54号 来年度はPEFC関連で110億円を投入

Arranged by T. HONMA
1.国家的施策
2.PAFCの市場展開
3.MCFC関連
4.PEFCの開発
5.PEFCの実証運転
6.FCV最前線
7.FCVに対する各社の見解
8.燃料技術
9.その他

1.国家家的施策
(1)経済産業省
 国レベルで燃料電池の実用化の諸課題と取り組み方を検討する燃料電池実用化戦略研究会(会長:茅陽一慶応大学教授)はこのほど中間報告書をまとめた。
 本報告書によれば、経済性の面では自動車用燃料電池は現在の自動車エンジンのコストと同程度になることが必要で、5,000円/kW,1台あたり15万円〜25万円が、また、定置用は家庭用給湯器を代替し、発電器機能に対する価値を付加して1台あたり30万円〜50万円の実現が目標としている。燃料開発とインフラ整備では、燃料電池の見通しとして長期的将来では水素の車載貯蔵技術による自動車が普及されることが望ましいとするが、ガソリン、LPG、天然ガス、DME、メタノールなど、いずれも改質技術、インフラ等の条件により一長一短があるなかで、現時点では水素またはメタノールとするものに限られるとしている。また、定置式では天然ガス、LPG、灯油をあげている。普及へのステップを見ると、2005年頃までに基盤整備・技術実証段階、2005年〜2010年頃が公共施設を中心とした導入段階、2010年頃以降を普及段階と想定している。
 2001年1月中に最終報告書をまとめるが、民間の技術開発、国における基盤整備の議論を深めるために、"燃料電池実用化推進協議会(仮称)"の設立が必要と提言している。(化学工業日報 00年11月17日)

(2)NEDO
 NEDOは2001年度からPEFCの実用化に向けた取り組みを抜本的に強化する。 PEFCの開発および水素ステーションの実証設備などに今年度比80%増しの110億円を投入する方針である。
 NEDOは、今年度を最終年度とする定置型FCの開発、ならびに今年度からスタートしたFC普及整備基盤事業及び高効率FCシステム技術開発などにおいて、実用化に向けた耐久性の向上や生産体制の支援及び標準化等の事業を推進している。このための予算の今年度分は44.5億円であった。また、水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)には16億円を計上し、今年度分トータルとして60億円強を充当している。
 2001年度は今年度で終了する予定であった定置型PEFCの開発を延長し、基礎研究プラス要素研究として30億円を投じるとともに、FCの安全性・信頼性を評価する標準化事業など普及整備基盤事業と、実用化のための補助事業(東芝、松下電器産業、日本電池、日立製作所、三洋電機などの企業への1/2補助)に計50億円を投じる。
 上記基礎研究では耐久性や出力密度などで高いハードルの技術課題を与え、企業からの提案を受ける形で再スタート、4年間の事業となる予定である。要素研究としては新しい膜及びセパレータ材料の開発がポイントとなる。
 また、標準化事業では開発を強化する米国を意識した研究開発テーマを選定して取り組み、日本発の標準化への発言を強化していく予定である。
 2001年度のPEFC開発のための総額は83億円を予定しているが、更に、WE-NETにからんだ2タイプの水素ステーション(2001年末に完成予定)などの費用27億円を合わせると、FC関連には110億円を投入する計画となる。
(日刊工業新聞00年12月29日)
 

2.PAFCの市場展開
(1)東京ガス
 東京ガスは、UPS(無停電電源システム)と組合せて信頼性等の向上を図るなど、PAFCの適用領域の拡大に務めている。特に、高品質・高信頼性電源としてのUPSとの組み合わせによる「UPSハイブリッドシステム」あるいは系統連係用インバータと自立インバーターによる「ツインインバーターシステム」への適用を期待している。また、災害時に予備燃料で電力と水を供給する「ライフスポットシステム」、更には食品工場・下水処理場などでのバイオガス・消化ガスを利用する方法、電池で直流電力をそのまま利用して、例えば浄水場での消毒薬製造に使用するなど、PAFCの適用拡大を試みている。災害時に電気と飲料水を供給するライフスポット用電源としての適用は、既に栗田工業・技術開発センターなどで、採用されている。
 東京ガスのこれまでの導入先は各種研究機関、大学、オフィスビルなどであったが、今後は特にUPSとの組合せによる高品質・高信頼性を重視したハイブリッドシステムに注目していく。UPSはこれまでオンライン用コンピューターセンターなど特定用途のものが大半であったが、近年はオフィスビルでの情報ネットワーク用電源や工場での制御装置用電源などとしても利用されつつある。 高品質電源としてはツインインバーターとしての適用が期待され、系統連係用インバーターに加えて、重要な負荷専用の自立インバーターを備えることで、停電時にも電力を供給する点に利点がある。これらはコンピュータールーム、クリーンルーム電源として最適であり、既に東京都立科学技術大学にも昨年4月より導入されている。
 一方、ガス業界では今年3月から名古屋の東邦ガス本社で200kW実機を用いて、性能確認のためのテスト運転を実施している。 ここではPAFCに標準搭載しているインバーターの代わりに、直流/直流変換器(DC/DCコンバーター)を組み込み、FCからの直流出力をUPSの直流回路に供給する試験を行っている。
(化学工業日報00年12月8日)
 
3.企業活動
(1)日金工
 日本金属工業は、MCFC向けに供給しているニッケル・ステンレスクラッド帯について、4、5年先には年間数千トンの需要開発が期待できると予想している。大規模発電に適するMCFCは、数年先には世界的に普及するとの見通しもあり、市場形成が実現すれば大幅な事業拡大が見込まれている。同社は約10年前から米国FCE社やIHIなどに本クラッド帯を供給しており、過去の使用実績からメーンのサプライヤーとしての評価を確立している。
(鉄鋼新聞00年12月12日)

(2)IHI
IHIは現在の研究開発拠点である東京・豊洲の東2テクニカルセンターの全機能を2003年3月迄に全面的に横浜工場に移転する考えを明らかにした。 但しMCFCについては兵庫県相生工場に(また、防衛機器の開発は瑞穂工場に)移設する予定である。MCFCは実用化へ向けた実証フェーズに入っており、NEDOプロジェクトでは、同社がただ1社開発の最終ステージに残って開発を進めており、相生で今後の実用化開発を加速することとなる。
(日刊工業新聞 00年12月27日)
 

4.PEFCの開発
(1)山梨大学
 山梨大学工学部の渡辺政廣教授はCOの被毒耐性が高く低価格の合金触媒の開発に成功した。それは鉄、ニッケルなどと白金の合金で、メタノール直接酸化の活性が白金単独の20倍となり、次世代のDMFCの実現をサポートする研究成果としても注目される。
 PEFCの触媒としては現在のところ白金以外にはないが、COが触媒を覆い、活性が落ちるという被毒の問題がある。更にメタノール直接酸化の場合は反応が複雑であり、COを副生するため、よりCO被毒耐性の高い触媒が要求されている。  今回、山梨大学では田中貴金属工業とともにスパッタ法で21金属の組成を変えて合金を作成、CO濃度100 ppmを持つ水素ガスに対する酸化活性度を測定した。白金単独の活性は30分で急降下したが、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンの各々と白金を組合せた触媒では90分たっても性能が低下しなかった。さらに回転電極を用いてメタノール酸化速度を計った結果、白金−鉄合金を筆頭に白金単独の十数倍の性能が確認された。X線光電子スペクトルを測定したところ、CO含有水素と接する触媒表面は、白金では100%がCOに覆われていたが、合金の場合はそれが10%ないし60%に限られ、電子状態が変化してCOが吸着しにくくなっている事実が判明した。 同教授はこの結果を基に、今後更に高効率な触媒の開発に取り組むと語っている。
(日刊工業新聞00年12月6日)

(2)三洋電機
 三洋電機は都市ガスを燃料にした家庭用PEFCで触媒や部品の配置の工夫などにより容積を従来の約半分にした。この装置の出力は1kWで、高さ97cm、幅90cm、奥行き42cmである。小型化をさらに進め、部材使用量を減らすことで2003年ごろには製造コストを1台100万円以下に抑え、市場投入する考えである。家庭用FCは2004−2005年頃に普及し始めるとみられているが、同社は2003年ごろの市場投入を目指している。
(日経産業新聞00年12月14日)

(3)電総研と積水化学
 電総研と積水化学工業は共同で、PEFC用の耐熱電解質膜を開発した。これは0℃から160℃までの範囲で高いイオン伝導性を持つ有機・無機ハイブリッド膜であり、材料の合成と事業化は積水化学が担当する。代表的な高分子膜ナフィオン膜と同等のコストを目指し、伝導性を更に向上させるとともに、プロセス開発にも着手することにしている。
 膜構造は有機成分と無機成分が分子レベルで均一に分散したものであり、まずシリカとポリエステルの複合材をベースに、PEO(ポリエチレンオキサイド)などをゾルゲル重合させることにより、透明な自立膜が得られた。同膜のプロトン伝導度は10−2Sで、ナフィオン膜の作動上限が80℃前後であるのに対し、より広い温度範囲で高い伝導性をもつことが確認されている。又強度もナフィオン膜以上であることが分かった。
 今回の膜を応用すればFCの高効率化、小型化が可能になり、これを自動車や住宅のコジェネ用に実用化したい考えである。また、DMFCの実用化にも道を開くものと期待されている。
(日刊工業新聞00年12月25日)
 

5.PEFCの実証運転
 NTT、荏原、荏原バラードの3社は、250kW級PEFCユニットを用いたコージェネレーションシステムのフィールドテストをNTT武蔵野研究開発センター(東京都武蔵野市)で実施すると発表した。250kW級PEFCユニットとしてはアジア初のフィールドテストになる。今後2年間にわたって基本性能を評価するほか、低温水吸収冷凍機と運転制御システムを含めたトータルシステムを検証する。このシステムはカナダのバラード・ジェネレーション・システムズ(BGS)製のPEFCユニットと、荏原製のPEFC用低温水吸収冷凍機を用いたもので、発電効率は40%、総合熱効率は80%になる。システムの大きさは幅7.3m、高さ2.6m、奥行き2.4mである。使用するBGS社の250kWユニットのフィールドテスト機は、米国エナジー社の1号機、欧州アルストーム社の2、3号機に続く4号機目となる。
(日経産業、電気、日刊工業、日本工業新聞00年12月14日、化学工業日報12月15日)
 
6.FCV最前線
(1)フォード
 フォードモーターTH!NKグループの執行役員ジョン・ウォレス氏は、12月7日東京都内で同社の低公害車開発等に関して記者会見を行った。同氏は日本電動車両協会(JEVA)主催の電気自動車フォーラムにパネリストとして参加するために来日したものである。
 ジョン・ウォレス氏は、FCの燃料について「ガソリンを改質して水素を得る方法は既存のハイブリッド車と比較してメリットがない」と述べている。その理由は、「純水素の搭載、メタノール改質、ガソリン改質などは何れも一長一短があるが、ガソリン改質は既存のインフラを使えるというメリットはあるものの、トヨタ自動車のハイブリッド車プリウスなどと燃費は変わらない。効率面を考えるとガソリン改質がいいとは云えない」というものである。また、「天然ガス車との比較では、同じ気体なら改質装置が不要な水素を直接搭載した方がよい」としている。フォードとマツダが共同開発するFCは水素を燃料する"直接型"であり、2004年の実用化を目指している。インフラの制約があるため、特定地域、用途に限られたものとなる模様である。
 フォードは次世代環境対応車の開発についてグループ内の役割分担を策定した。その内容は、FCVをフォード、マツダが担当し、ハイブリッドシステムはボルボ・カーズが中心となって実用化に取り組むというものである。即ち、グループ各社の得意分野に応じて担当を振分けて、開発の重複を回避するとともに、資源の有効化を図っている。また、次世代環境ユニットをグループ内で共用することで量産メリットを引き出し、クリーンカーのコスト競争力を確保していく考えである。
 ハイブリッド車については同分野の技術ノウハウが豊富なボルボがフォードグループに参画したことから一部体制を見直している。エンジンや電気系はフォード及びマツダの開発したユニットを活用、ボルボはハイブリッドシステムの開発で課題の大きい制御システムを担当する。フォードは今後10年以内に、ハイブリッドの世界シェアが20%に達すると見ており、FCVと並ぶ次世代の環境車の主力と位置づけて、早期にラインアップを拡充する方針である。ハイブリッドの第1号車としてフォードは"エスケープ"を2003年に発売する計画で、順次、マツダ車及びボルボ車にもハイブリッド車を設定してグループトータルの環境イメージを向上させる、としている。
(日経産業, 日本工業、日刊自動車新聞00年12月8日)

 なおジョン・ウオレス氏は通産省を訪問し、日本におけるFC技術の現状や次世代自動車について自動車課担当者と意見交換を行った。同氏はFCの改質燃料の考え方として「フォードは中立、まだ選択するタイミングではない」と述べ、世界の有力メーカーがメタノールやガソリンなどを推進していることとは距離をおいた。さらに、次世代の自動車は「FCVとハイブリッド車の競争になる」という見方を示し、ハイブリッドよりも明確に優位性を持たないとFCVは普及しにくいとの意見を表明した。フォードは双方の開発を進めており、それぞれのメリットを生かす"FCHEV(FC・ハイブリッド車)"などの可能性についても言及した。
(日刊自動車新聞00年12月19日)

(2)本田技研
 本田技研工業は独化学大手のセラニーズ社とFC分野で提携すると発表した。セラニーズ傘下のセラニーズ・ベンチャーズが本田技術研究所と共同で設立する研究会社が高性能FCの開発に取り組むことになると伝えている。
(日刊自動車新聞00年12月7日)

(3)鋼管ドラム
 NKKの系列の鋼管ドラム社は、FCV用の燃料水素用容器を開発、自動車メーカーに納入した。同社は天然ガス自動車(NGV)向け燃料容器を主体としたガス容器事業を推進しているが、水素容器の開発もその一環である。納入先の自動車メーカーについては明らかにしていないが、開発した水素容器はアルミライナーにカーボンFRPを巻き付けた軽量容器で、容器内部のガス圧力が天然ガスの200気圧よりも高い350気圧に対応するように強化されている。今後、世界の自動車各社が本格的に開発・実用化を目指しているFCV用車載燃料容器分野に参入していく計画である。
(鉄鋼新聞00年12月7日)

(4)トヨタ自動車
 トヨタ自動車の張社長は2000年12月18日の定例記者会見で「2003年にはFCVをたとえ少量でも商品化できるよう努力したい」とFCV商業化に対する意欲を見せた。燃料を水素そのものにするか、ガソリンやメタノールの改質方式にするかについては、基盤整備も含めて選択が難しいが、すでに給油所が整備されているガソリンが有利だと思う。また、米フォード・モーターとの関係について、資本提携を含む前面提携については「一切ない」と否定したが、FCやハイブリッド車開発等の環境分野で、いろんな会社との協力はあり得ることを示唆した。
(中日、日経産業、日本工業、日刊工業、東京、日本経済、読売新聞00年12月19日)
 

7.FCVに対する各社の見解
 2003〜4年ごろと見られる最初の市販FCVは、他の燃料(メタノールやガソリンなど)を車上で水素に改質する方式になりそうである。いち早く市場投入し支持を集め得たものがその後のスタンダードを決める可能性が高い。このほど、名古屋で開催された"自動車用FCに関する国際シンポジウム"から、各社の開発状況が垣間見えた。以下に各社の責任者による見解を紹介する。
 ダイムラークライスラー社のエリック・エルドル氏:効率の点から水素とメタノールに注目している。発売目標は以下のとおり。FCバスは2002年に30台、FCV全体では2010年に10万台/年で、2020年には世界市場の4〜20%がFCVとなるだろう。
 日産自動車の高木靖雄氏:大型バスやトラックには水素が使われ、乗用車はガソリン改質FCVが最初になるであろう。立ち上がりは2010年以降になろう。
 本田技研の守谷隆史氏:再生可能なエネルギーである水素にする必要がある。途中段階でメタノールやガソリンもあるが、研究中である。2003年にFCVは限定的に発売されるが、普及するのは早くて2010年ごろになろう。
 GMのジョージ・ウディオベル氏:走行距離が短い少量生産車なら水素ガス、量販車ならガソリン改質となる。長期的には水素の直接貯蔵だ。量産は2010年までは無理。各社とも、FCの種類はPEFCと予想している。
(日刊工業新聞00年12月20日、21日)
 
8.燃料技術
 GMの研究開発チーム調査団は、FC向けの水素吸蔵物質の研究で成果を挙げている広島大に、共同研究を申し入れた。研究開発チームは、本テーマを研究している藤井博信教授(総合科学部)と会談し、研究成果について説明を受けた。会談後、クリストファー・グリーン上席本部長は「研究は世界最高レベルにあり、実用化が可能である。大学が求めれば再度調査チームを派遣したい」と共同研究に意欲をみせた。藤井教授は「マツダなどと共同研究してきた経緯があり、即答はしなかった」としているが、「研究を発展させるため多くの企業や研究機関と共同研究する考えはある」と述べた。
(中国新聞00年12月8日) 
 
9.その他
(1)カネボウ
カネボウは、フェノール系高性能活性炭"ベルファイン"(商品名)の生産能力を現在の3倍に当る年200トンに大幅増強する。 防府工場に約5億円を投資して大型プラントを新設、来年度の稼働を目指して近く着工する予定である。携帯電話や携帯情報端末向けの二次電池用材料で需要が急増しており、今回の増設を機に、FCなど新分野への用途開拓も本格化する方針。メイン電源分野への参入を狙っているほか、FC用電極材の研究開発に着手しており、3年以内には実用化に漕ぎ着けたいとしている。(化学工業日報00年12月21日)
 
― This edition is made up as of December 30, 2000.―