聞01年1月9日)
 
4.SOFC/GTコンバインドシステム
 Siemens Westinghouse Power Corporation(SWPC)は、実証用1MW級SOFC/GTプラント(pre-commercial plant for the European market)第1号を建設するため、ヨーロッパのエネルギー供給事業4社から構成されるコンソーシアムとの間で、円筒型加圧式SOFCを製作出荷する旨の協定を締結した。このための資金はECのFifth Framework ProgrammeおよびアメリカDOE(SWHとの協定)により補助される。エネルギー事業社とは、ドイツのEnergie Baden-Wuttemberg AG(EnBW)、Electricite de FranceおよびGaz de France、オーストラリアのTiroler Wasserkraftwerke AG(TIWAG)である。
 コンバインドサイクルの総出力は1MWで、その20%はガスタービンが受け持つことになっている。発電効率60%を目標とし、発電電力は電力系統に連系送電される。このプロジェクトの主要な目的は、SOFC/GTコンバインドサイクルの運転経験を得ると共に、SOFCの設計がヨーロッパの技術基準や標準に合致するかどうかを検証することにある。SOFCはPittsburghにあるSWPCにおいて製作され、実証プラントの設置場所であるEnBWに輸送された後、マイクロガスタービンおよびBOPと組み合わせることによりプラントとして建設される。2003年10月までには運転を開始、少なくとも12ヶ月は発電運転を続ける予定である。他方SiemensWestinghouseは、2004年までに出力規模250〜1,000kWのSOFCシステムを、コジェネレーション又はコンバインドサイクル用として商用化することを目指している。ハイブリッドシステムについては既にMarbachにおいて実証経験があり、60%に近い発電効率が得られている。
(Fuel Cells Bulletin January 2001, No.28, p1)
 
5.高温作動のPEFCの開発研究
(1)Celanese、本田、Plug Power
 PEFC技術において画期的な進歩を齎すような成果が、ドイツの化学会社Celaneseと、日本の本田およびアメリカのPlug Powerの共同開発によって生まれようとしている。Celanese AGの意図は、20年前に高温での使用を目的に開発した高分子材料をPEFC用電解質膜に適用し、それによって製作されたMEAを用いて高温で動作可能なFCを実現することにある。この新しい膜を使ったPEFCは、高温動作の故に非常にタフ(rugged)であり、自動車用および定置用のいずれに対しても市場展開は可能である。
 Celaneseはドイツの巨大な化学会社Hoechestの後継会社であり、日本の自動車メーカの本田や、定置式についてはアメリカのPlug Powerと新しいFCの開発を行ってきた。Celanese自身は同社の高分子膜を基盤に、触媒やカーボン電極材など他のコンポーネントは外部から調達することにより、MEAを生産しそれを販売することを計画している。膜の材質はPolybenzimidazole(PBI)と呼ばれる高分子であり、その最大の特徴は200℃以上の高温に耐えられる点にある。膜の材料は350℃でも溶けることは無い。
 電極反応速度は高温では促進されるので、高温動作のPEFCでは、COによる触媒被毒による性能劣化の問題は軽減される。実際Celanese膜を使ったPEFCのshort stackによる運転実験では、2,000ppmの高いCO濃度を持つガスによっても、3000時間の安定な性能を維持したと伝えられている。この成果は2000年10月末から11月2日まで、アメリカのPortlandで開催されたFuel Cell Seminar 2000において、Plug PowerのWilliam Ernst副社長兼上級科学研究者により発表された。
 Celanese膜は、水分の無い状態で動作するので、この膜を使ったPEFCは水分の供給を必要としない。FBIは湿気を綿の如く吸収する性質を持つので、月面着陸した宇宙飛行士のスーツ用材料として、又イラク戦争の時には、化学物質から人間を守るためのスーツに使われた可能性があると指摘されている。そしてより確実には、化学工業で作業する従業員や、消防士のための護身用スーツとして用いられている。これもこの膜を用いたPEFCを従来に増してタフにする一つの理由となっている。
 コストについては、膜自身が従来のそれに比べて安価であるかどうか不明である。しかしこの膜を用いたPEFCシステムでは、改質プロセスにおいて在来のそれが必要としたCO濃度を下げるためのPROXプロセスが不要になり、更に水蒸気や熱を制御するためのコンポーネントを省略するか、少なくとも小型化することが出来るので、システムのコスト有効性は高くなる(cost-efficient)ものと期待されている。そしてこの新しい技術は、ガソリン改質への道を切り開くことにも貢献することになろう。
 2000年12月、本田との協定共同発表において、Celanese社の役員(management board member)であるErnst Schadow氏は「我々の意図は今や萌え出でんとしつつあるFC産業において、主要なMEAサプライヤーとしての地位を獲得することである。今回の協定は、自動車分野における我々の事業達成のために、重要な意義をもつものである」との見解を表明した。
 昨年4月には、同社の前身であるAxiva GmbHとPlug Powerとの間で、同様の協定が締結された。 Axivaとは以前のHoechstのCentral Engineering and Research Departmentであり、これは後にCelaneseの子会社に引き継がれた。1999年にHoechstがフランスのRhone Poulencと合併してその名はAventisと改められたが、それに伴ってAxivaはCelanese Ventureと呼ばれることになった。Plug Powerとの協定において、当時のAxivaのBernd Sassenrath社長は「我々はMEA供給者の第1人者となることを目指しており、今回のPlug Powerとの協力関係は市場における成功者となるために決定的な意味を持つ」と述べている。
 既に述べたように、Celanese 自身はMEAの生産のみを受け持つ計画であり、膜そのもを市場に出す積りはないと語っている。そしてPEFCスタックやシステムの生産はパートナーに任せるようである。Celanese VentureのManaging DirectorであるTore H. Land氏は「本田やPlug Powerとの共同開発の進展にもよるが、2002年にはMEA生産工場の建設場所を決めたいと考えている」と述べている。そしてこの技術は65以上の特許によって防御されているとも伝えられている。
 アメリカのSRI internationalの関連企業であるPolyfuelも、同様に高温での動作可能な電解質膜の開発を行っている。彼等の目的は、携帯電話用の超小型メタノールPEFCとしての実用化であり、Plug Powerと同様にアメリカ政府から、Advanced Technology Programを通して資金提供を受けたようである。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, January 2001, Vol.XVI/No.1, pp1-2)

(2)大阪府立大
 大阪府立大学大学院工学研究科の南努教授らの研究グループは中温領域(100〜200℃)、低湿度環境下で高いプロトン伝導性を示す多量のリンを含むシリカゲル、ホスホシリケートゲルの作製に成功した。130℃、相対湿度0.7%(室温で湿度60%の空気を送り込んでいる)の条件下でのプロトン伝導度は10−2S/cmと高い値を示し、約400分間保持した。PEFC用の固体電解質などにつながる可能性がある。研究成果は1月29、30日に大阪市のメルパルクOSAKAで開催される特定領域研究シンポジウム"イオニックス素子の全固体化に向けた基礎研究"で発表する。
(日刊工業新聞01年1月25日)

(3)東洋紡
 東洋紡は耐熱性の高いPEFC用イオン交換膜を開発し、近く電池メーカーなどにサンプル出荷し、新型のPEFCを共同開発する考えである。東洋紡は耐熱温度が高い"ザイロン"と呼ばれる高分子素材の膜を開発し、作動温度を120〜130℃と高めることに成功した。
(読売新聞01年1月21日)
 

6.PEFCの実証運転試験
 東京電力は米国から3kWのPEFC2台を購入、3月末から技術開発センターで中小ビルや家庭への適用を想定したシステムの評価試験を開始することになった。これまで電力会社はPEFCの要素研究は行ってきたが、システムを構築し評価試験にまで踏み出すのは初めてである。「良いPEFCシステムが実現できれば商用導入を図る」と同社首脳は述べており、マイクロガスタービンに続く分散電源ビジネスを視野に入れている。3kWのPEFC2台のうち1台は3月からLPGを燃料に試験を開始し、もう1台は今年度中に購入して都市ガスを燃料に試験を行う予定である。
(日刊工業新聞01年1月25日)
 
7.PEFCの開発と商品化計画
(1)日石三菱
 日石三菱は、家庭用PEFCを2004年をめどに市場に本格投入する計画を明らかにした。1月中にも横浜製油所敷地内で、実証プラントを立ち上げ、商品化に向けた開発を進める。本システムはコージェネレーション方式で、総合効率70〜80%が見込まれる。既に実験室内での試験は終えており、3年後をめどに標準的な1kWの発電システムを作成し、100万円程度の価格で市場に投入する。最終的には20万円程度にまで安くしたい考えである。
(読売新聞01年1月4日) 

(2)東京ガス
 東京ガスは2004年でのPEFCによる住宅用コジェネレーションシステムの実用化を目指してその開発活動を積極的に推進しているが、経済産業省がなどが進める資源循環型住宅開発プロジェクトにも参加することになった。同社の開発コンセプトは"電気も作れるガス給湯器"であり、年間光熱費は約20%削減できるので、初期投資を50万円程度に抑えることができれば、普及の可能性が考えられると推定している。同社の試算では、PEFC住宅用コジェネレーションシステムを導入した場合、都市ガスや電力購入に頼る現状に比べてCO2排出量を24%削減できることになる。特に総合エネルギー効率を高めるカギとなるのは、床暖房による排熱の有効利用である。
(日経産業新聞01年1月9日)

(3)東芝・IFC・シェル
 東芝はアメリカIFCとFC開発の合弁会社東芝インターナショナルフューエルセルズ(TIFC)を2001年4月に設立することになった。東芝は新会社にFC開発部門の全員移籍させて、PEFCスタックの開発を促進し、それの量産化を推し進める。出資比率は東芝51%、IFC49%である。又IFCは自動車用PEFCのスタック開発で英シェルとも合弁企業を立ち上げる予定であり、これによりIFCを軸に日本、アメリカ、ヨーロッパ連合が形成されることになる。IFCはガソリン改質器を用いた50kWの自動車用PEFCを開発しており、今回の東芝、IFC両社の合弁の目的は、PEFCに特化した開発を加速することにおかれている。他方シェルとの合弁ではメタノールや、天然ガスなどあらゆる燃料を対象にした改質器の開発がターゲットになるものと思われる。
 東芝は2000年度中に完成予定の1kWPEFC4ユニットを、又IFCとの共同で10kWPEFC4ユニットを開発中であり、更にNEDOからの委託で30kW機種も手がけている。これらの定置型PEFCの開発は今後TIFCに引き継がれる。3社は協同で定置型及び自動車用の早期市場導入を目指しており、最大の課題である価格については15万円/kW以下にまで下げることを目標と考えている。役割分担は、TIFCはインバーター及び、LPG(液化石油ガス)と都市ガスを燃料とする改質器を導入し、IFCが全体をまとめることになっている。システムの規模ではTIFCは10kW以下を、IFCは10kW以上を担当する。3社連合で、10kW機を2003年から、1kW機を2005年から量産し、販売に乗り出す計画である。
 なお、2000年11月から始まったカリフォルニアのFCV走行耐久実証テストに参加している韓国現代自動車のFCVには、IFC製の燃料電池が搭載されている。
(日刊工業新聞01年1月18日)
 

8.FCV最前線
(1)トヨタ・GM・エクソン連合
 トヨタとGM及びエクソン・モービルの3社が基本的にはガソリンを燃料とするFCVを共同開発する方向で最終調整に入ったことが明らかになった。3社が開発を目指す新燃料は、ガソリンに似た"Clean Hydrocarbon Fuel"と称されるものである。2003年にも市場に投入することを目標とすると共に、世界的な統一規格が定まっていないFCVについて、世界標準の確立を目指し、主導権を握る考えである。トヨタはこれまで、水素を直接使う方式やメタノール改質方式の開発も進めてきたが、既存のガソリンスタンド網を利用できるガソリン方式の方が普及が早いと判断し、最終的にGM・エクソン連合に加わることにした。しかし、トヨタとGMは、将来的には供給基盤を整備して水素直接方式を目指すとの認識で一致しており、ガソリン方式は当面10年程度のつなぎの技術として取り組む方針である。
(読売新聞01年1月1日、9日、10日、日本経済、産経、東京新聞1月9日、朝日、毎日、日刊工業、日本工業、中日、日刊自動車新聞1月10日)

(2)スズキ
 GMとスズキは人事交流を加速することにした。GMのFCなど次世代技術の開発動向を把握するため、2001年1月中旬からスズキの中堅技術者5人を順次GMの研究開発部門に派遣する。GMもスズキの商品企画部門などに部長クラス3人を駐在させる。GMは1月中にスズキへの出資比率を現在の10%から20%に引き上げ、連結対象会社に指定した。FCVは開発競争の焦点となっているが、巨額の費用がかかるためスズキは単独での開発をあきらめ、GMの技術を導入することを決めていた。
(日経産業新聞01年1月11日)

(3)マツダ
 マツダは、早ければ2005年にもFCVを市場投入すると、マーク・フィールズ社長が明言した。フォード・モーターズやダイムラークライスラーなどと共同研究しているFCを採用し、ほぼ全車種へその搭載を検討している。FCVはトヨタ自動車とホンダが2003年、ダイムラークライスラーが2004年から販売すると述べているが、いずれも少量の"先行モデル"に過ぎない。主力車種を含む幅広い車種にFCを展開する方針を明らかにしたのはマツダが初めてである。開発コストを抑えるために、FCを含むプラットフォームはフォードと共通化し、トランスミッションには無段変速機を採用、ガソリン車並みの乗り心地を実現する予定である。満タン時で450〜650kmの走行距離を実現し、価格はガソリン車の5〜10%程度高いレベルに抑えたいと考えている。2001年2月からFCVの公道テストを開始するなど、開発のスピードを加速させようとしている。
(日刊工業新聞01年1月12日)

(4)カリフォルニアFCパートナーシップ
 サクラメント国際空港から南へ自動車で約15分程の距離に、FCVの実証試験場がある。試験は既設の公道を使用しているため特別なコースなどなく、参加自動車メーカーなどのオフィスと整備場が一体となった共用の事務棟があるのみである。事務棟内には、今回の実証試験の歴史的経緯や、参加自動車メーカーのFCVなどのパネルを展示したスペースも設けられている。このプロジェクト(1999〜2003年)は3段階に分けられ、フェーズT(99年)は実証試験の計画と参加企業の募集、フェーズU(00〜01)は16台のFCV(乗用車)と5台のFCバスによる実験走行開始、フェーズV(02〜03)は50台を超えるFCVと20台のFCバスによる試験走行を実施する計画になっている。現在参加しているメーカーはホンダ、ダイムラー、フォード、ワーゲンのほかに日産と現代自動車の6社であるが、現在のところ専門の技術者を常駐させ、毎日FCVの走行試験を行っているのはホンダ(FCX−V3)のみである。
(日本工業新聞00年1月1日)

(5)三菱重工・ダイムラークライスラー等による連盟
ダイムラークライスラー−フォード連合と三菱重工業−三菱自動車連合は、2000年12月末にFCVの共同開発に乗り出すことで合意し、守秘義務協定を締結した。両連合はFCシステムを自動車用だけでなく、定置型システムとしても活用していく方針である。今回の共同開発協定はダイムラークライスラー、エクセルシス、三菱重工、三菱自動車の4社の間で締結された。ダイムラー側は三菱重工の改質器に強い関心を持つと同時に、PEFCの技術開発力にも注目しており、これらのポテンシャルを活用したいとの意図を持っているようである。
(日刊工業新聞01年1月15、17日)
 

9.DMFC
 富山県工業技術センターと"若い研究者を育てる会"が、携帯電子機器や福祉機器に適したDMFCの開発に取り組んでいる。早ければ、2002年にも植物からメタノールを効率的に得る方法の研究に乗り出す考えである。2000年春から、同技術センターの関口主任研究員ら研究メンバーは電池を手作りし、発電効率を高める方法を探ってきた。2000年末までに、水素燃料によるFCの発電効率が全国水準に近づいたことから、今年はDMFCの触媒開発に取り組むことにした。「酵素に類似した有機金属化合物を触媒にすれば、良い結果がでるのではないか」と、彼等は今後の研究に期待を寄せている。
(富山新聞01年1月8日)
 
10.レドックスフローFC
 関西電力総合研究所ではサイクル寿命が長く、待機損失がなく、また過負荷に強い等の特徴を持つレドックスフローFCの開発を1985年から住友電気工業と共同で進めている。鉄−クロム系システムの基礎研究、バナジウム系システムのコンパクト化・大規模化に向けた検証を経て、1999年には小型化によってオフィスビルへの導入が可能になり、大学やメーカー、海外の電力会社等からの発注も出始めた。同研究所では量産効果によるコスト低減を目指し、標準ユニットの確立に着手したが、効率・コスト面から170kWシステムが最適との結論に達した。このような結論を踏まえて、2000年12月から170kW型標準ユニットを同社巽実験センター(大阪市生野区)に設置し、実証運転を行っている。現在、関西学院大学に納入が内定していることも視野に、時間帯によって出力を変えることを想定した負荷パターン試験や短時間充放電などを通して、運転性能の最終評価を実施中である。
(電気新聞01年1月18日)
 
11.燃料関連技術
(1)岐阜大学、長崎大学等
 岐阜大学工学部の元島教授、長崎大学工学部の岩永教授、CMC技術開発(岐阜県各務原市)の菱川研究員らの研究グループは、水素吸蔵合金やカーボンナノチューブに比べて単位重量当たりの水素吸蔵量を飛躍的に高められるカーボンマイクロコイル(CMC)の試作に成功した。水素吸蔵量は、実用化のメドとされる重量比20%以上であり、理論的には最大68%も可能とみられている。FCVや水素エンジン自動車の水素燃料タンクを実現する技術として注目されている。
(日本工業新聞01年1月12日)

(2)日本製鋼所
 日本製鋼は2001年1月17日、FCVの社会基盤となる水素ステーションに必要な水素圧縮機の開発にメドをつけたと発表した。同社は従来から水素ガスを30m3/hの割合で40MPaまで昇圧(体積を400分の1に圧縮)する小型コンプレッサーの試作を進めてきたが、ほぼ完成の目途がついたので、NEDOによるWE-NETプロジェクトのデモプラント向けに、小型コンプレッサーの受注を目指すことにした。世界的需要が見込めるため、欧米市場への展開も考えており、2005年には年間受注100セット、売り上げ規模で30億円の事業に育成する計画である。
 同社は水素吸蔵合金を用いた水素貯蔵タンクおよび同システム開発も手がけており、これに水素コンプレッサーとを組み合わせた水素ステーション・トータルシステムを開発する予定であり、水素燃料自動車の普及に対応して市場展開を進める考えである。
(日刊工業新聞、 化学工業日報01年1月18日)

(3)東京ガスと三菱重工
 東京ガスと三菱重工業は、都市ガスからFC用純水素を製造する高効率・小型の水素分離型改質器のスケールアップに成功した。水素吸蔵合金と組み合わせた水素製造能力は20Nm3/hと、従来比5倍の能力を達成した。これをPEFCに適用すれば20kWの発電に相当する。既存の圧力スイング吸着(PSA)法に比べコンパクト化が可能で、将来FCVの水素供給ステーションとしての利用も期待できそうである。両社はこれまでに、改質と同時に水素透過膜(パラジュウム合金薄膜)で水素のみを分離するプロセスを開発していたが、今回のスケールアップで水素分離モジュールを改良し、さらに水素吸蔵合金と組み合わせることにより水素製造能力の向上が図られた。
(日刊工業新聞01年1月26日)
 

― This edition is made up as of January 26, 2001. ―