47号 家庭用小型SOFCの商品化計画進行する

Arranged by T. HOMMA
1. 国の政策
2. SOFCの開発
3. PEFCの技術開発
4. PEFCの実証実験
5. PEFCの事業化計画
6. FCV最前線
7. 開発成果
8. DMFC関連技術
9. FC燃料関連技術
10. 燃料供給インフラ

1.国の政策

(1)自民党
 エネルギー政策の見直しを検討している自民党エネルギー総合政策小委員会(甘利明委員長)による中間報告書の骨子がこの程固まった。本報告は天然ガスを30ないし50年後の石油代替エネルギーの主役に据え、FC等天然ガスを燃料として使うシステムの普及支援を政策課題として掲げている。天然ガスは地球温暖化防止に役立つとともに、その資源量としての可採年数が長く、又供給源がロシア、アジア等にも広がっているため、中東依存度を下げることができる。従来日本は石油代替エネルギー源として、CO2を排出しない原子力を重んじてきたが、99年9月の東海村臨界事故などで原子力発電所の立地に逆風が吹いていることも考慮の対象となっている。
 日本のエネルギー供給に占める天然ガスの比率は、1998年度で12.3%、石油の52.4%に比べて4分の1であり、原子力の13.7%に比べても低い値になっている。他方欧米先進国では天然ガスが原子力より上位になっている例が多い。日本が天然ガスの普及に遅れたのは、近隣に生産地が無く、LNGで輸入するため費用が嵩むという理由があった。最近ではサハリン産ガス等が注目され、日本も欧米のようにパイプラインを敷設し、ガスを直接輸送すべきだとの声も聞かれるようになってきた。しかし莫大な費用を要するパイプライン整備の採算を確保するためには、ガス利用を拡大する必要があると同小委員会は判断している。
 天然ガス導入に関する数値目標は、2001年春の最終報告書に先送りされるが、ガス利用を促進するため、FCVや家庭でのFC、マイクロガスタービン等の普及を促すような税制、財政面などの支援策を来春までに検討する予定である。
(日本経済新聞00年5月20日)

(2)通産省資源エネルギー庁
 通産省は2000年7月、総合エネルギー調査会の中に省エネルギー部会を発足させ、民生・運輸部門を中心に新たな省エネルギー策を検討することになった。具体的にはFCの他、電力消費量が一目でわかる小型メータ、センサー技術を活用して冷暖房等をつけたまま放置することを防ぐ装置等の開発・普及策を討議する。
 同省はエネルギー政策の見直しの中で、世論の逆風を受けている原子力発電所の新立地計画数(2010年までに16−20基)を下方修正することを考えている。
(日本経済新聞00年5月28日)
 資源エネルギー庁の第5回FC実用化戦略研究会によれば、定置式FC用燃料源について、FCシステム価格や効率などが同一であると、発電コストで1番安価なのは灯油の14円90銭/kWhで、次いで都市ガスの27円10銭/kWh、LPG(家庭用)の59円50銭/kWhの順になっている。ただ定置式の場合は、既存燃料インフラを使うことが現実的なため、大都市では都市ガスか灯油、地方ではLPGや灯油のように選定できる燃料が限定されているため、総コストで安価なシステムが選択されることになりそうである。先行するPAFCについては、98年3月現在、天然ガス162件、LPG13件で両者が圧倒的である。今後普及するPEFCについては、燃料選定はFCと燃料供給の両側からの視点が必要になる。
(化学工業日報00年6月8日)

(3)工技院・NEDO
 NEDOは、2001年秋までにFCVへの水素供給実証試験を行うため、大阪市(大阪ガス用地)と高松市(四国総研用地)のそれぞれに、天然ガス改質型と固体高分子水電解型の水素ステーションを建設する方針を決めた。同ステーションを使って実際にFCVを走らせながら、水素供給インフラの実証試験を実施し、技術指針を纏めることにしている。導入する水素製造方式は、天然ガスではLPGにも適用できるものであり、電解タイプもアルカリ型ではなく高分子タイプを採用するなど、世界で初めての試みであり、又水素吸蔵合金搭載車への急速充てん設備も開発した。FCV実証試験では、圧縮水素および水素吸蔵合金の搭載車を運行する考えであり、複数のメーカの参加を予定している。
 NEDOの試算によると、水素ステーションの形式別コスト分析の結果、天然ガス改質型が最も安く、アルカリ型が最も高いが、いずれにしてもガソリンエンジン車に比べた燃料費は半分以下で、ガソリンハイブリッドやメタノール改質型FCVよりも安いことが分かっている。
(化学工業日報00年6月1日)

(4)運輸省
 運輸省の運輸政策審議会・環境小委員会は、2000年6月8日、21世紀初頭での開発・普及が望ましい環境自動車(グリーン自動車)として、CNG車、DME車、ハイブリッド車、LPG車、LNG車およびFCVの6車種を提示してそれを中間報告に盛り込んだ。具体的には、使用形態などから車種毎に開発や普及が望ましい環境自動車を明示している。例えば乗用車はCO2排出の低減が課題のため、LPG車、CNG車の燃費向上やハイブリッド車の性能改善、FCVの開発を推奨している。
(日刊自動車新聞00年6月9日)
 

2.SOFCの開発

(1)日本触媒
 日本触媒は、2000年5月31日、SOFC用ジルコニアセラミックシートの開発と量産化技術を確立し、4月から供給を開始したことを明らかにした。2001年春に世界で初めて家庭用SOFCを発売するスイスのズルツアー・ヘキシス社(SH)に、当初は年間5万枚供給する。日本触媒が開発したのは、厚さ約0.1−0.2mmの高強度ジルコニアシートで、最大30cm角まで製作できる。従来このような薄膜で大面積のセラミックシートを作成することは困難であったが、原料の選択、独自の粉体加工技術やセラミック焼成技術を開発することで実用化に成功した。SOFC発電部分にこのシートを50−60枚積層して、1kWの発電能力を持つ家庭用コジェネレーションシステムとして製品化する。2001年から1台50−60万円で販売する予定であり、欧州だけで年間100万台需要があると見込んでいる。なお日本触媒ではSH社への供給を機に、ジルコニアシートを拡販するとともに、新たなFC材料の加速する意向であり、既に4月にはその専門組織としてFC材料事業化グループを発足させており、数年後には年間20億円程度のジルコニアシートの販売を達成する計画である。
(読売、日経産業、日本工業、日刊工業新聞、化学工業日報00年6月1日)

(2)名古屋大学
 名古屋大学の佐野充教授や名古屋工業技術研究所の日比野高士主任研究管の研究チームは、セラミックスの電極を入れた管に、プロパンなどの炭化水素系ガスと空気を混合して通すことによって発電する新形のSOFCを開発したと発表した。2000年6月16日発売の科学雑誌"サイエンス"に掲載される。電解質にはサマリウムを含むセリア(厚さ0.15mm)を使い、その両面にニッケルとセラミックスの複合電極、およびストロンチウムを含むセラミックス系電極を添布した。動作温度は350−450℃と従来のSOFCに比べて極めて低く、高温を保つために必要なヒータの消費電力の節約や起動時間の短縮が可能になった。又この方式では燃料ガスと空気を一緒に流せるため、構造が簡単になり、且つ振動に対しても壊れにくいという長所を持つ。面積0.5sq.cmの電池を試作してそれを加熱し、エタンやプロパン、ブタンなどのガスをゆっくり流したところ、0.4W/sq.cmの出力密度を達成したと発表されている。今後は200℃での動作を目指し、更に固体電解質膜の薄膜化や電極の改良を進めていくと研究者達は述べている。
(日経産業、産経、日刊工業、日刊自動車新聞00年6月16日)
 

3.PEFC技術開発

(1)旭化成
 旭化成工業は、PEFC用イオン交換膜の開発を本格的に進める予定である。川崎の製品技術研究所に専門のFCM(Fuel Cell Membrane)プロジェクトを始動させており、食塩電解用のイオン交換膜で培った豊富な技術力を駆使して、薄膜化と耐久性の両立、膜性能の向上、更に量産技術の確立などに取り組む。又ユーザの開発進展に対応し、サンプルの出荷は従来の主体である20cm角シートに加えて、年内を目途にロールでも供給できる体制を整える。同社は56μm厚のAciplex S-1002を中心にしたサンプル供給を通じてユーザから情報を収集、性能向上に繋げたいとしている。低コストで均一な製品を供給するための大量生産技術については、現状ではさまざまな成形加工技術を検討している段階である。
(化学工業日報00年5月30日)

(2)三菱電機
 三菱電機は実験用、非常用電源用、自動車用の10kWタイプのPEFCシステムの開発に着手した。いずれもメタノール改質方式で、5kWタイプ2基でセットされている。5kWPEFCの大きさは縦12cm、横24cm、幅40cm、又10kW改質器はそれぞれ14cm、30cm、50cm程度とコンパクト化を実現する計画で、実用化では先ず非常用で実績を作り上げる方針である。自動車用はスバル研究所と共同で富士重工業の軽自動車に搭載、ハイブリッドシステム用として実証実験を行う。続いて来年からは定置式のPEFC開発の実用化研究も推進し、改質器については毒性がないジメチルエーテルでの実用化もターゲットに1段のコンパクト化したシステムを作り上げる方針である。ジメチルエーテルは改質システムでの温度がメタノールより50℃高いため、液化石油ガス(LPG)のイメージで対応、水蒸気改質で実用化できると判断している。
(日刊工業新聞00年5月30日)

(3)日本電池
 日本電池は、白金の使用量を10分の1に減らすことにより、PEFCのコスト低下に目途をつけたと発表した。家庭用小型PEFC発電システムにこの成果を取り入れて2002年中の製品化を目指している。同社は、炭素電極の上に微細な多くの穴を開けた膜を乗せ、従来は炭素電極の全体に塗布していた白金を、穴の部分に限って付着させる方法を独自に開発した。この手法により、出力1kW当たりに必要な白金量を従来の1−2gから0.1−0.2gに減らすことに成功した。そして1kW当たりの製造原価を3,000円前後にまで抑えることができると同社は語っている。2002年にはこの技術を適用して製作された出力1kW家庭用PEFCシステムが、サンプルとして出荷されることになろう。なお同社はNEDOプロジェクトの基で、自動車向けのPEFCの実用化研究を進める事にしている。
(京都新聞00年6月9日)
 

4.PEFC実証実験

(1)関西電力
 関西電力は、分散電源の研究開発を加速さる戦略の一環として、総合技術研究所で実施中のPEFC運転試験研究で、新たにアメリカ・プラグパワー社の製品を2000年度中に導入し、それによる運転試験を実施することになった。同社によるPEFCの研究は、99年8月にスタートしており、現在は三洋電機の製品である水素燃料1kWユニットについて運転特性、耐久性の評価を実施している。なおFC以外では、MGTの性能評価試験の対象機種に、アメリカ・キャプストン社の28kWユニットに加えて、イギリス・ボーマン社の製品を選定し、2000年夏にも導入する。
(電気新聞00年5月31日)

(2)東北電力
 東北電力は、2000年7月からマイクロガスタービンとPEFCの試験研究を開始する。PEFCについては、三洋電機製出力1kWにより、電池本体における運転性能についての試験研究が予定されている。
(日刊工業新聞00年6月7日)
 

5.PEFCの事業化計画

 大同メタル工業は、アメリカDCHテクノロジー社と折半出資で、2000年7月にも名古屋市に合弁会社を設立し、携帯用小型PEFCの事業化に乗り出すことになった。大同メタルは約12億円を投じて岐阜県に新工場を建設し、専用ラインが完成する2001年春から量産を開始する。今回大同メタルなどが開発したPEFCは円筒型で、電極を円盤状に加工して積み重ね、水素と酸素が電極の間を効率よく循環する構造になっている。外部から少量の水を補給すると、内部の固形カルシウムと反応し、水素が自動的に発生する。電極の枚数を変えることで、1−50Wの範囲で異なるFCを作ることができる。電池の大きさと重さは出力18Wの場合で、直径7cm、高さ15cm、重さ600g、販売価格は1個5万円前後の見込みである。白金触媒を電極に効率よく付着させる大同メタルの技術と、電極素材や全体の構造に関するDCH社の特許技術を組み合わせることで、低コスト化を実現した。屋外の照明など、当面は主にレジャー向けの用途を開拓し、将来は一般家庭用電源や産業用非常電源としてのOEM(相手先ブランドによる生産)供給も考えている。
(日経産業新聞00年6月2日)
 

6.FCV最前線

(1)三菱重工・三菱自動車工業
 三菱重工業はFCV用メタノール改質器の開発で、既に起動時間10分をクリアしているが、今回アメリカDOEがターゲットとしている起動時間3分を実現する技術的な目途をつけたと発表した。この改質器を用いた出力40kW規模のPEFCシステムを2000年夏までに開発し、10月にも三菱自動車工業の軽自動車に搭載、走行実証試験を行う予定である。メタノール改質については、2005年までの実用化を目指している。
 なお同社の開発活動を紹介すると、広島研究所は触媒技術を中心とした改質器とPEFC本体を、名古屋研究所はコンプレッサーやコントローラを開発、又相模原製作所は改質器とFCセルの組み上げを担当しており、FCシステムは広島と相模原で同時に開発活動を展開している。
(日刊工業新聞00年5月22日)

(2)日産・ルノー・プジョー
 日産自動車と欧州大手自動車メーカのフランス・ルノー、同プジョー・SAの3社が、FCVを共同開発することで基本合意したことが、2000年5月31日に明らかにされた。関係筋によると、既に3社の研究開発部門の担当者が意見交換を進めており、2000年中にも正式契約をした上で、2003年の実用化を目指す。(読売新聞00年5月31日)
 

7.改質器の開発成果

 川崎重工業は、新しいプレート式熱交換プロセスを用いることにより、PEFC用メタノール改質装置について、水蒸気改質でもPOX並みにまで応答性を高めることに成功した。今回開発された改質器は、基本的には水蒸気改質であり、片面に改質触媒、他方に燃焼触媒を担持した金属プレート(プレート触媒)を多層化した構造を持つ。アルミニューム板の表面を酸化して多孔質(平均の細孔径が数十オングストロウム)のアルミナ層を形成し、そこへ触媒金属を担持することにより、高い触媒活性を実現している。発熱・吸熱反応は1枚のプレートを介して起こり、燃焼触媒側で発生した熱が薄い金属プレートを通して改質触媒に伝わるため、伝熱抵抗が従来のそれよりも10分の1以下にまで小さくなり、したがって改質器はコンパクトであると同時に、現状のそれに比べて応答性は10倍(時間で10分の1)まで高められた。現在試作された改質プロセスは200W級であるが、今後は1kWで1時間当たり0.7cu.mの水素を生成する装置を開発する予定である。改質器の容積は通常の方式では1lit.は必要と言われているが、それを1/2にまでコンパクト化し、CO除去器と一体化したユニットとして製作する。
(日刊工業新聞00年6月16日)
 

8.DMFC関連技術

 アメリカSRIInternationalは、150℃以上の高温でも機械的強度を保つとともに、高いプロトン伝導性を持つスルフォネート・アロマチック・ポリマー固体高分子電解質膜の開発に成功したと発表した。これはベンゼン核を持つ高分子で、300℃までの高温域まで安定であり、プロトン伝導度は150℃で0.1S/sq.cm以上を記録している。すなわち電解質膜として広く普及しているフッ素系高分子が直鎖状の構造を持っているのに対して、これはベンゼン骨格である点に特徴があり、それが高い耐熱性と良好な機械的強度を発揮する理由になっている。開発した高分子は溶媒によく溶ける性質があり、キャスト法によって膜厚が50μm、10cm角の薄い高分子膜構造が形成された。この膜の出現により水電解による水素生成効率が大きく向上するとともに、高分子膜としては初めてDMFC用に実用的な膜が出現したことになる。DMFCの実用化には、メタノールの反応を速めるために高温が必要であり、高温での高いイオン導電性と低いメタノール透過性を実現することが要求されている。結論として、スルフォネート・アロマチック・ポリマーは、高温での機械的特性が良好で、電気伝導度もフッ素系樹脂を上回るとともに、メタノール透過性も低いことが確認されており、DMFCの実用化を視野に入れることができる初の高分子膜と言えそうである。
(化学工業日報00年6月12日)
 

9.FC燃料関連技術

(1)東北大学
 東北大学大学院工学研究科の岡田益男教授(特殊材料学)の研究グループが、3重量%の水素吸蔵量を実現する水素吸蔵合金を開発したと発表した。同合金はチタンをベースとし、高価なバナジウムをほとんど使用しない点に特徴がある。体心立方格子結晶構造(BCC構造)を持ち、結晶の隙間に水素原子を取り込む仕組みになっている。零点法で10MPaまでの範囲、40℃という条件で測定した結果、3wt%の水素吸蔵量を持つことを 確認した。従来、大容量水素吸蔵合金とされるバナジウム系合金の場合、水素吸蔵量は2.6%程度であるが、高価なバナジウムを15%以上も含むために合金コストが高くなるという欠点がある。そこで同教授らは実用化を視野に安価なチタンをベースとする水素吸蔵合金の開発研究を進めてきた。
 今後は合金の組成比を調節して更に貯蔵能力を高める研究を続ける一方、TDK、大同特殊鋼、昭和電工などと協力して実用化を進めていく方針である。
(日刊工業新聞、河北新報00年5月22日、日経産業新聞同年5月23日)

(2)北海道大学と関西新技術研究所
 北海道大学と大阪ガスの研究子会社である関西新技術研究所は、水素をシクロヘキサンから効率よく取り出す触媒を開発した。これまで水素を発生させるには600℃の高温で反応させねばならなかったが、この新触媒を使えば200−250℃で済むので、この技術をFCVに応用することが可能である。この触媒を使ったFCVを2001年秋までに試作することを計画している。
 シクロヘキサンは天然ガスから作られる常温では液体状の燃料で、北大の市川教授等が開発した白金を主成分とする触媒を用いてシクロヘキサンから水素を取り出すことができる。FCVが400ないし500km走行するのに必要なシクロヘキサンの量は50−60lit.で、ガソリンに比べて遜色は無い。又シクロヘキサンは50ないし60円/lit.で軽油並みの価格で、ガソリン向けの燃料供給インフラがそのまま使える点も利点である。ただしシクロヘキサンとこれから水素を抜き出した後に残るベンゼンには毒性があり、外に漏らさないようにする必要がある。
(日本経済新聞00年5月29日)

(3)東京大学
 東京大学環境安全研究センターの松村幸彦助教授と同大学院生の野中寛氏は、スラリー化したバイオマスを燃料とする新しいFCの開発を目的に、その電極酸化・還元反応特性の測定を行い、同システムの実現可能性を実証した。FCの性能を左右する電極酸化活性は、メタノール以外の有機化合物では極めて低いので、その対策として本研究グループはスラリーを熱水(高温高圧)溶液化してこの問題を克服することを試みた。実験ではカルボン酸(ギ酸)の熱水溶液を有機化合物燃料として、熱水温度を変化させながら電極上で反応させたところ、500K以上の熱水中に入れた白金電極上で酸化・還元反応が進行し、560Kでは20mW/sq.cmの出力密度が得られた。この方式が実用化されれば、メタノール合成プロセスを省き、バイオマスを直接FCに利用することができるので、バイオマスの燃料化が飛躍的に簡易化される。しかし、PEFCで実用化するためには、500K付近の高温に耐えられる固体高分子膜の開発が欠かせない等の問題がある。
(日本工業新聞00年5月30日)

(4)日本製鋼所
 日本製鋼所は、2000年6月6日、FC向けに水素吸蔵合金(MH)を用いた水素貯蔵タンクを開発し、自動車、電機メーカ、都市ガス会社にサンプル出荷を開始したと発表した。水素の貯蔵密度は約300lit./lit.で従来通りではあるが、5,000回程度の水素の充填・放出に耐えるようにタンク強度の信頼性を高めるとともに、充填・放出を5分程度に早めて利便性を向上させた。
MHタンクの容器内部は、粉末状の水素吸蔵合金が封入されて水素を貯蔵する部分と、水素の充填時に冷却水を流す部分とに2分されているが、水素貯蔵密度を高めるためには水を流す部分を狭くせざるを得ず、そのため充填・放出時間が長くなるという欠点があった。又加熱・冷却に伴う膨張と収縮の繰り返しによって、容器の強度低下を齎すことも課題として挙げられていた。
このMHタンクはアルミ製容器で、軽量化を図ると共に内部構造に工夫が凝らされており、容器強度や水素の貯蔵密度を低下させること無く水の通路が確保されている。5,000回の耐久性は家庭用、ステーション用で要求されるレベルをクリアするもので、自動車用としてはニーズが500回程度のため、これを充分上回る性能の持っている。将来は一層のコンパクト化を図り、1年後を目途に500lit./lit.のMHタンクを開発する計画である。今後は1Nm3、3Nm3、10Nm3の3サイズの水冷式・空冷式MHタンクを標準化し、需要に対応する一方で、一層の高性能タイプの開発に努力する。
(鉄鋼新聞、化学工業日報00年6月7日、日本工業新聞同6月8日)
 

10.燃料供給インフラ

 NKKの判明正之社長は、2000年6月19日に記者会見し、FC向け燃料として注目されているDMEの生成プラントについて「今の日産5トン規模の実証が終了する今秋以降、最低日産30トン、できれば50トン規模の実証プラント建設を国内で検討している。それには国からの補助金が必要だ」とし、運輸省や通産省へ働きかけていく意向である事を表明した。
(日刊工業新聞00年6月20日)
 


― This edition is made up as of June 20, 2000 ―