51号 本田技研FCX-V3で始動時間10秒に短縮

Arranged by T. HONMA
1.国家的施策
2.MCFC開発体制
3.SOFC技術の新展開
4.MGTとPEFCの実証試験
5.PEFCの研究開発
6.PEFC開発戦略と体制
7.FCV開発戦略
8.ガソリン改質プロセッサー
9.FCスクータの開発
10.FC航空機の実用可能性調査プロジェクト

1.国家家的施策
 (1)資源エネルギー庁
 燃料電池の実用化・普及に向けて"燃料電池実用化推進協議会"(仮称)が発足することになっているが、これに先立ち賛同メーカー12社および事務局となる新エネルギー財団(NEF)により設立準備会が設置され、会則などの協議を進めている。11月中に公募による参加企業の募集を予定しており、2001年1月をめどに設立総会が開催される見込みである。この協議会では家庭用分散電源、自動車用電源向けなどに研究開発が進むPEFCを中心に、民間レベルで導入・普及を進めるのに必要な制度面での環境を整備すると共に、国の施策に対する政策提言を取りまとめる方針である。(電気新聞00年10月13日)

(2)アメリカ大使館
 在日アメリカ大使館商務部主催による、環境にやさしいエネルギーについての米国の最新技術を紹介する展示会"アメリカ・エコ・エナジー2000"が10月12、13日の両日東京池袋のUSトレードセンターで開催された。本展示会は今回が初めての試みであり、燃料電池やコージェネレーションに実績を持つアメリカ企業13社(IFC、H Power、Honeywell Power Systems 等) が参加した。(電気新聞00年10月13日、日刊建設工業新聞同10月10日)
 

2.MCFC開発体制
 IHIは来春にも燃料電池の生産ラインを設置する方針を固めた。新ラインは数百kW以上のMCFCの生産設備である。同社は分散型電源用MCFCの普及を図るため、2000年2月にFCプロジェクト部をエネルギーシステム部へ再編し、7月には技術開発本部のFC開発部を同システム部に統合した。開発・製造の一本化により、総勢60人規模の組織を誕生させている。(日本工業新聞00年10月7日)

 
3.SOFC技術の新展開
 東京ガスでは先に950℃で作動する 平板型SOFCを開発し、スイスのスルザーヘキシス社の都市ガス駆動SOFC試験装置に組み込んで1.1kWで運転試験を実施、小容量でも熱自立運転が出来ることを実証した。 同社はその後、起動停止性能を高めるため、700℃前後で運転できる低温作動型SOFCの開発に取り組んでいる。成形した燃料電池基板にジルコニアペーストをスクリーン印刷した後に共焼結する方法を検討した結果、厚さ30ミクロンの緻密で均質な電解質層とそれによる高い出力密度が得られたとしている。(化学工業日報00年10月2日)
 
4.MGTとPEFCの実証試験
 北海道電力はマイクロガスタービン及びPEFCの実証運転試験を開始することになった。ガスタービンはアメリカのキャプストン社から購入した灯油仕様出力28kWの装置で、北海道電気工事との共同研究によって2000年10月から2003年3月にかけて試験運転を実施し、発電効率や排熱量、排ガスの発生状況などを検証する。他方PEFCはHパワー社製で、燃料はLPG、出力は3kW、同社の総合研究所に設置し、2001年1月から2003年3月迄の予定で実証試験を行い、電圧変動、熱回収率などの特性を調査する。(日経産業新聞00年10月2日)
 
5.PEFCの研究開発
 上智大学理工学部の陸川政弘助教授はPEFCで、室温から150℃まで対応できる固体電解質膜を開発した。同助教授は従来から炭化水素系の高分子膜の開発研究に取り組んでいたが、今回は側鎖にリン酸エステル基を持つメタクリル酸エステル誘導体でユニケミカルの"ホスマー"を取り上げた。これを重合したポリリン酸は水を含ませた室温において、又150℃では無水で平均10−3S/sq.cmレベルの導電率を示す。更にビニール基モノマーと共重合すると、引っ張り強度は100Mpaまで高まることが分かった。すなわち水を含ませたリン酸エステル基を持ったビニール系ポリマーが縮合水を持つため導電性が維持され、スチレンやアクリロニトリルと共重合すると強度が高まるわけである。 従来の実用開発段階にあるPEFCではフッ素樹脂膜が使われているが、耐熱性が100℃以下に限られていたため冷却が必要で、そのためにコストが高くなっていた。新開発の電解質膜が高温に耐えるのはポリリン酸が構造上、化学平衡で縮合水を保持し、温度上昇でリン酸側鎖が動いてぶつかりプロトン伝達がされるためと考えられている。(日刊工業新聞00年10月3日)
 
6.PEFC開発戦略と体制
(1)出光興産と松下電工
 出光興産と松下電工はPEFCの技術開発で提携し、共同で事業化すると発表した。出光が得意とする触媒技術と松下電工の電池技術を融合し、家庭用の1〜3kW級の小型電池を開発し、2004年度の商品化を目指すとしている。商品化する燃料電池の原燃料には液化石油ガス(LPG)を使用、発電効率、熱回収率はいずれも35%、価格は50万円/kWに抑え、2004年度に1,500台、2010年度に15,000台販売する計画である。(日本経済新聞00年10月1日)

(2)荏原バラード
 荏原は、荏原バラードの藤沢工場が完成し、1kW級のPEFCプロトタイプの製造を開始したと発表した。今年度は第1世代のプロトタイプ機を8台、来年度は第2世代のプロトタイプ機、そして2002−2003年度に準商用機を製造した後、順次製造設備を拡張し、2004年度より本格的に商用機(価格は50万円を目標)を生産する計画である。新工場にはスタック単体試験設備をはじめ、システムプロセス実験設備、コージェネシステムの性能試験設備と耐久試験設備のほか、年間200−300台の製造能力があるプロトタイプ機の組立てラインも設置した。(電気、日刊工業、日本工業、日経産業新聞、化学工業日報00年10月11日)
 

7.FCV開発戦略
(1)富士重工がスバル研究所を吸収合併
 富士重工は全額出資関係会社の会社スバル研究所を2001年4月1日付けで、同社に吸収合併すると発表した。資本提携している米国ゼネラルモーターズ社(GM)とFCVなど先進技術開発の役割分担を整備するためであるとしている。(日本工業新聞00年10月3日)

(2)本田技研工業
 本田技研工業がFCVでシステムの小型化や始動時間の短縮化などを進めた実験車3号"FCX-V3"を2000年9月末に公開した。同社は99年9月に実験車2号を公開したのに続き、今回も報道陣向けに試乗会を開くなど意欲的な情報公開を進めている。V3はV2が後部座席部分を占めていたFC制御システムを小型化して2人乗りから4人乗りの室内空間を確保するなど、大幅な改良を行っている。  また、ウルトラキャパシタ(電解2重層コンデンサー)を開発、始動時間を10秒に短縮し、加速性もアップした。これまで10分程度かかった始動時間を大幅に短縮したことで、航続距離も2倍の180kmまで延びた。依然ガソリン車の半分以下であるが長足の進歩である。このV3実験車は11月からカリフォルニア州サクラメントで始まるFCVの公道走行耐久テストに参画するために開発したものである。なお、V2の燃料はメタノールを使用したが、V3は純水素を使用している。このFCX-V3はバラード社製出力60kWPEFCを床下に搭載している。250気圧の高圧水素タンクに充填した水素を燃料としており、水素吸蔵合金と比べ1/4にシステムを軽量化している。
 一方、トヨタ自動車はGMとFCVの共同開発を表明しているが、1997年秋以来、FCVの実験車を公開していない。(日経産業新聞00年10月5日,日刊工業新聞同10月3日)

 

8.ガソリン改質プロセッサー
 GMとExxon Mobil Co.,は、他社の協力を得て行ってきたガソリン改質プロセッサーの開発状況について発表した。この共同開発は1998年にスタートしたもので、autothermal reformer で最大効率80%を実現した。ガソリンから電気出力までの総合効率(BOPを含めて各プロセスでの全損失を含める)については40%が目標値として掲げられている。彼等はこの成果をガソリンFCV実現のための"major breakthrough"と位置ずけており、GMのFCシステム開発担当主任技術者Matthew Fronk氏は「ガソリン改質器を車載した実証自動車は今後1年半後には製作され、商用車は今後10年以内に実現するであろう」と語っている。更にLawrence D. Burns副社長は、このプロセッサーはGMにとっては第2世代の作品であって、彼は次世代のプロセッサーは重量、容積共に半分になるであろうと期待を表明した。なお、この成果は半年前にIFCとGMの子会社であったDelphi Automotive Systemの両社による同様の成果発表に次ぐものである。今後ガソリンFCVを実用化するためには、出力25kWのPEFCおよび改質プロセッサーを含めてシステムの最適化検討が行われることになろう。又ガソリンに含まれる硫黄はスタックの性能を害するので、PEFC動力の実用化にとってはガソリンからの脱硫が重要な課題であるとの指摘が述べられている。  GMとExxon Mobileは、将来交通輸送手段の燃料は水素になるであろうとの前提に立って、このガソリン改質プロセッサーは過渡的な技術として位置ずけているようである。GMのHarry J. Pearce副会長は「我々は将来の自動車用燃料は水素になると予想しているが、それを商業化するためには、膨大な数の水素スタンドを建設し、かつ車載可能な水素タンクを開発するという技術的なハードルを克服しなければならない」と語っている。これは当面ガソリンFCVで行かざるを得ないとの認識を意味している。 (Hydrogen & Fuel Cell Letter, September 2000, Vol.XV/No.9, p5)
 
9.FCスクータの開発
ドイツの小さなエンジニアリング会社が、1970年代に水素技術の分野で活躍した専門家が組織して、PEFC駆動によるスクーターの開発に乗り出すことになった。この会社はRoger Billings氏を中心とするBillings Research Internationalで、このFCスクータの開発には、Schiller氏が率いるSchiller Energy & Power Systemsが協力することになっている。2000年7月に両社は開発のための技術協力協定に調印した。 Billings氏は70年代に水素技術の先駆者として又FCの開発で知られた人である。克ってコンポーネントの製作にレーザを用いたため、彼自ら"レーザFC"と名前を付けたFCを製作したことがあり、それによって"Ford Fiest"を改造してFCVを試作した経験を持っている。他方Schiller氏は1994年に走行距離が60マイルの電気スクータを開発し、その後効率を向上させることによって、走行距離を未だ克って達成されなかったレベルにまで更新させることに成功した。これを実現させたベースには、従来の直流モータに比べてはるかに小型で軽量なブラッシレスモータの開発成果がある。1988年以来、彼はBillings氏とコンタクトを保ってきた。両氏がこれから協力して開発するスクータ用の実証推進機構1号機は、出力3.5kWのPEFC/電気モータを組み合わせたユニットであると述べている。それ以降生産されるスクータの推進機構は、出力5−7kWのレベルになり、そのユニットの形状は円筒型で、直径が約120mm、高さが200−250mmになるものと予想されている。 彼等が開発しようとしているFCスクータは、水素化物(hydride)から成る水素燃料タンクを備えており、1回の水素充填で可能な走行距離は、2000kmである点を強調している。2001年には実証車、2002年にはプロトタイプ車を製作、そして2003年までには数千台の車両を生産する計画を立てている。 水素化物を用いた水素燃料タンクは、Billings氏が受け持つことになるとSchiller氏は述べている。上述したような長い走行距離を実現させるためには、水素タンクのエネルギー貯蔵容量を大きくしなければならない。各種水素貯蔵タンクとFCを組み合わせた動力部門によるエネルギー貯蔵容量をざっと比較すると、鉛蓄電池では約20Wh/kg、金属水素化物バッテリーで60−80Wh/kg、リチウムイオン電池が150Wh/kgであるのに対して、水素化物では500Wh/kgが達成可能であると期待されている。コストについてSchiller氏は、蓄電池で駆動する電気スクータの$2,500よりも少し高価な$3,000レベルにしたいとの希望を持っているが、それについて確信を抱いているわけではないと述べている (Hydrogen & Fuel cell Letter, September 2000, Vol.XV/No.9, pp1-2)
 
10.FC航空機の実用可能性調査プロジェクト
 この記事は「もしアメリカNASA Glenn Research CenterのDavid Ercegovic 氏の率いるチームが、前向きの結論を出すことに成功すれば、数十年先には有害ガスの排気がなく、且つ騒音の発生もない水素駆動の電気飛行機が社会に登場するかも知れない」とのセンセイショナルな見出し掲げている。これは航空機の燃料を水素に変えることにより、CO2の排出をゼロにしようとする構想であるが、推進機構としてジェットエンジンやガスタービンのみならず、FCによる電気推進が候補として挙げられている点に特徴がある。電気推進によって騒音の発生を無くすることが可能になる。このプロジェクトは、DaimlerChrysler Aerospace Airbusが中心になって、ヨーロッパの研究機関が進めている水素航空技術の調査研究と類似性を持っている。このような構想を推し進めようとする動機の背景には、イギリスのInstitute of Public Policy Research(IPPR)による報告があるが、それは「運輸部門から排出されるGHG(greenhouse gases)に占める航空機のシェアは目下のところ未だ小さいものの、非常に速い速度で増加しつつある」と述べている。  過去にNASAは航空機の推進に水素を適用する技術開発を手がけたことがある。今回のプロジェクトでは、NASAの掲げている目標は、航空機から排出される排気ガスの内、NOxに関しては今後10年以内に1/3減少させ、CO2については10年以内に25%、25年以内には50%減少することを掲げている。このプロジェクトでNASAは7人の科学者をこのプロジェクトにおけるフルタイムの専任とし、2000年から2002年までの3年間に700万ドルの予算を投じることにしている。調査の対象項目として、要求事項と概念の設定(requirement and concept analysis)、水素燃焼とそれによる排気の分析、空気を利用するFC(air-breathing fuel cells)の適用可能性、SOFCの電解質であるYSZの持つ破壊強度(fracture toughness)の調査が挙げられており、これは動力機関用FCとしてはPEFCのみならず高圧空気運転によるSOFCの適用可能性を問題にしていることが分かる。これに加えて、液体水素の貯蔵と輸送技術も検討の対象になっており、例えば浸透性が低く、軽量な高分子マトリックス合成材料による液体水素タンクの技術開発が課題として挙がっている。航空機用水素エンジンが開発が当面の対象課題となっているようであるが、この作業の最も野心的な側面(the most intriguing aspect)は、"航空機の推進にFCを取り入れる"という未だ克って試みられたことの無いアイデアにあるとこの記事は述べている。そしてErcegovic氏のチームが最も興味を持って取り組もうとしているのは「航空機のプロペラやファンを駆動するFCとモータのドライブ機構は、航空機にとってはあまりにも重すぎるのではないか」という難しい質問に答えることであるとも記されている。もしFC動力をセスナ機クラスの航空機に適用するためには、現在の技術レベルで達成し得るレベルに比べてFC推進機構が2ないし5倍のエネルギー密度(fuel cell energy density)を実現することが要求される。  航空機やFCメーカはこの段階の調査に直接関わっていない。Ercegovic氏は「我々の目的は航空機を開発しようというのではなく、このような開発を進めることが妥当であるかどうかを判定するための尺度(scaling parameter)を決めることである」と強調している。 (Hydrogen & Fuel cell Letter, September 2000, XV/No.9, pp1-4)
 

 
― This edition is made up as of October 15, 2000.―