46号 日本でもFCV公道試験の準備が始まる

Arranged by T. HOMMA
1. 国家的施策
2. PAFCの市場展開
3. MCFCの開発
4. SOFCの開発
5. PEFC開発
6. PEFCの実証運転試験
7. PEFCの新市場
8. FCV最前線

1.国家的施策
(1)通産省
 通産省は、FCVの普及を図るため、水素燃料の供給方式等、水素インフラの基本的仕様を政府主導で2002年度までに決定する方針を固めた。 国の立場から供給方式を決定することによって、自動車メーカ毎に異なっている水素の供給方式を統一し、且つエネルギー業界との調整を図って、インフラ整備やメーカの開発競争に弾みをつけることを狙っている。  政府のミレニアムプロジェクトでも、水素を自動車に供給する"水素スタンド"を含むインフラ整備を2005年までに実施することになっている。このような状況を踏まえて、通産省は2年後を目途に、各メーカが試作したFCVの走行データの提出を求め、走行距離や耐久時間、燃料コストやエネルギー効率を参考に、最も優れた燃料供給方式を決定することにした。
(東京新聞00年4月19日)

(2)NEDO
 NEDOは2000年5月18日、FC普及基盤事業での委託先に、日本ガス協会の"定置式PEFC"、および日本自動車研究所の"自動車用FC"の2件を決定した。FCの普及に向けた安全性や信頼性、性能に関する試験と評価方法を確立し、標準化の検討を行う。
(電気新聞00年5月19日)
 

2.PAFCの市場展開
(1)セイコーエプソン
 セイコーエプソンはPAFCの利用を加速することにし、2001年度中に伊那事業所に200kW機2基を増設、出力規模を合計で800kWとする。同社は使用エネルギーの総量を2010年度までに97年度比で60%カットする方針を掲げており、そのためエネルギー効率が高く、CO2等の排出が少ないFCの採用を積極化させると述べている。伊那事業所は水晶デバイスの生産拠点であり、2000年2月からLNGを燃料とする200kWPAFC2台の運転を開始したが、更に携帯電話の水晶デバイス増産で、新たに生じる電力需要の1部をFCで補うことにした。今回の800kWへの増強により事業所内の全電力使用量の1/3をPAFCによって賄うことができる。伊那事業所でのFCへの投資額は約6億円程度。FCからの発熱で事業所内で必要な蒸気や温水が賄えるので、ボイラーが不要になり、煙突のない工場が実現することになる。
(日刊工業新聞00年4月24日)

(2)鹿島
 鹿島は2000年5月15日付けでエンジニアリング本部内に"メタクレス推進室"を設置したと発表した。同社は既に生ゴミや食品廃棄物、家畜の糞尿など有機性廃棄物を高温メタン発酵処理で再資源化する"メタクレス"を開発実用化しており、昨年は更に"メタクレス"とPAFCを一体化させて発電するシステムの実証実験に成功している。今回の推進室の設置により、同社はこうした技術の普及・促進に本格的に乗り出すことにした。当面は9人体制で臨み、初年度受注額10億円を目指すと述べている。
(電気新聞00年5月16日)
 

3.MCFCの開発
(1)三菱電機
 三菱電機は、MCFC技術の開発において、カソードの材料であるニッケルオキサイドが電解質板へ溶出した後析出して内部短絡を起こすの防止するための技術開発に本格的に取り組むことにした。MCFC開発はNEDOプロジェクトで、2000年度から実用化への5年間の開発ステージに入るが、三菱電機は加圧タイプでは最も困難とされている上記技術を、内部改質型をベースに実現、4万時間運転の実現をバックアップすることになっている。
 同社は本プロジェクトの第1ステージで内部改質型200kWMCFCスタックを開発した。99年度での5,259時間の運転実験では、電圧の劣化率は目標値の1%/1000時間を大きく下回る0.4%を実現、燃料利用率も80%で外部改質の76%を上回る成果を挙げている。今後は4万時間の達成に向けて、大型スタックを動かす開発はIHIを中心に進め、三菱電機はニッケル短絡防止の研究に取り組む。
(日刊工業新聞00年5月16日)

(2)アメリカFCE
 アメリカのFuelCell Energyは、Global Energyの子会社であるKentucky Pioneer Energy LLCと、ケンタッキー州Trappの近郊に、2MWMCFCユニットを建設する事業について契約を結んだことを明らかにした。プラントの設計は、既に99年11月から進められている。これはDOEの援助の基に、出力400MW石炭ガス化FCコンバインドサイクル(IGCC)の開発を目的とする"Clean Coal Technology"プロジェクトの1部である。このプロジェクトについては、DOEがFC部分の建設費3,400万ドルの半分を資金供与することになっており、FCEは民間からの資金提供を求めている。それが予定通り進めば、全プラントの建設が完了し、石炭ガスによって運転を開始するのは、2003年頃になろう。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 2000, Vol.XV/No.5, p5)
 

4.SOFCの開発
(1)三菱マテリアル
 三菱マテリアルは、大分大学石原辰巳助教授らと共同で、ランタン等希土類を主成分とする新しい材料を電解質に用いることにより、650℃の低温で動作するSOFCを開発した。電解質はランタンとガリウムの酸化物にストロンチウムやマグネシウムを加えた合金であり、動作温度が低いため鉄など安くて加工しやすい金属を装置の1部に使うことができる。電極の表面積当たりの出力密度は380mW/sq.cmで、実用レベルとしては世界の最高水準を実現した。今回の実験では燃料として純度の高い水素を使っているが、今後は天然ガスやナフサの改質ガスを使って発電性能を確認することにしている。
(日経産業新聞00年4月25日)

(2)Siemens-Westinghouse
 Siemens-Westinghouse Power Corp.は、Shellの子会社Norske Shell(ノールウエー)と共同で、天然ガスを燃料とする出力250kWSOFCパイロットプラントの計画を発表した。このプラントの特徴は、排出するCO2を回収して地下タンクに蓄え、その1部を漁場における藻や温室内の作物の成長促進材として販売しようとする点にある。Shell HydrogenがCO2の回収を担当する。設置場所は未だ明らかにされていないが、およそ3年以内には完成させる予定である。この種プラントの最初の実用化は、恐らくノールウエーの沖合にある原油とガスの採掘・処理に要する電力を供給するために適用されるものと思われる。これは大量の電力を消費し、それによるCO2の排出量はノルウエー全体のそれに対して20%にも達している。
 第2のプロジェクトとして、Siemens-Westinghouseは、トロントのOntario Power Generationと共同で、トロントの西に250kWSOFCプラント(US$1,240万)を建設する計画に同意したと発表した。SW社が円筒型セル・スタックを供給し、カナダの会社がBOPの建設と運転を担当する。 約1年後には運転を開始できると関係者は述べている。このプラントの発電効率は44%と予想されているが、電力以外に145kWの熱を供給するので、総合効率は75ないし80%となろう。
 既に報じられているように、IrvineのNational Fuel Cell Research Centerと共同で進めている220kWSOFC/GTプラントは、今月の終わりまでにはプラントの建設が完了する予定である。発電効率は55%と予想されており、同プラントはSouthern California Edisonによって運転される予定。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 2000, XV/No.5, pp4-5)
 

5.PEFC開発
(1)日本石油ガス
 日本石油ガスは、2000年度から5年間の予定で、LPG改質型出力1kWPEFCを商品化させる計画を立て、近くそれをスタートさせることになった。同社はこれまでにLPG改質型PAFCシステムを開発し、実用化へこぎつけた実績があるが、今後はそれを家庭用をターゲットするPEFCシステムの開発に繋げる意向である。
 現在日本では約2,500万世帯の家庭が天然ガスパイプラインの恩恵を受けていないため、家庭用FCを普及させるためには、LPGの利用が不可欠と言われている。こうした状況を踏まえ、日石ガスは更にLPG改質器のコンパクト化を進めて、それを組み込んだ出力1kWのPEFCシステムの開発に着手した。 改質方式については、水蒸気改質、部分酸化、オートサーマルの3タイプを実証する。改質温度は300−600℃となるが、400℃が最も活性化に優れていると考えられている。 電池セルについてはセルメーカと組んで開発を進める。5年間の研究開発を通して、何処までコンパクトにパッケージ化できるかを実証し、耐久性については2万4000時間の実証運転によって確認することにしている。
 他方、日石はライトナフサの改質方式でPEFCの実用化開発を進めており、今後は日石グループを挙げて石油系燃料でのPEFCシステムの実用化への取り組みを加速することになろう。
(日刊工業新聞00年4月21日)

(2)富士電機
 富士電機はPEFCの開発計画については、先ず直接水素を供給して出力1kWタイプのPEFC(45セル積層)によって、1万時間レベルにも及ぶ連続運転実験を実施し、この実証実験の結果を踏まえて、2000年中に都市ガス改質(CO濃度10ppm以下)による家庭用1kWタイプのPEFCシステムを自主技術で纏めるつもりである。 改質器はこれまでPAFCで培った水蒸気改質技術をベースにコンパクト化を進め、電池セルと一体化して家庭用タイプに仕上げることにしている。(日刊工業新聞00年4月24日)

(3)日本電池
 日本電池は、従来のPEFCに比べて白金使用量を10分の1まで減らすことにより、安価なPEFCの開発に成功した。従来の製法では炭素電極に白金を直接塗布していたが、同社は炭素上に多くの微細な穴の開いたイオン交換膜を形成し、その後水素ガス中で還元反応させて、穴の部分だけに少量の白金を付着させる技術を開発した。この技術により出力1kWのPEFCで、白金の使用量は0.1−0.2gとなり、1kW当たりの製造原価は3,000円にまで低下すると期待されている。 同社は2001年度にもPEFCを組み込んだ家庭用小型発電システムを発売、2004年を目途に自動車向けに商品化すると述べている。
(日経産業新聞00年4月26日)

(4)クボタ
 クボタはGE傘下にあるアメリカGE Fuel Cell Systems(GEFCS)と、PEFCで販売契約を締結したことを明らかにした。 日本国内ではコジェネレーションシステムに組み込んで発売する予定で、2002年に5−7kWの小型コジェネレーションシステムの試験販売を開始、2004年を目途に5−35kWまでのラインアップを完成し、本格的に市場参入する予定である。
(日刊工業新聞00年4月26日)
 

6.PEFCの実証運転試験
(1)東京ガスと東邦ガス
 東京ガスと東邦ガスは共同で、生活価値創造住宅開発技術研究組合が愛知県瀬戸市建設した次世代構造集合住宅において、PEFCの実証運転試験を開始した。11戸中の1戸に三洋電機製1kW級PEFCとLNGの改質器を設置、まず発電機としての安定性や騒音の程度を検証し、その後室内の床暖房や給湯を行い、コジェネとしての性能を実証する。
(日刊工業新聞00年4月26日)

(2)松下電工・松下電器産業
 松下電工は本社構内に設けられたモデルハウスにおいて、PEFCによる家庭用コジェネレーションシステムの実証試験を99年秋から実施中であるが、それはエアコン室外機のようなPEFC給湯発電機と、大型冷蔵庫サイズの貯蔵タンクから成り立っている。都市ガスを燃料とする250Wの小型システムで、実際の生活での電力需要の日変化に対する発電部の応答性に関するデータを収集するのが目的になっている。商品化においては、出力規模を1kWにまで高め、電気代とガス代を2割減らすのが目標である。2004年の発売を目指しており、システム価格は50万円程度になると予想されている。
 松下電器産業は、家庭用コジェネと自動車用を平行して進めているが、98年にブリュッセルの電気自動車展示会に参考出品したPEFC本体の試作品が注目を集めた。 開発担当者は「自動車にいいものは家庭でもいいはず」と自信を深め、2000年の内にはコジェネシステムに仕上げて実証試験に入る予定である。
(産経新聞00年5月18日)
 

7.PEFCの新市場
 東芝はPEFC搭載の自動販売機システムを、早ければ2003年頃にも市場に出したいと考えている。 この自動販売機において、飲料缶の冷却等に必要な電力および加温のための熱を供給するコジェネシステムの中心部は、プロパンを燃料とする出力1kW級のPEFCであり、大幅な省エネルギーを実現できる点に特徴がある。 更に商業電源を使わないため、非電化地域でも使用できるとともに、配管・土木工事を必要としない点も長所として挙げられる。2次電池を備えているので、起動や過渡期においても自販機に必要な弁、コンプレッサー等の補機を動作させることが可能である。
 同社では「既に実証機の開発を終え、水素は75%、COについては5ppm以下を実現するなど技術的問題はクリアした」と述べている。この実証機では、プロパンを水素に改質するための各種反応器を複合・一体化した世界最小クラスの燃料処理器、反応生成水で加湿する自己加湿型の扁平電池セル、およびパワーコントロールシステムを電池システムとして組み込んだ点に大きな特徴が認められる。今後のスケジュールとしては、2001年には信頼性および寿命の向上、2002年には各種の検証試験を行いながらコストダウンを実現する予定である。同社は今後このシステムをベースにして、家庭用はじめ携帯移動用、コンビニなどの店舗用、オンサイト用など、1,5、10kW級システムの開発にも取り組んでいく方針である。
(電気新聞00年4月24日)
 これとは別に、東芝は住宅向けPEFCの開発を加速させるため、東芝キャリアと東芝家電機器から4人の技術者を開発グループに投入、総合力を駆使して開発に取り組むことになった。将来PEFCは家電工場で製作することを念頭におき、FC開発部隊100人の内60人をPEFCの開発のため動員する。なお、東芝はアメリカUTグループと共同でFC開発を進めており、FC事業には合計650人が配属されている。
(日刊工業新聞00年5月8日)
8.FCV最前線
(1)アメリカGM
 アメリカGMはFCVの開発で、メタノール改質型を縮小し、ガソリン改質型にその開発資源を集中することにした。この理由はメタノールの場合、燃料供給のインフラが必要であるとともに、健康への影響に関する懸念があるためである。
(日本工業、日刊自動車新聞00年4月20日)

(2)公道試験
 FCVの公道試験は、DC社、マツダが共同プロジェクトとして来年早々国内で初めて実施する予定になっているが、トヨタ自動車等FCV開発を行っている他社は、2002年初めに共同でFCVの国内での公道試験計画を立てており、その実験場所は大阪市やつくば市が有力視されている。 実験場所には水素を高圧ガスの形で車両に供給する設備を整備する計画で、メタノールや天然ガス、更に合成ガソリン燃料による走行試験も検討されている。実施時期は2002年1月から3月の予定で、燃料インフラの構築も必要なため、政府も1部費用の補助を考えているようである。
(日刊自動車新聞00年5月8日)
 これとは別にNEDOが実施しているWE−NET計画では、実験用水素ステーションの建設とFCVの運行を含めた実証運転研究を計画している。水素ステーションはオンサイトでの天然ガス改質型と固体高分子型水電解型の2種類であり、実験場所として前者については大阪市内(大阪ガス用地)、後者については高松市内(四国総合研究所内)が挙げられている。2000年から設計製作を開始、2001年中にはいずれも実証運転が開始される予定である。
(NEDO「WE−NETプロジェクト報告会」2000年5月24日)

(3)DaimlerChrysler
 もし全てが計画通り進んだとすれば、約2年半後には世界初の商用FCバスがヨーロッパのどこかの市内で運行を始めているかも知れない。これはDaimlerCrysler製のFCバスで、"CITARO"の名前が付けられている。2000年4月初めの記者会見で、同社は長さ12m、70人乗りのFCバスを20ないし30台製造し販売すると発表した。このバスは3年前に公開された"NEBUS"と異なって、出力250kWのPEFCエンジンは、8本の高圧水素ガスボンベと共に屋根の上に設置されている。この新しい設計は、重量バランスを良くするために採用されたようである。他の設計上の改良点として、乗客の乗降をスムーズにするためもあって、バスの床が低くなったことが挙げられる。
 商業上の販売といっても、値段は120万ドルで、従来のデイーゼルバスに比べて4倍ないし5倍は高価であり、これは市場において製品としての販売力を発揮できるようなレベルではない。このため同社は、2年間に亘る完全な技術的コンサルタントと保守サービスをバスに加えた上で、それを商品としてパッケイジ化することを考えている。このサービスについては5年前に設立されたEvoBus社が受け持つことになろう。又これには水素燃料を供給するためのインフラの費用は含まれていないから、バスの運行者は10万から100万ドルに達するであろうこのコストをどこかで負担しなければならないという問題が存在する。これについても同社は行き届いたサービスを提供すると付け加えているが、インフラに対するコスト負担を考慮すると、少なくとも3台は発注する必要があろうと示唆している。現在ヨーロッパの約24の交通機関から関心が寄せられており、彼等は「まだ契約にサインをした人はいないが、十分な手ごたえを感じている(We've had a lot of positive feedback)」と語っている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 2000, Vol.XV/No.5, p1, p9)

(4)FordとMobil Oil
 Fordは1999 Frankfurt Motor Showでメタノール改質FCVである"FC5"を発表したが、2004年頃までには現実的な自動車として少量ながらも商用生産を開始すると述べている。これとは別に、同社はMobil Oilと共同で、現状に比べてよりコンパクトで軽く、かつ安価なFCV用ガソリン改質器の開発を目指して研究を進行中である。まだ多くの研究努力が必要とはしながらも、MobilのJim Katzer技術担当副社長は「我々は現状よりは低温で改質プロセスを進行させ得る新しい触媒を既に開発した」と語った。
(Fuel Cell News, Vol.XVII, No.1-Spring 2000, p4)
 

― This edition is made up as of May 19, 2000 ―