53号 FC実用化戦略研究会が中間報告書を発表

Arranged by T. HONMA
1.国家的施策
2.FCV最前線
3.企業活動

A POSTER COLUMN

1.国家家的施策
(1)資源エネルギー庁
 国レベルで燃料電池の実用化の諸課題と取り組み方を検討する燃料電池実用化戦略研究会(会長:茅陽一慶応大学教授)はこのほど中間報告書をまとめた。
 本報告書によれば、経済性の面では自動車用燃料電池は現在の自動車エンジンのコストと同程度になることが必要で、5,000円/kW,1台あたり15万円〜25万円が、また、定置用は家庭用給湯器を代替し、発電器機能に対する価値を付加して1台あたり30万円〜50万円の実現が目標としている。燃料開発とインフラ整備では、燃料電池の見通しとして長期的将来では水素の車載貯蔵技術による自動車が普及されることが望ましいとするが、ガソリン、LPG、天然ガス、DME、メタノールなど、いずれも改質技術、インフラ等の条件により一長一短があるなかで、現時点では水素またはメタノールとするものに限られるとしている。また、定置式では天然ガス、LPG、灯油をあげている。普及へのステップを見ると、2005年頃までに基盤整備・技術実証段階、2005年〜2010年頃が公共施設を中心とした導入段階、2010年頃以降を普及段階と想定している。
 2001年1月中に最終報告書をまとめるが、民間の技術開発、国における基盤整備の議論を深めるために、"燃料電池実用化推進協議会(仮称)"の設立が必要と提言している。(化学工業日報 00年11月17日)
 
2.FCV最前線
(1)ダイムラークライスラー
 独・ダイムラー・クライスラー社はメタノールFCV"ネッカー5"を公開した。「環境に優しい燃料電池車の燃料は直接水素ではなく、メタノールが最も有望である」とシュレンプ会長は名言し、2004年にFCVの発売を目指している同社は、はっきりとメタノール路線を表明している。
 公開された"ネッカー5"はバラードパワーシステムズの75kW規模の燃料電池スタックを、改質装置には水蒸気改質法を採用している。メタノール改質の最大の問題点は起動時間にあり、"ネッカー5"は3分の起動時間を要している。
 2000年11月からカリフォルニアで自動車メーカーと燃料会社がパートナーを組んで3年間のFCVの公道耐久テストが始まっている。同社は液体水素燃料の"ネッカー4"を圧縮水素燃料に切り替えた"ネッカー4a"を開発、公道テストに入っているが、FCVはあくまでもメタノールがメインだとダイムラークライスラー社は考えているようである。カリフォルニアの走行試験では2002年にメタノール車を持ち込む他、日本でも2001年に日石三菱構内において、"ネッカー5"のデモ走行する計画がある。
 FCVでは同社は三菱自動車工業、三菱重工とも提携関係を強化していく。三菱重工では50kWのメタノール改質の燃料電池を開発して、三菱自動車の車に搭載、実証することを計画しているが、今後はダイムラーが先行するメタノール改質FC技術をドッキングさせるための提携も具体化して来そうである。
 ダイムラー社はメタノールこそが本命と位置づけながらも途中段階では直接水素燃料FCVの開発にも余念がなく、2002年にはバスでこれを実用化させる計画である。バスのように路線が決められており、スタンドが特定の場所にしか必要としないような交通システムには使えるからである。水素スタンドの数がわずかでも、20年後には実用可能な水素FCバスは新規需要の100%を占める可能性が高いとも予測している。
 FCVのマーケットに関して、同社R&D部門シニア―マネージャーのエリッヒ・H・エルドル氏は、名古屋で開催されたFCシンポジウムのパネル討論において「FCVを2004年に発売し、2010年には少なくとも年間10万台を発売したい」との見解を表明した。同氏の予想によれば「2020年に全自動車市場の最低4%、普及が進めば20%がFCVに替わる」とのことである。
 一方、同社はDMFCを用いたゴーカートを開発している。試作とはいえDMFCを使って実際に動く車が実現したことは、DMFC駆動車の実用化に向けて大きなステップを踏み出したことになると評価されている。(日刊工業新聞 00年11月14、15、16日、11月23日)

(2)トヨタ
 トヨタのFCVを担当する渡辺浩之常務は名古屋で開催されたFCシンポジウムで講演し、「FCVの有力な燃料として2010年頃まではガソリン改質が、20〜30年頃は天然ガスが有力。その先の50〜100年にかけては、水素や太陽エネルギー、バイオマスなどが有力になる」との見方を示した。又、講演後「トヨタはガソリン改質のみならず、メタノール改質なども継続開発している。ただ、既に供給インフラが整備されているガソリンの性能を向上させることで、内燃機関とFCが共存できる夢の時代が来る」と説明した。(日刊工業新聞00年11月22日)
 

3.企業活動
 東京ガスは東京電力の自家発電代行子会社、マイエナジーに資本参加することを決めた。出資比率は15%で東電に次ぐ第2位の株主となる。東ガスと東電は今回の提携を機に、マイクロガスタービン(MGT)コージェネレーションシステムの開発・普及で協力するほか、将来的には小型FC分野での業務提携も検討する。尚、マイエナジーは東電が今年3月、日石三菱、三菱商事などとの共同出資で設立した会社で、今回の東ガスの資本参加により新しい主要株主構成は、東電57%、東ガス15%、日石三菱10%、三菱商事10%となる。東電は設立当初より東ガスの資本参加を求めていたが、東ガスは都市ガス燃料のMGTコージェネシステムの技術確立にめどがたったため、東電の要請を受け入れることとした。(日本工業、電気、朝日新聞00年11月21日)
 
― This edition is made up as of November 24, 2000.―

 
A POSTER COLUMN
DaimlerChrysler Necar5
 予告から1年経過した2000年11月、DaimlerChryslerは待望のメタノール改質車Necar5をベルリンにおけるpress conferenceで公開した。同時にメタノール改質FCを動力源とする大型ジープCommander2も展示された。このジープは2001 Jeep Grand Cherokeeとほぼ同じであるが、幅は7インチ広く、重量は5,700lbsである。メタノール1ガロン当たり12マイルの走行が可能と発表されている。
 この発表会に出席したドイツのSchroeder首相は"It's a fascinating concept"とDaimlerChryslerに賛辞を呈し、又同社のJuergen E. Schrempp会長は「我々は既に2度の石油危機を経験したが、3度目の危機は避けなければならない。FCは石油による単一文明(petroleum monoculture)を長期に亘って継続させるための現実的な手段を提供することになろう」と講演した。又FCプロジェクトの総括責任者であるDr. F. Panikは「Necar5によってFCVを現実のものとしようとする我々のゴールに更に一歩近ずいた」と述べている。このゴールとは、具体的には水素を燃料とするFCバスを2002年までに、同じく水素燃料のFC乗用車を2004年にマーケットエントリーさせることを指しているようである。しかし同社の技術開発に関わっている役員室のKlaus-Dieter Voehringer教授は「マーケットエントリーを実現したとしても、水素供給インフラの不足とFCVの信頼性に対する疑心から、少なくとも最初の3年間は、購入される車の数は極めて限られたものになろう」と述べ、更に彼は「この間メタノール改質FCVを多量に社会に提供することができれば、このマーケット事情は変わったものになろう」とメタノール燃料車に対する期待を表明した。
 Necar5を前回公開されたNecar3と比較すれば、幾つかの点で進歩が見られる。その第1は、PEFC動力システムの小型化によって、利用可能なスペースが広がったことである。Necar3では、後部座席とトランクの大部分のスペースが、メタノール改質器および補助機器によって占領されていたが、Necar5では動力システムは客席の床下に2重構造の板に挟まれる状態で格納されている。又PEFCスタックも前回は、2ユニットで出力50kWであったのが、今回はBallard Power SystemsのMark900が採用されており、出力は75kWにまで増加した。
 他方Jeep Commanderは、2個のモータによる前軸および後軸駆動方式で、エンジン部分は出力82kWのXcellsis製PEFCおよびニッケル水素電池によって構成されたハイブリッド方式になっている。したがって、回生制動により電力を回収する方式が採られている。燃料タンクには10ガロンのメタノールが貯蔵され、これによって120マイルの走行が可能である。ここでXCELLSIS Fuel Cell Engines Inc.とは、元のdbb fuel cell engine inc.であり、DaimlerChrysler、Ford Motor、およびBallard Power Systemsによって設立された。カナダのBurnabyに位置し、バスやトラック重過重車用FCエンジンの開発と製作を担当している。
 これらとは別に、DaimlerChryslerは次世代FC技術の1つであるDMFCを駆動源として用いた小さい試験用ゴーカート(go-cart)を試作・公開した。出力わずか3kWのDMFCによって、このゴーカートは最高速度22mphを達成し、燃料タンクに注入されたメタノールによって9マイルの走行が可能である。そしてこのDMFCはPEFCよりも若干高い110℃で運転することができる。キーコンポーネントは特別に開発された電解質膜といわれているが、その技術の詳細については発表されていない。  これに続く出力6kWのDMFCが現在DaimlerChryslerのUlm研究センターで試験運転が行われようとしている。同社は「これが目下のところ製作し得る最大級のDMFCであるが、2002年までにはより大きな研究システムを建設し、数ヶ月に亘る長期試験を実施したい」と語っている。今後の開発課題として、コスト低下、小型化、高効率化、そしてより適した冷却システムの開発が挙げられている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, December 2000, Vol.XV/No.12, p1, pp4-5)

本田技研のFCX−V3
 本田技研工業は、新しい燃料電池自動車FCX−V3を製作し、California Fuel Cell Partnershipに出品することになった。これは過去に製作発表したFCX−V1およびFCX−V2(メタノール車)に続くものであり、又同社が過去に開発した電気自動車、CNG車、ハイブリッド車等の次世代車に採用されたそれぞれの最新技術を適用している点に特徴がある。FCX−V3の幾つかの具体的な特徴を纏めると次のようになる。  燃料は水素であり、その点ではFCX−V1に続くものであるが、V1が水素吸蔵合金を用いたのに対して、V3では250気圧の高圧水素ガスが用いられた。その結果燃料貯蔵タンクの重量は4分の1となり、車体重量もV1の2,000kgからV3は1,750kgまで12%軽量化されている。更に特筆すべき特徴は、起動時間が前回の車種が10分を要したのに比べてV3はわずか10秒にまで短縮され、更に燃料(水素)補給時間も20分から5分へと大幅に減少したことであろう。
 動力源の動力源については、FCX−V1では自社製のPEFCが搭載されたが、V3はBallard製の出力62kWPEFCを採用した。研究者は"Ballard is very advanced"と語っている。 しかし次世代車では再び同社のPEFCを搭載する可能性を研究者は示唆している。更に動力システムの負荷応答性を向上させるため、ウルトラキャパシターが装備された。
 第3の特徴は、各種コンポーネントがコンパクトに纏められている点であり、その結果燃料電池動力システムは、床下にサンドウィッチ構造の間に格納された。客席は前後各2席ずつ合計4席が配備されている。
 最高速度は81mph(130km/h)、走行距離は112mileとV1に比べて差は無いが、同社は2002年までに重量を1,650kgまで減少し、走行距離を125mileまで延長、コストは30%は減少させたいと述べている。 このような技術上の成果にもかかわらず、FCVの本格的な普及は10年から20年の年月を要すると研究者達は考えているようである。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, November 2000, Vol.XV/No.11, pp1-2)

FUEL CELL 2000から
 アメリカのPortlandで開催されたFC SEMINAR 2000には、John B.O'Sullivan組織委員長の発表で1,700人、実質は1,900人以上が参加したと云われている。参加したレポーターからは「本セミナーは従来の技術的な討議から、ビジネスによる市場活動の場へと移行しつつある」との感想が聞こえてくる。あるいはRobert Rose氏の言葉を借りれば「技術開発に関するテーマは常に存在するが、FCは研究開発の段階からマーケットエントリーの段階に飛び立とうとしている」ようである。しかし会場にはFCに対するオプチミステイックな雰囲気がある一方で、何が実現可能であり、何が実現不可能かを見極めようとする人々の目を感じたとする論評も聞こえてくる。
 O'Sullivan氏は、今回のセミナーの特徴の1つは、50以上の企業や研究機関から展示のあったことで、特にFCを開発している会社のみならず、その周辺に位置する第2の層(2nd-tire suppliers)が多く参加したことであると述べている。これらの展示の中には、Aero Vironment, Inc.、Asia Pacific Fuel Cell Technologies、Ltd.、Ztek Power Corp.、Ztek Corp等が含まれている。展示の中で最も刺激的に映ったのは、FC駆動スクータであろう。このスクーターは、カリフォルニアのAsia Pacific Fuel Cell Technologiesによって提供されたが、同社以外にKwang Yang Motor Co.(台湾)、Taiwan Institute of Economic Research、W.Alton Jones Foundationがこの開発に協力したと報告されている。
 FCスクーターの開発は、2年前Desert Research Institute(DRI)によって始められた。当時DRIの研究助手(graduate research assistant)であったAme K. Laven氏は、現在Asia Pacificの上級開発担当技術者(senior development engineer)を務めている。彼は「この水素を燃料とするFC駆動のスクータは、計画された4台のプロトタイプの2番目の製品であり、重量は120kgでガソリン駆動のスクータよりは重いが、電動スクータとは同程度である。今後モータ等電機部品を置き換えることによって20kgは軽くなる」との希望を表明した。現在の設計ではPEFCエンジンの出力は4kW、軸出力は2.9kWであるが、これらを各々6kWおよび5.1kWとし、最終版での目標性能は最高時速が50mph、走行距離は100マイル、燃料となる水素は、鉄・チタン系からなる2本の円筒型水素吸蔵合金に蓄えられることになっている。生産は2002年末までには開始、2003年には限定生産、そして2004年までには本格的な生産に入るとの計画が示されている。
 歓迎の挨拶の中でO'Sullivan委員長は、最近の特筆すべき事柄として、1)世界中で運転されている200ユニット以上のPAFCによる累積発電時間は350万時間に達したこと、2)SiemensWestinghouse製SOFC/GTコンバインドサイクルが50%の発電効率を実現したこと、3)2000年に入って8社が家庭用FCの実証運転を開始し、この内6社がPEFC、2社が平板型SOFCである、そして4)FCVの開発が進展し、ほとんど全ての自動車メーカが、California Fuel Cell Partnershipに参画しようとしている、を掲げた。
 セミナー初日のkeynote lectureにおいて、Ford Motor Companyの役員で、Th!nk Groupを指揮するJohn Wallace氏は、FCVに対する期待が高まっているが、実証運転から消費者による容認を経て商用化レベルに達するステップは、そんなに容易なものではないと語っている(These steps won't be easy)。平均的な消費者は、それがFC技術だからという理由によって高価な対価を払おうとしないであろう。FCVは他の技術と性能およびコストの両面で競争可能でなければならない。そしてその効率はwell-to-wheelsベースで評価されるべきである。更に彼は「消費者は300マイル以上の走行距離が可能で、給油が容易であり、乗り心地と操縦性に優れ、信頼性があって安全であること、更に起動が速い車を望んでいる」との見解を示した。商業化に至るための手段としては、政策的措置、エネルギー危機、あるいは技術のブレークスルー、それらのどれであろうと、何かある種のトリガーが必要と思われる、とも述べている。J. Wallace氏は、現在California Fuel Cell Partnershipのsteering teamの議長でもある。
 ある消息通は、FCVを巡る人々の思惑について次のように述べている。すなわち、少なくとも小規模な会社の人たちの間では、自動車用FCの早期の商用化に対して疑念を抱いている人が多い。特にコスト面においてその難しさを感じている。基本的には、電子レンジ程の空間に、その10倍ものエネルギーを発生させなければならない自動車用FCよりは、冷蔵庫のサイズで4ないし10kWの出力を出せばよい家庭用FCを作り上げるほうがずっと容易である。これらの会社は当面家庭用定置式FCの実用化に焦点を当て、しかる後に自動車用FCを視野にいれる考えのようである。勿論Ballardのような大きい会社は、小型定置式も視野に入れながら、自動車用FCの商業化への道を推し進めている。
 Keynote AddressにおいてDOEのJoseph Strakey氏は、FC関連プロジェクトに関するアメリカの2001年度予算について報告した。彼はNETL(DOE's National Energy Technology Laboratory)のStrategic Centerのassociate directorである。それによれば投資額は合計1億3,000万ドルで、その内訳は定置式FCに対しては5,800万ドル、自動車用FCに対しては4,200万ドル、そして水素技術が3000万ドルである。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, December 2000, Vol.XV/No.12, pp1-3)